説明

車輌用燃料供給システム及びこれを備えた不整地用四輪走行車

【課題】車輌用燃料供給システムにおいて、燃料残量が少ない場合でも、車輌のジャンプ時や登坂時に、空気噛み現象が生じないようにすることを目的とする。
【解決手段】燃料ポンプ45と該燃料ポンプ45の下端燃料吸込部に接続されたフィルター60とを有する燃料ポンプユニット25を、燃料タンク10の上壁31又は周側壁33に垂下状に支持している車輌用燃料供給システムである。前記フィルター60を、前記燃料タンク10の底壁32に接触又は近接する位置に配置すると共に、前記フィルター60の平面視形状を、前記燃料ポンプ45の平面視領域から外方に張り出す形状とし、前記フィルター60の上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジング61を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ポンプと、フィルターとを有する燃料ポンプユニットが、燃料タンク内に配置される車輌用燃料供給システム及びこれを備えた不整地用四輪走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌用燃料供給システムの燃料タンクは、配置されるスペースの形状及び広さによって、形状及び容量の制限を受けるが、できる限り大きな容量を確保し、かつ、燃料ポンプユニットの取付けに便利な構造が要望される。
【0003】
燃料ポンプユニットの取付位置に関しては、燃料タンクの下方にスペースを確保し易い場合は、燃料タンクの底壁に立ち上がり状に燃料ポンプユニットを取り付ける構造が多く採用され、反対に、燃料タンクの上方にスペースを確保し易い場合は、燃料タンクの上壁に垂下状に燃料ポンプユニットを取り付ける構造が多く採用されている。
【0004】
燃料タンクの上壁に垂下状に燃料ポンプユニットを取り付ける構造において、燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されているフィルターは、従来、露出した状態(裸の状態)で取り付けらており、また、燃料タンク内の燃料を略最後まで吸い込めるように、できる限る燃料タンクの底壁に近い位置に配設されている。
【0005】
ところが、燃料タンク内の燃料残量が少なくなった状態で、車輌がジャンプしたり、登り坂、下り坂もしくは傾斜地を走行したり、又は加減速を行った場合には、燃料タンク内の燃料が波打ち、又は前後左右方の一方に移動し、それにより燃料に空気(気泡)が混入したり、フィルターが一時的に空気に露出したりすることにより、燃料ポンプの空気噛み現象が生じることがある。
【0006】
上記のような燃料の移動又は波打ち等による空気噛み現象を防ぐ対策として、図16に示す従来例(特許文献1)の車輌用燃料供給システムでは、燃料ポンプ101の下端燃料吸込部102に接続されているフィルター103を、フィルターハウジング105によって覆っている。
【0007】
図16の車輌用燃料供給システムの構造を詳しく説明すると、燃料ポンプユニット100は、燃料タンク110の上壁111に垂下状に支持され、フィルター103は、扁平状に形成されると共に、水平に対して傾斜した状態で下端燃料吸込部102に接続され、燃料タンク110の底壁112の近傍に配設されている。
【0008】
フィルターハウジング105は、フィルター103の下方及び前後左右方を覆うと共に、燃料ポンプ101の周側壁カバー107と一体に形成されており、該周側壁カバー107から前後左右に拡張することなくフィルターハウジング105の周側壁につながっている。フィルターハウジング105には、図示していないが一つ又は複数の燃料流通孔が形成され、該燃料流通孔からフィルターハウジング105内に燃料が供給されるようになっている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0273572号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図16に示す車輌用燃料供給システムでは、フィルター105の平面視形状が、燃料ポンプ101の平面視領域内に収まる程度の面積に制限されており、しかも、フィルター105の取付状態が、水平面に対して傾斜しているので、次のような課題がある。
【0010】
(1)フィルター103は、たとえ傾斜状態で支持されている構造であっても、平面視形状が、燃料ポンプ101の平面視領域内に制限されているので、燃料に接する吸込面積を大きく採ることができず、使用に伴う目詰まりが生じやすく、短期間で吸込率が低下する可能性が大きい。
【0011】
