説明

軌道の動的変位推定方法及び動的変位推定システム

【課題】軌道の動的変位量に基づいて軌道の異常を検知し、事故の未然防止を一層効果的に図ることが可能な、軌道の動的変位推定方法を提供する。
【解決手段】軌道の延在方向に所定間隔をあけて配置された複数の計測点毎に動的変位検出部11を設置し、該動的変位検出部11において軌道の振動を発電機構25により電気エネルギーに変換する変換工程と、計測点毎のエネルギーをキャパシタ30に貯蔵する貯蔵工程と、計測点毎に単位営業期間内に蓄えられた電気エネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出手段40により検出する検出工程とを設け、各単位営業期間の電気エネルギー量の検出値を計測点毎に比較することで、各計測点における軌道の動的変位を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する鉄道車両の荷重により生じる軌道の動的変位量を推定する動的変位推定方法及び動的変位推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道においては、立体交差工事等の線路近接工事や地震等の自然災害の発生により、路盤の軟弱化や路盤土流出等の異常が発生することがある。これら異常が進行していくと、車両走行の妨げとなる変状が軌道に生じる前段階として、車両通過時に該車両の荷重により発生する一時的な軌道変位、即ち、車両荷重に伴う動的変位のが増大する傾向がある。
したがって、軌道の動的変位量を把握することができれば、当該軌道の異常を事前に検知して事故の未然防止を効果的に図ることができるとも考えられる。
【0003】
ここで、従来、線路近接工事等で一般的に使用されている軌道変位の監視システムとしては、レーザーによる光学式軌道変位計測(例えば特許文献1参照)を用いたものや、レールに沿って設置された複数の傾斜計により傾斜角度を測定し、当該傾斜角度と傾斜計間の間隔からレールの沈下量を算出するシステム(例えば特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−232611号公報
【特許文献2】特開2008−169547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1及び2に記載の軌道変位の監視システムは、軌道の静的変位量(車両が走行していない軌道の定常的な変位量)を測定することは可能であるものの、軌道の動的変位量の測定には適していない。
【0006】
即ち、上記監視システムを軌道の動的変位の測定に適用する場合、車両通過時の軌道変位を時間とともに記録しなければならないため、高速のサンプリングが可能であるとともに当該サンプリングによる大量のデータの保存が可能な多チャンネルのデータロガーが不可欠となる。したがって、システム自体が大掛かりなものとなる他、大幅な設備投資が必要となりコスト面から好ましくない。
【0007】
さらに、動的変位を測定するには上記監視システムを連続駆動させて軌道変位量を常に監視しておく必要があるが、監視システムを駆動するバッテリー容量には限界があるため、長時間の監視には適していない。この点、車両通過時のみの軌道変位を測定すべく、車両通過を検知するセンサを設置して、当該センサが車両を検出した際にのみ軌道変位を測定することも考えられるが、システムが複雑となりコストが上昇するため好ましくない。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、軌道の動的変位量を適確に把握することで事故の未然防止を一層効果的に図ることが可能な軌道の動的変位推定方法及び動的変位推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る軌道の動的変位推定方法は、車両が軌道を通過する際における前記軌道全体の動的変位を推定する軌道の動的変位推定方法であって、前記軌道の延在方向に所定間隔をあけて配置された複数の計測点における前記軌道の振動をエネルギーに変換する変換工程と、前記計測点毎の前記エネルギーを貯蔵する貯蔵工程と、前記計測点毎に、単位営業期間内に貯蔵されたエネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出する検出工程と、を備え、各前記単位営業期間の前記エネルギー量の検出値を前記計測点毎に比較することで、各前記計測点における前記軌道の動的変位を推定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る軌道の動的変位推定システムは、車両が軌道を通過する際における前記軌道全体の動的変位を推定する軌道の動的変位推定システムであって、前記軌道の延在方向に所定間隔をあけて配置された複数の計測点にそれぞれ設置され、各前記計測点における前記軌道の振動をエネルギーに変換する変換手段と、各前記変換手段に設けられ、前記エネルギーを貯蔵する貯蔵手段と、各貯蔵手段に設けられ、単位営業期間内に蓄えられたエネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような特徴の軌道の動的変位推定方法及びシステムによれば、各計測点における軌道の動的変位による振動をエネルギーに変換し、当該エネルギーを各計測点毎に貯蔵、検出する。
