説明

車両走行距離記憶装置

【課題】不揮発性メモリの容量の増加を抑え、且つ、不揮発性メモリを頻繁に書き換えることなく簡易な処理で走行距離を記憶できる車両走行距離記憶装置を提供する。
【解決手段】車両走行距離記憶装置は、不揮発性メモリ14に複数のデータ部が設けられ、これら複数のデータ部には、距離情報として第1距離情報又は第2距離情報が予め書き込まれている。また、アドレスポインタ記憶手段13に、複数のデータ部のうち書き換え対象となるデータ部に割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタが記憶されている。そして、車両が単位距離を走行したことが検出されたとき、アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に第1距離情報が書き込まれていると、第2距離情報を該データ部に書き込み、且つ、第2距離情報が書き込まれていると、第1距離情報を該データ部に書き込む。そして、アドレスポインタを循環的に順次進める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行距離を記憶する車両走行距離記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両においては、インスツルメントパネルなどに設けられた液晶ディスプレイ装置などに車両の走行距離を表示するために、車両の走行距離を記憶する車両走行距離記憶装置が搭載されている。このような車両走行距離記憶装置は、一般的には1kmとされている単位距離を走行したことを検出する毎に、該単位距離を積算するとともに、電源断となってもデータを保持できる不揮発性メモリに記憶する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、近年、より詳細な走行記録を残すために、単位距離を0.1kmとして走行距離を記憶することが要望されている。以下に、このような単位距離を0.1kmとした従来の車両走行距離記録装置の構成例について図7を参照して説明する。
【0004】
図7に、従来の車両走行距離記録装置が備える不揮発性メモリとしてのEEPROM714の構成を示す。EEPROM714には、連続したアドレス0〜9が割り当てられた10個のデータ部D(0)〜D(9)(カッコ内はデータ部Dのアドレスを示す)からなる走行距離記憶エリアKが設けられている。この走行距離記憶エリアKは、単位距離を0.1kmとして、0.0km〜0.9kmまでの走行距離を記憶する。初期状態において、この走行距離記憶エリアKの10個のデータ部D(0)〜D(9)には、「0xFFFF」が予め格納されている。また、更新対象となるデータ部Dに割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタAPを備えている。
【0005】
そして、車両が0.1kmを走行したことを検出する毎に、アドレスポインタAPによって示されるアドレスのデータ部D(AP)に、距離情報として「0x0000」を書き込むとともに、アドレスポインタAPを先頭アドレス(0)から末尾アドレス(9)に向けて1つずつ順次進めていく。そして、末尾アドレスのデータ部D(9)に「0x0000」が書き込まれたとき、走行距離が1kmに到達した(即ち、桁上がりが発生した)ものとして、別途、単位距離を1kmとして走行距離を記憶する他の走行距離記憶エリアに新たに1kmを積算して記憶するとともに、上記10個のデータ部D(0)〜D(9)を全て「0xFFFF」に書き換える。そして、再度、上述したように0.1kmの走行の検出に応じて先頭アドレスのデータ部D(0)から順次距離情報を書き込む。このようにして、0.1km単位で走行距離を記憶していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−273188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の車両走行距離記憶装置では、桁上がりとなる距離を単位距離で割った数(即ち、1kmを0.1kmで割った数=10個)の走行距離を表現する必要があるので、その数のデータ部を用意しなければならず、不揮発性メモリの容量を増加する必要があるという問題があった。また、不揮発性メモリの容量の増加を抑えるために、例えば、データ部を1つだけ設けて、この1つのデータ部に0.0km〜0.9kmを示す距離情報を書き込む構成が考えられるが、単位距離が0.1kmと非常に短いので、データ部が頻繁に書き換えられて、車両の走行距離(全走行距離)が長くなくても、不揮発性メモリの書き換え回数が上限に達してしまうという問題があった。