説明

車両用空調装置

【課題】部品追加や消費エネルギーを最小限に抑え、しかもドライバーに違和感を与えることなく液冷媒の寝込みを防止できる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】電動圧縮機11から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、冷媒回路の凝縮器14が車両天井に設置されている車両用空調装置において、電動圧縮機11を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機11の上方カバー22を日射透過部材により構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バス等の車両に適用される車両用空調装置に係り、特に、電動圧縮機に対する液冷媒の寝込み防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルを用いた車両用空調装置が広く普及しており、車両用空調装置における圧縮機への液冷媒の寝込みについては、たとえば下記の特許文献1に開示されたものが知られている。
引用文献1の車両用空調装置には、冷凍サイクルの停止中に大きな電力を必要とする電気部品を使用しないで、冷媒圧縮機に液冷媒が寝込むことを防止する技術が開示されている。この従来技術では、冷凍サイクルの停止指令後に圧縮機や凝縮器ファンの作動を所定時間継続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3820664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術の場合、冷凍サイクルの停止指令を受けた後にも圧縮機や凝縮器ファンを所定時間継続して運転する必要があるため、エンジン等の車両駆動源停止と冷凍サイクルの停止とが同時になる場合、圧縮機や凝縮器ファンの運転を継続することは困難である。すなわち、乗用車やバス等の車両(自動車)においては、運転状態にある空調装置(冷凍サイクル)についても車両自体の運転停止と同時に停止されるのが一般的であるから、車両の運転停止後に圧縮機や凝縮器ファンの運転が継続されていると、ドライバーに違和感を与える虞がある。
【0005】
このような背景から、車両用空調装置においては、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑え、しかもドライバーに違和感を与えることなく確実に液冷媒の寝込みを防止できる技術が求められている。特に、電動圧縮機を用いた車両用空調装置の場合には、エンジン駆動の圧縮機と比較して設置位置の自由度が高いため、これを有効利用した液冷媒の寝込み防止技術が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑え、しかもドライバーに違和感を与えることなく液冷媒の寝込みを防止できる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の請求項1に係る車両用空調装置は、電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、前記電動圧縮機を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機の上方カバーを日射透過部材により構成したことを特徴とするものである。
【0007】
このような車両用空調装置によれば、電動圧縮機を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機の上方カバーを日射透過部材により構成したので、日射を受ける電動圧縮機の温度が凝縮器の温度よりも高くなる。このため、電動圧縮機と凝縮器との温度差により圧縮機内の液冷媒が気化して凝縮器側へ移動するので、運転停止状態での寝込み防止が可能になる。なお、この場合の電動圧縮機は、熱吸収性の高い塗装色(たとえば黒色)とすることが望ましい。
【0008】
本発明の請求項2に係る車両用空調装置は、電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、前記電動圧縮機を凝縮器近傍の同一温度環境に設置し、前記電動圧縮機を駆動する前に前記凝縮器のファンを所定時間運転する圧縮機内冷媒移動工程を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
このような車両用空調装置によれば、電動圧縮機を凝縮器近傍の同一温度環境に設置し、電動圧縮機を駆動する前に凝縮器のファンを所定時間運転する圧縮機内冷媒移動工程を設けたので、圧縮内冷媒移動工程において凝縮器のファンが運転されると、温度低下する凝縮器との温度差により電動圧縮機内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器側へ移動する。このため、電動圧縮機を駆動する時点においては、電動圧縮機内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となる。
【0010】
