説明

車線逸脱警報装置及び警報方法

【課題】自車両の走行車線からの逸脱を警報する車線逸脱警報の技術に関し、不要な車線逸脱警報を抑制することができるようにする。
【解決手段】所定時間内に予め設定された所定回数以上の警報が発生した場合に、今回の逸脱判定閾値を前回の逸脱判定閾値から所定値だけ車線外側に変更し、また、前記所定時間を経過しても警報が一回も発生しない場合に、今回の逸脱判定閾値を前回の逸脱判定閾値から所定値だけ車線内側に変更し、このように変更された今回の逸脱判定閾値に基づき自車両の走行車線からの逸脱を判定し、逸脱ありと判定された場合にその逸脱を警報する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行車線からの逸脱を警報する際に、不要な車線逸脱警報を抑制することができるようにした、車線逸脱警報装置及び警報方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行している車線から逸脱する場合にその逸脱をドライバに警報する技術が種々開発されており、さらには、このような車線逸脱警報技術において、ドライバにとって不要と考えられる警報を抑制する技術が開発されている。
例えば特許文献1には、特定の道路区間において車線逸脱警報の発生頻度が高い場合に誤警報と判定し、その誤警報の発生した道路区間を蓄積記憶し、その道路区間を走行中は警報が発生し難い条件に変更する(具体的には警報を行なわなくする)技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−92794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術によれば、道路区間を記憶して条件変更するため即時性に欠ける部分があり、リアルタイムな対応が困難であるという課題がある。
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、良好な即時性で不要な車線逸脱警報を抑制することができるようにした、車線逸脱警報装置及び警報方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の車線逸脱警報装置は、自車両の走行車線からの逸脱を警報する車線逸脱警報装置であって、前記走行車線を規定する白線の位置を前記自車両の位置に対して認識する白線認識手段と、前記白線の位置に対する逸脱判定閾値を設定する逸脱判定閾値設定手段と、前記逸脱判定閾値設定手段の設定した前記逸脱判定閾値と前記白線認識手段の認識する前記自車両の位置とを比較して前記自車両の逸脱を判定する逸脱判定手段と、前記逸脱判定手段が前記自車両の逸脱ありと判定したときにその逸脱を警報する警報手段とを備え、前記逸脱判定閾値設定手段は、所定時間内に予め設定された所定回数以上の警報が発生した場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線外側に変更することを特徴としている。
【0006】
なお、前記逸脱判定閾値設定手段は、前記所定時間を経過しても警報が一回も発生しない場合には、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線内側に変更することが好ましい。
また、前記逸脱判定閾値設定手段は、前記逸脱判定閾値の変更を許可する変更許可範囲が予め設定されていることが好ましい。また、前記逸脱判定閾値設定手段は、前記逸脱判定閾値を前記自車両の左右各側で左右別々に独立して変更することが好ましい。
【0007】
また、本発明の車線逸脱警報方法は、自車両の走行車線からの逸脱を警報する車線逸脱警報方法であって、前記走行車線を規定する白線の位置を前記自車両の位置に対して認識する白線認識工程と、前記白線の位置に対する逸脱判定閾値を設定する逸脱判定閾値設定工程と、前記逸脱判定閾値設定工程で設定した前記逸脱判定閾値と前記白線認識工程で認識する前記自車両の位置とを比較して前記自車両の逸脱を判定する逸脱判定工程と、前記逸脱判定工程で前記自車両の逸脱ありと判定したときにその逸脱を警報する警報工程とを備え、前記逸脱判定閾値設定工程では、所定時間内に予め設定された所定回数以上の警報が発生した場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線外側に変更することを特徴としている。