また、桁上がりが発生すると、複数のデータ部を「0xFFFF」で全て書き換える必要があり、処理が煩雑であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、不揮発性メモリの容量の増加を抑え、且つ、不揮発性メモリを頻繁に書き換えることなく簡易な処理で走行距離を記憶できる車両走行距離記憶装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、図1の基本構成図に示すように、(a)連続したアドレスが割り当てられた複数のデータ部が設けられた書き換え可能な不揮発性メモリ14と、(b)前記複数のデータ部のうち書き換え対象となるデータ部に割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタが記憶されるアドレスポインタ記憶手段13と、(c)車両が所定の単位距離を走行したことを検出する走行検出手段11aと、(d)前記走行検出手段11aによって前記単位距離を走行したことが検出されたとき、前記アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に所定の距離情報を書き込むデータ部更新手段11bと、(e)前記データ部更新手段11bによって前記距離情報が書き込まれたとき、前記アドレスポインタ記憶手段13に記憶されているアドレスポインタを前記連続したアドレスの範囲内で循環的に順次進めるアドレスポインタ更新手段11cと、を備えた車両走行距離記憶装置において、前記複数のデータ部には、前記距離情報として、所定の第1距離情報又は前記第1距離情報とは異なる所定の第2距離情報が予め書き込まれており、そして、前記データ部更新手段11bには、前記走行検出手段11aによって前記単位距離を走行したことが検出されたとき、前記アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に書き込まれている前記距離情報が、前記第1距離情報及び前記第2距離情報のいずれかであるかを判定する距離情報判定手段11dと、前記距離情報判定手段11dによって前記距離情報が前記第1距離情報と判定されたとき、前記第2距離情報を前記データ部に書き込み、且つ、前記距離情報が前記第2距離情報と判定されたとき、前記第1距離情報を前記データ部に書き込む距離情報書込手段11eと、が含まれることを特徴とする車両走行距離記憶装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記距離情報が少なくとも3以上のビット数からなるとともに、前記第1距離情報は全ビットが1で表され、且つ、前記第2距離情報は全ビットが0で表され、そして、前記距離情報判定手段11dは、前記データ部に書き込まれている前記距離情報の全ビットに含まれる1のビットが半数を超えていたとき、前記距離情報が前記第1距離情報であると判定し、且つ、前記距離情報の全ビットに含まれる0のビットが半数を超えていたとき、前記距離情報が前記第2距離情報であると判定することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記複数のデータ部に書き込まれた前記距離情報に基づいて前記アドレスポインタを取得するアドレスポインタ取得手段を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項1に記載された発明によれば、不揮発性メモリには、連続したアドレスが割り当てられた複数のデータ部が設けられ、これら複数のデータ部には、距離情報として、所定の第1距離情報又は前記第1距離情報とは異なる所定の第2距離情報が予め書き込まれている。また、アドレスポインタ記憶手段には、複数のデータ部のうち書き換え対象となるデータ部に割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタが記憶されている。そして、車両が所定の単位距離を走行したことが検出されたとき、アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に書き込まれている距離情報が、第1距離情報及び第2距離情報のいずれかであるかを判定して、距離情報が第1距離情報と判定されたとき、第2距離情報をデータ部に書き込み、且つ、距離情報が第2距離情報と判定されたとき、第1距離情報をデータ部に書き込む。そして、アドレスポインタを前記連続したアドレスの範囲内で循環的に順次進める。これにより、単位距離の走行の検出に応じて、データ部に、第1距離情報と第2距離情報とが交互に書き込まれるとともに、アドレスポインタが先頭アドレスから末尾アドレスまで循環的に順次進められて、先頭アドレスから末尾アドレスまでの複数のデータ部に第2距離情報を順次書き込み、続いて、先頭アドレスから末尾アドレスまでの複数のデータ部に第1距離情報を順次書き込み、これらを交互に繰り返す。
【0013】
請求項2に記載された発明によれば、距離情報が少なくとも3以上のビット数からなるとともに、第1距離情報は全ビットが1で表され、且つ、第2距離情報は全ビットが0で表されている。そして、データ部に書き込まれている距離情報の全ビットに含まれる1のビットが半数を超えていたとき、距離情報が前記第1距離情報であると判定し、且つ、距離情報の全ビットに含まれる0のビットが半数を超えていたとき、距離情報が第2距離情報であると判定する。つまり、距離情報の全ビットにおける多数決により、データ部に書き込まれている距離情報が、第1距離情報及び第2距離情報のいずれかであるかを判定する。
【0014】
請求項3に記載された発明によれば、複数のデータ部に書き込まれた距離情報に基づいて前記アドレスポインタを取得する。
