説明

車両用空調装置

【課題】ケーシング内を仕切る仕切部にダンパの貫通孔を閉塞する蓋部を一体成形する場合に、型費を低減して製品のコストを低減する。
【解決手段】車両用空調装置1は、仕切壁33と、ダンパ16とを備えている。ダンパ16は、仕切壁33に形成された貫通孔34に挿通された状態で組み付けられている。仕切壁30には、貫通孔34を閉塞するための蓋部36が開閉可能に一体成形されている。蓋部36には、仕切壁3の貫通孔34周縁部に係合する係合片40がヒンジ部を介して形成されている。ヒンジ部は、係合片40の位置を、仕切壁33の成形時にアンダカット部が形成されるのを回避した成形完了位置と、仕切壁33の貫通孔34周縁部に係合する係合位置とに切り替えるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気流路を開閉するダンパを備えた車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用空調装置として、空気流路を有するケーシングと、ケーシング内に配設されるダンパとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ケーシング内には、運転席側へ供給する空気が流れる空気流路と、助手席側へ供給する空気が流れる空気流路とが板材からなる仕切部によって区画形成されている。また、ケーシング内には、上記2つの空気流路の空気の流量を制御するためのダンパが配設されている。
【0004】
上記仕切部には、ダンパを組み付ける際に、該ダンパを挿通させるための貫通孔が形成されている。これにより、一体物のダンパを用いて2つの空気流路の空気流量を制御できるので、部品点数の削減が可能となる。さらに、仕切部には、ダンパを貫通孔に挿通した後に該貫通孔を閉塞するための蓋部がヒンジ部を介して一体成形されており、これにより、2つの空気流路の空気が貫通孔を介して行き来するのが抑制されている。
【0005】
仕切部の貫通孔周縁部には、貫通孔内へ向けて突出する突条部が形成され、一方、蓋部の縁部には、突条部が嵌る凹条部が形成されている。突条部を凹条部に嵌めることによって蓋部が閉塞状態で保持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−341707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のように、仕切部に蓋部を一体成形するようにすると、仕切部の成形型が複雑化してしまうことが考えられる。
【0008】
そのような成形型では型抜き方向の自由度が殆どなく、この場合に、特許文献1の突条部と凹条部とを成形しようとすると、アンダーカット部ができやすく、ひいては型構造の更なる複雑化を招いて型費が高騰し、製品のコストアップを招く。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ケーシング内を複数の空気流路に仕切るための仕切部に、ダンパの貫通孔を閉塞する蓋部を一体成形する場合に、型費を低減し、よって、製品のコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するために、仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合部を蓋部に対しヒンジ部を介して一体成形し、係合部の位置をアンダカット部の形成を回避した成形完了位置と、係合位置とに切り替え可能にした。
【0011】
第1の発明は、空気流路を有するケーシングと、上記ケーシング内に設けられ、該ケーシング内を第1空気流路と第2空気流路とに仕切る仕切部と、上記第1及び第2空気流路に配設され、該空気流路を流通する空気の流量をそれぞれ制御するための第1ダンパ部及び第2ダンパ部を有するダンパとを備え、上記ダンパが上記仕切部に形成された貫通孔に挿通された状態で上記ケーシングに組み付けられる車両用空調装置において、上記仕切部には、上記貫通孔を閉塞するための蓋部が開閉可能に一体成形され、上記蓋部には、上記仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合部がヒンジ部を介して一体成形され、上記ヒンジ部は、上記係合部の位置を、上記仕切部の成形時にアンダカット部が形成されるのを回避した成形完了位置と、上記仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合位置とに切り替えるように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、蓋部の係合部を、アンダカット部の形成を回避しながら蓋部に一体成形することが可能になるので、一体成形による部品点数の低減を図りながら、成形型の複雑化を抑制して型費が低減される。