【0008】
なお、前記逸脱判定閾値設定工程では、前記所定時間を経過しても警報が一回も発生しない場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線内側に変更することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車線逸脱警報装置及び警報方法によれば、警報の発生状況に応じて逸脱判定閾値を設定するので、良好な即時性で不要な車線逸脱警報を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置による警報方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置の注意力判定手段が用いるファジィルールを示す表である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置の逸脱判定閾値設定手段が設定する逸脱判定閾値を示す道路の模式的な平面図である。
【図5】(a),(b)ともに、本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置の逸脱判定閾値設定手段が設定する逸脱判定閾値の判定基準値の変形例を示す道路の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面により本発明の車線逸脱警報装置及びその警報方法の実施の形態について説明する。
[一実施形態]
<構成>
図1に示すように、本発明の一実施形態の車線逸脱警報装置1は、カメラ(撮像手段)2と、操舵角センサ3と、ウインカセンサ4と、補助ブレーキセンサ5と、クラッチセンサ(シフト操作センサ)6と、車速センサ7と、警報手段8と、ECU(制御手段)10とを備えている。
【0012】
カメラ2は、自車両の走行方向前方の路面の画像を取得する撮像手段であり、カメラ2が取得した路面画像はECU10に入力されるようになっている。
操舵角センサ3は、ステアリングホイールの操舵角を検出する検出手段であり、ウインカセンサ4は、ウインカレバーの操作状態を検出する検出手段であり、補助ブレーキセンサ5は、エキゾーストブレーキやリターダ等の補助ブレーキの実作動を検出する検出手段であり、クラッチセンサ6は、シフト操作としてクラッチの踏み込み操作状態を検出する検出手段であり、車速センサ7は、自車両の走行速度を検出する検出手段である。
【0013】
各種センサ3〜7の取得した情報はECU10に入力されるようになっている。なお、クラッチセンサ6に替えてシフトレバーセンサを備え、トランスミッションのシフトレバーの操作状態を検出するようにしても良い。
警報手段8は、後述の逸脱判定手段15により車両の逸脱ありと判定されたときに警報を発するものであり、ECU10からの制御信号に基づいて作動するようになっている。警報手段8は、具体的には例えば、警報ブザー(音声手段),警報ランプ(明滅手段),ディスプレイ(表示手段),ステアリングホイールやシート等のドライバに接触する部分に振動を与えるアクチュエータ(振動手段)等の何れか1つ又は複数で構成することが可能である。
【0014】
ECU10は、メモリやCPU等からなる電子制御ユニットであり、白線認識手段11と、注意力判定手段12と、車線変更判定手段13と、逸脱判定閾値設定手段14と、逸脱判定手段15とをソフトウェア(コンピュータプログラム)として備えるとともに、左側逸脱警報タイマ16Lと、右側逸脱警報タイマ16Rと、左側逸脱警報カウンタ17Lと、右側逸脱警報カウンタ17Rとを備えている。
【0015】
ECU10は、その入力側にはカメラ2や各種センサ3〜7が接続され、その出力側には警報手段8が接続されており、カメラ2や各種センサ3〜7から入力された情報に基づいて、認識や判定や設定等の各種の処理を行ない、警報手段8を制御するようになっている。
