説明

車体位置決めシステム及び塗布ステーション

【課題】車体の床下部の塗装に必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、当該塗装を実施する目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つ車体位置決めシステム及びそれを適用した塗布ステーションの構成及び制御の簡略化並びに所要タイムの短縮化を図る。
【解決手段】位置決め制御装置180は、所定の停止位置に台車が停止した状態における車体の床下部の下方に配置され、先端に基準ピンを取り付けた支持ロッドを車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる位置決め装置100a〜100dに対して、台車に載置した車体の四隅の床下部にある基準穴に基準ピンを嵌合させ、車体を台車から持ち上げるとともに当該持上げられた車体の位置を目標位置に位置決めするように制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体位置決めシステム及びこれを適用した塗布ステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、自動車の製造工場における一般的な製造工程の流れを示すフローチャートである。自動車の製造工程は、車体工程S700、塗装工程S701、艤装工程(組立工程)S702の順に遂行される。車体工程S700は、プレスラインで成型された鋼板を用いて自動車の車体をスポット溶接等で組み立てる工程であり、車体工程で完成した車体に防錆性、防水性、制振性、防音性の機能と装飾性のための塗装仕上げを施す工程であり、艤装工程S702は、塗装が施された車体に各種の部品を取り付けて自動車の完成体を作り上げる工程である。
【0003】
塗装工程S701は、脱脂工程S7010、化成工程S7011、電着塗装工程(下塗り工程)S7012、シーリング・アンダーコート工程S7013、中塗り工程S7014、上塗り工程S7015の順に実施される。脱脂工程S7010、化成工程S7011及び電着塗装工程S7012は、塗装前処理工程を構成しており、脱脂工程S7010は、車体に付着した油分を除去する工程であり、化成工程S7011は、防錆性および電着塗装密着性向上のための金属表面下地処理を実施する工程であり、電着塗装工程S7012は、車体を塗料中に沈めて電気を流すことによって車体の鋼板上に塗料を付着させる工程である。シーリング・アンダーコート工程S7013は、防水及び防塵の目的で車体の鋼板の継目にシーリング材を塗布するシーリング作業を行うと同時に、防錆及び防振の目的で車体の床下部にアンダーコート材を塗布するアンダーコート作業を行う。中塗り工程S7014は、仕上り性と耐チッピング(塗膜が小剥片となり被塗面からはがれる現象)性を目的として車体に中塗り塗料を塗布する工程であり、上塗り工程S7015は、装飾性を目的として上塗り塗料を車体に塗布する工程である。
【0004】
ところで、上記の塗装工程の中でシーリング・アンダーコート工程では、一般的に、アンダーコート作業を行うための空間を確保するために、車体の搬送形態としてハンガーコンベア方式が採用されている。ハンガーコンベア方式とは、天井に敷設された搬送レールに吊り下げられたハンガーにワークを載置あるいは吊り下げ、当該ハンガーを搬送レールに沿って動くチェーン等によって搬送する方式のことである。一方、シーリング・アンダーコート工程の前後の工程では、車体の搬送形態としてフロアコンベア方式が採用されている。フロアコンベア方式とは、床に敷設された搬送レール上の台車にワークを載置し、当該台車を搬送レールに沿って走行させて搬送する方式のことである。このように、シーリング・アンダーコート工程は、その前後の工程と搬送形態が異なっているため、搬送装置及び搬送冶具(ハンガー)を段取替えで別途準備する必要があり、また、その前後の工程では車体の移替のための移載設備がそれぞれ必要となるため、塗装工場の設備費、予備品等が余分に必要となるという問題があった。さらに、ハンガーに載置されあるいは吊り下げられたワークの位置は不安定な場合が多く、画像認識センサにより検出された画像情報に基づいて位置ズレ補正を行うビジョン補正装置が各停止作業位置において必要であった。
【0005】
そこで、シーリング・アンダーコート工程の搬送形態をその前後工程と同様にフロアコンベア方式にすることが考えられる。これにより、ハンガーコンベア方式を採用した場合における上記のような問題を解決することができる。但し、フロアコンベア方式を採用した場合、台車及び搬送レールが車体の床下部と近接するため、アンダーコート材を塗布可能な程度の作業空間を確保すべく車体を台車から持上げるリフトアップ動作若しくは車体から台車を引き離すための台車の降下が必要なる。例えば、特許文献1には、上塗り塗装された自動車車体を台車に載置して搬入する塗布ステーションの下部に、車体を当該台車から持上げて位置決めする車体位置決め手段を設ける技術が開示されている。図8は、その特許文献1の車体位置決め手段を示す塗布ステーションの下部の拡大図を示した図である。
【0006】
上記の車体位置決め手段は、塗布ステーション1の下部両側に配置した各ベース枠10上に車体Wの底面の基準穴に嵌合する前後1対の基準ピン11を取り付けたメインリフタ12を設け、メインリフタ12上に車体Wの底面を受けるサブリフタ13を設けてなる。メインリフタ12はベース枠10上のシリンダにより前後動される1対のリフタカムを介して昇降され、サブリフタ13はメインリフタ12上のシリンダによりガイドバーに沿ってメインリフタ12に対して相対的に昇降される。
【0007】
そして、サブリフタ13を上昇させた状態でメインリフタ12を上昇させることにより車体Wを台車2から持上げ、次いでサブリフタ13を下降させて、車体Wを浮かせた状態で各基準ピン11を各基準穴に嵌合させる。これにより、車体Wは前後左右上下の3軸方向に位置決めされる。尚、基準ピン11は、メインリフタ12上に3軸直交座標型の可動機構11aを介して前後左右上下に位置調節可能に設けられたブラケット11b上に立設されている。さらに、基準ピン11は、台車2との干渉を防止するためにシリンダ11cにより起伏され、台車2の走行時には倒伏される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−79977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示された技術の場合、車体Wの昇降手段としては、メインリフタ12とサブリフタ13とが設けられ、また、車体Wの位置決め手段としては、メインリフタ12上に3軸直交座標型の可動機構11aが設けられている。つまり、車体Wの昇降手段と車体Wの位置決め手段とが独立して別々に設けられている。このため、特許文献1に開示された技術をシーリング・アンダーコート工程に適用しようとした場合、その工程に係る構成及び制御が複雑になるという問題がある。また、特許文献1に開示された技術の場合、車体Wの昇降動作と車体Wの位置決め動作とはそれぞれ独立して逐次実施されることになる。このため、特許文献1に開示された技術をシーリング・アンダーコート工程に適用しようとした場合、その工程に要する所要時間が長期化することになる。
