説明

車両用空調装置

【課題】車室内温度が低いときの液冷媒戻りを軽減して、圧縮機34内のオイル減少を改善する。
【解決手段】圧縮機34の最高回転数Yを、圧縮機34の起動開始からの経過時間に基づき補正して算出する(S28)。つまり、圧縮機34の起動開始からの経過時間が長くなるに従って、最高回転数Yを低く補正し(S28)、仮のIVOと最高回転数Yとを比較して、低い方の回転数を真のIVOとする(S29)。
これによれば、圧縮機34を起動させてからの経過時間に伴って最高回転数Yを低い値に補正したうえ、仮のIVOと比較して低い方の回転数を真のIVOとして補正することにより、圧縮機34の回転数を上記経過時間に伴って下げることができる。これにより、圧縮機34への過剰な液冷媒戻りを抑制することができ、圧縮機34の貧潤滑を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関するものであり、電動圧縮機を用いた車両用空調装置に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に示される車両用空調装置においては、圧縮機の必要回転数が非常に高くなる場合であっても、実際の回転数は所定の最高回転数までに制限するものが記載されている。なお、この圧縮機の最高回転数は、通常、騒音レベルなどから決められている。また、下記の特許文献1に示されるように、圧縮機の回転数は、通常、数秒に1回、所定の回転数を足したり引いたりして演算されている。また、本発明の前提となる圧縮機の回転数制御として、下記の特許文献2に示される空調装置がある。
【特許文献1】特開平2001−26214号公報
【特許文献2】特開2004−332710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、車室内温度が低い時に圧縮機が起動されると、圧縮機の必要回転数は、最初は高回転が必要だが、車室内温度が低いため、すぐに低い必要回転数となる。例えば、春や秋などの中間期(例えば、外気温20℃程度)で駐車してある車に乗り込んで空調開始すると、目標エバ後温度(TEO)1℃程度に対して実エバ後温度(TE)は30℃程度と偏差が大きいため、圧縮機の回転数は高く制御される。但し、外気温20℃程度であれば、車室内温度は数分で低下し、実エバ後温度(TE)も数分で1℃に近づく。
【0004】
このとき、上記の特許文献1にあるように、数秒に1回、所定の回転数を足したり引いたりして回転数を演算しているため、回転数は急には下がらず、数分間の間、実回転数>>必要回転数となって過剰に冷媒が循環される。これにより、圧縮機内に冷媒が液体の状態で戻るため、圧縮機内の潤滑用のオイルが冷媒で希釈されて圧縮機の回転部が貧潤滑に陥り、回転部が磨耗してしまうという問題点がある。この回転部の磨耗は、冷媒圧縮不良を引き起こして冷房不足となってしまう。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その目的は、車室内温度が低いときの液冷媒戻りを軽減して、圧縮機内のオイル減少を改善することのできる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)の冷媒を圧縮し、冷媒を蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)内で循環させる圧縮機(34)と、圧縮機(34)を駆動する電動モータ(90)と、圧縮機(34)により循環される冷媒と車室内に吹き出す空気とを熱交換する車室内熱交換器(80)と、車室内熱交換器(80)の空気下流側に設置され、かつ車室内熱交換器(80)を通過した空気の温度を検出する蒸発器後温度センサ(64)を少なくとも有し、車両の運転状態を検出する種々のセンサ(61〜66)と、車両の乗員により設定された指令(51)とセンサ(61〜66)からの情報とから、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度(TAO)を算出して、目標吹出温度(TAO)となるように電動モータ(90)の作動を制御するエアコンECU(50)とを有する車両用空調装置において、
エアコンECU(50)が圧縮機(34)を連続して駆動することが必要であると判断するとき、エアコンECU(50)は、種々のセンサ(61〜66)からのセンサ信号に基づいて仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)を算出し(S24〜S27)、さらに、エアコンECU(50)は、圧縮機(34)の最高回転数(Y)を、圧縮機(34)の起動開始からの経過時間に基づき補正して算出する(S28)ものであり、エアコンECU(50)は、圧縮機(34)の起動開始からの経過時間が長くなるに従って、最高回転数(Y)を低く補正し(S28)、さらに、エアコンECU(50)は、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と最高回転数(Y)とを比較して、低い方の回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)とする(S29)ことを特徴としている。
