説明

車両用衝突検知装置

【課題】高速走行時の歩行者衝突等の重衝突の場合にも高い感度で衝突を検知可能な車両用衝突検知装置を提供する。
【解決手段】車両バンパ2内でバンパレインフォースメント4の前面に配設され且つ前壁部709と後壁部712とによって挟まれたチャンバ空間7aを内部に形成してなるチャンバ本体71を有するチャンバ部材7は、車両前後方向において前壁部709側の領域である前方側領域の上下高さよりも、後壁部712側の領域である後方側領域の上下高さの方が大きく形成されている。従って、高速走行時の歩行者衝突等のチャンバ部材7の変形が大きい重衝突時には、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が変形することによってチャンバ空間7aの圧力変化が増大するため、圧力センサ8による圧力検出結果に基づいて車両バンパ2への衝突を高い感度で検知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両への歩行者等の衝突を検知する車両用衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の安全性に関して、事故時に車両の搭乗者の安全性を確保するだけでなく、車両に歩行者が衝突したときに歩行者へのダメージを軽減することも求められている。そこで、歩行者の車両への衝突を検知して、例えばアクティブフードやカウルエアバッグ等の歩行者保護装置を作動させて、車両に衝突してボンネットに倒れ込んできた歩行者が受ける傷害値(歩行者が受ける衝撃)を低減するシステムが提案されている。
【0003】
例えば特開2006−117157号公報(特許文献1)には、衝突を検知するために車両バンパ内でバンパレインフォースメントの前面且つアブソーバの上方にチャンバ部材が配設され、車両バンパへの障害物の衝突が発生した際に、チャンバ空間内の圧力変化を圧力センサで検出することにより車両バンパへの歩行者などの衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−117157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述したチャンバ部材と圧力センサとを用いた車両用衝突検知装置において、アブソーバの上面且つバンパレインフォースメント前面にチャンバ部材を配置する構成が考えられる。図9(a)は、歩行者が車両バンパに衝突する前の車両用衝突検知装置の要部断面図である。車両バンパ内でバンパレインフォースメント104の下部前面に、アブソーバ106が配設されている。また、バンパレインフォースメント104の前面且つアブソーバ106の上方に、断面略四角形状を呈するチャンバ部材107が配設されている。
【0006】
そして、物体120が車両バンパに衝突すると、図9(b)に示すように、チャンバ部材107は、バンパカバー103を介して押圧されて変形し、チャンバ部材107内部の圧力が上昇する。この圧力変化を圧力センサによって検出することによって衝突物が歩行者か否かを判別することができる。
【0007】
ここで、軽衝突時と重衝突時とについて、チャンバ部材107における圧力変化について図10を参照しつつ説明する。軽衝突とは、衝撃の小さい衝突であり、例えば、車両が低速走行中に歩行者が車両バンパへ衝突した場合である。一方、重衝突とは、衝撃の大きい衝突であり、例えば、車両が高速走行中に歩行者が車両バンパへ衝突した場合が含まれる。尚、図10(a)は、参考例の車両用衝突検知装置におけるチャンバ空間内の圧力とチャンバ変形量との関係を示すグラフであり、(b)は参考例の車両用衝突検知装置におけるチャンバ空間内の圧力と吸収エネルギの関係を示すグラフである。吸収エネルギとは、衝突によって発生したエネルギが、チャンバ部材の潰れ変形によって吸収されたエネルギのことをいう。
【0008】
軽衝突時は、図10(a)に示すように、チャンバ部材107の変形量(以下、チャンバ変形量と称する)が最大に達しておらず、同図(b)に示すように、圧力変化も飽和に達していない。
【0009】
一方、重衝突時は、図10(a)に示すように、チャンバ変形量が最大に達しており、同図(b)に示すように、圧力変化が飽和に達している。そして、このように圧力飽和に達している状態では、圧力検出値の所定の閾値THに対するマージンが小さいため、圧力検出値を所定の閾値THと比較して衝突物が歩行者か否かを高精度に判定することが困難となる場合が考えられる。
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、高速走行時の歩行者衝突等の重衝突の場合にも高い感度で衝突を検知可能な車両用衝突検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、車両バンパ内でバンパレインフォースメントの前面に配設され且つ前壁部と後壁部とによって挟まれたチャンバ空間を内部に形成してなるチャンバ本体を有するチャンバ部材と、前記チャンバ空間内の圧力を検出する圧力センサと備え、前記圧力センサによる圧力検出結果に基づいて前記車両バンパへの衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置において、
