説明

車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置

【課題】車両の発進後における車両重量の推定値の推定精度を向上させることができる車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ用ECUは、停車条件が成立したと判定された場合に車両重量の推定値MSを初期値MS_Reにリセットし(第2のタイミングt12)、車両が発進した場合(第3のタイミングt13)、車両の発進後に所定周期毎に演算された所定数の車両重量データに基づいた暫定推定値Mnを取得する(第4のタイミングt14)。そして、ブレーキ用ECUは、リセット前推定値Maと暫定推定値Mnとの差分ΔMが判定値未満である場合には、車両重量の推定値MSをリセット前推定値Maに戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両重量の推定装置及び車両重量の推定方法に関する。また、本発明は、車両の横転の抑制を図る車両の横転抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両重量を推定する装置として、例えば特許文献1に記載の推定装置が提案されている。この推定装置では、車載の変速機の変速段の変更前に取得された車体加速度及びそのときの駆動トルクと、変速段の変更後に取得された車体加速度及びそのときの駆動トルクとに基づき、車両重量の推定値が算出される。そして、車両のパーキングブレーキの作動信号が推定装置に入力された場合には、車両重量が変化した可能性があると判定され、算出された車両重量の推定値が初期値にリセットされる。その後、車両が再発進した場合には、変速機の変速段の変速を契機に車両重量の推定値が再び算出される。
【0003】
また、工事用トラック、コンクリートミキサー車などのようにパワーテイクオフ装置付きの車両においては、パワーテイクオフ装置からの作動信号が推定装置に入力された場合にも、算出された車両重量の推定値が初期値にリセットされる。「パワーテイクオフ装置」とは、車両駆動用の駆動源(エンジンなど)の動力を作業機の駆動のために取り出す機構のことを示している。
【0004】
なお、車両重量の推定値は、車載の自動変速機の変速制御、エンジン制御及び制動制御などの各種車両制御で、制御パラメータとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−286535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、停車前後で車両の積載量が変化した場合には、停車前に用いていた車両重量の推定値などの制御パラメータが不要となる。そのため、特許文献1に記載の推定装置では、パーキングブレーキからの作動信号やパワーテイクオフ装置からの作動信号が入力される停車条件が成立すると、積載量が変化したと判断されるため、車両重量の推定値は初期値にリセットされる。そして、車両の発進後においては、車両重量を新たに推定する制御処理が行われる。その一方で、停車条件が成立しない場合には、停車前に用いていた車両重量の推定値などの制御パラメータは、車両の発進後でもそのまま用いられる。
【0007】
しかしながら、停車条件が成立したとしても、積載量が変化したとは限らない。そのため、こうした判断方法と、所定周期毎に車両重量データを演算し、該各車両重量データを統計処理して車両重量の推定値を取得する方法とを組み合わせた場合、実際には積載量が変化していなくても停車条件が成立してしまうと、車両重量の推定値を取得するための処理を最初から行う必要が生じる。すなわち、既に統計処理などによって車両重量の推定値が決定していたにも拘わらず、車両の発進後には、発進後に所定周期毎に演算された複数の車両重量データに基づく車両重量の推定値の演算が最初から行われる。
【0008】
こうした統計処理では、車両重量データのデータ数が少ない場合には多い場合と比較して車両重量の推定値の正確性が低い。そのため、車両重量の推定値の正確性が高くなるまでの間では、車両重量の推定値を用いた車両制御によって有効な効果が得られないおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、車両走行時に定期的に演算される車両重量データに基づき車両重量の推定値を決定する場合において、車両の発進後における車両重量の推定値の推定精度を向上させることができる車両重量の推定装置、車両重量の推定方法及び車両の横転抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の車両重量の推定装置は、予め設定された周期毎に、車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、演算された既定数(Y)以上の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第1推定値(Mave)を取得する第1推定値取得手段(30、S23)と、車両が停車したと判断するための停車条件が成立したか否かを判定する停車判定手段(30、S16,S17,S18)と、前記停車条件が成立したと判定された場合に、車両重量の推定値(MS)を初期値(MS_Re)にリセットするリセット手段(30、S27)と、前記停車条件の成立後に車両が発進した場合に、車両の発進後に前記車重データ演算手段(30、S20)によって演算された前記既定数(Y)未満の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第2推定値(Mn)を取得する第2推定値取得手段(30、S29)と、前記停車条件の成立後における車両の発進時に、前記第2推定値取得手段(30、S29)によって取得された車両重量の第2推定値(Mn)と、前記停車条件が成立する前に前記第1推定値取得手段(30、S23)によって取得された車両重量の第1推定値(Mave,Ma)との差分(ΔM)が、車両重量が変化したか否かの判定基準として設定された判定値(Mth)未満である場合には、車両重量の推定値(MS)を、前記初期値(MS_Re)から前記車両重量の第1推定値(Mave,Ma)に戻す推定値決定手段(30、S33)と、を備えることを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、車両の走行中においては、予め設定された周期毎に演算された既定数以上の複数の車両重量データに基づき、車両重量の第1推定値が取得される。そして、この車両重量の第1推定値が、車両重量の推定値に決定される。また、停車条件が成立すると、車両重量の推定値は初期値に決定される。その後、車両が発進すると、発進後に取得された既定数未満の車両重量データに基づき、車両重量の第2推定値が取得される。そして、この第2推定値と停車条件の成立前に取得された車両重量の第1推定値との差分が判定値未満である場合、車両重量の推定値は、初期値から停車条件の成立前の値(即ち、車両重量の第1推定値)に戻される。
【0012】