【0007】
この請求項1に記載の発明によれば、圧縮機(34)を起動させてからの経過時間に伴って最高回転数(Y)を低い値に補正したうえ、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と比較して低い方の回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)として補正することにより、圧縮機(34)の回転数を上記経過時間に伴って下げることができる。これにより、圧縮機(34)への過剰な液冷媒戻りを抑制することができ、圧縮機(34)の貧潤滑を防ぐことができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明では、蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)の冷媒を圧縮し、冷媒を蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)内で循環させる圧縮機(34)と、圧縮機(34)を駆動する電動モータ(90)と、圧縮機(34)により循環される冷媒と車室内に吹き出す空気とを熱交換する車室内熱交換器(80)と、車室内熱交換器(80)の空気下流側に設置され、かつ車室内熱交換器(80)を通過した空気の温度を検出する蒸発器後温度センサ(64)を少なくとも有し、車両の運転状態を検出する種々のセンサ(61〜66)と、車両の乗員により設定された指令(51)とセンサ(61〜66)からの情報とから、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度(TAO)を算出して、目標吹出温度(TAO)となるように電動モータ(90)の作動を制御するエアコンECU(50)とを有する車両用空調装置において、
エアコンECU(50)が圧縮機(34)を連続して駆動することが必要であると判断するとき、エアコンECU(50)は、種々のセンサ(61〜66)からのセンサ信号に基づいて仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)を算出し(S24〜S27)、さらに、エアコンECU(50)は、圧縮機(34)の最高回転数(Y)を、空調開始時の空調負荷に基づき補正して算出する(S28)ものであり、エアコンECU(50)は、空調負荷が所定負荷以下の場合、空調負荷が小さくなるに従って、最高回転数(Y)を低く補正し(S281)、さらに、エアコンECU(50)は、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と最高回転数(Y)とを比較して、低いほうの回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)とする(S29)ことを特徴としている。
【0009】
この請求項2に記載の発明によれば、空調開始時の空調負荷が所定負荷以下で低いときには最高回転数(Y)を低い値に補正したうえ、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と比較して低い方の回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)として補正することにより、圧縮機(34)の回転数を下げることができる。これにより、圧縮機(34)への過剰な液冷媒戻りを抑制することができ、圧縮機(34)の貧潤滑を防ぐことができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の車両用空調装置において、エアコンECU(50)は、空調開始時の車室内温度にて空調負荷の大小を検出していることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、空調負荷が所定負荷以下であるか否かは、内気温が所定温度以下であるか否かで判定することができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、最高回転数(Y)を、所定値以上に制限していることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、圧縮機(34)の目標圧縮機回転数(IVO)の補正量が大きいと、車室内熱交換器(80)の能力の変動も大きくなって乗員に不快感を与えかねないこととなる。このため、乗員が細かく設定温度を変えた場合にも対応できるよう、オイル循環を目的とした補正量は、所定回転数以下に制限するものである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明では、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用空調装置において、エアコンECU(50)は、最高回転数(Y)を、圧縮機(34)の起動開始からの経過時間もしくは空調開始時の空調負荷に加えて車室内への送風量に応じても補正(S28、S281)して、真の目標圧縮機回転数(真のIVO)を算出する(S28、S281、S29)ものであり、エアコンECU(50)は、送風量が少ないほど最高回転数(Y)を低い値に補正することを特徴としている。
