説明

車両衝突試験装置の牽引装置

【課題】車両衝突試験装置において、牽引ワイヤロープと牽引装置の連結解除後におけるテスト車両の惰性走行距離を可能な限り短くして、当該テスト車両の衝突精度を高める。
【解決手段】フレーム1に固定される第1クランプ部材CM1と、当該第1クランプ部材CM1と協働して牽引ワイヤロープW1をクランプする第2クランプ部材CM2と、前記牽引ワイヤロープW1のクランプ及びその解除を行うためのレバー部材とから成るクランプ装置を有する車両衝突試験装置の牽引装置であって、前記第2クランプ部材CM2は、コイルバネSによりクランプの解除方向に付勢された状態で前記フレーム1に回動可能に支持され、クランプの解除時には、当該第2クランプ部材CM2は、前記コイルバネSの付勢力により、前記牽引ワイヤロープW1が第1及び第2のいずれのクランプ部材CM1,CM2に対しても接触しない距離を確保し得る角度だけ回動される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周回走行する牽引ワイヤロープをクランプすることによりテスト車両を牽引走行させると共に、バリアに対する当該テスト車両の衝突の直前に、前記牽引ワイヤロープのクランプを解除する構成の車両衝突試験装置の牽引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る図面である図1〜図3並びに図9及び図10を参照して、従来の牽引装置D’及びその問題点について説明する。車両衝突試験装置は、並列状態で周回走行する無端状の牽引ワイヤロープW1 に対して牽引装置D’が解除可能に連結されると共に、当該牽引装置D’とテスト車両Tとが連結ワイヤロープW2 を介して解除可能に連結されて、前記牽引ワイヤロープW1 の周回走行により前記牽引装置D’をガイドレール51に案内させて走行させることにより、連結ワイヤロープW2 を介してテスト車両Tを牽引し、衝突バリア52の直前において、牽引装置D’に対する牽引ワイヤロープW1 のクランプ及び連結ワイヤロープW2 の連結をそれぞれ僅かの時間差を有して解除し、その後に惰性走行するテスト車両Tを衝突バリア52に衝突させて、当該衝突状態の試験を行うための装置である。
【0003】
牽引装置D’は、フレーム1の長手方向に沿った両端部(前後端部)であって、しかも上下方向に沿った上端部には、一対一組のガイドローラ2が互いに逆となる斜方向にずれてそれぞれ取付けられ、前後二対のガイドローラ2は、それぞれガイドレール51の各ガイド板部51aに嵌め込まれて、牽引装置D’は、当該二対のガイトローラ2を介してガイドレール51に沿って走行する。当該フレーム1における前後二対のガイドローラ2の間には、牽引ワイヤロープW1 をクランプするためのクランプ装置C’と、連結ワイヤロープW2 を連結する連結装置Fとが相前後して取付けられている。
【0004】
クランプ装置C’は、フレーム1に固定配置される第1クランプ部材と、当該第1クランプ部材と協働して、牽引ワイヤロープW1 のクランプをするために前記フレーム1に回動可能に支持された第2クランプ部材と、当該第2クランプ部材の非クランプ面側から押圧、及びその解除を行うことにより、前記牽引ワイヤロープW1 のクランプの保持、及びその解除を行うレバー部材を備えている。なお、図9及び図10には、クランプ装置C’を構成する第1及び第2の各クランプ部材、並びにレバー部材は、図示されていないが、そのクランプ及びクランプ解除の原理は、後述の本発明のクランプ装置Cと同一であるので、ここでは、詳細説明を行わない。
【0005】
連結装置Fは、図3に示されるように、連結ワイヤロープW2 を引っ掛けるためのフック体6と、当該フック体6に引っ掛けられた連結ワイヤロープW2 が外れないようにフック開口を閉塞するために、フレーム1に支点ピン7を介して回動可能に支持された閉塞体8と、当該閉塞体8の閉塞姿勢を維持するために、フレーム1に回動可能に支持されたレバー部材9とを備えている。当該レバー部材9がガイドレール51の側板部51bに取付けられたストライカ53に衝突することにより、平面視で回動し、当該回動により、前記閉塞体8の支持が失われて、当該閉塞体8が側面視で支点ピン7を中心に回動することにより、当該フック体6から連結ワイヤロープW2 が外れるように構成されている。
