説明

車椅子

【課題】フレーム構造を低くすることができるようにした車椅子を提供する。
【解決手段】前脚フレーム2の後端部と、後脚フレーム4の前端部とを、左右方向を向く枢軸5をもって互いに枢着し、前脚フレーム2が後脚フレーム4に対して、前方を向く平常位置と前上方を向くチルト位置とに回動可能とするとともに、後脚フレーム4に、前脚フレーム2を平常位置に向かって付勢する第1の付勢手段18を設け、前脚フレーム2の後部より起立する左右1対の起立部12の上部をもって、左右1対の中間車輪9の左右方向を向く車軸10を、枢軸5より上方において支持し、前脚フレーム2上に設けた支基27によって、座29および背凭れ32を支持することにより、前脚フレーム2をチルト位置としたとき、座29および背凭れ32が前脚フレーム2とともに後傾しうるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除圧姿勢を執れるようにした車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間車椅子を使用することにより、臀部等に褥瘡が発生するのを防止するため、背凭れを水平に近くなるまで後傾させ、それに伴い、座の前部が持ち上がって、いわゆる除圧姿勢を執れるようにした車椅子は公知である(例えば特許文献1または2参照)。
【0003】
また、除圧姿勢に至らないまでも、座と背凭れとをともに後傾しうるようにしたものもある(例えば特許文献3または4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3245055号公報
【特許文献2】特許第4201799号公報
【特許文献3】特許第3438094号公報
【特許文献4】特許第3557499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来の車椅子は、いずれも、座および背凭れの後傾時の回動中心が、左右の車輪の車軸の位置の近くか、またはそれより上方に位置しているため、除圧姿勢時の安定性が悪く、着座者に恐怖感を与え、かつ介助者によらなければ回動操作しづらく、着座者がひとりで回動操作し難いという問題がある。
【0006】
また、上記のような従来の車椅子は、いずれも、車輪の高さとほぼ等高、またはそれより高位の左右1対の側フレーム同士を、左右方向を向く連結杆等により連結し、両側フレーム間に座および背凭れを配設してあるので、座および背凭れの横幅を大とすることができず、車椅子使用者に窮屈な感じを与えている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、フレーム構造体を低位置とすることができ、それに伴って、除圧姿勢時の座および背凭れの回動中心を低くすることができて、安定性をよくすることができるとともに、使用者に恐怖感を与えることがなく、しかも背凭れのリクライニング操作から除圧姿勢への移行の操作を円滑に行うことができ、さらに、座および背凭れの横幅が、側フレーム等によって制限されることがなく、窮屈感をなくすことができるようにした車椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)前端部下面に前車輪を設けた前後方向を向く前脚フレームの後端部と、後端部下面に後車輪を設けた前後方向を向く後脚フレームの前端部とを、左右方向を向く第1の枢軸をもって互いに枢着することにより、前脚フレームが後脚フレームに対して、前方を向く平常位置と前上方を向くチルト位置とに回動可能とし、かつ前記後脚フレームに、前脚フレームを平常位置に向かって付勢する第1の付勢手段を設け、前記前脚フレームの後部と後脚フレームの前部とのいずれか一方より起立する左右1対の起立部の上部をもって、左右1対の中間車輪の左右方向を向く車軸を、前記第1の枢軸より上方において支持し、前記前脚フレーム上に座および背凭れを取り付けることにより、前記前脚フレームをチルト位置としたとき、前記座および背凭れが前記前脚フレームとともに後傾しうるようにする。
【0009】
このような構成とすると、前脚フレームと後脚フレームとからなるフレーム構造を著しく低くすることができ、それに伴って、除圧姿勢時の座および背凭れの回動中心、すなわち枢軸の位置を低くでき、安定性をよくすることができるとともに、使用者に恐怖感を与えることがなくなり、座および背凭れの回動操作も楽に行えるようになる。