(2)フィルター105が傾斜状態で支持されているので、燃料残量が少なくなった時には、フィルター105の上部が空気に露出し、早期に空気噛み現象が生じる可能性がある。
【0012】
(発明の目的)
本発明の目的は、燃料残量が少なくなった状態において、車輌がジャンプし、加減速し、又は登坂等した時でも、燃料ポンプによる空気噛み現象の発生を抑制すると共に、燃欠を防ぐことができる車輌用燃料供給システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願請求項1記載の発明は、燃料ポンプと該燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されたフィルターとを有する燃料ポンプユニットを、燃料タンクの上壁又は周側壁に垂下状に支持している車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターの平面視形状を、前記燃料ポンプの平面視領域から外方に張り出す形状とし、前記フィルターの上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジングを設けている燃料ポンプと該燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されたフィルターとを有する燃料ポンプユニットを、燃料タンクの上壁又は周側壁に垂下状に支持している。
【0014】
上記構成によると、(1)フィルターを囲むフィルターハウジング内に溜められた燃料は、車輌のジャンプ時、加減速時又は登坂時等でも、大きく移動したり、波打ったりすることがないので、燃料残量が少ない場合でも、気泡が混入するのを避けると共にフィルターが空気に露出するのを防ぎ、燃料ポンプによる空気噛み現象を防止できる。また、空気噛み減少を防止できることにより、空気噛みに起因するガス欠症状を低減することもできる。
【0015】
(2)フィルターの平面視形状を、燃料ポンプの平面視領域から外方に張り出す形状としているので、フィルターの燃料吸込面積を広く確保することができ、使用による目詰まりの発生を少なくできると共に、圧損を抑制し、燃料吸込率を高く維持することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、燃料ポンプと該燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されたフィルターとを有する燃料ポンプユニットを、燃料タンクの上壁又は周側壁に垂下状に支持している車輌用燃料供給システムにおいて、前記燃料ポンプは回転式ポンプであり、該燃料ポンプのポンプ軸線方向に見た前記フィルターの形状を、前記ポンプ軸線方向に見た前記燃料ポンプの領域から外方に張り出す形状とし、前記フィルターの上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジングを設けている。回転式ポンプとしては、たとえば回転ロータを有するトロコイドポンプ等がある。
【0017】
上記構成によると、燃料ポンプのポンプ軸線が鉛直方向に延びるように、燃料ポンプユニットを燃料タンクに取り付けている場合には、前記請求項1記載の発明と同様な効果が得られ、また、前記ポンプ軸線が鉛直線に対して傾斜した状態で燃料ポンプユニットを燃料タンクに取り付けている場合でも、前記請求項1記載の発明と同様な効果を得ることができる。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターを、扁平状に形成すると共に略水平に配設している。
【0019】
上記構成によると、たとえば燃料タンクの底壁が概ね水平に形成されている場合に、フィルター全体を燃料タンクの底壁に均一に近付けて配置することができ、燃料残量が少なくなった場合の空気噛み現象を、一層効果的に防止することができる。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターハウジングを、前記燃料ポンプユニットに支持している。
【0021】
上記構成によると、燃料ポンプユニットに予めフィルターハウジングを組み付けた状態で、燃料ポンプユニットを燃料タンクに組み付けることができ、燃料ポンプユニット及びフィルターハウジングの組付作業が容易になる。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターハウジングを、前記フィルターの上方を覆うハウジング上壁と、下方を覆うハウジング底壁と、前後左右を覆うハウジング周側壁と、から構成し、前記ハウジング底壁と前記ハウジング周側壁とを一体に形成し、前記ハウジング上壁を、前記ハウジング底壁及び前記ハウジング周側壁とは別体に形成している。