そして、係合部をヒンジ部によって係合位置に切り替えることで、係合部を仕切部に係合させて蓋部を閉塞状態で保持することが可能になる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、仕切部の貫通孔周縁部には、蓋部の係合部が挿入される孔部と、該孔部の周縁部から孔部内へ向けて突出して該孔部に挿入された係合部に対し、該孔部からの抜け方向から当接して該係合部の抜けを阻止する阻止部とが形成され、上記阻止部は、上記係合部の孔部への挿入時に挿入を許容するように弾性変形するように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、蓋部の係合部を仕切部の孔部に挿入する際に、阻止部が弾性変形することで、係合部の挿入が許容される。係合部が孔部に挿入された後は、阻止部によって係合部の孔部からの抜けが阻止されて係合状態、すなわち、蓋部の閉塞状態が維持される。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において、阻止部は、仕切部の肉厚よりも薄い薄肉部で構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、阻止部が簡単な構造で得られるとともに、係合部を孔部に挿入するする際の挿入力が低減される。
【0017】
第4の発明は、第3の発明において、薄肉部は、孔部の周方向に延びるように形成され、周方向中間部において断続されていることを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、薄肉部が広い範囲に形成されることになるので、係合部の孔部からの抜けを確実に阻止することが可能になる。そして、係合部を孔部に挿入する際には、薄肉部が断続していることにより、薄肉部が弾性変形し易く、挿入力が低減される。
【0019】
第5の発明は、第2から4のいずれか1つの発明において、蓋部の係合部には、孔部への挿入方向から該孔部の周縁部に当接する当接部が形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
この構成によれば、係合部が孔部に挿入された状態で、当接部がその挿入方向から孔部の周縁部に当接するので、係合部が孔部から挿入方向へ抜けてしまうのを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合部を、蓋部に対しヒンジ部を介して一体成形し、係合部の位置をヒンジ部により、成形時にアンダカット部が形成されるのを回避した成形完了位置と、係合位置とに切り替え可能にしたので、仕切部にダンパの貫通孔を閉塞する蓋部を一体成形する場合に、型費を低減して製品の低コスト化を図ることができる。
【0022】
第2の発明によれば、蓋部の係合部を仕切部の貫通孔周縁部に係合させる際に、係合部を孔部に挿入する操作を行うだけで、阻止部が弾性変形して挿入でき、挿入後には阻止部によって係合部の孔部からの抜けを阻止して係合状態を維持できるので、係合作業を容易にしながら、蓋部の閉塞状態を確実に維持できる。
【0023】
第3の発明によれば、係合部の抜けを阻止するための阻止部を薄肉部で構成したので、阻止部を簡単な構造で得ることができ、阻止部を設けることによるコストアップを抑制できる。また、係合部を孔部に挿入する際の挿入力を低減して作業性を良好にすることができる。
【0024】
第4の発明によれば、薄肉部を、孔部の周方向に延びるように形成し、周方向中間部において断続させたので、係合部の孔部への挿入作業性を良好にしながら、孔部からの抜けを確実に阻止できる。
【0025】
第5の発明によれば、係合部には、孔部への挿入方向から該孔部の周縁部に当接する当接部を形成したので、係合部が孔部から挿入方向へ抜けてしまうのを抑制でき、蓋部の閉塞状態を確実に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態にかかる空調装置の内部構造を説明する図である。
【図2】ベントダンパを省略した空調装置のベントダクト近傍を上方から見た拡大斜視図である。
【図3】ベントダンパの組付作業を説明する図2相当図である。
【図4】ベントダンパの斜視図である。
【図5】仕切壁の貫通孔近傍を拡大して示す側面図である。
【図6】蓋部が閉塞状態にある場合の係合片近傍を拡大して示す側面図である。
【図7】係合片が係合位置にある場合の蓋部の部分拡大図である。
【図8】係合片が成形完了位置にある場合の図6相当図である。
【図9】図6のIX−IX線断面図である。
【図10】図6のX−X線断面図である。