また、前脚フレームに、座および背凭れを備える既存の椅子を取り付けるだけで、車椅子とすることができ、座および背凭れを車椅子専用に製作する必要がなく、しかも既存の事務用椅子等とのデザインの共通化を図ることができる。換言すると、本発明の車椅子を、在来の事務用椅子とデザインを共通化した事務用車椅子とすることができる。
さらに、座および背凭れの横幅が側フレーム等によって制限されることがないので、それらの横幅を大とすることができ、窮屈感をなくすことができる。
【0010】
(2)上記(1)項において、前脚フレーム上に支基を設け、この支基によって座および背凭れを支持するようにする。
【0011】
このような構成とすると、座および背凭れを、支基によって簡単に前脚フレームに取り付けることができるとともに、座および背凭れを容易に交換することができる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)項において、背凭れの下部を座の後部に左右方向を向く第2の枢軸をもって枢着し、背凭れを座に対して起立位置と後傾位置とに回動可能とし、かつ前記座または前脚フレームに、前記背凭れを起立位置に向かって付勢する第2の付勢手段を設ける。
【0013】
このような構成とすると、まず背凭れを座に対して後傾させて、リクライニング姿勢とした後、座とともに枢軸回りに後傾させて、除圧姿勢とすることができ、使い勝手がよい。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、第1の枢軸を車軸より下方に、また第2の枢軸を、前記車軸より上方、かつ前記第1の枢軸より後方に配設する。
【0015】
このような構成とすると、まず背凭れを第2の枢軸を中心として後傾させて、リクライニング姿勢とし、その後引き続いて、背凭れと座と前脚フレームとを、第1の枢軸を中心としてさらに後傾させることにより、リクライニング姿勢から除圧姿勢へ円滑に移行させることができる。
【0016】
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、前脚フレームの両側部を前下方に傾斜させて、後部を前部より上方に位置させ、前記後部を起立部とする。
【0017】
このような構成とすると、前脚フレームの構造を簡素化し、安価に製造することができる。
【0018】
(6)上記(5)項において、前脚フレームの両側後部より前方の部分に後下方を向く腕部を設け、この腕部の後端部を、車軸の直下に配設した第1の枢軸をもって、後脚フレームの前端部に枢着する。
【0019】
このような構成とすると、第1の枢軸を、より確実に、前脚フレームにおける車軸より下方の位置に配設することができるとともに、車軸と第1の枢軸とを上下方向に大きく離間させることができ、上記(1)〜(5)項の効果を、より顕著に発揮することができる。
【0020】
(7)上記(1)〜(6)項のいずれかにおいて、前脚フレームを、前方に向かって開口する平面視コ字状の基枠の前端に、前方に向かって開口する平面視コ字状の補助枠の前端部を垂下させた部分を固着することにより、閉ループ状に形成する。
【0021】
このような構成とすると、前脚フレームの強度を高めることができるとともに、構造を簡素化することができる。
【0022】
(8)上記(1)〜(7)項のいずれかにおいて、前脚フレームにおける第1の枢軸より後上方を向く支持片の後端部と後脚フレームにおける前記枢軸より後方の部分との間に、圧縮ばねからなる第1の付勢手段を設ける。
【0023】
このような構成とすると、上下方向の狭い空間内に第1の付勢手段を配設することができるとともに、第1の付勢手段の構造を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、フレーム構造体を低位置とすることができ、それに伴って、除圧姿勢時の座および背凭れの回動中心を低くすることができて、安定性をよくすることができるとともに、使用者に恐怖感を与えることがなく、しかも背凭れのリクライニング操作から除圧姿勢への移行の操作を円滑に行うことができ、さらに、座および背凭れの横幅が、側フレーム等によって制限されることがなく、窮屈感をなくすことができるようにした車椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車椅子の一実施形態の不使用状態における側面図である。
【図2】同じく、背凭れを後傾させたときの側面図である。
【図3】同じく、除圧姿勢としたときの側面図である。
【図4】同じく、座および背凭れを取り外したときの平面図である。
【図5】図4のV−V線拡大断面図である。
【図6】図1のVI−VI線拡大正面図である。