白線認識手段11は、カメラ2から入力された路面画像を画像処理し、自車両の走行している走行車線(走行レーン)を規定する白線を自車両の左右各側で個別に認識するとともに、自車両の位置に対する左右各側の白線の位置(換言すれば、白線で規定される走行車線に対する自車両の位置)を認識するようになっている。白線を認識する方法は、例えば画像を2値化して走査し輝度分布を見る等の公知の方法を利用することが可能である。
【0016】
注意力判定手段12は、運転中のドライバの注意力レベルを判定する手段である。なお、注意力判定については特許第3039327号公報に詳述された公知のものを利用することができるので詳細な説明は省略する。
簡単に説明すると、注意力判定手段12は、ウインカ,補助ブレーキ及びシフト操作の頻度を反映した「単調度」と、単位時間当たりの修正操舵の積算値である「操舵量」と、白線認識によって車両のふらつきを求め計算する「蛇行率」の3項目を入力パラメータとしたファジィ推論によって注意力を判定する。ウインカの操作情報はウインカセンサ4から取得し、補助ブレーキの操作情報は補助ブレーキセンサ5から取得し、シフト操作の情報はクラッチセンサ6から取得する。
【0017】
単調度は、時間経過と単調感の両者を含めて定量化すべく設定した項目である。時間経過を反映するために、単調度の計算に際しては、何も操作しなければ単調度は徐々に増加するような計算方式になっている。また、単調感を定量化するために、ウインカ,補助ブレーキ及びシフト操作の頻度を反映している。これは、上記の操作系の頻度と単調な道路環境や交通状況が対応するとの本発明者の知見による。
【0018】
操舵量は、左右の方向を区別せず、単位時間に操舵操作した量の絶対値を積算した値である。本発明者の知見によれば、ドライバは正常時には細かな修正操舵をまめに行なうため操舵量が大きくなるが、注意力低下時には1回の修正操舵が大きくなり頻度が低下して操舵量が小さくなり、さらに注意力の低下が進行すると、時には修正操舵を全くしない時間が出現するようになり、操舵量は一層小さくなる。操舵量は、このような特徴を総合的に示す測度であり、操舵角センサ3から取得した操舵角の情報に基づき、単位時間当たりの修正操舵の積算値として算出される。
【0019】
蛇行率は、白線に対するトレース性を評価する値であり、両側の白線の中心点の動きを計測することで得た蛇行データの単位時間当たりの標準偏差によって表される。注意力が維持されているときにはドライバは無意識のうちに自車両を走行車線内に収めるように努力し、白線を踏み越すようなことはほとんどないとの本発明者の知見により、注意力を判定する項目の1つとして採用される。
【0020】
そして、注意力判定手段12は、図3に示すようなファジィルールを定義し、算出された単調度,操舵量及び蛇行率それぞれに対応するメンバーシップ関数を用いて注意力を判定する。注意力はここでは、0.5きざみの1から5までのレベルで求められ、レベル1が最も注意力が低く、レベル5が最も注意力が高くなるように設定されている。
車線変更判定手段13は、操舵角センサ3から取得した操舵角と、ウインカセンサ4から取得したウインカ情報と、白線認識手段11の認識した白線と自車両との相対位置関係とに基づき、車線変更中であるか否かを判定するようになっている。具体的には、(1)操舵角が予め設定された所定角度以上である、(2)ウインカレバーが操作されている、の何れか1つが成立し、尚且つ、(3)白線と自車両との相対位置関係が予め設定された所定値より接近している場合には、ドライバの要求に応じてなされた正当な車線変更であると判定するようになっている。
【0021】
逸脱判定閾値設定手段14は、図4に示すように、逸脱判定手段15による車線逸脱判定に用いる逸脱判定閾値ThL,ThRを自車両の左右各側で左右別々に独立して設定するものである。なお、図4は、逸脱判定閾値ThL,ThRを把握しやすいように道路上の白線や走行車線内を走行する自車両を模式的に描いた平面図であり、白線等の各寸法を厳密に表したものではない。
【0022】
つまり、逸脱判定閾値設定手段14は車両左側の白線に対して左側逸脱判定閾値ThLを設定するとともに、車両右側の白線に対して右側逸脱判定閾値ThRを設定するようになっている。ここで、以下の説明では、逸脱判定閾値ThL,ThRを左右で区別しない場合には単に「逸脱判定閾値Th」とも記載する。
