転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置
【課題】転がり抵抗を精度よく予測できる転がり抵抗予測方法を提供する。
【解決手段】転がり抵抗予測方法は、タイヤに含まれるゴム部材の粘弾性特性を試験により計測するステップS11と、ステップS11により得られた計測データからゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算するステップS12と、タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するステップS13と、作成されたタイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力をタイヤの転がり抵抗として計算するステップS14とを有する。ステップS13において、ステップS12で分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成する。
【解決手段】転がり抵抗予測方法は、タイヤに含まれるゴム部材の粘弾性特性を試験により計測するステップS11と、ステップS11により得られた計測データからゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算するステップS12と、タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するステップS13と、作成されたタイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力をタイヤの転がり抵抗として計算するステップS14とを有する。ステップS13において、ステップS12で分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化に寄与するために、転がり抵抗の小さいタイヤの開発が活発である。タイヤの開発を効率化するには、有限要素法(FEM)等のシミュレーションが有効である。このようなシミュレーションにより、タイヤの製造や走行試験を行わなくても、新たに設計したタイヤの転がり抵抗の予測・評価が可能になってきている。
【0003】
タイヤの転がり抵抗の発生原因は、タイヤと路面との摩擦や空気抵抗によるものがあるが、通常走行時においてはタイヤが転動する際の変形により発生するヒステリシスロスの影響が最も大きいとされている。
【0004】
有限要素法を用いたシミュレーションでは、タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルに対し、各要素に密度や弾性率などの材料定数を与え、タイヤモデルに内圧や荷重などの境界条件を与えて各要素の変形解析を行い、転がり抵抗を計算する(特許文献1,2、及び非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1,2、及び非特許文献1に記載の手法では、以下の手順で転がり抵抗を計算する。
【0006】
ステップAにおいて、トレッド部などのゴム部材、及びビードコアを3次元ソリッド要素でモデル化し、カーカスやベルトなどの繊維複合体を膜要素としたタイヤモデルを作成する。ここで、トレッド部と対応する要素には、弾性体としての材料定数が設定される。
【0007】
ステップBにおいて、路面を平坦な剛表面要素によってモデル化した路面モデル上に、ステップAで作成されたタイヤモデルを転動させることなく接地させ、変形したタイヤモデル中のトレッド部と対応する要素に生じる歪量を計算する。
【0008】
ステップCにおいて、ステップBで計算された歪量のタイヤ周方向分布を求め、この歪み分布からタイヤ1回転分の歪みの履歴を計算し、歪みの履歴からエネルギーロスを計算してその結果を転がり抵抗とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−118328号公報
【特許文献2】特開2005−186900号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Luchini;“Tire Rolling Loss Computation with the Finite Element Method” Tire Science Technology,Vol.22,4,(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の転がり抵抗予測方法では、ステップBにおいて、タイヤのゴム部材を弾性体とみなし、粘性が反映されていないタイヤモデルを使用する。このため、転がり抵抗によりタイヤの接地面が進行方向後方に変位する挙動を解析できない。従って、従来の転がり抵抗予測方法は、解析精度が十分ではなく、転がり抵抗を予測する精度が低いという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、転がり抵抗を精度よく予測できる転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法であって、前記タイヤに含まれるゴム部材(トレッド部11aやサイド部11b)の粘弾性特性を試験により計測する計測ステップ(ステップS11)と、前記計測ステップにより得られた計測データから前記ゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算する粘弾性係数計算ステップ(ステップS12)と、前記タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップ(ステップS13)と、前記タイヤモデル作成ステップにおいて作成された前記タイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力を前記タイヤの転がり抵抗として計算する転がり抵抗計算ステップ(ステップS14)とを有し、前記タイヤモデル作成ステップにおいて、前記粘弾性係数計算ステップで前記分数階微分モデルにより近似された前記粘弾性係数を前記ゴム部材と対応する要素に設定して前記タイヤモデルを作成することを要旨とする。
【0014】
このような特徴によれば、分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成することによって、粘性が反映されたタイヤモデルを使用した転動解析が可能になるため、転がり抵抗を予測する精度を改善できる。また、分数階微分モデルは、古典的モデルと比較して、高精度なモデルを構成できるとともに、少ないパラーメータで粘弾性特性を近似できるため、転がり抵抗を予測する精度を改善でき、且つ転がり抵抗の予測に要する時間の増加を抑制できる。
【0015】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップは、前記粘弾性係数計算ステップにより得られた粘弾性係数を積分する積分ステップを有し、前記積分ステップにおいて、前記タイヤの1回転分の時間積分を行うことを要旨とする。
【0016】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は第2の特徴に係り、前記路面モデルは、前記タイヤに接して、相対的に回転するドラムをモデル化した解析モデルであることを要旨とする。
【0017】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1〜第3の何れかの特徴に係り、粘弾性試験により歪の量及び周波数の各種範囲でゴム部材の粘弾性特性を予め計測して計測データを記憶する記憶ステップをさらに有し、前記粘弾性係数計算ステップにおいて、前記記憶ステップにより記憶された計測データから前記粘弾性係数を計算することを要旨とする。
【0018】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1〜第4の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、前記タイヤモデルを速度一定の条件下で前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを要旨とする。
【0019】
本発明の第6の特徴は、本発明の第1〜第4の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、初期速度から転がり抵抗により速度低下する条件下で前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを要旨とする。
【0020】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1〜第6の何れかの特徴に係り、前記タイヤモデル作成ステップにおいて、モデル化されたトレッドパターンを有する前記タイヤモデルを作成することを要旨とする。
【0021】
本発明の第8の特徴は、本発明の第1〜第7の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、モデル化されたホイールを前記タイヤモデルに組み付けた状態で解析を行うことを要旨とする。
【0022】