つまり、本発明では、停車条件の成立前後で、車両の積載量が変化していないと判断された場合、車両重量の推定値は、停車条件の成立前に取得された車両重量の第1推定値に速やかに戻される。そのため、停車条件の成立前の車両重量の第1推定値を利用可能であるにも拘わらず、発進後に演算された車両重量データのデータ数が既定数以上になるまでの間、車両重量の推定値を初期値とし、新たに取得した既定数以上の車両重量データに基づき第1推定値が取得されることが回避される。すなわち、車両の発進後に第1推定値を取得するための制御処理を最初からやり直す場合と比較して、車両の発進後の車両重量の推定値が速やかに正確性の高い値に決定される。したがって、車両走行時に定期的に演算される車両重量データに基づき車両重量の推定値を決定する場合において、車両の発進後における車両重量の推定値の推定精度を向上させることができる。
【0013】
また、正確性の高い車両重量の推定値を車両制御の制御パラメータとして利用することにより、当該車両制御によって有効な効果を得ることができる。
本発明の車両重量の推定装置において、前記推定値決定手段(30、S27,S33)は、前記差分(ΔM)が前記判定値(Mth)以上である場合において、車両の発進後に前記車重データ演算手段(30、S20)によって演算された車両重量データ(M)のデータ数(X)が前記既定数(Y)未満であるときには、車両重量の推定値(MS)を前記初期値(MS_Re)で保持し、車両の発進後に演算された車両重量データ(M)のデータ数(X)が前記既定数(Y)以上であるときには、車両重量の推定値(MS)を、前記第1推定値取得手段(30、S23)によって取得された車両重量の第1推定値(Mave)とすることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、上記差分が判定値以上である場合には、停車条件の成立前後で、車両の積載量が変化したと判断される。その結果、停車条件の成立後に演算された車両重量データのデータ数が既定数以上になるまでの間、車両重量の推定値は初期値とされる。その後、停車条件の成立後に周期毎に演算された車両重量データのデータ数が既定数以上になると、該各車両重量データに基づき、車両重量の第1推定値が新たに取得される。すると、車両重量の推定値は、新たに取得された第1推定値に変更される。すなわち、正確性の高い車両重量の第1推定値が取得されるまでは、初期値を車両重量の推定値とすることができる。
【0015】
本発明の車両重量の推定装置は、前記判定値(Mth)を、前記リセット手段(30、S27)によってリセットされる前の車両重量の推定値(MS,Ma)が大きい場合には小さい場合よりも大きな値に設定する判定値設定手段(30、S31)をさらに備えることが好ましい。
【0016】
車両重量が重い場合には、車両重量が軽い場合よりも、車両の実際の重量に対する車両重量の第2推定値の誤差量が大きくなると考えられる。そこで、本発明では、判定値が、初期値にリセットされる前の車両重量の推定値に基づき設定される。したがって、車両の実際の重量に関係なく、車両の停車中に車両重量が変化したか否かの判定精度を向上させることができる。
【0017】
本発明の車両重量の推定装置において、前記停車条件は、車両のパーキングブレーキ(25)によって車輪(10)に制動力が付与されること、及び、車両が停車してからの経過時間(Ts)が予め設定された停車判定時間(Tsth)以上になったことのうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、車両のパーキングブレーキが操作された場合、及び車両が停止判定時間以上停車する場合には、停車中に車両重量が変化した可能性があると判定される。そして、車両重量の推定値が初期値にリセットされる。
【0019】
本発明は、車両の横転を抑制する横転抑制制御を行う車両の横転抑制装置であって、上記車両重量の推定装置(14,30)と、車両の横方向加速度(Gy)を演算する横方向加速度演算手段(30、S41)と、前記横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値(Gyth)を、前記車両の推定装置(14,30)によって演算された車両重量の推定値(MS)が大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する閾値設定手段(30、S42)と、前記横方向加速度演算手段(30、S41)によって取得された横方向加速度(Gy)が、前記閾値設定手段(30、S42)によって設定された閾値(Gyth)以上である場合に、前記横転抑制制御を開始する制御手段(30、S44)と、を備えることを要旨とする。
【0020】
重量が重いほど車両の重心が上方に移動するため、車両の横転の可能性が高くなる。そこで、本発明では、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値は、決定された車両重量の推定値に基づき設定される。そのため、重量の重い車両では、早いタイミングで横転抑制制御が開始されるため、車両の横転を抑制することができる。一方、重量の軽い車両では、横転の可能性の低いタイミングで横転抑制制御が開始されることが抑制される。すなわち、横転抑制制御の不用意な実行を抑制することができる。
【0021】
本発明の車両重量の推定方法は、予め設定された周期毎に、車両重量データ(M)を演算させる車重データ演算ステップ(S20)と、演算した既定数(Y)以上の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第1推定値(Mave)を取得させる第1推定値取得ステップ(S23)と、車両が停車したと判断するための停車条件が成立したか否かを判定させる停車判定ステップ(S16,S17,S18)と、前記停車条件が成立したと判定した場合に、車両重量の推定値(MS)を初期値(MS_Re)にリセットさせるリセットステップ(S27)と、前記停車条件の成立後における車両の発進時に、車両の発進後に前記車重データ演算ステップ(S20)で演算した前記既定数(Y)未満の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第2推定値(Mn)を取得させる第2推定値取得ステップ(S29)と、前記停車条件の成立後における車両の発進時に、前記第2推定値取得ステップ(S29)で取得した車両重量の第2推定値(Mn)と、前記停車条件の成立前に前記第1推定値取得ステップ(23)で取得した車両重量の第1推定値(Mave,Ma)との差分(ΔM)が、車両重量が変化したか否かの判定基準として設定された判定値(Mth)未満である場合には、車両重量の推定値(MS)を、前記初期値(MS_Re)から前記車両重量の第1推定値(Mave,Ma)に戻させる推定値決定ステップ(S34)と、を有することを要旨とする。
【0022】
上記構成によれば、上記車両重量の推定装置と同等の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の車両重量の推定装置を備える車両の一実施形態を示すブロック図。
【図2】車両重量推定処理ルーチンを説明するフローチャート(前半部分)。
【図3】車両重量推定処理ルーチンを説明するフローチャート(後半部分)。
【図4】横転抑制処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図5】車両の停車中に車両の実際の重量が変化しない場合の車両重量の推定値の変化を示すタイミングチャート。
【図6】車両の停車中に車両の実際の重量が変化した場合の車両重量の推定値の変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0025】