【0010】
そこで、本発明は、アンダーコートに必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、アンダーコートを実施する目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つ車体位置決めシステム及びそれを適用した塗布ステーションの構成及び制御の簡略化並びに所要タイムの短縮化を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、上記の課題を解決するための主たる本発明は、車体の床下部の塗装を実施する塗布ステーション内に台車に載置して搬送される自動車の車体を、当該塗装を実施する目標位置に位置決めする車体位置決めシステムであって、前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の床下部の下方に配置され、前記車体の床下部に形成された被嵌合部と嵌合する嵌合部を先端に有する支持ロッドと、前記支持ロッドを前記車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる移動機構と、を備える複数の位置決め装置と、前記複数の位置決め装置の前記移動機構による前記支持ロッドの3軸方向の移動を制御する位置決め制御装置と、を有し、前記位置決め制御装置は、前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記台車に載置された前記車体の前記被嵌合部に前記支持ロッドの嵌合部を嵌合させる支持ロッド嵌合手段と、前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向を含む方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるとともに前記目標位置に位置決めするリフトアップ及び位置決め手段と、を有する。
【0012】
上記の構成により、複数の位置決め装置は、位置決め制御装置による支持ロッドを移動させる移動機構の制御により、車体の床下部の塗装作業に必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、当該塗装作業を実施する目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つことができる。これにより、例えば車体の床下部の塗装工程の搬送形態をフロアコンベア方式とした場合において、当該リフトアップ機能と当該位置決め機能とを併せ持つことが必要な車体位置決めシステムの構成及び制御の簡略化並びに所要タイムの短縮化を図ることができる。
【0013】
前記位置決め制御装置は、リフトアップ及び位置決め手段として、前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるリフトアップ手段と、前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記持ち上げられた車体を前記目標位置に位置決めする位置決め手段とを有する、としてもよい。
【0014】
上記の構成により、位置決め制御装置は、リフトアップ及び位置決め手段として、リフトアップ手段と位置決め手段とを独立して具備することで、リフトアップ機能及び位置決め機能をそれぞれに適した条件で実現することができる。
【0015】
前記被嵌合部が基準穴であり、前記嵌合部が前記基準穴に嵌合する基準ピンである、としてもよい。上記の構成により、支持ロッドを車体に簡易に嵌合させることができる。尚、前記支持ロッドは支持台に直立して設けられ、前記移動機構は、前記支持台を3軸方向に移動させるよう構成されてもよい。上記の構成により、前記支持ロッドの3軸方向の移動を簡易に制御することができる。さらに、基準穴に基準ピンを嵌合させることが容易となる。また、前記支持ロッドの長さは800mm以上である、としてもよい。上記の構成により、アンダーコート作業のために必要十分な空間を確保することができる。
【0016】
前記被嵌合部は、前記車体の床下部の四隅に形成されており、前記位置決め装置は、前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の四隅の床下部の下方にそれぞれ配置される、としてもよい。
【0017】
上記の構成により、位置決め装置を車体の四隅の床下部の下方にそれぞれ配置されることにした結果、本車体位置決めシステムの上記リフトアップ機能及び上記位置決め機能を必要十分な構成並びに制御によって実現することができる。また、位置決め装置を4台以上とした場合と対比して、車体の床下部の塗装作業に必要な空間として車体の床下中央部の空間を有効に利用することができる。
【0018】
前記基準穴は、前記車体のサイドメンバー部に設けられている、としてもよい。
【0019】
上記の構成により、車体のサイドメンバー部は剛性が強いため、車体の長さ方向に並設される一対のサイドメンバー部それぞれのフロント側の一端及びリア側の一端に基準穴を設けることができ、位置決め装置を4台に限定することが容易となり、さらに、アンダーコート作業に必要な空間として利用する車体の床下中央部の空間をより有効に利用することができる。
【0020】
車体の床下部に床下空間を形成するピットを有し、前記位置決め装置は、前記ピットの床面に床置きされている、としてもよい。尚、前記支持ロッドの長さは800mm以上であり、前記塗布ステーションのフロア面を基準とした前記高さ方向の前記台車の位置は1000mm以上であり、前記フロア面を基準とした前記ピットの深さは1000mm以上である、としてもよい。さらに、前記塗布ステーションのフロア面を基準とした前記高さ方向の前記目標位置の位置は1800mm以上であり、前記支持ロッドの最大ストローク長は1200mm以上である、としてもよい。
【0021】
上記の構成により、位置決め装置の支持ロッドが、車体を載置した台車の走行を妨害する場合、支持ロッドを退避させる必要がある。そこで、車体の床下部に設けたピットの床面に位置決め装置を床置きすることによって、支持ロッドの退避ストロークを稼ぐことが容易となり、支持ロッドの嵌合部を倒伏させるような複雑な機構を設ける必要がなくなる。
【0022】
