説明

車両用電源切替装置及びその設計方法

【課題】 基板一枚に電源切替部品と制御部品を搭載することで部品点数を削減し、製造コストを低減すると共に、電源切替部品と制御部品間をつなぐ配線パターンのスペースを極力広くしながら電源切替部品から制御部品への伝熱を極力抑える電源切替装置を提供する。品ぶひんにもにている厚さ100μm程度のガラスエポキシ基板
【解決手段】 電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、電源切替手段を制御する制御手段とを備え、電源切替手段と制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、かつメタルコア基板は、電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域11と制御手段が搭載される制御手段搭載領域12とに分けられ、電源切替手段搭載領域11と制御手段搭載領域12の間に形成されたメタルからなるn箇所のコア断面部分S1〜Snが所定の熱抵抗の範囲内となるようなメタルコア基板を備えた電源切替装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルコア基板を用いた車両用電源切替装置であって、電源切替手段から制御手段への伝熱を遮蔽するのに適した車両用電源切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源切替装置が従来から知られている。かかる車両用電源切替装置は、電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段であるリレーと、電源切替手段を制御する制御手段であるCPUやコンデンサを搭載している。
【0003】
そして、これらの電気部品や電子部品は、例えば特許文献1に記載されたスイッチング電源装置のように一つの筐体に収容されている。
【0004】
具体的には、このスイッチング電源装置は同公報の図5に示すように、上方が開口したケーシング本体とその開口を覆うように設けられる蓋体とでケーシングが構成されており、ケーシング本体の上端部に蓋体を取り付けることで種々の電子部品が搭載された2つの基板を一体化してなる基板組立体を収納可能な収容空間が形成されるようになっている。そして、熱影響電子部品に相当する電解コンデンサが第2サブ空間に配置される一方、発熱電子部品に相当する整流用ダイオード、スイッチング用パワートランジスタ、トランスなどは全て第1サブ空間に配置され、基板が熱遮蔽板として機能し、第1サブ空間内の熱が第2サブ空間内に及ぶのを防いでいる。
【特許文献1】特開2000−269670号公報(第4−6頁、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、制御手段と電源切替手段を別々の基板に搭載したまま一つの筐体間に収容し更に空気による熱伝達を遮断する熱仕切りを設ける構成や、電源切替手段と制御手段をそれぞれ別の筐体内に収容する構造では部品点数が多くなり、製造コストが高くつく。
【0006】
このような欠点を解決するために、メタルコア基板上に電源切替手段と制御手段を搭載する構成も考えられている。
【0007】
メタルコア基板は一般に銅又はアルミニウムからなる厚さ400μm程度のメタルコアと、メタルコアの両面を覆う厚さ100μm程度のガラスエポキシ材と、ガラスエポキシ材上に選択的にパターニングした配線パターン及び絶縁膜から構成され、メタルコア基板内部にこのようなコア材を備えた構成をとることで放熱性を高めている。
【0008】
なお、制御手段に用いられる部品は耐熱温度が通常125℃以下であり、電源切替手段にはコイルを励磁する電流及び接点を通過する電流が流れるため、数W〜十数Wの発熱がある。また、半田の信頼性を損なわないようにするためには、半田付け部分温度を140℃以下に抑える必要があり、熱を分散させるために電源切替手段はメタルコア基板上に搭載されている。
【0009】
しかしながら、車両用電源切替装置の場合、このようなメタルコア基板を用いることで電源切替手段からの熱がメタルコア基板を介して全て制御手段に伝熱されるのでは、制御手段の耐熱上好ましくない。そのため、メタルコア基板の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の間にスリットを入れて電源切替手段からの熱を制御手段側に伝わりにくくする構成が考えられる。
【0010】
なお、メタルコア基板は、上述したように、メタルコア基板の両面上にガラスエポキシ材を被せて、積層部を形成し、さらに銅箔などからなるパターニングをその上に形成して、絶縁層を更にその上に形成して構成されている。
【0011】
メタルコア基板がこのような構成を有することで、スリットを大きくしたり長くしたりすればするほど電源切替手段搭載領域から制御手段搭載領域への熱伝導を抑えられるが、スリットを大きくしたり長くしたりする分だけ、メタルコア基板のスリットの継ぎ目に応力集中が発生し、メタルコア基板自体の強度が低下してしまう。
【0012】
これに加えて、スリット上を覆うガラスエポキシ材の領域には、スリットに沿って凹み部が形成されてしまうので、配線パターンをスリット上に形成することはできない。
【0013】
しかしながら、近年の車両に搭載される補器の多様化及び複雑化に応じて、車両用電源切替装置に関しても、電源切替手段を制御するために電源切替手段と制御手段の間に数多くの配線パターンを形成する必要が生じている。そのため、スリットを不必要に大きくしたり長くしてしまうと、スリット以外のメタルコア基板の領域に対応するガラスエポキシ層上に配線パターンを集中して形成しなければならず、メタルコア基板上の配線パターンの設計の自由度が著しく低下する。
【0014】
従って、電源切替手段から制御手段にメタルコア基板のコア材を介して伝熱するのを極力抑えつつ、かつ電源切替手段と制御手段との間を電気的に接続する配線パターンを形成できるのに十分な領域をメタルコア基板上になるべく大きく確保することが望まれる。
【0015】
尚、特開平4−255289号公報にはアルミニウム基板上の制御部領域と高電力部領域との間にスリットを形成し、これらの領域間の断熱を図る構成が開示されているが、これはアルミニウム基板上に単にスリットが開示されているに過ぎず、制御部領域と高電力部領域の間を電気的に結ぶ配線パターンの領域を極力広くする構成については何ら開示されていない。
【0016】
同様に、特開平3−237787号公報においても、回路素子の周辺に4つの貫通孔を形成して金属基板上の発熱しない他の回路素子への熱伝導を抑える構成が開示されているが、上述した熱伝導を極力抑えつつ、かつ電源切替手段と制御手段との間の配線パターンの領域を極力広く確保するという点については何ら開示されていない。
【0017】
同様に、特開平9−298345号公報にもアルミニウムベースにスリットが形成されて、発熱部品から非発熱部品への熱影響を極力少なくする点は構成されているが、電源切替手段と制御手段との間の上述した熱伝導を極力抑えつつ、かつこれらの間の配線パターンの領域を極力広く確保するという点については何ら開示されていない。
【0018】
本発明の目的は、部品点数を削減することで製造コストを低減し、簡単な構造のメタルコア基板を用いた車両用電源切替装置であって、電源切替手段から制御手段への伝熱を遮蔽するのに適した車両用電源切替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる車両用電源切替装置は、
車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源制御装置において、
前記電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、
前記電源切替手段を制御する制御手段とを備え、
前記電源切替手段と前記制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、
かつ前記メタルコア基板は、前記電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域と前記制御手段が搭載される制御手段搭載領域とに分けられ、
前記電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の間に形成されたメタルからなるn箇所のコア断面部分をS1〜Snとし、
前記メタルコア基板のコア材をなすメタルの熱伝導率をλ(W/mK)とし、
前記コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける前記各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)とし、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2,・・・Ln−1,Lnとし、
電源切替手段搭載領域に搭載された電源切替手段の総発熱量をQ(W)とし、