ここで鉄道においては、一日に走行する車両数は予め定められているため、軌道に何ら異常がない場合、単位営業期間が経過する毎に各計測点に貯蔵されるエネルギー量は各計測点毎に概ね一定の値を示すことになる。ところが、路盤や軌道に異常が生じる等して特定の計測点において軌道の動的変位量が増大すると、これに伴って振動エネルギーも増大するため、当該計測点において貯蔵されるエネルギー量が平常時と比べて増大する。
したがって本発明においては、各計測点において単位営業期間経過毎に貯蔵されたエネルギー量を検出して、これら各単位営業期間のエネルギー量を互いに比較することで、動的変位量を直接的に測定せずとも、間接的に動的変位量の増大を検知することができる。
【0012】
また、本発明の軌道の動的変位推定方法において、前記変換工程は、前記計測点に設置された発電機構により、前記軌道の振動を電気エネルギーに変換する工程であって、前記貯蔵工程は、前記電気エネルギーをキャパシタに貯蔵する工程であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の軌道の動的変位推定システムにおいては、前記変換手段が、前記計測点における前記軌道の振動を電気エネルギーに変換する発電機構であって、前記貯蔵手段が、前記電気エネルギーを貯蔵するキャパシタであることが好ましい。
【0014】
このような特徴の軌道の動的変位推定方法及びシステムによれば、各計測点における振動エネルギーを発電機構により電気エネルギーに変換し、当該電気エネルギーを各計測点ごとにキャパシタに貯蔵することで、軌道の動的変位に基づいて貯蔵されるエネルギーを確実に検出することができる。よって、各計測点における電気エネルギー量を単位営業期間同士で比較することで、路盤や軌道の異常を適確に検知することができる。
【0015】
さらに、本発明の軌道の動的変位推定方法において、前記変換工程は、互いに固有振動数帯域の異なる複数の前記発電機構により、各前記計測点における前記軌道の振動を前記電気エネルギーに変換する工程であって、前記貯蔵工程は、各前記発電機構毎に設けられた複数の前記キャパシタに前記電気エネルギーを蓄える工程であって、前記検出工程は、各前記キャパシタから各前記発電機構毎のエネルギー量を検出する工程であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の軌道の動的変位推定システムにおいて、前記変換手段が、互いに固有振動数帯域の異なる複数の前記発電機構であって、前記貯蔵手段が、各前記発電機構毎に前記電気エネルギーを蓄える複数の前記キャパシタであって、前記検出手段が、各前記発電機構毎のエネルギー量を各前記キャパシタから検出することが好ましい。
【0017】
ここで、軌道の動的変位による振動の周波数帯域は、軌道の異常個所に対応して異なる範囲を示し、即ち、例えばレールや枕木に異常がある場合には比較的高い周波数帯域での振動が生じ、路盤内に空洞等の異常がある場合には比較的低い周波数帯域での振動が生じる。したがって、互いに固有振動数帯域の異なる複数の発電機構を各計測点に設置して、これら発電機構により生じた電気エネルギーの総和を各発電機構毎に別個に検出し、その大小を比較することで、動的変位が増大した場合における軌道の具体的な異常個所を推定することが可能となる。
【0018】
また、本発明の軌道の動的変位推定方法においては、前記検出工程により検出された前記キャパシタ毎の前記エネルギー量の検出値を、前記キャパシタに蓄えられた前記電気エネルギーを利用して送信する通信工程をさらに備えることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の軌道の動的変位推定システムにおいては、前記検出手段により検出された前記キャパシタ毎のエネルギー量の検出値を、前記キャパシタに貯蔵された前記電気エネルギーを利用して送信する通信手段をさらに備えることが好ましい。
【0020】
このように、キャパシタに貯蔵された電気エネルギーを通信工程に回生して利用することで、省電力を図りながら遠隔地におけるモニタリングを行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の軌道の動的変位推定方法及びシステムによれば、各計測点毎に単位営業期間経過時に貯蔵されたエネルギー量を検出して、単位営業期間のエネルギー量を互いに比較することで、動的変位量の増大を容易に検知することができる。これにより、動的変位に基づく軌道の異常を適切に把握して、事故の未然防止を一層効果的に図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態の軌道の動的変位推定方法及びシステムの概要を示す図である。
【図2】軌道の動的変位推定方法及びシステムが適用される軌道の概要を示す図である。