【0006】
そして、牽引装置D’と牽引ワイヤロープW1 とは、クランプ装置C’を介して接続されていると共に、牽引装置D’とテスト車両Tとは、連結ワイヤロープW2 を介して連結され、この状態で、牽引ワイヤロープW1 を駆動すると、当該牽引ワイヤロープW1 の牽引力が、牽引装置D’及び連結ワイヤロープW2 を介してテスト車両Tに伝達されて、当該テスト車両Tがガイドレール51に沿って走行する。テスト車両Tが衝突バリア52の直前に達すると、クランプ装置C’及び連結装置Fの各レバー部材が、ガイドレール51の側板部51bに取付けられたストライカ53に順次衝突して、クランプ装置C’と牽引ワイヤロープW1 とのクランプ、及び連結装置Fと連結ワイヤロープW2 との連結が順次解除され、当該解除後には、テスト車両Tは、所定距離だけ惰性走行して、衝突バリア52に衝突する。また、テスト車両Tの衝突前には、連結ワイヤロープW2 は、図2で3点鎖線で示されるように、惰性走行するテスト車両Tにより走行方向Pに引っ張られて、連結装置Fのフック体6から外される。なお、図3において、10は、フレーム1に対してレバー部材9を回動可能に支持している支点ピンを示す。
【0007】
テスト車両Tの衝突速度、及び衝突位置の各精度である衝突速度を高めるには、当該テスト車両Tが衝突バリア52に衝突する直前まで牽引され続けていること、換言すると、当該牽引の解除後におけるテスト車両Tの惰性走行の距離が短いことが望ましい。
【0008】
従来の牽引装置D’のクランプ装置C’では、クランプ解除後において、牽引ワイヤロープW1 を連結位置から所定距離だけ下方に落下するように、牽引ワイヤロープW1 を50〜60mmだけ持ち上げてクランプすることにより、クランプ解除後における牽引ワイヤロープW1 がクランプ装置C’のクランプ部と接触して、当該クランプ部或いは牽引ワイヤロープW1 が磨耗されるのを防止している。また、図9に示されるように、設備構成によっては、撮影ピット54の前後の部分において、牽引ワイヤロープW1 の引き廻し方向を変えるためのシーブ55が取付けられており、このような設備構成では、牽引ワイヤロープW1 が持ち上げられて牽引装置D’のクランプ装置C’にクランプされていると、衝突バリア52に近付くと、牽引ワイヤロープW1 の側面視における傾斜角度が大きくなって、クランプ解除位置よりも手前側において、牽引ワイヤロープW1 のクランプが解除される事態が発生して、テスト車両Tの衝突精度が一層に低下されてしまうという問題があった。なお、図9において、56は、テスト車両Tの衝突状態を撮影するために、撮影ピット54内に配置された撮影機材を示し、57は、牽引ワイヤロープW1 とのクランプが解除されて、惰性走行する牽引装置D’を停止させるために、撮影ピット54の手前側に配置されたストッパを示す。
【0009】
このため、従来の牽引装置D’では、撮影ピット54の手前端に設けられたシーブ55から起算した牽引ワイヤロープW1 のクランプ解除位置の距離(A’)は、約4mを確保する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−61881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した車両衝突試験装置において、牽引ワイヤロープと牽引装置の連結解除後におけるテスト車両の惰性走行距離を可能な限り短くして、当該テスト車両の衝突精度を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、フレームに固定される第1クランプ部材と、当該第1クランプ部材と協働して牽引ワイヤロープのクランプが可能なように当該第1クランプ部材に対して対向配置状態で前記フレームに回動可能に支持される第2クランプ部材と、当該第2クランプ部材を非クランプ面側から押圧、及びその解除を行うことにより、前記牽引ワイヤロープのクランプ及びその解除を行うためのレバー部材を有するクランプ装置を備えた車両衝突試験装置の牽引装置であって、クランプ時には、前記牽引ワイヤロープを持ち上げることなく、横方向への強制移動のみによりクランプ可能にすると共に、クランプの解除時には、前記牽引ワイヤロープが横方向の原位置に戻った状態で、前記第1及び第2の各クランプ部材のいずれのクランプ部に対しても接触磨耗を防止し得る必要離間距離を確保して離間し得るように、前記第2クランプ部材は、付勢手段によりクランプの解除方向に付勢された状態で前記フレームに回動可能に支持され、クランプの解除時には、当該第2クランプ部材は、前記付勢手段の付勢力により、前記必要離間距離を確保し得る角度だけ強制的に回動されることを特徴としている。
