説明

転てつ機のロック偏移量検出器

【課題】従来のロック偏移量の段階表示機能を維持しつつも、より0点に近い狭い範囲に対応した表示も可能とする。
【解決手段】検出したロック偏移量を複数の範囲(B、CR,CL等)に分けて段階表示する表示器を備えた転てつ機のロック偏移量検出器であって、最もロック偏移量の0点に近い範囲を、比較的広い範囲Bと、比較的狭い範囲Aとに切り替える表示モード切替手段を有する。表示モード切替手段の切替操作手段としては、例えばハンドル挿入口18の開閉蓋17とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ機のロック偏移量検出器によるロック偏移量の表示に関する。
【背景技術】
【0002】
転てつ機として、動作かんと鎖錠かんとを備えたものが一般的に採用されている。かかる転てつ機は、分岐器が配備されたレールの左又は右に据え付けられ、動作かん及び鎖錠かんをそれぞれ分岐器のトングレールに連結した機構を有し、動作かんによってトングレールを定位、反位に動作させ、トングレールと連れ動く鎖錠かんの切欠きにロックピースを横から挿入することにより鎖錠かん、従ってトングレールの動作を阻止して鎖錠を完了する。切欠き及びロックピースは定位、反位のそれぞれに対応して設けられている。転てつ機は、2つのロックピースを鎖錠かんに交差する方向に、定位‐反位のストローク動作に連動して互い違いに前後動させて各切欠きへ挿入、離脱させる。
【0003】
鎖錠完了において鎖錠かんの切欠きとロックピースには隙間があり、ロックピースの左右に均等に隙間を配して調整した位置が0点(中心)となる。この0点に対する移動量をロック偏移量という。
鎖錠かんは、トングレールと機械的に連結されているため、レールの移動や伸縮、摩擦等により鎖錠かんも移動する。この移動が鎖錠かんの切欠きとロックピースとの相対位置の変化につながる。
鎖錠かんの切欠きとロックピースの相対位置がずれてくると、動作かんによって定位又は反位への転換が正しく終了していても、ロックピースを切欠きに挿入することができず、鎖錠を完了することができない。鎖錠を完了することができなければ、列車を通過させることができない。
そのため、転てつ機にはロック偏移量検出器が備えられ、切欠きとロックピースのずれを表示することで、保守点検に役立てられている。
特許文献1には、ロック偏移量検出器による検出方法に関する発明が記載されている。同文献には、ロックピースの左右の隙間を値として表示することが記載されている。
【0004】
従来、転てつ機のロック偏移量検出器として、ロック偏移量に複数の閾値を設けて閾値によって区切られる各範囲にLEDの色や点灯配列の組合せを対応させて可視化表示するものが利用されている。かかる表示を参照することにより、段階分けされたロック偏移状態を知ることができる。「再調整要」に対応した範囲とその表示も設けられる。「再調整要」を区切る閾値より0点に近い領域にも複数の閾値が設けられる。
したがって、点検者はこのLED表示を見れば、切欠き及びロックピースを視認しない場合においても、ロック偏移状況を知ることができ、再調整の要否を判断することができる。また、ロック調整時、作業者はこのLED表示を参照することにより、0点への近さを判断することができる。すなわち、ロック偏移量検出器は、ロック位置の調整を支援することができる。そして、最も0点に近い範囲を調整完了範囲としてこの範囲内に収めて調整を完了していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−159106号公報
【特許文献2】特開2008−247164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、以上の従来技術にあってもさらに次のような問題があった。
最も0点に近い調整完了範囲に収めて調整を完了しても、その範囲の中で最も0点から遠い位置に調整された場合は、「再調整要」の範囲に近いため、その後の転換や列車通過による僅かなレールの偏移により即「再調整要」の範囲に入ってしまい。再調整を余儀なくされていた。
一方、調整完了範囲を狭く設定すれば、要調整精度が厳しくなり、徒に調整作業を難しくし、一律に調整時間が長くしてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、従来のロック偏移量の段階表示機能を維持しつつも、より0点に近い狭い範囲に対応した表示も可能な転てつ機のロック偏移量検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、検出したロック偏移量を複数の範囲に分けて段階表示する表示器を備えた転てつ機のロック偏移量検出器であって、
最もロック偏移量の0点に近い範囲を、比較的広い範囲と、比較的狭い範囲とに切り替える表示モード切替手段を有する転てつ機のロック偏移量検出器である。
【0009】