【図11】係合片を孔部へ挿入する途中の図9相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用空調装置1を示すものである。この空調装置1は、自動車の車室内に配設されたインストルメントパネル(図示せず)に収容されている。
【0029】
空調装置1は、送風機を内蔵した送風ユニット(図示せず)と、送風ユニットから送風された空調用空気を温度調節して車室の各部に供給する空調ユニット10とを備えている。送風ユニットと空調ユニット10とは車幅方向に間隔をあけて配設されている。空調ユニット10は、車幅方向略中央に位置している。
【0030】
空調ユニット10は、樹脂製のケーシング11を備えている。このケーシング11は、車幅方向に分割されており、半割状の部材を2つ組み合わせて構成されている。
【0031】
ケーシング11内には、空気流路Rが形成されるとともに、冷却用熱交換器としてのエバポレータ12と、加熱用熱交換器としてのヒータコア13と、温度調節ダンパ14と、デフダンパ15と、ベントダンパ16と、フットダンパ17とが配設されている。
【0032】
ケーシング11の側壁部には、空気導入口20が形成されている。空気導入口20には、送風ユニットから延びるダクト(図示せず)が接続されるようになっている。
【0033】
空気流路Rは、エバポレータ配設部R1と、ヒータコア配設部R2と、バイパス部R3と、エアミックス部R4と、デフロスタ導出部R5と、ベント導出部R6と、フット導出部R7とを有している。
【0034】
エバポレータ配設部R1は、ケーシング11内の前側(車両前側)に形成されている。このエバポレータ配設部R1にエバポレータ12が配設されており、エバポレータ配設部R1を流れる空気がエバポレータ12によって冷却されるようになっている。
【0035】
ヒータコア配設部R2は、ケーシング11内の後側(車両後側)に形成されている。このヒータコア配設部R2にヒータコア13が配設されており、ヒータコア配設部R2を流れる空気がヒータコア13によって加熱されるようになっている。
【0036】
バイパス部R3はヒータコア配設部R2の上方に形成されており、エバレータ配設部R1を流れた空気の全量又は一部がヒータコア配設部R2を迂回して流れるようになっている。
【0037】
エアミックス部R4は、ヒータコア配設部R2とバイパス部R3との合流部に形成されている。ヒータコア配設部R2とバイパス部R3とを流れた空気がエアミックス部R4で混合される。
【0038】
すなわち、ケーシング11内のエアミックス部R4近傍には、温度調節ダンパ14が配設されている。温度調節ダンパ14は、ケーシング11の側壁に回動可能に支持される支軸14aと、支軸14aから径方向に延びる閉塞板14bとを備えた板ダンパである。閉塞板14bが実線の位置となるまで温度調節ダンパ14が回動すると、エバポレータ配設部R1を流れた空気の略全量がヒータコア配設部R2に流入する。一方、閉塞板14bが仮想線の位置となるまで温度調節ダンパ14が回動すると、エバポレータ配設部R1を流れた空気の略全量がバイパス部R3を流れてエアミックス部R4に流入する。温度調節ダンパ14の回動角度によってヒータコア配設部R2に流入する空気量が変化し、これによって、エアミックス部R4で生成される調和空気の温度が変更される。
【0039】
デフロスタ導出部R5及びベント導出部R6は、エアミックス部R4の上方に形成されている。ケーシング11の上部には、上方へ延びるデフロスタダクト30及びベントダクト31が設けられている。デフロスタダクト30の下流端(上端)は、インストルメントパネルのデフロスタ吹出口(図示せず)に接続されている。
【0040】
ケーシング11内のデフロスタ導出部R5近傍には、デフロスタダンパ15が配設されている。デフロスタダンパ15は、ケーシング11の側壁に回動可能に支持される支軸15aと、支軸15aから径方向両側に延びる2枚の閉塞板15b,15bとを備えたバタフライダンパである。このデフロスタダンパ15の回動によってデフロスタ部R5が閉塞された状態から全開とされた状態に切り替えられる。
【0041】
ベントダクト31内には、図2や図3に示すように、ベント導出部R6を車幅方向に仕切るための仕切壁(仕切部)33が2枚設けられている(各図には1枚のみ示す)。2枚の仕切壁33は、車幅方向に互いに間隔をあけて位置付けられており、車両前後方向に延びている。これら仕切壁33によって、ベント導出部R6は、車両右側の運転席側部R6Drと、車両左側の助手席側部(図示せず)と、車幅方向中央部の中央部R6Sとの3つに区画されている。運転席側部R6Drが本発明の第1空気流路であり、中央部R6Sが本発明の第2空気流路である。尚、仕切壁33は、ケーシング11に一体成形されている。
【0042】