【0023】
上記構成によると、ハウジング底壁とハウジング周側壁とを一体に形成しているので、押型成形等によるフィルターハウジングの製造が容易になる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記ハウジング上壁を、前記燃料ポンプユニットのポンプカバーと一体に形成している。
【0025】
上記構成によると、ハウジング上壁のみを別途成形する工程が省け、フィルターハウジングの製造が容易になる。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターハウジングを、前記フィルターの上方を覆うハウジング上壁と、下方を覆うハウジング底壁と、前後左右を覆うハウジング周側壁と、から構成し、前記ハウジング上壁と前記ハウジング周側壁とを一体に形成し、前記ハウジング底壁を、前記ハウジング上壁及び前記ハウジング周側壁とは別体に形成している。
【0027】
上記構成によると、ハウジング上壁とハウジング周側壁とを一体に形成しているので、押型成形等によるフィルターハウジングの製造が容易になる。
【0028】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、前記フィルターハウジングの下端部又は下端部近傍に、燃料流通孔を形成している。
【0029】
上記構成によると、燃料残量が少なくなった場合でも、車輌の停止時及び通常走行時に、速やかにフィルターハウジング内に燃料を溜めておくことができる。
【0030】
請求項9記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムを備えている不整地用四輪走行車を提供し、前記各請求項において説明した効果と同様な効果を奏する。
【発明の効果】
【0031】
要するに本発明によると、前記フィルターの上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジングを設けているので、フィルターを囲むフィルターハウジング内に溜められた燃料は、車輌のジャンプ時、加減速時又は登坂時等でも、大きく移動したり、波打ったりすることがなく、燃料残量が少ない場合でも、気泡が混入するのを避けると共にフィルターが空気に露出するのを防ぎ、燃料ポンプによる空気噛み現象を防止できる。また、空気噛み減少を防止できることにより、空気噛みに起因するガス欠症状を低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[第1の実施の形態]
図1乃至図10は、本発明による車輌用燃料供給システム及びこれを備えた不整地用鞍乗型四輪走行車を示しており、これらの図面に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。なお、前記不整地用鞍乗型四輪走行車は、一般に、ATV(All Terrain Vehicle)と呼ばれている。
【0033】
(不整地用鞍乗型四輪走行車の全体構造)
図1は不整地用鞍乗型四輪走行車の側面図、図2は同不整地用鞍乗型四輪走行車の平面図である。図1において、車輌の前部に左右一対の前輪1が備えられ、車輌の後部に左右一対の後輪2が備えられ、車体フレーム3内には、前輪1と後輪2との前後方向間にエンジン5が搭載され、車輌の上部には、前側から順に、ハンドルバー7、吸気ボックス8及びシート9等が備えられている。前輪1の前車軸11は、車体フレーム3の前下端部に配置された前輪用差動装置(又は最終減速装置)12に連結され、後輪2の後車軸15は、車体フレーム3の後下端部に配置された後輪用差動装置(又は最終減速装置)16に連結されている。
【0034】
エンジン5のクランクケースの後部にはギヤ式変速機20が設けられ、エンジン5の右側面からギヤ式変速機20の右側面に亘って、Vベルト式無段変速機21が設けられている。ギヤ式変速機20の動力取出部には、後方に延びる後輪用ドライブ軸23と前方に延びる前輪用ドライブ軸24とが連結され、後輪用ドライブ軸23の後端部は後輪用差動装置16の入力部に連結し、前輪用ドライブ軸24の前端部は前輪用差動装置12の入力部に連結している。
【0035】
車輌用燃料供給システムの構成部材である燃料タンク10は、シート9の後半部と、後輪用差動装置16及び後輪用ドライブ軸23と、の上下方向間のスペースに配置されており、燃料タンク10を側面視形状は、前後方向に長い長方形状となっている。
【0036】