逸脱判定閾値設定手段14は、白線認識手段11によって認識された白線の幅方向中心の位置を逸脱判定閾値Thの基準値(判定基準値)Th0として設定する。この判定基準値Th0は初回の逸脱判定に用いられる。つまり、判定基準値Th0は逸脱判定閾値Thの初期値となる。そして、逸脱判定閾値設定手段14は、次に説明する第1条件変更や第2条件変更を実施することで今回の逸脱判定閾値Th(n)を前回の逸脱判定閾値Th(n−1)から変更するようになっている。
【0023】
第1条件変更では、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)を予め設定された変更値d(例えば10cm)だけ車線内側にずらした位置に今回の逸脱判定閾値Th(n)を設定する。逸脱判定閾値設定手段14がこの第1条件変更を実施するタイミングは、逸脱判定手段15が後述する第1条件が成立したと判定したときである。
第2条件変更では、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)を予め設定された所定値d(例えば10cm)だけ車線外側にずらした位置に今回の逸脱判定閾値Th(n)を設定する。逸脱判定閾値設定手段14がこの第2条件変更を実施するタイミングは、逸脱判定手段15が後述する第2条件が成立したと判定したときである。
【0024】
第1条件変更及び第2条件変更は、左右の逸脱判定閾値Thそれぞれに対して独立に実施される。つまり、左右両方同時に逸脱判定閾値Thを変更する場合だけではなく、左側逸脱判定閾値ThLだけ変更する場合もあれば、右側の逸脱判定閾値ThRだけ変更する場合もある。
また、逸脱判定閾値Thに対しては変更許可範囲が予め設定されている。変更許可範囲はここでは、判定基準値Th0を車線内側の境界値とするとともに判定基準値Th0を車線外側に所定値D(例えば30cm)だけ変更した値を車線外側の境界値とした範囲とする。
【0025】
変更許可範囲;判定基準値Th0〜判定基準値Th0+所定値D
つまり、第1条件変更において、判定基準値Th0よりも車線内側への逸脱判定閾値Thの変更が禁止されるとともに、第2条件変更において、判定基準値Th0から所定値Dだけずらした位置よりも車線外側への逸脱判定閾値Thの変更が禁止される。
なお、先に括弧付きで記載したように、ここでは変更値dは例えば10cmとし、所定値Dは例えば30cmとして説明するが、各値の大きさはこれに限定されない。ただし、所定値Dは変更値dの整数倍であることが好ましい(D=nd)。
【0026】
逸脱判定手段15は、白線認識手段11により認識される自車両の位置と逸脱判定閾値設定手段14により設定される逸脱判定閾値Thとを比較して、自車両の位置が逸脱判定閾値Thを超えたときに、自車両が車線を逸脱したと判定するようになっている。
逸脱判定手段15はまた、図2のステップS20に示すような演算周期の所定のタイミングで左側逸脱警報タイマ16Lの左側経過時間TLをインクリメントするとともに、右側逸脱警報タイマ16Rの右側経過時間TRをインクリメントする。なお、左側経過時間TLは最後に左側逸脱判定閾値ThLを変更した時点からの経過時間であり、右側経過時間TRは最後に右側逸脱判定閾値ThRを変更した時点からの経過時間である。
【0027】
また、逸脱判定手段15は、左右何れかの逸脱判定閾値Thに対して第1条件が成立したときに、第1条件が成立した側(片側又は両側)の逸脱警報タイマ16L,16Rの経過時間TL,TRをリセットしてゼロクリアするとともに、第1条件が成立した側(片側又は両側)の逸脱警報カウンタ17L,17Rの警報回数NL,NRをリセットしてゼロクリアするようになっている。なお、左側逸脱警報カウンタ17Lは左側の警報回数NLをカウントし、右側逸脱警報カウンタ17Rは右側の警報回数NRをカウントする。
【0028】
第1条件は、左側逸脱警報タイマ16Lの積算した左側経過時間TL及び右側逸脱警報タイマ16Rの積算した右側経過時間TRのそれぞれについて、経過時間TL,TRが予め設定された所定時間T0(例えば10分)以上となることである。そして、逸脱判定手段15が左右の少なくとも何れか一方において第1条件が成立したと判定したときに、逸脱判定閾値設定手段14が、第1条件が成立した側において前述のように第1条件変更を実施する。
