説明

車両用空調装置

【課題】2次冷媒回路を有する車両用空調装置において、2次冷媒回路内の圧力を所定圧力に保ち、2次冷媒回路内の圧力低下に起因するキャビテーション発生、およびそれに伴う2次冷媒回路の効率低下、振動、機械的損傷などを防ぐことが可能な車両用空調装置を提供する。
【解決手段】圧縮機で圧縮した1次冷媒を循環させる1次冷媒回路と、2次冷媒を循環させて車室内の空調を行う2次冷媒回路とを有し、2次冷媒回路内に2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つ加圧装置を設けたことを特徴とする車両用空調装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関し、とくに、圧縮機で圧縮した1次冷媒を循環させる1次冷媒回路と、2次冷媒を循環させて車室内の空調を行う2次冷媒回路とを有する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置の主な目的は、車室内をできるだけ速やかに快適な温度にまで調整することであるが、オゾン層の保護や地球温暖化防止などの環境負荷の低減に配慮することや、環境負荷低減の工夫をほどこす際に安定した性能を維持することも同様に重要である。車両用空調装置において環境負荷を低減させる方法としては、近年、自然系冷媒(たとえば、COやプロパンガスなど)や代替フロン(たとえば、HFC−152aなど)を使用して車室内の冷房を行うための発明がいくつか提案されている。たとえば、特許文献1では、可燃性冷媒であるプロパンガスやHFC−152aを安全に使用するために、自然系冷媒や代替フロンを冷媒として使用する冷媒回路を1次冷媒回路として、1次冷媒とは別の2次冷媒を循環させる2次冷媒回路を設け、熱交換器によって1次冷媒回路で得られた冷凍能力を2次冷媒回路の冷凍能力に変換し、車室内の冷房を2次冷媒回路によって間接的に行う方法が示されている。上記文献に例示されている車両用空調装置では、2次冷媒を循環させる手段として2次冷媒回路内に循環ポンプが配置された構造を採用しており、具体例として2次冷媒にブライン(不凍液)を使用した場合の実施形態が説明されている。
【0003】
上述の2次冷媒回路の如く冷媒を循環させるための循環ポンプを有する冷媒回路では、回路を安定して動作させるために、回路内の冷媒の圧力を所定の範囲内に保つことが望ましい。一般的に、流体を加圧もしくは移動させるポンプにおいては、ポンプの吸込圧力がNPSH(有効吸込水頭)以下になると、短時間に無数の泡が生成・消滅するキャビテーションと呼ばれる現象が発生する。キャビテーションが発生するとポンプが流体を十分に押し出すことができなくなるためポンプの動作効率が低下し、場合によっては振動や機械的損傷などが起こる可能性もある。冷媒回路では、通常、冷媒の温度が下がると冷媒回路内の圧力も低下するため、とくに冷媒を循環させる手段としてポンプを用いる冷媒回路においては、冷媒回路内の圧力を常にNPSHよりも大きな値に保つことが、回路の安定動作を保証するための重要な要素となる。
【特許文献1】特開2007−10227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、2次冷媒回路を有する車両用空調装置において、2次冷媒回路内の圧力を所定圧力に保ち、2次冷媒回路内の圧力低下に起因するキャビテーション発生、およびそれに伴う2次冷媒回路の効率低下、振動、機械的損傷などを防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用空調装置は、1次冷媒を循環させる1次冷媒回路と、2次冷媒を循環させる2次冷媒回路とを有し、前記1次冷媒回路は、1次冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮された冷媒を減圧・膨張させる減圧・膨張手段と、減圧・膨張された1次冷媒と前記2次冷媒との間で熱交換が可能な1次冷媒/2次冷媒熱交換器を有し、前記2次冷媒回路中に、2次冷媒と車室内空気との間で熱交換が可能な2次冷媒/車室内空気熱交換器と、2次冷媒を循環させる循環ポンプを有する車両用空調装置において、前記2次冷媒回路中に、2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つ加圧装置を設けたことを特徴とするものからなる。
【0006】
このような車両用空調装置においては、2次冷媒回路中に、2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つ加圧装置が設けられているので、2次冷媒回路内の圧力がNPSH以下に低下することを防ぐことができる。このことにより2次冷媒回路内におけるキャビテーションの発生が未然に防止できるため、キャビテーションに起因する2次冷媒回路の効率低下や振動、機械的損傷を抑止することが可能となり、2次冷媒回路の所定の性能を維持しつつ、2次冷媒回路の信頼性、耐久性を向上させることができる。このような加圧装置の構造は、2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つことが可能であればとくに限定されるものではないが、たとえば、ベローズを有する構造に構成することが可能である。