【0013】
この請求項5に記載の発明によれば、送風量が少ないときは、車室内熱交換器(80)での熱交換量も少なく、圧縮機(34)への過剰な液冷媒戻りが生じ易いため、最高回転数(Y)を送風量に対応させて低くしてやることで、液冷媒戻りが軽減されて圧縮機(34)内のオイル減少を改善することができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
本実施形態は、ハイブリッド自動車などの電動圧縮機を用いた車両用空調装置に、本発明を適用したものである。以下、本発明の第1実施形態について、図1〜4を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す模式図である。車室内に向けて送る空気の空気通路としての空調ケース2は、車室内に配設されている。そして、この空調ケース2の空気上流側一端には、内外気切換手段3と送風機4とからなる送風機ユニットが設けられている。
【0015】
内外気切換手段3は、車室内と連通して車室内の空気(内気)を導入する内気導入口5と、車室外と連通して車室外の空気(外気)を導入する外気導入口6とを備えている。また、内外気切換手段3は、内気導入口5と外気導入口6とを選択的に開閉する内外気開閉手段7、具体的には内外気切換ドア7を有している。また、この内外気切換ドア7は、内外気駆動手段としての図示しないサーボモータに連結されており、このサ−ボモ−タの駆動によって内外気切換ドア7が作動する。
【0016】
内外気切換手段3の図中下方側には、送風機4が配設されている。この送風機4は、具体的にはファンケース8と、このファンケース8内に回転自在に設けられたファン9と、このファン9を回転駆動するブロワモータ10とからなっている。そして、ファン9が回転されると、その回転速度に応じて、空調ケース2を介して車室内へ送風される空気の風量が調節される。
【0017】
空調ケース2の空気下流側端部には、空調ケース2内を通過してきた空気を、車室内の各部に向けて吹き出す各吹出口が形成されている。これらの吹出口は、車室内前部の中央より、乗員の上半身に向けて主に冷風を吹き出すセンタフェイス吹出口13、車室内前部の左右両脇より、乗員の上半身あるいは側面窓ガラスに向けて主に冷風を吹き出すサイドフェイス吹出口14、乗員の足元に向けて主に温風を吹き出すフット吹出口15、および前面窓ガラスの内面に向けて主に温風を吹き出すデフロスタ吹出口16からなる。
【0018】
また、空調ケース2とセンタフェイス吹出口13とを連通させるセンタフェイスダクト91の入口部分には、センタフェイスダクト91を開閉する手段17、具体的にはセンタフェイスドア17が設けられている。また、空調ケース2とフット吹出口15とを連通させるフットダクト92の入口部分には、フットダクト92を開閉する手段18、具体的にはフットドア18が設けられている。
【0019】
また、空調ケース2とデフロスタ吹出口16とを連通させるデフロスタダクト93の入口部分には、デフロスタダクト93を開閉する手段19、具体的にはデフロスタドア19が設けられている。また、センタフェイス吹出口13およびサイドフェイス吹出口14には、乗員の好みに応じて空気の吹出量を手動調節するための手段20、具体的には手動開閉ドア20がそれぞれ設けられている。
【0020】
空調ケース2の上流側には、空調ケース2内を流れる空気を冷却する手段を成す蒸発器(車室内熱交換器)80と、その空気下流側には、空調ケース2内を流れる空気を加熱する手段を成す室内凝縮器81とが配設されている。蒸発器80は、圧縮機34、外気熱交換器33、第1減圧器35a、第2減圧器35b、受液器36、冷媒の流れ方向を切り換える四方弁37、およびこれらを接続する冷媒配管38とともに、車室内の冷房と暖房とを行うヒートポンプ式冷凍サイクル(蒸気圧縮式冷凍サイクル)31を構成する。
【0021】
圧縮機34は、冷媒の吸入、圧縮、吐出を行うもので、電動モータ90によって駆動される。そして、この圧縮機34は、電動モータ90と一体的に密封ケース内に設けられた電動圧縮機となっている。電動モータ90は、インバータ42の制御によって回転速度が連続的に可変できるものであり、この電動モータ90の回転速度の変化により圧縮機34の冷媒吐出容量が連続的に可変できる。
【0022】
外気熱交換器33は、空調ケース2の外部において車室外の空気と冷媒との熱交換を行うものであり、外気ファン41を備えるとともに、車両の走行によって生じる走行風が当たる位置に設けられている。第1減圧器35aは、具体的には冷房用キャピラリーチューブ43で構成されており、冷媒配管38の一部に挿入されている。この冷房用キャピラリーチューブ43は、外気熱交換器33から蒸発器80へ流入する冷媒を減圧するものである。