【0020】
【数5】

をそれぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが

【0021】
【数6】

を満たすように各コア断面部分がL1,L2,・・・Ln−1,Ln及びS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法を有していることを特徴としている。
【0022】
車両用電源切替装置がこのような単一のメタルコア基板を用いた構成を有することで、部品点数が削減され製造コストを低減できる。また、メタルコア基板にこのような条件を満たす寸法のコア断面部を有することで、メタルコア基板上の制御手段と電源切替手段の間に十分な温度差を設けることができ、熱に対する信頼性も確保できる。
【0023】
また、本発明の請求項2に記載の車両用電源切替装置の設計方法は、
車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源制御装置の設計方法において、
前記電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、
前記電源切替手段を制御する制御手段とを備え、
前記電源切替手段と前記制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、
かつ前記メタルコア基板は、前記電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域と前記制御手段が搭載される制御手段搭載領域とに分けられ、
前記電源切替手段搭載領域と前記制御手段搭載領域の間に形成されたメタルからなるn箇所のコア断面部分をS1〜Snと、
前記メタルコア基板のコア材をなすメタルの熱伝導率をλ(W/mK)とし、
前記コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける前記各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)とし、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2,・・・Ln−1,Lnとし、
電源切替手段搭載領域に搭載された電源切替手段の総発熱量をQ(W)とし、

