説明

車両用空調装置

【課題】圧縮機の負圧運転を回避することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】圧縮機(32)と、冷媒を蒸発させる蒸発器(16)と、蒸発器(16)の温度(TE)を検出する蒸発器温度検出手段(42)と、蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて圧縮機(32)の作動を制御する制御手段(36)とを有する車両用空調装置において、制御手段(36)は、蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて圧縮機(32)の吐出量を設定する通常モードと、通常モードよりも吐出量が小さく設定された制限モードとを有し、圧縮機(32)の吸入側の冷媒圧力である低圧側圧力が設定圧力以下に低下した状態にあることを間接的に判定する負圧判定の負圧判定結果に基づいて、負圧判定結果が肯定的である場合には制限モードを選択する一方、負圧判定結果が否定的である場合には通常モードを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、特許文献1に記載されるように、車両用空調装置は、低温・除湿状態を作り出すための冷凍サイクルシステムを備えており、この冷凍サイクルシステムは、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器等が環状に接続されて構成される。こうした、冷凍サイクルシステムでは、蒸発器に設置されたサーミスタにより検知される蒸発器表面温度に基づいて、圧縮機の吐出量を制御するようにしている。
【特許文献1】特開2000−346470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、冬季内気条件のように外気温度が低く冷媒流量が少ないときには、蒸発器の温度分布が均一にならず悪化する場合がある。例えば、蒸発器において冷媒が少ないところは枯渇してしまい局所的に温度が高くなる。このような場合に、サーミスタが適正な温度(最低温度)を検出できずに高い温度を検出してしまうと、圧縮機が起動した際にサーミスタが検出する温度が目標温度に下がるまで、圧縮機の吐出量を必要以上に上げようと制御が働く。
【0004】
これによって、圧縮機の負圧運転を引き起こすという問題が生じていた。圧縮機が負圧運転となると、低圧側圧力が負圧となり冷媒を吸引することができず、冷媒と共に冷凍サイクル内を潤滑する潤滑オイルが戻らなくなるため、枯渇状態で回転して圧縮機が損傷(摩耗)する虞がある。
【0005】
また、圧縮機が負圧運転となった場合、冷凍サイクルシステムを循環する冷媒量が得られないため、蒸発器の温度分布が不均一となり局所的に極度のマイナス温度となり蒸発器が凍結してしまう虞もあった。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、圧縮機の負圧運転を回避することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明では、冷媒を圧縮し吐出する圧縮機(32)と、圧縮機(32)から吐出された冷媒を冷却する熱交換器(33)と、熱交換器(33)から流出された冷媒を減圧膨張させる減圧手段(35)と、減圧手段(35)によって減圧膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器(16)と、蒸発器(16)の温度(TE)を検出する蒸発器温度検出手段(42)と、蒸発器温度検出手段(42)により検出された蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて圧縮機(32)の作動を制御する制御手段(36)とを有する車両用空調装置において、制御手段(36)は、蒸発器温度検出手段(42)により検出された蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて圧縮機(32)の吐出量を設定する通常モードと、通常モードよりも吐出量が小さく設定された制限モードとを有しており、圧縮機(32)の吸入側の冷媒圧力である低圧側圧力が設定圧力以下に低下した状態にあることを間接的に判定する負圧判定の負圧判定結果に基づいて、負圧判定結果が肯定的である場合には制限モードを選択する一方、負圧判定結果が否定的である場合には通常モードを選択することを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、低圧側圧力が設定圧力以下に低下したことを間接的に判定する負圧判定結果が肯定的である場合(圧縮機(32)が負圧運転となる場合)には、圧縮機(32)の吐出量が小さい制限モードで圧縮機(32)を制御する。具体的には、制限モードは通常モードよりも例えば回転数(可変式圧縮機であれば吐出容量)が低い態様に設定される。
