説明

車両用空調装置

【課題】ヒートポンプ式冷凍サイクルを用いて、車室内の複数の空間に個別に温度設定した温風を吹き出すことができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】空調ケース2内には、独立した通路として第1独立通路61と第2独立通路62とが形成される。各独立通路61,62には、エアミックスドア6a,6bが設けられ、独立通路61,62毎に冷風通路61b,62bと温風通路61a,62aとが形成される。空調ケース2内の空気の流れ方向に見て、暖房用熱交換器22において空気が通過する領域が、独立通路61,62毎に仕切られている。そして各領域における暖房用熱交換器22内の冷媒は、隣接する領域を仕切る境界部分に並行して流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の空間を独立して暖房可能な車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン廃熱を熱源として車室内を暖房する車両用空調装置がある。また従来、車室内の快適性向上のため運転席側と助手席側とで個別に温度設定できる車両用空調装置がある。このような車両用空調装置では、車室内を暖房するために必要な熱量をヒータコアで取り込み、それ以外の熱はラジエータで車外へ放熱している。また、運転席側と助手席側の個別温度対応は、各A/Mドアを必要開度に設定することで、冷却水が循環するヒータコアの通過風量を制御し、放熱量を調整することで各席の吹出温度を調整している。
【0003】
しかし、電気自動車に適用される車両用空調装置では、エンジンの冷却水を暖房用の熱源として充分に確保できないことから、冷房運転と暖房運転を行うヒートポンプ式冷凍サイクルが採用されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−1954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のヒートポンプ式冷凍サイクルでは、コンプレッサ回転数を制御することで冷媒流量を調整し、車室内への放熱量をコントロールしている。したがって特許文献1に記載の車両用空調装置では、ラジエータのように車室外へ熱を放熱する熱交換器を備えていない。前述のエンジン廃熱を利用する車両用空調装置では、運転席側と助手席側とで独立して温度調整をする(以下、「左右独コン」と記載)場合、各A/Mドアを必要開度に調整することで、放熱量を調整し、余った熱はラジエータから車室外に放熱される。一方、ヒートポンプ式冷凍サイクルの場合、各エアミックスドアの開度を単に調節しただけでは、左右独コンを実現することができない。例えば、運転席側と助手席側が同一温度設定された状態から、助手席側の設定温度を下げた場合、車室内を暖房するための熱量は低減される。この場合、助手席側のA/Mドアを通過風量が低減する方向に調整しただけでは、運転席側の放熱量が増加し、車室内を暖房するための熱量は変化しない。そこで、どのように車室内を暖房するための熱量を変化させ、左右独コンを成立させるかがヒートポンプ式冷凍サイクルでの課題となる。
【0006】
そこで、本発明は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、ヒートポンプ式冷凍サイクルを用いて、車室内の複数の空間に個別に温度設定した温風を吹き出すことができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明では、ヒートポンプ式冷凍サイクル(3)を用いて車室内を空調する車両用空調装置(100)であって、
一方側に空気取入口(11,12)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、複数の吹出口は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、空気取入口と吹出口との間に送風空気が通過する空気通路を有する空調ケースと、
空調ケースの空気通路に対して空気を送風する送風機(15)と、
ヒートポンプ式冷凍サイクルに含まれ、空調ケース内に配置され送風された空気を冷却する室内熱交換器(27)と、
ヒートポンプ式冷凍サイクルに含まれ、空調ケース内において室内熱交換器の下流側に配置され、室内熱交換器を通過した空気を加熱する暖房用熱交換器(22)と、を含み、
空気通路は、空気を特定席に対応する吹出口に導く独立通路(61)と、空気を他の座席に対応する吹出口に導く独立通路(62)とが互いに独立した通路となるように形成されており、
各独立通路には、暖房用熱交換器で加熱された温風が通過する温風通路(61a,62a)、および室内熱交換器を通過し暖房用熱交換器を通過しない冷風が流れる冷風通路(61b,62b)がそれぞれ形成されており、
各独立通路には、温風通路の温風と冷風通路の冷風との風量割合を調整するエアミックスドア(6a,6b)がそれぞれ設けられており、
空調ケース内の空気の流れ方向に見て、暖房用熱交換器において空気が通過する領域が、独立通路毎に仕切られており、
各領域における暖房用熱交換器内を流れる冷媒は、隣接する領域を仕切る境界部分に並行して流れることを特徴とする車両用空調装置である。
【0009】
請求項1に記載の発明に従えば、空調ケース内には、独立した独立通路が複数形成される。各独立通路には、エアミックスドアが設けられ、独立通路毎に冷風通路と温風通路とが形成される。通路が独立しているので、暖房用熱交換器を通過する空気量が独立通路毎の設定温度によって異なる場合がある。
【0010】
ここで、空調ケースは、空気の流れ方向に見て、暖房用熱交換器の上流側および下流側が独立通路毎に仕切られている。また、暖房用熱交換器内を流れる冷媒は、隣接する領域を仕切る境界部分に並行して流れる。たとえば、運転席側の設定温度を低減した場合を考えると、他の独立通路よりも空気量が少なく放熱性能が低下した運転席側のコア部分では、流れる冷媒が凝縮しにくくなるので圧力損失が増加する。この場合、暖房用熱交換器に流れる冷媒流量が一定の場合、圧力損失が同じになるように助手席側の冷媒流量が増加する。これによって独立通路毎に冷媒流量比が定まる。これに対して冷媒の流通方向が、隣接する領域の境界に直交している場合は、流量比が変わらないため、通過風量が低減された領域を流れるときに圧損が増加し、結果としてサイクル効率が低下する。
