説明

車輪支持装置

【課題】車両の構造に大幅な変更を加えることなく、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制すること。
【解決手段】この車輪支持装置10は、車軸支持体7と、フレーム11と、キャンバー角度変更手段12とを備える。車軸支持体7は、車輪3を取り付けた車軸6を回転可能に支持する。フレーム11は、車軸支持体7の路面L側に設けられる支持軸9sを軸受部14で回転可能に支持する。これによって、車軸支持体7は、支持軸9sを中心として揺動可能に支持される。そして、フレーム11に取り付けられるキャンバー角度変更手段12によって、支持軸9sを中心として車軸支持体7を揺動させることにより、車輪3の路面Lに対するキャンバー角度を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の懸架装置に関し、さらに詳しくは、車輪のキャンバー角度を任意に変更できる車輪支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車やバス、トラック等の車両では、旋回方向と逆側の車輪に、直進走行時よりも大きな軸荷重が作用する。このため、車両の旋回時においては、旋回方向と逆側の車輪が担う役割が大きくなる。車両の旋回時には、旋回方向と逆側の懸架装置が車両の上方に移動する。その結果、旋回方向と逆側の車輪において、路面に対するキャンバー角度が変化して、前記車輪の接地踏面は直進時と比べて変化する。特許文献1には、タイヤ限界を高めるため、前後輪における横滑り角を鑑みて、キャンバー角度を制御する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−264636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術は、キャンバー角度を変更するために、懸架装置のロアーアームあるいはアッパーアームにストローク可変機構を設けるので、そのスペースを確保するために懸架装置や車両の構造を大幅に変更する必要がある。このため、適用できる車種が限られるという問題がある。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両の構造に大幅な変更を加えることなく、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制できる車輪支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車輪支持装置は、車両の車輪を回転可能に支持する車軸支持体と、前記車軸支持体の路面側又は前記車軸支持体の路面側とは反対側のいずれか一方で、前記車軸支持体を揺動可能に支持する車軸支持体支持部材と、前記車軸支持体が支持される箇所を中心に前記車軸支持体を揺動させて、前記車輪の路面に対するキャンバー角度を変更するキャンバー角度変更手段と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0006】
この車輪支持装置は、車軸支持体の路面側と路面の反対側とで、車軸支持体が車軸支持体支持部材に支持される。これによって、車輪支持装置をコンパクトに構成できるので、ホイール内に車輪支持装置を配置することができ、この車両支持装置を車両の懸架装置に取り付けた場合においては、車両の幅方向に対する寸法変化を抑えることができる。また、この車輪支持装置は、車両が備える懸架装置のアーム類に、車軸支持体支持部材をそのまま取り付けることができる。これによって、車両が備える懸架装置の構造や車両の構造にほとんど変更を加えることなく車両に取り付けられて、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制できる。
【0007】
次の本発明に係る車輪支持装置は、前記車輪支持装置において、前記車軸支持体支持部材は、前記車軸支持体の路面側で前記車軸支持体を揺動可能に支持することを特徴とする。
【0008】
次の本発明に係る車輪支持装置は、前記車輪支持装置において、前記キャンバー角変更手段は、前記車両が旋回しているときに、前記車両の旋回外側にある車輪の路面に対するキャンバー角度が負になるように動作することを特徴とする。