前記基準ピンは、複数の径を具備する段付ピンであることとしてもよい。
【0023】
上記の構成により、複数の位置決め装置は基準穴の径の異なる複数車種に対応することができる。
【0024】
前記基準ピンは、クランプピンであることとしてもよい。
【0025】
上記の構成により、複数の位置決め装置は車体を把持する際のクランプ力を向上させることができる。
【0026】
上記の課題を解決するための主たるその他の本発明は、車体の床下部の塗装を実施する塗布ステーション内に台車に載置して搬送される自動車の車体を、当該塗装を実施する目標位置に位置決めする車体位置決めシステムと、前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の両側面側に配置され、アーム先端に取り付けられた塗布ノズルにより前記車体の床下部を塗布する多関節ロボットと、前記多関節ロボットの動作を制御するロボット制御装置と、を備え、前記車体位置決めシステムは、前記停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の床下部の下方に配置され、前記車体の床下部に形成された被嵌合部と嵌合する嵌合部を先端に有する支持ロッドと、前記支持ロッドを前記車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる移動機構と、を備える複数の位置決め装置と、前記複数の位置決め装置の前記移動機構による前記支持ロッドの3軸方向の移動を制御する位置決め制御装置と、を有し、前記位置決め制御装置は、前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記台車に載置された前記車体の前記被嵌合部に前記支持ロッドの嵌合部を嵌合させる支持ロッド嵌合手段と、前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向を含む方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるとともに前記目標位置に位置決めするリフトアップ及び位置決め手段と、を有する、塗布ステーションである。
【0027】
上記の構成により、複数の位置決め装置は、位置決め制御装置による支持ロッドを移動させる移動機構の制御により、車体の床下部の塗装作業に必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、車体の床下部の塗装作業を実施する目標位置に車体を位置調整(補正)する位置決め機能と、を併せ持つことができる。これにより、例えば車体の床下部の塗装工程の搬送形態を所謂フロアコンベア方式とした場合において、当該リフトアップ機能と当該位置決め機能とを併せ持つことが必要な塗布ステーションの構成及び制御の簡略化並びに所用タイムの短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、車体の床下部の塗装工程に必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、当該塗装工程の目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つ車体位置決めシステム及びそれを適用した塗布ステーションの構成及び制御の簡略化並びに所要タイムの短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る車体位置決めシステムの全体構成を示した図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車体位置決めシステムの位置決め装置の側面側から見た断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るロボット2階建て塗布ステーションの平面図を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るロボット2階建て塗布ステーションの右側面図を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るロボット2階建て塗布ステーションの正面図を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る車体位置決めシステムの位置決め装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】自動車製造工場における自動車の製造工程の流れを示したフローチャートである。
【図8】従来の塗布ステーションの下部の拡大正面図を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0031】
(実施の形態)
[車体位置決めシステムの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る車体位置決めシステムの全体構成を示した図である。尚、本発明において、シーリング・アンダーコート工程及びその前後の工程では、床上に敷設された搬送レールに沿って走行する台車にワークを載置することで当該ワークを搬送するフロアベルトコンベア方式が採用される。
【0032】
車体位置決めシステムは、シーリング・アンダーコート工程用のロボット2階建て塗布ステーションに配置され、前工程(例えば、図7に示す電着塗装工程S7012等)用の塗布ステーションから台車により搬送されてくる自動車の車体を、台車からリフトアップするとともに所定の目標位置に位置決めする。これにより、シーリング・アンダーコートの作業用の空間が確保される。また、本車体位置決めシステムは、シーリング・アンダーコートの作業が行われた後、車体をリフトダウンして台車に再び載置する。これにより、シーリング・アンダーコートが施された車体が、台車により後工程(例えば図7に示す中塗り工程S7014等)用の塗布ステーションに搬送される。
【0033】
車体位置決めシステムは、位置決め装置100a〜100dと、位置決め制御装置180と、を通信可能に接続して構成される。位置決め装置100a〜100dは、アンダーコートを実施する目標位置に対応した停止位置に停止した状態における車体の四隅の床下部の下方に配置される。本車体位置決めシステムでは、4台の位置決め装置100a〜100dのうち、車体のフロント側(前側)の左右二隅且つ床下部の下方に配置する位置決め装置100a、100bと、車体のリア側(後側)の左右二隅且つ床下部の下方に配置する位置決め装置100c、100dと、にグループ分けをする。このため、位置決め装置100a、100bは、中継装置150aを介して位置決め制御装置180と接続される。位置決め装置100a、100bと中継装置150aとは下位ケーブル152a、152bを介して接続され、中継装置150aと位置決め制御装置180とは上位ケーブル182a、182bを介して接続される。また、位置決め装置100c、100dは、中継装置150bを介して位置決め制御装置180と接続される。位置決め装置100c、100dと中継装置150bとは下位ケーブル152c、152dを介して接続され、中継装置150bと位置決め制御装置180とは上位ケーブル182c、182dを介して接続される。