【発明の効果】
【0015】
以上より、請求項1に記載された発明によれば、単位距離の走行の検出に応じて、データ部に、第1距離情報と第2距離情報とが交互に書き込まれるので、1つのデータ部によって異なる2個の走行距離を表現することができ、そのため、データ部の数の2倍の個数の走行距離を表現することができる。換言すると、必要なデータ部の数を1/2にすることができ、不揮発性メモリの容量の増加を抑えることができる。また、順次書き換えられるデータ部が複数設けられているので、データ部が頻繁に書き換えられることを防ぐことができる。また、アドレスポインタが先頭アドレスから末尾アドレスまで循環的に順次進められて、先頭アドレスから末尾アドレスまでの複数のデータ部に第2距離情報を順次書き込み、続いて、先頭アドレスから末尾アドレスまでの複数のデータ部に第1距離情報を順次書き込み、これらを交互に繰り返すので、末尾アドレスのデータ部を書き換えた時点で全てのデータ部が第1距離情報及び第2距離情報のいずれか一方に書き換わっており、そのため、桁上がりに伴う複数のデータ部の書き換え処理が不要となり、簡易な処理で走行距離を記憶できる。
【0016】
請求項2に記載された発明によれば、距離情報の全ビットにおける多数決により、データ部に書き込まれている距離情報が、第1距離情報及び第2距離情報のいずれかであるかを判定するので、一般的に、不揮発性メモリに生じる故障は、初期段階においては1つの記憶単位(例えば、16ビット)の中で特定の1つビットの値が固定されてしまうものであり、そのため、距離情報の全ビットの多数決を取ることにより、不揮発性メモリに故障が生じていた場合でも、正しい判定をすることができ、信頼性を向上させることができる。
【0017】
請求項3に記載された発明によれば、複数のデータ部に書き込まれた距離情報に基づいて前記アドレスポインタを取得するので、電源断から復帰した場合においても、不揮発性メモリに設けられたデータ部に書き込まれた距離情報からアドレスポインタを得ることができ、そのため、不揮発性メモリにアドレスポインタを記憶する領域を設ける必要が無く、不揮発性メモリの容量の増加をさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車両走行距離記憶装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明に係る車両走行距離記憶装置の一実施形態である走行距離計の一実施形態を示す構成図である。
【図3】図1の走行距離計が備えるメモリに設けられたデータ部の構成を説明する図である。
【図4】図2の走行距離計のCPUが行う本発明に係る処理(走行距離取得処理)の一例を示すフローチャートである。
【図5】図2の走行距離計のCPUが行う本発明に係る処理(走行距離記憶処理)の一例を示すフローチャートである。
【図6】(a)〜(d)は、図2の走行距離計が備えるメモリに設けられたデータ部の値が書き換えられていく様子を説明する図である。
【図7】従来の車両走行距離記憶装置が備えるEEPROMに設けられたデータ部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る車両走行距離記憶装置の一実施形態である走行距離計を、図2〜図6を参照して説明する。
【0020】
走行距離計1は、車両が走行した走行距離(全走行距離(積算走行距離ともいう)や所定区間の区間走行距離など)を計測するとともに電源断でも計測した走行距離を保持可能に記憶する、オドメータ及びトリップメータとして機能する車両用計器であり、0.1km単位で走行距離を記憶するものである。走行距離計1は、走行距離を0km〜99999kmまで1km単位で記憶し、これとは別に、0.0km〜0.9kmまで0.1km単位で記憶して、これらを合算することで走行距離を算出、表示する。
【0021】
走行距離計1は、図2に示すように、表示部10と、中央演算処理装置(CPU)11と、ROM(read only memory)12と、アドレスポインタ記憶手段としてのRAM(random access memory)13と、不揮発性メモリとしてのメモリ14と、を備えている。
【0022】
表示部10は、例えば、液晶ディスプレイ装置等が用いられ、車両のインスツルメントパネルに設けられるコンビネーションメータ内等に配設されている。表示部10は、CPU11からの要求に応じて、全走行距離や区間走行距離などの各種情報の表示を行う。
【0023】
CPU11は、走行距離計1における各種制御を司り、ROM12に記憶されている各種制御プログラムにしたがって本実施形態に係る制御を含む各種の処理を実行する。ROM12は、前記制御プログラムやこの制御プログラムに参照されるパラメータなどの各種情報を記憶している。特に、ROM12は、CPU11を、走行検出手段、データ部更新手段、アドレスポインタ更新手段、距離情報判定手段、距離情報書込手段、及び、アドレスポインタ取得手段、などの各種手段として機能させるための制御プログラムを記憶している。そして、CPU11は、そのプログラムを実行することで、前述した各種手段として機能する。