【0009】
次の本発明に係る車輪支持装置は、前記車輪支持装置において、前記車軸支持体支持部材は、ゴムベアリングを介して前記車軸支持体を支持することを特徴とする。
【0010】
次の本発明に係る車輪支持装置は、前記車輪支持装置において、前記車輪と前記車両との間に介在する緩衝装置に空気ばねを用い、前記空気ばねの圧力変化により前記キャンバー角度変更手段が動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る車輪支持装置は、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、特に、乗用車やトラックその他の、路上を走行する車両の懸架装置に好ましく適用できる。
【実施例】
【0013】
この実施例に係る車輪支持装置は、車両の車輪を回転可能に支持する車軸支持体と、前記車軸支持体の路面側又はその反対側で前記車軸支持体を揺動可能に支持する車軸支持体支持部材と、前記車軸支持体を揺動させるキャンバー角度変更手段とを含み、車両の旋回中には、旋回外側の車輪のキャンバー角度を負にする点に特徴がある。
【0014】
図1は、この実施例に係る車輪支持装置を示す側面図である。図2は、この実施例に係る車輪支持装置を備える車両を示す説明図である。図3−1、図3−2は、この実施例に係る車輪支持装置を示す正面図である。この実施例に係る車輪支持装置10は、車両100の懸架装置の一部を構成し、図2に示すように、懸架装置を構成するアッパーアーム20(20L、20R)及びロアーアーム21(21L、21R)を介して、車両100に取り付けられる。
【0015】
図1に示すように、この車輪支持装置10は、車軸支持体支持部材であるフレーム11と、車軸支持体7と、キャンバー角度変更手段12とを含んでいる。図3−1、図3−2に示すように、フレーム11には開口部11Hが設けられており、例えば、車軸6と接続するドライブシャフトを貫通させることができる。フレーム11は、車軸支持体7の路面L側に軸受部14を備える。車軸支持体7の路面L側には、連結棒9を介して支持軸9sか設けられており、フレーム11の軸受部14が支持軸9sを回転可能に支持する。
【0016】
上記構成により、フレーム11は、支持軸9sと軸受部14とで構成される揺動支持部によって、車軸支持体7を揺動可能に支持する。このように、この実施例において、フレーム11は、車軸支持体7の路面L側で車軸支持体7を揺動可能に支持する。なお、フレーム11は、車軸支持体7の路面L側とは反対側(路面L側と対向する側)で、車軸支持体7を揺動可能に支持してもよい。
【0017】
図3−3は、フレームの軸受部を示す拡大図である。フレーム11の軸受部14には、ゴムベアリング16が設けられており、これを介して車軸支持体7の支持軸9sを支持する。ゴムベアリング16は、フレーム11の軸受部14と支持軸9sとに接着、固定されており、ゴムのせん断によって支持軸9sの回転を吸収する。この実施例に係る車輪支持装置10においては、支持軸9sの回転角度は0.2rad程度なので、ゴムのせん断変形により支持軸9sの回転を十分に吸収できる。
【0018】
ゴムベアリング16は、摺動部や潤滑材が不要であるので、埃等の付着を低減できる。また、各種の力の伝達や微細な振動吸収ができる。これらの利点により、この実施例に係る車軸支持装置10において、支持軸9sの軸受としてはゴムベアリング16を用いることが好ましい。なお、ゴムベアリング16以外にも、ピローボールやオイルレスメタル等を支持軸9sの軸受として用いてもよい。
【0019】
車軸支持体7は、ベアリング8を介して車軸6を回転可能に支持する。車軸6には、タイヤ1とホイール2とからなるタイヤ/ホイール組立体(以下車輪)3が取り付けられる。また、車軸6にはディスクローター5が取り付けられており、ブレーキキャリパー4でディスクローター5を挟み込むことにより、車輪3を制動する。
【0020】