【0023】
また、冷房用キャピラリーチューブ43と四方弁37とを結ぶ冷媒配管38の途中には、この配管通路を開閉する手段45、具体的には電磁弁45が設けられている。この電磁弁45は、後述する冷房運転時に閉じて、外気熱交換器33からの高圧冷媒が受液器36内に導かれるのを防ぐとともに、暖房運転時に開いて、冷媒が冷房用キャピラリーチューブ43をバイパスするようにする。
【0024】
第2減圧器35bは、具体的には暖房用キャピラリーチューブ44で構成されており、冷媒配管38の一部に挿入されている。この暖房用キャピラリーチューブ44は、室内凝縮器81から外気熱交換器33へ流入する冷媒を減圧するものである。また、暖房用キャピラリーチューブ44と並列させた冷媒配管38の途中には、この配管通路を開閉する手段46、具体的には電磁弁46が設けられている。
【0025】
この電磁弁46は、後述する除霜運転時に開いて、冷媒が暖房用キャピラリーチューブ44をバイパスするようにするとともに、暖房運転時に閉じて、室内凝縮器81からの高圧冷媒を暖房用キャピラリーチューブ44にて減圧させるようにする。電磁弁46と外気熱交換器33とを結ぶ冷媒配管38の途中には、冷房運転時に室内凝縮器81へ冷媒が流入しないようにするための逆止弁47が設けられている。また、外気熱交換器33と四方弁37とを結ぶ冷媒配管38の途中には、暖房運転時に四方弁37に冷媒が流入しないようにするための逆止弁48が設けられている。
【0026】
受液器36は、具体的にはアキュムレータで構成され、冷凍サイクル31内の余剰冷媒を蓄えるとともに、圧縮機34に気相冷媒のみを送り、圧縮機34が液圧縮を行わないようにするためのものである。四方弁37は、冷媒の流れ方向を切り換えて外気熱交換器33を蒸発器として機能させたり凝縮器として機能させたりするものであり、下記の冷房運転と暖房運転と除霜運転とで冷媒の流れを切り換える。
【0027】
まず、冷房運転時は、圧縮機34から吐出された冷媒が、四方弁37→外気熱交換器33→冷房用キャピラリーチューブ43→蒸発器80→アキュムレータ36→圧縮機34の順で流れる(図中矢印Cに示す)。また、暖房運転時は、圧縮機34から吐出された冷媒が、四方弁37→室内凝縮器81→暖房用キャピラリーチューブ44→外気熱交換器33→電磁弁45→アキュムレータ36→圧縮機34の順に流れる(図中矢印Hに示す)。
【0028】
また、除霜運転時は、圧縮機34から吐出された冷媒が、四方弁37→室内凝縮器81→電磁弁46→外気熱交換器33→冷房用キャピラリーチューブ43→蒸発器80→アキュムレータ36→圧縮機34の順に流れる(図中矢印Fに示す)か、または上記冷房運転時と同様、図中矢印Cに示すように流れる。送風機4のブロワモータ10、四方弁37、外気ファン41、インバータ42、電磁弁45、46および各ドアを駆動する図示しないアクチュエータは、制御手段としてのエアコンECU50によって通電制御される。
【0029】
次に、本実施形態の制御系の構成について、図2を用いて説明する。図2は、図1の車両用空調装置における制御系の構成を示すブロック図である。図2に示すように、エアコンECU50には、車室内前面の計器盤近傍に配設されたコントロールパネル51に設けられたスイッチ類からのスイッチ信号(吹出モード信号、風量信号、内外気切換モード信号、圧縮機34の駆動停止指示信号、および温度設定信号)および各センサ類からのセンサ信号が入力される。
【0030】
ここで、コントロールパネル51のスイッチとは、圧縮機34の起動および停止を指令するためのエアコンスイッチ、内外気切換モードの設定を行うための内外気切換スイッチ、車室内の温度を所望の温度に設定するための温度設定スイッチ、車室内への吹き出し風量を調節するための風量設定スイッチ、および吹出口モードの設定を行うための吹出口切換スイッチなどである。
【0031】
また、各センサとは、車室内の空気温度を検出する内気温センサ61、車室外の空気温度を検出する外気温センサ62、車室内に照射される日射量を検出する日射センサ63、蒸発器80を通過した直後の空気温度を検出する蒸発器後温度センサ64、室内凝縮器81を通過した直後の空気温度を検出する凝縮器後温度センサ65、および車両の走行速度を検出する車速センサ66などがある。
【0032】
そして、エアコンECU50の内部には、CPU(中央演算装置)、ROM(読込専用記憶装置)およびRAM(読込書込可能記憶装置)などからなるマイクロコンピュータ50bが設けられ、各センサ61〜66からのセンサ信号は、エアコンECU50内の入力回路50aによってA/D変換などされた後に、マイクロコンピュータ50bに入力されるように構成されている。
【0033】
また、マイクロコンピュータ50bから出力された制御信号は、エアコンECU50内の出力回路50cによってD/A変換や増幅などがされた後に、内外気切換ドア7、吹出口切換ドア17〜19、四方弁37などを駆動する各種アクチュエータM1〜M3、およびブロワモータ10を駆動するモータコントローラMCなどに駆動信号として出力される。