【0029】
また、逸脱判定手段15は、左右何れかの逸脱判定閾値Thに対して第2条件が成立したときに、第2条件が成立した側(片側又は両側)の逸脱警報タイマ16L,16Rの経過時間TL,TRをリセットしてゼロクリアするとともに、第2条件が成立した側(片側又は両側)の逸脱警報カウンタ17L,17Rの警報回数NL,NRを所定回数N1(例えば1回)にセットするようになっている。
【0030】
第2条件は、左側逸脱警報カウンタ17Lの積算した左側警報回数NL及び右側逸脱警報カウンタ17Rの積算した右側警報回数NRのそれぞれについて、警報回数NL,NRが予め設定された所定回数N0(例えば2回。1回でも可)以上となることである。そして、逸脱判定手段15が左右の少なくとも何れか一方において第2条件が成立したと判定したときに、逸脱判定閾値設定手段14が、第2条件が成立した側において前述のように第2条件変更を実施する。
【0031】
なお、本車線逸脱警報装置1による逸脱警報の機能をオンオフするスイッチが、例えばインストルメントパネル等のドライバ近傍の位置に設けられて、ドライバにより操作可能となっていても良い。
上記のように構成されたECU10は、図2に示すフローチャートにしたがって制御を行なう。なお、初期には、左右各側において判定基準値Th0が逸脱警報閾値Thとして設定されている。
【0032】
まず、ステップS10(位置認識工程及び注意力判定工程)では、白線認識手段11により白線の位置と自車両の位置とを認識するとともに、注意力判定手段12により注意力を判定する。その後、ステップS20に進む。
ステップS20(タイマインクリメント工程)では、逸脱判定手段15が左側逸脱警報タイマ16Lの左側経過時間TLをインクリメントするとともに、右側逸脱警報タイマ16Rの右側経過時間TRをインクリメントする。その後、ステップS30に進む。
【0033】
ステップS30(第1条件成立判定工程)では、逸脱判定手段15により第1条件が成立したか否か、つまり、左側経過時間TL及び右側経過時間TRそれぞれについて所定時間T0(例えば10分)に達したか否かを判定する。左右の何れか一方で第1条件が成立していれば、つまり、左側経過時間TL及び右側経過時間TRの少なくとも一方が所定時間T0に達していればステップS40に進む。両方とも第1条件が成立していなければ、つまり、左側経過時間TL及び右側経過時間TRの何れも所定時間T0に達していなければステップS60に進む。
【0034】
ステップS40(第1逸脱判定閾値変更工程)では、逸脱判定閾値設定手段14により、ステップS30で第1条件が成立した側の逸脱判定閾値Thに対して第1条件変更を実施する。つまり、左側経過時間TLが所定時間T0に達していれば、左側逸脱判定閾値ThLを変更値dだけ車線内側に変更する。また、右側経過時間TRが所定時間T0に達していれば、右側逸脱判定閾値ThRを変更値dだけ車線内側に変更する。ただしこのとき、変更許可範囲の設定により変更の制限を受ける。つまり、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)がすでに変更許可範囲の車線内側の境界値である判定基準値Th0の位置にあれば、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)をそのまま今回の逸脱判定閾値Th(n)とする。その後、ステップS50に進む。
【0035】
ステップS50(タイマ・カウンタリセット工程)では、ステップS40で逸脱判定閾値Thを変更した側の逸脱警報タイマ16L及び/又は16Rが経過時間TL及び/又はTRをゼロにリセットされるとともに、逸脱警報カウンタ17L及び/又は17Rが警報回数NL及び/又はNRをゼロにリセットされる。その後、ステップS60に進む。
ステップS60(逸脱判定工程)では、逸脱判定手段15により逸脱判定閾値ThL,ThRに基づき自車両の走行車線からの逸脱を判定する。逸脱ありと判定すればステップS70に進み、そうでなければフローの最初に戻る。
【0036】
ステップS70(車線変更判定工程)では、車線変更判定手段13により車線変更中であるか否かを判定する。車線変更中であると判定すればフローの最初に戻り、そうでなればステップS80に進む。
