説明

転がり軸受装置

【課題】 適切な量のグリースを適切な時期に軸受外部から供給可能とした転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 潤滑剤23がグリース35に磁性粒子36が混入されたものとされている。磁性粒子36を潤滑剤保持部21内に留めるための磁界を発生することで潤滑剤23の転がり軸受11への移動量を調整する磁界発生手段24が設けられている。潤滑剤23中の磁性粒子36を除去してグリース35だけを転がり軸受11側に通過させるフィルタ25が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受装置に関し、特に、重力による自由落下で潤滑剤を転がり軸受内に供給するようになされた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機械用の転がり軸受では、グリース保持部を軸受周辺に配置して、重力による自由落下で軸受外部からグリースを供給することが行われている。この場合、自由落下であるため、適切な量を適切な時期に供給することが難しいという問題があった。
【0003】
一方、特許文献1には、磁性流体を潤滑剤として使用するとともに、磁力により潤滑剤である磁性流体を軸受内に保持することを特徴とする転がり軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−120424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものは、軸受が密封式のものであるので、これを自由落下によって軸受外部からの潤滑剤を供給する転がり軸受装置に適用することは困難である。
【0006】
この発明の目的は、適切な量のグリースを適切な時期に軸受外部から供給可能とした転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による転がり軸受装置は、外輪、内輪および両輪間に配された複数の転動体を有している転がり軸受と、転がり軸受に供給される潤滑剤を保持する潤滑剤保持部とを備えている転がり軸受装置において、潤滑剤がグリースに磁性粒子が混入されたものとされるとともに、潤滑剤保持部に、磁性粒子を潤滑剤保持部内に留めるための磁界を発生することで潤滑剤の転がり軸受への移動量を調整する磁界発生手段と、潤滑剤中の磁性粒子を除去してグリースだけを転がり軸受側に通過させるフィルタとが設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明の転がり軸受装置によると、磁界発生手段によって磁界が生成されると、潤滑剤中の磁性粒子が磁界からの磁力を受けることで、磁性粒子を含んだ潤滑剤が潤滑剤保持部内に保持され、これにより、転がり軸受内へ流入する潤滑剤量が減少する。そして、磁界発生を停止することで、潤滑剤の転がり軸受内への供給量が増加する。また、潤滑剤中の磁性粒子は、フィルターによって除去され、転がり軸受内には、グリースだけが供給される。したがって、磁界の大きさや磁界発生の有無を調整することにより、適切な量のグリースを適切な時期に軸受外部から供給することができる。
【0009】
磁界発生手段は、コイルと、コイルに電流を流すための電源とを備えており、電流の大きさおよび電流が流れる時間の少なくとも一方が制御可能とされていることが好ましい。
【0010】
電流の大きさを大きくすることによって、転がり軸受内へ流入する潤滑剤量が減少し、電流が流れる時間を長くすることによっても、転がり軸受内へ流入する潤滑剤量が減少し、電流の大きさおよび電流が流れる時間の少なくとも一方を制御することで、精度の良いグリース供給量の調整が可能となる。
【0011】
潤滑剤保持部は、転がり軸受の上方に設けられており、磁界発生手段による磁界の発生がない場合に、潤滑剤内のグリースが、自由落下によって転がり軸受内に供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明の転がり軸受装置によると、潤滑剤がグリースに磁性粒子が混入されたものとされるとともに、潤滑剤保持部に、磁性粒子を潤滑剤保持部内に留めるための磁界を発生することで潤滑剤の転がり軸受への移動量を調整する磁界発生手段と、潤滑剤中の磁性粒子を除去してグリースだけを転がり軸受側に通過させるフィルタとが設けられているので、磁界の大きさや磁界発生の有無を調整することにより、適切な量のグリースを適切な時期に軸受外部から供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明による転がり軸受装置の1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明による転がり軸受装置の要部である潤滑剤保持部の第1実施形態を示す斜視図である。
【図3】図3は、この発明による転がり軸受装置の要部である潤滑剤保持部の第2実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0015】
図1および図2は、この発明の転がり軸受装置の第1実施形態を示している。
【0016】
転がり軸受装置(1)は、工作機械などで使用されるもので、図1に示すように、転がり軸受(11)と、転がり軸受(11)の上方に設けられて転がり軸受(11)に潤滑剤を供給する潤滑剤保持部(21)とを備えている。
【0017】
転がり軸受(11)は、ハウジング(2)に取り付けられた外輪(12)、回転軸(3)に取り付けられた内輪(13)、両輪(12)(13)間に配された複数の玉(転動体)(14)および複数の玉(14)を保持する保持器(15)からなる。
【0018】
転がり軸受(11)の外輪(12)および内輪(13)の下側には、外輪間座(4)および内輪間座(5)が配置されている。転がり軸受(11)の内輪(13)の上側には、内輪間座(6)が配置されており、潤滑剤保持部(21)は、上側の内輪間座(6)の径方向外側部分に設けられている。
【0019】