【0007】
上記の加圧装置を設ける場所は、2次冷媒回路内であればとくに限定されるものではないが、2次冷媒と車室内空気との間で熱交換が可能な2次冷媒/車室内空気熱交換器と、2次冷媒を循環させる循環ポンプの間に配置されることが好ましい。上記の加圧装置を循環ポンプの前段に配置することにより、循環ポンプに吸入される2次冷媒の圧力をNPSH以上の圧力値に保つことが容易に可能となり、キャビテーションの発生を効果的に防止することができる。
【0008】
また、上記の加圧装置に、前述の加圧装置の圧力を調整するための圧力調整弁を付設することが好ましい。この圧力調整弁は、たとえば、1次冷媒回路の配管より分岐した分岐管に接続される構造にして、前述の加圧装置の圧力調整に1次冷媒回路の圧力を使用可能に構成することもできる。圧力調整弁をこのような構成にした場合、1次冷媒回路内における分岐管の設置場所はとくに限定されるものではないが、1次冷媒/2次冷媒熱交換器と圧縮機の間に分岐管を配置することが好ましい。分岐管を1次冷媒/2次冷媒熱交換器と圧縮機の間に設けることにより、1次冷媒回路内において相対的に低圧で圧力変化の少ない安定した圧力を圧力調整弁に供給することができ、加圧装置の圧力を所定圧力に調整することが容易になる。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明に係る車両用空調装置によれば、1次冷媒を循環させる1次冷媒回路と、2次冷媒を循環させる2次冷媒回路とを有し、1次冷媒回路を、1次冷媒の圧縮機、凝縮器、減圧・膨張手段と、減圧・膨張された1次冷媒と2次冷媒との間で熱交換が可能な1次冷媒/2次冷媒熱交換器を有する構成とし、2次冷媒回路中に、2次冷媒と車室内空気との間で熱交換が可能な2次冷媒/車室内空気熱交換器と、2次冷媒を循環させる循環ポンプを設けた装置において、2次冷媒回路中に、2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つ加圧装置を設けたので、2次冷媒回路の圧力低下等に起因するキャビテーション発生を未然に防ぎ、2次冷媒回路の効率低下、振動、機械的損傷などを防止することが可能となる。また、この加圧装置に圧力調整弁を付設することにより、加圧装置による制御圧力を安定して所望の圧力に調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の概略構成図を示しており、とくに、加圧装置を2次冷媒/車室内空気熱交換器と循環ポンプの間に配置し、かつ、その加圧装置に1次冷媒回路の配管より分岐し圧力調整弁を備えた分岐管が接続され、加圧装置の圧力調整に1次冷媒回路の圧力を使用可能にした構造を示している。図1に示す構成において、1は1次冷媒回路を示しており、1次冷媒回路1は、冷媒を吸入する圧縮機2、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器3、凝縮された冷媒を減圧・膨張させる減圧・膨張手段としての膨張弁4、1次冷媒と該1次冷媒とは別の2次冷媒との間で熱交換が可能な1次冷媒/2次冷媒熱交換器10を備えている。一方、11は2次冷媒回路を示しており、該2次冷媒回路11内には、2次冷媒と車室内空気との間で熱交換が可能な2次冷媒/車室内空気熱交換器12、2次冷媒回路の圧力を所定圧力に保つ加圧装置13、2次冷媒の循環を行う循環ポンプ14、および前述の1次冷媒/2次冷媒熱交換器10が、2次冷媒の循環方向にこの順に設けられている。また、加圧装置13には、加圧装置13の圧力を調整するための圧力調整弁21が付設されている。圧力調整弁21は、1次冷媒回路の配管より分岐した1次冷媒分岐管路20が接続されており、加圧装置13の圧力調整に、圧力調整弁21によって調整された1次冷媒回路の圧力を使用することが可能な構造となっている。なお、図1における1次冷媒回路1中、2次冷媒回路11中の矢印は各冷媒の流れ方向を示している。2次冷媒としては、例えば水やブライン等を使用できる。
【0011】