【0024】
メモリ14は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュメモリなどの、電源断となってもデータを保持できる不揮発性メモリで構成されている。メモリ14には、図3に示すように、0.1kmを単位距離として、0.0km〜0.9kmの走行距離を記憶するための走行距離記憶エリアJが設けられている。この走行距離記憶エリアJは、連続した0〜4のアドレスが割り当てられた5つのデータ部D(0)〜D(4)で構成されている。なお、データ部Dの符号に付されたカッコ内の数字はデータ部Dのアドレスを示している。
【0025】
これらデータ部Dには、走行距離を示す距離情報として、「0xFFFF」(即ち、第1距離情報)又は「0x0000」(即ち、第2距離情報)が書き込まれる。また、初期状態(例えば、工場出荷時など)において、これら全てのデータ部Dには、「0xFFFF」が書き込まれている。これら距離情報としては、「0xFFFF」、「0x0000」に限らず、少なくとも互いに異なる値が用いられていれば、どのような値でもよい。
【0026】
また、メモリ14には、1kmを単位距離として走行距離を記憶するための図示しない他の走行距離記憶エリアも設けられている。なお、1kmを単位距離として走行距離を記憶する処理については、本発明の範囲を超えるものであるので詳細説明を省略するが、例えば、特許文献1に開示されている処理や、本発明において、単位距離を1km、複数のデータ部の数を50000、として0km〜99999kmの走行距離を記憶する処理など、走行距離計1の構成などに応じて適宜定められる。
【0027】
RAM13は、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ、プログラム等が適宜記憶される。また、RAM13には、メモリ14に設けられた走行距離記憶エリアJが備える複数のデータ部のうち、単位距離の検出に応じて書き換えを行う(即ち、書き換え対象の)データ部Dに割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタAPを記憶するアドレスポインタ記憶エリアが設けられている。なお、アドレスポインタAPは、例えば、CPU11のレジスタなど、他の記憶手段に記憶してもよい。また、RAM13には、走行距離が0.5km以上であることを示す0.5kmフラグを記憶するフラグ記憶エリアが設けられている。
【0028】
上述したアドレスポインタAPが示すアドレスと、このアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれた距離情報と、の組み合わせによって、0.0km〜0.9kmの走行距離が表現される。表1に、アドレスポインタAPが示すアドレスと、このアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報と、の組み合わせによって表現される走行距離を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
また、走行距離計1は、外部インタフェース(I/F)18を備えており、この外部インタフェース18を介して、図示しない距離センサが接続されている。そして、CPU11には、図示しない距離センサからトランスミッションの回転に応じた距離信号が、外部インタフェース18を介して入力される。そして、CPU11は、この距離信号に基づいて、車両が単位距離(即ち、0.1km)を走行したことを検出する。
【0031】
次に、上述したCPU11が実行する本発明に係る処理(走行距離取得処理)の一例を、図4に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0032】
走行距離計1に電源が投入されると、CPU11は、所定の初期化処理を実行する。そして、CPU11は、この初期化処理の中で、図4のフローチャートに示すステップS110に進む。
【0033】
ステップS110では、アドレスポインタAPにアドレス1を代入して、ステップS120に進む。
【0034】
ステップS120では、アドレスポインタAPが示すアドレスがアドレス4以下か否か判定し、アドレス4以下のときはステップS130に進み(S120でY)、アドレス4を超えたときはステップS150に進む(S120でN)。
【0035】
ステップS130では、先頭アドレス0のデータ部D(0)に書き込まれている距離情報と、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報と、を比較して、それぞれの距離情報が同じとき、ステップS140に進み(S130でY)、それぞれの距離情報が異なるとき、ステップS160に進む(S130でN)。
【0036】
ステップS140では、アドレスポインタAPのアドレスを1進めて、ステップS120に戻る。
【0037】
ステップS150では、アドレスポインタAPにアドレス0を代入して、ステップS160に進む。
【0038】