【図3】単位営業期間経過時に貯蔵されたエネルギー量と軌道の動的変位量との関係を示すグラフである。
【図4】第2実施形態に係る軌道の動的変位推定方法及びシステムの概要を示す図である。
【図5】発電機構の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示す第1実施形態に係る動的変位推定システム10は、後述する計測点2毎に設置される動的変位検出部11と、これら複数の動的変位検出部11と通信線12を介して接続された通信手段50、警告灯60及び警告ブザー70とを備えて構成されている。
【0024】
ここで、動的変位推定システム10が適用される軌道1は、図2に示すように、路盤4上を覆うように設置された道床3上に、多数の枕木5が所定間隔をあけて互いに略平行に並設され、これら枕木5上にレール6が敷設されることで構成されている。なお、本実施形態においては、多数の枕木5のうち例えば1.5m程間隔をあけて配置された一つ置きの枕木5の箇所をそれぞれ計測点2としている。なお、計測点2は必ずしも枕木5の箇所としなくともよく、また、計測点2の配置間隔は任意に定めることができる。
【0025】
このような軌道1においては、例えば図2に示すように路盤4内に空洞7等の異常が発生すると、この空洞7の上方を車両8が通過する際にのみ当該車両8の荷重によって一時的な軌道変位が生じることがある。このような車両荷重に伴う一時的な軌道1の変位を動的変位といい、本実施形態の動的変位推定システム10はこの動的変位量を推定することを目的として使用される。
【0026】
動的変位検出部11は、上述した計測点2にそれぞれ設置されており、図1に示すように、振動変換部(変換手段)20と、キャパシタ(貯蔵手段)30と、電圧変換部41及び制御部42からなる検出手段40とを備えている。なお、図1においては、複数の動的変位検出部11のうち、一のみの動的変位検出部11について構成要素の詳細を示し、他の動的変位検出部11については構成要素の記載を省略している。また、上記通信線12は各動的変位検出部11における制御部42にそれぞれ接続されている。
【0027】
振動変換部20は、支持体21に一端が固定されて水平方向に延びる弾性体23と、該弾性体23の他端に固定されたウェイト22と、弾性体23の振動に伴ってウェイト22が衝突する圧電素子24とからなる発電機構25を構成している。このような構成により、振動変換部20においては、軌道1への動的変位の発生に伴って弾性体23が振動し、この際にウェイト22が圧電素子24に衝突することで発電が行なわれる。
【0028】
キャパシタ30は、例えば誘電体及び該誘電体により分離された一対の電極板からなる構成とされ、振動変換部20により発電された電気エネルギーを貯蔵すべく、上記圧電素子24に対して電気接続されている。なお、振動変換部20による電気エネルギーを貯蔵することができれば当該キャパシタ30に限られず、例えば二次電池等の他の電力貯蔵機構を採用してもよい。
【0029】
電圧変換部41は、キャパシタ30の一対の電極板間の電圧値を測定するとともに、当該測定した電圧値を制御部42への入力に適した電圧信号に変換するように構成されている。ここで、上記キャパシタ30の電極板間の電圧値は、貯蔵された電気エネルギーの総和に対応した値となる。したがって、電圧変換部41は、一対の電極板間の電圧値を測定することで、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギーの総和を検出することになる。
【0030】
制御部42には、予め設定した単位営業期間が経過する度に、電圧変換部41から該電圧変換部41が測定した電圧値、即ち、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギー量の総和に応じた信号を取得する。本実施形態においては、この制御部42と上記電圧変換部41とによって、単位営業期間内に貯蔵されたエネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出する検出手段40が構成されている。
【0031】
また、上記制御部42は、単位営業期間が経過する度に該単位営業期間中にキャパシタ30に貯蔵された電気エネルギー量の値に対応する信号を通信手段50に対して送出する。さらに、制御部42は、例えばキャパシタ30に貯蔵された電気エネルギー量が所定の閾値を超えた場合や、単位営業時間が経過した際に制御部42が電圧変換部41から信号を取得できない等の異常が発生した場合に、警告灯60及び警告ブザー70に対して点灯又は鳴動させる指令を送出する。
【0032】
ここで、単位営業期間とは、例えば一日間、数日間、一週間、一ヶ月間等の鉄道車両が運行する営業期間のことを意味している。鉄道においては、一日間に走行する車両数が予め定められているため、この単位営業期間中に走行する車両数は概ね一定となる。なお、この単位営業期間は、車両の通過本数が概ね一定とされる限り一日単位のみならず、数時間あるいは数十分間等の短期間であってもよい。
【0033】