図1に示すように、車両には、複数(例えば、4つ)の車輪10に対して、エンジン11で発生した駆動力を伝達するための動力伝達機構12が設けられている。この動力伝達機構12は、動力伝達経路においてエンジン11側に配置される変速機120と、動力伝達経路において車輪10側に配置されるディファレンシャル121となどを備えている。本実施形態の変速機120は、車両の運転手による図示しない変速操作部の操作態様に応じた変速段に設定される。
【0026】
また、車両には、運転手によるアクセルペダル13の操作態様に基づきエンジン11を制御するエンジン用ECU14(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)が設けられている。このエンジン用ECU14には、アクセルペダル13の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1と、変速機120の出力軸122の回転数を検出するための回転数検出センサSE2とが電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU14は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づきエンジン11を制御する。また、エンジン用ECU14は、回転数検出センサSE2からの検出信号に基づき変速機120の出力軸122の回転数を演算し、該演算した回転数に基づきエンジン11の駆動に基づき車両に付与される駆動トルクを演算する。
【0027】
また、車両には、各車輪10に制動力を付与するための制動装置20が設けられている。この制動装置20は、図示しないブースタ、マスタシリンダ及びリザーバを有する液圧発生装置21と、ブレーキアクチュエータ22とを備えている。そして、運転手がブレーキペダル23を操作した場合、液圧発生装置21のマスタシリンダ内には、ブレーキペダル23の操作量に応じた液圧が発生する。すると、マスタシリンダ内の液圧に応じた液量のブレーキ液が、ブレーキアクチュエータ22の図示しない液圧回路を介して車輪10毎に設けられたホイールシリンダ24内に流入する。その結果、各車輪10には、対応するホイールシリンダ24内の液圧に応じた制動力が付与される。
【0028】
本実施形態の制動装置20は、運転手によるブレーキペダル23の操作時に制動力の大きさを車輪10毎に調整する機能と、ブレーキペダル23の非操作時に車輪10に制動力を付与する機能とを有している。こうした機能を実現させるために、ブレーキアクチュエータ22には、マスタシリンダ内とホイールシリンダ24内との間に差圧を発生させるための差圧弁、ホイールシリンダ24内にブレーキ液を供給するためのポンプ、ホイールシリンダ24内を減圧させる際に作動する減圧弁、及びホイールシリンダ24内の増圧を規制する際に作動する保持弁などが設けられている。
【0029】
また、車両には、運転手による図示しないパーキング操作部が操作された場合に、各車輪10のうち一部の車輪に制動力を付与するパーキングブレーキ25が設けられている。パーキングブレーキ25は、各車輪10のうち一部の車輪に制動力を付与すべく作動する場合には作動信号を車両重量の推定装置の一例としてのブレーキ用ECU30(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)を出力する。
【0030】
ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定値を演算し、該車両重量の推定値を用いて、車両の旋回時における横転を抑制するための横転抑制制御を行う。すなわち、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、車両の横転抑制装置としても機能する。本実施形態において、車両重量とは、車両自体の重量(「車体重量」ともいう。)と、車両に積載された荷物の積載量及び車両に搭乗した乗員に基づく重量とを少なくとも含んだ重量である。また、横転抑制制御とは、車両の横方向加速度を小さくするために、各車輪10に対する制動力を個別に調整すべくブレーキアクチュエータ22を作動させる制御である。
【0031】
こうしたブレーキ用ECU30には、運転手によるブレーキペダル23の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチSW1と、車輪10の車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3とが電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU30には、車両の前後方向加速度(車体加速度)を検出するための前後方向加速度センサSE4と、車両の横方向加速度を検出するための横方向加速度センサSE5とが電気的に接続されている。さらに、ブレーキ用ECU30は、エンジン用ECU14と通信可能となっている。例えば、ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定に必要な情報(例えば、駆動トルク)を、バス40を介してエンジン用ECU14から受信する。
【0032】
なお、前後方向加速度センサSE4からは、車両の重心が後方に移動する際に正の値となるような信号が出力される一方、車両の重心が前方に移動する際に負の値となるような信号が出力される。そのため、車両が登坂路で停車中である場合、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき演算される前後方向加速度は正の値となる。また、車両が降坂路で停車中である場合、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき演算される前後方向加速度は負の値となる。
【0033】
また、ブレーキ用ECU30は、CPU31、ROM32、RAM33及び不揮発性メモリの一例としてのEEPROM34などを備えている。ROM32には、車両重量の推定を行う際や各種制動制御を行う際にCPU31が実行する制御プログラム及び各種マップなどが予め記憶されている。RAM33には、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報(車輪速度等)などが記憶される。EEPROM34には、詳しくは後述するが、車両の前後方向加速度及びエンジン用ECU14から受信した駆動トルクに基づき演算された車両重量データが記憶される記憶領域341が設けられている。したがって、本実施形態では、EEPROM34が、記憶手段として機能する。
【0034】
車両の前後方向加速度が検出限界値(例えば、0.05G)未満である場合には、前後方向加速度センサSE4の性能による限界によって、前後方向加速度の精度が極端に低下する、又は前後方向加速度を演算できない。そのため、正確には、記憶領域341には、前後方向加速度Gxが検出限界値以上である場合に演算された車両重量データが記憶される。
【0035】
なお、回転数検出センサSE2及び前後方向加速度センサSE4からの各検出信号には、信号の大きさに関係なく、ほぼ一定量のノイズ成分が含まれている。そこで、本実施形態では、予め設定された所定周期毎に車両重量データMが演算される。そして、予め設定された既定数の車両重量データMを用いて、車両重量の通常推定値(車両重量の第1推定値)が演算される。既定数とは、そのデータ数で統計処理を行えば正確性の高い車両重量の推定値を取得できると考えられる「1」以上の整数である。本実施形態では、既定数は、例えば「15」個に設定されている。
