説明

軟磁性薄膜

【目的】 高温での熱処理後にも低い保磁力を示し、しかも高飽和磁束密度を有する軟磁性薄膜を提供する。
【構成】 Feベース軟磁性薄膜に、適量の酸素を導入し、結晶粒を微細化する。微細化された結晶粒径は、600Å以下である。また、酸素の導入量は、30原子%以下とする。Feベース軟磁性薄膜は、Fe単独からなるものであってもよいし、FeにSi、Al、Ti、Ta、Nb、Ga、V、W、Yから選ばれた少なくとも1種を添加したものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気ヘッド材料等に利用される軟磁性薄膜に関するものであり、特にFeを主成分とする軟磁性薄膜の軟磁気特性の改善に関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁気記録媒体の高保磁力化が進むにつれ、記録再生に使用する磁気ヘッドのヘッド材料には高飽和磁束密度化が要求されている。Feを主成分とする軟磁性薄膜(Feベース軟磁性薄膜)は、このような背景から開発された材料であり、従来ヘッド材料として多用されているフェライトに比べて飛躍的に高い飽和磁束密度を有する材料であることから、高画質VTR用の磁気ヘッド材料としての研究が進められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、一般に結晶質軟磁性材料は非晶質軟磁性材料に比べて熱安定性に優れると言われており、前述のFeベース軟磁性薄膜も例外ではない。しかしながら、例えばバルク型磁気ヘッドの場合、優れた信頼性を得るためにはその製造に際して550℃程度のガラス融着工程が必要であり、このような高温での熱処理後にも優れた軟磁気特性を発揮することが要求されるが、かかる観点から見た場合、前記Feベース軟磁性薄膜の熱安定性は必ずしも十分なものとは言えない。
【0004】そこで本発明は、高飽和磁束密度を有し、しかも高温での熱処理後にも十分な軟磁気特性を発揮する軟磁性薄膜を提供することを目的とする。さらに本発明は、熱安定性に優れ、高温でのガラス融着が可能で、高信頼性の磁気ヘッドを実現することが可能な軟磁性薄膜を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、前述の目的を達成せんものと鋭意検討を重ねた結果、Feベース軟磁性薄膜を成膜する際に酸素を導入し、成膜されたFeベース軟磁性薄膜の結晶粒を微細化することで、高飽和磁束密度を示す組成において、高温での熱処理後にも十分な軟磁気特性が発現されるとの知見を得るに至った。
【0006】本発明は、このような知見にもとづいて完成されたものであって、(Fea b 100-x x 〔ただし、MはSi、Al、Ti、Ta、Nb、Ga、V、W、Yより選ばれた少なくとも1種を表し、a,b,xは各元素の割合(原子%)を表す。〕なる組成式で表され、その組成範囲が70≦a≦1000≦b≦300≦x≦30a+b=100であるとともに、平均結晶粒径が600Å以下であることを特徴とするものである。
【0007】ここで、ベースとなる軟磁性薄膜は、Feのみから構成されてもよいし、FeにSi、Al、Ti、Ta、Nb、Ga、V、W、Yより選ばれた少なくとも1種を添加したものであってもよい。後者の場合、各元素の添加量は、磁気特性の観点から設定され、これら添加元素の割合が30原子%を越えると飽和磁束密度や透磁率を高い値とすることは難しい。一方、酸素(x)は、軟磁気特性の観点から決められたもので、この割合があまり多くなりすぎると(30原子%を越えると)、低保磁力、高透磁率を維持することが難しくなる。
【0008】また、本発明の軟磁性薄膜は、スパッタリングや真空蒸着、イオンプレーティング等の手法により成膜されるが、膜中に酸素を導入するとともに、成膜条件を適正なものとし、得られる軟磁性薄膜の平均結晶粒径を600Å以下とする必要がある。この平均結晶粒径は、得られる軟磁性薄膜の軟磁気特性に大きく影響し、平均結晶粒径が600Åを越えると、低保磁力化を図ることが難しい。成膜時に酸素を導入する手法としては、例えば酸素ガスを成膜雰囲気中に導入すればよく、あるいはターゲットに酸化物を用いればよい。
【0009】
【作用】Feベース軟磁性薄膜を成膜する際に、酸素を導入して結晶粒を微細化し、平均結晶粒径を600Å以下とすることにより、軟磁気特性が大幅に改善され、高温での熱処理後にも保磁力が十分に小さなものとなる。しかも高飽和磁束密度が維持される。
【0010】
【実施例】以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果にもとづいて詳細に説明する。
【0011】実験例1本実験例は、Feベース軟磁性薄膜の1つであるFeAl合金膜に酸素を導入し、軟磁気特性への影響を調べたものである。先ず、軟磁性薄膜の成膜はFe−Al合金ターゲット(直径100mm)を用いたDCスパッタにより行った。酸素の導入は、スパッタ雰囲気中にArと酸素(O2 )の混合ガスを導入することにより行った。成膜時のスパッタ条件は下記の通りである。
導入ガス : Ar+O2 +N2 スパッタガス圧 : 0.27Pa投入電力 : 300W膜厚 : 3μm
【0012】以上のスパッタ条件に従い、酸素の導入量を変えて各種軟磁性薄膜を成膜し、保磁力Hc(550℃、1時間のアニール後の値)を測定した。なお、前記保磁力Hcは、B−Hループトレーサーによって測定した。また、飽和磁束密度Bsについても振動試料型磁力計(VSM)により測定したが、いずれもほぼ17kGであった。
【0013】図1は、(Fe95Al5 100-x x 、(Fe90Al10100-x x 、(Fe85Al15100-x x (いずれも0≦x≦30)なる組成を有する軟磁性薄膜において、酸素量を変化させることによって平均結晶粒径が変化し、これに伴って保磁力Hcが変化する様子を図示したものである。保磁力Hcは、酸素含有量が増加するにつれて低下しており、特に15〜20原子%のとき、極小値を示している。
【0014】実験例2次に、FeNb合金膜に酸素を導入し、軟磁気特性への影響を調べた。成膜条件は実験例1と同様であり、ターゲット組成のみ変更した。また、ここで測定したサンプルは、(Fe90Nb10100-x x 、(Fe85Nb15100-x x (いずれも0≦x≦30)の2種類である。
【0015】膜中の酸素含有量と保磁力Hc(550℃、1時間のアニール後の値)を図2に示す。FeNb合金においても、FeAl合金の場合と同様、酸素が良好な軟磁気特性を導き出していることがわかる。このような現象は、FeにSi、Ti、Ta、Ga、V、W、Yを添加した系でも確認された。
【0016】実験例3本実験例では、代表的なサンプルについて、平均結晶粒径と保磁力Hc(550℃、1時間のアニール後の値)を測定した。結果を表1に掲載する。これらサンプルは、いずれも先のスパッタ条件に従いターゲット組成や酸素の導入量を変えることによって作製したものであるが、サンプル6については、スパッタガス圧を高くして成膜した。なお、前記平均結晶粒径は、X線回折パターンを基に、主ピークの半値幅からScherrerの式により求めた。この値は、透過型電子顕微鏡による膜の観察から求められた値とほぼ一致した。
【0017】
【表1】