【0011】
したがって本発明では、冷媒流量比の制御ができるので、通過風量を低減し、熱交換量を低下した領域での冷媒圧損を低減でき、これによってヒートポンプ式冷凍サイクルを用いた車両用空調装置において、各吹出口に対応した空気温度を個別に設定しながら省電力で運転をすることが可能となる。
【0012】
また請求項2に記載の発明では、各独立通路を通過して各独立通路に対応する吹出口から吹き出される温度を、対応する吹出口毎に設定する温度設定手段(14)と、
各エアミックスドアの開度調整により通過風量を制御する制御手段(10)と、を含み、
制御手段は、ヒートポンプ式冷凍サイクルが暖房運転をしている場合に、温度設定手段によって最も高い温度が設定された吹出口に対応する独立通路におけるエアミックスドアの開度を、風量が最大となるように制御することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明に従えば、ヒートポンプ式冷凍サイクルが暖房運転をしている場合に、制御手段は、温度設定手段によって最も高い温度が設定された吹出口に対応する独立通路におけるエアミックスドアの開度を、風量が最大(Max Hot)となるように制御する。したがって最も加熱すべき空気を最大能力で適切に加熱し、設定温度の低い他の独立通路では、エアミックスドアの開度制御によって、温度制御することができる。したがって暖房用熱交換器の熱量を効率よく分配することができる。
【0014】
さらに請求項3に記載の発明では、各独立通路内であって、暖房用熱交換器の下流側の空気温度を独立通路毎に検出する温度検出手段(48)をさらに含み、
制御手段は、温度検出手段によって検出された空気温度を用いて、他の独立通路におけるエアミックスドアの開度を設定された温度となるように制御することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明に従えば、温度検出手段によって検出された空気温度を用いて、他の独立通路におけるエアミックスドアの開度が設定された温度となるように、制御手段によって制御される。これによって他の独立通路のエアミックス開度を検出した空気温度によって適切に設定することができる。
【0016】
さらに請求項4に記載の発明では、暖房用熱交換器内の冷媒の圧力を検出する圧力検出手段(42a)をさらに含み、
制御手段は、圧力検出手段によって検出された冷媒圧力を用いて、他の独立通路におけるエアミックスドアの開度を設定された温度となるように制御することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明に従えば、圧力検出手段によって検出された冷媒圧力を用いて、他の独立通路におけるエアミックスドアの開度が設定された温度となるように、制御手段によって制御される。これによって他の独立通路のエアミックス開度を検出した冷媒圧力によって適切に設定することができる。
【0018】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置100の概略構成を示す模式図である。
【図2】暖房用熱交換器22と各独立通路61,62との配置関係を示す正面図である。
【図3】暖房モードにおけるECU10の処理を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態の暖房用熱交換器22を示す正面図である。
【図5】第2実施形態におけるECU10の処理を示すフローチャートである。
【図6】設定温度差とエアミックス開度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図3を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態の車両用空調装置100の概略構成を示す模式図である。図1に示す車両用空調装置100は、自動車などの車両の車室内を空調する空調ユニット(エアコンユニット)1における各空調機器(アクチュエータ)を、空調制御装置(エアコン制御装置:以下ECUという)10によって制御するように構成された自動車用オートエアコンである。
【0022】
空調ユニット1は、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節、および吹出口モードの変更などを、互いに独立して行うことが可能なエアコンユニットである。運転席側空調空間は、運転席と運転席後方の後部座席を含む空間である。また助手席側空調空間は、助手席と助手席後方の後部座席を含む空間である。空調ユニット1は、具体的には図示しないが、完全センター置きといわれるタイプのものであり、車室内前方の計器盤下方部であって、車両左右方向の中央位置に搭載されている。
【0023】
空調ユニット1は、内部に自動車の車室内に空調風を導く送風空気が通過する空気通路を形成する空調ケース2と、空調ケース2内において車室内に向かう空気流を発生させる送風機15と、空調ケース2内を流れる空気を冷却するエバポレータ27、およびエバポレータ27を通過した空気を再加熱する暖房用熱交換器22を有する冷凍サイクル3とを備えている。
【0024】
空調ケース2は、自動車の車室内の前方側に配設されている。空調ケース2の空気の流れ方向の上流側には、空気取入口として、車室内空気(以下、「内気」という)を取り入れる内気吸込口11、および車室外空気(以下、「外気」という)を取り入れる外気吸込口12が形成されている。そして、内気吸込口11および外気吸込口12の空気通路側には、内外気切替ドア4が回転自在に支持されている。内外気切替ドア4は、サーボモータ13などのアクチュエータにより駆動されて、吸込口モードを、外気導入(FRS)モードまたは内気循環(REC)モードなどに切り替える。
【0025】
また、空調ケース2の空気の流れ方向の下流側には、図示しない複数の吹出口が形成されている。複数の吹出口は、運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口する。本実施形態では、特定席は車室内の運転席側空調空間にある座席であり、その他の座席は助手席側空調空間にある座席である。これらの各空間に向けて空調風がそれぞれ吹き出される。