【0010】
このため、冬季内気条件のように外気温度が低く冷媒流量が少ないときに、蒸発器(16)の温度分布が悪化して局所的に温度(TE)が高くなり蒸発器温度検出手段(42)により検出される温度(TE)が高い場合でも、蒸発器(16)の温度分布が均一となるまで(負圧判定結果が否定的となるまで)圧縮機(32)は低い回転数で制御される。これにより、圧縮機(32)の負圧運転を回避することができ、これに伴い通常モードと比較して少量の冷媒を確実に流通させることができるため潤滑オイルが戻り、枯渇状態で回転して圧縮機(32)が破損(摩耗)する問題を回避することができる。
【0011】
また、圧縮機(32)が負圧運転となった場合、冷凍サイクルを循環する冷媒量が得られないため、蒸発器(16)の温度分布が不均一となり局所的に極度のマイナス温度となり蒸発器(16)が凍結してしまう虞があるが、本構成によれば、こうした蒸発器(16)での凍結についても改善することができる。
【0012】
なお、「圧縮機(32)の吸入側の圧力が設定圧力以下に低下したことを間接的に判定する」とは、吸入側に圧力センサを設けて直接的に低圧側圧力の圧力低下を検知する場合とは異なることを意味する。また、「設定圧力」とは、圧縮機(32)が負圧運転となるか否かの閾値であって例えば0MPaに設定することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、圧縮機(32)の吐出側の冷媒圧力である高圧側圧力(PH)を検出する高圧側圧力検出手段(43)を有し、制御手段(36)は、高圧側圧力検出手段(43)により検出された高圧側圧力(PH)に基づいて負圧判定をするものであって、高圧側圧力(PH)が第1所定値より小さい場合に肯定的判定とする一方、高圧側圧力(PH)が第1所定値以上の場合に否定的判定とすることを特徴とする。
【0014】
例えば、冬季条件では、外気温度が低く高圧側圧力(PH)と低圧側圧力との圧力差が得られないため減圧手段(35)としての膨張弁の開度は小さく、十分な冷媒流量が得られない。こうした際に、蒸発器(16)に内気が当たると温度分布のムラが生じ、低圧側圧力が設定圧力以下に低下し、蒸発器(16)の温度(TE)を適正に検出することができずに圧縮機(32)の負圧運転を引き起こすことになる。こうした冬季条件の判断は、冷媒に対応して予め設定される第1所定値を閾値とすることで、高圧側圧力(PH)の値が第1所定値を超えているか否かで判断することができる。
【0015】
本構成によれば、高圧側圧力(PH)が第1所定値より小さい場合には、低圧側圧力が設定圧力以下に低下した(負圧判定が肯定的である)と判断する。一方、高圧側圧力(PH)が第1所定値以上の場合には、低圧側圧力が設定圧力以下ではない(負圧判定が否定的である)と判断する。すなわち、一般的な車両用空調装置に既存の高圧側圧力検出手段(43)を用いて、好適に負圧判定を実行することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、外気温度(TAM)を検出する外気温度検出手段(41)を有し、制御手段(36)は、外気温度検出手段(41)により検出された外気温度(TAM)に基づいて負圧判定をするものであって、外気温度(TAM)が第2所定値より小さい場合に肯定的判定とする一方、外気温度(TAM)が第2所定値以上の場合に否定的判定とすることを特徴とする。
【0017】
冬季条件の判断は、予め設定される第2所定値を閾値とすることで、外気温度(TAM)の値が第2所定値を超えているか否かで判断することができる。
【0018】
本構成によれば、外気温度(TAM)が第2所定値より小さい場合には、低圧側圧力が設定圧力以下に低下した(負圧判定が肯定的である)と判断する。一方、外気温度(TAM)が第2所定値以上の場合には、低圧側圧力が設定圧力以下ではない(負圧判定が否定的である)と判断する。すなわち、一般的な車両用空調装置に既存の外気温度検出手段(41)を用いて、好適に負圧判定を実行することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、蒸発器(16)が配設される空調ケース(10)内に車室内の空気を取り込む内気導入口(12)と、車室外の空気を取り込む外気導入口(13)とを有し、制御手段(36)は、負圧判定にあたって、内気導入口(12)が開状態とされる内気モードであることを条件に含んで肯定的判定とすることを特徴とする。
【0020】