【図7】肘掛けと、それに取り付けたフットレスト操作手段、および第2の操作手段を、右斜め上方から見た拡大分解斜視図である。
【図8】図6の左方から見た一部切欠き拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、この車椅子は、前端部下面に左右1対の前車輪1、1を垂直軸回りに旋回可能として設けた前後方向を向く前脚フレーム2の後端部と、後端部下面に左右1対の後車輪3、3を垂直軸回りに旋回可能として設けた前後方向を向く後脚フレーム4の前端部とを、左右方向を向く第1の枢軸5をもって互いに枢着することにより、前脚フレーム2が後脚フレーム4に対して、図1および図2に示すように前方を向き、かつ前車輪1、1が接床する平常位置と、図3に示すように前上方を向き、かつ前車輪1、1が床から離れたチルト位置とに回動可能とした脚体6を備えている。
【0027】
図4に示すように、前脚フレーム2は、前方に向かって開口する平面視コ字状の基枠7の前端に、前方に向かって開口する平面視コ字状の補助枠8の前端部を垂下させた部分を固着することにより、平面視ほぼ長方形の閉ループ状に形成され、基枠7の後端よりやや前方の両側部には、左右1対の中間車輪9、9の車軸10、10を枢支する軸受11、11が設けられている。
【0028】
図1〜図3に示すように、基枠7の両側部における軸受11、11より後方の部分は後下方に向かって傾斜し、同じく軸受11、11より前方の部分は前下方に向かって傾斜し、この軸受11、11を頂部とする基枠7の両側後部における山形部分により、車軸10、10を枢支する起立部12、12が形成されている。
【0029】
基枠7の両側部における軸受11、11よりやや前方の部分には、後下方を向く左右1対の腕部13、13が設けられ、この両腕部13、13の後端部同士は、左右方向を向く連結杆14により互いに連結され、この連結杆14の左右両側部の後面に溶接した後方を向く1対の軸受片15、15に、後脚フレーム4をなす左右1対の後脚杆16、16の前端部が、第1の枢軸5をもってそれぞれ枢着されている。
【0030】
基枠7の両側部における軸受11、11より後下方を向く部分の中間部には、後上方を向く左右1対の支持片17、17が固着されており、各支持片17の後端部と各後脚杆16における第1の枢軸5より後方の部分との間には、後脚フレーム4に対して、前脚フレーム2を平常位置に向かって付勢する第1の付勢手段18をなすガススプリング19と、それに外嵌した圧縮コイルばね20とが縮設されている。
なお、ガススプリング19と圧縮コイルばね20とのいずれか一方を省略して実施したり、またはそれらに代えて、別の付勢手段を用いてもよい。
【0031】
基枠7の前端部内面より垂下するように設けた左右1対の軸受片21、21の下端部には、フットレスト22が、図1および図5に実線で示すように、足乗せ面22aがほぼ水平をなす使用位置と、同じく2点鎖線で示すように、足乗せ面22aが上方または後上方を向くように起立する不使用位置とに回動可能として、左右方向を向く枢軸23をもって枢着されている。
【0032】
フットレスト22は、図4に示すように、平面視において左右方向に長い長方形をなし、かつ上面が足乗せ面22aをなすステップ板22bと、ステップ板22bの左右両側端から垂下し、図5に示すように、後方に向かって漸次高寸となる側板22c、22cとからなっている。
【0033】
補助枠8の両側部には、ハンドル24を前方に倒すことにより、押圧体25が中間車輪9に圧接して、中間車輪9を制動し、ハンドル24を後方に倒すことにより、押圧体25が中間車輪9から離間して、制動状態を解除するようにした左右1対のブレーキ装置26、26が設けられている。
【0034】
前脚フレーム2上には、支基27が取り付けられている。
この支基27は、平面視が図4に示すように前方に向かって拡開するほぼ二等辺三角形状をなし、かつ側面視が図1に示すように前上方に向かって傾斜しており、後部が前脚フレーム2における連結杆14の中央部に載置されて固着され、後端中央と基枠7の後端中央部とが前後方向を向く連結杆28をもって連結され、さらに、前部が補助枠8の後部に載置されて固着されている。
【0035】
支基27上には、座29が取り付けられている。
座29は、この例においては、説明を簡単にするため、支基27に固着されたものとして説明する。その固着手段としては、支基27の下面からのねじ止め(図示略)とすることができる。
【0036】
座29は、硬質の座枠30とクッション体30aとからなり、座枠30の後部両側には、前上方に向かって半円状に延出する肘掛け31、31が一体的に形成されている。
