説明

軟骨用移植材

【課題】簡易に軟骨の欠損部を修復することができる軟骨用移植材を提供する。
【解決手段】生分解性高分子多孔質材料からなるブロック状の多孔質体5と、その一表面を被覆する生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルム4とを備え、該多孔質フィルム4の気孔径が、軟骨細胞および間葉系幹細胞の通過を禁止し、体液を通過可能な大きさを有する軟骨用移植材1を提供する。これにより、軟骨細胞の採取・培養を行うことなく、簡易に軟骨の欠損部Cを修復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨用移植材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軟骨組織の修復を目的として、軟骨組織から得られる軟骨細胞を特定の担体にて培養し、移植材を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−233567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、軟骨細胞の採取は正常な軟骨組織への侵襲を伴い、また細胞の分離や担体を用いた培養には特定の技術や時間を要するという不都合がある。
本発明は、軟骨細胞の採取・培養を行うことなく、簡易に軟骨の欠損部を修復することができる軟骨用移植材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生分解性高分子多孔質材料からなるブロック状の多孔質体と、その一表面を被覆する生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルムとを備え、該多孔質フィルムの気孔径が、軟骨細胞および間葉系幹細胞の通過を禁止し、体液を通過可能な大きさを有する軟骨用移植材を提供する。
【0006】
本発明によれば、軟骨用移植材を、軟骨下骨の表面に配される軟骨層または軟骨下骨まで到達するように形成された欠損部に移植する場合に、多孔質フィルムが軟骨層の表面側に配されるように移植することにより、多孔質体が欠損部内に挿入され、多孔質体の一面を被覆している多孔質フィルムが欠損部に蓋をするように配置される。多孔質体内には軟骨層に存在している軟骨細胞や骨髄液に含まれる骨髄由来の間葉系幹細胞が侵入し、軟骨組織が形成される。この際に、多孔質体内に侵入した軟骨細胞や骨髄由来間葉系幹細胞は多孔質体の一面を被覆する多孔質フィルムによって軟骨層の表面側に漏出することが阻止され、多孔質体内に留まって軟骨組織の再生が促進される。さらに、多孔質フィルムの気孔を介して体液が多孔質体側に流入し、簡易に軟骨の欠損部を修復することができる。
【0007】
上記発明においては、前記多孔質フィルムの気孔径が、5μm未満、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.5μm未満であることが好ましい。このようにすることで、多孔質体内に侵入した軟骨細胞や間葉系幹細胞の漏出をより確実に防止することができるとともに、多孔質フィルムを介した体液の多孔質体内への侵入を許容して、軟骨組織の再生を促進することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記多孔質体が、前記多孔質フィルムにより被覆された表面とは反対の表面側に、リン酸カルシウム顆粒が混合されたリン酸カルシウム含有層を備えることとしてもよい。
このようにすることで、軟骨用移植材を、軟骨下骨の表面に配される軟骨層に軟骨下骨まで到達するように形成された欠損部に移植する場合に、リン酸カルシウム含有層を軟骨下骨側に向けて移植することにより、リン酸カルシウム含有層において軟骨下骨の再生促進を図ることができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記多孔質体を構成する生分解性高分子多孔質材料が、アテロコラーゲンを再線維化させた再線維化コラーゲンと、アテロコラーゲンを熱変性させた熱変性コラーゲンとを混合し架橋させたものであることが好ましい。
このようにすることで、抗原性のあるテロペプチドが除かれた材料を使用して、軟骨細胞や間葉系幹細胞の侵入性を向上し、軟骨組織の再生をさらに容易にすることができる。
【0010】
また、本発明は、生分解性高分子多孔質材料からなる生分解性高分子層と、該生分解性高分子層の一面側に配置され、リン酸カルシウム顆粒を含有する生分解性高分子多孔質材料からなるリン酸カルシウム含有層と、前記生分解性高分子層の他面側に配置され、該生分解性高分子層より気孔率の小さい生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルムとを積層してなる軟骨用移植材を提供する。
【0011】
本発明によれば、軟骨用移植材を、軟骨下骨の表面に配される軟骨層または軟骨下骨まで到達するように形成された欠損部に移植する場合に、多孔質フィルムが軟骨層の表面側に配されるように移植することにより、多孔質体が欠損部内に挿入され、多孔質体の一面を被覆している多孔質フィルムが欠損部に蓋をするように配置される。多孔質体内には軟骨層に存在している軟骨細胞や骨髄液に含まれる骨髄由来の間葉系幹細胞が侵入し、軟骨組織が形成される。この際に、多孔質体内に侵入した軟骨細胞や骨髄由来間葉系幹細胞は多孔質体の一面を被覆する多孔質フィルムによって軟骨層の表面側に漏出することが抑制され、多孔質体内に留まって軟骨組織の再生が促進される。さらに、多孔質フィルムの気孔を介して体液が多孔質体側に流入し、簡易に軟骨の欠損部を修復することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記生分解性高分子層および前記リン酸カルシウム含有層を構成する生分解性高分子多孔質材料が、アテロコラーゲンを再線維化させた再線維化コラーゲンと、アテロコラーゲンを熱変性させた熱変性コラーゲンとを混合し架橋させたものであってもよい。