前記チャンバ部材の前記チャンバ本体は、車両前後方向において前記前壁部側の領域である前方側領域の上下高さよりも、前記後壁部側の領域である後方側領域の上下高さの方が大きく形成されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、車両バンパ内でバンパレインフォースメントの前面に配設され且つ前壁部と後壁部とによって挟まれたチャンバ空間を内部に形成してなるチャンバ本体を有するチャンバ部材は、車両前後方向において前壁部側の領域である前方側領域の上下高さよりも、後壁部側の領域である後方側領域の上下高さの方が大きく形成されている。従って、高速走行時の歩行者衝突等のチャンバ部材の変形が大きい重衝突時には、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が変形することによってチャンバ空間の圧力変化が増大するため、圧力センサによる圧力検出結果に基づいて車両バンパへの衝突を高い感度で検知することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用衝突検知装置において、前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、1:1乃至3:1であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、チャンバ本体の前方側領域と後方側領域との車両前後方向長さの比率を、1:1乃至3:1とすることによって、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が十分に確保されるため、チャンバ部材の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間の圧力変化を確実に増大させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車両用衝突検知装置において、前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:6乃至1:2であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、チャンバ本体の前方側領域と後方側領域との上下高さの比率を、5:6乃至1:2とすることによって、後方側領域の上下高さが十分に確保されるため、チャンバ部材の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間の圧力変化を確実に増大させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の車両用衝突検知装置において、前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、1:1乃至3:1であり、且つ前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:6乃至1:2であることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、チャンバ本体の前方側領域と後方側領域との車両前後方向長さの比率を1:1乃至3:1とし、且つ前方側領域と後方側領域との上下高さの比率を5:6乃至1:2とすることによって、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が十分に確保されると共に、後方側領域の上下高さが十分に確保されるため、チャンバ部材の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間の圧力変化をより確実に増大させることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両用衝突検知装置において、前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、3:2であり、且つ前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:7であることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、チャンバ本体の前方側領域と後方側領域との車両前後方向長さの比率を3:2とし、且つ前方側領域と後方側領域との上下高さの比率を5:7とすることによって、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が十分に確保されると共に、後方側領域の上下高さが十分に確保されるため、チャンバ部材の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間の圧力変化をより確実に(例えば従来構造の2倍程度に)増大させることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5に記載の車両用衝突検知装置において、前記後方側領域は、車両前後方向において上下高さが一定であることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