ステップS80(警報禁止工程)では、注意力判定手段12により注意力が所定値以上(例えばレベル4以上)であるか否かを判定する。注意力が所定値よりも高ければフローの最初に戻り、所定値に満たなければステップS90に進む。つまり、このステップS80により注意力が所定値よりも高い場合は警報が禁止される。
【0037】
ステップS90(警報工程)では、警報手段8により警報を発する。その後、ステップS100に進む。
ステップS100(カウンタインクリメント工程)では、ステップS90で警報を発した側の逸脱警報カウンタ17L及び/又は17Rの警報回数NL及び/又はNRを1だけ増加する。そして、ステップS110に進む。
【0038】
ステップS110(第2条件成立判定工程)では、逸脱判定手段15により第2条件が成立したか否か、つまり、左側警報回数NL及び右側警報回数NRそれぞれについて、所定回数N0(例えば2回)に達したか否かを判定する。左右の何れか一方で第2条件が成立していれば、つまり、左側警報回数NL及び右側警報回数NRの少なくとも一方が所定回数N0に達していればステップS120に進む。両方とも第2条件が成立していなければ、つまり、左側警報回数NL及び右側警報回数NRの何れも所定回数N0未満であればフローの最初に戻る。
【0039】
ステップS120(第2逸脱判定閾値変更工程)では、逸脱判定閾値設定手段14により、ステップS110で第2条件が成立した側(警報を発した側)の逸脱判定閾値Thに対して第2条件変更を実施する。つまり、左側警報回数NLが所定回数N0に達した場合には、左側逸脱判定閾値ThLを変更値dだけ車線外側に変更する。また、右側警報回数NRが所定回数N0に達した場合には、右側逸脱判定閾値ThRを変更値dだけ車線外側に変更する。ただしこのとき、変更許可範囲の設定により変更の制限を受ける。つまり、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)がすでに変更許可範囲の車線外側の境界値である判定基準値Th0+所定値Dの位置にあれば、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)をそのまま今回の逸脱判定閾値Th(n)とする。その後、ステップS130に進む。
【0040】
ステップS130(タイマリセット工程及びカウンタセット工程)では、ステップS120で逸脱判定閾値Thを変更した側の、逸脱警報タイマ16L及び/又は16Rが経過時間TL及び/又はTRをゼロにリセットされるとともに、逸脱警報カウンタ17L及び/又は17Rが警報回数NL及び/又はNRを例えば1等の所定回数N1にセットされる。
このステップS10〜S130からなるフローは、車両の走行中、所定周期で繰り返される。
【0041】
<作用・効果>
本発明の一実施形態に係る車線逸脱警報装置は上述のように構成されているので、以下のような作用及び効果を奏する。
逸脱判定閾値設定手段14が、第1条件が成立したときに第1条件が成立した側において第1条件変更を実施して、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)を変更値dだけ車線内側にずらした位置に今回の逸脱判定閾値Th(n)を設定するので、警報が一定時間出力されない場合に逸脱判定条件を厳しくして警報を発生しやすくする(警報タイミングを早める)ことができる。
【0042】
また、逸脱判定閾値設定手段14は、第2条件が成立したときに第2条件が成立した側において第2条件変更を実施して、前回の逸脱判定閾値Th(n−1)を変更値dだけ車線外側にずらした位置に今回の逸脱判定閾値Th(n)を設定するので、警報が頻発する場合に逸脱判定条件を緩めて警報を発生し難くする(警報タイミングを遅くする)ことができる。
【0043】
また、逸脱判定閾値Thに対して変更許可範囲を設定するので、逸脱判定閾値Thが実際の白線よりも過剰に車線外側に設定されることを防止して、安全性を損なうことなく不要な警報を抑制することができる。
また、段階的に細かく逸脱判定閾値Thを変更することができ、ドライバの運転特性に最適な逸脱警報を良好な即時性で実施することができる。