フレーム11の軸受部14に対向する側、すなわち、上記揺動支持部と対向する位置には、キャンバー角度変更手段12を取り付けるキャンバー角度変更手段取付部15が設けられている。キャンバー角度変更手段12は、例えば、電磁石等の電磁力的手段、エアシリンダ等の気体圧力的手段、油圧シリンダ等の液体圧力的手段、電動機等の回転力をカムやクランクにより直線運動に変換する機械的位置調整手段等を用いることができる。ここで、車軸支持体7の路面L側とは反対側に設けた揺動支持部で車軸支持体7が支持される場合、キャンバー角度変更手段12は、車軸支持体7の路面L側、すなわち揺動支持部と対向する位置に配置される。
【0021】
この実施例において、キャンバー角度変更手段12は、第1アクチュエータ12aと第2アクチュエータ12bとを含んで構成されている。そして、車軸支持体7の支持軸9sと対向する位置に設けられる荷重伝達部材13は、前記第1アクチュエータ12aと前記第2アクチュエータ12bとで挟持される。これによって、車軸支持体7に設けられる荷重伝達部材13は、第1アクチュエータ12aと前記第2アクチュエータ12bとを介してフレーム11に支持される。このように、第1、第2アクチュエータ12a、12bを介してキャンバー角度変更手段取付部15内に荷重伝達部材13を支持することにより、車軸支持体はフレーム11に確実に支持される。
【0022】
第1アクチュエータ12aと第2アクチュエータ12bとは、前記荷重伝達部材13の受圧面13Pと直交する方向に、それぞれ長さを変更できる。そして、第1アクチュエータ12aの長さl1が長くなると、第2アクチュエータ12bの長さl2は短くなるように動作する。このような構造により、キャンバー角度変更手段12が備える第1アクチュエータ12aと第2アクチュエータ12bとの長さl1、l2が変化すると、荷重伝達部材13が、車軸支持体7の支持軸9sを中心に揺動する。荷重伝達部材13は車軸支持体7に設けられているので、車軸支持体7も、荷重支持体13の前記揺動とともに支持軸9sを中心に揺動する。これによって、路面Lに対する車輪3のキャンバー角度を変更することができる。
【0023】
第1アクチュエータ12aと第2アクチュエータ12bとは、例えば油圧シリンダを用いることができる。ここで、車両100の旋回中においては、車輪3に横力(コーナーリングフォース)Fcが作用する。支持軸9s及び軸受部14周りにおけるモーメントの釣り合いを考えると、支持軸9s及び軸受部14を路面Lに接近させるほど、車輪3のキャンバー角度を変更するために要する力(以下キャンバー力という)Fcaは小さくなることがわかる。また、タイヤ1の摩耗も低減できる。したがって、支持軸9s及び軸受部14は、ホイール2に接触しない範囲で、できるだけ路面Lに接近させることが好ましい。このようにすれば、小さいキャンバー力Fcaでも車輪3のキャンバー角度を変更できるので、小さい寸法で大きな力を発生させることが比較的難しい空気ばねを用いた場合でも、車輪3のキャンバー角度を変更できる。
【0024】
いま、路面Lから支持軸9sの回転中心までの距離をaとし、支持軸9sの中心からキャンバー角度変更手段12の荷重作用位置までの距離をbとする。このとき、キャンバー力Fcaは横力Fcと(a/b)との積で求めることができる。油圧によってキャンバー力を発生させる場合、a:bを1:2とすれば、50cm2の断面積があれば1MPaの油圧でおよそ1000kgfの横力に対抗して車輪3のキャンバー角度を変更することができる。なお、Frは、支持軸9sの回転中心における抗力であり、Fr=Fc+Fcaなので、支持軸9s及び軸受部14は、この抗力Frに耐え得るように設計する。
【0025】
車輪3を駆動するトルク以外の力は、支持軸9s、軸受部14を通じて車両100へ伝達される。車輪3を駆動するトルク以外の力は、例えば、車両100の質量、制動トルク、操舵トルク、横力(コーナーリングフォース)等であり、支持軸9s及び軸受部14には、それらに耐える構造及び強度が要求される。この実施例に係る車輪支持装置10は、図3−1、図3−2に示すように、フレーム11は、車両100の進行方向Xに対して幅をもたせるとともに、2箇所の軸受部14で車軸支持体7の支持軸9sを支持する。これによって、車両100の質量、制動トルク等に耐え得る強度を確保できる。
【0026】