このようにすることで、抗原性のあるテロペプチドが除かれた材料を使用して、軟骨細胞や間葉系幹細胞の侵入性を向上し、軟骨組織の再生をさらに容易にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軟骨細胞の採取・培養を行うことなく、簡易に軟骨の欠損部を修復することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る軟骨用移植材を示す模式的な縦断面図である。
【図2】図1の軟骨用移植材を欠損部に移植する場合を説明する図であり、(a)欠損部への軟骨用移植材の挿入、(b)欠損部に移植された状態の軟骨用移植材をそれぞれ示す縦断面図である。
【図3】図2(b)により欠損部に移植された軟骨用移植材に作用する軟骨細胞、骨髄液および体液をそれぞれ示す縦断面図である。
【図4】図1の軟骨用移植材の変形例を示す縦断面図である。
【図5】図4の軟骨用移植材を欠損部に移植する場合を説明する図であり、(a)欠損部への軟骨用移植材の挿入、(b)欠損部に移植された状態の軟骨用移植材をそれぞれ示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る軟骨用移植材1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る軟骨用移植材1は、図1に示されるように、生分解性高分子多孔質材料からなる第1の層2と、該第1の層2の一面に配置され同じく生分解性高分子多孔質材料にリン酸カルシウム顆粒を含有してなる第2の層(リン酸カルシウム含有層)3と、第1の層2の他面を被覆するように配置された生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルム4とを備えた3層構造を有している。
【0016】
第1の層2および第2の層3を構成する生分解性高分子多孔質材料は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、コラーゲンからテロペプチドを除去したアテロコラーゲンの塩酸溶液を2つ用意し、一方のアテロコラーゲン塩酸溶液は中和した後に37℃で4.5時間程度静置することにより、再線維化コラーゲン溶液を生成し、この再線維化コラーゲン溶液を濃縮および洗浄することにより、再線維化コラーゲンを得る。他方のアテロコラーゲン塩酸溶液は、凍結乾燥後に溶解したものを60℃で30分程度静置することにより熱変性コラーゲンを得て、ここに緩衝溶液を添加することにより中和する。得られた再線維化コラーゲンと熱変性コラーゲンとを混合したものに、架橋剤を混合することにより、材料となる生分解性高分子多孔質材料を得る。架橋剤としては、エポキシ基を両末端に備える化合物、例えば、デナコール(登録商標:ナガセケムテックス株式会社製)である。
【0017】
生分解性高分子材料とリン酸カルシウム顆粒とを混合し、任意の容器内に流入させることにより第2の層3を得る。その後、第2の層3の上層に材料である生分解性高分子多孔質材料を流入させることにより、第2の層3の一面側に積層状態に形成された第1の層2を得る。そして、これを凍結乾燥することにより2層構造のブロック状の多孔質体5を得ることができる。
【0018】
一方、多孔質フィルム4は以下のようにして製造する。
容器に、ゼラチン、グリセロールおよび架橋剤の混合溶液を収容し、37℃で乾燥させることによりフィルム状に構成する。
このようにして構成された多孔質フィルム4は、1μm以下の気孔径を有している。したがって、5〜50μm程度の大きさを有する軟骨細胞や骨髄由来間葉系幹細胞は多孔質フィルム4の気孔を通過することができない。一方、体液については多孔質フィルム4の気孔を通過することができる。
【0019】
このようにして構成された多孔質フィルム4は、例えば、一面に架橋剤を混合したゼラチン溶液を塗布し、その表面に、上記により構成された2層構造の多孔質体5の第1の層2の表面を密着させることにより、両者を接着する。これにより、多孔質フィルム4、第1の層2および第2の層3の3層構造からなる軟骨用移植材1を得ることができる。また、得られた軟骨用移植材を大量の温水で洗浄することにより、余分な架橋剤を除去することができる。
【0020】
次に、このようにして構成された本実施形態に係る軟骨用移植材1の作用について説明する。
本実施形態に係る軟骨用移植材1は、図2に示されるように、軟骨層Aから軟骨下骨Bまで達する欠損部Cに移植するためのものである。
【0021】
図2(a)に示されるように、第2の層3が、欠損部Cの底部Cに向かうようにして、欠損部C内に軟骨用移植材1を挿入する。これにより、図2(b)に示されるように、第2の層3が欠損部Cの軟骨下骨B部分に挿入され、第1の層2が、欠損部Cの軟骨層A部分に配置される。
【0022】
欠損部C内の軟骨層A部分においては、図3に示されるように、軟骨層Aから染み出した軟骨細胞Dが第1の層2内に浸透する。また、軟骨下骨Bから染み出してきた骨髄液Fが第2の層3を通り第1の層2内に浸透する。第1の層2の表面には多孔質フィルム4によって覆われているので、該多孔質フィルム4が蓋として機能し、第1の層2内に浸透した軟骨細胞Dおよび骨髄液Fに含有されている間葉系幹細胞は多孔質フィルム4を通過することができずに第1の層2内に留められる。一方、多孔質フィルム4には体液Eを通過させることができる大きさの気孔が設けられているので、多孔質フィルム4を貫通して体液Eが第1の層2内に浸透する。