【0034】
位置決め装置100a〜100dは、車体の床下部に形成された被嵌合部と嵌合する嵌合部を先端に有する支持ロッド108a〜108dと、支持ロッド108a〜108dを車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる移動機構と、備えている。尚、上記の移動機構は、支持ロッド108a〜108dを3軸方向のうち少なくとも高さ方向を含む方向に移動させるため、所謂位置決め機能を実現している。また、上記の移動機構に含まれる高さ方向に支持ロッド108a〜108dを移動させる機構は、車体を上下方向にリフトアップ又はリフトダウンさせる昇降機能を実現している。かかる位置決め機能及び昇降機能を実現する機構として、例えば、カム機構、ピストンクランク機構、ラックピニオン機構等が採用される。また、かかる位置決め装置100a〜100dとして、例えば、直交三軸座標形のNC(数値制御)ロケータが採用される。
【0035】
なお、4台の位置決め装置100a〜100dに限定されず、車体位置決めシステムの構成及び制御の複雑化を考慮しなければ、例えば車体の長さ方向中央部の左右二箇所であり且つ車体の床下部の下方にも位置決め装置を配置して計六台としてもよい。
【0036】
位置決め制御装置180は、少なくともCPU(演算装置)とメモリ(記憶装置)とを具備しており、位置決め装置100a〜100dそれぞれの移動機構を統括制御する。位置決め制御装置180は、ティーチペンダント等の外部装置(図示せず)と接続可能である。オペレータは、この外部装置を利用することで、位置決め装置100a〜100dそれぞれに対して、ティーチモード(基準ピンの終了位置を教示するモード)及びチェックモード(ティーチング軌跡をチェックするモード)の実行開始指令の入力、ティーチモードの実行中における位置決め装置100a〜100dのマニュアル操作、ティーチモードの実行中における基準ピンの開始及び終了位置の入力等を行う。尚、位置決め装置100a〜100dの動作は把握し易いため、外部装置を用いたオンライン教示を適用せずに、3次元CAD(Computer Aided Design)を用いたオフライン教示を適用してもよい。さらに、位置決め制御装置180は、後述のアンダーコート作業用ロボット200a〜200dや後述のシーリング作業用ロボット300を統括制御するようにしてもよい。
【0037】
[位置決め装置の構造]
図2は、本発明の実施の形態に係る位置決め装置の側面側から見た断面図である。尚、図2に示す位置決め装置100は、図1に示した位置決め装置100a〜100dのいずれにも対応する。また、図2において、紙面左右方向がX軸方向(正:紙面右方向、負:紙面左方向)、紙面上下方向がZ軸方向(正:紙面上方向、負:紙面下方向)、紙面鉛直方向がY軸方向(正:紙面表側、負:紙面裏側)とする。
【0038】
位置決め装置100は、支柱部材101と、X軸移動台107(支持台)と、支持ロッド108と、により主に構成される。
【0039】
支柱部材101は、位置決め装置100の支柱を形成する略柱状の部材である。支柱部材101は、車体を昇降可能とする程度に、剛性が高くて撓みが少ない頑丈な構造(例えば、柱状形)に構成されている。また、支柱部材101のZ軸方向に直立した姿勢(ピット床面Pに対して鉛直な姿勢)を安定化させるために、支柱部材101の脚部1010は、支柱部材101の頭部1011の断面積よりも大きくした形状とする。
【0040】
支柱部材101にはZ軸方向に延びるガイドレール1030が形成されていて、このガイドレール1030に嵌合してZ軸方向に摺動可能にZ軸移動台105が設けられている。Z軸移動台105は、例えば、ガイドレール1030に沿って延びるボールネジ1020に螺合していて、このボールネジ1020が支柱部材101の脚部1010に配設されたZ軸サーボモータ102により回転される。これにより、Z軸移動台105がZ軸方向に昇降されかつ位置決めされ、ひいては後述する支持ロッド108をZ軸方向に昇降しかつ位置決めするZ軸移動機構が具備される。このZ軸移動機構が、位置決め装置100におけるZ軸方向の位置決め機能及び昇降機能(リフトアップ機能を含む)を実現する。
【0041】
Z軸移動台105には、Y軸方向に延びるガイドレール1031が形成されていて、このガイドレール1031に嵌合してY軸方向に摺動可能にY軸移動台106が設けられている。Y軸移動台106にはY軸サーボモータ103が配設されている。そして、例えば、Z軸移動台105には、ガイドレール1031に沿って延びるようにラックギア(図示せず)が配設され、Y軸移動台106には、このラックギアに噛み合うピニオンギア(図示せず)が配設されていて、このピニオンギアがY軸サーボモータ103により回転される。これにより、Y軸移動台106がY軸方向に移動されかつ位置決めされ、ひいては後述する支持ロッド108をY軸方向に移動させかつ位置決めするY軸移動機構が具備される。このY軸移動機構が、位置決め装置100におけるY軸方向の位置決め機能及び移動機能を実現する。
【0042】
Y軸移動台106にはX軸方向に延びるガイドレール1032が形成されていて、このガイドレール1032に嵌合してX軸方向に摺動可能にX軸移動台107が設けられている。X軸移動台107は、例えば、ガイドレール1032に沿って延びるように形成されたボールネジ(図示せず)に螺合していて、このボールネジがY軸移動台106に配設されたX軸サーボモータ106により回転される。これにより、X軸移動台107がX軸方向に移動されかつ位置決めされ、ひいては後述する支持ロッド108をX軸方向に移動させかつ位置決めするX軸移動機構が具備される。このX軸移動機構が、位置決め装置100におけるX軸方向の位置決め機能及び移動機能を実現する。
【0043】
なお、参照符号1040は、Y軸サーボモータ103及びX軸サーボモータ104に電力を供給する配線とY軸サーボモータ103及びX軸サーボモータ104に制御信号を伝達する制御線とを含むケーブルを示す。
【0044】
X軸移動台107の上面(Z軸正方向側に位置する表面)の略中央部に支持ロッド108が立設されている。支持ロッド108は、本実施の形態では鉛直方向に延びるように立設(直立)されている。
【0045】