【0036】
次に、本実施形態のブレーキ用ECU30が実行する各種制御処理ルーチンについて、図2、図3及び図4に示すフローチャートと、図5及び図6に示すタイミングチャートとを参照して説明する。なお、図2及び図3は車両重量の推定値を演算する際に実行される重量推定処理ルーチンを説明するフローチャートを示すと共に、図4は車両の横転を抑制するための横転抑制処理ルーチンを説明するフローチャートを示している。また、図5は停車中に車両の実際の重量が変化しない場合における車両重量の推定値の変化態様を説明するタイミングチャートを示すと共に、図6は停車中に車両の実際の重量が変化する場合における車両重量の推定値の変化態様を説明するタイミングチャートを示している。
【0037】
始めに、重量推定処理ルーチンについて説明する。
さて、重量推定処理ルーチンは、予め設定された所定時間毎(例えば、6ミリ秒毎)に実行される。そして、重量推定処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU30は、各車輪用の車輪速度センサSE3からの検出信号に基づき、各車輪10の車輪速度VWを演算する(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU30は、演算した各車輪10の車輪速度VWのうち少なくとも一つの車輪の車輪速度VWに基づき車両の車体速度VSを演算し(ステップS11)、該車体速度VSの単位時間あたりの変化量である車体速度微分値DVSを演算する(ステップS12)。
【0038】
そして、ブレーキ用ECU30は、前後方向加速度センサSE4からの検出信号に基づき車両の前後方向加速度(車体加速度)Gxを演算する(ステップS13)。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、加速度演算手段としても機能する。続いて、ブレーキ用ECU30は、ステップS12で演算した車体速度微分値DVSからステップS13で演算した前後方向加速度Gxを減算し、該演算結果に基づき路面勾配θを取得する(ステップS14)。車体速度微分値DVSと前後方向加速度Gxとの間には、車両の走行する路面の勾配に応じた差が発生する。この差を利用して、路面勾配θが取得される。
【0039】
そして、ブレーキ用ECU30は、エンジン用ECU14から駆動トルクFを取得する(ステップS15)。続いて、ブレーキ用ECU30は、パーキングブレーキ25が作動中であるか否かを判定する(ステップS16)。このステップS16では、パーキングブレーキ25によって各車輪10のうち一部の車輪に制動力が付与されているか否かが判定される。パーキングブレーキ25が作動中である場合(ステップS16:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両が停車したと判断するための停車条件が成立したと判定し、その処理を後述するステップS25に移行する。一方、パーキングブレーキ25が作動中ではない場合(ステップS16:NO)、ブレーキ用ECU30は、ステップS11で演算した車体速度VSが予め設定された停車判定速度VSth(例えば、3km/h)未満であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0040】
車体速度VSが停車判定速度VSth以上である場合(ステップS17:NO)、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立していないと判定し、その処理を後述するステップS19に移行する。一方、車体速度VSが停車判定速度VSth未満である場合(ステップS17:YES)、ブレーキ用ECU30は、車体速度VSが停車判定速度VSth未満となってからの経過時間Tsが予め設定された停車判定時間Tsth(例えば、30秒)以上であるか否かを判定する(ステップS18)。この停車判定時間Tsthは、例えば、車両への荷物の運び込みや運び出しに要する最低限度の時間に基づき設定されている。なお、経過時間Tsは、車体速度VSが停車判定速度VSth以上になると、「0(零)」秒にリセットされる。
【0041】
経過時間Tsが停車判定時間Tsth以上である場合(ステップS18:YES)、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立したと判定し、その処理を後述するステップS25に移行する。一方、経過時間Tsが停車判定時間Tsth未満である場合、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立していないと判定し、その処理を次のステップS19に移行する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、停車判定手段としても機能する。また、ステップS16,S17,S18により、停車判定ステップが構成される。
【0042】
ステップS19において、ブレーキ用ECU30は、ブレーキスイッチSW1がオフであるか否かを判定する。ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS19:NO)、ブレーキ用ECU30は、運転手によるブレーキペダル23の操作によって各車輪10に制動力が付与されているため、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS19:YES)、ブレーキ用ECU30は、車輪10に制動力が付与されていないため、車両重量データMの演算処理を行う(ステップS20)。例えば、ブレーキ用ECU30は、以下に示す各関係式(式1)〜(式5)を用いて車両重量データMを演算する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、前後方向加速度Gxに基づき、予め設定された所定周期毎に車両重量データMを演算する車重データ演算手段としても機能する。また、ステップS20が、車重データ演算ステップに相当する。なお、前後方向加速度Gxが上記検出限界値未満である場合、車両重量データMの演算は行われない。
【0043】
【数1】


ただし、F…駆動トルク、F1…車両の慣性力、F2…路面勾配に基づく勾配抵抗、F3…路面と車輪との間の摩擦抵抗(走行抵抗)、F4…車両に対する空気抵抗、g…重力加速度、μ…摩擦係数、A…空気抵抗を取得するために設定された所定値
そして、ブレーキ用ECU30は、仮リセットフラグFLG1がオンであるか否かを判定する(ステップS21)。この仮リセットフラグFLG1は、上記停車条件が成立したと判定された場合にオンにセットされるフラグである。仮リセットフラグFLG1がオンである場合(ステップS21:YES)、ブレーキ用ECU30は、その処理を後述するステップS28に移行する。一方、仮リセットフラグFLG1がオフである場合(ステップS21:NO)、ブレーキ用ECU30は、ステップS20で演算した今回の車両重量データMを、上記記憶領域341に記憶させる。そして、ブレーキ用ECU30は、車両の発進後に所定周期毎に演算された車両重量データMのデータ数Xが上記既定数Y以上であるか否かを判定する(ステップS22)。データ数Xが既定数Y未満である場合(ステップS22:NO)、ブレーキ用ECU30は、正確性の高い車両重量の推定値を取得できないと判断し、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0044】