請求項2に記載の車両用空調装置においては、前記電動圧縮機を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機の上方カバーを日射透過部材により構成することが好ましく、これにより、日射を受ける電動圧縮機の温度が凝縮器の温度よりも高くなるので、凝縮器のファンを運転する圧縮機内冷媒移動工程の実施時間(凝縮器のファンを運転する時間)を短縮することができる。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、前記電動圧縮機を熱源近傍に設置して隔壁で区画し、前記電動圧縮機を駆動する前に前記隔壁のドア部材を所定時間開にして廃熱を導入する圧縮機内冷媒移動工程を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
このような車両用空調装置によれば、電動圧縮機を熱源近傍に設置して隔壁で区画し、電動圧縮機を駆動する前に隔壁のドア部材を所定時間開にして廃熱を導入する圧縮機内冷媒移動工程を設けたので、圧縮機内冷媒移動工程において隔壁のドア部材が開かれると、圧縮機の温度が上昇して凝縮器との間に温度差を生じる。このため、電動圧縮機内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器側へ移動するので、電動圧縮機を駆動する時点においては、電動圧縮機内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となる。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明によれば、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑え、しかもドライバーに違和感を与えることなく液冷媒の寝込みを防止できる車両用空調装置を提供することができる。特に、電動圧縮機を用いた車両用空調装置は、エンジン駆動の圧縮機と比較して設置位置の自由度が高いため、車両天井や熱源近傍の隔壁で区画した空間等に設置することで、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑えた液冷媒の寝込み防止が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る車両用空調装置について、車両天井に設置されている空調ユニットに電動圧縮機を配置した第1の実施形態の構成例を示す斜視図である。
【図2】バスに搭載されている車両用空調装置の概要を示す斜視図である。
【図3】車両用空調装置の冷媒回路構成例を示す図である。
【図4】本発明係る車両用空調装置について、圧縮機内冷媒移動工程を設けた第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図5】図4に示した実施形態の第1変形例を示すフローチャートである。
【図6】図4に示した実施形態の第2変形例を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る車両用空調装置について、圧縮機内冷媒移動工程を設けた第3の実施形態の構成例を示すバス後部(エンジンルーム)の横断面図である。
【図8】図7に示したバス後部(エンジンルーム)の縦断面図である。
【図9】第3の実施形態において、圧縮機内冷媒移動工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る車両用空調装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
以下に説明する車両用空調装置は、バス等の車両に適用されて車室内の空調を行う装置であり、冷媒回路に冷媒を送出する圧縮機として電動圧縮機が採用されている。
図3は、車両用空調装置の冷媒回路構成例を示す図である。図示の冷媒回路10は、電動圧縮機11から送出された冷媒が冷媒配管12で連結された閉回路を循環し、気液の状態変化を繰り返すことで車室内の空調運転を行うことができる。
【0016】
電動圧縮機11から送出された高温高圧のガス冷媒は、逆止弁13を通って凝縮器14に導入される。
凝縮器14では、ガス冷媒が外気と熱交換して凝縮する。こうして液化した液冷媒は、絞り機構15で減圧されてから蒸発器16に導入される。なお、図中の符号14aは凝縮器ファン、16aは蒸発器ファンである。
蒸発器16に導入された低温低圧の液冷媒は、車室内の空気と熱交換することにより気化するので、車室内の空気は気化熱を奪われて温度低下する。こうして温度低下した冷風を車室内へ吹き出すことにより、車室内の冷房・除湿運転が行われる。
【0017】
蒸発器16で気化した低圧のガス冷媒は、再び電動圧縮機11に導入されて圧縮を受けることにより、高圧のガス冷媒として送出される。従って、冷媒は、以下同様に冷媒回路10を循環して気液の状態変化を繰り返し、素足津内の冷房・除湿運転が行われる。
なお、図示の冷媒回路10に冷媒の循環方向を切り替える四方弁を追設すれば、凝縮器14及び蒸発器16の機能を逆にして車室内の暖房運転を行うことも可能である。
【0018】
<第1の実施形態>