【0034】
次に、エアコンECU50の制御処理について述べる。なお、以下に述べる制御フローが記載されたプログラムは、上記ROMに記憶されている。図3は、図2のエアコンECU50における全体制御プログラムを示すフローチャートである。車両のイグニッションスイッチがONされて、エアコンECU50に電源が供給されると、まずステップS1では、各パラメータなどの初期化(イニシャライズ)が行われる。
【0035】
次に、ステップS2およびS3では、温度設定スイッチや内気温センサ61、外気温センサ62、日射センサ63、蒸発器後温度センサ64、凝縮器後温度センサ65、および車速センサ66の信号を読み込み、ステップS4では、ROMに記憶された下記の数式1に基づいて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する。
【0036】
(数式1)
TAO=Kset×Tset−KR×TR−KAM×TAM−KS×TS+C
ここで、Tsetは温度設定スイッチにて設定した設定温度、TRは内気温センサ61にて検出した内気温度、TAMは外気温センサ62にて検出した外気温度、TSは日射センサ63にて検出した日射量である。また、Kset、KR、KAMおよびKSはゲインで、Cは補正用の定数である。
【0037】
次に、ステップS5では、冷凍サイクル31を冷房モードで運転するのか暖房モードで運転するのかを決定して、四方弁37からの冷媒の流れ方向を決定する。次に、ステップS6では、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応するブロワ電圧、つまり送風機4のブロワモータ10への印加電圧を決定する。具体的にブロワ電圧は、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が大きくなるほど高い値に選定され、目標吹出温度TAOと所定目標吹出温度TAOとの偏差の絶対値が小さくなるほど低くい値が選定される。
【0038】
次に、ステップS7では、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには外気導入モードが選択される。次に、ステップS8では、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときにはフットモードが選択され、目標吹出温度TAOが低くなるに伴って、バイレベルモード、更にはフェイスモードの順に選択される。
【0039】
次に、ステップS9では、図4に示すフローチャートに基づいて圧縮機34の回転数を決定した後、ステップS10では、ステップS4〜S9で算出または決定した各制御状態が得られるように、各アクチュエータやブロワモータ10を駆動するモータコントローラMCなどに対して制御信号を出力する。そして、ステップS11では、所定時間T(本実施形態では1秒)の経過を判定したらステップS2に戻り、このルーチンを繰り返して実行するものである。
【0040】
次に、図4に示すフローチャートについて説明する。図4は、本発明の第1実施形態における制御機制御プログラムを示すフローチャートである。まずステップS20では、エアコンスイッチがONされているか否か、またはデフロスタスイッチがONされているか否かに基づいて圧縮機34を稼動させる必要があるか否かを判定する。その判定結果がNOで、圧縮機34を稼動させる必要がない場合にはステップS21へ進み、目標圧縮機回転数IVOを0rpmとしてステップS10へ進む。
【0041】
一方、ステップS20の判定結果がYESで、圧縮機34を稼動させる必要があると判定された場合にはステップS22へ進み、圧縮機34を停止状態から起動させる場合であるか否か、つまり前回の目標圧縮機回転数IVOn−1が0rpmであるか否かを判定する。その判定結果がYESで、圧縮機34を停止状態から起動させる場合、つまり前回の目標圧縮機回転数IVOn−1が0rpmである場合にはステップS23に進み、空調負荷の大きさを示す目標吹出温度TAOに基づいて目標圧縮機回転数IVOnを決定する。
【0042】
一方、ステップS22の判定結果がNOで、圧縮機34を停止状態から起動させる場合ではない、つまり前回の目標圧縮機回転数IVOn−1が0rpmではない場合にはステップS24へ進み、各種センサ61〜66のセンサ信号に基づいて目標エバ後温度(目標低圧側情報)TEOを算出し、この目標エバ後温度TEOに基づいて目標圧縮機回転数IVOを算出してゆく。
【0043】
具体的に目標圧縮機回転数IVOは、目標エバ後温度TEOとエバ後温度(実低圧側情報)TE、つまり蒸発器後温度センサ64の検出温度との偏差En、およびその偏差Enの変化率Edotをパラメータとして、下記数式1および2に基づいて決定する。
【0044】
(数式2)
En=TEO−TE (ステップS24)
(数式3)
Edot=En−En−1 (ステップS25)
ここでEn−1は、偏差Enの前回の値であり、偏差Enは1秒毎に更新されるため、前回の偏差En−1は偏差Enに対して1秒前の値となる。