支持ロッド108の先端には、車体の被嵌合部(例えば、後述の基準穴Ha、Hb、Hc、Hd)に嵌合させる嵌合部として、尖形の基準ピン109が設けられている。尚、基準ピン109は、複数車種の位置決めに対応可能とするように、複数の径部を具備した段付ピンとしてもよい。これにより、基準穴径の異なる複数車種毎に基準ピン109を取り替える必要がなくなる。また、基準ピン109は、大きなクランプ力を具備するクランプピンとしてもよい。これにより、四本の基準ピン109による車体のクランプが安定化する。また、嵌合部及び被嵌合部は、これらの態様に限定されず、互いに嵌合する態様であればよい。
【0046】
位置決め装置100は、X軸移動台107のZ軸方向のストローク量を稼ぐために、シーリング・アンダーコート用の塗布ステーションのフロア面FLよりZ軸負方向に下がった位置にあるピット床面Pに床置き配置される。ここで、X軸移動台107をZ軸方向に移動させたとき、Z軸上の最高ストローク点をZmaxとし、Z軸上の最低ストローク点をZminと表現する。尚、最高ストローク点Zmax、最低ストローク点Zminは、ピット床面Pを基準としたX軸移動台107の中心線のZ軸上の位置とする。従って、X軸移動台107のZ軸方向の最大ストローク量Zdは、次式で表現することができる。
【0047】
Zd = Zmax−Zmin ・・・(1)
また、ピット床面Pから最低移動距離ZminまでのZ軸方向の長さをZcと表現する。X軸移動台107の最低ストローク点Zminをピット床面Pとはせずに、ピット床面PからZ軸方向に高さZcにある位置としたのは、X軸移動台107をZ軸負方向に移動したときにX軸移動台107の脚部1010に接触して支障が生じるからである。
【0048】
また、ピット床面Pからフロア面FLまでのZ軸方向の長さ(ピットの深さ)をZaと表現し、X軸移動台107を最高ストローク点Zmaxまで移動した状態として、フロア面FLから支持ロッド108の先端の基準ピン109までのZ軸方向の長さをZbと表現する。すると、X軸移動台107を最低ストローク点Zminまで移動した状態にあって、フロア面FLから基準ピン109の先端までのZ軸方向の長さは「Zb−Zd」である。従って、基準ピン109は、フロア面FLを基準とした場合、最低ストローク点「Zb−Zd」から最高ストローク点「Zb」までZ軸方向に移動する。尚、ピット床面Pを基準とした場合、基準ピン109は、最低ストローク点「Za+Zb−Zd」から最高ストローク点「Za+Zb」までZ軸方向に移動する。
【0049】
基準ピン109の高さを含めた支持ロッド108のZ軸方向の長さ(Ze)、ピットのZ軸方向の深さ(Za)、X軸移動台107のストローク量Zdは、シーリング・アンダーコート工程における種々の制約条件に基づいて決定される。
【0050】
例えば、また、基準ピン109の最低ストローク点「Za+Zb−Zd(ピット床面P基準)」は、塗布ステーション内において台車に載置した車体を搬送する際に、台車の走行を妨害しないという制約条件のもとで決定する。ここで、フロア面FLを基準としたZ軸方向の車体の搬送位置(台車下端の位置)をZoとした場合、位置決め装置100が台車水平且つ巾方向に回避できない領域であるならば、次式の条件を満たす必要がある。
【0051】
Za+Zb−Zd < Za+Zo ・・・(2)
また、基準ピン109の最高ストローク点「Za+Zb(ピット床面P基準)」は、アンダーコートロボットによるアンダーコート作業を妨害しないという制約条件のもとで決定する。ここで、アンダーコート作業を実施可能とするまで車体をリフトアップしたときの、フロア面FLを基準とした車体のサイドシルの下面の高さ(高さ方向の目標位置の位置)をZlとした場合、次式の条件を満たす必要がある。
【0052】
Za+Zb > Za+Zl ・・・(3)
本実施形態の場合、フロア面FLを基準とした車体高さ方向の台車の位置Zoは、例えば、1000mm以上であり、リフトアップした際のフロア面FLを基準とした車体のサイドシルの下面の高さZlは、例えば、1800mm以上とする。
【0053】
また、フロア面FLを基準としたピットの深さZaは例えば1000mm以上とし、X軸移動台107のZ軸方向の最大ストローク量Zdは例えば1200mm以上とする。さらに、X軸移動台107の最高ストローク点Zbは、車体のフロント側で例えば、2050mm以上とし、車体のリア側で例えば2056.5mm以上とする。さらに、支持ロッド108の長さZeは例えば800mm以上とする。
【0054】
<塗布ステーション内のレイアウト構造>
図3、図4、図5を参照しながら、本発明の実施の形態に係る車体位置決めシステムを適用したシーリング・アンダーコート向けのロボット2階建て塗布ステーション(本発明の実施の形態に係る塗布ステーション)内のレイアウト構造を説明する。尚、図3は、塗布ステーションの平面図であり、図4は、塗布ステーションの右側面図であり、図5は、塗布ステーションの正面図である。
【0055】
台車500は、塗布ステーション400に敷設される搬送レール(図示せず)に沿って、同図に示す搬送方向(紙面右方向)に向けて走行する。搬送レールは、同図に示すセンターラインLと平行に、且つフロア面FLを基準として車体Wの高さ方向でZoの位置に敷設される。本実施形態では、搬送レールは、モノレール等が走行するような一本のレールとし、アンダーコートロボット200a、200b、200c、200dのアームが車体Wの床下部に侵入しやすくなるように、台車500の幅寸法はできる限り狭くする。また、搬送レールは、電車等が走行するような二本のレールとしてもよい。この場合は、二本のレールの間隔並びに台車500の巾寸法はできる限り広くする。
【0056】
台車500のベースとなる箱枠状のベース部材502において、搬送方向の前方部と搬送方向とは逆向きの後方部に一対の補助板504、506が並設される。このため、台車500は、平面視においてはアルファベットのH字型の形状となっており、ベース部材502及び補助板504、506の上面に車体Wが載置される。前側の補助板504の両端には前輪が設けられ、後側の補助板506の両端には後輪が設けられる。また、ベース部材502の前後部には補助輪が設けられる。尚、台車500の高さ寸法は、位置決め装置100a〜100dの基準ピン109a〜109dのストローク量を抑えるために、できる限り短くすることが好ましい。
【0057】
台車500に載置した車体Wの四隅の床下部には、位置決め装置100a〜100dの基準ピン109a〜109dを嵌合させる被嵌合部として、基準穴Ha〜Hdが設けられている。尚、基準穴Ha〜Hdは、車体Wの長さ方向に並設される一対のサイドメンバー部(図示せず。)に機械加工する。サイドメンバー部は撓み強度が大きい(剛性の強い)ので、リフトアップの際の車体Wの荷重に対する耐性による制限を殆ど考慮せずとも、基準穴Ha〜Hdの位置をサイドメンバー部のフロント側の一端及びリア側の一端に設定することができる。また、この結果として、車体Wの床下中央部にアンダーコート作業のための空間を広く設けることができる。尚、基準穴Ha〜Hdは、位置決め精度の良い丸穴を選定する。また、基準穴Ha〜Hdの穴径は、次式の条件で設定する。