本発明の第9の特徴は、本発明の第1〜第8の何れかの特徴に係り、前記ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデルを用いた転動解析によって、前記タイヤの温度を解析する温度解析ステップ(ステップS10)をさらに有し、前記計測ステップにおいて、前記温度解析ステップで得られた温度条件に従って前記ゴム部材の粘弾性特性を計測することを要旨とする。
【0023】
本発明の第10の特徴は、本発明の第1〜9の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法を実行する転がり抵抗予測装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、転がり抵抗を精度よく予測できる転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測装置としてのコンピュータを示す概略図である。
【図2】図2(a)は、第1実施形態に係るタイヤモデルの概要を示す図であり、図2(b)は、第1実施形態に係るタイヤモデルの断面図である。
【図3】第1実施形態に係るタイヤモデル作成方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係る、タイヤトレッド部の要素に発生する歪み6成分の時間変化を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る、歪の振幅及び周波数を求める方法を示す図である。
【図6】図6(a)はMaxellモデルを示す図であり、図6(b)は古典的標準モデルを示す図であり、図6(c)は古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルを示す図である。
【図7】古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでの複素弾性率の周波数依存性結果の一例を示す図である(Jones, D.I.G., 粘弾性ダンピング技術ハンドブック, 丸善, 平成15年, P54より)。
【図8】第3実施形態に係る路面モデルを説明するための図である。
【図9】タイヤサイド部の要素に発生する歪み6成分の時間変化を示す図である。
【図10】第7実施形態に係るタイヤモデルを示す図である。
【図11】第7実施形態に係るタイヤモデルを示す図である。
【図12】第8実施形態に係る、ホイールに組み付けた状態のタイヤモデルの断面図である。
【図13】第8実施形態に係る、タイヤをホイールに組み付ける解析を行ったときの、タイヤビード部の歪及び応力の発生状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面を参照して、本発明の第1実施形態〜第9実施形態、及びその他の実施形態を説明する。以下、各実施形態における図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付す。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0027】
[転がり抵抗予測装置]
まず、第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測装置について説明する。図1は、当該転がり抵抗予測装置としてのコンピュータ300を示す概略図である。
【0028】
図1に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリやハードディスク等の記憶部(不図示)、CPU等の処理部(不図示)を有する本体部310と、キーボードやマウス等の入力部320と、液晶モニタ等の表示部330とを備える。
【0029】
コンピュータ300は、第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測プログラムを実行する。例えば、コンピュータ300は、転がり抵抗予測プログラムを記録した外部記憶媒体から転がり抵抗予測プログラムを読み出して実行してもよい。あるいは、コンピュータ300の記憶部に格納(インストール)された転がり抵抗予測プログラムを読み出して実行してもよい。コンピュータ300は、ネットワークを介して転がり抵抗予測プログラムを取得して実行してもよい。
【0030】
[第1実施形態]
以下において、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法について、(1)タイヤモデル、(2)処理フロー、(3)粘弾性係数の計算、(4)第1実施形態の効果の順に説明する。
【0031】
(1)タイヤモデル
図2(a)は、第1実施形態に係るタイヤモデル10の概要を示す図であり、図2(b)は、第1実施形態に係るタイヤモデル10の断面図である。タイヤモデル10は、有限要素法に従った要素分割(メッシュ分割)によって、タイヤを複数の要素の集合体としてモデル化したものであり、コンピュータ300が数値解析可能なデータである。
【0032】
図2(a)及び図2(b)に示すように、タイヤモデル10は、トレッド部11aやサイド部11bなどのゴム部材とビードワイヤ11rとをソリッド要素でモデル化し、ベルト11pやカーカスプライ11q等の補強部材はシェル要素でモデル化されている。なお、ベルト11pやカーカスプライ11q等の補強部材を膜要素又はリバー要素でモデル化することも可能である。ビードワイヤ11rは、複数本のスチールコード全体を含むソリッド要素でモデル化されているが、各スチールコードを個別にソリッド要素、リバー要素、又はビーム要素でモデル化することも可能である。第1実施形態においては、タイヤモデル10は、タイヤ周方向に沿う溝のみがトレッドパターンとしてモデル化されている。ホイールについてはタイヤビード部に接するホイールリム部のみがモデル化されているが、車軸に接続されるディスク部についてもモデル化することは可能である。一方、路面モデル20は、平坦な剛体シェル要素で路面をモデル化したり、実際の路面の凹凸もモデル化したりすることも可能である。
【0033】
(2)処理フロー
次に、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法の処理フローについて説明する。図3は、第1実施形態に係るタイヤモデル作成方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS10において、コンピュータ300は、ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデル10を作成し、仮のタイヤモデル10を路面モデル上で転動させる転動解析を行い、仮のタイヤモデル10の各ゴム要素に発生する歪波形(時系列波形)を求める。なお、仮のタイヤモデル10には粘性が設定されていないため、前後力は0になる。トレッド部ゴムの要素に発生する歪み6成分の時間変化を図4に示す。図4に示すように、歪成分により、振幅及びその周期が異なっていることがわかる。
【0035】
ゴム部材の粘弾性特性は、歪の振幅及び周波数と温度とで変化する。そこで、実際のタイヤ転がり抵抗を精度よく解析するためには、タイヤ転動中の各要素に、その歪の振幅及び周波数と温度とに応じた粘弾性特性を与える必要がある。定常回転状態においては、タイヤの温度は定常値になっているので、この定常温度でのゴム部材の粘弾性特性をゴム材料試験にて計測すればよい。歪の振幅及び周波数については予測することが困難であるので、ゴム部材を弾性体と見なした仮のタイヤモデル10を用いた転動解析により、歪の振幅及び周波数を求め、この歪の振幅及び周波数を試験条件とする。図5は、歪の振幅及び周波数を求める方法を示す図である。歪の各成分の時間波形から、歪波形の最大振幅を求めてこれを歪の振幅とし、その立ち上がりから立ち下がりまでの時間である歪周期を求め、この歪周期の逆数を歪み周波数とし、この求められた歪の振幅及び周波数におけるゴム部材の粘弾性特性を計測する。
【0036】
ステップS11において、ステップS10で求められた歪の振幅及び周波数でゴム部材の粘弾性試験を実施し、ゴム部材の粘弾性特性を計測する。ゴム部材の粘弾性特性試験をせん断入力と引張り入力の双方で行う場合、それぞれの歪みについてタイヤ内部での歪み振幅及び周波数を求めて試験に利用できる。どちらか片方の試験のみ行う場合は、歪み6成分のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、歪み6成分の中で最大の歪み振幅を持つものの歪み振幅及び周波数を用いたり、転がり抵抗に大きな影響を与えるせん断歪み3成分のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、せん断歪み3成分の中で最大の歪み振幅を持つものの歪み振幅及び周波数を用いたりできる。また、応力成分に対して上記と同様の判断を行い、この応力成分に対する歪み成分で試験を行うことも可能である。さらに、主歪を算出し、絶対値の一番大きい主歪のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、主歪3成分の平均、主歪2成分の平均からタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を求めて試験に使うことも可能である。同様に主応力に関しても主歪と同様なことが行える。
【0037】
