説明

車椅子のステップ装置

【課題】 車椅子において着座者が足の載せ掛けるステップ板の高さを電動昇降機構により調整可能とした従来のステップ装置では、電動モータにより回転するねじ軸機構に加えてステップ板を上下に案内するスライド軸を主体とする案内機構を必要としていた。このため、構成が複雑になって大きな設置スペースを必要とする問題があった。本発明では、簡易な構成で設置スペースのコンパクト化を図ることができる電動式ステップ装置を提供する。
【解決手段】 電動モータ54により回転するねじ軸55に噛み合わされたナット56に対して昇降ベース57の上部をゴム板58を介在させて連結する一方、ナット56の移動範囲よりも下方においてこの昇降ベース57の下面側を受けローラ60により受けて、当該昇降ベース57をナット56に対してフローティング支持した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車椅子の着座者が足を載せ掛けておくためのステップ装置に関する。この発明に係るステップ装置は、車室内のシートとしても利用できる車椅子について特に好適に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
車椅子の着座者が足を載せ掛けるステップ装置に関する技術としては、従来例えば特開2003−260087号公報に開示されたものがある。この文献には、電動モータ及びねじ軸機構を有する一組の昇降機構によりステップ板を任意の高さに上下動させる構成とした電動式ステップ装置が記載されている。
【特許文献1】特開2005-13497号公報
【特許文献2】特開2003-260087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の電動式ステップ装置によれば、電動モータにより回転するねじ軸及びこれに噛み合わされたナットを有する昇降機構に加えて、ステップ板を取り付けた昇降ベースを上下に昇降可能に案内するためのガイド軸を主体とする案内機構を備えた構成となっていた。このため、従来のステップ装置は、構成が複雑になって大型化し、その結果着座者の足元に大きな設置スペースを必要とし、又コスト高になる問題があった。
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、着座者がステップ板に足を載せ掛けることにより付加される荷重に対して十分な剛性を備えつつ、構成がコンパクトであるために従来のような大きな設置スペースを必要とせず、かつ低コスト化を図ることができるステップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明は特許請求の範囲の各請求項に記載した構成のステップ装置とした。
請求項1記載のステップ装置によれば、ステップ板が設けられた昇降ベースは、その上部がねじ軸の回転により上下動するナットに連結され、ナットよりも下方においてその背面側が受けローラにより支持されているので、着座者がステップ板に足を載せ掛けることにより付加される荷重がナット及び受けローラによって強固に受けられ、かつナットの移動により昇降ベース及びステップ板をスムーズに昇降動させることができる。このように、従来のようなガイド軸を有する案内機構を用いることなく、ステップ板に付加される荷重を受けつつ当該ステップ板をスムーズに昇降動させることができるので、従来よりも構成がコンパクト化され、従ってより小さなスペースに設置することができ、またその低コスト化を図ることができる。
請求項2記載のステップ装置によれば、部材の加工誤差や組み付け誤差等によって昇降ベースがねじ軸に対して精確に平行に組み付けられていない場合であっても、当該昇降ベースがナットに対して前後に変位することによりこの誤差が吸収されることから、受けローラの昇降ベースに対する浮きやこじりを排除して受けローラによる昇降ベースの良好な受け状態を維持することができ、これにより昇降ベースのスムーズな昇降動作及び荷重に対する剛性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るステップ装置50を備えた車椅子1の全体を示している。この車椅子1は、車両Mの室内に装備したシート移動装置100に連結して、当該シート移動装置100の作動により車室内外間を移動させることができ、車室内では車両用シートとして使用でき、車室外ではシート移動装置100から切り離すことにより自走可能な車椅子として単独で使用することができる。図7は、本例の車椅子1が車両Mの運転席に移動されて運転席用シートとして機能する状態を示している。