【0026】
次に、冷凍サイクル3に関して説明する。冷凍サイクル3は、コンプレッサ21、暖房用熱交換器22、第1減圧部、室外熱交換器24、第2減圧部、エバポレータ27、アキュムレータ28およびこれらを環状に接続する冷媒配管とを含んで構成されている。コンプレッサ21は、内蔵する駆動モータ(図示せず)によって回転駆動される。コンプレッサ21は、エバポレータ27より吸入した冷媒を高温、高圧に圧縮して吐出する電動式の冷媒圧縮機である。コンプレッサ21は、通電(ON)されると稼働し、通電が停止(OFF)されると停止する。そして、コンプレッサ21は、ECU10が算出する目標回転速度となるようにインバータ20により回転速度が制御される。
【0027】
暖房用熱交換器22は、空調ケース2内においてエバポレータ27よりも空気の流れ方向の下流側に配置される。暖房用熱交換器22は、コンプレッサ21より流入する冷媒ガスとの熱交換によって通過する空気を加熱する暖房用熱交換器である。
【0028】
第1減圧部は、暖房用熱交換器22から冷媒が流入する暖房用可変絞り弁50を含んで構成されている。暖房用可変絞り弁50は、膨張弁装置であり、暖房用熱交換器22から流出する冷媒を弁開度に応じて減圧膨張可能な減圧装置で、ECU10によって弁開度が電気的に制御される暖房用電動式膨張弁(EVH)が使用されている。また、暖房用可変絞り弁50は、ECU10の制御によって弁開度を全開とする全開モードが設定可能となっている。弁解度が全開の場合には、通過する冷媒を減圧することなく、単なる配管として機能する。
【0029】
室外熱交換器24は、空調ケース2の外部、たとえば自動車が走行する際に生じる走行風を受け易い場所(具体的にはエンジンルームの前方部など)に設置される。室外熱交換器24は、内部を流れる冷媒と図示しない電動式ファンにより送風される室外空気(外気)とを熱交換する。室外熱交換器24は、暖房モード時には、外気より吸熱する吸熱器として運転される。また、室外熱交換器24は、冷房モード時には、外気へ放熱する放熱器として運転される。
【0030】
第2減圧部は、室外熱交換器24からの冷媒が流入する冷房用可変絞り弁26、および室外熱交換器24から流出する冷媒を冷房用可変絞り弁26およびエバポレータ27を迂回させてアキュムレータ28へ送るためのバイパス配管33を含んで構成されている。冷房用可変絞り弁26は、室外熱交換器24から流出する冷媒を弁開度に応じて減圧する減圧装置で、ECU10によって弁開度が電気的に制御される冷房用電動式膨張弁(EVC)が使用されている。また、バイパス配管33には、通電(ON)されると開弁し、通電が停止(OFF)されると閉弁する電磁式開閉弁(VH:以下、「暖房用電磁弁」という)34を設置している。
【0031】
エバポレータ27は、室内熱交換器であって、冷房用可変絞り弁26で減圧された冷媒を送風機15の遠心式ファン5によって送風される空気との熱交換によって蒸発気化させ、アキュムレータ28を介してコンプレッサ21に冷媒ガスを供給する空気−冷媒熱交換器(吸熱器)である。また、アキュムレータ28は、エバポレータ27より流入した冷媒を余剰冷媒を貯液する機能を持った気液分離器である。
【0032】
ここで、冷凍サイクル3の循環回路切替手段は、冷凍サイクル3の運転モード、つまり冷凍サイクル3中の冷媒の循環経路を、冷房モード用循環回路(冷房サイクル)、暖房モード用循環回路(暖房サイクル)、除湿モード(除湿暖房モード)用循環回路(除湿サイクル)のいずれかのサイクルに切り替えるものである。循環回路切替手段は、本実施形態では、全開モードを設定可能な暖房用可変絞り弁50、および暖房用電磁弁34が上記の循環回路切替手段に相当する。
【0033】
具体的には、暖房用可変絞り弁50が全開モードとなり、暖房用電磁弁34が閉弁することで、冷凍サイクル3の運転モードが冷房サイクル(冷房モード用循環回路)となる。また、暖房用可変絞り弁50が冷媒を減圧膨張するように小流量制御する減圧膨張モードとなり、暖房用電磁弁34が開弁することで、冷凍サイクル3の運転モードが暖房サイクル(暖房モード用循環回路)となる。また、暖房用可変絞り弁50が減圧膨張モードとなり、暖房用電磁弁34が閉弁することで、冷凍サイクル3の運転モードが除湿サイクル(除湿モード用循環回路)となる。
【0034】
また、エバポレータ27の空気下流側には、図1に示すように、第1独立通路61および第2独立通路62が設けられる。各独立通路61,62は互いに独立している。第1独立通路61は、運転席側空調空間を空調するための通路である。第2独立通路62は、助手席側空調空間を空調するための通路である。
【0035】
図2は、暖房用熱交換器22と各独立通路61,62との配置関係を示す正面図である。暖房用熱交換器22に関して図2を用いて説明する。暖房用熱交換器22は、内部を流下する冷媒と外部を通過する空気とを熱交換する。暖房用熱交換器22は、コア部71、流入側タンク72、および流出側タンク73を含んで構成される。
【0036】
コア部71は、複数のチューブ74および複数のアウターフィン75を含んで構成される。各チューブ74は、長手状に形成され、長手方向(図2の上下方向)の一端部が流入側タンク72に接続され、長手方向の他端部が流出側タンク73に接続される。各チューブ74は、内部を冷媒が流通する管部材である。複数のチューブ74は、流入側タンク72および流出側タンク73が延設される方向(図2の左右方向)に並んで配置される。また複数のチューブ74は、長手方向が互いに略平行(用語「略平行」は平行を含む)となるように配置される。
【0037】
複数のアウターフィン75は、複数のチューブ74間に設けられ、複数のチューブ74内を流れる冷媒の熱を、周囲に流れる空気に伝える。したがって各アウターフィン75は、隣接するチューブ74の間に設けられる。チューブ74とアウターフィン75とは、交互に積層される。アウターフィン75は、たとえば薄肉の平板材から波状に成形され、コルゲートタイプのフィンである。
【0038】
流入側タンク72は、チューブ74の積層方向に沿って延びる。流入側タンク72は、各チューブ74の長手方向一端部がそれぞれろう付け接合される。また流入側タンク72は、貯留している冷媒を複数のチューブ74の長手方向一端部から各チューブ74内に流下するように各チューブ74の長手方向一端部と接合される。流入側タンク72は、コンプレッサ21から流入する冷媒を各チューブ74に分配供給する。このように暖房用熱交換器22は、全パスのコア部71を使用している。
