説明

車両運用計画における線区分け方法

【課題】運用される列車に対して適切な線区分けを行うための線区分け方法を提供する。
【解決手段】線区分け処理部20は、運行される列車が2つの線区にまたがっていて、線区を一意に決定できない場合には、各線区間において列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区を列車の線区として設定し、また、列車ダイヤの複数の区間のうちの特定区間が2つの線区の両方に所属している場合には、設定された特定区間の前後の区間の線区を参照し、特定区間の前後のいずれか一方側の線区を、前記特定区間の線区として設定し、更に、列車ダイヤの各区間において、前記設定した線区が複数存在する場合には、各区間に列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区に統一するような線区分けを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば列車ダイヤが全国にまたがるような場合でも効率よく適切な車両運用計画を作成できるように、車両運用計画を作成する際の前処理において、列車ダイヤを適切な区間で自動的に分割(以下、「線区分け」という)できるようにするための車両運用計画における線区分け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
与えられた列車ダイヤに対して車両運用計画を作成する場合、従来では、専門知識や作成経験を有する作成者が手作業で行っていたが、近年、コンピュータを用いて効率よく車両運用計画を作成するための技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1の発明では、列車ダイヤを接続して列車の運用パターンを構成し、所定の制約条件の下で複数の運用パターンを順次連結して列車の運用計画を作成する際において、運用パターンの解探索と運用計画の解探索とを相互に関連づけて行い、運用計画の解候補の評価結果に応じて運用パターンの作成を軌道修正できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−315308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1のように、所定の制約条件の下で複数の運用パターンを順次連結して列車の運用計画を作成する際の前処理において、従来では、計画作成担当者(作成者)が列車ダイヤを線区というエリアで分割(以下、「線区分け」という)した後に、線区分けした各線区単位で運用計画を作成している。
【0006】
このように、従来では、作成者(人間)の判断によって列車ダイヤを線区分けしているので、線区分けの品質が作成者個人のスキル等に依存し、適切な線区分けがなされないこともある。適切な線区分けがなされないと、その後に車両の運用計画を作成する際において、効率のよい計画が作成できなくなる。
【0007】
特に、列車ダイヤが北海道から九州までの日本全国にまたがっている貨物列車の運用計画を作成する場合においては、運用計画の範囲が非常に広く、また、車両のタイプも牽引する列車に応じて変更しなければならいため、車両の運用計画を作成する前処理の段階で列車ダイヤを適切に線区分けすることが重要となる。
【0008】
そこで、本発明は、例えば貨物列車のように、列車ダイヤが北海道から九州までの日本全国にまたがっていて運用計画の範囲が非常に広い場合でも、効率よく計画が作成できるように、列車ダイヤを適切に線区分けするための車両運用計画における線区分け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明に係る車両運用計画における線区分け方法は、最初に予め設定された制約条件に基づいて列車と線区の組み合わせを確定させる際に、列車ダイヤに基づいて運行される列車が少なくも2つの線区にまたがっていて、線区を一意に決定できない場合には、2つの線区間において列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区を、列車の線区として設定する第1のステップと、列車ダイヤの複数の区間のうちの特定区間が前記2つの線区の両方に所属して、前記第1のステップでは前記特定区間の線区を一意に決定できない場合には、第1のステップで設定された前記特定区間の前後の区間の線区を参照し、前記特定区間の前後のいずれか一方側の線区を、前記特定区間の線区として設定する第2のステップと、列車ダイヤの前記各区間において、前記第1のステップ及び前記第2のステップで設定した線区が複数存在する場合には、前記各区間に列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区に統一する第3のステップと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る線区分け方法によれば、列車ダイヤに基づいて運行される列車が少なくも2つの線区にまたがっていている場合でも、運行に沿った適切な線区分けを行うことができる。従って、例えば貨物列車のように、列車ダイヤが北海道から九州までの日本全国にまたがっていて運用計画の範囲が非常に広く、また、車両のタイプも複数となる場合でも、効率よく適切な列車の運用計画を作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る線区分け方法を実施するための線区分け装置の構成を示すブロック図。