先ず、車椅子1について説明する。この車椅子1は、シートクッション2とシートバック3を備えている。シートバック3の上端にはヘッドレスト4が装備されている。また、シートバック3の左右側部にはアームレスト5,5が装備されている。着座者から見て右側のアームレスト5の先端には、着座者が当該車椅子1の走行操作等を行うためのジョイスティック形式の操作盤6が配置されている。
シートクッション2を支持するシートフレーム7の前部左右には前輪8,8が支持され、後部左右には後輪9,9が支持されている。この前後輪8,9は、電動モータを駆動源とする電動格納機構(図示省略)により上方へ回動して、シートクッション2の側部に沿った位置に格納される。図5では、下方へ取り出された状態の前後輪8,9が実線で示され、上方へ格納された状態の前後輪8,9がに点鎖線で示されている。
また、左右の後輪9,9には、シートバック3の背面に搭載したバッテリ10(供給電圧24V)を電源として駆動するホイールモータ(図示省略)が内蔵されている。左右の後輪9,9は、内蔵したホイールモータにより積極回転する。車椅子1は、左右の後輪9,9が正転すると前進し、逆転すると後退する。前進、後退の切り換え、すなわちホイールモータの回転方向の切り換えは、上記した操作盤6の操作によりなされる。
【0006】
本実施形態の車椅子1は、シートフレーム7の前面に装備したステップ装置50に特徴を有している。このステップ装置50の詳細が図2及び図3に示されている。このステップ装置50は、左右一対のステップ板51,51とこれに対応して左右に配置した左右一対の昇降機構52,52を備えている。着座者は、両ステップ板51,51に左右の足を載せ掛けることができる。右側のステップ板51は右側の昇降機構52によって昇降動し、左側のステップ板51は左側の昇降機構52によって昇降動する。左右の昇降機構52,52は、相互に同じ構成を備えているので、以下一方の構成について説明する。
この昇降機構52は、シートフレーム7の前面に固定した固定ベース53を備えている。この固定ベース53は、その下部側が前方(図3において左側)へ変位する向きに僅かに傾いた状態に固定されている。この固定ベース53の上部には電動モータ54及びその減速機54aが取り付けられている。
この電動モータ54は、シートバック3の背面に搭載したバッテリ10を電源として駆動する。前記操作盤6には、ステップ装置50の昇降スイッチ(図示省略)が配置されている。この昇降スイッチを操作することによって、電動モータ54が起動し、また回転方向が切り換わり、これにより左右の昇降装置52,52が作動して左右のステップ板51,51が上下動する。電動モータ54、バッテリ10及び昇降スイッチを含む駆動回路については説明を省略する。
電動モータ54の出力は減速機54aにより減速される。減速機54aの出力軸にはねじ軸55が同軸に連結されている。ねじ軸55は、その上部及び下部が図示省略した軸受けを介してその軸回りに回転自在な状態で固定ベース53に支持されている。図示するようにこのねじ軸55は、固定ベース53に対してほぼ平行に支持されている。このため、このねじ軸55も、その下部側が前方へ変位する向きに僅かに傾いた状態に設けられている。電動モータ54が起動するとねじ軸55がその軸回りに回転する。本実施形態において、このねじ軸55には、ねじ山が断面台形をなすいわゆる台形ねじが用いられている。
【0007】
ねじ軸55にはナット56が噛み合わされている。電動モータ54によりねじ軸55がその軸回りに回転すると、このナット56がねじ軸55に沿って上下動する。このナット56の上下動方向は鉛直方向に対して僅かに傾いた方向となっている。すなわち、このナット56は、下方へ変位するほど前方へ変位する向きに傾斜した方向に沿って上下動する。
このナット56には昇降ベース57の上部が連結されている。図4には、ナット56に対する昇降ベース57の上部の支持構造の詳細が示されている。図4に示すようにこの昇降ベース57の上部とナット56との間には平板形状のゴム板58が挟み込まれている。このゴム板58を間に挟み込んだ状態で昇降ベース57の上部が固定ボルト59によりナット56に固定されている。固定ボルト59は、ワッシャ59a及びカラー59bを介してナット56に締め込まれている。