【0039】
流出側タンク73は、チューブ74の積層方向に沿って延びる。流出側タンク73は、複数のチューブ74の長手方向他端部がそれぞれろう付け接合される。また流出側タンク73は、複数のチューブ74の長手方向他端部から流下する冷媒を流入可能に接合される。流出側タンク73は、チューブ74から流出する冷媒を集合回収して室外熱交換器24へ流出する。
【0040】
次に、各独立通路61,62と暖房用熱交換器22の配置関係に関して説明する。暖房用熱交換器22は、前述のように空調ケース2内の空気が流れる方向に見て、冷媒が例えば図2の下方から上方に向かって流下する。図2の上下方向は、鉛直方向である。したがって暖房用熱交換器22は、ダウンフローとなるように車両に搭載される。
【0041】
各独立通路61,62は、図1に示すように、仕切板63により区画されている。図2にて一点鎖線で簡略化して示す仕切板63は、空調ケース2内の空気の流れ方向(図2の紙面の厚み方向)に見て、暖房用熱交換器22において空気が通過する領域を独立通路61,62毎に仕切っている。各領域は、暖房用熱交換器22内における冷媒の流通方向(図2の上下方向)が、隣接する領域の境界部分が延びる方向である。したがって各領域における暖房用熱交換器22内の冷媒は、隣接する領域を仕切る境界部分に並行して流れる。
【0042】
第1独立通路61には、暖房用熱交換器22で加熱された温風が通過する第1温風通路61a、およびエバポレータ27を通過し暖房用熱交換器22を通過しない冷風が流れる第1冷風通路61bが形成されている。また第2独立通路62に同様に、暖房用熱交換器22で加熱された温風が通過する第2温風通路62a、およびエバポレータ27を通過し暖房用熱交換器22を通過しない冷風が流れる第2冷風通路62bが形成されている。
【0043】
そして暖房用熱交換器22の空気上流側には、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節を、互いに独立して行うための運転席側エアミックスドア6aおよび助手席側エアミックスドア6bが設けられている。各エアミックスドア6a,6bは、運転席側および助手席側の各吹出口から車室内の各空調空間に向けて、それぞれ吹き出される空調風の吹出温度を変更する。換言すると、各エアミックスドア6a,6bは、各温風通路61a,62aを通過する空気と各冷風通路61b,62bを通過する空気との風量割合(風量比率)を調整するエアミックス手段として機能する。各エアミックスドア6a,6bは、サーボモータなどのアクチュエータにより駆動される。
【0044】
空調ケース2の他方側、すなわち第1独立通路61の空気下流側には、たとえば運転席側デフロスタ吹出口、運転席側センタフェイス吹出口、運転席側サイドフェイス吹出口、および運転席側フット吹出口が、各吹出ダクトを介して連通している。また、第2独立通路62の空気下流側には、たとえば助手席側デフロスタ吹出口、助手席側センタフェイス吹出口、助手席側サイドフェイス吹出口、および助手席側フット吹出口が、各吹出ダクトを介して連通している。
【0045】
運転席側および助手席側デフロスタ吹出口は、車両前方窓ガラスへ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フェイス吹出口は、運転者および助手席乗員の頭胸部へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フット吹出口は、運転者および助手席乗員の足元へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。また後部座席への吹出口として、後部座席側センタフェイス吹出口、後部座席サイドフェイス吹出口、後部座席側フット吹出口が第1独立通路61および第2独立通路62の下流側にそれぞれ形成されている。
【0046】
運転席側および助手席側の吹出口モードとしては、たとえばフェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードおよびデフロスタモードがある。
【0047】
ECU10は、制御手段であって、制御処理や演算処理を行うCPU、各種プログラムやデータを保存するメモリ(ROM、RAM)、I/Oポートおよびタイマなどの機能を含んで構成され、それ自体は周知の構造を持つマイクロコンピュータを内蔵している。そして、ECU10は、イグニッションスイッチがオン(IG・ON)すると、電力供給が成されて、エアコン操作パネル14などからの操作信号、各種センサからのセンサ信号、およびメモリ内に格納された制御プログラムに基づいて、サーボモータ13、ブロワモータ16、各可変絞り弁26,50、暖房用電磁弁34およびインバータ20などを電気的に制御する。
【0048】
ここで、エアコン操作パネル14に関して説明する。エアコン操作パネル14は、インストルメントパネルに一体的に設置される。エアコン操作パネル14には、たとえば液晶ディスプレイ、内外気切替スイッチ、フロントデフロスタスイッチ、リヤデフロスタスイッチ、デュアルスイッチ、吹出モード切替スイッチ、ブロワ風量切替スイッチ、エアコンスイッチ、オートスイッチ、オフスイッチ、運転席側温度設定スイッチ、および助手席側温度設定スイッチなどが設置されている。
【0049】
液晶ディスプレイには、運転席側および助手席側空調空間の設定温度を視覚表示する設定温度表示部吹出モードを視覚表示する吹出モード表示部およびブロワ風量を視覚表示する風量表示部などが設けられている。液晶ディスプレイには、たとえば外気温表示部、吸込モード表示部および時刻表示部などが設けられていても良い。また、エアコン操作パネル14上の各種の操作スイッチは、液晶ディスプレイに設けられていてもよい。
【0050】
エアコン操作パネル14を各種のスイッチに関して説明する。フロントデフロスタ(DEF)スイッチは、前面窓ガラスの防曇能力を上げるか否かを指令する空調スイッチに相当するもので、吹出モードをデフロスタモードに設定するように要求するデフロスタモード要求手段である。DEFスイッチの代わりに、吹出口モードをDEFモードに固定するように指令することなく、オン状態の時に自動車の車室内の除湿または自動車のフロント窓ガラスの防曇のみを希望する除湿または防曇スイッチやフロント窓ガラスの曇り状態を検出する防曇センサなどの除湿モード設定手段を設けても良い。