【0013】
請求項1の発明によれば、第1クランプ部材と協働して牽引ワイヤロープをクランプするために、フレームに回動可能に支持された第2クランプ部材は、クランプ時には、前記牽引ワイヤロープを持ち上げることなく、横方向への強制移動のみによりクランプ可能にすると共に、クランプの解除時には、前記牽引ワイヤロープが横方向の原位置に戻った状態で、前記第1及び第2の各クランプ部材のいずれのクランプ部に対しても接触磨耗を防止し得る必要離間距離を確保して離間し得るように、前記第2クランプ部材は、付勢手段によりクランプの解除方向に付勢された状態で前記フレームに回動可能に支持されている。即ち、牽引ワイヤロープの牽引力は、牽引装置のクランプ装置を構成する第2クランプ部材のクランプ部に対する押圧力として作用し、牽引ワイヤロープとのクランプを解除するようには作用しない。よって、クランプの解除時には、当該第2クランプ部材は、前記付勢手段の付勢力により、前記必要離間距離を確保し得る角度だけ強制的に回動されて、牽引ワイヤロープは横方向に移動して原位置に戻るため、クランプ解除後において、第1及び第2の各クランプ部材のクランプ部と、牽引ワイヤロープとが直接に接触しなくなる。
【0014】
この結果、請求項1の発明によれば、牽引装置と牽引ワイヤロープとの連結解除位置を衝突バリアに可能な限り近付けることが可能となって、テスト車両の惰性走行距離が短くなるため、当該テスト車両の衝突速度、及び衝突バリアに対するテスト車両の衝突位置の双方を設定値或いは設定位置に近付けることができて、テスト車両の衝突精度が高められる。特に、撮影ピットの前後の部分において、牽引ワイヤロープの引き廻し方向を変えるためのシーブが取付けられている構成の設備の場合には、牽引ワイヤロープを持ち上げて、牽引装置のクランプ装置にクランプする構成では、設定されたクランプ解除位置よりも前方において、当該クランプが解除される恐れがあったが、請求項1の発明によれば、当該恐れはなくなって、設定されたクランプ解除位置において、牽引装置のクランプ装置と牽引ワイヤロープとのクランプを確実に解除できる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記フレームには、第1及び第2の各クランプ部材の略上半部を収容可能な凹部が形成され、前記第2クランプ部材をフレームに対して回動可能に支持する回動支持軸は、当該フレームの前記凹部におけるガイドレールの幅方向に沿った内側面に臨む部分に組み込まれる別体の一対の軸支持体に支持され、前記付勢手段は、一対のコイルバネで構成されて、各コイルバネの巻回部は、前記回動支持軸に外嵌されて、前記軸支持体の側面、及び第2クランプ部材における当該軸支持体の側面と対向する面に設けられた凹部に収容されると共に、各コイルバネの両端の直線部は、それぞれ前記第2クランプ部材と前記軸支持体の各対向面に形成された収納溝に収納される構成であることを特徴としている。
【0016】
請求項2の発明によれば、付勢手段を構成する一対のコイルバネの巻回部、及びその両端の各直線部は、いずれも、前記軸支持体の側面、及び前記第2クランプ部材における当該軸支持体の側面と対向する端面にそれぞれ設けられた各収納溝に収納されて、外部に全く露出しない。このため、牽引装置の衝突時における衝撃によっても、一対のコイルバネの損傷、或いは破損を防止できる。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記フレームには、第1及び第2の各クランプ部材の略上半部を収容可能な凹部が形成され、前記第2クランプ部材をフレームに対して回動可能に支持する回動支持軸は、当該フレームの前記凹部における前記ガイドレールの幅方向に沿った内側面に臨む部分に組み込まれる別体の一対の軸支持体に支持され、前記付勢手段は、コイルバネで構成され、当該コイルバネの巻回部を支持するコイルバネ支持軸は、前記第1及び第2の各クランプ部材の間に配置されて、前記一対の軸支持体に両端部が支持されると共に、当該コイルバネの両端の直線部は、前記第1及び第2の各クランプ部材の対向面に弾接されていることを特徴としている。