このように昇降ベース57がゴム板58を間に挟み込んでナット56に取り付けられていることにより、昇降ベース57は、ナット56に対して前後方向に一定の範囲で変位可能なフローティング構造によりナット56に連結されている。本実施形態におけるゴム板58が、特許請求の範囲に記載した弾性部材の一例に相当する。このフローティング構造によれば、当該車椅子1の走行中において例えば前輪8が路上の段差に乗り上げる等してフレーム7に僅かな変形(たわみ)が生じた場合であっても、この変形がゴム板58によって吸収されることから昇降ベース57及びステップ板51の当該変形による変位を抑制することができ、これにより着座者の足の位置(高さ)を一定の位置に保持することができるので当該車椅子の座り心地をよくすることができる。
昇降ベース57は、ナット56の移動範囲よりも下方において固定ベース53の下部に設けた一つの受けローラ60によって背面側から受けられている。この受けローラ60によって背面側が受けられることにより、当該昇降ベース57は、ねじ軸55及び固定ベース53とほぼ平行に支持されている。また、この昇降ベース57は、ナット56の移動方向すなわちねじ軸55及び固定ベース53に対して常時平行な状態を保持しつつ上下動する。
【0008】
上記したように昇降ベース57は、その下部側を前方へ変位させる方向に傾いた状態に支持されて、主としてその下部側を受けローラ60に載せ掛けた状態、すなわち受けローラ60によって下方から受けられた状態で上下動する。このことから、例えば高価な直動案内機構(例えば、商品名LMガイド)等を用いることなく、また従来のように別途スライドバーを用いることなく、昇降ベース57,57に対して付加される上方からの荷重(着座者がステップ板51に足を載せ掛けることにより付加される荷重)に対する当該昇降ベース57,57の支持剛性を確保しつつそのスムーズな昇降動作が確保されるようになっている。
昇降ベース57の正面側下部に、ステップ板51が支持されている。昇降ベース57の正面側下部には支軸62を介して支持バー63が上下に回動可能に支持されている。支持バー63は、図3中実線で示すように下方へ回動して昇降ベース57にほぼ直交する位置で前方へ突き出す状態となる。一方、図3中二点鎖線で示すように支持バー63は上方へ回動されると、昇降ベース57にほぼ沿った状態となる。
支持バー63にステップ板51が上下に回動可能に支持されている。ステップ板51は、下方へ回動してほぼ水平に張り出す使用位置に取り出される。図1及び図2に示すように左右のステップ板51,51は、相互に接近する側(内側)に回動されて取り出される。左右の支持バー63,63を水平に取り出した状態のまま、それぞれステップ板51を上方に回動して起立させると着座者の足元が開かれる。図ではこの状態は示されていない。また、図3において二点鎖線で示すように左右のステップ板51,51を水平に取り出した状態のまま支持バー63,63を上方へ回動すると、両ステップ板51,51はそれぞれ昇降ベース57に沿って格納される。この状態では着座者は足元をより広く使うことができる。
【0009】
左右のステップ板51,51を除く当該ステップ装置50の前方はカバー65で覆われている。このカバー65によって、着座者の足元が電動モータ54あるいは昇降ベース57等に接触しないようになっている。
また、図2に示すように左右の昇降ベース57,57は連結バー66によって連結されている。このため、左右の昇降ベース57,57はこの連結バー66を介して一体で昇降し、従って左右のステップ板51,51は一体で昇降する。
図3において二点鎖線で示すように左右のステップ板51,51は、路面Lから約50mmの使用高さ(使用位置)まで下降する。当該車椅子1を路面L上を自走させる際には、両ステップ板51,51がこの使用位置まで下降されることにより、着座者は両足をステップ板51,51に楽な姿勢で載せ掛けておくことができる。
一方、電動モータ54,54を逆転させると、両ステップ板51,51が上昇する。本実施形態の場合、両ステップ板51,51は、上記の使用位置(使用高さ)から約110mm上昇させて格納位置(格納高さ)まで移動させることができる。両ステップ板51,51を格納位置まで上昇させることにより、後述するシート移動装置100により当該車椅子1を車室内外間で移動させる際に、ドア開口部Kの下部を区画するロッカー部Rに対する両ステップ板51,51の干渉をより少ないリフト量で回避することができる。
ステップ板51,51の格納位置は、センサ64によって検知される。このセンサ64は、固定ベース53の上部に取り付けられている。昇降ベース57が上昇してステップ板51が格納位置に至るとナット56に取り付けたドグ67がセンサ64に近接し、これによりセンサ64がオンして左右のステップ板51,51が格納位置に至ったことが検知される。