【0051】
モード切替スイッチは、乗員のマニュアル操作に応じて、吹出モードを、フェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードのいずれかに設定するように要求するモード要求手段である。エアコン(A/C)スイッチは、自動車の車室内の冷房または除湿を希望する冷房または除湿スイッチであり、冷凍サイクル3の運転モードのうち冷房モードまたは除湿モードのうちいずれかの運転モードを希望する冷房または除湿モード設定手段でもある。A/CスイッチをONすると冷凍サイクル3のコンプレッサ21を強制的に起動し、A/CスイッチをOFFするとコンプレッサ21の運転を強制的に停止するようにしても良い。各温度設定スイッチは、運転席側空調空間内と助手席側空調空間内のそれぞれ温度を、所望の温度に設定(Tset)するための運転席側および助手席側温度設定手段である。
【0052】
また、コンプレッサ21の吐出口より吐出される冷媒の吐出圧力(SP)を検出する吐出圧力センサ40、コンプレッサ21の吐出口より吐出される冷媒の吐出温度(TD)を検出する吐出温度センサ41、暖房用熱交換器22の出口部より流出する暖房用熱交換器22出口冷媒温度(TCO)を検出する第1冷媒温度センサ42、および室外熱交換器24の出口部より流出する室外熱交換器出口冷媒温度(THO)を検出する第2冷媒温度センサ43などからのセンサ信号は、ECU10に入力されるように構成されている。したがって吐出圧力センサ40は、冷凍サイクル3の高圧圧力を検出する高圧圧力検出手段である。また吐出温度センサ41は、暖房用熱交換器22の入口部に流入する冷媒の入口温度を検出する冷媒入口温度検出手段でもある。また冷凍サイクル3中の暖房用可変絞り弁50が減圧する前の冷媒圧力を検出する圧力検出手段として高圧側冷媒圧力センサ42aを設けている。高圧側冷媒圧力センサ42aからのセンサ信号も同様にECU10に入力される。
【0053】
また、車室外の空気温度である外気温度(TAM)を検出する外気温度センサ44、エバポレータ27の下流直後の空気温度(TE:以下、「エバ後温度」という)を検出するエバ後温度センサ、車室内の空気温度である内気温度(TR)を検出する内気温度センサ、車室内に入射する日射量(TS)を検出する日射センサ、および暖房用熱交換器22の下流直後の空気温度(TGC:以下、「暖房用熱交換器後温度」という)を検出する暖房用熱交換器後温度センサ48からのセンサ信号は、A/D変換回路によってA/D変換された後に、ECU10に入力されるように構成されている。暖房用熱交換器後温度センサ48は、第1独立通路61および第2独立通路62のそれぞれに設けられる。
【0054】
次に、本実施形態のECU10の処理に関して説明する。ECU10は、冷凍サイクル3の運転モードの設定、および、各運転モードにおける冷凍サイクル3のサイクル能力の適正化、サイクル効率を最大化するように、コンプレッサ21の運転状態(回転速度など)、暖房用可変絞り弁50および冷房用可変絞り弁26の開度、および暖房用電磁弁34の開閉状態を決定し、これらを制御する。
【0055】
冷凍サイクル3の運転モードとして冷房モードが選択された時には、暖房用可変絞り弁50が全開モードとなり、暖房用電磁弁34が閉弁するため、コンプレッサ21の吐出口から吐出された冷媒が、暖房用熱交換器22→全開の暖房用可変絞り弁50→室外熱交換器24→冷房用可変絞り弁26→エバポレータ27→アキュムレータ28→コンプレッサ21の経路(図1に白矢印で示した経路)で循環する(冷房モード用循環回路、冷房サイクル)。
【0056】
ここで、冷房モードが選択された時には、暖房用熱交換器22の空気入口部および空気出口部に取り付けられたエアミックスドア6の開度が、全閉(MAX・COOL)となるように制御され、コンプレッサ21の吐出口から吐出された高温高圧の冷媒は暖房用熱交換器22を通過する際に放熱することはない。よって、エバポレータ27を通過する際に冷却された空気は、暖房用熱交換器22を迂回するように空調ケース2内を流れ、たとえばFACE吹出口から自動車の車室内に吹き出されて、車室内の温度が所望の温度(設定温度)となるように車室内が冷房される。
【0057】
また、冷凍サイクル3の運転モードとして除湿モードが選択された時には、暖房用可変絞り弁50が減圧膨張モードとなり、暖房用電磁弁34が閉弁するため、コンプレッサ21の吐出口から吐出された冷媒が、暖房用熱交換器22→暖房用可変絞り弁50→室外熱交換器24→冷房用可変絞り弁26→エバポレータ27→アキュムレータ28→コンプレッサ21の経路(図2にドット矢印で示した経路)で循環する(除湿モード用循環回路、除湿サイクル)。
【0058】
ここで、エバポレータ27を通過する際に冷却除湿された空気は、暖房用熱交換器22を通過する際に再加熱され、たとえばDEF吹出口またはFOOT吹出口から自動車の車室内に吹き出されて、車室内の温度が所望の温度(設定温度)となるように、しかもフロント窓ガラスの曇りを除去または防曇するように車室内が除湿暖房される。ここで、暖房用可変絞り弁50と冷房用可変絞り弁26との弁開度の絞り度合いによって、コンプレッサ21から吐出される冷媒の吐出圧力および室外熱交換器24の冷媒圧力が可変されるため、暖房用熱交換器22の加熱能力(暖房用熱交換器後温度、吹出温度)またはエバポレータ27の除湿能力(エバ後温度)が目標値となるようにコントロールされる。
【0059】
具体的には、室外熱交換器24の冷媒圧力が低く設定されるようにコントロールされた場合(暖房用可変絞り弁50の開度:小、冷房用可変絞り弁26の開度:大)には、室外熱交換器24が吸熱器として機能(作動)するため、暖房用熱交換器22で放熱される熱量が増大し、自動車の車室内に吹き出される空調風の吹出温度が比較的に高温となる。
【0060】
逆に、および室外熱交換器24の冷媒圧力が高く設定されるようにコントロールされた場合(暖房用可変絞り弁50の開度:大、冷房用可変絞り弁26の開度:小)には、室外熱交換器24が放熱器として機能(作動)するため、暖房用熱交換器22で放熱される熱量が減少し、自動車の車室内に吹き出される空調風の吹出温度が比較的に低温となる。