【0023】
軟骨細胞Dおよび骨髄液Fが第1の層2内に浸透することで、第1の層2内においては軟骨組織の再生が行われ、多孔質フィルム4によって第1の層2からの軟骨細胞Dおよび骨髄液Fに含有されている間葉系幹細胞の漏出が防止されることで、第1の層2内に留められた軟骨細胞Dおよび間葉系幹細胞による軟骨組織の再生が維持される。さらに、多孔質フィルム4を介して第1の層2内に浸透した体液E内に含有されている成長因子、また骨髄液F内に含有されている成長因子等の作用によって軟骨組織の再生が促進される。
【0024】
また、欠損部C内の軟骨下骨B部分においては、図3に示されるように、軟骨下骨Bから染み出してきた骨髄液Fが第2の層3内に浸透する。第2の層3内にはリン酸カルシウム顆粒が含有されているので、骨髄液F内に含有されている間葉系幹細胞がリン酸カルシウム顆粒を足場として成長し、軟骨下骨B組織が再生される。これにより、軟骨下骨Bまで達する欠損部Cを簡易に修復することができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、3層構造からなる軟骨用移植材1を例示したが、これに代えて、図4に示されるように、生分解性高分子多孔質材料からなるブロック状の多孔質体5の一面に、上述した多孔質フィルム4が貼り付けられた2層構造の軟骨用移植材1を採用してもよい。
【0026】
このような2層構造の軟骨用移植材1は、軟骨下骨まで到達するように形成された欠損部にも適用可能であるが、図5(a)に示されるように、軟骨層Aのみに欠損部Cが形成されているような場合に好適である。上記軟骨用移植材1と同様に、図5(b)に示されるように、軟骨層Aから染み出してきた軟骨細胞Dが多孔質体5内に取り込まれるとともに、多孔質フィルム4によってその漏出が防止される。そして、多孔質フィルム4を介して多孔質体5内へ浸透してきた体液Eによって、軟骨組織の再生が促進される。
【0027】
また、本実施形態においては、再線維化コラーゲンと熱変性コラーゲンとを混合した生分解性高分子多孔質材料により多孔質体5を製造することとしたが、これに代えて、純水で膨潤させたゼラチンを50℃で溶解し、架橋剤を投入してミキサーにて攪拌し発泡させたものを用いて多孔質体5を製造することにしてもよい。
また、第1の層2と第2の層3を同一の生分解性高分子多孔質材料により製造することとしたが、これに代えて、異なる材料により構成してもよい。さらに、架橋剤により架橋させることで多孔質体5を構成することとしたが、これに代えて、架橋剤を加えることなく熱架橋により多孔質体5を製造することにしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
A 軟骨層
B 軟骨下骨
C 欠損部
底部
D 軟骨細胞
E 体液
F 骨髄液
1 軟骨用移植材
2 第1の層(生分解性高分子層)
3 第2の層(リン酸カルシウム含有層)
4 多孔質フィルム
5 多孔質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性高分子多孔質材料からなるブロック状の多孔質体と、その一表面を被覆する生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルムとを備え、
該多孔質フィルムの気孔径が、軟骨細胞および間葉系幹細胞の通過を禁止し、体液を通過可能な大きさを有する軟骨用移植材。
【請求項2】
前記多孔質フィルムの気孔径が、1μm未満である請求項1に記載の軟骨用移植材。
【請求項3】
前記多孔質体が、前記多孔質フィルムにより被覆された表面とは反対の表面側に、リン酸カルシウム顆粒が混合されたリン酸カルシウム含有層を備える請求項1または請求項2に記載の軟骨用移植材。
【請求項4】
前記多孔質体を構成する生分解性高分子多孔質材料が、アテロコラーゲンを再線維化させた再線維化コラーゲンと、アテロコラーゲンを熱変性させた熱変性コラーゲンとを混合し架橋させたものである請求項1に記載の軟骨用移植材。
【請求項5】
生分解性高分子多孔質材料からなる生分解性高分子層と、
該生分解性高分子層の一面側に配置され、リン酸カルシウム顆粒を含有する生分解性高分子多孔質材料からなるリン酸カルシウム含有層と、
前記生分解性高分子層の他面側に配置され、該生分解性高分子層より気孔率の小さい生分解性高分子多孔質材料からなる多孔質フィルムとを積層してなる軟骨用移植材。
【請求項6】
前記生分解性高分子層および前記リン酸カルシウム含有層を構成する生分解性高分子多孔質材料が、アテロコラーゲンを再線維化させた再線維化コラーゲンと、アテロコラーゲンを熱変性させた熱変性コラーゲンとを混合し架橋させたものである請求項5に記載の軟骨用移植材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78710(P2011−78710A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236264(P2009−236264)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(501393771)
【出願人】(507088026)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】