ベント導出部R6の運転席側部R6Drの下流端は、インストルメントパネルの運転席側に形成されているサイドベント吹出口(図示せず)に接続されている。また、ベント導出部R6の助手席側部は、インストルメントパネルの助手席側に形成されているサイドベント吹出口(図示せず)に接続されている。さらに、ベント導出部R6の中央部R6Sは、インストルメントパネルの車幅方向中央部に形成されているセンタベント吹出口(図示せず)に接続されている。
【0043】
図1に示すように、ケーシング11内のベント導出部R6近傍には、ベントダンパ16が配設されている。ベントダンパ16は、いわゆるバタフライタイプのダンパであり、図4に示すように、ケーシング11の側壁に回動可能に支持される支軸16aと、支軸16aの運転席側部分から径方向両側に延びる2枚の運転席側閉塞板(第1ダンパ部)16b,16bと、支軸16aの中央部から径方向両側に延びる2枚の中央閉塞板(第2ダンパ部)16c,16cと、支軸16aの助手席側部分から径方向両側に延びる2枚の助手席側閉塞板(図示せず)とを備えている。また、ベントダンパ16は一体物である。
【0044】
運転席側閉塞板16b,16bは、運転席側部R6Dr内に配置されて運転席側部R6Drを流れる空気の流量を制御する。また、中央閉塞板16c,16cは、中央部R6S内に配置されて中央部R6Sを流れる空気の流量を制御する。さらに、助手席側閉塞板は、助手席側部内に配置されて助手席側部を流れる空気の流量を制御する。
【0045】
ベントダンパ16の回動により、基本的には、運転席側部R6Dr、中央部R6S、助手席側部の空気流量が同時に制御されるが、運転席側部R6Dr及び助手席側部と、中央部R6Sとでは、開度を若干変えている。すなわち、運転席側部R6Dr及び助手席側部は閉状態であっても、全閉にすることなく、僅かに空気を漏らすようにしている。これは空調条件によって設定されるものである。このように、運転席側部R6Dr及び助手席側部と、中央部R6Sとで開度を変えていることに起因して2枚の仕切壁33が必要になっている。
【0046】
図3に示すように、仕切壁33には、ベントダンパ16をケーシング11に組み付ける際に挿通させる貫通孔34が形成されている。この貫通孔34は、閉塞板16b,16cを支軸16aの延びる方向から見たときの形状よりも大きめに設定されており、略矩形状とされている。また、仕切壁33には、支軸16aとの干渉を回避するための円弧状の切欠部35が貫通孔34と連なるように形成されている。
【0047】
仕切壁33には、貫通孔34を閉塞するための蓋部36が設けられている。蓋部36は、貫通孔34の長手方向に延びる一縁部に対し、開閉ヒンジ部37を介して一体成形されている。開閉ヒンジ部37は、仕切壁33の他の部分よりも薄肉に形成された、いわゆる薄肉ヒンジで構成されている。蓋部36が開閉ヒンジ37周りに回動することで、貫通孔34が開放された状態(図3に示す)と、閉塞された状態(図2に示す)とに切り替えられる。蓋部36の厚みは、仕切壁33の他の部分と略同じに設定されている。
【0048】
図5にも示すように、蓋部36には、仕切部33の貫通孔34周縁部に係合する係合片40が設けられている。係合片40は、図6〜図8に示すように、切替ヒンジ部41を介して、蓋部36の開閉ヒンジ部37と反対側の縁部に一体成形されている。
【0049】
係合片40の基端側は、板状部40aで構成され、先端側は、円柱部40bで構成されている。板状部40aの基端部の幅方向一方側(図6〜図8における右側)の縁部に、上記切替ヒンジ部41が連なっている。切替ヒンジ部41は、開閉ヒンジ部37と同様な薄肉ヒンジで構成されている。切替ヒンジ部41の回動軸は、蓋部36の厚み方向に延びている。また、円柱部40bの軸線は、蓋部36の厚み方向に延びている。
【0050】
係合片40は、円柱部40bが蓋部36の縁部に接離する方向(図7に矢印Yで示す方向)に回動して、図8に示す倒れた状態(成形完了位置)と、図6及び図7に示す起きあがった状態(係合位置)とに切り替えられる。
【0051】
蓋部36の縁部には、成形完了位置にある係合片40の円柱部40bの外形状に対応した凹部43が形成されている。凹部34の内面と、成形完了位置にある係合片40の円柱部40bの外周面との間には、隙間が形成されるようになっている。
【0052】
また、係合片40には、貫通孔34の周縁部に対し、蓋部36の閉方向から当接するストッパー45が設けられている。このストッパー45は、板状部40aから突出する薄肉な片状をなしている。
【0053】
図8に示すように、仕切壁33の貫通孔34の周縁部には、係合片40が挿入される孔部50が厚み方向に貫通形成されている。孔部50は、係合片40の板状部40aが挿入されるスリット形状部50aと、円柱部40bが挿入される円形状部50bとを有しており、これらが連続した形状となっている。図6に示すように、上記ストッパー45はスリット形状部50aの周縁部に当接するようになっている。