【0061】
次に、本実施形態のECU10の暖房モードに選択された場合の処理について、図1および図3を用いて説明する。冷凍サイクル3の運転モードとして暖房モードが選択された時には、暖房用可変絞り弁50が減圧膨張モードとなり、暖房用電磁弁34が開弁するため、コンプレッサ21の吐出口から吐出された冷媒が、暖房用熱交換器22→暖房用可変絞り弁50→室外熱交換器24→暖房用電磁弁34→アキュムレータ28→コンプレッサ21の経路(図1に黒矢印で示した経路)で循環する(暖房モード用循環回路、暖房サイクル)。なお、暖房モードが選択された時には、冷房用可変絞り弁26は、全閉状態とする。
【0062】
そして各エアミックスドア6a,6bの開度は全開(MAX・HOT)となるように制御され、コンプレッサ21の吐出口から吐出された高温高圧の冷媒は暖房用熱交換器22を通過する際に空調ケース2内を流れる空気と熱交換して放熱し、たとえばFOOT吹出口から自動車の車室内に吹き出されて、車室内の温度が所望の温度(設定温度)となるように車室内が暖房される。
【0063】
図3は、暖房モードにおけるECU10の処理を示すフローチャートである。図3に示す処理は、イグニッションスイッチがON状態にありECU10へ電力供給が成されているとき所定時間毎に随時実行される。また、イグニッションスイッチがON→OFFへと切り換わってECU10への電力供給が断たれた時には、強制的に終了されるものである。図3に示す処理は、暖房モードとして、暖房用可変絞り弁50が減圧膨張モードとなり、暖房用電磁弁34が開弁している状態で開始される。
【0064】
ステップS11では、各種データをデータ処理用メモリに読み込み、ステップS12に移る。したがってステップS11では、エアコン操作パネル14上の各種操作スイッチからのスイッチ信号、および各種センサからのセンサ信号が入力される。センサ信号としては、たとえば内気温センサが検知する車室内温度Tr、外気温センサが検知する外気温Tam、日射センサが検知する日射量Ts、および暖房用熱交換器後温度センサが検知する暖房用熱交換器後温度TGCである。
【0065】
ステップS12では、記憶している演算式に入力データを代入して、運転席側の目標吹出温度T1、および助手席側の目標吹出温度T2を演算し、ステップS13に移る。
【0066】
ステップS13では、演算した運転席側と助手席側の目標吹出温度T1,T2が等しいか否かを判断し、等しい場合には、ステップS14に移り、等しくない場合には、ステップS16に移る。
【0067】
ステップS14では、各目標吹出温度T1,T2が互いに等しいので、各エアミックスドア6a,6bの開度を最大(MAXHOT)となるように制御し、ステップS15に移る。ステップS15では、演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度T1,T2となるようにコンプレッサ21を制御し、本フローを終了する。
【0068】
ステップS16は、左右独コン時の処理となる。各目標吹出温度T1,T2が互いに等しくないので、どちらが大きいかを判断し、運転席側の目標吹出温度T1が大きい場合には、ステップS17に移り、大きくない場合には、ステップS19に移る。
【0069】
ステップS17では、運転席側の目標吹出温度T1が大きいので、運転席側エアミックスドア6aの開度を最大(MAXHOT)となるように制御し、助手席側エアミックスドア6bの開度を助手席側の目標吹出温度T2となるように制御し、ステップS18に移る。ステップS18では、演算された運転席側の目標吹出温度T1となるようにコンプレッサ21を制御し、本フローを終了する。
【0070】
ステップS19では、運転席側の目標吹出温度T1が大きくないので、助手席側エアミックスドア6bの開度を最大(MAXHOT)となるように制御し、運転席側エアミックスドア6aの開度を運転席側の目標吹出温度T1となるように制御し、ステップS110に移る。ステップS110では、演算された助手席側の目標吹出温度T2となるようにコンプレッサ21を制御し、本フローを終了する。
【0071】
したがって運転席側の設定温度と助手席側の設定温度が等しい場合、目標吹出温度も等しいので、暖房用熱交換器22下流に設定されたどちらかの(たとえば運転席側)の暖房用熱交換器後温度センサ48から入力された温度が目標吹出温度となるようにそれぞれのエアミックスドア6a,6bをMaxHotに固定して、コンプレッサ21回転数を制御する。
【0072】
また運転席側の設定温度の方が助手席側の設定温度よりも大きい場合には、目標吹出温度も運転席側が大きいので、運転席側のエアミックスドア6をMaxHotに固定して、運転席側の暖房用熱交換器後温度センサ48が目標吹出温度となるようにコンプレッサ21回転数を調整する。このとき助手席側エアミックスドア6bは、助手席側の暖房用熱交換器後温度センサ48からの入力値に基づき、助手席側目標吹出温度T2となるようにエアミックスドア6の開度が調整される。
【0073】
さらに運転席側の設定温度の方が助手席側の設定温度よりも小さい場合には、目標吹出温度も運転席側が小さいので、反対に、助手席側のエアミックスドアをMaxHotに固定し、運転席側のエアミックスドアの開度が調整される。そして、助手席側の暖房用熱交換器後温度センサ48からの入力値に基づき、コンプレッサ21回転数を制御する。
【0074】
作動原理としては、たとえば運転席側と助手席側のエアミックスドア6a,6bをMaxHot状態から助手席側エアミックスドア6bを閉じる方向に作動させると、暖房用熱交換器22の助手席側(第2独立通路62側)の部分の放熱性能が低下する。したがって暖房用熱交換器22の助手席側を流れる冷媒は凝縮しにくくなるため圧力損失が増加し、暖房用熱交換器22の運転席側(第1独立通路61側)の圧力損失と同等となるように冷媒流量が低下して左右の冷媒圧損が釣り合い、左右の冷媒流量が一定の比率で安定する。図2では、矢印の大きさで冷媒流量を示している。本来は図2にて破線で示すように、冷媒流量は暖房用熱交換器22の第1独立通路61と第2独立通路62との部分で互いに等しい。しかし各エアミックスドア6a,6bの開度によって、放熱性能が異なる場合には、前述のように冷媒圧損が同じになるように冷媒流量がバランスして、図2にて実線で示すような冷媒流量比となる。コンプレッサ21の回転数が一定とすると、助手席側が流量低下し、運転席側が増加する。運転席側の流量が増加した分、コンプレッサ21の回転数を低減することで左右の空気温度を各目標吹出温度T1,T2にすることができる。