【0037】
座29の後部における左右の肘掛け31、31の前下部には、背凭れ32の下部両側より前方に延出する側片32a、32aの前部が、左右方向を向く第2の枢軸33をもって枢着され、背凭れ32は、図1に実線で示す起立位置と、図1に2点鎖線で示す後傾位置とに回動しうるようになっている。
【0038】
第2の枢軸33より下方の背凭れ32の下端中央部と、支基27の前部における左右方向の中央部との間には、背凭れ32のリクライニング機構における第2の付勢手段34をなすガススプリング35と、それに外嵌した圧縮コイルばね36とが縮設されている。
なお、ガススプリング35と圧縮コイルばね36とのいずれか一方を省略して実施したり、またはそれらに代えて、別の付勢手段を用いてもよい。
上記ガススプリング19は、ロック機能なしのものとしてもよいが、肘掛け31または座29の下面等に設けた後述する背凭れ操作手段38の操作によりロックしたりロック解除したりしうるようにしたロック機能付きのものとしてある。
【0039】
次に、図6〜図8を参照して、一方の肘掛け31に設けたフットレスト操作手段37と背凭れ操作手段38とについて説明する。
【0040】
図6および図7に示すように、左右の肘掛け31は、上面に肘当てパッド31aが取付けられたほぼ水平をなす肘当て部31bと、この肘当て部31bの後端より垂下し、下端が座枠30の両側後部に一体的に接続された垂下片31cとからなり、正面形状は、図6に示すように、外向き倒立L字形をなしている。
【0041】
車椅子を正面から見て左方の肘掛け31における垂下片31cの前上端部の外側面には、前後方向を向く取付板39の中間部の上向片39aが、その上端部に設けた前後2個の通孔40、40に挿入した止めねじ41、41を、垂下片31cに設けた前後2個の挿通孔42、42に内方より嵌合した鍔付きの雌ねじ筒43、43に螺合して締着することにより、垂下片31cの外側面に止着されている。
【0042】
取付板39の外側面には、背凭れ操作手段38が取り付けられている。
背凭れ操作手段38は、前後方向を向く本体38aと、本体38aの前端面から、前方に向かって突出し、後方に向かって押動可能な操作ボタン38bと、本体38aの前端と後端より左右両方向に突出する取付片38c、38cとを有している。各取付片38c、38cの先端部には、前後方向を向く上下2個の挿通孔44、44が穿設されている。
【0043】
内方の前後の取付片38c、38c間に取付板39を嵌入した状態で、両取付片38cの挿通孔34に挿入したボルト45を、取付板39の前後の端面に設けた上下2個の雌ねじ孔46、46に螺合することにより、背凭れ操作手段38は、取付板39の外側面に取り付けられている(図5参照)。
【0044】
背凭れ操作手段38の操作ボタン38bは、図示しないワイヤ等の連係手段をもって、上述した背凭れ32のリクライニング機構におけるガススプリング35のロック解除用バルブを押動する操作レバーに連係されており、操作ボタン38bを押動することにより、ガススプリング19のロック状態を解除して、背凭れ32を自由にリクライニングさせたり、背凭れ32を所望の後傾位置に停止した状態で、操作ボタン38bから手を離して、ガススプリング19をロックさせ、背凭れ32をその位置でロックしたりすることができるようになっている。
【0045】
背凭れ操作手段38の外側面には、フットレスト操作手段37が、次のようにして取付けられている。
フットレスト操作手段37は、前後方向を向く円筒状の支持体47を備え、この支持体47の前端の内側縁部に前向き突設された支持片47aには、上下方向を向く操作レバー48の上端部が、左右方向を向く枢軸49をもって、上下方向に回動可能に枢着されている。
支持体47における前後の端部の内側面には、内側方を向く前後1対の取付片47b、47bが突設され、各両取付片47bの先端部には、上下2個の雌ねじ孔41、41が穿設されている。
【0046】
フットレスト操作手段37は、前後の取付片47b、47bを、背凭れ操作手段38における外方の前後の取付片38c、38c間に挟入した状態で、両取付片38cの上下の挿通孔44に挿通したボルト45を、フットレスト操作手段37における前後の取付片47bの雌ねじ孔50、50に螺合することにより、背凭れ操作手段33の外側面に、それと並列をなすようにして取り付けられている。
【0047】
図8に示すように、支持体47の前端部下面に設けた下向突部47cには、後方に開口する凹孔51が形成され、この凹孔51には、可撓性のボーデンケーブル52におけるアウターチューブ53の上端の端末部53aが圧嵌されている。