【0058】
位置決め補正可能範囲 ≦ 穴径−穴の加工位置精度 ・・・(4)
車体Wを載置した台車500が目標位置に対応したリフトアップ前の停止位置(紙面中心部)に停止した状態において、車体Wのフロント側の左隅の床下部にはフロア面FLに対し深さZaのピット410aが設けられ、車体Wのフロント側の右隅の床下部にはフロア面FLに対し深さZaのピット410bが設けられ、車体Wのリア側の左隅の床下部にはフロア面FLに対し深さZaのピット410cが設けられ、車体Wのリア側の右隅の床下部にはフロア面FLに対し深さZaのピット410dが設けられる。
【0059】
また、位置決め装置100a〜100dの配置箇所としては、車体Wのフロント側の左隅の床下部のピット410aに位置決め装置100aが配置され、車体Wのフロント側の右隅の床下部のピット410bに位置決め装置100bが配置され、車体Wのリア側の左隅の床下部のピット410cに位置決め装置100cが配置され、車体Wのリア側の右隅の床下部のピット410dに位置決め装置100dが配置される。このように、位置決め装置100a〜100dは、車体Wの姿勢を常に水平に維持するように、車体Wの四隅の床下部に対称配置される。また、位置決め装置100a〜100dは、基準ピン109a〜109dの鉛直方向上に、車体Wの四隅床下部に加工された基準穴Ha〜Hdが位置するように予め配置する。これにより、基準ピン109a〜109dを基準穴Ha〜Hdに嵌合させる際の位置ズレ量を事前に抑えることができる。
【0060】
車体Wのフロント側且つ左側面側には、フロア面FLに設置された走行装置250aによって車体Wの長さ方向に走行するアンダーコートロボット200aが配置され、車体Wのフロント側且つ右側面側には、フロア面FLに設置された走行装置250bによって車体Wの長さ方向に走行するアンダーコートロボット200bが配置され、車体Wのフロント側且つ左側面側には、フロア面FLに設置された走行装置250cによって車体Wの長さ方向に走行するアンダーコートロボット200cが配置され、車体Wのフロント側且つ左側面側には、フロア面FLに設置された走行装置250dによって車体Wの長さ方向に走行するアンダーコートロボット200dが配置される。なお、車体Wの左側及び右側で走行レールは共通である。このように、アンダーコートロボット200a〜200dは、それぞれ、車体Wのフロント側且つ左側面側の床下部のアンダーコート、車体Wのフロント側且つ右側面側の床下部のアンダーコート、車体Wのリア側且つ左側面側の床下部のアンダーコート、車体Wのフロント側且つ右側面側の床下部のアンダーコートを担当する。
【0061】
アンダーコートロボット200a〜200dは、アームの先端部位にアンダーコート材を塗布する塗布ノズルが取り付けられており、アームの回動に伴い車体の床下部外側にある所定位置に塗布ノズルを移動させてアンダーコート材を自動的に塗装する多関節ロボットである。尚、各関節には、サーボモータ(図示せず)及びそのサーボモータの主軸に連結したエンコーダ(位置検出器)を具備したアクチュエータが設置される。各アクチュエータのサーボモータが動作することで、各アームが、自身と連結した関節の軸心に直交する軸の回り若しくは自身と連結した関節の軸心の回りに相対的に回動される。また、エンコーダは、自身と連結したサーボモータの基準位置(基準角)からの回転角(現在位置)を検出しており、自身と連結したサーボモータのサーボ制御に用いられる。尚、アンダーコートロボット200a〜200dの各サーボモータのサーボ制御は、少なくともCPUとメモリとを具備したロボット制御装置401(図3参照)からの指示により行われる。
【0062】
車体Wの中央部且つ右側面側には、フロア面FLから高さ略Zoの位置に設置された走行装置350によって車体Wの長さ方向に走行するシーリングロボット300が配置される。シーリングロボット300は、アームの先端部位にシーリング材を塗布する塗布ノズルが取り付けられており、アームの回動に伴い車体の継目のある所定位置に塗布ノズルを移動させて、アンダーコートロボット200a〜200dの作業と同時に車室内側に対してシーリング材を自動的に塗装する多関節ロボットである。尚、各関節には、サーボモータ(図示せず)及びそのサーボモータの主軸に連結したエンコーダ(位置検出器)を具備したアクチュエータが設置される。各アクチュエータのサーボモータが動作することで、各アームが、自身と連結した関節の軸心に直交する軸の回り若しくは自身と連結した関節の軸心の回りに相対的に回動される。また、エンコーダは、自身と連結したサーボモータの基準位置(基準角)からの回転角(現在位置)を検出しており、自身と連結したサーボモータのサーボ制御に用いられる。尚、シーリングロボット300の各サーボモータのサーボ制御は、少なくともCPUとメモリとを具備したロボット制御装置401(図3参照)からの指示により行われる。
【0063】
[位置決め制御装置の動作]
図6は、位置決め制御装置180がシーリング・アンダーコートの際に位置決め装置100a〜100dに対して行う制御の流れを示すフローチャートである。尚、本フローチャートは、位置決め制御装置180のメモリに格納されるプログラムとして実施され、位置決め制御装置180のCPUが上記のメモリ(図示せず)に格納されたプログラムを読み出して実行することで行われる。
【0064】
まず、位置決め制御装置180は、台車500に載置した車体Wの四隅の床下部に予め加工されている基準穴Ha〜Hd(被嵌合部)に対して、支持ロッド108a〜108dの先端にある基準ピン109a〜109d(嵌合部)が嵌合するよう、X軸移動台107a〜107dを車体Wの長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向のうち少なくとも高さ方向を含む方向に移動させる(S600)。なお、台車500の停止位置において、基準穴Ha〜Hdと基準ピン109a〜109dとの位置関係が高さ方向で直線上にあれば、X軸移動台107a〜107dを高さ方向のみに移動させることで、基準穴Ha〜Hdに基準ピン109a〜109dを嵌合させることができる。この際、台車500と支持ロッド108a〜108dはどちらも高剛性であるので、ズレによる軋みを避けるために、X軸移動機構及びY軸移動機構でサーボゲインを一時的に小さくしてもよい。
【0065】