図2おいて、燃料タンク10の平面視形状は、V字状前端部を有する略五角形状(ホームベース形状)となっており、燃料ポンプユニット25は、燃料タンク10の左右幅の略中央位置であって、V字状前端部を除く略四角形状の後半部の前後幅の略中央位置に配置されている。燃料ポンプユニット25の燃料出口部26は、前方に延びる燃料ホース27を介してエンジン5のスロットル装置に接続されている。
【0037】
(車輌用燃料供給システムの詳細構造)
図3は燃料タンク10の縦断側面図、図4は燃料ポンプユニット25の左側面図、図5は燃料ポンプユニット25の右側面図、図6は図5のVI-VI線断面図、図7はフィルターハウジング61の底面図、図8はハウジング上壁65の取付手段の一例を示す断面図、図9は図6のIX-IX線断面図、図10は図6のX-X線断面図である。図3において、燃料タンク10は、上下一対のカップ型タンク形成部材10a、10bを結合部10cにおいてブロー成形又は溶接等により結合してなり、略水平な平面状の上壁31と、弱冠前下がりに傾斜した略平面状の底壁32と、前後左右の周側壁33と、から燃料タンク室を画定している。燃料タンク10の底壁32には、上方に隆起する複数のリブ部32aが、前後方向に間隔をおいて形成されている。燃料タンク10の上壁31には、前述した燃料ポンプユニット25の配置位置にポンプ挿入孔40が形成されており、該ポンプ挿入孔40から燃料ポンプユニット25が燃料タンク室に挿入されている。
【0038】
図4において、燃料ポンプユニット25の上端には取付フランジ41が形成されており、該取付フランジ41は燃料タンク10の上壁31のポンプ挿入孔40の周縁部分にOリング43を介して載置されると共に、環状の押さえ金具42により上方から押さえ付けられている。環状押さえ金具42の断面形状は、外周部分が低くなる階段状に形成され、低位の外周部分が、複数のボルト44により燃料タンク10の上壁31に締着されている。このように、燃料ポンプユニット25の上端取付フランジ41を燃料タンク10の上壁31に固定することにより、燃料ポンプユニット25を燃料タンク室内に垂下状に支持している。
【0039】
図5において、燃料ポンプユニット25は、燃料ポンプ45と、該燃料ポンプ45の上方に配置されたプレッシャレギュレータ46と、燃料流路形成部材と、燃料タンク10内の燃料レベルを検出する浮子(フロート)48と、燃料ポンプ45の外周側を覆うポンプカバー49と、を備えており、燃料ポンプユニット25の下端部に燃料吸込部51が設けられ、該燃料吸込部51の下端部にフィルター60が接続されている。燃料ポンプユニット25の上端部に設けられた前記燃料出口部26は燃料タンク10の上壁31より上方に突出している。
【0040】
フィルター60は、網あるいは不織布等により偏平な袋状に形成されており、偏平面が上下に位置する状態で燃料吸込部51に片持ち状に支持され、燃料タンク10の底壁32の近傍を略水平に前方へ延びている。フィルター60の扁平な上面及び下面は、互いに上下方向に離間すると共に、それぞれ燃料透過可能に形成されている。本実施の形態では、燃料ポンプ45として、回転ロータを有するトロコイドポンプ等のような回転式ポンプを備えており、回転式ポンプのポンプ軸線O1が鉛直方向に延びるように燃料ポンプユニット25を燃料タンク10に取り付け、フィルター60は上記ポンプ回転軸線O1に対し直角となるように燃料ポンプ45に取り付けている。
【0041】
図7において、フィルター60の形状は斜線を施して表している。フィルター60は、平面視形状で、燃料ポンプ45の平面視領域から少なくとも一部が外方に張り出す形状となっており、該実施の形態では、フィルター60は、燃料ポンプ45の左右幅と略同程度の左右幅を有すると共に、略一様の左右幅で前方に延び、燃料ポンプ45の前端45aよりもさらに前方に延び、燃料ポンプ45の前端45aから所定距離Wだけ前方位まで張り出している。前記前方に突出する所定距離Wは、たとえば、燃料ポンプ45の前後方向幅の1/2〜2/3程度である。なお、本実施の形態では、ポンプ軸線O1が鉛直方向に延びるように燃料ポンプユニット25を配置しているので、ポンプ軸線O1方向に見たフィルター60の形状も、ポンプ軸線O1方向に見た燃料ポンプ45の領域から、フィルター60の少なくとも一部が外方に張り出す形状となっている。
【0042】
(車輌用燃料供給システムのフィルターハウジング61の構成)
図5において、燃料ポンプユニット25の下端部には、フィルター60の前後左右方、上方及び下方を覆うフィルターハウジング61が取り付けられている。詳しく説明すると、該フィルターハウジング61は、フィルター60の下方を覆うハウジング底壁64と、フィルター60の上方を覆うハウジング上壁65と、フィルター60の前後左右方を覆うハウジング周側壁66と、から構成されている。該実施の形態においては、ハウジング底壁64とハウジング周側壁66とはカップ状に一体成形されると共に、ポンプカバー49の下端部に取付手段70により取り付けられ、ハウジング上壁65は、ハウジング底壁64及びハウジング周側壁66とは別体に形成され、ハウジング周側壁66の上端に取付手段71により取り付けられている。