【0044】
このように逸脱判定閾値Thが設定されるので、ドライバの本車線逸脱警報の受容性が向上し、ドライバがスイッチで本逸脱警報機能をオフするようなケースが減少するので、ドライバの運転支援への貢献度が向上するという利点も奏する。
また、左右の逸脱判定閾値Thを独立して別々に設定するので、例えば、片側の路肩が広くてドライバが意図的に逸脱している場合にも良好に対応することできる。
【0045】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、白線認識手段11はカメラ2の撮像した画像を画像処理して白線を認識したが、白線を認識する方法はこれに限定されず、例えば道路上に敷設されたレーンマーカを利用して白線や自車両の位置を認識しても良い。
また、画像処理により白線を十分に抽出できなくても、自車両の位置や周囲の道路環境に基づき、公知の方法を利用して白線を推定し、推定した白線を実際の白線として認識しても良い。このときカメラ2は、白線に加えて他の車両や歩道やガードレールや街路樹や路肩等も含めて撮像し、白線認識手段11がこれらを認識するようにすると好ましい。
【0047】
また、白線認識手段11は、ECU10内の構成要素として構成されていなくても良い。つまり、ECU10とは別体にカメラ2用ECUとして白線認識手段11を備え、白線認識手段11が認識した情報をECU10に入力するようにしても良い。
また、上記実施形態では、注意力判定手段12は、単調度と操舵量と蛇行率とからファジィ推論を用いて注意力を判定したが、注意力を判定する具体的な方法はこれに限定されず、他の公知の方法で注意力を判定しても良く、例えば、ドライバの顔を撮影するカメラをさらに備えて、所定時間中のまばたきの回数や時間(目の開度値)を利用して判定しても良いし、視線方向を利用して判定しても良い。また、注意力をレベルで判定するのではなく、例えばパーセンテージ等の他のスケールで注意力を判定しても良い。さらに、注意力判定手段12自体を備えなくても良い。つまり、図2に示すフローチャートのステップS10から注意力を判定する工程を省略するとともに、注意力が所定値以上であるか否かを判定するステップS80を省略するようにしても良い。
【0048】
また、上記実施形態では、車線変更判定手段13は、操舵角とウインカ情報と白線及び自車両の相対位置関係とに基づき車線変更中であるか否かを判定したが、車線変更を判定する具体的な方法はこれに限定されず、他の公知の方法でドライバの意図的な車線変更を判定しても良く、例えば単純に、ウインカセンサ4によりウインカレバーが操作されていることが検出されれば正当な車線変更であると判定するようにしても良い。
【0049】
また、上記実施形態では、逸脱判定閾値設定手段14は、第1条件変更の場合も第2条件変更の場合にも同じ変更値dだけ逸脱判定閾値Thを変更するようにしたが、変更値dを第1条件変更と第2条件変更とで別々の値に設定しても良い。つまり例えば、第1条件変更の変更値d1を第2条件変更の変更値d2よりも大きく設定し、車線内側に向かう場合の方が車線外側に向かう場合よりも逸脱判定閾値Thが大きく変更されるようにしても良い。
【0050】
また、上記実施形態では、逸脱判定閾値Thの変更許可範囲を、判定基準値Th0を基点に判定基準値Th0から車線外側に所定値D(例えば30cm)だけずらした位置までとしたが、変更許可範囲の大きさはこれに限定されず、例えば自車両の車種に応じて逸脱判定閾値Thの内側の限界値を設定し、判定基準値Th0よりも所定値だけ車線内側への変更をも許可しても良い。また、必ずしも変更許可範囲を設けなくても良い。
【0051】
また、上記実施形態では、逸脱判定閾値Thの判定基準値Th0を白線の中心の位置としたが、他の白線に対する任意の位置であっても良く、例えば図5(a)に示すように白線の内側の位置を判定基準値Th0としても良いし、図5(b)に示すように白線の外側の位置を判定基準値Th0としても良い。