ステップS12において、コンピュータ300は、ステップS12により得られた計測データからゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数(複素弾性率)を計算する。粘弾性係数を計算する処理の詳細については後述する。
【0038】
ステップS13において、コンピュータ300は、ステップS12で計算された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定して仮のタイヤモデル10を再構築し、新たなタイヤモデル10を作成する。これにより、ゴム部材の粘性が考慮されたタイヤモデル10が作成される。
【0039】
ステップS14において、コンピュータ300は、ステップS13で作成されたタイヤモデル10を用いて、ステップS10と同様の転動解析を行って前後力を求めて転がり抵抗とする。新たに作成されたタイヤモデル10ではゴム部材の粘性が考慮されているので、前後力、すなわち、転がり抵抗が発生し、接地面が進行方向後ろに変位する。したがって、変位を与える力である前後力の値を転がり抵抗とすれば、転がり抵抗を精度よく求めることができる。
【0040】
なお、タイヤモデル10を転動させる方法としては、車軸周りにタイヤ、ホイールが自由に回転するように境界条件を設定したり、ジョイント要素を使う等のモデル作成を行い、路面または車軸のどちらか一方を固定し、もう一方をタイヤ前後方向に並行移動させることで解析できる。更には、タイヤにスリップ角やキャンバー角を付与したり、タイヤにスリップ角やキャンバー角がついたように路面モデルを移動させることも可能である。
【0041】
(3)粘弾性係数の計算
次に、ステップS12における粘弾性係数の計算処理について説明する。ステップS12においては、ステップS11における周波数変動型の試験により得られた計測データから、分数階微分モデルにより粘弾性係数としての複素弾性率を計算する。以下において、古典的モデルを説明した後に、本実施形態に係る分数階微分モデルについて説明する。
【0042】
(3.1)古典的モデル
第1に、古典的モデルの一つであるMaxellモデルを図6(a)に示す。Maxellモデルでは、ダッシュポット要素c1とばね要素k1とが直列に結合されている。Maxellモデルでは複素弾性率は下記の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0043】
第2に、古典的標準モデルを図6(b)に示す。古典的標準モデルでは、ダッシュポット要素c1とばね要素k1との直列結合に対してばね要素k2が並列に結合されている。古典的標準モデルでは複素弾性率は下記の式(2)で表すことができる。
【数2】
【0044】
第3に、古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルを図6(c)に示す。古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでは複素弾性率は下記の式(3)で表すことができる。
【数3】
【0045】
古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでの複素弾性率の周波数依存性結果の一例を図7に示す。
【0046】
図6(a)に示すMaxellモデルや図6(b)に示す古典的標準モデルでは、実際に用いられる粘弾性体の力学的挙動を高精度に表現するモデルを構成することは難しい。一方、古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルは、粘弾性体の力学的挙動を高精度に表現するモデルを構成できたとしても、その後の扱いが煩雑となり、モデル構成に要する時間も増加するために、所望の解を得るために多大の計算時間を要してしまう。
【0047】
(3.2)分数階微分モデル
次に、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法で使用する分数階微分モデルについて説明する。分数階微分モデルを用いた場合、応力と歪の関係は下記の式(4)になる。
【数4】
【0048】
ここで、τはせん断応力、γはせん断歪みをそれぞれ表し、(t)は時間依存性を考慮することを表している。また、dβτ(t)/dtβは、τ(t)に対するβ次の分数階微分であり、下記の式(5)で表すことができる。
【数5】
【0049】
式(5)中のβ、a1、b1,c1は、試験データから得られる材料定数である。
式(5)にγ(t)=γ0eiωt、τ(t)=τ0eiωtを代入すると、下記の式(6)になる。
【数6】
【0050】
複素弾性率は、下記の式(7)になる。
【数7】
【0051】
分数階微分モデルは、古典的標準モデルより少ないパラーメータで材料特性を近似できるので、モデル作成が容易であり、高精度な転がり抵抗を解析できる。
【0052】
(4)第1実施形態の効果
以上説明したように、第1実施形態によれば、ステップS13において、分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数(複素弾性率)をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成する。これにより、粘性が反映されたタイヤモデルを使用した転動解析が可能になるため、転がり抵抗を予測する精度を改善できる。また、分数階微分モデルは、古典的モデルと比較して、高精度なモデルを構成できるとともに、少ないパラーメータで粘弾性特性を近似できる。従って、転がり抵抗を予測する精度を改善でき、且つ転がり抵抗の予測に要する時間の増加を抑制できる。
【0053】
また、第1実施形態では、ステップS11において、ゴム部材を弾性体と見なしたときの歪の振幅及び周波数に基づいてゴム部材の粘弾性試験を実施するので、効率よく粘弾性試験を実施でき、解析効率を向上させることができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の第2実施形態〜第9実施形態では、第1実施形態との相違点について説明する。
【0055】
第1実施形態の式(5)で示したように、分数階微分の定義式では、積分が時刻0から現在の時刻tまでになっている。これは数学的には過去の履歴を全て考慮する必要があることを示している。
【0056】
工学への適用を考える場合、過去の履歴を全て考慮すると解析コストが非常に高くなることから、十分な解析精度を確保した上で、有る程度の限られた時間内を積分することが求められる。タイヤ各部の応力及び歪の履歴に着目すると、タイヤ1回転で1サイクルの変動をしている。このため、第1実施形態で説明したステップS14において、タイヤ1回転分の積分を行えば、解析精度を損なうことなく、短い履歴データで解析できる。その結果、データ保存容量を削減でき、また短い時間で解析できる。
【0057】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
【0058】
一般に、実タイヤの転がり抵抗計測は、タイヤに接して相対的に回転するドラム上でタイヤを転動させて行なわれており、ドラム上では、その曲率のため、タイヤ接地部のタイヤ周方向長さが、平坦路面の場合のタイヤ周方向長さとは異なる。接地部の長さが相違すると、タイヤ各部、特に、トレッドゴム部の応力、歪の振幅及び周波数に影響を及ぼす。
【0059】
そこで、第3実施形態では、ドラム上で計測した転がり抵抗値を精度よく予測するため、路面モデルとして、図8に示すように、タイヤ転動試験に用いられているドラムをモデル化した解析モデルを路面モデル20Aとして使用する。このような路面モデル20A上でタイヤモデル10を転動させて数値解析するようにすれば、転がり抵抗の予測精度を更に向上させることができる。
【0060】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。
【0061】
図9に、タイヤサイド部の要素での歪みの時間変化を示す。第1実施形態で説明したトレッド部の要素の歪みの時間変化(図4参照)と比べて大きく異なっていることがわかる。このようにタイヤ各部で、応力と歪みの振幅及び周波数とは異なっている。これらを全て同じ条件にて各ゴム部材の粘弾性特性試験を実施すると非常に多くの計測を実施する必要がある。
【0062】
そこで、第4実施形態では、ゴム部材の粘弾性特性試験はあらかじめ決められた様々案な歪み振幅及び周波数の範囲で実施して計測データを記憶しておき、ステップS10の結果に対して一番近い粘弾性特性を用いてステップS12へ進むことで、材料試験量を減らし、より効率よく解析が行える。この場合、近い粘弾性特性試験結果を補間してより精度を向上することもできる。
【0063】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明する。
【0064】
第1実施形態のステップS14における転動解析では、ゴム部材の粘性を考慮しているため、タイヤ転動時に前後方向に進行を抑制する方向に力が働く。このため、タイヤ転動時に前後方向に進行を抑制する力が働くため、初期速度を与えた解析を行うと、ゴム物性、構造、形状、パターンなどの異なるタイヤでは、速度が異なってしまい、精度のよい比較ができなくなる恐れがある。したがって、ステップS14において、タイヤモデル10を速度一定の条件下で路面モデル上で転動させる解析を行えば、精度の高い解析を行うことができる。