【0043】
ハウジング底壁64は略水平な平面状に形成されているが、ハウジング底壁64の後端部には、燃料タンク10の底壁32のリブ32aとの干渉を避けるために凹部64aが形成されている。ハウジング底壁64の略水平部分は、燃料タンク10の底壁32から所定隙間Cをおいている。この所定隙間Cは、たとえば燃料タンク10の燃料ポンプユニット25の配置箇所における高さ(上下方向寸法)Hの許容製造誤差よりも弱冠大きい寸法に設定されている。
【0044】
図7において、ハウジング底壁64には、前端部の左右幅中央部と、後部の左右両端部との3箇所に、フィルターハウジング61内に燃料を取り入れるために、直径が1mm〜数mm程度の燃料流通孔75がそれぞれ形成されている。
【0045】
図6において、ハウジング上壁65の後端部は、燃料ポンプ45の後端部との間に隙間Sを有するように形成されており、この隙間Sからもフィルターハウジング61内に燃料を取り入れることができるようになっている。
【0046】
図5において、ハウジング周側壁66とハウジング底壁64との一体物をポンプカバー49の下端に取り付けるための取付手段70としては、ハウジング周側壁66の上端に、上向きにV字状に突出する係合爪80を複数箇所に形成し、該係合爪80は上端部に反し80aを有しており、一方、ポンプカバー49の下端には、前記係合爪80に対応する位置に係合孔81を形成している。上記V字状の係合爪80を、たとえば前後方向に圧縮した状態で係合孔80に下方から挿入し、上端部の反し80aを係合孔80の上端縁に係合することにより、ハウジング周側壁66をポンプカバー49に固定している。また、ハウジング上壁65をハウジング周側壁66に取り付ける取付手段71も前記取付手段70と同様な構造になっている。すなわち、図8において、ハウジング周側壁66の上端に、上向きにV字状に突出する係合爪85を複数箇所に形成し、該係合爪85は上端部に反し85aを有しており、一方、ハウジング上壁65には、前記係合爪85に対応する位置に係合孔86を形成している。
【0047】
(第1の実施の形態の作用効果)
(1)図9及び図10において、燃料タンク10内の燃料残量が少なくなった状態、たとえばレベルL1まで燃料が減少した状態でも、フィルターハウジング61内には、主としてハウジング底壁64の燃料流通孔75から燃料が流入しており、フィルターハウジング61内の燃料は、フィルターハウジング61外のレベルL1と同一レベルL1aに保たれている。
【0048】
(2)フィルター60の平面視形状を、燃料ポンプ45の平面視領域から外方に張り出す形状とし、又、燃料ポンプのポンプ軸線O1方向に見たフィルター60の形状を、ポンプ軸線O1方向に見た燃料ポンプ45の領域から外方に張り出す形状としているので、フィルター60の燃料吸込面積を大きく採ることができ、燃料の吸い込み性能が向上する。
【0049】
(3)図9及び図10において、燃料残量が少なくなった状態で、車輌がジャンプした時、燃料タンク10内のフィルターハウジング61外の燃料は、大きく、かつ、広範囲に揺れ動くが、フィルターハウジング61内の燃料は、フィルターハウジング61外の燃料とは略独立して、フィルターハウジング61内のみで揺れ動くので、燃料に気泡が混入しにくく、燃料ポンプ45による空気噛み現象を抑制することができる。特に、本実施の形態では、フィルター60の上下をハウジング上壁65及びハウジング底壁64で覆っているので、車輌のジャンプ及び着地により、車体が急激に上下に移動しても、フィルターハウジング61内から燃料が飛び出すのを防ぎ、かつ、燃料に気泡が混入するのを防止できる。
【0050】
(4)図10において、燃料残量が少なくなった状態で、たとえば、登り坂を走行する時、燃料タンク10内のフィルターハウジング61外の燃料は、レベルL2のように、後方へ大きく移動するが、フィルターハウジング61内の燃料は、フィルターハウジング61外の燃料とは略独立して、レベルL2aのように、フィルターハウジング61内の範囲で後方に移動するだけであるので、フィルター60は殆ど空気に露出せず、空気噛み現象を抑制することができる。下り坂を走行する場合も、上記登り坂を走行する場合と同様であり、フィルター60は殆ど空気に露出せず、空気噛み現象を抑制することができる。
【0051】