一般に、冬季内気条件(冬季における内気モードでの暖房運転)のように、例えば25℃の内気によって蒸発器(16)の冷媒が蒸発してしまうことによって、蒸発器(16)の温度分布のばらつきが顕著に生じる。本構成によれば、内気モードであるか否かを判断して内気モードであることを条件に肯定的判定とすることによって、負圧運転となりやすい状況時に的確に肯定的判定とし制限モードを選択することで、より好適に圧縮機(32)の負圧運転を回避することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、制限モードは、圧縮機(32)の起動後の所定時間に限定して選択される第1制限モードと、圧縮機(32)の吐出量が第1制限モードにおける吐出量よりも大きく設定されるとともに所定時間経過後に選択される第2制限モードとを有して設定されていることを特徴とする。
【0022】
本構成によれば、起動後の所定時間は第1制限モードを選択することで圧縮機(32)の吐出量を低レベルに抑えるため負圧運転を抑制することができる。一方、所定時間経過後であれば、負圧判定が肯定的(圧縮機(32)が負圧運転となる可能性がある場合)であっても、起動直後ほど蒸発器(16)の温度分布のムラが少なく不均一性が改善されているため、起動直後ほど圧縮機32の吐出量を制限する必要がない。
【0023】
本構成によれば、起動直後は最も吐出量の小さい第1制限モード、所定時間経過後には第1制限モードと比較して吐出量の大きい第2制限モードとすることで、蒸発器(16)内の冷媒が全体に馴染む前段階と、蒸発器(16)全体が冷えて蒸発器温度検出手段(42)からの検出値の信頼性が得られる状態となった段階とでそれぞれ的確な圧縮機制御を実行することができる。
【0024】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1〜図3を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態である車両用空調装置1を示す模式図である。図1に示すように、車室内(空調室内)を空調する車両用空調装置1は、内部に空気流路が形成される空調ケーシング10を有し、この空調ケーシング10内の空気上流側部位には、内外気切換装置11が設けられている。内外気切換装置11には、内気を導入するための内気導入口12と外気を導入するための外気導入口13とが開口形成されているとともに、これらの各導入口12,13を選択的に開閉する内外気切換ドア14が設けられている。この内外気切換ドア14を回動作動させることで、各導入口12,13を選択的に開閉するようになっている。
【0026】
内外気切換装置11の下流側部位には、両導入口12,13から吸入された空気を送風する送風機15が配設されている。送風機15は、ブロワモータM1により駆動される。送風機15の空気下流側には、室内に吹き出す空気を冷却する蒸発器16が配設されている。
【0027】
蒸発器16の空気下流側には、空気を加熱するヒータコア17が配設されている。このヒータコア17は、走行用の車両エンジン18の冷却水を熱源として空気を加熱している。蒸発器16の下流側には、ヒータコア17をバイパスするバイパス流路19が形成され、ヒータコア17の空気上流側には、ヒータコア17を通る風量とバイパス流路19を通る風量との風量割合を調節するエアミックスドア21が配設されている。
【0028】
そして、空調ケーシング10の最下流側部位には、車室内乗員の上半身に空調空気を吹き出すためのフェイス吹出口22と、車室内乗員の足元に空気を吹き出すためのフット吹出口23と、フロントガラスの内面に向かって空気を吹き出すためのデフロスタ吹出口24とが形成されており、各吹出口22〜24の空気上流側部位には、吹出口モードを切り換える吹出口モード切換ドア25a〜25cが配設されている。
【0029】
なお、上記蒸発器16は、冷媒を蒸発させることにより冷凍能力を発揮する蒸気圧縮式冷凍サイクルRc(以下、単に「冷凍サイクルRc」と言う。)の低圧側の熱交換器である。冷凍サイクルRcは、電動モータ31によって駆動される電動圧縮機32(以下、単に「圧縮機32」と言う。)、凝縮器33、アキュムレータ34を備えている。蒸発器16の冷媒上流側(冷媒入口側の冷媒流路)には、凝縮器33で放熱された冷媒を減圧する減圧手段としての膨張弁35が設けられている。なお、本実施形態では、冷媒として周知の代替フロン系冷媒(HFC−134a)を使用している。
【0030】
さらに、車両用空調装置1は、制御手段としてのエアコンECU36を有している。エアコンECU36は、CPU、ROMおよびRAM(いずれも図示略)等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。ROM内には、空調制御のための制御プログラムを記憶しており、その制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。さらに、エアコンECU36は、周知のタイマ機能を備えている。