、後方側領域は、車両前後方向において上下高さが一定であることによって、チャンバ部材を容易に形成可能な単純な形状としつつ、後方側領域における上下高さを確実に大きくすることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5に記載の車両用衝突検知装置において、前記後方側領域は、車両前方側から後方側に向かって上下高さが漸増することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、チャンバ部材の形状を、車両バンパ内の空間を有効に利用可能な形状としつつ、後方側領域における上下高さを確実に大きくすることができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7に記載の車両用衝突検知装置において、前記チャンバ部材の前記チャンバ本体は、軟質樹脂によって形成されるものであり、前記後壁部における少なくとも前記バンパレインフォースメントの前面と対向しない非対向部分に肉厚の補強部が設けられたことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、チャンバ部材のチャンバ本体は、軟質樹脂によって形成されるものであり、後壁部における少なくともバンパレインフォースメントの前面と対向しない非対向部分に肉厚の補強部が設けられたことによって、衝突の際に、チャンバ本体は、バンパレインフォースメントの上方への変形が防止されるので、圧力センサの圧力検出性能の低下が抑制される。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8に記載の車両用衝突検知装置において、前記圧力センサによって検出された圧力検出値が所定の閾値以上であるときに、歩行者の衝突と判定する衝突判定手段を備えたことを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、車両バンパへの衝突の際に、衝突判定手段が、圧力センサによる圧力検出値が所定の閾値以上であるときに、歩行者の衝突と判定することができる。例えば、車両が高速走行中に歩行者が衝突する場合のような重衝突時には、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が変形することによってチャンバ空間の圧力変化が増大するため、圧力センサによる圧力検出結果に基づいて、衝突判定手段が正確に歩行者か否かを判定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態の車両用衝突検知装置を平面視にて示す全体構成図である。
【図2】車両用衝突検知装置を横から見た要部断面図(図1のA−A線断面)である。
【図3】(a)は車両用衝突検知装置を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)であり、(b)はチャンバ本体の形成比率の一例を示す図である。
【図4】実施形態の衝突検知処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】(a)は軽衝突時の車両用衝突検知装置を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)であり、(b)は重衝突時の車両用衝突検知装置を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)である。
【図6】チャンバ本体における圧力と変形量との関係を示すグラフである。
【図7】実施形態のチャンバ本体における圧力と吸収エネルギとの関係を示すグラフである。
【図8】(a)〜(c)は本実施形態の変形例であるチャンバ部材の凸部の断面形状を示す図である。
【図9】参考例の車両用衝突検知装置を示す側面図である。
【図10】(a)は参考例の車両用衝突検知装置のチャンバ空間内の圧力とチャンバ変形量の関係を示すグラフであり、(b)は参考例の車両用衝突検知装置のチャンバ空間内の圧力と吸収エネルギの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の車両用衝突検知装置を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態である車両用衝突検知装置1を平面視にて示す全体構成図である。図2は、車両用衝突検知装置1を横から見た要部断面図(図1のA−A線断面)である。図3(a)は、車両用衝突検知装置1を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)であり、同図(b)は、チャンバ本体71の形成比率の一例を示す図である。図4は、衝突検知処理の流れを示すフローチャートである。図5(a)は、軽衝突時の車両用衝突検知装置1を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)である。同図(b)は、重衝突時の車両用衝突検知装置1を横から見た要部断面図(図1のB−B線断面)である。図6は、チャンバ本体における圧力と変形量の関係を示すグラフである。図7は、チャンバ本体における圧力と吸収エネルギの関係を示すグラフである。図8(a)〜(c)は、本実施例の変形例であるチャンバ部材7の凸部711の断面形状を示す図である。