【0018】
請求項3の発明によれば、単に一つのコイルバネのみで、クランプ装置を構成する第2クランプ部材を非クランプ方向に付勢させられる。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記第1クランプ部材は、フレームの傾斜内壁面に沿った固定位置が微調整可能となって、牽引ワイヤロープのクランプ力が調整可能になっていることを特徴としている。
【0020】
請求項4の発明によれば、フレームの傾斜内壁面に対する第1クランプ部材の固定位置の微調整により、第1及び第2の各クランプ部材によりクランプされる牽引ワイヤロープのクランプ力の微調整を行える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1クランプ部材と協働して牽引ワイヤロープをクランプするための第2クランプ部材は、付勢手段によりクランプの解除方向に付勢された状態で前記フレームに回動可能に支持されているので、牽引装置と牽引ワイヤロープとの連結解除位置を衝突バリアに可能な限り近付けることが可能となって、テスト車両の惰性走行距離が短くなるため、当該テスト車両の衝突速度、及び衝突バリアに対するテスト車両の衝突位置の双方を設定値或いは設定位置に近付けることができて、テスト車両の衝突精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る牽引装置Dによりテスト車両Tを牽引している状態を示す平面図である。
【図2】本発明に係る牽引装置Dの側面図である。
【図3】(a),(b)は、それぞれ連結装置Fの側面図及び平面図である。
【図4】牽引装置Dを斜下方から見た斜視図である。
【図5】牽引装置Dを構成するクランプ装置Cの第2クランプ部材CM2 の部分拡大断面図である。
【図6】(a),(b)は、それぞれ牽引装置Dを構成するクランプ装置Cのクランプ時、及び非クランプ時の横断面図である。
【図7】(a),(b)は、それぞれクランプ装置Cのクランプ時、及び非クランプ時の模式的平面図である。
【図8】本発明に係る牽引装置Dを備えた車両衝突試験装置の模式的側面図である。
【図9】従来の牽引装置D’を備えた車両衝突試験装置の模式的側面図である。
【図10】図9の牽引装置D’の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図7に示される最良の実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明に係る牽引装置Dによりテスト車両Tを牽引している状態を示す平面図であり、図2は、牽引装置Dの側面図であり、図3(a),(b)は、それぞれ連結装置Fの側面図及び平面図であり、図4は、牽引装置Dを斜下方から見た斜視図であり、図5は、牽引装置Dを構成するクランプ装置Cの第2クランプ部材CM2 の部分拡大断面図であり、図6(a),(b)は、それぞれ牽引装置Dを構成するクランプ装置Cのクランプ時、及び非クランプ時の横断面図であり、図7(a),(b)は、それぞれクランプ装置Cのクランプ時、及び非クランプ時の模式的平面図である。なお、本発明の特徴は、牽引装置Dを構成するクランプ装置Cに存在し、当該クランプ装置Cを除く部分は、「背景技術」の項目で説明した内容と同一であるので、重複説明を避けて、以下、クランプ装置Cの部分についてのみ詳細に説明する。
【0024】