【0031】
エアコンECU36には、送風機15、エアミックスドア21、吹出口モード切換ドア25a〜25c、圧縮機32等が電気的に接続されている。さらに、センサ群として、外気温度TAMを検出する外気温度センサ41、蒸発器16の表面温度TE(以下、「エバ温度TE」と言う。)を検出するエバ温度センサ42(蒸発器温度検出手段)、冷凍サイクルRcの高圧側圧力PH(膨張弁35の流入側の圧力)を検出する高圧側圧力センサ43等のセンサが電気的に接続されている。
【0032】
そして、車両用空調装置1を作動させると、エアコンECU36は、圧縮機32を駆動制御するとともに、送風機15、各種ドア駆動用の各モータ(図示略)等の作動を制御するようになっている。
【0033】
次に、本実施形態における車両用空調装置1の制御方法について説明する。図2は、本実施形態におけるエアコンECU36が実行する車両用空調装置1の制御手順(負圧運転保護ルーチン)の一例を示すフローチャートである。なお、図2では、簡単のため本実施形態の特徴部分におけるステップのみを記載しており、目標吹出温度TAOの算出、吸込口モード決定、吹出口モード決定等の一般的な流れについては省略しているものである。
【0034】
図2に示すように、まず、ステップS1でエアコンスイッチの信号からエアコンがオン状態にあるか否か判断する。エアコンがオン状態でない場合(ステップS1:NO)には本ステップを繰り返す。エアコンがオン状態である場合(ステップS1:YES)には、ステップS2で起動時間Tの積算を開始(タイマスタート)する。次いで、ステップS3で、エバ温度センサ42よりエバ温度TEを検出し、その後、ステップS4で、高圧側圧力センサ43により高圧側圧力PHを検出する。
【0035】
次いで、ステップS5で、高圧側圧力PHが0、4MPa(第1所定値)より小さいか否か判断する。このステップS5では、高圧側圧力PHの値が小さく低圧側圧力との圧力差を確保することができない冬季条件であるか否かを判断している。そして、高圧側圧力PHが0、4MPa以上である場合には、すでに高圧側圧力PHが十分に高い値であって低圧側圧力との圧力差を十分に確保することができ、冬季条件ではないことを示しているため、ステップS6に進み、通常モード(回転数Ncn)で圧縮機32の吐出量制御を行う。
【0036】
一方、ステップS5で、高圧側圧力PHが0.4MPaより小さい場合には、冬季条件であることを示しており、次のステップS7に進み、内気導入口12が開状態とされる内気モードであるか否かを判断する。ここで、一般に、冬季内気条件(冬季における内気モードでの暖房運転)では、外気温度TAMが低く高圧側圧力PHと低圧側圧力との圧力差が得られないため膨張弁35の開度は小さく、十分な冷媒流量が得られない。この状態で、例えば20℃程度の比較的温かい内気が蒸発器16に送風されると、蒸発器16の冷媒が蒸発してしまうことにより、局所的に冷媒が枯渇し蒸発器16の温度分布のばらつきが顕著に生じる。一方、外気モードの場合には、比較的冷たい外気が蒸発器16に当たることで、蒸発器16がすぐに冷やされて温度分布のムラが発生しにくい。そこで、本実施形態では、まずステップS5で冬季条件であるか否かを判断し、ステップS7で内気モードであるか否かを判断して、両条件を満たす場合に後述するステップ8以降の処理を実行するようにしている。
【0037】
なお、ステップS5およびステップS7が「低圧側圧力が設定圧力以下に低下したことを間接的に判定する負圧判定」に相当するステップであり、ステップS6が通常モードによる制御、ステップS8〜S13の処理が制限モードによる制御に相当する。なお、低圧側圧力の設定圧力とは、圧縮機32が負圧運転となるか否かの閾値であって例えば0MPaに設定することができる。
【0038】
次に、制限モード(ステップS8〜S13)の各処理について説明する。まず、ステップS8で、タイマカウント値Tが90秒以内であるか否かを判断する。すなわち、圧縮機32の起動後90秒経過以内であるか否かを判断し、90秒経過以内(T≦90)であれば、ステップS9に進む。ここで、図3は、負圧運転保護ルーチンにおける圧縮機32の制御回転数を示す負圧運転保護制御マップである。図3において、実線で示すのが第1マップ(第1制限モード)であり、破線で示すのが後述する第2マップ(第2制限モード)である。なお、第1マップにおける圧縮機32(電動モータ31)の回転数(吐出量)は、第2マップにおける回転数(吐出量)よりも概して小さく設定されている。また、第1マップおよび第2マップにおける回転数は、ともに通常モードにおける回転数(吐出量)よりも小さく設定されている。そして、ステップS9で、この第1マップから圧縮機32の回転数Ncm1を決定する。
【0039】