図2は、たとえばバス1のような車両に装備された車両用空調装置を示している。車室内の空調を行う車両用空調装置は、凝縮器14等の一部構成要素をユニット化した空調ユニット20が車体2の天井(車両天井)に設置されている。以下では、車両用空調装置の空調ユニット20について、その構成例を図1に示して説明する。なお、バス1においては、通常車両走行用のエンジン3が車体2の後部に配設される。
【0019】
図1に示す空調ユニット20は、ケーシング21の内部に電動圧縮機11、冷媒配管12、凝縮器14、凝縮器ファン14a等の冷媒回路構成要素が設置されている。従って、
車体2の天井に空調ユニット20を設置したことにより、凝縮器14とともに電動圧縮機11が車両天井に配置されたものとなる。そして、空調ユニット20において電動圧縮機11が設置される位置では、電動圧縮機11の上方領域に設けられる上方カバー22として、たとえば透明な樹脂材のような日射透過部材が採用されている。すなわち、天井に設置された電動圧縮機11に対して日射を遮ることなく当てるため、ケーシング21の一部に日射透過部材よりなる上方カバー22が設けられている。
【0020】
このように、電動圧縮機11を凝縮器14とともに車体2の天井に設置し、電動圧縮機11の上方に日射透過部材よりなる上方カバー22を設けたので、日射を受ける電動圧縮機11の温度は凝縮器14の温度よりも高くなる。このため、運転停止中においては、電動圧縮機11と凝縮器14との温度差により、電動圧縮機11内の液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。すなわち、冷媒回路10の運転停止状態においては、電動圧縮機11に残存している液冷媒(寝込み冷媒)が日射を受けて温度上昇する電動圧縮機11内で気化し、低温側となる凝縮器14へ自然に流出するので、電動圧縮機11内への液冷媒の寝込み防止が可能になり、電動圧縮機11に液冷媒が寝込んだ状態で起動され液寝込み起動を防止できる。
なお、この場合の電動圧縮機11は、たとえば黒色等のように、熱吸収性の高い塗装色にしておくことが好ましい。
【0021】
従って、上述した車両用空調装置は、エンジン駆動の圧縮機と比較して設置位置の自由度が高い電動圧縮機11の特性を有効に利用し、実質的に新たな部品追加は上方カバー22だけですみ、しかも電力等の動力を消費しないで液冷媒の寝込みを防止できる。また、停車中に駆動する部分もないので、ドライバーに違和感を与えることなく液冷媒の寝込みを防止することができる。
【0022】
<第2の実施形態>
続いて、本発明に係る車両用空調装置について、第2の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態では、電動圧縮機11を凝縮器14の近傍となる同一温度環境に設置し、電動圧縮機11を駆動する前に凝縮器14の凝縮器ファン14aを所定時間運転する圧縮機内冷媒移動工程が設けられている。この場合の同一温度環境とは、たとえば図1に示した空調ユニット20のように、車体1の天井に電動圧縮機11及び凝縮器14を隣接配置したものが望ましく、上方カバー22についてはなくてもよい。
【0023】
このような車両用空調装置において、圧縮機内冷媒移動工程の凝縮器ファン14aは、たとえば図4に示すフローチャートのように、日射の判定を行って運転される。この圧縮機内冷媒移動工程は、電動圧縮機11を駆動する空調装置の通常運転前に実施される。
最初のステップS1で圧縮機内冷媒移動工程の制御がスタートすると、次のステップS2では日射の判定が行われる。この判定では、日射センサ検出値Fsが日射センサ判定閾値Fs1より高い(Fs>Fs1)場合に「YES」と判断され、次のステップS3に進む。すなわち、晴天等により日射センサ判定閾値Fs1より高い日射量がある場合、圧縮機内冷媒移動工程の実施が可能と判断して次のステップS3に進む。なお、日射センサ検出値Fsが日射センサ判定閾値Fs1以下と低い場合には「NO」と判断し、後述するステップS4に進んで空調装置の通常運転が実施される。
【0024】
ステップS3では、凝縮器14のファンモータに規定時間通電(ON)して、凝縮器ファン14aを所定時間だけ運転する。このような凝縮器ファン14aの運転により、同一温度環境にある停止中の電動圧縮機11及び凝縮器14は、凝縮器14側が温度低下して温度差を生じるので、この温度差により電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。
こうして凝縮器ファン14aを規定時間だけ運転した後には、次のステップS4に進んで空調装置の通常運転が開始される。すなわち、電動圧縮機11を駆動して冷媒を循環させ、蒸発器16で熱交換した冷風を車室内へ吹き出す冷房・除湿運転が開始される。
【0025】
このような圧縮機内冷媒移動工程は、日照条件を満たした場合にのみ凝縮器ファン14aを規定時間運転するので、日照の影響で温度が高くなっている電動圧縮機11と凝縮器ファン14aの送風を受けて温度低下する凝縮器14との温度差が短時間で大きくなる。従って、凝縮器ファン14aの運転時間を短時間とし、少ない電力消費量で電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒を気化させて凝縮器14側へ移動させることができる。このため、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となり、しかも、空調装置の通常運転開始前に要する圧縮機内冷媒移動工程の時間も短いので、ドライバーに違和感を与えることもない。