(5)図9において、燃料残量が少なくなった状態で、たとえば、車輌が右側に傾斜した時、燃料タンク10内のフィルターハウジング61外の燃料は、レベルL3のように、右方へ大きく移動するが、フィルターハウジング61内の燃料は、フィルターハウジング61外の燃料とは略独立して、レベルL3aのように、フィルターハウジング61内の範囲で右方に移動するだけであるので、フィルター60は殆ど空気に露出せず、空気噛み現象を抑制することができる。車輌が左側に傾斜した場合も、上記右側に傾斜した場合と同様であり、フィルター60は殆ど空気に露出せず、空気噛み現象を抑制することができる。
【0052】
(6)本実施の形態のように、フィルターハウジング61を燃料ポンプユニット25に取り付ける構造を採用していると、フィルターハウジング61を予め燃料ポンプユニットに取り付けておけば、燃料タンク10と共に組み付けることができ、組み付け作業が容易になる。
【0053】
(7)図7に示すように、ハウジング底壁64の前端部の左右幅中央部と、後部の左右端部とに、それぞれ燃料流通孔75を形成していると、車輌が前後左右に傾いても、フィルターハウジング61内に速やかに燃料を流入させることができる。すなわち、フィルターハウジング61の左右端部に燃料流通孔75を形成していることにより、車体が左右のいずれに傾いても、左右の燃料流通孔75にうち、下方に傾いた方の燃料流通孔75からフィルターハウジング61内に速やかみ燃料を充填することができ、また、フィルターハウジング61の前後端部に燃料流通孔75を形成していることにより、車体が前後のいずれに傾いても、前後の燃料流通孔75にうち、下方に傾いた方の燃料流通孔75からフィルターハウジング61内に速やかみ燃料を充填することができる。
【0054】
(8)図5に示すように、本実施の形態のフィルターハウジング61の内部空間は、上側空間部分に比べて下側空間部分を狭く形成し、該狭い下側空間部分にフィルター60を配置しているので、フィルター60が空気に露出される事態を、さらに少なくすることができる。
【0055】
(9)図7に示すように、フィルターハウジング61に形成される燃料流通孔75を、前後及び左右に分散させて複数個形成しているので、
【0056】
[第2の実施の形態]
図11は本発明の第2の実施の形態であり、前記第1の実施の形態とは、フィルターハウジング61の構造が一部異なっている。すなわち、ハウジング上壁65を、ポンプカバー49と一体に形成している。ハウジング周側壁66及びハウジング底壁64は、第1の実施の形態と同様、ハウジング上壁65とは別体であって、カップ状に形成されている。その他の構造は第1の実施の形態と同じであり、同じ部品及び部分には、同じ符号を付している。該実施の形態によると、前記第1の実施の形態の効果に加え、ハウジング上壁65の製造及び組付作業が容易になる。
【0057】
[第3の実施の形態]
図12は本発明の第3の実施の形態であり、前記第1の実施の形態とは、フィルターハウジング61の構造が一部異なっている。すなわち、ハウジング上壁65とハウジング周側壁66とを一体に形成し、ハウジング底壁64を、ハウジング上壁65及びハウジング周側壁66とは別体に形成し、ハウジング周側壁66の下端に、ねじ87等の取付手段によりハウジング底壁64を固定している。その他の構造は第1の実施の形態と同じであり、同じ部品及び部分には、同じ符号を付している。該実施の形態によると、前記第1の実施の形態の効果に加え、ハウジング上壁65の製造及び組付作業が容易になる。
【0058】
[その他の実施の形態]
(1)図13は、ハウジング周側壁66にハウジン上壁65を取り付ける手段の変形例であり、ハウジング上壁65に、下方に突出するきのこ状突起部88を形成し、ハウジング周側壁66の上端に、内部が拡張する凹部89を形成し、該凹部89に、上記きのこ状突起部88を厚入する構造となっている。該実施の形態によると、前記第1の実施の形態の効果に加え、前記第1の実施の形態の効果に加え、係合爪88の形状が、図5等に示す係合爪80の形状よりも単純であり、製造が容易である。また、外部からきのこ状突起部88と凹部89との係合部分が見え難いので、外観が向上する。
【0059】
(2)図14は、ハウジング周側壁66にハウジン上壁65を取り付ける手段の別の変形例であり、ハウジング周側壁66の上端に、矢尻状の係合爪90を形成し、ハウジング上壁65に係合孔91を形成し、該係合孔91に上記矢尻状の係合爪90を圧入する構造となっている。該実施の形態によると、前記第1の実施の形態の効果に加え、係合爪90の形状が、図5等に示す係合爪80の形状よりも単純であり、製造が容易である。
【0060】