【0010】
次に、上記のステップ装置50を備えた車椅子1は、車両Mに設けたシート移動装置100によって、車室内外間を移動させることができる。このシート移動装置100については、例えば特開2005−34325号公報に開示されたものと同様の構成を備えており、本実施形態において特に変更を要しないが、以下簡単に説明する。
図6に示すように車両Mの運転席位置において車両フロアF上には、前後スライド機構110が設けられている。この前後スライド機構110は、電動モータ111を駆動源として前後スライドベース112を車両前後方向(図6において紙面に直交する方向)に沿って一定の範囲でスライドさせる構成を備えている。
前後スライドベース112には回転盤120が設けられている。この回転盤120は、相互に回転自在に組み付けられた外輪121と内輪122を備えている。外輪121は前後スライドベース112に固定されている。内輪122は、前後スライドベース112上に取り付けた回転モータ123により積極回転する。内輪122は、回転ベース130の下面に固定されている。回転モータ123が起動するとこの回転ベース130が回転し、これにより車椅子1が車両正面を向いた位置とドア開口部K側を向いた位置との間で約90°回転する。
【0011】
この回転ベース130上に横スライド機構102が構成されている。この横スライド機構102は、当該車椅子1を主として車幅方向(図6において左右方向)に移動させる場合に作動する。回転ベース130上には左右一対の横スライドレール131,131が取り付けられている。この横スライドレール131,131に沿って横スライドベース132がスライド可能に支持されている。横スライドベース132は図示省略したスライドモータ及びねじ軸機構によりスライドする。
横スライドベース132の左右側部には、それぞれ四節リンク機構133を構成するリンクアーム133a,133bの一端側が上下に回動自在に連結されている。左右一対の四節リンク機構133,133の先端部間には補助スライド機構135が設けられている。この補助スライド機構135には連結ベース101が水平方向にスライド可能に設けられている。後述するようにこの連結ベース101を介して当該車椅子1がシート移動装置100に連結される。
横スライドベース132が車幅方向にスライドすると、左右の四節リンク機構133,133は車幅方向に移動しつつ上下に傾動し、これによりその先端部間に設けた補助スライド機構135が車室内外間を移動しつつ昇降して当該補助スライド機構135の連結ベース101に連結された車椅子1を車室外の路面Lに近い高さと車室内のフロアFとの間で昇降させながら車室内外間を移動させることができる。補助スライド機構135の連結ベース101が水平方向にスライドすることにより、これに連結した車椅子1がドア開口部K側の下降開始位置とこれよりも車室内側の運転席位置との間で水平移動される。
【0012】
図5に示すように上記連結ベース101が車室外側の路面Lに近い高さまで下降された状態で、車椅子1を後退させて連結ベース101に接近させる。車椅子1をそのままさらに後退させて、連結ベース101をシートクッション2の下面側に進入させる。連結ベース101がシートクッション2の下面側に進入した状態において、横スライド機構102が横スライドベース132が車室内側に後退して上昇側に起動することにより、当該車椅子1が連結ベース101によって持ち上げられる。こうして車椅子1が上昇して前後輪8,9が路面Lから浮き上がった段階で、前後輪8,9が図示省略した電動格納機構によって上方へ格納される。
また、前後輪8,9の格納動作とともに、電動モータ54,54が起動して左右のステップ板51,51が格納位置まで上昇する。前後輪8,9の格納動作及び両ステップ板51,51の格納動作は、シート移動装置100の動作に連動して自動でなされる。前後輪8,9の格納位置及び両ステップ板51,51の格納位置は、それぞれセンサによって検知される。両ステップ板51,51の格納位置は前記センサ64,64によって検知される。
前後輪8,9の格納位置及び左右のステップ板51,51の格納位置がそれぞれセンサによって検知されると、引き続きシート移動装置100が車室内側に作動することにより、車椅子1が上昇してドア開口部Kの下降開始高さに戻される。その後、補助スライド機構135の連結ベース101が車室内側にスライドして車椅子1が車室内側に移動する。車室内側に移動した車椅子1は、回転盤120及び前後スライド機構110の作動によって車両正面向きの位置に回転される。