図4及び図6に示されるように、フレーム1の長手方向の中央部には、方形状の凹部11が下面に開口して形成され、当該凹部11における牽引装置Dの走行方向Pに沿った一方の側面は、第1クランプ部材CM1 を斜上下方向に沿って昇降可能に配置するための傾斜内壁面12となっている。クランプ装置Cは、図4〜図7に詳細に図示されているように、フレーム1の前記凹部11の傾斜内壁面12に沿った取付け位置を微調整可能にして当該凹部11に固定配置される第1クランプ部材CM1 と、当該第1クランプ部材CM1 と協働して牽引ワイヤロープW1 のクランプが可能なように当該第1クランプ部材CM1 に対して対向配置状態で前記フレーム1に横断面視で回動可能に配置される第2クランプ部材CM2 と、当該第2クランプ部材CM2 を非クランプ側から押圧、及びその解除を行うことにより、前記牽引ワイヤロープW1 のクランプ、及びその解除を行うレバー部材Lとで構成される。
【0025】
第1クランプ部材CM1 は、その上半部がフレーム1の凹部11に収納された状態で、調整ボルトを兼用した一対の固定ボルト13を介して当該フレーム1に固定される。一対の固定ボルト13により、フレーム1の傾斜内壁面12に対する第1クランプ部材CM1 の傾斜面14の密着位置を変更することにより、当該第1クランプ部材CM1 をガイドレール51の幅方向Qに微動させて、第1及び第2の各クランプ部材CM1 ,CM2 による牽引ワイヤロープW1 のクランプ力の調整を可能にしている。
【0026】
フレーム1の凹部11におけるガイドレール51の幅方向Qに沿った内側面に臨む部分には、一対の軸支持体15が一体に嵌め込まれて、固定ボルト17により固定されている。第2クランプ部材CM2 をフレーム1に対して回動可能に支持する回動支持軸16の両端部は、前記一対の軸支持体15に支持されている。第2クランプ部材CM2 における各軸支持体15と対向する各端面18と、当該各軸支持体15の対向側面15aとには、コイルバネSの巻回部S1 及び当該巻回部S1 の両端の各直線部S2 を収納可能とする各収納溝19,21及び同22,23が接続して形成されている。コイルバネSの巻回部S1 を収納する収納溝19,22は、回動支持軸16を挿入するために第2クランプ部材CM2 及び各軸支持体15に形成された軸挿通孔の開口に近い部分の内径を大きくすることにより形成される。そして、図4及び図5に示されるように、第2クランプ部材CM2 の軸挿通孔に回動支持軸16を挿通させた状態で、当該回動支持軸16における第2クランプ部材CM2 の両端面18から突出した部分に、それぞれコイルバネSの巻回部S1 を外嵌させ、当該コイルバネSの一方の直線部S2 を第2クランプ部材CM2 の端面18に形成された収納溝21に収納すると共に、他方の直線部S2 を軸支持体15に形成された収納溝23に収納させた状態で、第2クランプ部材CM2 及び一対の軸支持体15をフレーム1の凹部11に組み込むと、第2クランプ部材CM2 は、フレーム1に固定された第1クランプ部材CM1 に対して対向し、しかも当該第1クランプ部材CM1 に対して離間する方向に付勢された状態で、回動支持軸16に対して回動可能に支持される。
【0027】
また、図6及び図7に示されるように、レバー部材Lは、牽引ワイヤロープW1 のクランプ時には、コイルバネSの復元力(付勢力)に抗して、カム部32により第2クランプ部材CM2 の反クランプ面の側から当該第2クランプ部材CM2 を第1クランプ部材CM1 の側に向けて押圧して、先端の各クランプ部CM1a, CM2aで牽引ワイヤロープW1 をクランプした状態を保持すると共に、牽引ワイヤロープW1 のクランプ解除時には、トリガー部33を前記ストライカ53に衝突させて、当該レバー部材Lの全体を回動させることにより、前記カム部32による押圧を解除させて、コイルバネSの復元力により、第2クランプ部材CM2 を第1クランプ部材CM1 に対して最大に離間させるための部材である。このため、レバー部材Lは、フレーム1に回動可能に支持される支持軸部31の下端部に前記カム部32とトリガー部33とが、位相を180度ずらして一体に設けられた構成であって、フレーム1の支持孔34の下方から前記支持軸部31が挿入されて、当該支持軸部31は、前記支持孔34の上端部に部分挿入された支持体35に対してボルト36を介して一体に連結されている。
【0028】