潤滑剤保持部(21)は、下端が外輪(12)に当接する円筒部(31)を有する潤滑剤溜め部材(22)と、潤滑剤溜め部材(22)に封入された潤滑剤(23)と、磁界発生手段(24)と、潤滑剤溜め部材(22)の円筒部(31)の下端部に取り付けられた環状のフィルタ(25)とを備えている。
【0020】
潤滑剤溜め部材(22)は、円筒部(31)の上端部に設けられた内向きフランジ部(32)を有しており、内向きフランジ部(32)の下方空間が潤滑剤溜まり空間(S)とされている。内向きフランジ部(32)の上部には、上方に開口した潤滑剤補充用の環状凹所(33)が設けられており、内向きフランジ部(32)を上下に貫通するように、環状凹所(33)の底面から下方にのびて下方に開口する潤滑剤通路(34)が設けられている。
【0021】
潤滑剤(23)は、グリース(35)に磁性粒子(36)が混入されたものとされている。グリース(35)は、転がり軸受(11)の潤滑用に使用され、磁性粒子(36)は、グリース(35)の転がり軸受(11)への供給量を適正とするために使用される。
【0022】
磁界発生手段(24)は、図2にも示すように、コイル(37)と、コイル(37)を保持する円筒状のコイル保持部材(38)と、コイル(37)に電流を流すための電源(39)とを備えている。
【0023】
コイル保持部材(38)は、円筒部(38a)およびその上端部に設けられた外向きフランジ部(38b)からなり、コイル(37)は、円筒部(38a)に巻付けられている。コイル保持部材(38)は、鉄または鋼などの磁性体製とされて、電磁石のコア機能を有するものであってもよく、合成樹脂などの非磁性体製とされて、単にコイル(37)を保持する機能だけを有しているものであってもよい。
【0024】
電源(39)には、電流の大きさおよび電流が流れる時間を制御する制御手段が内蔵されている。
【0025】
フィルタ(25)は、外周縁部が潤滑剤溜め部材(22)の円筒部(31)に当接し、内周縁部がコイル保持部材(38)の円筒部(38a)の下端部に当接しており、潤滑剤溜まり空間(S)から下方に流れる潤滑剤(23)中の磁性粒子(36)を通過させないものとされている。したがって、潤滑剤(23)が重力による自由落下によってこのフィルタ(25)を通過することで、グリース(35)だけが転がり軸受(11)内に供給される。
【0026】
自由落下だけで、潤滑剤(23)を供給すると、例えば、潤滑剤(23)を凹所(33)内に供給した直後は、転がり軸受(11)への供給量が過剰となり、その後、長時間経過すると、転がり軸受(11)への供給量が不足することがあり、適切な量を適切な時期に供給することが難しいものとなる。
【0027】
磁界発生手段(24)は、適切な量のグリース(35)を適切な時期に供給するためのもので、磁界発生手段(24)によって磁界が発生させられると、磁性粒子(36)が磁界により磁力によって引き付けられ、磁性粒子(36)を含んだ潤滑剤(23)が潤滑剤溜まり空間(S)内に保持される。これにより、転がり軸受(11)へのグリース(35)の供給量が減少する。磁界発生手段(24)の電流を大きくして、磁力(磁界)を大きくすることにより、転がり軸受(11)へのグリース(35)の供給量をさらに減少することができる。転がり軸受(11)へのグリース(35)の供給量の調整は、電流のオン・オフだけでも可能であり、電流を流す時間を増減したり、電流を流さない時間を増減したりすることでも可能である。
【0028】
電流の大きさおよび/または流す時間の調整は、種々のセンサを使用して、その信号に応じて行うこともできる。例えば、加工時の振動を振動センサで測定して、振動が大きくなったときに、電流を小さくするようにしてもよく、潤滑剤の温度を温度センサで測定し、温度が高い場合に、電流を大きくするようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、コイル(37)は、コイル保持部材(38)の円筒部(38a)に巻付けられていることで、大きい径となっているが、これに代えて、図3に示すように、小径の軸部材(42)にコイル(43)が巻付けられることで形成された小径のコイル部材(41)を複数使用して、この複数の小径のコイル部材(41)がコイル保持部材(38)に所定間隔で保持されている構成としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
(1):転がり軸受装置、(11):転がり軸受、(21):潤滑剤保持部、(23):潤滑剤、(24):磁界発生手段、(25):フィルタ、(35):グリース、(36):磁性粒子、(37):コイル、(39):電源、(43):コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、内輪および両輪間に配された複数の転動体を有している転がり軸受と、転がり軸受に供給される潤滑剤を保持する潤滑剤保持部とを備えている転がり軸受装置において、潤滑剤がグリースに磁性粒子が混入されたものとされるとともに、潤滑剤保持部に、磁性粒子を潤滑剤保持部内に留めるための磁界を発生することで潤滑剤の転がり軸受への移動量を調整する磁界発生手段と、潤滑剤中の磁性粒子を除去してグリースだけを転がり軸受側に通過させるフィルタとが設けられていることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
磁界発生手段は、コイルと、コイルに電流を流すための電源とを備えており、電流の大きさおよび電流が流れる時間の少なくとも一方が制御可能とされていることを特徴とする請求項1の転がり軸受装置。
【請求項3】
潤滑剤保持部は、転がり軸受の上方に設けられており、磁界発生手段による磁界の発生がない場合に、潤滑剤内のグリースが、自由落下によって転がり軸受内に供給されることを特徴とする請求項1または2の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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