【図2】列車ダイヤの一例を示す図。
【図3】線区分け装置の線区分け処理部の構成を示すブロック図。
【図4】(a)は、乗入の定義を説明するための図、(b)は、2重籍の定義を説明するための図。
【図5】本実施形態における線区分けの処理を示すフローチャート。
【図6】本実施形態における線区分けの処理を説明するための図。
【図7】本実施形態における線区分けの処理を説明するための図。
【図8】本実施形態における線区分けの処理を説明するための図。
【図9】本実施形態における線区分けの処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る線区分け方法を行うための線区分け装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
車両運用計画は、使用順序や保守管理等を含む車両の運用に関する計画を定めたものであり、与えられた所定の列車ダイヤを基に作成される。図2に、列車ダイヤの一例を示す。なお、図2において、横軸を時間、縦軸を駅(A駅、B駅、C駅、D駅)として、列車の運行を表す「列車スジ」により列車ダイヤが表現されている。各「列車スジ」には、対応する列車番号(列車1、列車2、列車3、列車4)がそれぞれ表記されている。
【0014】
図2の列車ダイヤにおいて、例えば、列車1は、A駅を出発してC駅に終着する列車であり、A駅からB駅までの運行aと、B駅からC駅までの運行cという運行情報を有している。同様に、列車2は、D駅を出発してB駅に終着する列車であり、D駅からC駅までの運行bと、C駅からB駅までの運行dという運行情報を有している。なお、列車3、列車4についても、各運行情報(運行e、運行f、運行g、運行h)を有している。
【0015】
そして、車両運用計画においては、この列車ダイヤを実現するために、当該列車ダイヤを構成する全ての列車に対して列車を割り当てて、運用スケジュールを作成する。
【0016】
ところで、例えば列車ダイヤが北海道から九州までの日本全国にまたがっている貨物列車の運用計画を作成する場合においては、運用計画の範囲が非常に広く、解の複雑度が増すこととなる。このため、運用計画を作成する前処理の段階で、列車ダイヤを適切に線区分けし、各線区単位で運用計画を作成するようにしている。以下、本実施形態に係る車両運用計画における線区分け方法について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態における線区分け装置1は、処理装置2と、記憶装置3と、運行される列車の列車番号等を入力するためのキーボードやマウス等の入力装置4と、処理装置2により設定された線区等が表示される液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置5とを主要構成部として備えたコンピュータによって主に構成されている。処理装置2、記憶装置3、入力装置4及び表示装置5は、バス6によって接続されている。
【0018】
処理装置2は、線区分け処理部20を有している。線区分け処理部20は、図3に示すように、記憶装置3に記憶された各種情報(後述する列車運行情報30、線区分け制約条件31、線区分けのための設定条件32)を読み込むデータ読取部21、データ読取部21で読み取った各種情報に基づいて、列車ダイヤをどの区間で分割(線区分け)するのが適切かを判断する線区分け設定部22を有している。なお、本実施形態における前記列車は、機関車に貨車が連結されている貨物列車であり、列車ダイヤに基づいて日本全国を運行している。
【0019】
なお、この処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)と、一時記憶領域としてのRAM(Random Access Memory)などのハード部と、線区分け処理部20での処理を実行させるためにインストールされたコンピュータプログラム(ソフト部)とによって主に構成される。
【0020】
記憶装置3には、列車運行情報30、線区分け制約条件31、線区分けのための設定条件32などが予め記憶されている。記憶装置3は、ハードディスクやUSBメモリなどの記録媒体で構成されている。
【0021】