一方、データ数Xが既定数Y以上である場合(ステップS22:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両の発進後に記憶領域341に記憶された全ての車両重量データMを用いた統計処理によって、車両重量の通常推定値(車両重量の第1推定値)Maveを取得する(ステップS23)。具体的には、ステップS23では、複数の車両重量データMの平均値を演算する平均処理を行い、該平均値が車両重量の通常推定値Maveとされる。
【0045】
続いて、ブレーキ用ECU30は、ステップS23で取得した車両重量の通常推定値Maveを、車両重量の推定値MSとし(ステップS24)、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、演算された既定数Y以上の車両重量データMに基づき、車両重量の通常推定値Maveを取得する第1推定値取得手段としても機能する。また、ステップS23が、第1推定値取得ステップに相当する。
【0046】
すなわち、図5のタイミングチャートに示すように、停車状態の車両が発進すると、ブレーキスイッチSW1がオンとなる第1のタイミングt11までは、車両重量データMのデータ数Xが多くなるため、車両重量の通常推定値Mave(=推定値MS)が、車両の実際の重量MRに近づいていく。そして、運転手がブレーキペダル23を操作する第1のタイミングt11を経過すると、車両重量データMの演算が行われなくなる。この場合、車両重量の推定値MSは、第1のタイミングt11の直前に演算された通常推定値Maveで維持される。
【0047】
図2及び図3のフローチャートに戻り、ステップS17,S18での判定結果が肯定(YES)である場合、ブレーキ用ECU30は、ステップS25の処理を実行する。このステップS25において、ブレーキ用ECU30は、上記停車条件が成立したと判定したため、仮リセットフラグFLG1をオンにセットする。続いて、ブレーキ用ECU30は、リセット前推定値Maを現時点の車両重量の推定値MSとし、リセット前推定値MaをEEPROM34の所定記憶領域に記憶させる(ステップS26)。つまり、リセット前推定値Maは、車両重量の推定値MSがリセットされる前の車両重量の通常推定値Maveに相当する。そして、ブレーキ用ECU30は、車両停車中に車両重量が変化する可能性があるため、車両重量の推定値MSを初期値MS_Reとする(ステップS27)。この初期値MS_Reは、車両の積載量が最大となった際における車両重量に相当する値又は該車両重量よりも大きな値である。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、リセット手段としても機能する。また、ステップS27が、リセットステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU30は、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0048】
すなわち、図5のタイミングチャートに示すように、車両が停車して仮リセットフラグFLG1がオンにセットされる第2のタイミングt12では、車両重量の推定値MSは初期値MS_Reにリセットされる。そして、車両が再発進する第3のタイミングt13までは、車両重量の推定値MSは初期値MS_Reで維持される。
【0049】
図2及び図3のフローチャートに戻り、ステップS21の判定結果が肯定(YES)である場合、ブレーキ用ECU30は、停車状態にあった車両が再発進したと判断し、ステップS28の処理を行う。このステップS28において、ブレーキ用ECU30は、車両の発進後に演算された車両重量データMのデータ数Xが予め設定された所定数Z以上であるか否かを判定する。この所定数Zは、車両重量の通常推定値Maveを取得する際の既定数Yよりも小さい値(例えば、3)に予め設定される。
【0050】
データ数Xが所定数Z未満である場合(ステップS28:NO)、ブレーキ用ECU30は、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。一方、データ数Xが所定数Z以上である場合(ステップS28:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両の再発進後に取得された所定数Zの車両重量データMの平均値を演算し、該平均値を暫定推定値(車両重量の第2推定値)Mnとする(ステップS29)。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、第2推定値取得手段としても機能する。また、ステップS29が、第2推定値取得ステップに相当する。
【0051】
続いて、ブレーキ用ECU30は、ステップS29で演算した暫定推定値MnとステップS26で設定したリセット前推定値Maとの差分ΔMを取得する(ステップS30)。そして、ブレーキ用ECU30は、リセット前推定値Maに対して予め設定されたゲイン値THを乗算し、該演算結果を判定値Mthとする(ステップS31)。ゲイン値THは、「0.5」以下の値が好ましく、例えば、「0.3」に設定されている。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、車両重量が変化したか否かを判断するための判定値Mthを、リセット前推定値Maが大きい場合には小さい場合よりも大きな値に設定する判定値設定手段としても機能する。
【0052】
続いて、ブレーキ用ECU30は、ステップS30で演算した差分ΔMの絶対値が、ステップS31で演算した判定値Mth未満であるか否かを判定する(ステップS32)。差分ΔMの絶対値が判定値Mth未満である場合(ステップS32:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両の停車中に車両重量が変化していないと判断し、車両重量の推定値MSにリセット前推定値Maを設定する(ステップS33)。すなわち、ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定値MSを、該推定値MSが初期値MS_Reにリセットされる前の値(=Ma)に戻す。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、上記差分ΔMが判定値Mth未満である場合には、車両重量の推定値MSを、初期値MS_Reから、停車条件の成立前に取得された車両重量の通常推定値Mave(=リセット前推定値Ma)に戻す推定値決定手段としても機能する。また、ステップS33が、推定値決定ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU30は、仮リセットフラグFLG1をオフにセットし(ステップS34)、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、差分ΔMの絶対値が判定値Mth以上である場合(ステップS32:NO)、ブレーキ用ECU30は、車両重量が変化したと判断し、記憶領域341を初期化する(ステップS35)。このステップS35の処理が行われると、ブレーキ用ECU30は、記憶領域341の車両重量データMの記憶数が「0(零)」であると見なす。その後、ブレーキ用ECU30は、仮リセットフラグFLG1をオフにセットし(ステップS34)、重量推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0054】