【0013】
以上の動作により、着座者は車室外において当該車椅子1に着座した状態のまま、車室内の運転席位置に移動(乗車)することができる。この状態が図7に示されている。図7中、符号Hはステアリングハンドルを示し、符号Bはブレーキペダルを示している。車椅子1を運転席位置に移動させた後、ステップ装置50の昇降機構52,52を下降側に作動させて、左右のステップ板51,51を使用位置まで下降させることにより、着座者は楽な姿勢でステアリングハンドルHを把持することができる。
シート移動装置100を逆に作動させることによって、着座者は車室内の運転席位置において当該車椅子1に着座した状態のまま、車室外へ移動(降車)することができる。この場合、先ずステップ装置50の電動モータ54,54が逆転して左右のステップ板51,51が格納位置まで戻される。然る後、シート移動装置100の前後スライド機構110及び回転盤120が作動して当該車椅子1が車両正面向きの位置から約90°回転してドア開口部K側に向けられる。次に、補助スライド機構135の連結ベース101が車室外側にスライドして、ドア開口部K側に向けられた状態の車椅子1がドア開口部Kを経て車室外側に水平移動し、然る後横スライド機構102の作動により、当該車椅子1が下降しつつ車室外側へ移動する。当該車椅子1が車室外側へ移動しつつ下降する途中の段階において、前後輪格納機構が作動して前後輪8,9が下方へ取り出され、また昇降機構52が作動して左右のステップ板51,51が使用位置まで下降される。その後、前後輪8,9が路面Lに接地する。こうして当該車椅子1が路面L上に下ろされた後、シート移動装置100がさらに下降側に移動することにより、その連結ベース101が当該車椅子1から分離され、然る後当該車椅子1を前進させることにより、当該車椅子1がシート移動装置100から分離される。分離された車椅子1は、単独で路面L上を自走することができる。
このように、シート移動装置100に連結した車椅子1が車両Mのドア開口部Kを通過する際には、左右のステップ板51,51が上側の格納位置に格納されてシートクッション2から下方への張り出し寸法が小さくなっているので、ドア開口部Kの下部を区画するロッカー部Rの干渉を回避しやすくなり、その結果ドア開口部Kを通過する際の車椅子1の高さをその分だけ低くすることができる。これによれば、横スライド機構102のスライド量等を小さくすることができ、ひいては当該シート移動装置100をコンパクトに構成することができる。
【0014】
以上のように構成した本実施形態のステップ装置50によれば、左右のステップ板51,51がそれぞれ電動モータ54を駆動源とする昇降機構52により昇降される。左右の昇降機構52,52において、それぞれステップ板51を設けた昇降ベース57は、その上部がナット56に連結され、その下部は受けローラ60により背面側から受けられた状態に設けられている。このため、着座者がステップ板51に足を載せ掛けることにより付加される荷重がナット56及び受けローラ60によって強固に受けられ、かつナット56の移動により昇降ベース57及びステップ板51をスムーズに昇降動させることができる。このことから、従来のようなガイド軸を有する案内機構を用いることなく、ステップ板51に付加される荷重を受けつつ当該ステップ板51をスムーズに昇降動させることができるので、従来よりも構成がコンパクト化され、従ってより小さなスペースに設置することができ、またその低コスト化を図ることができる。
また、昇降ベース57の上部はゴム板58を間に挟み込んだ状態でナット56に支持され、下部は受けローラ60の載せ掛けられたフローティング構造を備えていることから、車椅子1の走行中に例えば前輪8が路面L上の段差に乗り上げる等してフレーム7に僅かな変形(たわみ)が生じ、これによりナット56が僅かに変位した場合(傾いた場合)であっても、この変形がゴム板58によって吸収されることから昇降ベース57及びステップ板51の当該変形による変位を抑制することができ、これにより着座者の足の位置(高さ)を一定の位置に保持することができるので当該車椅子の座り心地をよくすることができる。
さらに、電動モータ54を駆動源とする昇降機構52,52により左右のステップ板51,51が昇降するので、当該車椅子1をシート移動装置100により車室内外間で移動させる形態を採用する場合に、シート移動装置100の動作に当該ステップ装置50の昇降動作を関連付けて制御することができ、この点で使い勝手のよい車椅子を提供することができる。