列車運行情報30には、列車ダイヤデータ(運行される列車(貨物列車)の列車番号に関する情報、駅名や経由等に関する運行情報、運行される列車に対応した線区情報など)30aが含まれている。
【0022】
線区分け制約条件31には、列車が複数の線区(例えば、信越線の線区と羽越の線区)にまたがって運行される場合に設定される以下の(a)〜(f)のような条件が保持されている。
【0023】
(a)列車ダイヤに基づいて運行される各列車を、機関車交換可能な駅単位で分割する。
(b)機関車を交換可能な駅単位で線区を決定する。
(c)列車の所属線区が一意に決まるときは、一意に決まる線区にする。
(d)乗入関係が成立する場合には、乗入側の線区にする(「乗入関係」の定義については後述する)。
(e)2重籍等で線区を一意に決定できない場合には、その前後の区間を参照して線区を決定する(「2重籍」の定義については後述する)。
(g)同一の列車番号が1つの線区に統一可能な場合には、線区を統一する。
【0024】
線区分けのための設定条件32には、線区分け処理を行う際に前記条件(d)の「乗入関係」及び前記条件(e)の「2重籍」を設定するために、例えば下記のような定義情報が保持されている。
【0025】
ここで、上記の「乗入関係」と「2重籍」の定義について説明する。
本実施形態のように、運行される列車が貨物列車の場合、線区は機関車の特性を考慮して区間分割されるが、電気機関車には交流専用、直流専用以外にも、交流直流の両方に対応して複数の線区にまたがって走行可能な電気機関車も存在する。そこで本実施形態では、列車(貨物列車)が複数の線区をまたがって運行される場合でも、効率よく適切な運用計画の解が得られるように、「乗入関係」と「2重籍」という概念を用いる。
【0026】
〈乗入関係〉
上記した交直流対応の電気機関車(交直流電気機関車)のように、ある線区(例えば交流電化区間)から別の線区(例えば直流電化区間)へそのまま運行することが可能である場合には、乗入関係が成立している場合である。
【0027】
例えば、図4(a)に示すように、区間a(例えば交流電化区間)から区間b(例えば直流電化区間)の駅間(駅a、駅b、駅c、駅dの間)を、交直流対応の電気機関車がそのまま運行される場合、区間aが乗入線区、区間bが被乗入線区となるような乗入関係が定義される。
【0028】
〈2重籍〉
隣接する2つの線区の境界駅で機関車交換が必要な場合(例えば、交流電化区間から直流電化区間へ運行する場合)において、機関車交換する境界駅が列車ダイヤ等によって一意に決定しない場合がある。
【0029】
例えば、図4(b)に示すように、区間c(例えば交流電化区間の線区)から区間d(例えば直流電化区間の線区)へ運行する場合、区間d側の境界駅(駅f、駅g)を含む境界区間d’で機関車交換する。この場合、この境界区間d’内の境界駅(駅f、駅g)が、区間cと区間dの両方の線区に所属するように設定する。そして、この境界区間d’の前後の区間の線区を参照し、該境界区間d’の前後のいずれか一方側の線区(区間cもしくは区間d)を、境界区間d’の線区として設定するような2重籍が定義される。
【0030】
次に、本実施形態における線区分け装置1による線区分け方法について説明する。
【0031】
最初に作成者が入力装置4を操作することにより、線区分け処理部20のデータ読取部21に、列車運行情報30に含まれる列車ダイヤデータ30a、及び線区分け制約条件31(上記(a)〜(f)の条件)、線区分けのための設定条件32等が読み込まれる。
【0032】
そして、作成者が入力装置4を操作して、線区分けを設定したい列車の番号(列車番号)を入力すると、線区分け設定部22は、データ読取部21に読み込まれている列車ダイヤデータに基づいて、入力された列車番号の列車が複数の線区にまたがる運行か否かを判定する。そして、この判定でこの列車が複数の線区にまたがっておらず、1つの線区(例えば、東北線の線区)内で運行されるときは、この列車の重量や車両性能等を考慮して自動的にこの線区に設定する。
【0033】
次に、入力された列車番号の列車が複数の線区にまたがって運行されている場合の線区の設定について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、例えば、図6に示す列車1(A駅発、D駅終着)と列車2(D駅発、A駅終着)に対する線区分けを、上記(a)〜(f)の条件に基づいて設定するものである。
【0034】
なお、本実施形態では図6のA駅〜D駅における線区の割当ては、以下のように設定する。
A駅〜B駅 …2重籍を有する線区(線区1又は線区2))
B駅〜C駅 …線区1
C駅〜D駅 …線区2
【0035】
図5のステップS1では、各列車(列車1、列車2)を機関車が交換可能な駅単位に分割する(条件(a))。図6では、B駅とC駅を機関車交換可能な駅とする。
【0036】
