説明

車椅子乗降用電動ウィンチ

【課題】駆動力の省力化及びウィンチの小型化を図る。
【解決手段】車椅子乗降用のスロープを装備した車両の車室内に設けた車椅子乗降用電動
ウィンチにおいて、巻取軸7にて繰り出し及び巻取りされる牽引部材5の案内経路X中に
、牽引部材5を挟んで圧接案内する摩擦車9、10を設け、少なくとも一方の摩擦車9を正
逆回転自在に駆動させることにより、従来のドラム巻取り駆動方式に比し、小さい駆動力
で以て牽引部材5の繰り出し及び引き入れできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子利用者が車椅子ごと乗降する際に用いられる車椅子乗降用電動ウィン
チに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、後部に設けた車椅子専用の乗降口にスロープを装備し、このスロープを介護者の
誘導によって上り下りすることにより、身障者等が車椅子に座ったまま乗り降り出来る様
にした車両が見受けられる。
この様な車両では、車内に車椅子牽引用の電動ウィンチを搭載し、このウィンチから引
き出したベルト等の牽引部材先端のフックを車椅子に係止し、牽引部材をウィンチが巻き
取る又は繰り出すことにより、スロープを上り下りする時に介護者が車椅子を押し出す力
又は支える力を補助し、身障者等を車椅子に座った状態で安全に乗降させている(例えば
、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−113963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記ウィンチは、その駆動軸に牽引部材の巻取ドラムを軸着しただけで
あり、この様なドラム巻取り駆動方式では、牽引部材の巻き取り径が大きくなるに従って
巻取り力(トルク)を大きくせねばならないため、最大巻取り径に対応した巻取り力以上
の能力を有する駆動源を必要としている。
この様に、巻取り最終時以外では、備えられた能力の一部で機能するにも拘らず、その
能力に対応した駆動源を装備せねばならないので、ウィンチが大型化するばかりでなく、
その駆動源の駆動力の大部分が無駄に使用されることになるといった課題を有していた。
そこで、本発明は、上記の如く無駄に使用されていた駆動力を省いてこれよりも小さい
駆動力で以て牽引部材を繰り出し及び引き入れできる様にした車椅子乗降用電動ウィンチ
を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、車椅子乗降用のスロープを装備した車両の車室内に設けた
車椅子乗降用電動ウィンチにおいて、巻取軸にて繰り出し及び巻取りされる牽引部材の案
内経路中に、牽引部材を挟んで圧接案内する摩擦車を設け、少なくとも一方の摩擦車を正
逆回転自在に駆動させることを特徴としている。
又、一方の摩擦車に対し他方の摩擦車を、両摩擦車と牽引部材との摩擦力を増大させる
様に付勢しても良い。
更に、両摩擦車は、牽引部材を介して相互に噛合する凹凸を周設しても良い。
又、巻取軸には、牽引部材を巻取り方向に付勢する手段を設けてもよい。
【発明の効果】
【0005】
要するに請求項1に係る発明によれば、牽引部材を挟んだ摩擦車の回転により、これら
の間の牽引部材を圧接しながら案内するだけであり、牽引部材の前後進は牽引部材とこれ
を挟んだ摩擦車の摩擦力によって得られるので、摩擦車には牽引部材を挟んで圧接案内す
るのに充分な一定の駆動力が伝動されれば良いため、従来の様に巻取ドラムの牽引部材の
巻取径に応じ必要な駆動力が可変するためにその最大巻取り径に対応した大きな駆動力を
必要とするドラム巻取り駆動方式に比し、小さい駆動力で以て牽引部材の繰り出し及び引
き入れできる。
よって、従来に比し牽引部材の繰り出し及び巻取りに要する駆動力を省力化できると共
に、小型の駆動源の使用が可能なため、ウィンチを小型化できる。