ここで、無端状の牽引ワイヤロープW1 は、ガイドレール51内においては、引張側と弛み側の各牽引ワイヤロープW1a, W1bは、ほぼ同一高さ位置に配置されて、互いに逆方向に走行する関係となる。本発明では、クランプ装置Cを構成する第1及び第2の各クランプ部材CM1,CM2 の上下方向に沿った長さ(寸法)は、引張側の牽引ワイヤロープW1aを持ち上げることなく、弛み側の牽引ワイヤロープW1bに対して離間する横方向に移動させるのみで、クランプ装置Cに対してクランプ可能な寸法を選択してある。
【0029】
このため、図6(a)及び図7(a)に示されるように、レバー部材Lのカム部32により、第2クランプ部材CM2 の反クランプ面側が第1クランプ部材CM1 の側に押圧されて、第1及び第2の各クランプ部材CM1,CM2 により引張側の牽引用ワイヤロープW1aがクランプされている状態で、レバー部材Lのトリガー部33がストライカ53に衝突すると、当該レバー部材Lは、支持軸部31を中心に平面視で時計方向に回動して、レバー部材Lのカム部32による第2クランプ部材CM2 に対する押圧が解除される。これにより、図6(a)及び図7(a)に示されるように、第2クランプ部材CM2 は、コイルバネSの復元力により、回動支持軸16を中心にして、第1クランプ部材CM1 から離間する方向に強制的に回動させられて、引張側の牽引ワイヤロープW1aは、原位置である弛み側の牽引ワイヤロープW1bに近接する方向に戻されて、クランプが解除された引張側の牽引ワイヤロープW1aは、第1及び第2の各クランプ部材CM1,CM2 の各クランプ部CM1a, CM2aのほぼ中間位置に配置される。なお、第1クランプ部材CM1 に対する第2クランプ部材CM2 の離間力を大きくするために、レバー部材Lの支持軸部31の下端部の特定部位には、切欠き部31aを設けてある。よって、引張側の牽引ワイヤロープW1aは、クランプ力の解除により、横方向のみに移動されて原位置に戻るが、第1及び第2の各クランプ部材CM1,CM2 の各クランプ部CM1a, CM2aのいずれに対しても接触しない。
【0030】
なお、牽引ワイヤロープW1 と連結ワイヤロープW2 の各連結の解除は、テスト車両Tの走行方向Pに沿ってクランプ装置Cが連結装置Fよりも前方に配置されているために、同一のストライカ53に対してクランプ装置Cのレバー部材Lが衝突した後に、連結装置Fのレバー部材9が衝突するため、牽引ワイヤロープW1 の連結(クランプ)の解除の直後に、連結ワイヤロープW2 の連結が解除される関係にある。
【0031】
このように、本発明に係る牽引装置Dによれば、引張側の牽引ワイヤロープW1aを上方に持ち上げることなく、横方向にのみ僅かな距離B(10〜20mm)だけ移動させることにより、牽引装置Dのクランプ装置Cに対して牽引ワイヤロープW1aをクランプさせられるので、図8に示されるように、仮に撮影ピット54の前後に、牽引ワイヤロープW1 の引き廻し方向を変更させるためのシーブ55が設けられている設備構成においても、前記牽引ワイヤロープW1aのクランプ解除位置を衝突バリア52に対して限りなく近付けても、牽引ワイヤロープW1 のクランプが解除され易くなることはない。即ち、撮影ピット54の手前端とストライカ53との距離Aを、従来装置の距離A’よりも短くできる(A<A’)。この結果、牽引ワイヤロープW1aのクランプ解除位置を可能な限り衝突バリア52に近接させることができて、テスト車両Tの惰性走行距離を短くできて、衝突バリア52に対するテスト車両の衝突速度、及び衝突位置を設定通りに行えて、衝突試験の精度が高められる。
【0032】
特に、上記実施例では、一対のコイルバネSの巻回部S1 及びその両端の各直線部S2 は、いずれも、前記軸支持体15の対向側面15a及び第2クランプ部材CM2 の端面18にそれぞれ設けられた各収納溝19、21、22、23に収納されて、外部に露出する部分がないので、牽引装置Dの衝突時における衝撃によっても、一対のコイルバネSの損傷、或いは破損を防止できる利点がある。
【0033】
また、別の実施例として、コイルバネの巻回部を外嵌状態で支持するコイルバネ支持軸は、第1及び第2の各クランプ部材の間に配置されて、その両端部が前記一対の軸支持体に支持されて、前記コイルバネの両端の各直線部は、前記各クランプ部材の対向面に弾接される構成も挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