すなわち、図5のタイミングチャートに示すように、ブレーキスイッチSW1がオフになると、車両が再発進する(第3のタイミングt13)。そして、前後方向加速度Gxが上記検出限界値以上になると、車両重量データMが所定周期毎に演算される。そして、暫定推定値Mnの取得に使用される所定数Zの車両重量データMが取得されると、暫定推定値Mnが演算される(第4のタイミングt14)。こうした暫定推定値Mnとリセット前推定値Maとの差分ΔMが判定値Mth未満である場合、車両の停車中に、車両の実際の重量MRに変化がなかったと判断される。そして、車両重量の推定値MSは、初期値MS_Reからリセット前推定値Maに戻される。そのため、車両の再発進直後においても、車両重量の推定値MSと実際の重量MRとの差分はほとんどない。
【0055】
一方、図6のタイミングチャートに示すように、車両の停車中の第1のタイミングt21で車両の実際の重量MRが変化した場合、車両が再発進する第2のタイミングt22以降では、前後方向加速度Gxが上記検出限界値以上になると、車両重量データMが所定周期毎に演算される。そして、所定数Zの車両重量データMが取得される第3のタイミングt23で、暫定推定値Mnが演算される。この暫定推定値Mnは、精度は低いものの、実際の重量MRに応じた値となる。そのため、暫定推定値Mnとリセット前推定値Maとの差分ΔMが判定値Mth以上となる。
【0056】
すると、車両重量の推定値MSは、初期値MS_Reに保持される。その後、車両の発進後に演算された車両重量データMのデータ数Xが既定数Y以上になると、複数の車両重量データMを平均する平均処理が行われることにより、車両重量の通常推定値Maveが取得される(第4のタイミングt24)。すると、車両重量の推定値MSは、新たに取得された通常推定値Maveとなる。その後においては、平均処理を所定周期毎に行うことにより、複数の車両重量データMに基づき演算される車両重量の推定値MSは、実際の重量MRに近づいていく。
【0057】
次に、横転抑制処理ルーチンについて、図4のフローチャートを参照して説明する。
さて、横転抑制処理ルーチンは、予め設定された所定時間毎(例えば、6ミリ秒毎)に実行される。そして、横転抑制処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU30は、ブレーキスイッチSW1がオフであるか否かを判定する(ステップS40)。ブレーキスイッチSW1がオンである場合(ステップS40:NO)、ブレーキ用ECU30は、運転手がブレーキペダル23を操作中であるため、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。一方、ブレーキスイッチSW1がオフである場合(ステップS40:YES)、ブレーキ用ECU30は、横方向加速度センサSE5からの検出信号に基づき車両の横方向加速度Gyを演算する(ステップS41)。したがって、本実施形態では、横方向加速度演算手段としても機能する。
【0058】
続いて、ブレーキ用ECU30は、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値Gythを、車両重量の推定値MSが大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する(ステップS42)。例えば、ブレーキ用ECU30は、車両重量の推定値MSが予め設定された重量閾値以上である場合には閾値Gythを第1の値に設定し、車両重量の推定値MSが重量閾値未満である場合には閾値Gythを第1の値よりも大きな第2の値に設定する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、閾値設定手段としても機能する。
【0059】
そして、ブレーキ用ECU30は、ステップS41で演算した横方向加速度GyがステップS42で設定した閾値Gyth以上であるか否かを判定する(ステップS43)。横方向加速度Gyが閾値Gyth未満である場合(ステップS43:NO)、ブレーキ用ECU30は、車両の横転の可能性が低いと判断し、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。一方、横方向加速度Gyが閾値Gyth以上である場合(ステップS43:YES)、ブレーキ用ECU30は、車両の横転の可能性があると判断し、横転抑制制御を行い(ステップS44)、横転抑制処理ルーチンを一旦終了する。したがって、本実施形態では、ブレーキ用ECU30が、制御手段としても機能する。
【0060】
閾値Gythは、車両重量の推定値MSに基づいた値に設定される。しかも、上記車両重量推定処理ルーチンの実行によって、車両重量の推定値MSは、車両の実際の重量MRに非常に近い値に設定される。そのため、横転抑制制御の制御開始が遅れたり、不必要に横転抑制制御が開始されたりすることが抑制される。すなわち、横転抑制制御が必要な場合には、横転抑制制御が適切なタイミングで開始される。
【0061】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)停車条件が成立したと判定された場合、車両重量の推定値MSには初期値MS_Reが設定される。その後、車両が発進すると、車両の発進後に演算された所定数Zの車両重量データMに基づき暫定推定値Mnが取得される。車両の停車中に車両重量が変わっていない場合、暫定推定値Mnは、リセット前推定値Maと同程度の値となるはずである。そのため、暫定推定値Mnが取得されると、暫定推定値Mnとリセット前推定値Maとの差分ΔMが演算される。そして、この差分ΔMの絶対値が判定値Mth未満である場合には、車両の停車中に車両重量が変わっていないと判定され、車両重量の推定値MSは、初期値にリセットされる前の値、即ちリセット前推定値Maに戻される。したがって、停車中における車両重量の変化の有無に関係なく車両の発進後に車両重量の推定値MSを再演算する場合と比較して、車両の発進後における車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0062】
(2)車両重量が重い場合には、車両重量が軽い場合よりも、車両の実際の重量MRに対する暫定推定値Mnの誤差量が大きくなると考えられる。そこで、本実施形態では、判定値Mthは、リセット前推定値Maが大きいほど大きな値に設定される。したがって、車両の実際の重量MRに関係なく、車両の停車中に車両重量が変化したか否かの判定精度を向上させることができる。
【0063】
(3)車両重量の通常推定値Maveは、所定周期毎に推定される複数の車両重量データMに基づき演算される。この場合、車両の発進後に精度の高い車両重量の通常推定値Maveを取得するためには、車両重量データMのサンプル数が多い方が好ましい。すなわち、車両の発進後に精度の高い車両重量の推定値MSを取得するためには、多大なる時間が必要となる。そこで、本実施形態では、車両の停車中に車両重量が変化していない場合、車両重量の推定値MSは、リセット前推定値Maに戻される。したがって、車両の発進後において、車両重量の推定値MSを、速やかに車両の実際の重量MRに近い値に設定することができる。
【0064】