【0026】
ところで、上述した圧縮機内冷媒移動工程では日照条件を判定しているが、図5に示すフローチャートのように、車室内温度に基づいて判定してもよい。
この第1変形例では、最初のステップS11で圧縮機内冷媒移動工程の制御がスタートすると、次のステップS12では車室内温度の判定が行われる。この判定では、車室内温度の検出値Tiが外気温度Taより高い(Ti>Ta)場合に「YES」と判断され、次のステップS13に進む。すなわち、晴天等により日射がある場合には、車室内温度Tiが外気温度Taより高くなるので、圧縮機内冷媒移動工程の実施が可能と判断して次のステップS13に進む。なお、車室内温度Tiが外気温度Ta以下と低い場合には「NO」と判断し、後述するステップS14に進んで空調装置の通常運転が実施される。
【0027】
ステップS13では、凝縮器14のファンモータに規定時間通電(ON)して、凝縮器ファン14aを所定時間だけ運転する。このような凝縮器ファン14aの運転により、同一温度環境にある停止中の電動圧縮機11及び凝縮器14は、凝縮器14側が温度低下して温度差を生じるので、この温度差により電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。
こうして凝縮器ファン14aを規定時間だけ運転した後には、次のステップS14に進んで空調装置の通常運転が開始される。すなわち、電動圧縮機11を駆動して冷媒を循環させ、蒸発器16で熱交換した冷風を車室内へ吹き出す冷房・除湿運転が開始される。
【0028】
このような圧縮機内冷媒移動工程は、日照があって車内温度Tiが外気温度Taより高くなる条件を満たした場合にのみ凝縮器ファン14aを規定時間運転するので、日照の影響で温度が高くなっている電動圧縮機11と凝縮器ファン14aの送風を受けて温度低下する凝縮器14との温度差が短時間で大きくなる。従って、凝縮器ファン14aの運転時間を短時間とし、少ない電力消費量で電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒を気化させて凝縮器14側へ移動させることができる。このため、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となり、しかも、空調装置の通常運転開始前に要する圧縮機内冷媒移動工程の時間も短いので、ドライバーに違和感を与えることもない。
【0029】
さらに、上述した圧縮機内冷媒移動工程では日照条件や車室内温度を判定しているが、図6に示すフローチャートのように、凝縮基部温度に基づいて判定してもよい。
この第2変形例では、最初のステップS21で圧縮機内冷媒移動工程の制御がスタートすると、次のステップS22では凝縮器部温度が判定される。この凝縮器部温度は、凝縮器14の適所で検出した温度である。
ステップS22の判定において、凝縮器部温度Tcの検出値が外気温度Taよりも高い(Tc>Ta)場合に「YES」と判断され、次のステップS23に進む。すなわち、晴天等により日射がある場合には、空調ユニット20のケーシング21内に設置されている凝縮器Tcの凝縮器温部度Tcが外気温度Taより高くなるので、圧縮機内冷媒移動工程の実施が可能と判断して次のステップS23に進む。なお、凝縮器部温度Tcが外気温度Ta以下と低い場合には「NO」と判断し、後述するステップS25に進んで空調装置の通常運転が実施される。
【0030】
ステップS23では、凝縮器14のファンモータに規定時間通電(ON)して、凝縮器ファン14aを所定時間だけ運転する。このような凝縮器ファン14aの運転により、同一温度環境にある停止中の電動圧縮機11及び凝縮器14は、凝縮器14側が温度低下して温度差を生じるので、この温度差により電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。
【0031】
こうして凝縮器ファン14aを規定時間だけ運転した後には、次のステップS24に進んで凝縮器部温度Tcと外気温度Taとの温度差(Tc−Ta)が所定の温度差閾値T1と比較される。この結果、温度差が温度差閾値T1以上(Tc−Ta≧T1)となる「NO」の場合には、液冷媒の寝込みが解消されていないと判断してステップS23に戻り、凝縮器ファン14aの運転が継続される。
一方、温度差が温度差閾値T1より小さく(Tc−Ta<T1)なる「YES」の場合には、液冷媒の寝込みが解消されたと判断できるので、次のステップS25に進んで空調装置の通常運転が開始される。すなわち、電動圧縮機11を駆動して冷媒を循環させ、蒸発器16で熱交換した冷風を車室内へ吹き出す冷房・除湿運転が開始される。
【0032】