つぎに、位置決め制御装置180は、車体Wが台車500から持ち上げる(リフトアップする)とともに、台車500から持上げられた車体Wの位置を所定の目標位置に位置決めするように、X軸移動台107を3軸方向のうち少なくとも高さ方向を含む方向に移動させる(S601)。但し、車体Wと嵌合した状態なので、X軸移動台107a〜107dの位置関係は相互に一定状態とする。なお、X軸移動台107を高さ方向のみに移動させる場合とは、上記の嵌合のときと同様である。また、車体Wのリフトアップと車体Wの目標位置への位置決めとを同時に実施するようにしたが、当該リフトアップが終了した後に当該位置決めを行うようにしてもよい。さらに、車体Wのリフトアップは、特にシーリング作業の場合、一段フル・ストロークではなく多段ショート・ストロークによって適宜シーリング作業等を実施してもよい。また、そのとき、ロボットアームのリーチに拠るが、バックアップ兼用ロボットにより実施してもよい。万一の設備トラブルの際に、完全なライン停止を避けることができる。
【0066】
つぎに、位置決め制御装置180は、シーリングロボット300によるシーリング及びアンダーコートロボット200a〜200dによるアンダーコートが行われた後、車体Wを再び台車500に載置するように、X軸移動台107を3軸方向のうち少なくとも高さ方向(ここでは下方)を含む方向に移動させる(S602)。尚、X軸移動台107を高さ方向のみに移動させる場合とは、上記の嵌合のときの同様である。
【0067】
そして、位置決め制御装置180は、台車500に載置した車体Wの床下部の基準穴Ha〜Hdから、支持ロッド108a〜108dの基準ピン109a〜109dを引き離すように、X軸移動台107a〜107dを車体Wの長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向のうち少なくとも高さ方向を含む方向に移動させる(S603)。尚、X軸移動台107を高さ方向のみに移動させる場合とは、上記の嵌合のときの同様である。
【0068】
尚、上記のステップと併行して、位置決め制御装置180は、四本の基準ピン109により把持された車体Wを常に水平に維持するためのサーボ制御を行う。
【0069】
以上のとおり、本発明によれば、位置決め装置100a〜100dは、アンダーコート作業に必要な空間を確保するために車体Wを台車500から持上げるリフトアップ機能と、アンダーコートを実施する目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つことができる。また、この結果として、アンダーコート工程の搬送形態をフロアコンベア方式とした場合において、当該リフトアップ機能と当該位置決め機能とを併せ持つ車体位置決めシステムの構成及び制御の簡略化並びに所要タイムの短縮化を図ることができる。さらに、従来のとおりアンダーコート工程の搬送形態をハンガーコンベア方式とした場合と比べて、塗装工場の天井の高さを低くすることができ、塗装工場の設備費を低減することができる。
【0070】
尚、位置決め機能はあくまで位置ズレ微調整のための機能であり、リフトアップ機能によって車体の位置決めがほぼ自己完結することができるため、位置ズレ量を画像認識するための画像センサ及び画像センサで認識された画像に基づいて位置ズレを補正するビジョン補正装置を設置する必要がなくなり、システム構築コストを抑制することができる。また、ビジョン補正装置を設ける場合と比べて、同一車種ではなく複数車種間の位置ズレの補正領域を広くカバーすることが容易であり、車種追加に対する汎用性を向上させることもできる。さらに、ビジョン補正装置を設ける場合と比べて、メカニカルな機構が主体であるため、見える化し易く、万が一トラブルが発生した場合であっても、復旧時間及びライン停止時間を短くすることができる。さらに、画像センサのミスト等の汚れを気にする必要がなくなり、保全費を低減することができる。
【0071】
また、位置決め制御装置は、リフトアップ機能と位置決め機能とを独立して実施することで、リフトアップ機能及び位置決め機能をそれぞれに適した条件で実現することができる。
【0072】
また、車体Wの床下部に設ける被嵌合部を基準穴Ha〜Hdとし、支持ロッド108a〜108dの先端に設ける嵌合部を基準ピン109a〜109dとしたことで、支持ロッド108の嵌合部を車体Wの被嵌合部に簡易に嵌合させることができる。さらに、支持ロッド108を3軸方向に移動可能なX軸移動台107に直立させることで、車体Wの基準穴Ha〜Hdに支持ロッド108a〜108dの基準ピン109a〜109dを簡易に嵌合させることができる。
【0073】
また、位置決め装置100a〜100dが、アンダーコートを実施する目標位置に対応した停止位置に台車500が停止した状態における車体Wの四隅の床下部の下方にそれぞれ配置されることによって、本車体位置決めシステムの上記リフトアップ機能及び上記位置決め機能を必要最低限度の構成並びに制御によって実現することができる。また、4台以上の位置決め装置を設置する場合と対比して、アンダーコート作業に必要な空間として車体の床下中央部の空間を有効に利用することができる。
【0074】
また、車体Wのサイドメンバー部は剛性が強いため、車体Wの長さ方向に並設される一対のサイドメンバー部それぞれのフロント側の一端及びリア側の一端に基準穴Ha〜Hdを設けることで、アンダーコート作業に必要な空間として利用する車体Wの床下中央部の空間をより有効に利用することができる。
【0075】
また、車体Wの床下部に設けたピット410a〜410dの床面Pに、位置決め装置100a〜100dを床置きすることによって、支持ロッド108a〜108dの退避ストロークを稼ぐことが容易となり、従来技術のように基準ピン109a〜109dを倒伏させるような複雑な機構を設ける必要がなくなる。
【0076】
また、基準ピン109a〜109dを複数の径を具備する段付ピンとすることで、位置決め装置100a〜100dは基準穴の径の異なる複数車種に対応することができる。また、基準ピン109a〜109dをクランプピンとすることで、位置決め装置100a〜100dは車体Wを把持する際のクランプ力を向上させることができる。
【0077】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0078】
例えば、内圧式及び耐圧式等の防爆機構を採用すれば、シーリング・アンダーコート工程のみならず、中塗り工程や上塗り工程においても、本車体位置決めシステムを適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、アンダーコート工程の搬送形態をフロアコンベア方式とした場合において、アンダーコート作業に必要な空間を確保するために車体を台車から持上げるリフトアップ機能と、アンダーコートを実施する目標位置に車体を位置決めする位置決め機能と、を併せ持つ塗布ステーションに適用すると有益である。また、内圧式及び耐圧式等の防爆機構を採用すれば、アンダーコート工程のみならず中塗り工程や上塗り工程においても有益である。
【符号の説明】
【0080】