この車輪支持装置10は、車軸支持体7の路面L側と路面Lの反対側とでフレーム11に支持される。これによって、車輪支持装置10をコンパクトに構成できるので、ホイール2内に車輪支持装置10を配置することができる。したがって、この車両支持装置10を懸架装置に取り付けた場合においては、車両の幅方向に対する寸法変化を抑えることができる。また、この車輪支持装置10は、車両が備える懸架装置のアーム類に、フレーム11をそのまま取り付けることができる。その結果、車両が備える懸架装置の構造や車両の構造にほとんど変更を加えることなく車両に取り付けることができる。また、この車輪支持装置10は、車両の幅方向に対する寸法変化を抑えることができるので、車室内のスペースを確保できるとともに、車室内の床のフラット化も実現できる。
【0027】
図2に示すように、車両100が旋回すると、遠心力を受けて車両100が傾く。これによって、通常の懸架装置では、旋回方向とは逆側、すなわち旋回外側の車輪(図2では車輪3L)の路面Lに対するキャンバー角度が変化する。その結果、車両100の直進時と比較して、車輪3Lの接地踏面の変化が大きくなる。すなわち、車両100の直進時と比較して、車輪3Lと路面Lとの接地形状が変化するとともに、接地面積も小さくなる(図2のCP1)。その結果、路面に対するグリップ力が低下し、走行性能が低下する。
【0028】
この実施例に係る車輪支持装置10は、車両100の旋回中には、キャンバー角度変更手段12を作動させることにより、車輪3のキャンバー角度を変更できる。図2に示す例では、旋回外側の車輪3Lを支持する車輪支持装置10Lを作動させて、車軸支持体7Lの荷重伝達部材13Lを旋回内側方向(図2の矢印CAL方向)に移動させる。これによって、車軸支持体7Lを傾斜させて、旋回外側の車輪3Lのキャンバー角度を負の方向にθL増加させる。その結果、車輪3Lと路面Lとの接地形状及び接地面積は、車両100の直進時と比較してほとんど変化しない(図2のCP2)。すなわち、旋回時における車輪3Lの接地踏面の変化が小さくなるので、路面に対するグリップ力低下を抑制し、旋回時における車両100の安定した走行を実現できる。また、キャンバー角度を負側に変更することによりトレッド幅が広がるので、走行安定性がさらに向上する。
【0029】
車両100の旋回時においては、旋回内側の車輪3R)と比較して、旋回外側の車輪3L)の方が、軸荷重も横力(コーナーリングフォース)も大きい。このため、車両100の運動に対しては、旋回内側の車輪3Rよりも旋回外側の車輪3Lの方が影響は大きい。このため、この実施例において、車両の旋回中には、少なくとも旋回外側の車輪支持装置10Lのキャンバー角度変更手段12Lを動作させて、旋回外側の車輪3Lのキャンバー角度を負にする。
【0030】
一方、旋回内側の車輪3Rのキャンバー角度は、車両100の直進時から変更しなくともよい。また、図2に示すように、旋回内側の車輪支持装置10Rが備える車軸支持体7Rの荷重伝達部材13Rを、旋回外側方向(図2の矢印CAR方向)に移動させる。これによって、車軸支持体7Rを傾斜させて、旋回内側の車輪3Rのキャンバー角度を正の方向にθR増加させてもよい。このようにすれば、旋回内側の車輪3Rの接地形状及び接地面積も、車両100の直進時と同様に維持できるので、旋回時における安定した車両100の走行を実現できる。
【0031】
この実施例において、車輪支持装置10L、10Rが備えるキャンバー角度変更手段12L、12Rの動作は、車両100に搭載されるECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)30により、ドライバ31L、31Rを介して制御される。例えば、横Gセンサ40からの検出信号に基づいて、ECU30は車両100が旋回中であるか否かを判定する。また、ECU30は、横Gセンサ40が検出した検出信号から横Gの大きさを判定し、そのときの車両100のロール角度から、少なくとも旋回外側の車輪3Lの路面Lに対するキャンバー角度変化を求める。そして、求めたキャンバー角度変化を打ち消すために必要な、キャンバー角度変更手段12Lの動作量を決定する。ECU30は、キャンバー角度変更手段12Lの動作指令をドライバ31Lへ送り、キャンバー角度変更手段12Lを動作させる。