また、上記実施形態では、逸脱判定手段15は、実際に自車両の位置が逸脱判定閾値Thを超えたとき(換言すれば、自車両のタイヤが逸脱判定閾値Thで規定される仮想白線を踏み超えたとき)に逸脱ありと判定したが、逸脱が予測されるときに逸脱ありと判定しても良い。つまり、例えば、車速センサ7から取得した車速Vや操舵角センサ3から取得した操舵角を利用して、所定時間後に逸脱判定閾値Thを超えて車線から逸脱することが予測される場合に、自車両の逸脱ありと判定しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 車線逸脱警報装置
2 カメラ(撮像手段)
3 操舵角センサ
4 ウインカセンサ
5 補助ブレーキセンサ
6 クラッチセンサ(シフト操作センサ)
7 車速センサ
8 警報手段
10 ECU
11 白線認識手段
12 注意力判定手段
13 車線変更判定手段
14 逸脱判定閾値設定手段
15 逸脱判定手段
16L 左側逸脱警報タイマ
16R 右側逸脱警報タイマ
17L 左側逸脱警報カウンタ
17R 右側逸脱警報カウンタ
d 変更値
Th,ThL,ThR 逸脱判定閾値
Th0 判定基準値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行車線からの逸脱を警報する車線逸脱警報装置であって、
前記走行車線を規定する白線の位置を前記自車両の位置に対して認識する白線認識手段と、
前記白線の位置に対する逸脱判定閾値を設定する逸脱判定閾値設定手段と、
前記逸脱判定閾値設定手段の設定した前記逸脱判定閾値と前記白線認識手段の認識する前記自車両の位置とを比較して前記自車両の逸脱を判定する逸脱判定手段と、
前記逸脱判定手段が前記自車両の逸脱ありと判定したときにその逸脱を警報する警報手段とを備え、
前記逸脱判定閾値設定手段は、所定時間内に予め設定された所定回数以上の警報が発生した場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線外側に変更する
ことを特徴とする、車線逸脱警報装置。
【請求項2】
前記逸脱判定閾値設定手段は、前記所定時間を経過しても警報が一回も発生しない場合には、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線内側に変更する
ことを特徴とする、請求項1記載の車線逸脱警報装置。
【請求項3】
前記逸脱判定閾値設定手段は、前記逸脱判定閾値の変更を許可する変更許可範囲が予め設定されている
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車線逸脱警報装置。
【請求項4】
前記逸脱判定閾値設定手段は、前記逸脱判定閾値を前記自車両の左右各側で左右別々に独立して変更する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車線逸脱警報装置。
【請求項5】
自車両の走行車線からの逸脱を警報する車線逸脱警報方法であって、
前記走行車線を規定する白線の位置を前記自車両の位置に対して認識する白線認識工程と、
前記白線の位置に対する逸脱判定閾値を設定する逸脱判定閾値設定工程と、
前記逸脱判定閾値設定工程で設定した前記逸脱判定閾値と前記白線認識工程で認識する前記自車両の位置とを比較して前記自車両の逸脱を判定する逸脱判定工程と、
前記逸脱判定工程で前記自車両の逸脱ありと判定したときにその逸脱を警報する警報工程とを備え、
前記逸脱判定閾値設定工程では、所定時間内に予め設定された所定回数以上の警報が発生した場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線外側に変更する
ことを特徴とする、車線逸脱警報方法。
【請求項6】
前記逸脱判定閾値設定工程では、前記所定時間を経過しても警報が一回も発生しない場合に、今回の前記逸脱判定閾値を前回の前記逸脱判定閾値から所定値だけ車線内側に変更する
ことを特徴とする、請求項5記載の車線逸脱警報方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−3418(P2012−3418A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136447(P2010−136447)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】