アウターチューブ53の端末部53aより導出されたワイヤ54は、下向突部47cと操作レバー48の基端部を貫通し、その端末のエンド部材54aは、操作レバー48の基端部の前面に形成された前方に開口する凹孔55に嵌着されている。
【0048】
ボーデンケーブル52は、フットレスト操作手段37とフットレスト22とを連係するもので、そのフットレスト22側の端部は、図5に示すように、前下方を向くようにした可撓性のアウターチューブ53の下方の端末部53bが、右側の軸受片21の内面における枢軸23より上方の部分に、取付金具56をもって止着され、かつそのアウターチューブ53の下方の端末部53bから前下方に向かって延出する可撓性のワイヤ54の先端に設けたエンド部材54bが、フットレスト22における正面から見て左方の側板22cの外側面における枢軸23から前方に離れた部分に止着されている。
なお、エンド部材54bの止着位置は、ワイヤ54の引き代を小さくして、フットレスト22を効率よく不使用位置まで回動させるために、フットレスト22の上向きの回動操作力を考慮した上で、なるべく枢軸23側に近づけるのがよい。
【0049】
操作レバー48を、図8に実線で示す下向きの不作動位置から、2点鎖線で示す作動位置まで、ほぼ180度上向きに回動操作すると、ワイヤ54が、操作レバー48の基部の外周に沿って巻回されて引っ張られることにより、フットレスト22は、図5に実線で示す使用位置から、同じく2点鎖線で示す不使用位置まで、図5における時計周りに上向きに回動させられる。
【0050】
フットレスト操作手段37における操作レバー48の基部の外側面には、自転車のギヤ切替機構と同様の切替機構を有する停止角度切替部57が設けられている。この停止角度切替部57は、起立可能な操作リング44aを時計回り、または反時計回りに回転させることにより、フットレスト22の回動範囲と操作レバー48の回動範囲との調製を行うことができるようになっている。
【0051】
次に、この車椅子の使用要領、および作用について説明する。
図1に実線で示すように、前脚フレーム2が平常位置に位置しており、かつ背凭れ32が起立位置に位置している状態から、ガススプリング35のロックを解除した後、着座者が背凭れ32を後方に押動することにより、第2の付勢手段34を収縮させて、背凭れ32を後傾位置まで回動させることができる。
その状態でガススプリング35をロックすることにより、背凭れ32を後傾位置に保持することができる(図2参照)。
【0052】
背凭れ32を後傾位置に保持した状態で、ガススプリング35のロックを解除すると、ガススプリング35と圧縮コイルばね36とが伸長して、背凭れ32は元の起立位置に復帰させられる。
【0053】
背凭れ32を後傾位置に保持した状態で、第1の付勢手段18の付勢力に抗して、背凭れ32をさらに後方に押動すると、背凭れ32と座29と支基27と前脚フレーム2とが一体となって後方に回動し、図3に示すように、前脚フレーム2がチルト位置に位置し、背凭れ32が水平近くまで後傾し、かつ座29が上向きとなった除圧姿勢に至る。
【0054】
この除圧姿勢としたときは、着座者の臀部にかかる圧力は軽減され、臀部等に褥瘡が発生したりするのが防止される。
【0055】
除圧姿勢から着座者が背を起こし、前脚フレーム2上の全体の重心が第1の枢軸5に近づくと、第1の付勢手段18の付勢力により、図2に示すように、前脚フレーム2がチルト位置に戻されて、前車輪1が接床するとともに、前脚フレーム2上に取り付けられた座29および背凭れ32等が、図2に示す状態に復帰させられる。
【0056】
この車椅子は、以上のような構成としてあるので、「課題を解決するための手段」として上述したように、個々の具体的な構成から、それぞれ特有の効果を奏することができる。
【0057】
また、前脚フレーム2の起立部12に車軸10を枢支したことにより、図2に示す状態から図3に示す除圧姿勢に移行する際に、ブレーキ装置26により中間車輪9を前脚フレーム2にロックしておくことにより、中間車輪9を後方に回動させることによって、前脚フレーム2と座29と背凭れ32とが、中間車輪9と一体となって、床面上を転がる要領で、楽に除圧姿勢に移行することができる。
【0058】
さらに、上記実施形態においては、次のような構成を採用していることにより、次のような作用および効果を奏することができる。