【0032】
この例では、横Gセンサ40により取得される車両100の横Gを制御パラメータとして、これに基づいて車輪3L、3Rのキャンバー角度を変更したが、キャンバー角度の変更に用いる制御パラメータはこれに限られるものではない。例えば、車両100の進行方向と直交する方向における傾斜角度や、左右の懸架装置のストローク差や、操舵角度その他の、車両100のロールに関するパラメータを、キャンバー角度の制御パラメータとして用いることができる。次に、この実施例に係るキャンバー角度変更手段の例を説明する。次の説明では、適宜図1を参照されたい。
【0033】
図4−1、図4−2は、この実施例に係るキャンバー角度変更手段の例を示す説明図である。図4−1に示すキャンバー角度変更手段12Aは、キャンバー角度変更手段取付部15内に対向配置される第1空気ばね12AA1、第2空気ばね12AA2で荷重伝達部材13を狭持する。また、荷重伝達部材13は、キャンバー角度変更手段取付部15内に対向配置される液室12AL1、12AL2によって構成される液体クランプよって狭持される。さらに、荷重伝達部材13は、キャンバー角度変更手段取付部15内に対向配置されるバイアススプリング12AS1、12AS2によって狭持される。なお、バイアススプリング12AS1、12AS2は設けなくともよい。
【0034】
対向配置される液室12AL1、12AL2は、液体通路12Pで互いに接続されている。液体通路12Pには、開閉弁12Vが設けられており、液室12AL1、12AL2同士を連通させたり、遮断したりする。液室12AL1、12AL2、及び液体通路12P内は、油等の非圧縮製流体で満たされている。いま、開閉弁12Vを閉じると、液室12AL1、12AL2間では液体は移動しないので、荷重伝達部材13は液室12AL1、12AL2で狭持された位置で、キャンバー角度変更手段取付部15内に固定される。
【0035】
開閉弁12Vを開くと、液室12AL1、12AL2間で液体が自由に移動できるので、荷重伝達部材13は荷重伝達面と直交する方向(図4−1中矢印Y方向)に移動できる。この状態で、第1空気ばね12AA1に圧力P1を、第2空気ばね12AA2に圧力P2を付与する。P1>P2であれば、第1空気ばね12AA1の体積が増加し、第2空気ばね12AA2の体積は減少する。これによって、荷重伝達部材13は、第1空気ばね12AA1に押されて、第2空気ばね12AA2の方へ移動する。これによって、車輪3の路面Lに対するキャンバー角度を変更することができる。荷重伝達部材13を所定の距離だけ移動させたら、開閉弁12Vを閉じる。すると、液室12AL1、12AL2間では液体は移動しないので、荷重伝達部材13は移動した位置で、キャンバー角度変更手段取付部15内に固定される。
【0036】
図4−2に示すキャンバー角度変更手段12Bは、キャンバー角度変更手段取付部15内に第1空気ばね12BA1とバイアススプリング12BS2とが対向配置されて、荷重伝達部材13を狭持する。また、荷重伝達部材13は、キャンバー角度変更手段取付部15内に対向配置される液室12BL1、12BL2によって構成される液体クランプよって狭持される。液体クランプは、図4−1に示すキャンバー角度変更手段12Aが備える液体クランプと同様である。
【0037】
開閉弁12Vを開くと、液室12AL1、12AL2間で液体が自由に移動できるので、荷重伝達部材13は荷重伝達面と直交する方向(図4−2中矢印Y方向)に移動できる。この状態で、第1空気ばね12AA1に圧力P1を作用させる。圧力P1によって生み出される力F1(P1×A1:A1は荷重伝達部材13の受圧面積)が、バイアススプリング12BS2によって荷重伝達部材13に付勢される力Fsよりも大きい場合、荷重伝達部材13は、第1空気ばね12AA1に押されて、バイアススプリング12BS2の方へ移動する。F1<Fsであれば、荷重伝達部材13は、バイアススプリング12BS2に押されて、第1空気ばね12AA1の方へ移動する。これによって、車輪3の路面Lに対するキャンバー角度を変更することができる。荷重伝達部材13を所定の距離だけ移動させたら、開閉弁12Vを閉じる。すると、液室12AL1、12AL2間では液体は移動しないので、荷重伝達部材13は移動した位置で、キャンバー角度変更手段取付部15内に固定される。