【0054】
円形状部50bの内径は、係合片40の円柱部40bの外径よりも大きく設定されている。係合片40が孔部50に挿入された状態で、円柱部40bの外周面と、円形状部50bの内周面との間には、隙間が形成される。
【0055】
仕切壁33の孔部50における円形状部50b周りには、図9にも示すように、仕切壁33の他の部位よりも薄肉な薄肉板部56が形成されている。薄肉板部56は、円形状部50bの周縁部において、係合片40が挿入される側の縁部から円形状部50bの中心へ向けて延出しており、仕切壁33の厚み方向に撓むように弾性変形するようになっている。また、図6に示すように、仕切壁33を側面から見たとき、薄肉板部56の内縁は、挿入された円柱部40bの外縁よりも内方に位置しており、図9に示すように、円柱部40bの端面と当接するようになっている。すなわち、薄肉板部56は、孔部50に挿入された係合片40の円柱部40bに対し、孔部50の抜け方向から当接して抜けを阻止するための阻止部を構成するものである。
【0056】
図8に示すように、薄肉板部56は、円形状部50bの周方向に延びるように形成されている。薄肉板部56の周方向中間部には、径方向に延びる複数のスリット56aが周方向に間隔をあけて形成されている。スリット56aの形成により、薄肉板部56は、周方向中間部において断続されることになる。
【0057】
また、仕切壁33の貫通孔34の周縁部には、成形完了位置にある係合片40の円柱部40bの外形状に対応した凹部55が形成されている。凹部55の内面と、成形完了位置にある係合片40の円柱部40bの外周面との間には、隙間が形成されるようになっている。
【0058】
また、図1に示すように、ケーシング11の車両後部には、フットダクト60が設けられている。このフットダクト60内にフット導出部R7が形成され、フットダンパ17が配設されている。フットダンパ17は、支軸17aと2枚の閉塞板17b,17bとを備えたバタフライダンパである。
【0059】
次に、上記のように構成された空調装置1の製造について説明する。
【0060】
まず、ケーシング11を成形型を用いて射出成形する。このとき、図8に示すように、蓋部36は貫通孔34を閉塞した状態で、かつ、蓋部36の係合片40は、倒れた状態で成形完了位置となっている。この成形完了位置では、係合片40が薄肉板部56に当接するような位置関係となっておらず、薄肉板部56から離れているので、成形型を仕切壁33の厚み方向に移動させることで、ケーシング11を成形型から脱型できる。つまり、係合片40を成形するために専用のスライド型を設定せずに済むので型費が低減できる。
【0061】
その後、図3に示すように、蓋部36を開閉ヒンジ部37周りに回動させて貫通孔34を開放する。そして、ベントダンパ16を同図に示す矢印Xの方向に移動させて貫通孔34に挿通する。
【0062】
次いで、図7に示すように、蓋部36の係合片40を切替ヒンジ部41周りに回動させて起きあがった状態として係合位置に切り替える。
【0063】
しかる後、蓋部36を、貫通孔34を閉塞する方向に開閉ヒンジ部37周りに回動させる。すると、蓋部36の係合片40が仕切壁33の孔部50に挿入されることになるが、これに先立って、係合片40の円柱部40bが孔部50周りの薄肉板部56に接触する。この状態で係合片40を孔部50に押し込んでいくと、図11に示すように、薄肉板部56が係合片40の挿入方向へ撓み変形して係合片40の挿入が許容される。このとき、薄肉板部56にスリット56aが形成されていて断続しているので、薄肉板部56を撓ませるのに要する力を低減でき、挿入作業性が良好である。
【0064】
図9に示すように、係合片40が完全に挿入されると、薄肉板部56の形状が復元して円柱部40bの端面に当接する。これにより、係合片40の孔部50からの抜けが阻止される。
【0065】
また、図10に示すように、ストッパー45がスリット形状部50aの周縁部に対し、孔部50への挿入方向(矢印Wで示す方向)から当接する。これにより、係合片40は孔部50への挿入方向へ抜けてしまうのが抑制される。つまり、係合片40は、ストッパー45と薄肉板部56とによって孔部50内で保持される。
【0066】
このようにして蓋部36の閉塞状態が維持されて、貫通孔34を介した空気の行き来が抑制される。
【0067】
以上説明したように、この実施形態にかかる空調装置1によれば、仕切壁33の貫通孔34を閉塞する蓋部36に対し、係合片40を切替ヒンジ部41を介して一体成形し、係合片40の位置を切替ヒンジ部41により、成形時にアンダカット部が形成されるのを回避した成形完了位置と、係合位置とに切り替え可能にしている。これにより、仕切壁33にベントダンパ16の貫通孔34を閉塞する蓋部36を一体成形する場合に、型費を低減して製品の低コスト化を図ることができる。