(4)上記差分ΔMが判定値Mth以上である場合には、車両の停車中に車両重量が変わったと判定される。この場合、車両の発進後に演算された車両重量データMのデータ数Xが既定数Y以上となるまでの間、車両重量の推定値MSは、初期値MS_Reとされる。そして、車両の発進後に演算された既定数Yの車両重量データMに基づき通常推定値Maveが取得されると、車両重量の推定値MSは、新たに取得された通常推定値Maveとされる。したがって、正確性の高い車両重量の通常推定値Maveが取得されるまでは、初期値MS_Reを、車両重量の推定値MSとすることができる。
【0065】
(5)本実施形態では、パーキングブレーキ25の非操作時においても、車両が停車してからの経過時間Tsが停車判定時間Tsth以上となった場合には、車両の停車中に車両重量が変化したと判定される。そして、車両重量の推定値MSは、初期値MS_Reに設定される。しかし、経過時間Tsが停車判定時間Tsth以上という条件は、車両への荷物の運び込みや車両からの荷物の運び出しを行う場合以外にも、信号待ち時にも成立し得る。信号待ちの場合には、車両重量が変化しないこともある。本実施形態では、信号待ちなどのように車両重量が変化しない停車後に車両が再発進した場合には、車両重量の推定値MSがリセット前推定値Maに速やかに戻される。したがって、信号待ちなどのように車両重量が変化しない停車後に車両が再発進した直後であっても、車両重量の推定値MSを制御パラメータとする車両制御を適切に行うことができる。
【0066】
(6)車両重量の推定値MSを制御パラメータとする車両制御としては、横転抑制制御が挙げられる。本実施形態では、横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値Gythは、車両重量の推定値MSが大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定される。そのため、重量の重い車両では、早いタイミングで横転抑制制御が開始されるため、車両の横転を抑制することができる。一方、重量の軽い車両では、横転の可能性の低いタイミングで横転抑制制御が開始されることが抑制される。すなわち、横転抑制制御の不用意な実行を抑制することができる。特に、本実施形態では、車両の再発進後における車両重量の推定値MSの推定精度が向上している。そのため、車両の再発進直後であっても、横転抑制制御を適切に行うことができる。
【0067】
(7)近年、運転手の環境に対する意識は高まっている。そのため、信号待ち時などのように比較的長時間、車両を停車させる場合に、イグニッションスイッチが自主的にオフにされ、エンジン11が停止されることがある。ここで、もし仮に、記憶領域341がRAM33に設けられていたとすると、車両の再発進時には、記憶領域341が初期化されてしまい、車両重量の通常推定値Maveの取得に用いる既定数Yの車両重量データMを演算し直す必要が生じる。この場合、精度の高い車両重量の推定値MSを取得できるようになるまでには、ある程度の時間が必要となる。
【0068】
この点、本実施形態では、記憶領域341はEEPROM34に設けられている。そのため、車両の停車時にイグニッションスイッチがオフにされた場合であっても、その後の再発進時には、記憶領域341に記憶されている各車両重量データMを用いて、車両重量の通常推定値Mave(=推定値MS)を演算することができる。したがって、車両の停車時にイグニッションスイッチがオフにされた場合であっても、その後の再発進後における車両重量の推定値MSの推定精度を向上させることができる。
【0069】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、停車条件は、パーキングブレーキ25が操作されたことを含まなくてもよい。この場合、車両重量推定処理ルーチンからは、ステップS16の判定処理が省略される。
【0070】
・実施形態において、停車判定時間Tsthは、「30秒」以外の任意の時間(例えば、20秒)であってもよい。
・実施形態において、車両重量推定処理ルーチンから、ステップS17,S18の各判定処理を省略してもよい。この場合、パーキングブレーキ25が操作された場合にのみ、車両が停車したと判定される。
【0071】
・実施形態において、車両がパワーテイクオフ装置付きの車両である場合、停車条件は、パワーテイクオフ装置が作動中であることを含んでもよい。また、車載の変速機120が自動変速機である場合、停車条件は、変速機120のレンジがパーキングレンジであることを含んでもよい。
【0072】
・実施形態において、車両が発進後してから演算された既定数Yの車両重量データMに基づき車両重量の通常推定値Maveを取得し、その後の車両走行中においては、通常推定値Maveを更新しなくてもよい。
【0073】
また、車両の走行中においては、直近の既定数Yの車両重量データMに基づき車両重量の通常推定値Maveを取得するようにしてもよい。
・実施形態において、前回のタイミングで取得した車両重量の通常推定値と、今回のタイミングで取得した車両重量の通常推定値との移動平均を演算し、該演算結果に基づき最終的な車両重量の通常推定値Maveを取得してもよい。
【0074】
・実施形態において、判定値Mthを設定するためのゲイン値THは、「0.5」以下の正の値であれば、「0.3」以外の他の任意の値(例えば、0.2)であってもよい。
・実施形態において、判定値Mthを、予め設定した固定値としてもよい。この場合、判定値Mthを、ブレーキ用ECU30が搭載される車両の車体重量に応じた値にすることが好ましい。
【0075】
・実施形態において、暫定推定値Mnを演算するための所定数Zは、通常推定値Maveを取得するための既定値Y未満であれば、「3」以外の任意数(例えば、5)であってもよい。所定数Zが大きいほど、暫定推定値Mnの精度が高くなるため、判定値Mthを設定するためのゲイン値THを小さな値としてもよい。
【0076】
・実施形態において、通常推定値Maveを演算するための既定数Yは、通常推定値Maveを精度良く取得できるのであれば、「15」以外の任意数(例えば、10や20)であってもよい。
【0077】
・実施形態において、記憶領域341をRAM33に設けてもよい。
・実施形態において、駆動トルクFを、センサを用いずに予め用意されたエンジントルクマップなどの特性マップを用いて取得してもよい。
【0078】
・実施形態において、センサ(例えば、車輪速センサSE3)からの検出信号に基づきパラメータ(車輪速度VW)を演算する場合には、当該検出信号に所定のフィルタ処理を施し、該フィルタ処理後の信号に基づきパラメータを演算するようにしてもよい。また、センサ(例えば、車輪速センサSE3)からの検出信号に基づき演算したパラメータ(車輪速度VW)に所定のフィルタ処理を施し、フィルタ処理後のパラメータを用いて車両制御を行うようにしてもよい。
【0079】
・本発明の車両重量の推定装置を、ブレーキ用ECU30以外の他の車載のECU(例えば、エンジン用ECU14)で具体化してもよい。もちろん、車両に、車両重量の推定値MSの演算専用のECUを設けてもよい。
【0080】
・実施形態において、横転抑制制御の開始判定用の閾値Gythを、所定の関係式を用いて設定してもよい。この所定の関係式は、車両重量の推定値MSが大きいほど閾値Gythを小さくする一次関数であってもよいし、二次関数であってもよい。
【0081】
・実施形態において、車両重量の推定値MSを、エンジン用ECU14でのエンジン制御時の制御パラメータとして用いてもよい。また、車載の変速機120が自動変速機である場合には、車両重量の推定値MSを、自動変速機での変速制御時の制御パラメータとして用いてもよい。