(1) 車椅子におけるフットレスト装置において、車椅子の脚体6における前下部に左右方向の枢軸23をもって枢着され、足乗せ面22aがほぼ水平をなす使用位置と、前記足乗せ面22aが起立する不使用位置とに回動可能なフットレストと、前記脚体6の上部に設けられ、作動位置と不作動位置とに移動可能な操作レバー48を有するフットレスト操作手段37と、前記フットレスト22とフットレスト操作手段37とを、前記操作レバー48の作動位置から不作動位置、およびその逆方向への移動に連動して、前記フットレスト22が使用位置から不使用位置、およびその逆方向へ回動させられるように連係する、ボーデンケーブル52等の連係手段とを備えるものとしてある。
【0059】
このような構成としてあるので、使用者は、脚体6の上部にあるフットレスト操作手段37を操作することにより、前屈みになることなく、着座したまま、フットレスト22を容易に不使用位置とすることができるため、使用者の負担を軽減させることができる。
また、構造が簡単で、安価に製造することができる。
【0060】
(2) 上記(1)項において、前記フットレスト操作手段37を、前記脚体6の側部に設けた肘掛け31に取付けてある。
【0061】
このような構成としてあるので、フットレスト操作手段37が、使用者の離着席時の妨げとなることがなく、また、肘掛け31に掛けた手に近いところに、フットレスト操作手段37の操作レバー48が位置するので、操作性が向上する。
【0062】
(3) 上記(1)または(2)項において、前記肘掛け31を、ほぼ水平の肘当て部31bと、この肘当て部31bの内側縁より垂下する垂下部31cとを備えるものとし、前記フットレスト操作手段37を、前記肘掛け31における肘当て部31bより下方において、垂下部31cの外側面に取付けてある。
【0063】
このような構成としてあるので、フットレスト操作手段37を、肘掛け31における肘当て部31bの下方の空間に体裁よく収容することができるとともに、フットレスト操作手段37が、車椅子の外側方に突出するのを防止することができる。
【0064】
(4) 車椅子において、上記(1)〜(3)項のいずれかの車椅子におけるフットレスト装置を備え、脚体6の側部に設けた肘掛け31に、前記フットレスト操作手段37と、車椅子における他の被操作手段を操作する操作部材(操作ボタン38b等)を有する第2の操作手段(背凭れ操作手段38等)とを並設し、前記第2の操作手段における操作部材の操作方向と前記フットレスト操作手段37における操作レバー48の操作方向とを互いに異ならせてある。
【0065】
このような構成としてあるので、肘掛け31に掛けた手に近いところに、2種類の操作手段37、38を、集約して配設することができ、操作性が向上するとともに、それらの操作部材38b、48の操作方向が互いに異なっているので、誤操作のおそれを小さくすることができる。
【0066】
(5) 上記(4)項において、他の被操作手段を背凭れのリクライニング機構とするとともに、第2の操作手段(背凭れ操作手段38)における操作部材(操作ボタン38b等)の操作方向を前後方向とし、前記操作部材を後方に押動することにより、背凭れの回動を許容し、かつ前記操作部材が前方に移動することにより、背凭れ32の回動を阻止するようにし、さらに、前記フットレスト操作手段37における操作レバー48の操作方向を、左右方向を向く軸49を中心とする回動方向としてある。
【0067】
このような構成としてあるので、車椅子におけるリクライニングの操作と、フットレスト22の移動操作とを誤るおそれが小さくなり、操作性が向上する。
【0068】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、例えば次のような変形した態様での実施が可能である。
(a) 前脚フレーム2の起立部12によって中間車輪9の車軸10を軸受する代わりに、後脚フレーム4の前部に起立部を設け、この起立部の上部をもって中間車輪9の車軸10を軸受し、前脚フレーム2をチルト位置に回動させる際に、中間車輪9と後車輪3とによって、後脚フレーム4を安定して支持するようにする。
(b) 上記実施形態においては、座29は支基27に固着したものとして説明したが、座29の前部を支基27の前部に左右方向を向く軸をもって枢着し、座29の後部が後上方を向く待機位置と水平または後下方を向く着座位置とに回動可能とし、かつ支基27に設けた第3の付勢手段(図示略)により、座29を待機位置に向かって常時付勢するようにする。
このようにすると、車椅子使用者の離着席が楽になる。
(c) フットレスト操作手段37等を、車椅子を正面から見て右方の肘掛け31に設ける。
(d) 肘掛け31の形状を、正面視において外向きコ字状、または外向きJ字状とし、コ字またはJ字の内側に、背凭れ操作手段38、フットレスト操作手段37等を取付ける。