【0031】
車両用衝突検知装置1は、図1に示すように、車両バンパ2内に配設されたチャンバ部材7と、圧力センサ8と、歩行者保護装置ECU10とを主体として構成されている。尚、歩行者保護装置ECU10が、本発明の衝突判定手段を構成するものである。
【0032】
車両バンパ2は、図1、図2に示すように、バンパカバー3、バンパレインフォースメント4、サイドメンバ5、アブソーバ6、及びチャンバ部材7を主体として構成されている。尚、図2では、バンパカバー3、バンパレインフォースメント4、アブソーバ6及びチャンバ部材7をそれぞれ断面(図1のA−A線)で示している。
【0033】
バンパカバー3は、車両前端にて車幅方向(左右方向)に延び、バンパレインフォースメント4、サイドメンバ5、アブソーバ6、及びチャンバ部材7を覆うように車体に取り付けられる樹脂(例えば、ポリプロピレン)製カバー部材である。
【0034】
バンパレインフォースメント4は、バンパカバー3内に配設されて車幅方向に延びる金属製の構造部材であって、図2に示すように、内部中央に梁が設けられた日の字状断面を有する中空部材である。
【0035】
サイドメンバ5は、車両の左右両側面近傍に位置して車両前後方向に延びる一対の金属製部材であり、その前端に上述したバンパレインフォースメント4が取り付けられる。
【0036】
アブソーバ6は、バンパカバー3内でバンパレインフォースメント前面4aの下方側に取り付けられる車幅方向に延びる発泡樹脂製部材であり、車両バンパ2における衝撃吸収作用を発揮する。
【0037】
チャンバ部材7は、ポリエチレンなどの軟質性樹脂からなり、バンパカバー3内でアブソーバ6の上方且つバンパレインフォースメント前面4aに配置されて車幅方向に延びる略箱状の中空部材である。チャンバ部材7は、例えば、軟質性樹脂のブロー成形によって製造される。そして、チャンバ部材7は、車幅方向に延びて内部に厚さ数mmの壁面によって囲まれた略密閉状のチャンバ空間7aを形成している。より詳細には、チャンバ部材7は、チャンバ本体71と、延設部72とを備えている。
【0038】
チャンバ本体71は、チャンバ部材7の大部分を占めており、前壁部709と後壁部712とによって挟まれた略密閉状のチャンバ空間7aを内部に形成してなる軟質樹脂製部材である。チャンバ本体71は、車両前後方向において前壁部709側の領域である前方側領域71fと、後壁部712側の領域である後方側領域71rとからなる。後方側領域71rには、前方側領域71fの上面より上方へ断面矩形状に突出し、内部にチャンバ空間7aの一部を形成する凸部711が設けられている。すなわち、前方側領域71fの上下高さHFよりも、後方側領域71rの上下高さHRの方が大きく形成されている(HR>HF)。
【0039】
また、前方側領域71fの上面の高さは、バンパレインフォースメント4上面の高さと略同一である。一方、後方側領域71r、すなわち凸部711の上面の高さは、バンパレインフォースメント4上面の高さよりも高く、後壁部712は、凸部711部分においてバンパレインフォースメント4前面と対向しない非対向部分となっている。尚、図3(a)に示すように、後壁部712は、前壁部709等の他の壁部よりも肉厚に形成された補強部となっている。具体的には、前壁部709の厚さ1mmに対し、後壁部712の厚さは3乃至5mm程度に設定される。このため、衝突発生時にバンパレインフォースメント4前面と対向しない非対向部分において変形が防止され、圧力検出性能の低下が抑制される。
【0040】
さらに、本実施形態では、図3(b)に示すように、車両前後方向において、前方側領域71fの長さLFと後方側領域71rの長さLRとの比は、3:2に設定されている。また、前方側領域71fの上下高さHFと後方側領域71rの上下高さHRとの比は、5:7に設定されている。
【0041】
延設部72は、軟質樹脂によってチャンバ本体71と一体的に成形され、チャンバ本体71の車幅方向の略中央部分からバンパレインフォースメント4正面の上方に延び、車体前方側から車体後方側へ延設された部位である。延設部72の内部空間は、チャンバ本体71の内部空間と連通しており、チャンバ空間7aの一部分を形成している。そして延設部72に圧力センサ8が配設されている。
【0042】
圧力センサ8は、気体圧力を検出可能なセンサ装置であり、圧力センサ8の本体と、圧力導入管81とで構成され、圧力センサ8の本体には圧力検出用のセンサ素子が設けられている。そして、圧力導入管81は、延設部72の上方から挿入され、圧力を検出する。圧力センサ8は、圧力に比例した電圧信号を出力し、信号線10aを介して歩行者保護装置ECU10へ信号を送信する。
【0043】
歩行者保護装置ECU10は、圧力センサ8と接続され、車両本体に配置されている。図示しない歩行者保護装置(たとえば公知の歩行者保護用のエアバッグやフード跳ね上げ装置など)の起動制御を行うための電子制御装置であり、圧力センサ8から出力される信号が信号線10aを介して入力されるように構成されている。歩行者保護装置ECU10は、圧力センサ8における圧力検出結果に基づいて、車両バンパ2へ歩行者(すなわち、人体)が衝突したか否かを判別する処理を実行する。