【0082】
次に、上記各実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記車重データ演算手段(30、S20)は、車両の車体加速度(Gx)を用いて車両重量データ(M)を演算することを特徴とする車両重量の推定装置。
【0083】
(ロ)前記判定値設定手段(30、S31)は、前記判定値(Mth)を、前記リセット手段(30、S27)によってリセットされる前の車両重量の推定値(Ma)の半分以下の値に設定することを特徴とする車両重量の推定装置。
【符号の説明】
【0084】
10…車輪、14…車両重量の推定装置の一例としてのエンジン用ECU、25…パーキングブレーキ、30…車両重量の推定装置、横転抑制装置の一例としてのブレーキ用ECU(車重データ演算手段、第1推定値取得手段、横方向加速度演算手段、閾値設定手段、制御手段、停車判定手段、リセット手段、第2推定値取得手段、推定値決定手段、判定値設定手段)、M…車両重量データ、ΔM…差分、Mave…車両重量の第1推定値としての通常推定値、Mn…車両重量の第2推定値としての暫定推定値、MS…車両重量の推定値、MS_Re…初期値、Mth…判定値、Gx…車体加速度としての前後方向加速度、Gy…横方向加速度、Gyth…閾値、Ts…経過時間、Tsth…停車判定時間、X…データ数、Y…既定数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された周期毎に、車両重量データ(M)を演算する車重データ演算手段(30、S20)と、
演算された既定数(Y)以上の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第1推定値(Mave)を取得する第1推定値取得手段(30、S23)と、
車両が停車したと判断するための停車条件が成立したか否かを判定する停車判定手段(30、S16,S17,S18)と、
前記停車条件が成立したと判定された場合に、車両重量の推定値(MS)を初期値(MS_Re)にリセットするリセット手段(30、S27)と、
前記停車条件の成立後に車両が発進した場合に、車両の発進後に前記車重データ演算手段(30、S20)によって演算された前記既定数(Y)未満の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第2推定値(Mn)を取得する第2推定値取得手段(30、S29)と、
前記停車条件の成立後における車両の発進時に、前記第2推定値取得手段(30、S29)によって取得された車両重量の第2推定値(Mn)と、前記停車条件が成立する前に前記第1推定値取得手段(30、S23)によって取得された車両重量の第1推定値(Mave,Ma)との差分(ΔM)が、車両重量が変化したか否かの判定基準として設定された判定値(Mth)未満である場合には、車両重量の推定値(MS)を、前記初期値(MS_Re)から前記車両重量の第1推定値(Mave,Ma)に戻す推定値決定手段(30、S33)と、を備えることを特徴とする車両重量の推定装置。
【請求項2】
前記推定値決定手段(30、S27,S33)は、
前記差分(ΔM)が前記判定値(Mth)以上である場合において、
車両の発進後に前記車重データ演算手段(30、S20)によって演算された車両重量データ(M)のデータ数(X)が前記既定数(Y)未満であるときには、車両重量の推定値(MS)を前記初期値(MS_Re)で保持し、
車両の発進後に演算された車両重量データ(M)のデータ数(X)が前記既定数(Y)以上であるときには、車両重量の推定値(MS)を、前記第1推定値取得手段(30、S23)によって取得された車両重量の第1推定値(Mave)とすることを特徴とする請求項1に記載の車両重量の推定装置。
【請求項3】
前記判定値(Mth)を、前記リセット手段(30、S27)によってリセットされる前の車両重量の推定値(MS,Ma)が大きい場合には小さい場合よりも大きな値に設定する判定値設定手段(30、S31)をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両重量の推定装置。
【請求項4】
前記停車条件は、
車両のパーキングブレーキ(25)によって車輪(10)に制動力が付与されること、
及び、車両が停車してからの経過時間(Ts)が予め設定された停車判定時間(Tsth)以上になったこと
のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両重量の推定装置。
【請求項5】
車両の横転を抑制する横転抑制制御を行う車両の横転抑制装置であって、
請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両重量の推定装置(14,30)と、
車両の横方向加速度(Gy)を演算する横方向加速度演算手段(30、S41)と、
前記横転抑制制御の開始タイミングを特定するための閾値(Gyth)を、前記車両の推定装置(14,30)によって演算された車両重量の推定値(MS)が大きい場合には小さい場合よりも小さな値に設定する閾値設定手段(30、S42)と、
前記横方向加速度演算手段(30、S41)によって取得された横方向加速度(Gy)が、前記閾値設定手段(30、S42)によって設定された閾値(Gyth)以上である場合に、前記横転抑制制御を開始する制御手段(30、S44)と、を備えることを特徴とする車両の横転抑制装置。
【請求項6】
予め設定された周期毎に、車両重量データ(M)を演算させる車重データ演算ステップ(S20)と、
演算した既定数(Y)以上の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第1推定値(Mave)を取得させる第1推定値取得ステップ(S23)と、
車両が停車したと判断するための停車条件が成立したか否かを判定させる停車判定ステップ(S16,S17,S18)と、
前記停車条件が成立したと判定した場合に、車両重量の推定値(MS)を初期値(MS_Re)にリセットさせるリセットステップ(S27)と、
前記停車条件の成立後における車両の発進時に、車両の発進後に前記車重データ演算ステップ(S20)で演算した前記既定数(Y)未満の車両重量データ(M)に基づき、車両重量の第2推定値(Mn)を取得させる第2推定値取得ステップ(S29)と、
前記停車条件の成立後における車両の発進時に、前記第2推定値取得ステップ(S29)で取得した車両重量の第2推定値(Mn)と、前記停車条件の成立前に前記第1推定値取得ステップ(23)で取得した車両重量の第1推定値(Mave,Ma)との差分(ΔM)が、車両重量が変化したか否かの判定基準として設定された判定値(Mth)未満である場合には、車両重量の推定値(MS)を、前記初期値(MS_Re)から前記車両重量の第1推定値(Mave,Ma)に戻させる推定値決定ステップ(S34)と、を有することを特徴とする車両重量の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−202835(P2012−202835A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67920(P2011−67920)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)