【0075】
以上説明したように本実施形態の空調ケース2内には、独立した通路として第1独立通路61と第2独立通路62とが形成される。各独立通路61,62には、エアミックスドア6a,6bが設けられ、独立通路61,62毎に冷風通路と温風通路とが形成される。各独立通路61,62が独立しているので、独立通路61,62毎に設定される温度に対し、暖房用熱交換器22の通過風量を調整することで、放熱量を調整することが可能である。
【0076】
ここで、空調ケース2内の空気の流れ方向に見て、暖房用熱交換器22において空気が通過する領域が、独立通路61,62毎に仕切られている。そして各領域は、暖房用熱交換器22内における冷媒の流通方向が、隣接する領域の境界部分が延びる方向である。換言すると、各領域における暖房用熱交換器22内の冷媒は、隣接する領域を仕切る境界部分に並行して流れる。したがって放熱量が領域毎に異なる場合、たとえば、第2独立通路62が第1独立通路61よりも空気量が少なく放熱性能が低下した場合、流れる冷媒が凝縮しにくくなるので圧力損失が増加する。この場合、暖房用熱交換器22において第2独立通路62の空気が通過する部分では、暖房用熱交換器22内の圧力損失が同じになるように、冷媒流量が低下する。これによって独立通路61,62の冷媒流量比が定まる。これに対して冷媒の流通方向が、隣接する領域の境界に直交している場合は、冷媒流量比がかわらないため、通過風量を低減した領域では、圧力損失が大きくなり、結果として効率が悪化し、コンプレッサ消費電力が増加する。
【0077】
したがって本実施形態は、冷媒流量比の制御ができるので、各エアミックスドア6a,6bで風量割合を制御することによって、温度を個別に設定することができる。これによってヒートポンプ式冷凍サイクル3を用いた車両用空調装置100において、各吹出口に対応した空気温度を個別に設定し、効率よくサイクルを運転することができる。
【0078】
また本実施形態では、冷凍サイクル3が暖房運転をしている場合に、最も高い温度が設定された吹出口に対応する独立通路におけるエアミックスドアの開度を、風量が最大となるように、風量割合がECU10によって制御される。したがって最も加熱すべき空気をコンプレッサ回転数で必要な温度に調整し、設定温度の低い他の独立通路では、エアミックスドアの開度の制御によって、温度制御することができる。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して、図4を用いて説明する。図4は、第2実施形態の暖房用熱交換器22Aと各独立通路61,62との配置関係を示す正面図である。本実施形態の暖房用熱交換器22Aは、前述の第1実施形態の暖房用熱交換器22とは車両の搭載方向が異なる。暖房用熱交換器22Aは、コア部71に含まれる各チューブ74は、長手方向一端部(図4の右方側の端部)から長手方向他端部(図4の左方側の端部)に向かって冷媒が流下する。複数のチューブ74は、流入側タンク72および流出側タンク73の両タンクが延設される方向(図4の上下方向)に並んで配置される。
【0080】
暖房用熱交換器22Aは、空調ケース2内の空気が流れる方向に見て、冷媒が図4の左方から右方に向かって流下する。図4の上下方向は、鉛直方向である。したがって暖房用熱交換器22Aは、クロスフローとなるように車両に搭載される。
【0081】
各独立通路61,62は、仕切板63Aにより区画されている。図4にて一点鎖線で簡略化して示す仕切板63Aは、空調ケース2内の空気の流れ方向(図4の紙面の厚み方向)に見て、暖房用熱交換器22Aにおいて空気が通過する領域を独立通路61,62毎に仕切っている。各領域は、暖房用熱交換器22A内における冷媒の流通方向(図4の左右方向)が、隣接する領域の境界部分が延びる方向である。
【0082】
このように本実施形態では、暖房用熱交換器22Aの搭載方向が異なるが、前述と第1実施形態の暖房用熱交換器22と各独立通路61,62の位置関係が同様であるので、同様の作用および効果を達成することができる。換言すると、暖房用熱交換器22Aの搭載方向にかかわらず、仕切板63Aと各独立通路61,62との位置関係の条件を満足することによって、同様の作用および効果を達成することができる。
【0083】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に関して、図5および図6を用いて説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態とはエアミックスドアの開度の決定方法が異なる。また本実施形態では、暖房用熱交換器後温度センサ48を用いずに、高圧側冷媒圧力センサ42aによって検出される暖房用熱交換器22の冷媒圧力を用いている。
【0084】
図5は、第2実施形態におけるECU10の処理を示すフローチャートである。ステップS21〜ステップS25までの処理は、図3のステップS11〜ステップS15までの処理と同一であるので、説明を省略する。
【0085】
ステップS26では、各目標吹出温度T1,T2が互いに等しくないので、どちらが大きいかを判断し、運転席側の目標吹出温度T1が大きい場合には、ステップS27に移り、大きくない場合には、ステップS28に移る。
【0086】
ステップS27では、運転席側の目標吹出温度T1が大きいので、運転席側エアミックスドア6aの開度を最大(MAXHOT)となるように制御し、助手席側エアミックスドア6bの開度を予めメモリに記憶される制御マップを用いて制御し、ステップS29に移る。
【0087】
ここで制御マップは、図6を用いて作成されている。図6に示すように、各目標吹出温度T1,T2の差が小さいほど、助手席側エアミックスドア6bの開度は100%(MAXHOT)に近づく。逆に、差が大きくなるほど助手席側エアミックスドア6bの開度は小さくなる。このような各目標吹出温度T1,T2の差とエアミックスドアの開度との関係が予め制御マップとして記憶されている。
【0088】