例えば、起動後90秒以内(S8:YES)であって、高圧側圧力PHが0.20MPaであれば、図3に実線で示す第1マップより圧縮機32の回転数を2500rpmに決定する(S9)。そして、ステップS10に進み、ステップS9で決定された回転数Ncm1によって圧縮機32の吐出量制御を行う。その後はステップS8に戻る。
【0040】
一方、ステップS8で、タイマカウント値Tが90秒以内ではない、すなわち、圧縮機32の起動後90秒経過後である場合(T>90)には、ステップS11に進み、再びその時点での高圧側圧力PHを読み込む。そして、次に、ステップS12で、第2マップから圧縮機32の回転数Ncm2を決定する。例えば、その時点での高圧側圧力PHが0.26MPaであれば、図3に破線で示す第2マップより圧縮機32の回転数を3500rpmに決定する(ステップS12)。ここで、第2マップでの圧縮機の回転数Ncm2は、第1マップにおける圧縮機32の回転数Ncm1よりも大きく設定されており、圧縮機32の吐出量は、第2マップの方が大きくなっている。そして、ステップS12で圧縮機32の回転数Ncm2を決定した後は、ステップS13に進み、ステップS12で決定された回転数Ncm2によって圧縮機32の吐出量制御を行う。その後はステップS5に戻る。
【0041】
本負圧運転保護ルーチンにおいては、上記詳述したように、冬季条件(ステップS5)および内気モード条件(ステップS7)の両条件を満たす場合(負圧判定における肯定的判定)であってエアコンスイッチがオンされた後90秒以内であれば、第1マップ(回転数Ncm1)を採用して制御する。また、上記両条件を満たす場合(負圧判定における肯定的判定)であってエアコンスイッチがオンされた後90秒を超えていれば、第2マップ(回転数Ncm2)を採用する。そして、起動後所定時間を経過して、冷媒流れにより徐々に蒸発器16が冷却されて十分に温度分布が均一となった後には、高圧側圧力PHの上昇によってステップS5でNO判定となり通常モード(S6)に移行することとなる。
【0042】
(効果)
上記制御によれば、制限モード(図3)は通常モードよりも回転数が低い態様に設定されるため、冬季内気条件のように外気温度TAMが低く冷媒流量が少ないときに、蒸発器16の温度分布が悪化して局所的にエバ温度TEが高くなりエバ温度センサ42により検出されるエバ温度TEが高い場合でも、蒸発器16の温度分布が均一となるまで圧縮機32は低い回転数で制御される。これにより、圧縮機32の回転数を必要以上に上げようとする制御が抑制されるため、圧縮機32の負圧運転を回避することができる。
【0043】
さらに、これに伴い通常モードと比較して少量の冷媒を確実に流通させることができるため冷媒と共に冷凍サイクルRc内を潤滑する潤滑オイルが圧縮機32へ戻り、枯渇状態で回転して圧縮機32が破損(摩耗)する問題を回避することができる。また、エバ温度センサ42を一つ設ける構成により、上記一連の制御を実行できるため、複数の温度センサを設置する必要もなく装置構成が容易であるとともにコストを低減しつつ確実に負圧運転を抑制することができる。
【0044】
また、圧縮機32が負圧運転となった場合、冷凍サイクルRcを循環する冷媒量が得られないため、蒸発器16の温度分布が不均一となり局所的に極度のマイナス温度となり蒸発器16が凍結してしまう虞があるが、本構成によれば、こうした蒸発器16の凍結を防止することができる。
【0045】
また、上記制御では、一般的な車両用空調装置1に既存の高圧側圧力センサ43を用いて負圧判定(ステップS5)を実行することができるため、新たに部品を追加することなく低コストな制御とすることができる。
【0046】
さらに、起動後の所定時間は第1マップ(第1制限モード)を選択することで圧縮機32の回転数を低レベルに抑えるため好適に負圧運転を抑制することができる。一方、所定時間経過後(本実施形態では90秒経過後)であれば、負圧判定が肯定的であっても、起動直後ほど蒸発器16の温度分布のムラが少なく不均一性が改善されているため、起動直後ほど圧縮機32の回転数を制限する必要がないため、第1マップよりも回転数の高い第2マップ(第2制限モード)を選択するようにしている。
【0047】
これにより、蒸発器16内の冷媒が全体に馴染む前段階(90秒内は第1マップ)と、蒸発器16全体が冷えてエバ温度センサ42からの検出値の信頼性が得られる状態となった段階(90秒以降は第2マップ)とでそれぞれ的確な圧縮機制御を実行することができる。
【0048】
また、上記負圧運転保護ルーチンが回っている間に、送風機15のブロワレベルがLoからHiに急変したときでも、負圧運転の起こりうる冬季内気条件時には常に第2マップ(第2制限モード)を上限とする制限がかかる。通常、ブロワレベルをLoからHiにすると風量が増えるので、蒸発器16における冷媒が乾き易く低負荷時よりも余計にエバ温度センサ42の検出温度が上がってしまい圧縮機32の回転数を上げるように制御が働いて、低圧側圧力が負圧となっていく。しかし、このようにブロワレベルが急変した場合でも、第2マップ(第2制限モード)を使用して圧縮機32の回転数の上限を制限しているため負圧運転を抑制することができる。