【0018】この表からも明らかなように、適量の酸素を導入して平均結晶粒径を小さなものとしたサンプル1〜3(実施例に相当)は、熱処理後の保磁力Hcが非常に小さく、良好な軟磁気特性を発揮した。これに対して、酸素を導入せず平均結晶粒径が大きな値となっているサンプル4,5(比較例に相当)は、熱処理後の保磁力Hcが20と大きな値を示した。同様に、酸素を導入しても条件が不適切なために平均結晶粒径が大きな値となっているサンプル6についても、保磁力Hcは高い値となっており、軟磁気特性の劣化が見られる。
【0019】
【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発明においては、Feベース軟磁性薄膜に酸素を導入して結晶粒を微細化しているので、保磁力を著しく改善することができ、高温での熱処理後の保磁力が小さく、しかも高飽和磁束密度を有する軟磁性薄膜を提供することが可能である。したがって、信頼性の高いガラス融着工程が可能となり、高保磁力磁気記録媒体に対応可能で、しかも高信頼性を有する磁気ヘッドを実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】FeAl系合金における酸素含有量と保磁力Hc(550℃、1時間アニール後)の関係を示す特性図である。
【図2】FeNb系合金における酸素含有量と保磁力Hc(550℃、1時間アニール後)の関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (Fea b 100-x x 〔ただし、MはSi、Al、Ti、Ta、Nb、Ga、V、W、Yより選ばれた少なくとも1種を表し、a,b,xは各元素の割合(原子%)を表す。〕なる組成式で表され、その組成範囲が70≦a≦1000≦b≦300≦x≦30a+b=100であるとともに、平均結晶粒径が600Å以下であることを特徴とする軟磁性薄膜。

【図1】
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【図2】
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