通信手段50は、制御部42からの信号に応じて、各動的変位検出部11、即ち、各計測点2における単位営業期間に発電された電気エネルギー量を遠隔地にある基地局のコンピュータ(図示省略)に対して無線送信する。これにより、コンピュータは、各計測点2における単位営業期間の電気エネルギー量のデータを取得することになる。
【0034】
また、本実施形態における通信手段50は、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギーを利用して駆動する構成とされている。即ち、制御部42は、通信手段50に対して上記信号を送出するのと同時に、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギーの一部を通信手段50に伝送し、該通信手段50は伝送された当該電気エネルギーを回生して電気エネルギー量のデータを基地局のコンピュータへと無線送信する。
【0035】
なお、通信手段50、警告灯60及び警告ブザー70は、それぞれ軌道1の所定区間毎に間隔をあけて設置されており、図1に示すように複数の動的変位検出部11に通信線12を介して接続されている。
【0036】
次に、このような構成の動的変位推定システム10による動的変位推定方法について説明する。軌道1を車両8が通過する際における該軌道1の振動は、各計測点2に設置された動的変位検出部11の振動変換部20によって電気エネルギーに変換され(変換工程)、当該電気エネルギーが振動変換部20毎にキャパシタ30に貯蔵される(貯蔵工程)。そして、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギーは、該キャパシタ30における一対の電極板の電圧値として電圧変換部41により測定され、制御部42が単位営業期間経過毎にキャパシタ30の電圧値、即ち、単位営業期間中に貯蔵された電気エネルギー量の総和を検出する(検出工程)。
【0037】
その後、制御部42から、単位営業期間中に貯蔵された電気エネルギー量の総和に対応する信号が通信手段50へと送出される。通信手段50においては、各動的変位検出部11から入力された電気エネルギー量のデータを基地局のコンピュータへと無線送信する(通信工程)。
【0038】
ここで、鉄道においては、上述のように単位営業期間内に走行する車両数は予め定められているため、軌道に何ら異常がない場合、車両8から軌道1に与えられる仕事量、即ち振動エネルギー量は概ね一定となる。したがって、平常時において単位営業期間中に各計測点に貯蔵される電気エネルギー量は、単位営業期間の別に関わらずに概ね一定となると考えられる。
【0039】
ところが、例えば図2に示すように路盤4内に空洞7が生じる等の異常が発生すると、当該異常個所における車両が通過する際の動的変位量が増大する。このような動的変位量の増大は、当該異常個所を車両8が通過する際の振動エネルギーの増加を招くため、結果として、図3に示すように、異常個所上の計測点2に配置された振動変換部20によるエネルギー量が増加する。なお、このような動的変位量の増加は、路盤4内に空洞が生じた場合にのみならず、浮きまくらぎやレールの破損等、他の異常が軌道1に生じた場合であっても同様に起こる。
【0040】
したがって、動的変位推定システム10及び動的変位推定方法により得られた各単位営業期間の電気エネルギー量の検出値を各計測点2毎に比較することで、各計測点2における軌道1の動的変位量の増減を推定することができる。
【0041】
即ち、本実施形態においては、各計測点2毎に単位営業期間経過時に貯蔵された電気エネルギー量を検出して、各単位営業期間のエネルギー量を互いに比較することで、動的変位量の増大を容易に検知することができる。これによって、動的変位に基づく軌道1の異常を適切に把握して、事故の未然防止を一層効果的に図ることが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態の動的変位推定システム及び方法においては、各計測点2における振動変換部20(発電機構25)において振動エネルギーによる発電をさせて、単位営業時間毎にキャパシタ30に貯蔵された電気エネルギー量をモニタリングさえすればよいため、計測自体に必要なエネルギーは極めて少量で足りる。また、例えば、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギー自体を制御部42の駆動等のシステム全体に回生することで、計測に必要なエネルギーをさらに節約することもできる。
【0043】
また、本実施形態においては、振動変換部20によりキャパシタ30に蓄積された電気エネルギーを用いて通信手段50を駆動し、即ち、キャパシタ30に貯蔵された電気エネルギーを通信工程に回生して利用するため、省電力を図りながら遠隔地におけるモニタリングを行なうことができる。よって、通信手段50をバッテリー駆動とした場合であっても、バッテリーの容量不足の問題を懸念することなく、長期にわたっての常時モニタリングが可能となる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、動的変位検出部11の構成において第1実施形態と相違する。