【0049】
なお、ステップS5で高圧側圧力PHが十分である(または、十分に上昇した)場合(ステップS5:NO)や、ステップS7で内気モードではない(または、内気モードでなくなった)場合(ステップS7:NO)には、蒸発器16の温度分布のムラが解消されていることを示し圧縮機32の回転数が通常モードに設定される通常制御となるため、冷凍サイクルRcの稼動にあたって十分な吐出量を得ることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図4を参照して説明する。図4は、第2実施形態においてエアコンECU36が実行する車両用空調装置1の制御手順(負圧運転保護ルーチン)の一例を示すフローチャートである。
【0051】
なお、本実施形態では、第1実施形態と共通するステップには第1実施形態(図2)と同様の符号を付しており、以下、第1実施形態との相違部分に着目して説明することとする。また、本実施形態において、図3で横軸に示すのは外気温度TAMである。
【0052】
上記第1実施形態では、高圧側圧力PHの値が小さく低圧側圧力との圧力差を確保することができない冬季条件であるか否かを高圧側圧力PHの値によって判断したが(ステップS5)、本実施形態では、外気温度TAMの値によって判断している点が主に上記第1実施形態とは異なっている。本実施形態では、図4に示すように、ステップS4bで、外気温度TAMを検出し、次いで、ステップS5bで外気温度TAMが16℃(第2所定値)より小さいか否か判断する。外気温度TAMが16℃以上である場合には、高圧側圧力PHと低圧側圧力との圧力差を十分に確保することができ、冬季条件ではないことを示しているため、ステップS6に進み、通常モード(回転数Ncn)で圧縮機32の吐出量制御を行う。
【0053】
一方、ステップS5bで、外気温度TAMの値が16℃より小さい場合には、冬季条件であることを示しており、次のステップS7に進み、内気導入口12が開状態とされる内気モードであるか否かを判断する。以降の処理は、上記第1実施形態と略同様であるが、ステップS11bで外気温度TAMを読み込む点と、ステップS13bで、その時点での回転数と第2マップからの回転数Ncm2とを比較して低い方の回転数で圧縮機32を制御する点が異なる。
【0054】
このステップS13bでは、例えば、ファジー制御等により圧縮機32の回転数がそれまでの回転数Ncm1から多少変動して高くなっていた場合に、第2マップによる回転数Ncm2と比較して、Ncm2の方が低ければ、Ncm2の回転数に修正する。つまり、Ncm2を上限としてより低い方の回転数に設定される。すなわち、本実施形態では、図3において第1マップと第2マップとにはさまれた部分が、負圧判定結果が肯定的となる場合に(蒸発器16の温度分布ムラが解消されるまでの間に)、圧縮機32の採り得る回転数となる。
【0055】
本実施形態においても、一般的な車両用空調装置1に既存の外気温度センサ41を用いて冬季判定をすることができるとともに、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0056】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、ステップS7で内気モードであるか否かの判断を含めて負圧判定をするものとしたが、このステップを省略して冬季条件(S5,S5b)のみで負圧判定を行うようにしても良い。
【0057】
上記第2実施形態では、ステップS13bで、その時点での回転数と第2マップの回転数Ncm2とで低い方の回転数を採用するものとしたが、第1実施形態におけるステップS13と同様に、常にNcm2の値を採用するようにしても良い。予めNcm2は負圧運転が生じない上限値に設定されているため、常にNcm2を採用することもできる。
【0058】
また、逆に、上記第1実施形態のステップS13を第2実施形態のステップS13bに置き換えても良い。
【0059】
上記各実施形態では、冷媒として周知の代替フロン系冷媒(HFC−134a)を用いたが、ブタンやプロパン、二酸化炭素等の種々の冷媒を使用することができる。なお、その場合、上記第1実施形態のステップS5における高圧側圧力PHの閾値(第1所定値)は、冷媒に応じて適宜設定される。
【0060】
上記各実施形態では、電動圧縮機32を用いて、圧縮機32の電動モータ31の回転速度を制御することにより圧縮機の時間当たり吐出量を可変するようにしたが、可変容量圧縮機を用いて一摺動当たりの吐出容量を可変にすることで時間当たり吐出量を可変に制御するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態である車両用空調装置を示す模式図である。