【0065】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明する。
【0066】
タイヤの転がり抵抗は、色々な速度条件下で必要である。速度条件が異なる場合の転がり抵抗を予測するためには、一定速度にてタイヤが転動する解析を複数回繰返し行う必要がある。
【0067】
そこで、第6実施形態では、求めたい速度で最も速い速度を初期速度とし、転がり抵抗にて減速する解析(惰行解析)を行う。これにより、連続した速度条件での転がり抵抗を容易に求めることができるので、各速度における転がり抵抗を、更に効率よく予測できる。また、転がり抵抗の小さなタイヤについては、擬似的にブレーキを付加して早くさせることも可能である。このブレーキ力は、実タイヤで発生する空気抵抗やドラムや実車などの試験機各部の回転摩擦抵抗分と同じ程度の大きさにすることが望ましい。
【0068】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態について説明する。
【0069】
第1実施形態では、タイヤ周方向に対して同じ要素が並んでいるモデルを採用したが、ブロックパターンを有するタイヤなどでは、トレッドゴムが周方向に連続していないので、トレッドパターンを考慮してモデル化する必要がある。
【0070】
図10に、トレッドパターンのあるタイヤをモデル化したタイヤモデル10Aを示す。それぞれのトレッドブロック内部では、応力、歪の時刻履歴が異なる。すなわち、図11(a)に示すように、タイヤ転動に伴いトレッドブロックにはせん断と曲げ変形が発生し、この変形はトレッドブロック内の位置、具体的には、踏込み側に位置する要素11mと蹴り出し側に位置する要素11nとで異なる変化を示す。図11(b)に示すように、歪の時刻履歴を比較すると、踏込み側に位置する要素11mでは、踏み込み時に大きな歪が生じるが、蹴り出し側に位置する要素11nでは踏み込み時よりも蹴り出し時の歪の方が大きくなる。
【0071】
したがって、タイヤモデル10Aのように、トレッドパターンを考慮してモデル化するようにすれば、トレッドパターンブロック内部のそれぞれの場所での応力と歪を考慮できるので、転がり抵抗を更に精度よく予測できる。
【0072】
[第8実施形態]
次に、第8実施形態について説明する。
【0073】
第8実施形態では、図12に示すように、タイヤモデル10は、タイヤビード部11sがホイールリム部15とに接するように組み付けた状態をモデル化している。タイヤモデル10をホイールのモデルに組み付ける解析を行って、図13に示すように、大きな歪や応力が発生している部分が濃くなるように表示すると、タイヤビード部11kのホイールリム部15に接している部分で大きな歪や応力が発生していることがわかる。
【0074】
したがって、タイヤをホイールに組み付ける解析を予め行って、予め歪や応力を与えたタイヤモデル10を作成し、このタイヤモデル10を用いて解析するようにすれば、転がり抵抗を更に精度よく予測できる。
【0075】
[第9実施形態]
次に、第9実施形態について説明する。
【0076】
第1実施形態では、タイヤが定常状態にありタイヤ各部の温度は一定であるとして解析した。しかしながら、タイヤの転動に伴うゴムの粘弾性による発熱は、空気やホイールに伝熱する際、一定速度で転動した場合でも、発熱と伝熱のバランスの取れた状態で各部は定常温度になる。すなわち、タイヤは、温度分布を有する。
【0077】
したがって、第9実施形態では、ゴム部材に粘弾性を与えることにより、タイヤ各部での定常状態での温度分布を予測できるので、この温度分布に基づいて、ゴム部材の各要素の粘弾性特性を、当該温度の粘弾性特性に置換える。これにより、より精度の高い粘弾性特性を与えることができ、ひいては、より精度のよい転がり定数を予測できる。なお、当該温度の粘弾性特性は、ステップS12の粘弾性特性試験において、温度を変えて行えばよい。
【0078】
[実施例]
次に、上述した各実施形態に係るタイヤモデル作成方法により得られる効果を実施例を挙げて説明する。
【0079】
本実施例では、タイヤサイズがPSR195/65R15のタイヤのタイヤモデルを作成して転動解析を行った。ドラム試験機(外径1.7m、スムーススチール)で時速80kmでの転がり抵抗をISO 8767に則り実測した転がり抵抗と比較した。タイヤ内圧は210kPaであり、荷重は4.41kNであり、リム巾は6.5Jである。比較結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1において、従来例は、トレッドパターンなしの弾性モデルで転動解析して応力と歪量を求め、これに粘弾性特性を考慮して転がり抵抗を予測したものである。比較例は、Maxellモデルを用いて粘弾性特性を近似して作成したタイヤモデルにより転動解析を行ったものである。新手法1は、第2実施形態により転がり抵抗を予測したものである。新手法2は、第5実施形態により転がり抵抗を予測したものである。新手法2は、第2実施形態及び第6実施形態(トレッドパターン付き)により転がり抵抗を予測したものである。新手法3は、第5実施形態及び第7実施形態(ホイール組み付け付き)により転がり抵抗を予測したものである。なお、結果はいずれも、実測の転がり抵抗値を100とした指数で示した。指数が100に近いほど実測に近い予測値が得られており、良好な結果であることを意味する。
【0081】
表1から明らかなように、上述した各実施形態に係る転がり抵抗予測方法は、従来の手法、及びMaxellモデルを利用する手法に比較して、精度のよい転がり抵抗の予測を行うことができることが確認された。
【0082】
[その他の実施形態]
このように、本発明は各実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。例えば、上述した第1実施形態〜第9実施形態は、別個独立に実施する場合に限らず、互いに組み合わせて実施可能である。このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含する。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0083】
10,10A…タイヤモデル、11a…トレッド部、11b…サイド部、11k…タイヤビード部、11p…ベルト、11q…カーカスプライ、11r…ビードワイヤ、11s…タイヤビード部、12…ホイールリム部、20,20A…路面モデル、300…コンピュータ、310…本体部、320…入力部、330…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化に寄与するために、転がり抵抗の小さいタイヤの開発が活発である。タイヤの開発を効率化するには、有限要素法(FEM)等のシミュレーションが有効である。このようなシミュレーションにより、タイヤの製造や走行試験を行わなくても、新たに設計したタイヤの転がり抵抗の予測・評価が可能になってきている。
【0003】
タイヤの転がり抵抗の発生原因は、タイヤと路面との摩擦や空気抵抗によるものがあるが、通常走行時においてはタイヤが転動する際の変形により発生するヒステリシスロスの影響が最も大きいとされている。
【0004】
有限要素法を用いたシミュレーションでは、タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルに対し、各要素に密度や弾性率などの材料定数を与え、タイヤモデルに内圧や荷重などの境界条件を与えて各要素の変形解析を行い、転がり抵抗を計算する(特許文献1,2、及び非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1,2、及び非特許文献1に記載の手法では、以下の手順で転がり抵抗を計算する。
【0006】
ステップAにおいて、トレッド部などのゴム部材、及びビードコアを3次元ソリッド要素でモデル化し、カーカスやベルトなどの繊維複合体を膜要素としたタイヤモデルを作成する。ここで、トレッド部と対応する要素には、弾性体としての材料定数が設定される。
【0007】
ステップBにおいて、路面を平坦な剛表面要素によってモデル化した路面モデル上に、ステップAで作成されたタイヤモデルを転動させることなく接地させ、変形したタイヤモデル中のトレッド部と対応する要素に生じる歪量を計算する。
【0008】
ステップCにおいて、ステップBで計算された歪量のタイヤ周方向分布を求め、この歪み分布からタイヤ1回転分の歪みの履歴を計算し、歪みの履歴からエネルギーロスを計算してその結果を転がり抵抗とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−118328号公報