【0068】
また、蓋部36の係合片40を仕切壁33の貫通孔34周縁部に係合させる際には、係合片40を孔部50に挿入する操作を行うだけで、薄肉板部56が弾性変形して挿入でき、挿入後には薄肉板部56によって係合片40の孔部50からの抜けを阻止して係合状態を維持できるので、係合作業を容易にしながら、蓋部36の閉塞状態を確実に維持できる。
【0069】
また、上記薄肉板部56が簡単な構造であり、薄肉板部56を設けることによるコストアップを抑制できる。また、係合片40を孔部50に挿入する際の挿入力を低減して作業性を良好にすることができる。
【0070】
また、薄肉板部56を、孔部50の周方向に延びるように形成し、周方向中間部において断続させたので、係合片40の孔部50への挿入作業性を良好にしながら、孔部50からの抜けを確実に阻止できる。
【0071】
また、係合片40には、孔部50への挿入方向から孔部50の周縁部に当接するストッパー45を形成したので、係合片40が孔部50から挿入方向へ抜けてしまうのを抑制でき、蓋部36の閉塞状態を確実に維持できる。
【0072】
尚、上記実施形態では、ベントダンパ16を仕切壁33に形成された貫通孔34に挿通させるようにしているが、これに限らず、特許文献1のように、左右独立温度コントロールタイプの空調装置では、温度調節ダンパを仕切壁に形成された貫通孔に挿通させる場合に本発明を適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、例えば、ベントダンパ等を組み付ける場合に適用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 車両用空調装置
11 ケーシング
16 ベントダンパ
16b 運転席側閉塞板(第1ダンパ部)
16c 中央閉塞板(第2ダンパ部)
33 仕切壁(仕切部)
34 貫通孔
36 蓋部
40 係合部(係合片)
41 切替ヒンジ部
45 ストッパー(当接部)
50 孔部
56 薄肉板部(阻止部、薄肉部)
56a スリット
R6 空気流路
R6Dr 運転席側部(第1空気流路)
R6S 中央部(第2空気流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流路を有するケーシングと、
上記ケーシング内に設けられ、該ケーシング内を第1空気流路と第2空気流路とに仕切る仕切部と、
上記第1及び第2空気流路に配設され、該空気流路を流通する空気の流量をそれぞれ制御するための第1ダンパ部及び第2ダンパ部を有するダンパとを備え、
上記ダンパが上記仕切部に形成された貫通孔に挿通された状態で上記ケーシングに組み付けられる車両用空調装置において、
上記仕切部には、上記貫通孔を閉塞するための蓋部が開閉可能に一体成形され、
上記蓋部には、上記仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合部がヒンジ部を介して一体成形され、
上記ヒンジ部は、上記係合部の位置を、上記仕切部の成形時にアンダカット部が形成されるのを回避した成形完了位置と、上記仕切部の貫通孔周縁部に係合する係合位置とに切り替えるように構成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
仕切部の貫通孔周縁部には、蓋部の係合部が挿入される孔部と、該孔部の周縁部から孔部内へ向けて突出して該孔部に挿入された係合部に対し、該孔部からの抜け方向から当接して該係合部の抜けを阻止する阻止部とが形成され、
上記阻止部は、上記係合部の孔部への挿入時に挿入を許容するように弾性変形するように構成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用空調装置において、
阻止部は、仕切部の肉厚よりも薄い薄肉部で構成されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用空調装置において、
薄肉部は、孔部の周方向に延びるように形成され、周方向中間部において断続されていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
蓋部の係合部には、孔部への挿入方向から該孔部の周縁部に当接する当接部が形成されていることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−126343(P2011−126343A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284454(P2009−284454)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】