説明

転がり軸受

【課題】水環境下での耐水性、耐摩耗性を向上させた軸受を提供することを目的とするものである。
【解決手段】軸受寿命と耐水性、耐摩耗性の性能を向上させる為に、内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有する内輪と、上記一対の軌道面間に転動自在に設けられた複数の転動体と、を備えた転がり軸受において、前記外輪及び前記内輪の少なくとも一つが耐食鋼よりなり、前記複数の転動体をジルコニアを主成分とし、アルミナを含有しないセラミックスで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体洗浄装置や水中ポンプなどの水環境下に用いられる転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体洗浄装置や水中ポンプなどに用いられる軸受は、洗浄液や水などが浸入する空間に転がり軸受が設置されている。そのため、このような水環境下で使用される軸受には、高い耐腐食性能が求められている。軸受の腐食対策の一例としては、軸受内部に耐水性に優れたグリースを封入することが考えられている。例えば、非特許文献1のように、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%の低下することが開示されている。
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばれる金属剥離を引き起こすことが考えられる。
【0003】
この剥離を抑制するために従来から封入グリースを改良したものが多く提案されており、例えば以下の特許文献1〜3には、亜硝酸ナトリウムなどの不動態を形成する酸化剤を添加したグリースや、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリースや、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリースなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.Schatzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rollingcontact lubrication、wear 12,pp.331-342,1968
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の様に、グリースの組成の改良で軸受の耐水性を高めるだけでは、水環境下での軸受の永年使用による腐食の進行は避けられず、耐腐食手段として抜本的な対策が求められていた。そこで、本発明では前記問題点を解決する為になされたものであり、軸受の寿命、すなわち耐水性能、対摩耗性能を向上させた軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための第1の発明は、内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有する内輪と、上記一対の軌道面間に転動自在に設けられた複数の転動体と、を備えた転がり軸受において、前記外輪及び前記内輪の少なくとも一が耐食鋼よりなり、前記複数の転動体がジルコニアを主成分とし、アルミナを含有しないセラミックスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る転がり軸受にあっては、外輪や内輪に耐食鋼、転動体にジルコニアを主成分とし、アルミナを含有しないセラミックスを用いることにより、水環境下における軸受寿命すなわち耐水性、耐摩耗性などの軸受性能を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の一形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受10の実施の一形態を示したものである。図示するようにこの転がり軸受10は、外輪1と内輪2間に互いの間隔を所定になるように保持器4によって保持された複数の転動体3が設けられた構成となっている。
【0010】
(実施例・比較例)
ここで、転動体3を表1に示すように、ジルコニアを主成分としてイットリアを含有させたものを実施例1、窒化珪素を主成分としてイットリア、アルミナを含有させたものを比較例1、アルミナを主成分としたものを比較例2とした。
【0011】
【表1】

【0012】
試験軸受の諸元と試験条件は以下のように設定した。
使用軸受:スラスト軸受
内輪、外輪材料:耐食鋼(SUSC440相当)
転動体直径:3/8インチ
転動体個数:6個
保持器材料:フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)
試験荷重:1666N(軸受アキシアル方向)
試験回転速度:1000min−1
潤滑剤:なし
シール及び潤滑剤を有しない転がり軸受を水中に浸し、上記条件により軸受寿命と摩耗性の試験を行った。
【0013】
(試験結果)
実施例1と比較例1、2の測定結果を表2に示す。これによると転動体の主成分をジルコニアとした実施例1が最も軸受寿命が長くなり、外輪、内輪の軌道面及び転動体の摩耗も比較例1、2に比べ少ないことが分かった。転動体主成分に窒化珪素を用いた比較例1に比べ、軸受寿命は1.5倍向上し、転動面の磨耗は3/4に、転動体の磨耗は1/6に減少した。また実施例1が比較例1、2に比べ摩耗量が減少した理由としては、実施例1では相手材料を摩耗させ易いアルミナ成分が含まれていないためであることが考えられる。この結果により水環境下での軸受の転動体成分としては、ジルコニアを主成分としアルミナを含有しないセラミックスとすること、外輪、内輪を耐食鋼とすることが軸受寿命上、耐摩耗上最も相性が良いことが分かった。
【0014】
【表2】

【0015】
なお表2に示した軌道面摩耗率とは、内輪と外輪の最大摩耗深さの和を試験時間で除算して算出したものであり、転動体摩耗率とは、転動体の直径変化量を試験時間で除算して算出したものである。
【符号の説明】
【0016】
1…外輪
2…内輪
3…転動体
4…保持器
10…軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に軌道面を有する外輪と、外周面に軌道面を有する内輪と、上記一対の軌道面間に転動自在に設けられた複数の転動体と、を備えた転がり軸受において、前記外輪及び前記内輪の少なくとも一つが耐食鋼よりなり、前記複数の転動体がジルコニアを主成分としアルミナを含有しないセラミックスであることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2012−189153(P2012−189153A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53666(P2011−53666)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】