【0045】
そして、ステップS26では、ROMに記憶された所定のメンバーシップ関数およびルールに基づいて、上記で算出した偏差Enおよびその変化率Edotにおける目標増加回転数Δf(rpm)を算出する。ここで、この目標増加回転数Δfとは、前回の目標圧縮機回転数IVOn−1、すなわち1秒前の目標圧縮機回転数IVOn−1に対して増減する圧縮機34の回転数のことである。
【0046】
次のステップS27では、下記数式4のように、前回の目標圧縮機回転数IVOn−1にステップS26で算出した目標増加回転数Δfを加えて、仮の目標圧縮機回転数IVOを算出する。
【0047】
(数式4)
仮のIVO=IVOn−1+Δf (ステップS27)
なお、上記のステップS24は、目標能力決定手段であり、上述したステップS24〜S27は、目標回転数決定手段である。
【0048】
次のステップS28では、タイマーで計測される圧縮機34が起動されてからの経過時間に応じて、圧縮機34の最高回転数Yを決めている。本実施形態では、経過時間が25分以内場合は最高回転数Y=7000rpmとし、経過時間が25分以上になると最高回転数Yを徐々に小さくし、50分以上ではブロワ電圧12Vのときで下限5500rpm、ブロワ電圧4Vのときで下限4000rpmとなる特性としている。つまり、圧縮機起動からの経過時間に応じて圧縮機34の最高回転数Yが変わるようになっている。
【0049】
そして、次のステップS29では、下記の数式6のように、ステップS27で算出した仮のIVOと、ステップS28で算出した最高回転数Yとを比べて、小さい(低い)方を真の目標圧縮機回転数IVOとしている。
【0050】
(数式6)
IVO=MIN(仮のIVO、最高回転数Y) (ステップS29)
なお、上述したステップS28は、最高回転数補正手段であり、上述したステップS29は、目標回転数補正手段である。
【0051】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。本実施形態は、エアコンECU50が圧縮機34を連続して駆動することが必要であると判断するとき、エアコンECU50は、種々のセンサ61〜66からのセンサ信号に基づいて仮のIVOを算出し(S24〜S27)、さらに、エアコンECU50は、圧縮機34の最高回転数Yを、圧縮機34の起動開始からの経過時間に基づき補正して算出する(S28)ものであり、エアコンECU50は、圧縮機34の起動開始からの経過時間が長くなるに従って、最高回転数Yを低く補正し(S28)、さらに、エアコンECU50は、仮のIVOと最高回転数Yとを比較して、低い方の回転数を真のIVOとする(S29)ようにしている。
【0052】
これによれば、圧縮機34を起動させてからの経過時間に伴って最高回転数Yを低い値に補正したうえ、仮のIVOと比較して低い方の回転数を真のIVOとして補正することにより、圧縮機34の回転数を上記経過時間に伴って下げることができる。これにより、圧縮機34への過剰な液冷媒戻りを抑制することができ、圧縮機34の貧潤滑を防ぐことができる。
【0053】
また、最高回転数Yを、所定値以上に制限している。これによれば、圧縮機34の目標圧縮機回転数IVOの補正量が大きいと、蒸発器80の能力の変動も大きくなって乗員に不快感を与えかねないこととなる。このため、乗員が細かく設定温度を変えた場合にも対応できるよう、オイル循環を目的とした補正量は、所定回転数以下に制限するものである。
【0054】
また、エアコンECU50は、最高回転数Yを、圧縮機34の起動開始からの経過時間もしくは空調開始時の空調負荷に加えて車室内への送風量に応じても補正(S28、S281)して、真のIVOを算出する(S28、S281、S29)ものであり、エアコンECU50は、送風量が少ないほど最高回転数Yを低い値に補正するようにしている。
【0055】
これによれば、送風量が少ないときは、蒸発器80での熱交換量も少なく、圧縮機34への過剰な液冷媒戻りが生じ易いため、最高回転数Yを送風量に対応させて低くしてやることで、液冷媒戻りが軽減されて圧縮機34内のオイル減少を改善することができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図5は、本発明の第2実施形態における制御機制御プログラムを示すフローチャートである。なお、本実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。図5のフローチャートにおいても、ステップS20からステップS27までは同じであるため、説明を省略する。
【0057】
次のステップS281では、内気温センサ61で検出される車室内温度に応じて、圧縮機34の最高回転数Yを決めている。本実施形態では、車室内温度が50℃以上場合は最高回転数Y=7000rpmとし、車室内温度が50℃以下になると最高回転数Yを徐々に小さくし、25℃ではブロワ電圧12Vのときで下限5500rpm、ブロワ電圧4Vのときで下限4000rpmとなる特性としている。つまり、車室内温度に応じて圧縮機34の最高回転数Yが変わるようになっている。