図1に示す車両用空調装置においては、車室内空気の冷却は2次冷媒/車室内空気熱交換器12によって以下のようにして行われる。まず、膨張弁4によって減圧・膨張された1次冷媒と2次冷媒との熱交換が1次冷媒/2次冷媒熱交換器10で行われ、2次冷媒が冷却される。冷却された2次冷媒は、2次冷媒回路11中で加圧装置13によって所定圧力に加圧され、循環ポンプ14によって2次冷媒回路11内を循環され、2次冷媒/車室内空気熱交換器12にて、車室内空気との間で熱交換が行われ、車室内空気が冷却される。この冷却過程において加圧装置13が存在することにより、循環ポンプ14に吸入される2次冷媒の圧力がNPSH以上の圧力値に保たれるため、循環ポンプ14におけるキャビテーションの発生を防止することができ、キャビテーションに起因する2次冷媒回路の効率低下、振動、機械的損傷などを未然に防ぐことが可能になる。また、図1において、加圧装置13には圧力調整弁21が付設されており、かつ、1次冷媒回路1の配管より分岐した1次冷媒分岐管路20が前述の圧力調整弁21に接続されている。この結果、図1に示す構成では加圧装置13の圧力調整に1次冷媒回路1の圧力を使用することができるため、圧力調整のために専用の装置や動力源を追加する必要がなく、空調装置の省スペース化や省エネルギー化が可能な構成となっている。
【0012】
図2は、図1の実施態様における加圧装置の一例を示しており、とくに、2次冷媒回路の圧力を保つための構造としてベローズ構造を有する場合の概略構成を示している。図2に示す構成において、加圧装置13は2次冷媒回路11内に配置されており、2次冷媒回路の圧力を保つための構造としてベローズ30を有するとともに、加圧装置13の圧力を調整するための圧力調整弁21が付設されている。圧力調整弁21には1次冷媒回路の配管より分岐した1次冷媒分岐管路20が接続されており、加圧装置の圧力調整に1次冷媒回路の圧力を使用することが可能な構造となっている。なお、図1と同様に、図2における2次冷媒回路11中の矢印は冷媒の流れ方向を示している。図2において、圧力調整弁21により調整された1次冷媒の圧力が加圧装置13に負荷されており、ベローズ30には所定の圧力がかかり、ベローズ30の伸縮動作を介して2次冷媒回路11内に所望の制御圧力が負荷されるようになっている。例えば、温度低下などによって2次冷媒回路11の圧力が低下すると、1次冷媒の圧力によってベローズ30の収縮を介して、2次冷媒回路11の圧力が所定圧力に保たれる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明に係る車両用空調装置はあらゆる種類の車両に適用可能であり、とくに、冷媒として自然系冷媒や代替フロンを使用する車両用空調装置に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の機器系統図である。
【図2】図1の装置における、ベローズ構造を有する加圧装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0015】
1 1次冷媒回路
2 圧縮機
3 凝縮器
4 膨張弁
10 1次冷媒/2次冷媒熱交換器
11 2次冷媒回路
12 2次冷媒/車室内空気熱交換器
13 加圧装置
14 循環ポンプ
20 1次冷媒分岐管路
21 圧力調整弁
30 ベローズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次冷媒を循環させる1次冷媒回路と、2次冷媒を循環させる2次冷媒回路とを有し、前記1次冷媒回路は、1次冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮された冷媒を減圧・膨張させる減圧・膨張手段と、減圧・膨張された1次冷媒と前記2次冷媒との間で熱交換が可能な1次冷媒/2次冷媒熱交換器を有し、前記2次冷媒回路中に、2次冷媒と車室内空気との間で熱交換が可能な2次冷媒/車室内空気熱交換器と、2次冷媒を循環させる循環ポンプを有する車両用空調装置において、前記2次冷媒回路中に、2次冷媒の圧力を所定圧力に保つ加圧装置を設けたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記加圧装置が、前記2次冷媒回路における前記2次冷媒/車室内空気熱交換器と前記循環ポンプの間に配置されている、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記加圧装置に、該加圧装置の圧力を調整するための圧力調整弁が付設されている、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記圧力調整弁が、前記1次冷媒回路の配管より分岐した分岐管に接続されており、該1次冷媒回路の圧力を調整して前記加圧装置の圧力調整に使用可能に構成されている、請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記1次冷媒回路の配管より分岐した分岐管が、前記1次冷媒回路内の1次冷媒/2次冷媒熱交換器と圧縮機の間に設けられた配管より分岐されている、請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記加圧装置がベローズ構造を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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