【特許文献2】特開2005−186900号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Luchini;“Tire Rolling Loss Computation with the Finite Element Method” Tire Science Technology,Vol.22,4,(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の転がり抵抗予測方法では、ステップBにおいて、タイヤのゴム部材を弾性体とみなし、粘性が反映されていないタイヤモデルを使用する。このため、転がり抵抗によりタイヤの接地面が進行方向後方に変位する挙動を解析できない。従って、従来の転がり抵抗予測方法は、解析精度が十分ではなく、転がり抵抗を予測する精度が低いという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、転がり抵抗を精度よく予測できる転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法であって、前記タイヤに含まれるゴム部材(トレッド部11aやサイド部11b)の粘弾性特性を試験により計測する計測ステップ(ステップS11)と、前記計測ステップにより得られた計測データから前記ゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算する粘弾性係数計算ステップ(ステップS12)と、前記タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップ(ステップS13)と、前記タイヤモデル作成ステップにおいて作成された前記タイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力を前記タイヤの転がり抵抗として計算する転がり抵抗計算ステップ(ステップS14)とを有し、前記タイヤモデル作成ステップにおいて、前記粘弾性係数計算ステップで前記分数階微分モデルにより近似された前記粘弾性係数を前記ゴム部材と対応する要素に設定して前記タイヤモデルを作成することを要旨とする。
【0014】
このような特徴によれば、分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成することによって、粘性が反映されたタイヤモデルを使用した転動解析が可能になるため、転がり抵抗を予測する精度を改善できる。また、分数階微分モデルは、古典的モデルと比較して、高精度なモデルを構成できるとともに、少ないパラーメータで粘弾性特性を近似できるため、転がり抵抗を予測する精度を改善でき、且つ転がり抵抗の予測に要する時間の増加を抑制できる。
【0015】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップは、前記粘弾性係数計算ステップにより得られた粘弾性係数を積分する積分ステップを有し、前記積分ステップにおいて、前記タイヤの1回転分の時間積分を行うことを要旨とする。
【0016】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は第2の特徴に係り、前記路面モデルは、前記タイヤに接して、相対的に回転するドラムをモデル化した解析モデルであることを要旨とする。
【0017】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1〜第3の何れかの特徴に係り、粘弾性試験により歪の量及び周波数の各種範囲でゴム部材の粘弾性特性を予め計測して計測データを記憶する記憶ステップをさらに有し、前記粘弾性係数計算ステップにおいて、前記記憶ステップにより記憶された計測データから前記粘弾性係数を計算することを要旨とする。
【0018】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1〜第4の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、前記タイヤモデルを速度一定の条件下で前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを要旨とする。
【0019】
本発明の第6の特徴は、本発明の第1〜第4の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、初期速度から転がり抵抗により速度低下する条件下で前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを要旨とする。
【0020】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1〜第6の何れかの特徴に係り、前記タイヤモデル作成ステップにおいて、モデル化されたトレッドパターンを有する前記タイヤモデルを作成することを要旨とする。
【0021】
本発明の第8の特徴は、本発明の第1〜第7の何れかの特徴に係り、前記転がり抵抗計算ステップにおいて、モデル化されたホイールを前記タイヤモデルに組み付けた状態で解析を行うことを要旨とする。
【0022】
本発明の第9の特徴は、本発明の第1〜第8の何れかの特徴に係り、前記ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデルを用いた転動解析によって、前記タイヤの温度を解析する温度解析ステップ(ステップS10)をさらに有し、前記計測ステップにおいて、前記温度解析ステップで得られた温度条件に従って前記ゴム部材の粘弾性特性を計測することを要旨とする。
【0023】
本発明の第10の特徴は、本発明の第1〜9の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法を実行する転がり抵抗予測装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、転がり抵抗を精度よく予測できる転がり抵抗予測方法及び転がり抵抗予測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測装置としてのコンピュータを示す概略図である。
【図2】図2(a)は、第1実施形態に係るタイヤモデルの概要を示す図であり、図2(b)は、第1実施形態に係るタイヤモデルの断面図である。
【図3】第1実施形態に係るタイヤモデル作成方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係る、タイヤトレッド部の要素に発生する歪み6成分の時間変化を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る、歪の振幅及び周波数を求める方法を示す図である。
【図6】図6(a)はMaxellモデルを示す図であり、図6(b)は古典的標準モデルを示す図であり、図6(c)は古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルを示す図である。
【図7】古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでの複素弾性率の周波数依存性結果の一例を示す図である(Jones, D.I.G., 粘弾性ダンピング技術ハンドブック, 丸善, 平成15年, P54より)。
【図8】第3実施形態に係る路面モデルを説明するための図である。
【図9】タイヤサイド部の要素に発生する歪み6成分の時間変化を示す図である。
【図10】第7実施形態に係るタイヤモデルを示す図である。
【図11】第7実施形態に係るタイヤモデルを示す図である。
【図12】第8実施形態に係る、ホイールに組み付けた状態のタイヤモデルの断面図である。
【図13】第8実施形態に係る、タイヤをホイールに組み付ける解析を行ったときの、タイヤビード部の歪及び応力の発生状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面を参照して、本発明の第1実施形態〜第9実施形態、及びその他の実施形態を説明する。以下、各実施形態における図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付す。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0027】
[転がり抵抗予測装置]
まず、第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測装置について説明する。図1は、当該転がり抵抗予測装置としてのコンピュータ300を示す概略図である。
【0028】
図1に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリやハードディスク等の記憶部(不図示)、CPU等の処理部(不図示)を有する本体部310と、キーボードやマウス等の入力部320と、液晶モニタ等の表示部330とを備える。
【0029】
コンピュータ300は、第1実施形態〜第9実施形態に係る転がり抵抗予測方法を実行するための転がり抵抗予測プログラムを実行する。例えば、コンピュータ300は、転がり抵抗予測プログラムを記録した外部記憶媒体から転がり抵抗予測プログラムを読み出して実行してもよい。あるいは、コンピュータ300の記憶部に格納(インストール)された転がり抵抗予測プログラムを読み出して実行してもよい。コンピュータ300は、ネットワークを介して転がり抵抗予測プログラムを取得して実行してもよい。
【0030】
[第1実施形態]
以下において、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法について、(1)タイヤモデル、(2)処理フロー、(3)粘弾性係数の計算、(4)第1実施形態の効果の順に説明する。
【0031】
(1)タイヤモデル