【0038】
このように、キャンバー角度変更手段12A、12Bによれば、空気ばねと液体クランプとを併用することによって、車輪3の路面Lに対するキャンバー角度を変更する。例えば、車両の懸架装置に空気ばねを用いる場合、キャンバー角度変更手段12Bにおいて、第1空気ばね12BA1と懸架装置の空気ばねとを連通させる。そして、車両の旋回中に旋回外側の懸架装置に設けられる空気ばねが圧縮されると、その圧力が第1空気ばね12BA1に導かれるので、荷重伝達部材13を移動させることができる。これによって、車両の懸架装置と連動させて、旋回外側の車輪の路面に対するキャンバー角度を変更することができる。次に、懸架装置と連動させるための構造について説明する。
【0039】
図5は、この実施例に係る車輪支持装置と車両の懸架装置とを連動させる構造を示す説明図である。この車両100が備える車輪支持装置10L、10Rは、車輪3L、3Rと車両100aとの間に緩衝装置40L、40Rを介在させて、車輪3L、3Rから車両100aへ伝わる衝撃を緩和する。緩衝装置40L、40Rは、空気ばねを備えており、車輪支持装置10L、10Rは、緩衝装置40L、40Rが備える空気ばねの圧力変化により動作する。
【0040】
車両100aが備える緩衝装置40L、40Rを備えており、車両100aの懸架装置を構成するアッパーアーム20L、20Rは、それぞれ緩衝装置40L、40Rに取り付けられる。懸架装置40L、40Rは、対向配置される一対の第1空気ばね41L、41Rと、第2空気ばね44L、44Rとを備える。そして、第1空気ばね41L、41Rには第1ピストン42L、42Rが接触し、第2空気ばね45L、45Rには第2ピストン44L、44Rが接触する。第1ピストン42L、42Rと第2ピストン44L、44Rとは、連結棒43L、43Rで連結されている。連結棒43L、43Rは、車両100aの懸架装置を構成するアッパーアーム20L、20Rと連結されている。
【0041】
第1空気ばね41L、41Rと第1ピストン42L、42Rとが接触する部分の荷重支持面積A1は、第2空気ばね45L、45Rと第2ピストン44L、44Rとが接触する部分の荷重支持面積A2よりも大きい(A1>A2)。すなわち、第1空気ばね41L、41Rが第1ピストン42L、42Rから圧力を受ける受圧面積は、第2空気ばね45L、45Rが第2ピストン44L、44Rから圧力を受ける受圧面積よりも大きい。これによって、第1空気ばね41L、41Rが第1ピストン42L、42Rを押す力F1は、第2空気ばね45L、45Rが第2ピストン44L、44Rを押す力F2よりも大きくなるので、緩衝装置40L、40Rによって、前記アッパーアーム20L、20Rから第1ピストン42L、42R、第2ピストン44L、44Rへ伝わる荷重を支持することができる。
【0042】
キャンバー角度変更手段12L、12Rが備える第1アクチュエータ12aL、12aR、及び第2アクチュエータ12bL、12bRは、いずれも空気ばねである。そして、第1アクチュエータ12aL、12aR内の圧力、及び第2アクチュエータ12bL、12bR内の圧力が変化することにより、荷重伝達部材13L、13Rが支持軸9sを中心に揺動する。その結果、路面に対する車輪3L、3Rのキャンバー角度が変化する。
【0043】
この緩衝装置40L、40Rでは、荷重支持面積の異なる空気ばね同士を、緩衝装置間連通通路で接続する。この例においては、図5に示すように、緩衝装置40Lの第1空気ばね41Lと緩衝装置40Rの第2空気ばね45Rとが緩衝装置間連通通路48Aで接続される。また、緩衝装置40Rの第1空気ばね41Rと緩衝装置40Lの第2空気ばね45Lとが緩衝装置間連通通路48Bで接続される。これによって、車両100aのロールを低減させる。
【0044】
また、第1空気ばね41L、41Rと、第1アクチュエータ12aL、12aRとは、第1連通通路46L、46Rで接続されている。また、第2空気ばね45L、45Rと、第2アクチュエータ12bL、12bRとは、第2連通通路47L、47Rで接続されている。このような構成で車両100aが図5中の矢印方向に旋回すると、旋回外側のアッパーアーム20Lは鉛直方向上方に移動し、旋回内側のアッパーアーム20Rは鉛直方向下方に移動する。ここで、連結棒43Lは旋回外側のアッパーアーム20Lに、連結棒43Rは旋回内側のアッパーアーム20Rに連結されている。