【0058】
そして、次のステップS29では、下記数式6のように、ステップS27で算出した仮のIVOと、ステップS281で算出した最高回転数Yとを比べて、小さい(低い)方を真の目標圧縮機回転数IVOとしている。
【0059】
(数式6)
IVO=MIN(仮のIVO、最高回転数Y) (ステップS29)
なお、上述したステップS281は、最高回転数補正手段であり、上述したステップS29は、目標回転数補正手段である。
【0060】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。本実施形態は、エアコンECU(50)が圧縮機(34)を連続して駆動することが必要であると判断するとき、エアコンECU(50)は、種々のセンサ(61〜66)からのセンサ信号に基づいて仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)を算出し(S24〜S27)、さらに、エアコンECU(50)は、圧縮機(34)の最高回転数(Y)を、空調開始時の空調負荷に基づき補正して算出する(S28)ものであり、エアコンECU(50)は、空調負荷が所定負荷以下の場合、空調負荷が小さくなるに従って、最高回転数(Y)を低く補正し(S281)、さらに、エアコンECU(50)は、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と最高回転数(Y)とを比較して、低いほうの回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)とする(S29)ことを特徴としている。
【0061】
この請求項2に記載の発明によれば、空調開始時の空調負荷が所定負荷以下で低いときには最高回転数(Y)を低い値に補正したうえ、仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と比較して低い方の回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)として補正することにより、圧縮機(34)の回転数を下げることができる。これにより、圧縮機(34)への過剰な液冷媒戻りを抑制することができ、圧縮機(34)の貧潤滑を防ぐことができる。
【0062】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の車両用空調装置において、エアコンECU(50)は、空調開始時の車室内温度にて空調負荷の大小を検出していることを特徴としている。この請求項3に記載の発明によれば、空調負荷が所定負荷以下であるか否かは、内気温が所定温度以下であるか否かで判定することができる。
【0063】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の実施形態では、蒸発器後温度センサ64にて蒸発器80で発生している実際の冷却能力を検出しているが、例えば、低圧側冷媒圧力、低圧側冷媒温度および冷媒流量のうち少なくとも1つのパラメータから求めても良い。
【0064】
また、上述の実施形態では、蒸気圧縮式冷凍サイクル31は蒸発器80で発生する冷熱を利用するものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、凝縮器81で発生する温熱を利用した暖房装置にも同様の考え方を適用することができる。また、上述の実施形態では、ハイブリッド自動車を前提としたが、本発明はこれに限定されものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態における車両用空調装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の車両用空調装置における制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のエアコンECU50における全体制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態における制御機制御プログラムを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態における制御機制御プログラムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
31…ヒートポンプ式冷凍サイクル(蒸気圧縮式冷凍サイクル)
34…圧縮機
50…エアコンECU
51…コントロールパネル(指令)
61〜66…センサ
64…蒸発器後温度センサ
80…蒸発器(車室内熱交換器)
90…電動モータ
IVO…目標圧縮機回転数
TAO…目標吹出温度
Y…最高回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)の冷媒を圧縮し、前記冷媒を前記蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)内で循環させる圧縮機(34)と、