【0024】
【数7】

をそれぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが

【0025】
【数8】

を満たすような各コア断面部分のL1,L2,・・・Ln−1,Ln及びS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法となるように、n箇所のコア断面部分を設計することを特徴としている。
【0026】
車両用電源切替装置をこのように設計することで、部品点数が削減され製造コストを低減できる。また、メタルコア基板にこのような条件を満たす寸法のコア断面部を形成することでメタルコア基板上の制御手段と電源切替手段の間に十分な温度差を設けることができ、熱に対する信頼性も確保できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、単一のメタルコア基板に電源切替部品と制御部品を搭載することで部品点数を削減し、製造コストを低減する。また、メタルコア基板の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域間のコア断面部を所定範囲の熱抵抗を有する寸法関係とすることで、電源切替手段と制御手段間をつなぐ配線パターンのスペースを極力広くしながら電源切替手段から制御手段への伝熱を極力抑えることができる。即ち、電源切替手段と制御手段の間に十分な温度差をもたせることができ、電源切替手段の発熱に対する信頼性も確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態にかかる車両用電源切替装置及びその設計方法について図面に基いて説明する。本発明の一実施形態にかかる車両用電源切替装置及びその設計方法は、車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源制御装置に関するものである。
【0029】
かかる車両用電源切替装置は、例えばリレーやパワートランジスタからなり、電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、例えばICやコンデンサからなり、電源切替手段を制御する制御手段とを備え、電源切替手段と制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、かつメタルコア基板は、電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域と制御手段が搭載される制御手段搭載領域とに分けられている。
【0030】
そして、メタルコア基板は、一般に銅又はアルミニウムからなる厚さ400μm程度のメタルコアと、メタルコアの両面を覆う厚さ100μm程度のガラスエポキシ層と、ガラスエポキシ層上に選択的にパターニングした配線パターン及び絶縁膜から構成されており、メタルコア部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間に複数のスリットを有している。また、これらの領域間に形成されたn箇所のコア断面部分をS1〜Snとし、メタルコア基板のコア材をなすメタルコアの熱伝導率をλ(W/mK)、コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2・・・Ln−1,Ln、電源切替手段領域に搭載された電源切替手段の総発熱量をQ(W)とし、

【0031】
【数9】

をそれぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが

【0032】
【数10】

を満たすように各コア断面部分がL1,L2,・・・Ln−1,Ln、及びS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法を有し、かつL1,L2,・・・Ln−1,Lnは電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の距離以下となるように寸法設計を行うようになっている。
【0033】
以下、このように各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが上述した範囲内となっていることによる技術的意義について説明する。なお、この技術的意義の説明にあたっては、実際の使用形態に近い簡単な具体例に基いて説明する。
【0034】
この具体例に関する車両用電源切替装置1のメタルコア基板10は、図1に示すようにメタルコア基板上の一方に電源切替手段を搭載する電源切替手段搭載領域11を形成すると共に、メタルコア基板上の他方に制御手段を搭載する制御手段搭載領域12を形成する。
【0035】
そして、電源切替手段搭載領域11と、制御手段搭載領域12の間のメタルコア基板10に両領域間の熱伝導を極力押さえるスリット13を形成する。
【0036】
このスリット13の形成によって、メタルコア基板10のスリット13を除いたコア断面部分Aとコア断面部分Bとでメタルコア基板10の電源切替手段搭載領域11と制御手段搭載領域12とが熱的に接続される。なお、スリット13及びコア断面部分A,Bを覆うガラスエポキシ材の熱抵抗はメタルコアの熱抵抗よりもはるかに大きいので、この場合無視する。
【0037】
図2は、コア断面部分Aの寸法関係を示した部分的斜視図である。この際コア断面部分Aの熱抵抗は