このような圧縮機内冷媒移動工程は、日照があって凝縮器部温度Tcが外気温度Taより高くなる条件を満たした場合にのみ凝縮器ファン14aを規定時間運転するので、凝縮器14の近傍にあって同様に日照の影響を受ける電動圧縮機11も同様に温度が高くなっている。これにより、温度が高くなっている電動圧縮機11は、凝縮器ファン14aの送風を受けて温度低下する凝縮器14との温度差が短時間で大きくなる。従って、凝縮器ファン14aの運転時間を短時間とし、少ない電力消費量で電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒を気化させて凝縮器14側へ移動させることができる。このため、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態になっており、しかも、空調装置の通常運転開始前に要する圧縮機内冷媒移動工程の時間も短いので、ドライバーに違和感を与えることもない。
【0033】
このように、本実施形態及びその変形例によれば、電動圧縮機11を凝縮器14近傍の同一温度環境に設置し、電動圧縮機11を駆動する前に凝縮器ファン14aを所定時間運転する圧縮機内冷媒移動工程を設けたので、圧縮内冷媒移動工程において凝縮器ファン14aが運転されると、温度低下する凝縮器14との温度差により電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。従って、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となるので、電動圧縮機11における液冷媒の寝込みや液寝込み起動を防止できる。
【0034】
ところで、上述した本実施形態においては、電動圧縮機11を車両天井に設置するとともに、上述した第1の実施形態と同様に、電動圧縮機11に日射透過部材よりなる上方カバー22を設けることが望ましい。このような構成により、略直射の状態で日射を受ける電動圧縮機11の温度が凝縮器14の温度よりも高くなるので、凝縮器ファン14aを運転する圧縮機内冷媒移動工程の実施時間(凝縮器のファンを運転する時間)をより一層短縮することができる。
【0035】
<第3の実施形態>
続いて、本発明に係る車両用空調装置について、第3の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態は、電動圧縮機11から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路10を循環して気液の状態変化を繰り返し、冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、冷媒回路10の凝縮器14が車両天井に設置されている車両用空調装置に関するものである。
【0036】
そして、本実施形態の電動圧縮機11は、たとえば図7及び図8に示すように、熱源となるエンジン3の近傍に設置して隔壁30で区画した空間31に設置されている。すなわち、車体2の後部に設置された車両走行用のエンジン3を設置するエンジンルーム4内を隔壁30で仕切ることにより、電動圧縮機11を設置する専用の空間31が形成されている。この場合の空間31は、たとえばエンジンルーム4内の前方上部に設けられている。また、空間31を形成する隔壁30には、適所にドア部材32が設けられている。このドア部材32は、必要に応じて適宜開閉させる開閉駆動機構(不図示)を備えている。
なお、図示の符号5はタイヤ、11aは電動圧縮機の駆動用電動機であり、図7に示す構成例では、一つの駆動用電動機11aが一対の電動圧縮機11を駆動するように構成されている。
【0037】
このように構成された車両用空調装置には、電動圧縮機11を駆動する前に隔壁30のドア部材32を所定時間だけ開にして、エンジンルーム4内から空間31に廃熱を導入する圧縮機内冷媒移動工程が設けられている。この圧縮機内冷媒移動工程は、上述した第2の実施形態と同様に、電動圧縮機11を駆動する空調装置の通常運転前に実施される。
【0038】
このように構成された車両用空調装置の圧縮機内冷媒移動工程は、電動圧縮機11が熱源近傍となるエンジンルーム4を隔壁30で区画した空間31内に設置され、電動圧縮機11を駆動する前に隔壁30のドア部材32を所定時間開にして空間31内へ廃熱を導入するので、圧縮機内冷媒移動工程で隔壁30のドア部材32が開かれると、空間31内に設置された電動圧縮機11の温度が廃熱の影響を受けて上昇する。このため、電動圧縮機11と凝縮器14との間には、温度差が生じることとなる。
この結果、電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒は、高温側の電動圧縮機11内で気化して凝縮器14側へ移動するので、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となる。
【0039】
図9は、ドア部材32を開閉する圧縮機内冷媒移動工程について、その制御励を示すフローチャートである。
最初のステップS31で圧縮機内冷媒移動工程の制御がスタートすると、次のステップS32では車室内温度の判定が行われる。この判定では、車室内温度の検出値Tiが外気温度Taより高い(Ti>Ta)場合に「YES」と判断され、次のステップS33に進む。すなわち、晴天等により日射がある場合には、車室内温度Tiが外気温度Taより高くなるので、圧縮機内冷媒移動工程の実施が可能と判断して次のステップS33に進む。なお、車室内温度Tiが外気温度Ta以下と低い場合には「NO」と判断し、後述するステップS35に進んで空調装置の通常運転が実施される。