【0006】
請求項2に係る発明では、一方の摩擦車に対し他方の摩擦車を、両摩擦車と牽引部材と
の摩擦力を増大させる様に付勢することにより、両摩擦車による牽引部材の圧接案内をよ
り確実に成し得ることができる。
【0007】
請求項3に係る発明では、両摩擦車は、牽引部材を介して相互に噛合する凹凸を周設す
ることにより、牽引部材に対する両摩擦車の摩擦力を増大させられ、該両摩擦車による牽
引部材の圧接案内をより確実に成し得ることができる。
【0008】
請求項4に係る発明では、巻取軸には、牽引部材を巻取り方向に付勢する手段を設けた
ので、両摩擦車により圧接案内された牽引部材を他の駆動源を用いることなく自動的に巻
取りできると共に、巻取軸と両摩擦車との間の牽引部材を常に緊張させられ、両摩擦車の
牽引部材の圧接案内が効率良くスムーズに行える等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施の形態としての実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示す車椅子乗降用電動ウィンチは、車椅子乗降用のスロープを装備した車両の車
室内に設置されるものにして、ケース1にウィンチユニット2を内装して成り、該ケース
1の底部3を車室フロア上に固定している。
又、ケース1のカバー4において、車体前方に対応する前面上部には、合成樹脂製ベル
トから成る牽引部材5の挿通口6を開設し、該挿通口6から繰り出される牽引部材5は上
方で折り返されてカバー4上を通過し、車体後方へ引き延ばされる。
尚、牽引部材5の先端側は、図示しないが、二股に分岐され、各先端には車椅子の左右
フレームの夫々に掛止するフックを設けている。
【0010】
ウィンチユニット2は、牽引部材5を繰り出し及び巻取りする巻取軸7を水平配置し、
該巻取軸7から挿通口6へ渡る牽引部材5の案内経路Xを後述の案内車8、8a、駆動摩擦
車9及び従動摩擦車10によって構成している。
巻取軸7は、ケース2内後方に設置され、牽引部材5を図において右巻きに巻装し、牽
引部材5を巻取軸7下方から前方へ繰り出す様に成している。
又、巻取軸7の軸線上の適所には、図示しない渦巻きバネから成る付勢手段を牽引部材
5の巻取り方向に付勢する様に巻着している。
【0011】
牽引部材5は、その案内経路Xの上流側及び下流の挿通口6の夫々に設けた案内車8、
8aに掛け渡され、該案内ローラー8、8a間の案内経路X中には、牽引部材5を挟んで圧接
案内する駆動摩擦車9と従動摩擦車10を設けている。
駆動摩擦車9の駆動源11は、ケース2内の適所に配置した正逆回転自在な電動モータか
ら成り、その前方に減速機構部11aを設け、該減速機構部11aより水平突出する出力軸に
歯車12を軸着し、該歯車12と駆動摩擦車9の駆動軸9aに軸着した歯車13とを噛合すること
により、駆動源11に駆動摩擦車9を連繋してこれを正逆回転自在に駆動する様に成してい
る。
【0012】
駆動摩擦車9と従動摩擦車10は、牽引部材5の幅より長い円柱状のロールから成り、両
摩擦車9、10の外周面に、ローレット目等を施して粗面化したり、合成ゴム等の摩擦係数
の大きい素材を被着したり、或いは、図2に示す様に、牽引部材5を介して相互に噛合す
る凹凸を交互に周設することより、牽引部材5との摩擦力を増大させている。
そして、従動摩擦車10は、駆動摩擦車9よりも小径に形成され、駆動摩擦車9の外周の
適宜な2箇所に牽引部材5を介して外接する様にして、各従動摩擦車10を軸着している従
動軸10aの夫々を定位置に回転自在に支持している。
尚、従動摩擦車10の個数及び大きさは、上記に限定されず、要するに駆動摩擦車9と従
動摩擦車10との間で牽引部材5を圧接し、駆動摩擦車9の回転で牽引部材5を介して従動
摩擦車10が逆方向に回転し、牽引部材5を圧接案内できれば良い。