即ち、第2実施形態の動的変位検出部80は、図4に示すように、複数(本実施形態では3つ)の発電機構25A,25B,25Cを備えた振動変換部81と、各発電機構25A,25B,25C毎に設けられたキャパシタ30,30,30と、各キャパシタ30,30,30にそれぞれ接続された電圧変換部41,41,41及びこれら電圧変換部41,41、41に接続された単一の制御部42からなる検出手段40とを備えている。
【0045】
振動変換部81は、略板状をなすベース板82を備えており、当該ベース板82上には、互いに間隔を空けて3つの支持体21A,21B,21Cが設置されている。該支持体21A,21B,21Cには、それぞれ延在方向の長さの異なる弾性体23A,23B,23Cの一端が固定されており、これら弾性体23A,23B,23Cの他端にはウェイト22A,22B,22Cがそれぞれ固定されている。さらにベース板82上には、それぞれ弾性体23A,23B,23Cが振動する際に各ウェイト22A,22B,22Cが衝突する圧電素子24A,24B,24Cが配置されている。
【0046】
即ち、振動変換部81には、弾性体23A,23B,23C、ウェイト22A,22B,22C、圧電素子24A,24B,24Cからそれぞれ構成される3つの発電機構25A,25B,25Cが設けられており、各発電機構25A,25B,25Cは弾性体23A,23B,23Cの長さが互いに異なることにより、応答周波数帯域がそれぞれ異なるものとされている。特に本実施形態においては、図4の左側に位置する発電機構25Aの弾性体23Aが最も長く、図4の右側に位置する発電機構25Cの弾性体23Cが最も短く設計されており、これにより各発電機構25A,25B,25Cの応答周波数帯域は、発電機構25Aが最も低く、発電機構25Cが最も高く設定されている。なお、弾性体23A,23B,23Cの長さが異なるのみならず、各ウェイト22A,22B,22Cの重量が異なることにより、各発電機構25A,25B,25Cの応答周波数帯域が異なるものとされていてもよい。
【0047】
そして、この振動変換部81においては、各発電機構25A,25B,25Cにそれぞれキャパシタ30及び電圧変換部41が設けられ、各発電機構25A,25B,25Cが発電した電気エネルギーを貯蔵及び検出できるように構成されている。このような各発電機構25A,25B,25C毎の電気エネルギーの貯蔵量は、制御部42より通信線12を介して通信手段50(図4において省略)に送出され、該通信手段50によって基地局のコンピュータに無線送信される。
【0048】
ここで、軌道1の動的変位による振動の周波数帯域は、軌道1の具体的な異常個所に対応して異なる帯域を示し、即ち、例えばレール6や枕木5に異常がある場合には比較的高い周波数帯域で振動し、路盤4内に空洞等の異常がある場合には比較的低い周波数帯域で振動することになる。
【0049】
したがって、本実施形態のように、振動変換部81に互いに応答振動数帯域の異なる複数の発電機構25A,25B,25Cを設置し、各発電機構25A,25B,25C毎の電気エネルギーの貯蔵量を検出し、その大小を比較することで、動的変位が増大した場合における軌道1の具体的な異常個所を推定することが可能となる。
【0050】
また、単一の発電機構25のみを備えた場合には、軌道1の動的変位に基づく振動の検出可能な周波数帯域が当該発電機構25の固有周波数帯域のみに委ねられるが、固有振動数帯域の異なる複数の発電機構25A,25B,25Cを設けたことで、広帯域の周波数の振動についてのモニタリングを行なうことが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、実施形態においては、発電機構25として、ウェイト22、弾性体23及び圧電素子24からなるものについて説明したが、例えば、変形例として図5に示すように、エレクトレット材料27を使用した発電機構26を採用してもよい。
【0052】
変形例の発電機構26は、支持体21に弾性体23を介して指示されたエレクトレット材料27と、該エレクトレット材料27と対向配置された電極基板28とを備えており、軌道1の動的変位により振動が発生した際に当該振動によりエレクトレット材料27と電極基板28との位置にずれが生じることによって、該電極基板28に電気エネルギーが発生する構成とされている。これにより、実施形態と同様、軌道1の動的変位に基づく振動を適切に電気エネルギーに変換することができる。
また、上記発電機構25,26の構成に限られず、軌道1の振動エネルギーを電気エネルギーに変換可能であるならば、他の構成の発電機構を採用してもよい。
【0053】
さらに、実施形態においては、各動的変位検出部11が検出した軌道1の動的変位に基づく電気エネルギー量を通信手段50を介して基地局のコンピュータに無線送信する構成としたが、これに限定されることはなく、例えば動的変位検出部11自体に電気エネルギーの総量が表示される構成として、この表示を巡回者が直接的に確認することで各計測点2における電気エネルギーの総量を取得する構成としてもよい。この場合、通信手段50を必要としないため、システムをより簡略化することができる。