C:クランプ装置
CM1 :第1クランプ部材
CM2 :第2クランプ部材
CM1a:第1クランプ部材のクランプ部
CM2a:第2クランプ部材のクランプ部
D:牽引装置
F:連結装置
L:レバー部材
P:テスト車両の走行方向
Q:ガイドレールの幅方向
S:コイルバネ
1 :コイルバネの巻回部
2 :コイルバネの直線部
1 :牽引ワイヤロープ
1a:引張側の牽引ワイヤロープ
1b:弛み側の牽引ワイヤロープ
2 :連結ワイヤロープ
1:フレーム
11:フレームの凹部
12:フレームの傾斜内壁面
15:軸支持体
16:回動支持軸
19,21:第2クランプ部材に形成された収納溝
22,23:軸支持体に形成された収納溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに固定される第1クランプ部材と、当該第1クランプ部材と協働して牽引ワイヤロープのクランプが可能なように当該第1クランプ部材に対して対向配置状態で前記フレームに回動可能に支持される第2クランプ部材と、当該第2クランプ部材を非クランプ面側から押圧、及びその解除を行うことにより、前記牽引ワイヤロープのクランプ及びその解除を行うためのレバー部材とを有するクランプ装置を備えた車両衝突試験装置の牽引装置であって、
クランプ時には、前記牽引ワイヤロープを持ち上げることなく、横方向への強制移動のみによりクランプ可能にすると共に、クランプの解除時には、前記牽引ワイヤロープが横方向の原位置に戻った状態で、前記第1及び第2の各クランプ部材のいずれのクランプ部に対しても接触磨耗を防止し得る必要離間距離を確保して離間し得るように、前記第2クランプ部材は、付勢手段によりクランプの解除方向に付勢された状態で前記フレームに回動可能に支持され、
クランプの解除時には、当該第2クランプ部材は、前記付勢手段の付勢力により、前記必要離間距離を確保し得る角度だけ強制的に回動されることを特徴とする車両衝突試験装置の牽引装置。
【請求項2】
前記フレームには、第1及び第2の各クランプ部材の略上半部を収容可能な凹部が形成され、前記第2クランプ部材をフレームに対して回動可能に支持する回動支持軸は、当該フレームの前記凹部におけるガイドレールの幅方向に沿った内側面に臨む部分に組み込まれる別体の一対の軸支持体に支持され、
前記付勢手段は、一対のコイルバネで構成されて、各コイルバネの巻回部は、前記回動支持軸に外嵌されて、前記軸支持体の側面、及び第2クランプ部材における当該軸支持体の側面と対向する面に設けられた凹部に収容されると共に、各コイルバネの両端の直線部は、それぞれ前記第2クランプ部材と前記軸支持体の各対向面に形成された収納溝に収納される構成であることを特徴とする請求項1に記載の車両衝突試験装置の牽引装置。
【請求項3】
前記フレームには、第1及び第2の各クランプ部材の略上半部を収容可能な凹部が形成され、前記第2クランプ部材をフレームに対して回動可能に支持する回動支持軸は、当該フレームの前記凹部における前記ガイドレールの幅方向に沿った内側面に臨む部分に組み込まれる別体の一対の軸支持体に支持され、
前記付勢手段は、コイルバネで構成され、当該コイルバネの巻回部を支持するコイルバネ支持軸は、前記第1及び第2の各クランプ部材の間に配置されて、前記一対の軸支持体に両端部が支持されると共に、当該コイルバネの両端の直線部は、前記第1及び第2の各クランプ部材の対向面に弾接されていることを特徴とする請求項1に記載の車両衝突試験装置の牽引装置。
【請求項4】
前記第1クランプ部材は、フレームの傾斜内壁面に沿った固定位置が微調整可能となって、牽引ワイヤロープのクランプ力が調整可能になっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両衝突試験装置の牽引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−242251(P2012−242251A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113029(P2011−113029)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)