ステップS160では、走行距離を取得する。具体的には、ステップS160の時点で、アドレスポインタAPは書き換え対象となるデータ部Dに割り当てられたアドレスを示しており、このアドレスポインタAPが示すアドレスと、このアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報との組み合わせに基づいて走行距離を取得する(表1)。そして、取得した走行距離と、別途取得した1km単位の走行距離とを合算したのち、表示部10に対して表示を要求する。そして、本フローチャートの処理を終了する。なお、上述したステップS110〜S150は、請求項中のアドレスポインタ取得手段に相当する。
【0039】
次に、上述したCPU11が実行する本発明に係る処理(走行距離記録処理)の一例を、図5に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0040】
CPU11は、上述の走行距離取得処理を含む所定の初期化処理を終えると、図5のフローチャートに示すステップT110に進む。
【0041】
ステップT110では、図示しない距離センサから入力される距離信号に基づいて、車両が0.1kmを走行するまで待ち(T110でN)、0.1kmを走行したことを検出するとステップT120に進む(T110でY)。
【0042】
ステップT120では、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報が、「0xFFFF」か否かを判定し、距離情報が「0xFFFF」であれば、ステップT130に進み(T120でY)、距離情報が「0xFFFF」でなければ、ステップT150に進む(T120でN)。
【0043】
または、ステップT120では、上記以外の他の処理として、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報の全ビットに含まれる1のビット数が半分を超えていれば(即ち、距離情報の全ビットのうち1のビットが9以上のとき)、「0xFFFF」が書き込まれているものとしてステップT130に進み、0のビット数が半分を超えていれば(即ち、距離情報の全ビットのうち0のビットが9以上のとき)、「0x0000」が書き込まれているものとしてステップT150に進み、1のビットと0のビットとが同数のときは、表示部10に異常検出の表示を要求する、ようにしてもよい。このように、距離情報の全ビットにおける多数決によって、データ部Dに書き込まれている距離情報が、「0xFFFF」及び「0x0000」のいずれかであるかを判定するので、一般的に、不揮発性メモリに生じる故障は、初期段階においては1つの記憶単位(例えば、16ビット)の中で特定の1つビットの値が固定されてしまうものであり、そのため、距離情報の全ビットの多数決を取ることにより、不揮発性メモリに故障が生じていた場合でも、正しい判定をすることができ、信頼性を向上させることができる。
【0044】
ステップT130では、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に「0x0000」を書き込んで、ステップT140に進む。
【0045】
ステップT140では、0.5km走行したことを示す0.5kmフラグを「偽」に設定して、ステップT170に進む。
【0046】
ステップT150では、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に「0xFFFF」を書き込んで、ステップT160に進む。
【0047】
ステップT160では、上述した0.5kmフラグを「真」に設定して、ステップT170に進む。
【0048】
ステップT170では、アドレスポインタAPのアドレスを1進めて、ステップT180に進む。
【0049】
ステップT180では、アドレスポインタAPが示すアドレスがアドレス4より大きいか否かを判定して、アドレス4より大きいときはステップT190に進み(T180でY)、アドレス4以下のときはステップT110に戻る(T180でN)。
【0050】
ステップT190では、0.5kmフラグが「真」か否かを判定し、「真」であればステップT200に進み(T190でY)、「真」でなければステップT210に進む(T190でN)。
【0051】
ステップT200では、1kmの桁上がりが生じた(即ち、走行距離が1kmに達した)ものとして、メモリ14に設けられた他の走行距離記憶エリアに記憶された走行距離に1kmを積算する。そして、ステップT210に進む。
【0052】
ステップT210では、アドレスポインタAPが示すアドレスに先頭のアドレス0を代入して、ステップT110に戻り、上述した各ステップの処理を繰り返す。
【0053】
なお、上述したステップT110が、請求項中の走行検出手段に相当し、ステップT120が、請求項中のデータ部更新手段(距離情報判定手段)に相当し、ステップT130、T150が、請求項中のデータ部更新手段(距離情報書込手段)に相当し、ステップT170、T180、T210が、請求項中のアドレスポインタ更新手段に相当する。
【0054】
次に、上述した走行距離計1における本発明に係る動作(作用)について説明する。
【0055】