【図2】エアコンECUが実行する車両用空調装置の制御手順(負圧運転保護ルーチン)の一例を示すフローチャートである。
【図3】負圧運転保護ルーチンにおける圧縮機の制御回転数を示す負圧運転保護制御マップである。
【図4】第2実施形態においてエアコンECUが実行する車両用空調装置の制御手順(負圧運転保護ルーチン)の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 車両用空調装置
10 空調ケース
12 内気導入口
13 外気導入口
16 蒸発器
32 圧縮機
33 凝縮器(熱交換器)
35 膨張弁(減圧手段)
36 エアコンECU(制御手段)
41 外気温度センサ(外気温度検出手段)
42 エバ温度センサ(蒸発器温度検出手段)
43 高圧側圧力センサ(高圧側圧力検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮し吐出する圧縮機(32)と、
当該圧縮機(32)から吐出された前記冷媒を冷却する熱交換器(33)と、
当該熱交換器(33)から流出された前記冷媒を減圧膨張させる減圧手段(35)と、
当該減圧手段(35)によって減圧膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器(16)と、
当該蒸発器(16)の温度(TE)を検出する蒸発器温度検出手段(42)と、
当該蒸発器温度検出手段(42)により検出された前記蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて前記圧縮機(32)の作動を制御する制御手段(36)と
を有する車両用空調装置において、
前記制御手段(36)は、
前記蒸発器温度検出手段(42)により検出された前記蒸発器(16)の温度(TE)に基づいて前記圧縮機(32)の吐出量を設定する通常モードと、当該通常モードよりも前記吐出量が小さく設定された制限モードとを有しており、
前記圧縮機(32)の吸入側の冷媒圧力である低圧側圧力が設定圧力以下に低下した状態にあることを間接的に判定する負圧判定の負圧判定結果に基づいて、当該負圧判定結果が肯定的である場合には前記制限モードを選択する一方、前記負圧判定結果が否定的である場合には前記通常モードを選択することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記圧縮機(32)の吐出側の冷媒圧力である高圧側圧力(PH)を検出する高圧側圧力検出手段(43)を有し、
前記制御手段(36)は、前記高圧側圧力検出手段(43)により検出された高圧側圧力(PH)に基づいて前記負圧判定をするものであって、前記高圧側圧力(PH)が第1所定値より小さい場合に肯定的判定とする一方、前記高圧側圧力(PH)が前記第1所定値以上の場合に否定的判定とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
外気温度(TAM)を検出する外気温度検出手段(41)を有し、
前記制御手段(36)は、前記外気温度検出手段(41)により検出された外気温度(TAM)に基づいて前記負圧判定をするものであって、前記外気温度(TAM)が第2所定値より小さい場合に肯定的判定とする一方、前記外気温度(TAM)が前記第2所定値以上の場合に否定的判定とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記蒸発器(16)が配設される空調ケース(10)内に車室内の空気を取り込む内気導入口(12)と、車室外の空気を取り込む外気導入口(13)とを有し、
前記制御手段(36)は、前記負圧判定にあたって、前記内気導入口(12)が開状態とされる内気モードであることを条件に含んで肯定的判定とすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記制限モードは、前記圧縮機(32)の起動後の所定時間に限定して選択される第1制限モードと、前記圧縮機(32)の吐出量が前記第1制限モードにおける前記吐出量よりも大きく設定されるとともに前記所定時間経過後に選択される第2制限モードとを有して設定されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−13017(P2010−13017A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176219(P2008−176219)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】