図2(a)は、第1実施形態に係るタイヤモデル10の概要を示す図であり、図2(b)は、第1実施形態に係るタイヤモデル10の断面図である。タイヤモデル10は、有限要素法に従った要素分割(メッシュ分割)によって、タイヤを複数の要素の集合体としてモデル化したものであり、コンピュータ300が数値解析可能なデータである。
【0032】
図2(a)及び図2(b)に示すように、タイヤモデル10は、トレッド部11aやサイド部11bなどのゴム部材とビードワイヤ11rとをソリッド要素でモデル化し、ベルト11pやカーカスプライ11q等の補強部材はシェル要素でモデル化されている。なお、ベルト11pやカーカスプライ11q等の補強部材を膜要素又はリバー要素でモデル化することも可能である。ビードワイヤ11rは、複数本のスチールコード全体を含むソリッド要素でモデル化されているが、各スチールコードを個別にソリッド要素、リバー要素、又はビーム要素でモデル化することも可能である。第1実施形態においては、タイヤモデル10は、タイヤ周方向に沿う溝のみがトレッドパターンとしてモデル化されている。ホイールについてはタイヤビード部に接するホイールリム部のみがモデル化されているが、車軸に接続されるディスク部についてもモデル化することは可能である。一方、路面モデル20は、平坦な剛体シェル要素で路面をモデル化したり、実際の路面の凹凸もモデル化したりすることも可能である。
【0033】
(2)処理フロー
次に、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法の処理フローについて説明する。図3は、第1実施形態に係るタイヤモデル作成方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS10において、コンピュータ300は、ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデル10を作成し、仮のタイヤモデル10を路面モデル上で転動させる転動解析を行い、仮のタイヤモデル10の各ゴム要素に発生する歪波形(時系列波形)を求める。なお、仮のタイヤモデル10には粘性が設定されていないため、前後力は0になる。トレッド部ゴムの要素に発生する歪み6成分の時間変化を図4に示す。図4に示すように、歪成分により、振幅及びその周期が異なっていることがわかる。
【0035】
ゴム部材の粘弾性特性は、歪の振幅及び周波数と温度とで変化する。そこで、実際のタイヤ転がり抵抗を精度よく解析するためには、タイヤ転動中の各要素に、その歪の振幅及び周波数と温度とに応じた粘弾性特性を与える必要がある。定常回転状態においては、タイヤの温度は定常値になっているので、この定常温度でのゴム部材の粘弾性特性をゴム材料試験にて計測すればよい。歪の振幅及び周波数については予測することが困難であるので、ゴム部材を弾性体と見なした仮のタイヤモデル10を用いた転動解析により、歪の振幅及び周波数を求め、この歪の振幅及び周波数を試験条件とする。図5は、歪の振幅及び周波数を求める方法を示す図である。歪の各成分の時間波形から、歪波形の最大振幅を求めてこれを歪の振幅とし、その立ち上がりから立ち下がりまでの時間である歪周期を求め、この歪周期の逆数を歪み周波数とし、この求められた歪の振幅及び周波数におけるゴム部材の粘弾性特性を計測する。
【0036】
ステップS11において、ステップS10で求められた歪の振幅及び周波数でゴム部材の粘弾性試験を実施し、ゴム部材の粘弾性特性を計測する。ゴム部材の粘弾性特性試験をせん断入力と引張り入力の双方で行う場合、それぞれの歪みについてタイヤ内部での歪み振幅及び周波数を求めて試験に利用できる。どちらか片方の試験のみ行う場合は、歪み6成分のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、歪み6成分の中で最大の歪み振幅を持つものの歪み振幅及び周波数を用いたり、転がり抵抗に大きな影響を与えるせん断歪み3成分のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、せん断歪み3成分の中で最大の歪み振幅を持つものの歪み振幅及び周波数を用いたりできる。また、応力成分に対して上記と同様の判断を行い、この応力成分に対する歪み成分で試験を行うことも可能である。さらに、主歪を算出し、絶対値の一番大きい主歪のタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を用いたり、主歪3成分の平均、主歪2成分の平均からタイヤ内部での歪み振幅及び周波数の平均値を求めて試験に使うことも可能である。同様に主応力に関しても主歪と同様なことが行える。
【0037】
ステップS12において、コンピュータ300は、ステップS12により得られた計測データからゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数(複素弾性率)を計算する。粘弾性係数を計算する処理の詳細については後述する。
【0038】
ステップS13において、コンピュータ300は、ステップS12で計算された粘弾性係数をゴム部材と対応する要素に設定して仮のタイヤモデル10を再構築し、新たなタイヤモデル10を作成する。これにより、ゴム部材の粘性が考慮されたタイヤモデル10が作成される。
【0039】
ステップS14において、コンピュータ300は、ステップS13で作成されたタイヤモデル10を用いて、ステップS10と同様の転動解析を行って前後力を求めて転がり抵抗とする。新たに作成されたタイヤモデル10ではゴム部材の粘性が考慮されているので、前後力、すなわち、転がり抵抗が発生し、接地面が進行方向後ろに変位する。したがって、変位を与える力である前後力の値を転がり抵抗とすれば、転がり抵抗を精度よく求めることができる。
【0040】
なお、タイヤモデル10を転動させる方法としては、車軸周りにタイヤ、ホイールが自由に回転するように境界条件を設定したり、ジョイント要素を使う等のモデル作成を行い、路面または車軸のどちらか一方を固定し、もう一方をタイヤ前後方向に並行移動させることで解析できる。更には、タイヤにスリップ角やキャンバー角を付与したり、タイヤにスリップ角やキャンバー角がついたように路面モデルを移動させることも可能である。
【0041】
(3)粘弾性係数の計算
次に、ステップS12における粘弾性係数の計算処理について説明する。ステップS12においては、ステップS11における周波数変動型の試験により得られた計測データから、分数階微分モデルにより粘弾性係数としての複素弾性率を計算する。以下において、古典的モデルを説明した後に、本実施形態に係る分数階微分モデルについて説明する。
【0042】
(3.1)古典的モデル
第1に、古典的モデルの一つであるMaxellモデルを図6(a)に示す。Maxellモデルでは、ダッシュポット要素c1とばね要素k1とが直列に結合されている。Maxellモデルでは複素弾性率は下記の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0043】
第2に、古典的標準モデルを図6(b)に示す。古典的標準モデルでは、ダッシュポット要素c1とばね要素k1との直列結合に対してばね要素k2が並列に結合されている。古典的標準モデルでは複素弾性率は下記の式(2)で表すことができる。
【数2】
【0044】
第3に、古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルを図6(c)に示す。古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでは複素弾性率は下記の式(3)で表すことができる。
【数3】
【0045】
古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルでの複素弾性率の周波数依存性結果の一例を図7に示す。
【0046】
図6(a)に示すMaxellモデルや図6(b)に示す古典的標準モデルでは、実際に用いられる粘弾性体の力学的挙動を高精度に表現するモデルを構成することは難しい。一方、古典的標準モデルを複数組み合わせたモデルは、粘弾性体の力学的挙動を高精度に表現するモデルを構成できたとしても、その後の扱いが煩雑となり、モデル構成に要する時間も増加するために、所望の解を得るために多大の計算時間を要してしまう。
【0047】
(3.2)分数階微分モデル
次に、第1実施形態に係る転がり抵抗予測方法で使用する分数階微分モデルについて説明する。分数階微分モデルを用いた場合、応力と歪の関係は下記の式(4)になる。
【数4】
【0048】
ここで、τはせん断応力、γはせん断歪みをそれぞれ表し、(t)は時間依存性を考慮することを表している。また、dβτ(t)/dtβは、τ(t)に対するβ次の分数階微分であり、下記の式(5)で表すことができる。
【数5】
【0049】
式(5)中のβ、a1、b1,c1は、試験データから得られる材料定数である。
式(5)にγ(t)=γ0eiωt、τ(t)=τ0eiωtを代入すると、下記の式(6)になる。
【数6】
【0050】
複素弾性率は、下記の式(7)になる。
【数7】
【0051】
分数階微分モデルは、古典的標準モデルより少ないパラーメータで材料特性を近似できるので、モデル作成が容易であり、高精度な転がり抵抗を解析できる。
【0052】
(4)第1実施形態の効果