走行距離計1は、電源が投入されると、メモリ14に設けられた走行距離記憶エリアJの複数のデータ部D(0)〜D(4)のうち先頭アドレス0のデータ部D(0)に書き込まれた距離情報を、先頭アドレス0の次のアドレス1から末尾アドレス4までのデータ部D(1)〜D(4)に書き込まれた距離情報と順次比較していき(S110〜S140)、末尾アドレス4のデータ部D(4)との比較を終える前に、先頭アドレス0のデータ部D(0)に書き込まれた距離情報と異なる距離情報が検出されたとき(S130でN)、この異なる距離情報が書き込まれたデータ部Dに割り当てられたアドレスをアドレスポインタAPとしてアドレスポインタ記憶エリアに記憶し、且つ、末尾アドレス4のデータ部D(4)との比較を終えた時点で、先頭アドレス0のデータ部D(0)に書き込まれた距離情報と異なる距離情報が検出されなかったとき(S120でN)、先頭アドレス0をアドレスポインタAPとして(S150)アドレスポインタ記憶エリアに記憶する。即ち、複数のデータ部Dに書き込まれた距離情報に基づいてアドレスポインタAPを取得する。そして、アドレスポインタAPが示すアドレスと、このアドレスのデータ部Dに基づいて0.0km〜0.9kmの走行距離を取得して、別途取得した1kmを単位距離とした走行距離と合わせて表示部10に表示する(S160)。
【0056】
続いて、走行距離計1は、車両が単位距離0.1kmを走行したことを検出すると(T110)、アドレスポインタAPが指示する書き換え対象のデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報を、「0x0000」または「0xFFFF」に交互に書き換えて(T120、T130、T150)、アドレスポインタAPを0〜4の範囲で循環的に順次進めるとともに(T170、T180、T210)、末尾アドレス4のデータ部D(4)に書き込んだ距離情報が「0xFFFF」だったとき(T180でY、T190でY)、走行距離が1kmに達したものとして、メモリ14に設けられた他の走行距離記憶エリアに記憶された走行距離に1kmを積算する(T200)。
【0057】
図6(a)〜(d)に、メモリ14に設けられた走行距離記憶エリアJのデータ部D(0)〜D(4)が書き換えられていく様子の一部を示す。図6(a)は走行距離が0.0kmのときの走行距離記憶エリアJを示し、図6(b)は走行距離が0.2kmのときの走行距離記憶エリアJを示し、図6(c)は走行距離が0.6kmのときの走行距離記憶エリアJを示し、図6(d)は走行距離が0.9kmのときの走行距離記憶エリアJを示している。
【0058】
本実施形態によれば、メモリ14には、連続したアドレス0〜4が割り当てられた複数のデータ部Dからなる走行距離記憶エリアJが設けられ、初期状態において、これら複数のデータ部Dには、距離情報として、「0xFFFF」が予め書き込まれている。また、RAM13には、複数のデータ部Dのうち書き換え対象となるデータ部Dに割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタAPが記憶されている。そして、車両が所定の単位距離0.1kmを走行したことが検出されたとき、アドレスポインタAPが示すアドレスのデータ部D(AP)に書き込まれている距離情報が、「0xFFFF」及び「0x0000」のいずれかであるかを判定して、距離情報が「0xFFFF」と判定されたとき、「0x0000」をデータ部D(AP)に書き込み、且つ、距離情報が「0x0000」と判定されたとき、「0xFFFF」をデータ部D(AP)に書き込む。そして、アドレスポインタAPを前記連続したアドレス0〜4の範囲内で循環的に順次進める。これにより、単位距離0.1kmの走行の検出に応じて、データ部Dに、「0xFFFF」と「0x0000」とが交互に書き込まれるとともに、アドレスポインタAPが先頭アドレス0から末尾アドレス4まで循環的に順次進められて、先頭アドレス0から末尾アドレス4までの複数のデータ部Dに「0x0000」を順次書き込み、続いて、先頭アドレス0から末尾アドレス4までの複数のデータ部Dに「0xFFFF」を順次書き込み、これらを交互に繰り返す。
【0059】
また、複数のデータ部Dに書き込まれた距離情報に基づいて前記アドレスポインタを取得する。
【0060】
以上より、本発明によれば、単位距離の走行の検出に応じて、複数のデータ部Dに、第1距離情報としての「0xFFFF」と第2距離情報としての「0x0000」とが交互に書き込まれるので、1つのデータ部によって異なる2個の走行距離を表現することができ、そのため、データ部の数の2倍の個数の走行距離を表現することができる。換言すると、必要なデータ部Dの数を1/2にすることができ、メモリ14の容量の増加を抑えることができる。また、順次書き換えられるデータ部Dが複数設けられているので、データ部Dが頻繁に書き換えられることを防ぐことができる。また、アドレスポインタAPが先頭アドレス0から末尾アドレス4まで循環的に順次進められて、先頭アドレス0から末尾アドレス4までの複数のデータ部D(0)〜D(4)に「0x0000」を順次書き込み、続いて、先頭アドレス0から末尾アドレス4までの複数のデータ部D(0)〜D(4)に「0xFFFF」を順次書き込み、これらを交互に繰り返すので、末尾アドレス4のデータ部D(4)を書き換えた時点で全てのデータ部Dが「0xFFFF」及び「0x0000」のいずれか一方に書き換わっており、そのため、1kmの桁上がりに伴う複数のデータ部Dの書き換え処理が不要となり、簡易な処理で走行距離を記憶できる。