【0040】
ステップS33では、熱源隔壁のドア部材を開とする。具体的には、エンジンルーム4内に形成されて電動圧縮機11を設置した空間31のドア部材32を開き、エンジンルーム4内からエンジン3等の廃熱を導入する。この結果、空間31内の温度が上昇するとともに、電動圧縮機11の温度も上昇するので、停止中の電動圧縮機11は凝縮器14より高温となって温度差が生じ、この温度差により電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒が気化して凝縮器14側へ移動する。
【0041】
このようなドア部材32を開とする状態は、次のステップS34の判断において、圧縮機部温度Tcoと凝縮器部温度Tcとの温度差(Tco−Tc)が所定の温度差閾値T2より大きく(Tco−Tc>T2)なるまで継続される。
すなわち、上述した温度差(Tco−Tc)が温度差閾値T2以下(Tco−Tc≦T2)となる「NO」の場合には、再度ステップS33に戻ってドア部材33を開とする除隊が継続される。そして、上述した温度差(Tco−Tc)が温度差閾値T2より大きく(Tco−Tc>T2)なった「YES」の場合には、次のステップS35に進んで空調装置の通常運転が開始される。すなわち、電動圧縮機11を駆動して冷媒を循環させ、蒸発器16で熱交換した冷風を車室内へ吹き出す冷房・除湿運転が開始される。
【0042】
このような圧縮機内冷媒移動工程を設けても、エンジンルーム4内の廃熱を有効利用できるので、ドア部材32を開閉するだけの少ない電力消費量で電動圧縮機11内に寝込んでいた液冷媒を気化させ、凝縮器14側へ移動させることができる。このため、電動圧縮機11を駆動する時点においては、電動圧縮機11内に寝込んだ液冷媒が排除された状態となり、しかも、空調装置の通常運転開始前に要する圧縮機内冷媒移動工程の時間も短いので、ドライバーに違和感を与えることなく電動圧縮機11における液冷媒の寝込みや液寝込み起動を防止できる。
【0043】
このように、上述した本発明の車両用空調装置によれば、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑え、しかもドライバーに違和感を与えることなく、電動圧縮機11における液冷媒の寝込み及び液寝込み起動を防止できる。特に、ハイブリッドバスのように電動圧縮機11を用いた車両用空調装置は、エンジン駆動の圧縮機と比較して設置位置の自由度が高いため、電動圧縮機11を車両天井や熱源近傍の隔壁で区画した空間等に設置することで、部品追加や消費エネルギーを最小限に抑えた液冷媒の寝込み防止が可能になる。
【0044】
また、上述した本発明は、夏場(外気温が30℃程度)や春・秋の中間期(外気温度が20℃程度)に日射があり、車室内温度が30℃〜40℃程度となるような冷房運転を必要とする状況で、従来方式では液冷媒の寝込みを回避できないような状況において特に有効となる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 バス
2 車体
3 エンジン
4 エンジンルーム
10 冷媒回路
11 電動圧縮機
14 凝縮器
14a 凝縮器ファン
20 空調ユニット
21 ケーシング
22 上方カバー
30 隔壁
31 空間
32 ドア部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、
前記電動圧縮機を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機の上方カバーを日射透過部材により構成したことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、
前記電動圧縮機を凝縮器近傍の同一温度環境に設置し、前記電動圧縮機を駆動する前に前記凝縮器のファンを所定時間運転する圧縮機内冷媒移動工程を設けたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
前記電動圧縮機を車両天井に設置するとともに、該電動圧縮機の上方カバーを日射透過部材により構成したことを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
電動圧縮機から送出された冷媒が閉回路の冷媒回路を循環して気液の状態変化を繰り返し、前記冷媒と車室内空気との熱交換により車室内の空調を行うとともに、前記冷媒回路の凝縮器が車両天井に設置されている車両用空調装置において、
前記電動圧縮機を熱源近傍に設置して隔壁で区画し、前記電動圧縮機を駆動する前に前記隔壁のドア部材を所定時間開にして廃熱を導入する圧縮機内冷媒移動工程を設けたことを特徴とする車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−221929(P2010−221929A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73536(P2009−73536)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】