【0045】
したがって、旋回外側の緩衝装置40Lの第1、第2ピストン42L、44Lは、図5中の矢印U方向に移動し、旋回内側の緩衝装置40Rの第1、第2ピストン42R、44Rは、図5中の矢印D方向に移動する。これによって、緩衝装置40Lの第1空気ばね41L及び緩衝装置40Rの第2空気ばね45R内における空気の圧力は、緩衝装置40Rの第1空気ばね41R及び緩衝装置40Lの第2空気ばね45L内における空気の圧力よりも大きくなる。
【0046】
その結果、キャンバー角度変更手段12L、12Rが備える第1アクチュエータ12aL、12aR内の圧力は、第2アクチュエータ12bL、12bR内の圧力よりも大きくなる。その結果、荷重伝達部材13Lは、支持軸9sを中心として図5中の矢印CAL方向に、荷重伝達部材13Rは、支持軸9sを中心として中心として図5中の矢印CAR方向に揺動する。これによって、旋回外側の車輪3Lのキャンバー角度は負に、旋回外側の車輪3Rのキャンバー角度は正に変化する。その結果、旋回外側及び内側の車輪3L、3Rの接地形状及び接地面積を車両100aの直進時と同様に維持できるので、旋回時における安定した車両100aの走行を実現できる。また、車両100aのロールによる緩衝装置40L、40Rの動作を利用し、前記動作に連動させて車輪3L、3Rのキャンバー角度を変更することができる。その結果、キャンバー角度変更手段12L、12Rの駆動源や、キャンバー角度の制御装置が不要になる。
【0047】
(変形例)
図6−1は、この実施例の変形例に係る車輪支持装置を示す説明図である。図6−2は、図6−1のキャンバー角度変更手段の構成を示す説明図である。この車輪支持装置10Aは、ストラット形式の懸架装置に取り付けてある。この車輪支持装置10Aは、車軸支持体支持部材であるフレーム11Aと、車軸支持体7と、キャンバー角度変更手段12Aとを含んでいる。フレーム11Aは、一端がストラットシェル32に固定され、他の一端には支持軸11Asが設けられている。また、車軸支持体7の路面側に設けられる軸受部9Asによって、フレーム11Aの支持軸11Asが支持される。このような構成によって、これによって、フレーム11Aは、支持軸11Asを中心にして車軸支持体7を揺動可能に支持する。この変形例においては、支持軸11Asと軸受部9Asとが、揺動支持部を構成する。
【0048】
フレーム11Aの支持軸11Asに対向する側には、キャンバー角度変更手段12Cが取り付けられている。この変形例に係るキャンバー角度変更手段12Cは油圧アクチュエータである。図5−2に示すように、キャンバー角度変更手段12Cは、シリンダ12CC内がピストン12CPによって二個の油室12C1、12C2に仕切られている。それぞれの油室12C1、12C2内は非圧縮性の流体である油で満たされており、それぞれの油室12C1、12C2内の油量を変化させることにより、ピストン12CPを移動させる。
【0049】
ピストン12CPの移動は、連結棒12CLによって、車軸支持体7に設けられる荷重伝達部材13Aに伝達されて、支持軸11Asを中心として車軸支持体7を揺動させる。これによって、車輪3の路面に対するキャンバー角度を変更できる。油圧アクチュエータの作動流体は非圧縮性の流体(油)なので、油室12C1、12C2に対する油の出入りを停止すると、その位置でピストン12CPを固定できる。これによって、上記キャンバー角度変更手段12A、12Bでは必要としていた液体クランプを用いなくとも、荷重伝達部材13Aを所定の位置で保持することができる。すなわち、この変形例に係るキャンバー角度変更手段12Cで用いる油圧アクチュエータは、車軸支持体7を揺動させる機能と、車軸支持体7を所定位置で保持する機能とを備える。これによって、キャンバー角度変更手段12Cの寸法を小さくできる。
【0050】