【0061】
また、複数のデータ部Dに書き込まれた距離情報に基づいてアドレスポインタAPを取得するので、電源断から復帰した場合においても、メモリ14に設けられたデータ部Dに書き込まれた距離情報からアドレスポインタAPを得ることができ、そのため、メモリ14に、電源断のときでもアドレスポインタAPを保持するための領域を設ける必要が無く、メモリ14の容量の増加をさらに抑えることができる。
【0062】
上述した本実施形態では、走行距離取得処理において、データ部D(0)の距離情報と、データ部D(1)〜D(4)の距離情報と、をアドレス1〜4まで順次進めながら比較して、データ部D(0)と異なる距離情報が書き込まれた最も小さいアドレスのデータ部Dを検索して、アドレスポインタAPを取得するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、データ部Dの数が多い場合は、より検索速度の速い二分探索法などを用いて、上記異なる距離情報が書き込まれた最も小さいアドレスのデータ部Dを検索して、アドレスポインタAPを取得するなど、複数のデータ部Dに書き込まれた距離情報に基づいてアドレスポインタAPを取得するものであれば、その処理方法は任意である。
【0063】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 走行距離計(車両走行距離記憶装置)
10 表示部
11 CPU(走行検出手段、データ部更新手段、アドレスポインタ更新手段、距離情報判定手段、距離情報書込手段、アドレスポインタ取得手段)
12 ROM
13 RAM(アドレスポインタ記憶手段)
14 メモリ(不揮発性メモリ)
AP アドレスポインタ
D データ部
J 走行距離記憶エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)連続したアドレスが割り当てられた複数のデータ部が設けられた書き換え可能な不揮発性メモリと、(b)前記複数のデータ部のうち書き換え対象となるデータ部に割り当てられたアドレスを示すアドレスポインタが記憶されるアドレスポインタ記憶手段と、(c)車両が所定の単位距離を走行したことを検出する走行検出手段と、(d)前記走行検出手段によって前記単位距離を走行したことが検出されたとき、前記アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に所定の距離情報を書き込むデータ部更新手段と、(e)前記データ部更新手段によって前記距離情報が書き込まれたとき、前記アドレスポインタ記憶手段に記憶されているアドレスポインタを前記連続したアドレスの範囲内で循環的に順次進めるアドレスポインタ更新手段と、を備えた車両走行距離記憶装置において、
前記複数のデータ部には、前記距離情報として、所定の第1距離情報又は前記第1距離情報とは異なる所定の第2距離情報が予め書き込まれており、そして、
前記データ部更新手段には、
前記走行検出手段によって前記単位距離を走行したことが検出されたとき、前記アドレスポインタが示すアドレスのデータ部に書き込まれている前記距離情報が、前記第1距離情報及び前記第2距離情報のいずれかであるかを判定する距離情報判定手段と、
前記距離情報判定手段によって前記距離情報が前記第1距離情報と判定されたとき、前記第2距離情報を前記データ部に書き込み、且つ、前記距離情報が前記第2距離情報と判定されたとき、前記第1距離情報を前記データ部に書き込む距離情報書込手段と、が含まれる
ことを特徴とする車両走行距離記憶装置。
【請求項2】
前記距離情報が少なくとも3以上のビット数からなるとともに、前記第1距離情報は全ビットが1で表され、且つ、前記第2距離情報は全ビットが0で表され、そして、
前記距離情報判定手段は、前記データ部に書き込まれている前記距離情報の全ビットに含まれる1のビットが半数を超えていたとき、前記距離情報が前記第1距離情報であると判定し、且つ、前記距離情報の全ビットに含まれる0のビットが半数を超えていたとき、前記距離情報が前記第2距離情報であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両走行距離記憶装置。
【請求項3】
前記複数のデータ部に書き込まれた前記距離情報に基づいて前記アドレスポインタを取得するアドレスポインタ取得手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両走行距離記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−153955(P2011−153955A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16334(P2010−16334)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】