【0044】
次に、歩行者保護装置ECU10において実行される衝突検知処理の流れについて図4のフローチャートを参照しつつ説明する。始めに、圧力センサ8は、チャンバ部材7のチャンバ空間7a内の圧力を検出する(ステップ100。以下、ステップ100をS100と略記する。他のステップも同様。)。次に、歩行者保護装置ECU10は、圧力センサ8によって検出された圧力値を、圧力センサ信号線10aを介して受信する(S110)。
【0045】
そして、S120において、圧力検出値を所定の閾値THと比較する。閾値THは、車速に応じて決定される。圧力検出値が閾値TH以上であった場合、例えば、図7に示すように、圧力値が閾値TH以上の場合(S120:Yes)は、歩行者の衝突と判定し、歩行者保護装置を作動させる(S130)。一方、圧力検出値が閾値THよりも小さい場合(S120:No)は、S100〜S120の処理を繰り返す。
【0046】
つまり、歩行者保護装置ECU10は、圧力センサ8による圧力検出値が所定の閾値TH以上であるときに、歩行者か否かを判定することができる。そして、重衝突時においても、前方側領域よりも上下高さの大きい後方側領域が変形することによってチャンバ空間7aの圧力変化が増大するため、圧力センサ8による圧力検出結果に基づいて、衝突判定手段が正確に歩行者か否かを判定可能である。尚、S120のステップが、本発明の衝突判定手段として機能するものである。
【0047】
次に、本実施形態の車両用衝突検知装置1において衝突検知を行う際の各部の作用について図5〜図7を参照しつつ説明する。車両用衝突検知装置1が組み付けられた車両バンパ2は、図1に示したように、バンパカバー3がチャンバ部材7とアブソーバ6を被覆し、車両バンパ2の外表面を形成している。
【0048】
車両バンパ2に歩行者の脚部等が衝突すると、車両バンパ2が押圧され、バンパカバー3を介してチャンバ部材7が押圧されることにより、チャンバ部材7の押圧された部分は潰れ変形する。
【0049】
ここで、衝撃の小さい軽衝突である場合、図5(a)に示すように、衝突物20のバンパカバー3への衝突によって、チャンバ部材7のチャンバ本体71の前壁部709がバンパカバー3を介して押圧され、チャンバ本体71は、前壁部709が車両前方から後方へ向けて押圧され、前方側領域71fが車両前後方向に潰れ変形する。この時のチャンバ本体71の車両前後方向における変形量(チャンバ変形量)は、前方側領域71fの車両前後方向長さLF未満である。このようにチャンバ本体71の前方側領域71fが潰れ変形することにより、チャンバ空間7aの体積が減少し、チャンバ空間7aの内部圧力は、図6に示されるC0線に沿って増加する。
【0050】
一方、衝撃の大きい重衝突である場合、図5(b)に示すように、衝突物21のバンパカバー3への衝突によって、チャンバ部材7のチャンバ本体71の前壁部709がバンパカバー3を介して押圧され、チャンバ本体71は、前壁部709が車両前方から後方へ向けて押圧され、軽衝突時と同様に前方側領域71fが車両前後方向に潰れ変形すると共に、後方側領域71rが車両前後方向に潰れ変形する。従って、チャンバ空間7aの体積は、前方側領域71fの潰れ変形によって減少し、これに伴ってチャンバ空間7aの内部圧力は、図6に示されるC0線のように増加する。さらに、チャンバ空間7aの体積は、後方側領域71rの潰れ変形によって減少し、これに伴って、チャンバ空間7aの内部圧力は、図6に示されるC0よりも傾きの大きいC1線のように大幅に増加し、圧力値Pmaxにおいて飽和する。
【0051】
これに対し、凸部711が設けられていない比較例では、後方側領域71rにおいても前方側領域71fと上下高さが同一(HR=HF)であるため、C0と略同一の傾きのC1’線のように増加し、圧力値P’maxにおいて飽和する。尚、本実施形態において、チャンバ変形量が最大となる圧力飽和時の圧力値Pmaxは、比較例における圧力飽和時の圧力値P’maxの約2倍である。また、後壁部712は、肉厚に形成された補強部となっており十分な剛性が確保されているため、バンパレインフォースメント4前面に対向しない非対向部分である凸部711後部においても後方側へ変形することはなく、内部圧力の減少は抑制される。
【0052】
次に、チャンバ圧力と吸収エネルギとの関係について、図7を参照しつつ説明する。同図において、線C10は、前方側領域71fのみにおけるチャンバ圧力と吸収エネルギとの関係を示す線である。線C11は、本実施形態において、前方側領域71fと後方側領域71rとにおける圧力変化と吸収エネルギとの関係を示す線である。線C11’は、比較例において、前方側領域71fと後方側領域71rとにおける圧力変化と吸収エネルギとの関係を示す線である。
【0053】
本実施形態では、前方側領域71fの潰れ変形による吸収エネルギの増加に伴って、チャンバ圧力は線C10に沿って増大し、さらに、後方側領域71rの潰れ変形による吸収エネルギの増加に伴って、チャンバ圧力は線C11に沿って急激に増大し、圧力値Pmaxで飽和に達する。これに対し、比較例では、後方側領域71rの潰れ変形による吸収エネルギの増加に伴って、チャンバ圧力は線C11’に沿って緩やかに増大し、圧力値Pmaxよりも低い圧力値P’maxで飽和に達する。
【0054】