以上説明したように、第1実施形態によれば、ステップS13において、分数階微分モデルにより近似された粘弾性係数(複素弾性率)をゴム部材と対応する要素に設定してタイヤモデルを作成する。これにより、粘性が反映されたタイヤモデルを使用した転動解析が可能になるため、転がり抵抗を予測する精度を改善できる。また、分数階微分モデルは、古典的モデルと比較して、高精度なモデルを構成できるとともに、少ないパラーメータで粘弾性特性を近似できる。従って、転がり抵抗を予測する精度を改善でき、且つ転がり抵抗の予測に要する時間の増加を抑制できる。
【0053】
また、第1実施形態では、ステップS11において、ゴム部材を弾性体と見なしたときの歪の振幅及び周波数に基づいてゴム部材の粘弾性試験を実施するので、効率よく粘弾性試験を実施でき、解析効率を向上させることができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の第2実施形態〜第9実施形態では、第1実施形態との相違点について説明する。
【0055】
第1実施形態の式(5)で示したように、分数階微分の定義式では、積分が時刻0から現在の時刻tまでになっている。これは数学的には過去の履歴を全て考慮する必要があることを示している。
【0056】
工学への適用を考える場合、過去の履歴を全て考慮すると解析コストが非常に高くなることから、十分な解析精度を確保した上で、有る程度の限られた時間内を積分することが求められる。タイヤ各部の応力及び歪の履歴に着目すると、タイヤ1回転で1サイクルの変動をしている。このため、第1実施形態で説明したステップS14において、タイヤ1回転分の積分を行えば、解析精度を損なうことなく、短い履歴データで解析できる。その結果、データ保存容量を削減でき、また短い時間で解析できる。
【0057】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
【0058】
一般に、実タイヤの転がり抵抗計測は、タイヤに接して相対的に回転するドラム上でタイヤを転動させて行なわれており、ドラム上では、その曲率のため、タイヤ接地部のタイヤ周方向長さが、平坦路面の場合のタイヤ周方向長さとは異なる。接地部の長さが相違すると、タイヤ各部、特に、トレッドゴム部の応力、歪の振幅及び周波数に影響を及ぼす。
【0059】
そこで、第3実施形態では、ドラム上で計測した転がり抵抗値を精度よく予測するため、路面モデルとして、図8に示すように、タイヤ転動試験に用いられているドラムをモデル化した解析モデルを路面モデル20Aとして使用する。このような路面モデル20A上でタイヤモデル10を転動させて数値解析するようにすれば、転がり抵抗の予測精度を更に向上させることができる。
【0060】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。
【0061】
図9に、タイヤサイド部の要素での歪みの時間変化を示す。第1実施形態で説明したトレッド部の要素の歪みの時間変化(図4参照)と比べて大きく異なっていることがわかる。このようにタイヤ各部で、応力と歪みの振幅及び周波数とは異なっている。これらを全て同じ条件にて各ゴム部材の粘弾性特性試験を実施すると非常に多くの計測を実施する必要がある。
【0062】
そこで、第4実施形態では、ゴム部材の粘弾性特性試験はあらかじめ決められた様々案な歪み振幅及び周波数の範囲で実施して計測データを記憶しておき、ステップS10の結果に対して一番近い粘弾性特性を用いてステップS12へ進むことで、材料試験量を減らし、より効率よく解析が行える。この場合、近い粘弾性特性試験結果を補間してより精度を向上することもできる。
【0063】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明する。
【0064】
第1実施形態のステップS14における転動解析では、ゴム部材の粘性を考慮しているため、タイヤ転動時に前後方向に進行を抑制する方向に力が働く。このため、タイヤ転動時に前後方向に進行を抑制する力が働くため、初期速度を与えた解析を行うと、ゴム物性、構造、形状、パターンなどの異なるタイヤでは、速度が異なってしまい、精度のよい比較ができなくなる恐れがある。したがって、ステップS14において、タイヤモデル10を速度一定の条件下で路面モデル上で転動させる解析を行えば、精度の高い解析を行うことができる。
【0065】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明する。
【0066】
タイヤの転がり抵抗は、色々な速度条件下で必要である。速度条件が異なる場合の転がり抵抗を予測するためには、一定速度にてタイヤが転動する解析を複数回繰返し行う必要がある。
【0067】
そこで、第6実施形態では、求めたい速度で最も速い速度を初期速度とし、転がり抵抗にて減速する解析(惰行解析)を行う。これにより、連続した速度条件での転がり抵抗を容易に求めることができるので、各速度における転がり抵抗を、更に効率よく予測できる。また、転がり抵抗の小さなタイヤについては、擬似的にブレーキを付加して早くさせることも可能である。このブレーキ力は、実タイヤで発生する空気抵抗やドラムや実車などの試験機各部の回転摩擦抵抗分と同じ程度の大きさにすることが望ましい。
【0068】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態について説明する。
【0069】
第1実施形態では、タイヤ周方向に対して同じ要素が並んでいるモデルを採用したが、ブロックパターンを有するタイヤなどでは、トレッドゴムが周方向に連続していないので、トレッドパターンを考慮してモデル化する必要がある。
【0070】
図10に、トレッドパターンのあるタイヤをモデル化したタイヤモデル10Aを示す。それぞれのトレッドブロック内部では、応力、歪の時刻履歴が異なる。すなわち、図11(a)に示すように、タイヤ転動に伴いトレッドブロックにはせん断と曲げ変形が発生し、この変形はトレッドブロック内の位置、具体的には、踏込み側に位置する要素11mと蹴り出し側に位置する要素11nとで異なる変化を示す。図11(b)に示すように、歪の時刻履歴を比較すると、踏込み側に位置する要素11mでは、踏み込み時に大きな歪が生じるが、蹴り出し側に位置する要素11nでは踏み込み時よりも蹴り出し時の歪の方が大きくなる。
【0071】
したがって、タイヤモデル10Aのように、トレッドパターンを考慮してモデル化するようにすれば、トレッドパターンブロック内部のそれぞれの場所での応力と歪を考慮できるので、転がり抵抗を更に精度よく予測できる。
【0072】
[第8実施形態]
次に、第8実施形態について説明する。
【0073】
第8実施形態では、図12に示すように、タイヤモデル10は、タイヤビード部11sがホイールリム部15とに接するように組み付けた状態をモデル化している。タイヤモデル10をホイールのモデルに組み付ける解析を行って、図13に示すように、大きな歪や応力が発生している部分が濃くなるように表示すると、タイヤビード部11kのホイールリム部15に接している部分で大きな歪や応力が発生していることがわかる。
【0074】
したがって、タイヤをホイールに組み付ける解析を予め行って、予め歪や応力を与えたタイヤモデル10を作成し、このタイヤモデル10を用いて解析するようにすれば、転がり抵抗を更に精度よく予測できる。
【0075】
[第9実施形態]
次に、第9実施形態について説明する。
【0076】
第1実施形態では、タイヤが定常状態にありタイヤ各部の温度は一定であるとして解析した。しかしながら、タイヤの転動に伴うゴムの粘弾性による発熱は、空気やホイールに伝熱する際、一定速度で転動した場合でも、発熱と伝熱のバランスの取れた状態で各部は定常温度になる。すなわち、タイヤは、温度分布を有する。
【0077】
したがって、第9実施形態では、ゴム部材に粘弾性を与えることにより、タイヤ各部での定常状態での温度分布を予測できるので、この温度分布に基づいて、ゴム部材の各要素の粘弾性特性を、当該温度の粘弾性特性に置換える。これにより、より精度の高い粘弾性特性を与えることができ、ひいては、より精度のよい転がり定数を予測できる。なお、当該温度の粘弾性特性は、ステップS12の粘弾性特性試験において、温度を変えて行えばよい。
【0078】
[実施例]
次に、上述した各実施形態に係るタイヤモデル作成方法により得られる効果を実施例を挙げて説明する。
【0079】
本実施例では、タイヤサイズがPSR195/65R15のタイヤのタイヤモデルを作成して転動解析を行った。ドラム試験機(外径1.7m、スムーススチール)で時速80kmでの転がり抵抗をISO 8767に則り実測した転がり抵抗と比較した。タイヤ内圧は210kPaであり、荷重は4.41kNであり、リム巾は6.5Jである。比較結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1において、従来例は、トレッドパターンなしの弾性モデルで転動解析して応力と歪量を求め、これに粘弾性特性を考慮して転がり抵抗を予測したものである。比較例は、Maxellモデルを用いて粘弾性特性を近似して作成したタイヤモデルにより転動解析を行ったものである。新手法1は、第2実施形態により転がり抵抗を予測したものである。新手法2は、第5実施形態により転がり抵抗を予測したものである。新手法2は、第2実施形態及び第6実施形態(トレッドパターン付き)により転がり抵抗を予測したものである。新手法3は、第5実施形態及び第7実施形態(ホイール組み付け付き)により転がり抵抗を予測したものである。なお、結果はいずれも、実測の転がり抵抗値を100とした指数で示した。指数が100に近いほど実測に近い予測値が得られており、良好な結果であることを意味する。