ステップS28では、運転席側の目標吹出温度T1が大きいので、助手席側エアミックスドア6bの開度を最大(MAXHOT)となるように制御し、運転席側エアミックスドア6aの開度を予めメモリに記憶される制御マップを用いて制御し、ステップS29に移る。ステップS29では、演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度T1,T2となるようにコンプレッサ21を制御し、本フローを終了する。
【0089】
このように本実施形態では、制御マップを用いて制御するので、演算するよりもECU10の処理負荷を軽減することができる。また圧力検出手段である高圧側冷媒圧力センサ42aによって検出された冷媒圧力を用いて、他の独立通路におけるエアミックスドアの開度が設定された温度となるように、開度がECU10によって制御される。これによって他の独立通路の風量を検出した冷媒圧力によって適切に設定することができる。したがって設定温度に早期に近づけ、設定温度を維持することができる。
【0090】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0091】
前述の第1実施形態では、車室内の運転席側の空間と助手席側の空間とを独立に空調できる車両用空調装置100であるが、このような構成に限るものではなく、前席と後席とを独立に空調する車両用空調装置であってもよい。また独立通路は2つに限るものではなく、3つ以上であってもよい。
【0092】
また前述の第1実施形態では、暖房用熱交換器22のコア部71を1列(1層)とする構成であったが、コア部71を複数積層した構成であってもよい。また暖房用熱交換器22において各独立通路61,62を通過する空気が流れる領域の面積は互いに等しい構成に限るものではなく、領域の面積が異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…空調ユニット
2…空調ケース
3…冷凍サイクル(ヒートポンプ式冷凍サイクル)
6a…運転席側エアミックスドア(エアミックスドア)
6b…助手席側エアミックスドア(エアミックスドア)
10…ECU(制御手段)
11…内気吸込口(空気取入口)
12…外気吸込口(空気取入口)
14…エアコン操作パネル(温度設定手段)
15…送風機
22…暖房用熱交換器
27…エバポレータ(室内熱交換器)
42a…高圧側冷媒圧力センサ(圧力検出手段)
48…暖房用熱交換器後温度センサ(温度検出手段)
61…第1独立通路(独立通路)
61a…第1温風通路61a(温風通路)
61b…第1冷風通路(冷風通路)
62…第2独立通路(独立通路)
62a…第2温風通路(温風通路)
62b…第2冷風通路(冷風通路)
63…仕切板
100…車両用空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ式冷凍サイクル(3)を用いて車室内を空調する車両用空調装置(100)であって、
一方側に空気取入口(11,12)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、前記複数の吹出口は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、前記空気取入口と前記吹出口との間に送風空気が通過する空気通路を有する空調ケースと、
前記空調ケースの前記空気通路に対して空気を送風する送風機(15)と、
前記ヒートポンプ式冷凍サイクルに含まれ、前記空調ケース内に配置され前記送風された空気を冷却する室内熱交換器(27)と、
前記ヒートポンプ式冷凍サイクルに含まれ、前記空調ケース内において前記室内熱交換器の下流側に配置され、前記室内熱交換器を通過した空気を加熱する暖房用熱交換器(22)と、を含み、
前記空気通路は、前記空気を前記特定席に対応する吹出口に導く独立通路(61)と、前記空気を前記他の座席に対応する吹出口に導く独立通路(62)とが互いに独立した通路となるように形成されており、
前記各独立通路には、前記暖房用熱交換器で加熱された温風が通過する温風通路(61a,62a)、および前記室内熱交換器を通過し前記暖房用熱交換器を通過しない冷風が流れる冷風通路(61b,62b)がそれぞれ形成されており、
前記各独立通路には、前記温風通路の温風と前記冷風通路の冷風との風量割合を調整するエアミックスドア(6a,6b)がそれぞれ設けられており、
前記空調ケース内の前記空気の流れ方向に見て、前記暖房用熱交換器において前記空気が通過する領域が、前記独立通路毎に仕切られており、
前記各領域における前記暖房用熱交換器内を流れる冷媒は、隣接する前記領域を仕切る境界部分に並行して流れることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記各独立通路を通過して各独立通路に対応する吹出口から吹き出される温度を、前記対応する吹出口毎に設定する温度設定手段(14)と、
前記各エアミックスドアの開度調整により通過風量を制御する制御手段(10)と、を含み、
前記制御手段は、前記ヒートポンプ式冷凍サイクルが暖房運転をしている場合に、前記温度設定手段によって最も高い温度が設定された吹出口に対応する独立通路における前記エアミックスドアの開度を、前記風量が最大となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記各独立通路内であって、前記暖房用熱交換器の下流側の空気温度を前記独立通路毎に検出する温度検出手段(48)をさらに含み、
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された空気温度を用いて、前記他の独立通路における前記エアミックスドアの開度を前記設定された温度となるように制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記暖房用熱交換器内の冷媒の圧力を検出する圧力検出手段(42a)をさらに含み、
前記制御手段は、前記圧力検出手段によって検出された冷媒圧力を用いて、前記他の独立通路における前記エアミックスドアの開度を前記設定された温度となるように制御することを特徴とする請求項2または3に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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