【0038】
【数11】

となり、コア断面部分Aにおける電源切替手段搭載領域11と制御手段搭載領域12との間の熱伝導はこの熱抵抗値によって支配される。
【0039】
このコア断面部分A側の熱抵抗をRaとし、コア断面部分B側の熱抵抗をRbとしたとき、電源切替手段搭載領域11から制御手段搭載領域12への熱抵抗は1/(1/Ra+1/Rb)で表される。
【0040】
また、このような電源切替手段搭載領域11に搭載される電源切替手段であるリレーの平均的仕様は、コイル抵抗135(Ω)コイル電圧12(V)、接点抵抗5(mΩ)接点電流10(A)であるため、リレー1台あたりの発熱量は12×12/135+0.005×10×10=1.5(W)と考えることができる。
【0041】
また、このような電源制御装置に搭載されるリレーは5個が一般的であるため総発熱量は1.5(W)×5個=7.5(W)となるが、実際にはこの全ての熱量がメタルコア基板に流れないものの、最悪のケースではこの熱が全てメタルコア基板上に伝わり7.5(W)が制御手段搭載領域12に伝熱することを考慮しておく必要がある。
【0042】
一般にリレー又はパワートランジスタの搭載された電源切替手段搭載領域11はこれらの発熱性電子部品の半田部が劣化しないように常に140℃以下である必要があり、ICやコンデンサ等の搭載された制御手段搭載領域12はこれらの電子部品の動作保証を行うために125℃以下である必要がある。そして、それぞれの温度に10%の安全率を考慮すると、電源切替手段搭載領域11が126℃以下、制御手段搭載領域12が112.5℃以下となることが必要条件となり、それら2つの領域間に少なくとも13.5℃以上の温度差が必要となる。
【0043】
リレーからメタルコア基板へ流れ込む熱量が7.5(W)でなくそれより少なくなる場合は2つの領域の温度差も小さくなるが、同様に比例して電源切替手段搭載領域11の温度及び制御手段搭載領域12の温度も低下するため、上述した13.5℃の温度差を目安にメタルコア基板の設計を進めておけば実用上問題はない。
【0044】
このため,1/(1/Ra+1/Rb)>13.5/7.5=1.8(K/W)となるようコア断面部分A,Bの各断面積SA,SB,コア断面部分A,Bの各長さLA,LB,コア断面部分をなすメタルコアの熱伝導率λを決定すれば、仮に7.5(W)の熱が伝熱した場合でも1.8×7.5=13.5℃以上の温度差を得ることができるようになる。
【0045】
このような考え方を設計上一般化して、電源切替手段搭載領域における発熱性電子部品の総発熱量をQ(W)とし、メタルコア基板上の隣接するスリット間に形成されたn個の各コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)とし、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2・・・Ln−1,Lnとすると、各コア断面部分の熱抵抗は、

【0046】
【数12】

となる。そのため、それぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRは

【0047】
【数13】

となる。
【0048】
そして、上述したように、一般にリレー又はパワートランジスタの搭載された電源切替手段搭載領域はこれらの発熱性電子部品の半田部が劣化しないように常に140℃以下である必要があり、ICやコンデンサ等の搭載された制御手段搭載領域ではこれらの電子部品の動作保証を行うために125℃以下である必要がある。それぞれの温度に10%の安全率を考慮すると、電源切替手段搭載領域は126℃以下、制御手段搭載領域は112.5℃以下であることが必要条件となり、それら2つの領域間に少なくとも13.5℃以上の温度差が必要となる。
【0049】
そのため、この温度差以上を電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域間で確保するためには、

【0050】
【数14】

の条件を満たすことが必要であり、この条件を少なくとも満たすように各コア断面部分が各断面コア部分の長さL1,L2,・・・Ln−1,Ln及び各コア断面部分のS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法を有するように設計することで、電源切替手段搭載領域の熱がメタルコア基板を介して全て制御手段搭載領域に伝熱しても制御手段搭載領域上のICやコンデンサなどの制御手段が動作不良を生じることはなくなる。
【0051】
一方、再び実際の使用形態に近い図1に示す簡単な具体例に基いて説明すると、電源切替手段搭載領域11は前述のごとく140℃以下に維持する必要がある。また、車両用の電源切替装置の場合、この電源切替装置が使用される外部環境は通常外気温が最高で80℃になることがある。もし、制御手段搭載領域12と電源切替手段搭載領域11に140℃−80℃=60℃以上の温度差が発生するような設計になっていると、制御手段搭載領域12はそれ自身の発熱があまりなく外気温度とほぼ等しくなっているので、外気温度が80℃のときは電源切替手段搭載領域11が140℃以上になってしまう。これを避けるためには、熱抵抗をある値以下に抑えなければならないが、リレーから発生する熱はその全てがメタルコア基板10に伝わるのではなく、発熱量の約半分(7.5Wの半分)がメタルコア基板10を介して電源切替手段搭載領域11から制御手段搭載領域12に伝わると仮定してメタルコア基板10の設計をしておけば概略間違いはない。
【0052】
つまり、60(K)÷(7.5(W)/2)=16(K/W) 以下の熱抵抗であれば、車両周囲の外気温度が80℃の場合でも電源切替手段搭載領域11が140℃以上になる可能性がほぼ無くなる。
【0053】
もちろん、制御手段搭載領域12と電源切替手段搭載領域11を収納するケースの形状、取り付けの姿勢によってもメタルコア基板温度は変わってくるが、上述した具体例における熱抵抗基準(1.8(K/W)以上でかつ16(K/W)以下)は効率的に熱絶縁機構設計を進める上で有用な指針となる。
【0054】
このような考え方を設計上一般化すると、電源切替手段搭載領域の発熱量Q(W)の半分であるQ/2(W)がメタルコア基板を介して電源切替手段搭載領域から制御手段搭載領域に伝わると仮定し、制御手段搭載領域と電源切替手段搭載領域に140℃−80°=60°の温度差が発生することを考慮すると、