前記圧縮機(34)を駆動する電動モータ(90)と、
前記圧縮機(34)により循環される冷媒と車室内に吹き出す空気とを熱交換する車室内熱交換器(80)と、
前記車室内熱交換器(80)の空気下流側に設置され、かつ前記車室内熱交換器(80)を通過した空気の温度を検出する蒸発器後温度センサ(64)を少なくとも有し、車両の運転状態を検出する種々のセンサ(61〜66)と、
車両の乗員により設定された指令(51)と前記センサ(61〜66)からの情報とから、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度(TAO)を算出して、前記目標吹出温度(TAO)となるように前記電動モータ(90)の作動を制御するエアコンECU(50)とを有する車両用空調装置において、
前記エアコンECU(50)が前記圧縮機(34)を連続して駆動することが必要であると判断するとき、
前記エアコンECU(50)は、前記種々のセンサ(61〜66)からのセンサ信号に基づいて仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)を算出し(S24〜S27)、
さらに、前記エアコンECU(50)は、前記圧縮機(34)の最高回転数(Y)を、前記圧縮機(34)の起動開始からの経過時間に基づき補正して算出する(S28)ものであり、
前記エアコンECU(50)は、前記圧縮機(34)の起動開始からの経過時間が長くなるに従って、前記最高回転数(Y)を低く補正し(S28)、
さらに、前記エアコンECU(50)は、前記仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と前記最高回転数(Y)とを比較して、低い方の回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)とする(S29)ことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)の冷媒を圧縮し、前記冷媒を前記蒸気圧縮式冷凍サイクル(31)内で循環させる圧縮機(34)と、
前記圧縮機(34)を駆動する電動モータ(90)と、
前記圧縮機(34)により循環される冷媒と車室内に吹き出す空気とを熱交換する車室内熱交換器(80)と、
前記車室内熱交換器(80)の空気下流側に設置され、かつ前記車室内熱交換器(80)を通過した空気の温度を検出する蒸発器後温度センサ(64)を少なくとも有し、車両の運転状態を検出する種々のセンサ(61〜66)と、
車両の乗員により設定された指令(51)と前記センサ(61〜66)からの情報とから、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度(TAO)を算出して、前記目標吹出温度(TAO)となるように前記電動モータ(90)の作動を制御するエアコンECU(50)とを有する車両用空調装置において、
前記エアコンECU(50)が前記圧縮機(34)を連続して駆動することが必要であると判断するとき、
前記エアコンECU(50)は、前記種々のセンサ(61〜66)からのセンサ信号に基づいて仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)を算出し(S24〜S27)、
さらに、前記エアコンECU(50)は、前記圧縮機(34)の最高回転数(Y)を、空調開始時の空調負荷に基づき補正して算出する(S28)ものであり、
前記エアコンECU(50)は、前記空調負荷が所定負荷以下の場合、前記空調負荷が小さくなるに従って、前記最高回転数(Y)を低く補正し(S281)、
さらに、前記エアコンECU(50)は、前記仮の目標圧縮機回転数(仮のIVO)と前記最高回転数(Y)とを比較して、低いほうの回転数を真の目標圧縮機回転数(真のIVO)とする(S29)ことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
前記エアコンECU(50)は、空調開始時の車室内温度にて前記空調負荷の大小を検出していることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記最高回転数(Y)を、所定値以上に制限していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記エアコンECU(50)は、前記最高回転数(Y)を、前記圧縮機(34)の起動開始からの経過時間もしくは空調開始時の空調負荷に加えて車室内への送風量に応じても補正(S28、S281)して、前記真の目標圧縮機回転数(真のIVO)を算出する(S28、S281、S29)ものであり、
前記エアコンECU(50)は、前記送風量が少ないほど前記最高回転数(Y)を低い値に補正することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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