また、例示したステップ装置50では、ステップ板51を支持する昇降ベース57がねじ軸(台形ねじ)55の回転により移動するナット56に取り付けられており、このナット56の上下動によって昇降する構成であるので、例えば商品名LMガイドと称される高価な直動機構を用いることなく昇降ベース57を昇降させることができ、この点でも当該車椅子1のコスト低減を図ることができる。
【0015】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、シート移動装置100により車室内外間を移動させて車両用シートとして兼用できる形態の車椅子1を例示したが、車両とは無関係に用いる車椅子にも同様に適用することができる。
また、左右の昇降ベース57,57がそれぞれ一つの受けローラ60によって受けられる構成を例示したが、その幅方向に一定の間隔をおいて配置した二つの受けローラによって昇降ベースをその背面側二箇所で受ける構成としてもよい。
さらに、昇降ベース57の上部をゴム板58を間に挟み込んでナット56にフローティング支持する構成を例示したが、ゴム板58(フローティング支持構造)を省略して、昇降ベース57の上部をナットに対して変位不能に直接固定する一方、その下部側を受けローラにより受ける構成とすることができる。この構成(非フローティング構造)であっても、受けローラ60が昇降ベース57に対して浮き上がることなく、かつ当該受けローラ60に無理な力が付加されること(こじり)がなく、当該昇降ベース57に対する受けローラ60の良好な当接状態を維持することができる。
また、昇降ベースをナットに対してフローティング支持するための弾性部材としてゴム板58を例示したが、このゴム板58に代えて例えば圧縮ばねを昇降ベースの上部とナットとの間に介装する構成としてもよい。
また、固定ベース53に受けローラ60を設ける構成を例示したが、昇降ベース57側に受けローラを設け、この受けローラを固定ベースに対して転動させることにより、昇降ベースに付加される荷重をこの受けローラで受けつつ当該昇降ベースを昇降可能に支持する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るステップ装置を備えた車椅子の全体斜視図である。
【図2】車椅子の前部であって、ステップ装置の斜視図である。
【図3】車椅子の前部であって、ステップ装置の側面図である。
【図4】図3の(4)部拡大図であって、ナットに対する昇降ベース上部の支持構造を示す縦断面図である。
【図5】車椅子がシート移動装置に連結される直前の様子を示す側面図である。
【図6】車椅子がシート移動装置に連結されて車室内へ移動する様子を示す側面図である。
【図7】図6中、車椅子を矢印(6)方向から見た図であって、運転席位置に移動した車椅子の側面図である。
【符号の説明】
【0017】
1…車椅子
2…シートクッション
3…シートバック
6…操作盤
7…シートフレーム
8…前輪
9…後輪
10…バッテリ
50…ステップ装置
51…ステップ板
52…昇降機構
53…固定ベース
54…電動モータ
55…ねじ軸
56…ナット
57…昇降ベース
58…ゴム板(弾性部材)
60…受けローラ
64…センサ(格納位置検知用)
65…カバー
66…連結バー
100…シート移動装置
101…連結ベース
102…横スライド機構
110…前後スライド機構
120…回転盤
130…回転ベース
133…四節リンク機構
M…車両
K…ドア開口部
F…車両フロア
R…ロッカー部
L…路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者が足を載せ掛けるステップ板と該ステップ板を昇降させるための昇降機構とを備えるステップ装置であって、
前記昇降機構は、電動モータと、該電動モータにより軸回りに回転するねじ軸と、該ねじ軸に噛み合わされて該ねじ軸の回転により該ねじ軸に沿って上下に移動するナットと、該ナットに上部が連結された昇降ベースと、該ナットの移動範囲よりも下方位置において前記昇降ベースの背面側を受ける受けローラを備え、前記昇降ベースの正面側下部に前記ステップ板を備えたステップ装置。
【請求項2】
請求項1記載のステップ装置であって、前記昇降ベースと前記ナットとの間に、当該ナットの変位を吸収するための弾性部材を介在させたステップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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