【0054】
また、実施形態においては、軌道1の動的変位に基づく振動を電気エネルギーに変換する構成としたが、これに代えて、当該振動を機械的エネルギーとして例えばはずみ車等に貯蔵して、当該機械的エネルギーを検出することで動的変位を推定する構成であってもよい。この場合であっても、実施形態と同様、軌道1の動的変位量を推定することで当該動的変位に基づく軌道1の異常を適切に把握し、事故の未然防止を効果的に図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 軌道
2 計測点
10 動的変位推定システム
11 動的変位検出部
12 通信線
20 振動変換部(変換手段)
21 支持体
22 ウェイト
23 弾性体
24 圧電素子
25 発電機構
26 発電機構
27 エレクトレット材料
28 電極基板
30 キャパシタ(貯蔵手段)
40 検出手段
41 電圧変換部
42 制御部
50 通信手段
80 動的変位検出部
81 振動変換部(変換手段)
82 ベース板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が軌道を通過する際における前記軌道全体の動的変位を推定する軌道の動的変位推定方法であって、
前記軌道の延在方向に所定間隔をあけて配置された複数の計測点における前記軌道の振動をエネルギーに変換する変換工程と、
前記計測点毎の前記エネルギーを貯蔵する貯蔵工程と、
前記計測点毎に、単位営業期間内に貯蔵されたエネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出する検出工程とを備え、
各前記単位営業期間の前記エネルギー量の検出値を前記計測点毎に比較することで、各前記計測点における前記軌道の動的変位を推定することを特徴とする軌道の動的変位推定方法。
【請求項2】
前記変換工程は、前記計測点に設置された発電機構により、前記軌道の振動を電気エネルギーに変換する工程であって、
前記貯蔵工程は、前記電気エネルギーをキャパシタに貯蔵する工程であることを特徴とする請求項1に記載の軌道の動的変位推定方法。
【請求項3】
前記変換工程は、互いに固有振動数帯域の異なる複数の前記発電機構により、各前記計測点における前記軌道の振動を前記電気エネルギーに変換する工程であって、
前記貯蔵工程は、各前記発電機構毎に設けられた複数の前記キャパシタに前記電気エネルギーを蓄える工程であって、
前記検出工程は、各前記キャパシタから各前記発電機構毎のエネルギー量を検出する工程であることを特徴とする請求項2に記載の軌道の動的変位推定方法。
【請求項4】
前記検出工程により検出された前記キャパシタ毎の前記エネルギー量の検出値を、前記キャパシタに蓄えられた前記電気エネルギーを利用して送信する通信工程をさらに備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の軌道の動的変位推定方法。
【請求項5】
車両が軌道を通過する際における前記軌道全体の動的変位を推定する軌道の動的変位推定システムであって、
前記軌道の延在方向に所定間隔をあけて配置された複数の計測点にそれぞれ設置され、各前記計測点における前記軌道の振動をエネルギーに変換する変換手段と、
各前記変換手段に設けられ、前記エネルギーを貯蔵する貯蔵手段と、
各貯蔵手段に設けられ、単位営業期間内に蓄えられたエネルギー量を該単位営業期間経過毎に検出する検出手段と、を備えることを特徴とする軌道の動的変位推定システム。
【請求項6】
前記変換手段が、前記計測点における前記軌道の振動を電気エネルギーに変換する発電機構であって、
前記貯蔵手段が、前記電気エネルギーを貯蔵するキャパシタであることを特徴とする請求項5に記載の軌道の動的変位推定システム。
【請求項7】
前記変換手段が、互いに固有振動数帯域の異なる複数の前記発電機構であって、
前記貯蔵手段が、各前記発電機構毎に前記電気エネルギーを蓄える複数の前記キャパシタであって、
前記検出手段が、各前記発電機構毎のエネルギー量を各前記キャパシタから検出することを特徴とする請求項6に記載の軌道の動的変位推定システム。
【請求項8】
前記検出手段により検出された前記キャパシタ毎のエネルギー量の検出値を、前記キャパシタに貯蔵された前記電気エネルギーを利用して送信する通信手段をさらに備えることを特徴とする請求項6又は7に記載の軌道の動的変位推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−149227(P2011−149227A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12349(P2010−12349)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(500519987)株式会社ジェイアール総研情報システム (14)
【Fターム(参考)】