そして、図7に示すように、機関車を交換可能な駅(B駅とC駅)単位で線区を決定する(ステップS2)。そして、このステップS2では、上記の条件(c)、条件(d)、条件(f)に基づいて、以下のように線区を設定する。
A駅〜B駅 …不定(一意に決定しない(ステップS3で線区を決定する)
B駅〜C駅 …線区1(一意に決定(条件(c))
C駅〜D駅 …線区2(一意に決定(条件(c))
【0037】
そして、ステップS3では、ステップS2で決定できなかった区間(A駅〜B駅)について、上記の条件(e)に基づいて、図8に示すように、ステップS2で設定されたA駅〜B駅間の前後の区間の線区を参照し、この参照結果に基づいてその線区(図8では線区1)を設定する。
【0038】
即ち、図8において、列車1はA駅が出発駅で、A駅の前には区間はなく(前区間なし)、B駅の後には区間(B駅〜C駅)があるので、A駅〜B駅の区間では線区1が設定される。
【0039】
なお、図8では、条件(e)に基づいてA駅〜B駅の区間を線区1として設定することができたが、例えば、前後関係の所属線区が重複している場合にはデフォルトを採用し、列車が3線区にまたがっている場合には条件(d)に基づいて線区を設定する。
【0040】
そして、ステップS4においては、列車番号単位で線区を統一する。即ち、ステップS4では、条件(d)に基づいて、一つの線区分けされた列車番号に対し、ステップS2とステップS3で決定した線区が複数存在する場合は乗入関係を調べ、乗入関係が成立していれば乗り入れ区間に統一する。
【0041】
よって、一つの運用列車番号(列車1、列車2)に対し、ステップS2とステップS3で決定した区間(C駅〜D駅)の線区が複数存在している場合において、乗入関係が成立している場合は、図9に示すように、乗り入れ区間に統一することで、C駅〜D駅間では線区1が設定される。
【0042】
このように、本実施形態の線区分け方法によれば、列車の運行が複数の線区にまたがっている場合でも、予め定義した「乗入関係」、「2重籍」を含む複数の条件(上記(a)〜(f)の条件)に基づいて、適切な線区分けを自動的に行うことが可能となる。
【0043】
よって、列車の運行が複数の線区にまたがっている場合でも適切な線区分けを行うことができるので、例えば貨物列車のように、列車ダイヤが北海道から九州までの日本全国にまたがっていて運用計画の範囲が非常に広く、また、車両のタイプも複数となる場合でも、効率よく適切な計画を作成することが可能となる。
【0044】
なお、前記実施形態では、列車ダイヤに基づいて運行される列車が貨物列車の場合であったが、運行される列車が旅客列車の場合においても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 線区分け装置
2 処理装置
3 記憶装置
4 入力装置
5 表示装置
20 線区分け処理部
21 データ読取部
22 線区分け設定部
30 列車運行情報
30a 列車ダイヤデータ
31 線区分け制約条件
32 線区分けのための設定条件

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初に予め設定された制約条件に基づいて列車と線区の組み合わせを確定させる際に、列車ダイヤに基づいて運行される列車が少なくも2つの線区にまたがっていて、線区を一意に決定できない場合には、2つの線区間において列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区を、列車の線区として設定する第1のステップと、
列車ダイヤの複数の区間のうちの特定区間が前記2つの線区の両方に所属して、前記第1のステップでは前記特定区間の線区を一意に決定できない場合には、第1のステップで設定された前記特定区間の前後の区間の線区を参照し、前記特定区間の前後のいずれか一方側の線区を、前記特定区間の線区として設定する第2のステップと、
列車ダイヤの各区間において、前記第1のステップ及び前記第2のステップで設定した線区が複数存在する場合には、前記各区間に列車が乗入可能であるか否かを判定して、乗入関係が成立する場合には乗入側の線区に統一する第3のステップと、を含むことを特徴とする車両運用計画における線区分け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−10387(P2013−10387A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143230(P2011−143230)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(593230202)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ (9)
【出願人】(000230696)日本貨物鉄道株式会社 (14)
【Fターム(参考)】