100(100a〜100d) 位置決め装置
101 支柱部材
1010 脚部
1011 頭部
102 Z軸サーボモータ
1020 ボールネジ
103 Y軸サーボモータ
1030、1031、1032 ガイドレール
104 X軸サーボモータ
105 Z軸移動台
106 Y軸移動台
107(107a、107b、107d) X軸移動台
108(108a、108b、108d) 支持ロッド
109(109a、109b、109d) 基準ピン
150a、150b 中継装置
152a〜152d 下位ケーブル
180 位置決め制御装置
182a〜182d 上位ケーブル
200a〜200d アンダーコートロボット
250a〜250d 走行装置
300 シーリングロボット
350 走行装置
400 塗布ステーション
401 ロボット制御装置
410(410a、410b、410d) ピット
500 台車
502 ベース部材
504、506 補強板
W 車体
H(Ha、Hb、Hd) 基準穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床下部の塗装を実施する塗布ステーション内に台車に載置して搬送される自動車の車体を、当該塗装を実施する目標位置に位置決めする車体位置決めシステムであって、
前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の床下部の下方に配置され、前記車体の床下部に形成された被嵌合部と嵌合する嵌合部を先端に有する支持ロッドと、前記支持ロッドを前記車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる移動機構と、を備える複数の位置決め装置と、
前記複数の位置決め装置の前記移動機構による前記支持ロッドの3軸方向の移動を制御する位置決め制御装置と、を有し、
前記位置決め制御装置は、
前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記台車に載置された前記車体の前記被嵌合部に前記支持ロッドの嵌合部を嵌合させる支持ロッド嵌合手段と、
前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向を含む方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるとともに前記目標位置に位置決めするリフトアップ及び位置決め手段と、
を有する、車体位置決めシステム。
【請求項2】
前記位置決め制御装置は、リフトアップ及び位置決め手段として、前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるリフトアップ手段と、前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記持ち上げられた車体を前記目標位置に位置決めする位置決め手段とを有する、請求項1に記載の車体位置決めシステム。
【請求項3】
前記被嵌合部が基準穴であり、前記嵌合部が前記基準穴に嵌合する基準ピンである、請求項1に記載の車体位置決めシステム。
【請求項4】
前記支持ロッドは支持台に直立して設けられており、
前記移動機構は、前記支持台を3軸方向に移動させるよう構成されている、請求項3に記載の車体位置決めシステム。
【請求項5】
前記支持ロッドの長さは800mm以上である、請求項4に記載の車体位置決めシステム。
【請求項6】
前記被嵌合部は、前記車体の床下部の四隅に形成されており、
前記位置決め装置は、前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の四隅の床下部の下方にそれぞれ配置されている、請求項1に記載の車体位置決めシステム。
【請求項7】
前記基準穴は、前記車体のサイドメンバー部に設けられている、請求項6に記載の車体位置決めシステム。
【請求項8】
車体の床下部に床下空間を形成するピットを有し、
前記位置決め装置は、前記ピットの床面に床置きされている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の車体位置決めシステム。
【請求項9】
前記支持ロッドの長さは800mm以上であり、
前記塗布ステーションのフロア面を基準とした前記高さ方向の前記台車の位置は1000mm以上であり、
前記フロア面を基準とした前記ピットの深さは1000mm以上である、請求項8に記載の車体位置決めシステム。
【請求項10】
前記塗布ステーションのフロア面を基準とした前記高さ方向の前記目標位置の位置は1800mm以上であり、
前記支持ロッドの最大ストローク長は1200mm以上である、請求項9に記載の車体位置決めシステム。
【請求項11】
前記基準ピンは、複数の径を具備する段付ピンである、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の車体位置決めシステム。
【請求項12】
前記基準ピンは、クランプピンである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の車体位置決めシステム。
【請求項13】
車体の床下部の塗装を実施する塗布ステーション内に台車に載置して搬送される自動車の車体を、当該塗装を実施する目標位置に位置決めする車体位置決めシステムと、
前記目標位置に対応した停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の両側面側に配置され、アーム先端に取り付けられた塗布ノズルにより前記車体の床下部を塗布する多関節ロボットと、
前記多関節ロボットの動作を制御するロボット制御装置と、を備え、
前記車体位置決めシステムは、前記停止位置に前記台車が停止した状態における前記車体の床下部の下方に配置され、前記車体の床下部に形成された被嵌合部と嵌合する嵌合部を先端に有する支持ロッドと、前記支持ロッドを前記車体の長さ方向、幅方向、及び高さ方向の3軸方向に移動させる移動機構と、を備える複数の位置決め装置と、
前記複数の位置決め装置の前記移動機構による前記支持ロッドの3軸方向の移動を制御する位置決め制御装置と、を有し、
前記位置決め制御装置は、
前記支持ロッドを前記移動機構により移動させて、前記台車に載置された前記車体の前記被嵌合部に前記支持ロッドの嵌合部を嵌合させる支持ロッド嵌合手段と、
前記支持ロッドを前記移動機構により前記高さ方向を含む方向に移動させて、前記車体を前記台車から持ち上げるとともに前記目標位置に位置決めするリフトアップ及び位置決め手段と、
を有する、塗布ステーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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