以上、この実施例及びその変形例に係る車輪支持装置は、車軸支持体の路面側と路面の反対側とで車軸支持体が車軸支持体支持部材に支持される。これによって、車輪支持装置をコンパクトに構成できるので、ホイール内に車輪支持装置を配置することができる。したがって、この車両支持装置を懸架装置に取り付けた場合においては、車両の幅方向に対する寸法変化を抑えることができる。また、この車輪支持装置は、車両が備える懸架装置のアーム類に、車軸支持体支持部材をそのまま取り付けることができる。その結果、車両が備える懸架装置の構造や車両の構造にほとんど変更を加えることなく車両に取り付けて、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る車輪支持装置は、車両の懸架装置に有用であり、特に、車両旋回時における車輪の接地踏面の変化を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この実施例に係る車輪支持装置を示す側面図である。
【図2】この実施例に係る車輪支持装置を備える車両を示す説明図である。
【図3−1】この実施例に係る車輪支持装置を示す正面図である。
【図3−2】この実施例に係る車輪支持装置を示す正面図である。
【図3−3】フレームの軸受部を示す拡大図である。
【図4−1】この実施例に係るキャンバー角度変更手段の例を示す説明図である。
【図4−2】この実施例に係るキャンバー角度変更手段の例を示す説明図である。
【図5】この実施例に係る車輪支持装置と車両の懸架装置とを連動させる構造を示す説明図である。
【図6−1】この実施例の変形例に係る車輪支持装置を示す説明図である。
【図6−2】図5−1のキャンバー角度変更手段の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 タイヤ
2 ホイール
3、3L、3R 車輪
6 車軸
7、7L、7R 車軸支持体
9s 支持軸
9As 軸受部
10、10L、10R、10A 車両支持装置
11、11A フレーム
11As 支持軸
11H 開口部
12a 第1アクチュエータ
12b 第2アクチュエータ
12、12L、12R,12A,12B,12C キャンバー角度変更手段
13、13L、13R、13A 荷重伝達部材
14 軸受部
15 キャンバー角度変更手段取付部
16 ゴムベアリング
100、100a 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を回転可能に支持する車軸支持体と、
前記車軸支持体の路面側又は前記車軸支持体の路面側とは反対側のいずれか一方で、前記車軸支持体を揺動可能に支持する車軸支持体支持部材と、
前記車軸支持体が支持される箇所を中心に前記車軸支持体を揺動させて、前記車輪の路面に対するキャンバー角度を変更するキャンバー角度変更手段と、
を含んで構成されることを特徴とする車輪支持装置。
【請求項2】
前記車軸支持体支持部材は、前記車軸支持体の路面側で前記車軸支持体を揺動可能に支持することを特徴とする請求項1に記載の車輪支持装置。
【請求項3】
前記キャンバー角変更手段は、前記車両が旋回しているときに、前記車両の旋回外側にある車輪の路面に対するキャンバー角度が負になるように動作することを特徴とする請求項1又は2に記載の車輪支持装置。
【請求項4】
前記車軸支持体支持部材は、ゴムベアリングを介して前記車軸支持体を支持することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車輪支持装置。
【請求項5】
前記車輪と前記車両との間に介在する緩衝装置に空気ばねを用い、前記空気ばねの圧力変化により前記キャンバー角度変更手段が動作することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車輪支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公開番号】特開2006−281980(P2006−281980A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104772(P2005−104772)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】