(3)前記実施の形態では、たとえば、図7のように、フィルター60は、平面視形状が燃料ポンプの平面視領域から前方に張り出す形状となっているが、本発明は、フィルター60が、燃料ポンプの平面視領域から少なくとも全方位のいずれかの方向に張り出す形状となっている燃料供給システムにも適用できる。たとえば、フィルター60が、少なくとも後方、左方、右方、右前方、右後方、左前方又は左後方に張り出す形状でも本発明を適用することができる。
【0061】
(4)図5のように、フィルターハウジング61を、燃料ポンプユニット25とは別体に形成する構造において、フィルターハウジング61を燃料ポンプユニット25に取り付けるための取付手段70としては、前述のように係合爪と係合孔を利用する取付手段の他に、ねじによる取付手段、接着剤に取付手段等、各種取付手段が適用できる。
【0062】
(4)前記各実施の形態では、フィルターハウジング61は、ハウジング上壁65とハウジング底壁64とを備えた構造となっているが、ハウジング上壁65及びハウジング底壁64のいずれか一方のみを備えた構造とすることも可能である。
【0063】
(5)前記各実施の形態では、フィルターハウジング61を燃料ポンプユニット25のポンプカバー49に取り付けた構造となっているが、フィルターハウジング61全体を燃料タンク10の底壁32に取り付けた構造としたり、又はハウジング底壁64及びハウジング周側壁66を燃料タンク10の底壁32に取り付け、あるいは燃料タンク10の底壁32と一体に形成した構造とすることもできる。さらに、ハウジング底壁64のみを燃料タンク10の底壁32と一体に形成した構造等、各種構造を採用することができる。
【0064】
(6)第1乃至第3の実施の形態では、図7のようにハウジング底壁64に燃料流通孔75を形成しているが、ハウジング周側壁66の下端部に燃料流通孔75を形成することも可能である。
【0065】
(7)第1乃至第3の実施の形態では、図5のように燃料ポンプユニット25を燃料タンク10の上壁31に取り付けているが、燃料タンク10の周側壁33に水平状の平面部を形成し、該周側壁33の平面部に燃料ポンプユニット25を垂下状に支持する構造を採用することも可能である。
【0066】
(8)前記実施の形態では、図5のように、燃料ポンプ45のポンプ軸線O1が鉛直方向に延びるように燃料ポンプユニット25を燃料タンク10に取り付けており、フィルター60は上記ポンプ軸線O1に対して直角となるように燃料ポンプ45に取り付けられているが、本発明は、上記ポンプ回転軸線O1が、鉛直に対し傾斜した状態で燃料ポンプユニット25を燃料タンク10に取り付ける構造も含んでいる。この場合は、燃料ポンプ45のポンプ軸線O1方向に見た前記フィルターの形状を、ポンプ軸線O1方向に見た燃料ポンプ45の領域から外方に張り出す形状とする。なお、フィルター60のポンプ軸線O1方向に見た形状並びに燃料ポンプ45をポンプ軸線O1方向に見た領域とは、具体的には、ポンプ軸線O1と直角な仮想平面に対して、フィルター60及び燃料ポンプ45をそれぞれ投影した場合の形状及び領域である。
【0067】
(9)本発明の車輌用燃料供給システムは、図15に示すように、腰掛け式のシート93、94及び円形ハンドル95を備えた多用途実用四輪走行車、いわゆるMULE(Multi Use Light Equipment)に適用することも可能である。この多用途実用四輪走行車は、運転シート93及び助手シート94の下側にエンジンルームを備え、該エンジンルーム内の両シート93,94間に対応する位置にエンジン97を搭載し、助手シート94の下側に燃料タンク10を備え、該燃料タンク10の平面視形状の中央部に、本発明にかかる燃料ポンプユニット25を備えている。
【0068】
(10)本発明は前記各実施の形態の構造に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、さらに各種変形及び変更を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による車輌用燃料供給システムを備えた不整地用鞍乗型四輪走行車の側面図である。
【図2】図1の不整地用鞍乗型四輪走行車の平面図である。
【図3】本発明による燃料供給システムの第1の実施の形態を示し、燃料タンクの縦断側面図である。
【図4】燃料ポンプユニットの左側面図である。
【図5】燃料ポンプユニットの右側面図である。
【図6】図5のVI-VI線断面図である。
【図7】フィルターハウジングの底面図である。
【図8】ハウジング上壁の取付手段の一例を示す断面図である。
【図9】図6のIX-IX線断面図である。
【図10】図6のX-X線断面図である。
【図11】本発明による燃料供給システムの第2の実施の形態を示し、燃料ポンプユニットの右側面図である。