従って、例えば、衝突物が歩行者であるか否かを判別するための圧力の閾値THが、比較例における飽和時の圧力P’maxの値に対して僅かに下回る値である(換言すれば、閾値THに対するマージンM’が小さい)場合、比較例においては高い歩行者判別性能を発揮することができない。例えば、衝突条件に起因して圧力が高めに検出された場合、衝突物が歩行者でないのに歩行者であると誤判定する可能性もあり得る。一方、本実施形態においては、飽和時の圧力値Pmaxが閾値THよりも十分に大きい(閾値THに対するマージンMが十分に大きい)ため、高い歩行者判別性能を発揮することができる。例えば、衝突条件に起因して圧力が高めに検出された場合でも、飽和時の圧力値Pmaxの閾値THに対するマージンMが十分に大きいため、衝突物が歩行者でないのに歩行者であると誤判定する可能性は極めて低い。
【0055】
以上詳述したことから明らかなように、本実施例によれば、車両バンパ2内でバンパレインフォースメント4の前面に配設され且つ前壁部709と後壁部712とによって挟まれたチャンバ空間7aを内部に形成してなるチャンバ本体71を有するチャンバ部材7は、車両前後方向において前壁部709側の領域である前方側領域71fの上下高さHFよりも、後壁部712側の領域である後方側領域71rの上下高さHRの方が大きく形成されている。従って、高速走行時の歩行者衝突等のチャンバ部材7の変形が大きい重衝突時には、前方側領域71fよりも上下高さの大きい後方側領域71rが変形することによってチャンバ空間7aの圧力変化が増大するため、圧力センサ8による圧力検出結果に基づいて車両バンパ2への衝突を高い感度で検知することができる。
【0056】
さらに、チャンバ本体71の前方側領域71fと後方側領域71rとの車両前後方向長さの比率を3:2とし、且つ前方側領域71fと後方側領域71rとの上下高さの比率を5:7としたので、前方側領域71fよりも上下高さの大きい後方側領域71rが十分に確保されると共に、後方側領域71rの上下高さHRが十分に確保されるため、チャンバ部材7の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間7aの圧力変化をより確実に(例えば比較例の2倍程度に)増大させることができる。
【0057】
また、後方側領域71rは、車両前後方向において上下高さHRが一定(断面矩形状)であることによって、チャンバ部材7を容易に形成可能な単純な形状としつつ、後方側領域71rにおける上下高さHRを確実に大きくすることができる。
【0058】
また、チャンバ部材7のチャンバ本体71は、軟質樹脂によって形成されるものであり、後壁部712における少なくともバンパレインフォースメント4の前面と対向しない非対向部分に肉厚の補強部が設けられたことによって、衝突の際に、チャンバ本体71は、バンパレインフォースメント4の上方への変形が防止されるので、圧力センサ8の圧力検出性能の低下が抑制される。
【0059】
さらに、衝突判定手段としての歩行者保護装置ECU10は、車両バンパ2への衝突の際に、圧力センサ8による圧力検出値が所定の閾値TH以上であるときに、歩行者の衝突と判定することができる。従って、重衝突時には、前方側領域71fよりも上下高さの大きい後方側領域71rが変形することによってチャンバ空間7aの圧力変化が増大するため、圧力センサ8による圧力検出結果に基づいて、衝突判定手段としての歩行者保護装置ECU10が正確に歩行者か否かを判定可能である。
【0060】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。例えば、上述した実施形態では、後方側領域71rは、車両前後方向において上下高さHRが一定である断面矩形状としたが、これには限られず、車両前方側から後方側に向かって上下高さHRが漸増する形状としてもよい。具体的には、チャンバ部材7の凸部711の断面形状を図8(a)に示すように、台形としてもよい。さらに、同図(b)に示すように、チャンバ本体71の上面71aと、後方側領域71rの後壁部712に対向する車両前方側の凸部711の側壁面とを含めて車両前後方向に対して後方側へ湾曲する曲線状に形成してもよい。また、同図(c)に示すように、凸部711の凸部上面711aが、車両前方側から後方側に向かって上下高さHRが漸増するような傾斜を有してもよい。いずれの場合も、車両バンパ2内の空間を有効に利用可能な形状としつつ、後方側領域71rにおける上下高さHRを確実に大きくすることができる。
【0061】
また、上述した実施形態では、チャンバ本体71の前方側領域71fと後方側領域71rとの車両前後方向長さの比率を3:2としたが、これには限られない。例えば、チャンバ本体71の前方側領域71fと後方側領域71rとの車両前後方向長さの比率を、1:1乃至3:1の範囲内で設定してもよい。このように設定することにより、前方側領域71fよりも上下高さの大きい後方側領域71rが十分に確保されるため、チャンバ部材7の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間7aの圧力変化を確実に増大させることができる。
【0062】