【0055】
【数15】

このように断面コア部分の熱抵抗の上限値を定め、上述した断面コア部分の熱抵抗の下限値と組み合わせて以下のようなメタルコア基板の断面コア部分の熱抵抗の望ましい範囲を規定すると、

【0056】
【数16】

この範囲内で各断面コア部分の断面積S(1),S(2),・・・S(n−1),S(n)及び長さL1,L2,・・・L(n−1),L(n)を寸法設計することで、電源切替手段の発熱の影響を制御手段が受けることなくメタルコア基板一枚に電源切替手段と制御手段を搭載できるので、部品点数が削減され製造コストを低減できる。
【0057】
また、制御手段と電源切替手段の間に十分な温度差をもたせることができ、電源切替装置の装着された車両の周囲から受ける熱に対する信頼性も確保できる。
【0058】
また、断面コア部分の熱抵抗に上限値を設けることで断面コア部分上に積層されるガラスエポキシ層の面積を確保することができ、メタルコア基板の十分な強度を維持すると共に、メタルコア基板上の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間を電気的に接続する配線パターン用の面積を十分に確保することができる。
【実施例】
【0059】
続いて、上述した実施形態による電源切替装置の設計方法を用いて、コア部分の断面積や長さを上述した各コア部分の合成熱抵抗が所定の範囲内となるように設計した電源切替装置用のメタルコア基板を用いて伝熱のシミュレーションを具体的に行ったので、これを以下に実施例として記載する。
【0060】
本実施例として、図3に示すように、大きさ157mm×77mm、厚さ400μmのサイズを有する銅製のメタルコア基板20に6個のリレー50(51〜56)を搭載した。そして、同図に示すように、スリット状の熱絶縁穴23,24を2箇所に設けた。
【0061】
これによって、電源切替手段であるリレーが搭載される電源切替手段搭載領域21と制御手段であるICやコンデンサが搭載される制御手段搭載領域22との間には、コア断面C,コア断面D,コア断面Eの3箇所のコア断面が形成された。なお、コア孔には基板強度の低下を招かないようにするために、ガラスエポキシ樹脂が充填されているが、伝熱に大きな影響を与えることはない。
【0062】
この場合コア断面Cの熱抵抗は、半円状の部分を直線で近似すると、
【0063】
【数17】