【図12】本発明による燃料供給システムの第3の実施の形態を示し、燃料ポンプユニットの右側面図である。
【図13】ハウジング上壁の取付手段の別の例を示す断面図である。
【図14】ハウジング上壁のさらに別の取付手段の例を示す断面図である。
【図15】本発明による燃料供給システムを備えた多用途実用四輪走行車の平面図である。
【図16】従来例の縦断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 燃料タンク
25 燃料ポンプユニット
31 燃料タンクの上壁
32 燃料タンクの底壁
33 燃料タンクの周側壁
49 ポンプカバー
60 フィルター
61 フィルターハウジング
64 ハウジング底壁
65 ハウジング上壁
66 ハウジング周側壁
70,71 取付手段
75 燃料流通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ポンプと該燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されたフィルターとを有する燃料ポンプユニットを、燃料タンクの上壁又は周側壁に垂下状に支持している車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターの平面視形状を、前記燃料ポンプの平面視領域から外方に張り出す形状とし、
前記フィルターの上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジングを設けていることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項2】
燃料ポンプと該燃料ポンプの下端燃料吸込部に接続されたフィルターとを有する燃料ポンプユニットを、燃料タンクの上壁又は周側壁に垂下状に支持している車輌用燃料供給システムにおいて、
前記燃料ポンプは回転式ポンプであり、該燃料ポンプのポンプ軸線方向に見た前記フィルターの形状を、前記ポンプ軸線方向に見た前記燃料ポンプの領域から外方に張り出す形状とし、
前記フィルターの上方及び下方の少なくともいずれか一方と、前後左右方と、を覆うフィルターハウジングを設けていることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターを、扁平状に形成すると共に略水平に配設していることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターハウジングは、前記燃料ポンプユニットに支持されていることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターハウジングを、前記フィルターの上方を覆うハウジング上壁と、下方を覆うハウジング底壁と、前後左右を覆うハウジング周側壁と、から構成し、
前記ハウジング底壁と前記ハウジング周側壁とを一体に形成し、前記ハウジング上壁を、前記ハウジング底壁及び前記ハウジング周側壁とは別体に形成していることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項6】
請求項5記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記ハウジング上壁を、前記燃料ポンプユニットのポンプカバーと一体に形成していることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターハウジングを、前記フィルターの上方を覆うハウジング上壁と、下方を覆うハウジング底壁と、前後左右を覆うハウジング周側壁と、から構成し、
前記ハウジング上壁と前記ハウジング周側壁とを一体に形成し、前記ハウジング底壁を、前記ハウジング上壁及び前記ハウジング周側壁とは別体に形成していることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムにおいて、
前記フィルターハウジングの下端部又は下端部近傍に、燃料流通孔を形成していることを特徴とする車輌用燃料供給システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の車輌用燃料供給システムを備えている不整地用四輪走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−255843(P2008−255843A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97232(P2007−97232)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)