【符号の説明】
【0069】
1 前車輪
2 前脚フレーム
3 後車輪
4 後脚フレーム
5 第1の枢軸
6 脚体
7 基枠
8 補助枠
9 中間車輪
10 車軸
11 軸受
12 起立部
13 腕部
14 連結杆
15 軸受片
16 後脚杆
17 支持片
18 第1の付勢手段
19 ガススプリング
20 圧縮コイルばね
21 軸受片
22 フットレスト
22a足乗せ面
22bステップ板
22c側板
23 枢軸
24 ハンドル
25 押圧体
26 ブレーキ装置
27 支基
28 連結杆
29 座
30 座枠
30aクッション体
31 肘掛け
31a肘当てパッド
31b肘当て部
31c垂下片
32 背凭れ
32a側片
33 第2の枢軸
34 第2の付勢手段
35 ガススプリング
36 圧縮コイルばね
37 フットレスト操作手段
38 背凭れ操作手段
39 取付板
39a上向片
40 通孔
41 止めねじ
42 挿通孔
43 雌ねじ筒
44 挿通孔
45 ボルト
46 雌ねじ孔
47 支持体
47a 支持片
47b 取付片
47c 下向突片
48 操作レバー
49 枢軸
50 雌ねじ孔
51 凹孔
52 ボーデンケーブル
53 アウターチューブ
53a、53b 端末部
54 ワイヤ
54a、54b エンド部材
55 凹孔
56 取付金具
57 停止角度切替部
57a操作リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部下面に前車輪を設けた前後方向を向く前脚フレームの後端部と、後端部下面に後車輪を設けた前後方向を向く後脚フレームの前端部とを、左右方向を向く第1の枢軸をもって互いに枢着することにより、前脚フレームが後脚フレームに対して、前方を向く平常位置と前上方を向くチルト位置とに回動可能とし、かつ前記後脚フレームに、前脚フレームを平常位置に向かって付勢する第1の付勢手段を設け、前記前脚フレームの後部と後脚フレームの前部とのいずれか一方より起立する左右1対の起立部の上部をもって、左右1対の中間車輪の左右方向を向く車軸を、前記第1の枢軸より上方において支持し、前記前脚フレーム上に座および背凭れを取り付けることにより、前記前脚フレームをチルト位置としたとき、前記座および背凭れが前記前脚フレームとともに後傾しうるようにしたことを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前脚フレーム上に支基を設け、この支基によって座および背凭れを支持するようにした請求項1記載の車椅子。
【請求項3】
背凭れの下部を座の後部に左右方向を向く第2の枢軸をもって枢着し、背凭れを座に対して起立位置と後傾位置とに回動可能とし、かつ前記座または前脚フレームに、前記背凭れを起立位置に向かって付勢する第2の付勢手段を設けた請求項1または2記載の車椅子。
【請求項4】
第1の枢軸を車軸より下方に、また第2の枢軸を、前記車軸より上方、かつ前記第1の枢軸より後方に配設したことを特徴とする車椅子。
【請求項5】
前脚フレームの両側部を前下方に傾斜させて、後部を前部より上方に位置させ、前記後部を起立部とした請求項1〜4のいずれかに記載の車椅子。
【請求項6】
前脚フレームの両側後部より前方の部分に後下方を向く腕部を設け、この腕部の後端部を、車軸の直下に配設した第1の枢軸をもって、後脚フレームの前端部に枢着した請求項5記載の車椅子。
【請求項7】
前脚フレームを、前方に向かって開口する平面視コ字状の基枠の前端に、前方に向かって開口する平面視コ字状の補助枠の前端部を垂下させた部分を固着することにより、閉ループ状に形成した請求項1〜6のいずれかに記載の車椅子。
【請求項8】
前脚フレームにおける第1の枢軸より後上方を向く支持片の後端部と後脚フレームにおける前記枢軸より後方の部分との間に、圧縮ばねからなる第1の付勢手段を設けた請求項1〜7のいずれかに記載の車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−183107(P2012−183107A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46701(P2011−46701)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(597157727)ホンダアールアンドデー太陽株式会社 (6)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)