また、コア断面Dの熱抵抗は、半円状の部分を直線で近似すると、
【0064】
【数18】

また、コア断面Eの熱抵抗は、半円状の部分を直線で近似すると、
【0065】
【数19】

よって、1/(1/Rc+1/Rd+1/Re)=2.86(K/W)となり、上述した具体例に規定した熱抵抗基準1.8(K/W)以上で16(K/W)以下の範囲内となった。
【0066】
このメタルコア基板のリレー発熱が6(W)程度である場合のシミュレーション結果を示すと、絶縁穴がない場合、図4のように電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の温度差がほとんど生じない状態となるが(図4に示すサーモグラフィのシミュレーションが両領域で赤色の同色となっていることに留意)、絶縁穴がある場合、図5のように電源切替手段搭載領域の温度に比べて制御手段搭載領域の温度がかなり低くなっている状態となると共に、特にコア断面Eにおいて両領域間を接続する配線パターン間の面積を十分広く確保しつつ両領域間での熱伝導を抑制する効果があることがわかった。
【0067】
なお、本発明は、電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間に以上説明したようなスリットを必ずしも形成する必要はなく、図6に示すようにメタルコア基板の両側からメタルコア31に切り欠き31a,31bを形成し、この切り欠き31a,31b間で挟まれたコア断面部分31cの熱抵抗が本発明で規定した一定の熱抵抗の範囲内に含まれる形態であっても良い。
【0068】
又は、基板自体が非常に細長いメタルコア基板からなり、かつ電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間が本発明で規定される一定の熱抵抗の範囲内に含まれるようになっていても良い。
【0069】
又は、電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のメタルコアの厚みが薄くなってこのコア断面部分の熱抵抗が本発明で規定した一定の熱抵抗の範囲内に含まれるようになっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電源切替装置に使用するメタルコア基板の平面図である。
【図2】図1に示したメタルコア基板のコア断面部分における熱抵抗を説明する斜視図である。
【図3】本発明の実施例に使用した電源切替装置用のメタルコア基板の部分的平面図である。
【図4】本発明の実施例に使用したスリットを有さない比較例に関する熱分布状態を示す基板平面図である。
【図5】本発明の実施例に使用したスリットを有する本実施例の熱分布を示す基板平面図である。
【図6】本実施形態の変形例を示すメタルコア基板の平面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 車両用電源切替装置
10 メタルコア基板
11 電源切替手段搭載領域
12 制御手段搭載領域
13 スリット
20 メタルコア基板
21 電源切替手段搭載領域
22 制御手段搭載領域
23,24 熱絶縁穴
31 メタルコア
31a,31b 切り欠き
31c コア断面部分
50(51〜56) リレー
A,B,C,D,E コア断面部分
L1〜Ln 電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の間の距離
LA,LB コア断面部分の長さ
Q 電源切替手段の総発熱量
R1〜Rn 各コア断面部分の熱抵抗
Ra コア断面部分Aの熱抵抗
Rb コア断面部分Bの熱抵抗
Rc コア断面部分Cの熱抵抗
Rd コア断面部分Dの熱抵抗
Re コア断面部分Eの熱抵抗
ΣR 各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗
S1〜Sn n箇所のコア断面部分
S1(x)〜Sn(x) 各コア断面部分の断面積
SA,SB コア断面部分の断面積
x 各コア断面部分の一端部からの距離
λ メタルコアの熱伝導率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源制御装置において、
前記電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、
前記電源切替手段を制御する制御手段とを備え、
前記電源切替手段と前記制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、
かつ前記メタルコア基板は、前記電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域と前記制御手段が搭載される制御手段搭載領域とに分けられ、
前記電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域の間に形成されたメタルからなるn箇所のコア断面部分をS1〜Snとし、
前記メタルコア基板のコア材をなすメタルの熱伝導率をλ(W/mK)とし、
前記コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける前記各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)とし、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2,・・・Ln−1,Lnとし、
電源切替手段搭載領域に搭載された電源切替手段の総発熱量をQ(W)とし、

【数1】

をそれぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが

【数2】

を満たすように各コア断面部分がL1,L2,・・・Ln−1,Ln及びS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法を有していることを特徴とする車両用電源切替装置。
【請求項2】
車両に搭載された電気部品や電子部品の電源状態の切替えを制御する車両用電源制御装置の設計方法において、
前記電気部品や電子部品の電源状態を切替える電源切替手段と、
前記電源切替手段を制御する制御手段とを備え、
前記電源切替手段と前記制御手段は、1枚のメタルコア基板上に搭載され、
かつ前記メタルコア基板は、前記電源切替手段が搭載される電源切替手段搭載領域と前記制御手段が搭載される制御手段搭載領域とに分けられ、
前記電源切替手段搭載領域と前記制御手段搭載領域の間に形成されたメタルからなるn箇所のコア断面部分をS1〜Snと、
前記メタルコア基板のコア材をなすメタルの熱伝導率をλ(W/mK)とし、
前記コア断面部分S1〜Snの各断面のそれぞれに垂直な方向において各コア断面部分の一端部からの距離xにおける前記各コア断面部分の断面積をそれぞれS1(x)〜Sn(x)とし、各コア断面部分の電源切替手段搭載領域と制御手段搭載領域との間のそれぞれの距離をL1,L2,・・・Ln−1,Lnとし、
電源切替手段搭載領域に搭載された電源切替手段の総発熱量をQ(W)とし、

【数3】

をそれぞれ各コア断面部分の熱抵抗R1,R2,・・・Rn−1,Rnとしたとき、各コア断面部分の熱抵抗の合成抵抗ΣRが

【数4】

を満たすような各コア断面部分のL1,L2,・・・Ln−1,Ln及びS1(x),S2(x),・・・Sn−1(x),Sn(x)の寸法となるように、n箇所のコア断面部分を設計することを特徴とする車両用電源切替装置の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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