又、従動摩擦車10を適宜伝動手段を介して駆動源11に連繋し、従動摩擦車10を駆動摩擦
車9とは逆回転する様に駆動させても良い。
【0013】
又、駆動摩擦車9又は従動摩擦車10の一方に対し他方(図示例では、動摩擦車10に対し
駆動摩擦車9)を、両摩擦車9、10と牽引部材5との摩擦力を増大させる様に押圧付勢し
ている。
即ち、各従動摩擦車10に対し駆動摩擦車9を遠近移動自在と成す様に、駆動軸9aの各端
部を図示しない軸受け基板に設けた長穴14内に回転自在且つ摺動自在に支持し、駆動摩擦
車9が牽引部材5を介して各従動摩擦車10を押圧する様に、駆動軸9aの各端部と、これに
案内経路Xを介して対向配置したバネ掛止軸15の各端部との間に引張バネ16を介装してい
る。
本実施例では、引張バネ16にて駆動摩擦車9を従動摩擦車10に対し付勢したものを示し
たが、かかる付勢手段は、引張バネ16を用いたものに限定されず、例えば圧縮バネを用い
ても良い。
【0014】
上記の様に構成されたウィンチでは、車外の車椅子に牽引部材5を連結する場合や牽引
部材5と連結状態の車椅子を降車させる場合の牽引部材5の繰り出しに際し、駆動源11の
作動にて駆動摩擦車9を右回りに回転させる。
これにより駆動摩擦車9と従動摩擦車10の間で圧接されている牽引部材5を介して従動
摩擦車10が逆方向に回転し、牽引部材5は、巻取軸7に設けた渦巻きバネの付勢力に抗し
て緊張状態で引き出され、繰り出し方向へ圧接案内される。
【0015】
又、牽引部材5と連結状態の車椅子を乗車させる場合や車椅子降車後に牽引部材5を巻
き戻す場合の牽引部材5の巻き取りに際しては、駆動源11を上記とは逆に回転させること
により、駆動摩擦車9を左回りに回転させる。
これにより、上記と同様に牽引部材5を介して従動摩擦車10は駆動摩擦車9の逆方向に
回転し、牽引部材5は、巻取り方向へ圧接案内される。
かかる状態において、巻取り方向へ圧接案内される牽引部材5は、駆動摩擦車9の上流
側で手繰り寄せられることになるが、巻取軸7は渦巻きバネの付勢力により右回りに自動
的に回転するため、駆動摩擦車9の上流側で牽引部材5は常に緊張状態で巻取軸7に巻取
られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車椅子乗降用電動ウィンチの内部構造を示す簡略図である。
【図2】摩擦車の他例を示す簡略図である。
【符号の説明】
【0017】
5 牽引部材
7 巻取軸
9 摩擦車
10 摩擦車
X 案内経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子乗降用のスロープを装備した車両の車室内に設けた車椅子乗降用電動ウィンチに
おいて、巻取軸にて繰り出し及び巻取りされる牽引部材の案内経路中に、牽引部材を挟ん
で圧接案内する摩擦車を設け、少なくとも一方の摩擦車を正逆回転自在に駆動させること
を特徴とする車椅子乗降用電動ウィンチ。
【請求項2】
一方の摩擦車に対し他方の摩擦車を、両摩擦車と牽引部材との摩擦力を増大させる様に
付勢したことを特徴とする請求項1記載の車椅子乗降用電動ウィンチ。
【請求項3】
両摩擦車は、牽引部材を介して相互に噛合する凹凸を周設したことを特徴とする請求項
1又は2記載の車椅子乗降用電動ウィンチ。
【請求項4】
巻取軸には、牽引部材を巻取り方向に付勢する手段を設けたことを特徴とする請求項1
、2又は3記載の車椅子乗降用電動ウィンチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−75473(P2007−75473A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269383(P2005−269383)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(393020122)トーシンテック株式会社 (20)