【0081】
表1から明らかなように、上述した各実施形態に係る転がり抵抗予測方法は、従来の手法、及びMaxellモデルを利用する手法に比較して、精度のよい転がり抵抗の予測を行うことができることが確認された。
【0082】
[その他の実施形態]
このように、本発明は各実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。例えば、上述した第1実施形態〜第9実施形態は、別個独立に実施する場合に限らず、互いに組み合わせて実施可能である。このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含する。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0083】
10,10A…タイヤモデル、11a…トレッド部、11b…サイド部、11k…タイヤビード部、11p…ベルト、11q…カーカスプライ、11r…ビードワイヤ、11s…タイヤビード部、12…ホイールリム部、20,20A…路面モデル、300…コンピュータ、310…本体部、320…入力部、330…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法であって、
前記タイヤに含まれるゴム部材の粘弾性特性を試験により計測する計測ステップと、
前記計測ステップにより得られた計測データから前記ゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算する粘弾性係数計算ステップと、
前記タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
前記タイヤモデル作成ステップにおいて作成された前記タイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力を前記タイヤの転がり抵抗として計算する転がり抵抗計算ステップとを有し、
前記タイヤモデル作成ステップにおいて、前記粘弾性係数計算ステップで前記分数階微分モデルにより近似された前記粘弾性係数を前記ゴム部材と対応する要素に設定して前記タイヤモデルを作成することを特徴とする転がり抵抗予測方法。
【請求項2】
前記転がり抵抗計算ステップは、前記粘弾性係数計算ステップにより得られた粘弾性係数を積分する積分ステップを有し、
前記積分ステップにおいて、前記タイヤの1回転分の時間積分を行うことを特徴とする請求項1に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項3】
前記路面モデルは、前記タイヤに接して、相対的に回転するドラムをモデル化した解析モデルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項4】
粘弾性試験により歪の量及び周波数の各種範囲でゴム部材の粘弾性特性を予め計測して計測データを記憶する記憶ステップをさらに有し、
前記粘弾性係数計算ステップにおいて、前記記憶ステップにより記憶された計測データから前記粘弾性係数を計算することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項5】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、前記タイヤモデルを速度一定の条件下で前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項6】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、初期速度から転がり抵抗により速度低下する条件下で前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項7】
前記タイヤモデル作成ステップにおいて、モデル化されたトレッドパターンを有する前記タイヤモデルを作成することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項8】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、モデル化されたホイールを前記タイヤモデルに組み付けた状態で解析を行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項9】
前記ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデルを用いた転動解析によって、前記タイヤの温度を解析する温度解析ステップをさらに有し、
前記計測ステップにおいて、前記温度解析ステップで得られた温度条件に従って前記ゴム部材の粘弾性特性を計測することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法を実行することを特徴とする転がり抵抗予測装置。
【請求項1】
タイヤの転がり抵抗を予測する転がり抵抗予測方法であって、
前記タイヤに含まれるゴム部材の粘弾性特性を試験により計測する計測ステップと、
前記計測ステップにより得られた計測データから前記ゴム部材の粘弾性特性を分数階微分モデルで近似して粘弾性係数を計算する粘弾性係数計算ステップと、
前記タイヤを複数の要素でモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
前記タイヤモデル作成ステップにおいて作成された前記タイヤモデルを路面モデル上で転動させる解析により、該タイヤモデルに発生する前後力を前記タイヤの転がり抵抗として計算する転がり抵抗計算ステップとを有し、
前記タイヤモデル作成ステップにおいて、前記粘弾性係数計算ステップで前記分数階微分モデルにより近似された前記粘弾性係数を前記ゴム部材と対応する要素に設定して前記タイヤモデルを作成することを特徴とする転がり抵抗予測方法。
【請求項2】
前記転がり抵抗計算ステップは、前記粘弾性係数計算ステップにより得られた粘弾性係数を積分する積分ステップを有し、
前記積分ステップにおいて、前記タイヤの1回転分の時間積分を行うことを特徴とする請求項1に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項3】
前記路面モデルは、前記タイヤに接して、相対的に回転するドラムをモデル化した解析モデルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項4】
粘弾性試験により歪の量及び周波数の各種範囲でゴム部材の粘弾性特性を予め計測して計測データを記憶する記憶ステップをさらに有し、
前記粘弾性係数計算ステップにおいて、前記記憶ステップにより記憶された計測データから前記粘弾性係数を計算することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項5】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、前記タイヤモデルを速度一定の条件下で前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項6】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、初期速度から転がり抵抗により速度低下する条件下で前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる解析を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項7】
前記タイヤモデル作成ステップにおいて、モデル化されたトレッドパターンを有する前記タイヤモデルを作成することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項8】
前記転がり抵抗計算ステップにおいて、モデル化されたホイールを前記タイヤモデルに組み付けた状態で解析を行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項9】
前記ゴム部材を弾性体としてモデル化した仮のタイヤモデルを用いた転動解析によって、前記タイヤの温度を解析する温度解析ステップをさらに有し、
前記計測ステップにおいて、前記温度解析ステップで得られた温度条件に従って前記ゴム部材の粘弾性特性を計測することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の転がり抵抗予測方法を実行することを特徴とする転がり抵抗予測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−226991(P2011−226991A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98981(P2010−98981)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
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