また、上述した実施形態では、前方側領域71fと後方側領域71rとの上下高さの比率を5:7としたが、チャンバ本体71の前方側領域71fと後方側領域71rとの上下高さの比率を、5:6乃至1:2の範囲内で設定してもよい。このように設定することによって、後方側領域71rの上下高さHRが十分に確保されるため、チャンバ部材7の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間7aの圧力変化を確実に増大させることができる。
【0063】
尚、チャンバ本体71の前方側領域71fと後方側領域71rとの車両前後方向長さの比率を1:1乃至3:1とし、且つ前方側領域71fと後方側領域71rとの上下高さの比率を5:6乃至1:2とすることが好ましい。このように設定することによって、前方側領域71fよりも上下高さの大きい後方側領域71rが十分に確保されると共に、後方側領域71rの上下高さHRが十分に確保されるため、チャンバ部材7の変形が大きい重衝突時にチャンバ空間7aの圧力変化をより確実に増大させることができる。
【符号の説明】
【0064】
1:車両用衝突検知装置 2:車両バンパ 3:バンパカバー
4:バンパレインフォースメント 4a:バンパレインフォースメント前面 5:サイドメンバ 6:アブソーバ
7:チャンバ部材 71:チャンバ本体 71a:上面 71f:前方側領域 71r:後方側領域 72:延設部 7a:チャンバ空間 709:前壁部 711:凸部 711a:凸部上面 712:後壁部 8:圧力センサ 81:圧力導入管
10:歩行者保護装置ECU 10a:信号線 20、21:衝突物
101:参考例の車両用衝突検知装置 103:バンパカバー 104:バンパレインフォースメント 106:アブソーバ 107:チャンバ部材 107a:チャンバ空間 120:物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両バンパ内でバンパレインフォースメントの前面に配設され且つ前壁部と後壁部とによって挟まれたチャンバ空間を内部に形成してなるチャンバ本体を有するチャンバ部材と、前記チャンバ空間内の圧力を検出する圧力センサと備え、前記圧力センサによる圧力検出結果に基づいて前記車両バンパへの衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置において、
前記チャンバ部材の前記チャンバ本体は、車両前後方向において前記前壁部側の領域である前方側領域の上下高さよりも、前記後壁部側の領域である後方側領域の上下高さの方が大きく形成されたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【請求項2】
前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、1:1乃至3:1であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項3】
前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:6乃至1:2であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項4】
前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、1:1乃至3:1であり、且つ前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:6乃至1:2であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項5】
前記チャンバ本体の前記前方側領域と前記後方側領域との車両前後方向長さの比率は、3:2であり、且つ前記前方側領域と前記後方側領域との上下高さの比率は、5:7であることを特徴とする請求項4に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項6】
前記後方側領域は、車両前後方向において上下高さが一定であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の車両用衝突検知装置。
【請求項7】
前記後方側領域は、車両前方側から後方側に向かって上下高さが漸増することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の車両用衝突検知装置。
【請求項8】
前記チャンバ部材の前記チャンバ本体は、軟質樹脂によって形成されるものであり、前記後壁部における少なくとも前記バンパレインフォースメントの前面と対向しない非対向部分に肉厚の補強部が設けられたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の車両用衝突検知装置。
【請求項9】
前記圧力センサによって検出された圧力検出値が所定の閾値以上であるときに、歩行者の衝突と判定する衝突判定手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の車両用衝突検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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