請求項2記載の発明は、転てつ機を手動で駆動するためのハンドルを挿入するハンドル挿入口の開閉蓋を前記表示モード切替手段の切替操作手段とし、前記表示モード切替手段は、前記開閉蓋の閉時に前記比較的広い範囲に切替え、前記開閉蓋の開時に前記比較的狭い範囲に切替える請求項1に記載の転てつ機のロック偏移量検出器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、最もロック偏移量の0点に近い範囲を、比較的広い範囲と、比較的狭い範囲とに切り替えることができるので、使用者の選択により比較的狭い範囲による表示に切り替えられることにより、より高精度に0点近くに調整することを支援することができるとともに、比較的広い範囲による表示に切り替えられることにより、調整作業の容易を選択させることもできるという効果がある。
また、転てつ機を手動で駆動するためのハンドルを挿入するハンドル挿入口の開閉蓋を表示モード切替手段の切替操作手段とすることにより、本発明の導入に当たって特別に切替操作手段を設ける必要が無いという効果、調整後は開閉蓋が必ず閉められるため、切替の戻し忘れを防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る転てつ機のロック偏移量検出器によるロック偏移量と表示との関係を示した図である。但し、ロック偏移量は小数点第1位までを有効数として表現している。
【図2】本発明の一実施形態に係る転てつ機の主要な電装部分を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る転てつ機のハンドル挿入口の開閉蓋の開閉状態とこれに対応するスイッチのオン/オフを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0013】
図1に示すように、鎖錠完了時には、鎖錠かんの切欠きHにロックピースIが挿入される。鎖錠かんラインG1とゲージラインG2との間の距離がロック偏移量に対応する。鎖錠かんラインG1とゲージラインG2とが一致するとき、ロック偏移量は0であり、ロックピースIは切欠きHのちょうど中央に位置する。図1中の状態E0はこの状態を示す。状態E1R〜E4Rは、ロックピースIに対して切欠きHが右に偏在している状態、状態E1L〜E4Lは、ロックピースIに対して切欠きHが左に偏在している状態を示す。F0、F1R〜F4R及びF1L〜F4Lは、各範囲に対応したLED表示形態である。図1中に、切欠きHの左への偏移をマイナスとして座標を示し、各範囲と対応するLED表示形態を示した。
【0014】
図2に示すように、ロック偏移量検出器は、制御部10と、センサ11と、LED表示器12とを備えて構成される。制御部10は、センサ11と、LED表示器12とに接続されるとともに、切替スイッチ15aにスイッチ検出回路13を介して接続されている。転てつ機本体には、その他にモータ14、モータ14の電源回路16、電源遮断スイッチ15bが備えられ、モータ14は電源回路16を介して、駆動回路、制御回路、電源に接続される。
ロック偏移量検出器に備えられるセンサ11により、ゲージラインG2の位置が感知され、その感知信号に基づき制御部10はロック偏移量を計算し、図1に示した各範囲に応じた表示をLED表示器12に表示させる。LED表示器12には3つのLEDP1,P2,P3が備えられる。
【0015】
切替スイッチ15aの接点1−2間が導通(オン)の場合において、制御部10はロック偏移量が、図1中の状態E0のように0点から±0.3mmの範囲Bであるとき、LED表示器12の3つのLEDP1,P2,P3をグリーン色で全点灯させる。
制御部10はロック偏移量が、図1中の状態E1Rのように範囲CRであるとき、LED表示器12のLEDP3を消灯し,LEDP1,P2をグリーン色で点灯させる。
制御部10はロック偏移量が、図1中の状態E1Lのように範囲CLであるとき、LED表示器12のLEDP1を消灯し,LEDP2,P3をグリーン色で点灯させる。
その他の範囲と対応する表示形態は図1に示す通りである。
なお、範囲DR,範囲DLにおいては、「再調整要」の表示として、前者はLEDP2,P3が消灯、LEDP1が橙色で点灯、後者はLEDP1,P2が消灯、LEDP3が橙色で点灯となる。
【0016】
一方、切替スイッチ15aの接点1−2間が非導通(オフ)の場合において、制御部10はロック偏移量が、図1中の状態E0Sのように0点から±0.1mmの範囲Aであるとき、LED表示器12の3つのLEDP1,P2,P3をグリーン色で全点滅させる。
【0017】
転てつ機本体の筐体の上面部には、転換機構の上側に位置して図3に示すようなハンドル挿入口18が形成されており、さらにハンドル挿入口18に対応して開閉蓋17が取り付けられている。開閉蓋17は、転てつ機本体の筐体の上面部に水平方向へ回動可能に取り付けられており、その回動動作によってハンドル挿入口18を閉鎖する閉鎖位置と開放する開放位置との間で変位する。
【0018】
開閉蓋17が開放されてハンドル挿入口18が開口すると、ハンドル挿入口18には転換機構を手動で駆動させるためのハンドルの先端部が挿入可能となる。ハンドル挿入口18にハンドルの先端部を挿入すると、その先端部が転換機構の手動機構に連結され、ハンドルを回転させると手動機構によって動作かんが動作する。また、開閉蓋17はスイッチユニット15に連結されており、切替スイッチ15aと電源遮断スイッチ15bは図3に示すように開閉蓋17の回転角度に応じてオン/オフが切り替えられる。
【0019】
図3は、開閉蓋17の開閉位置(回転角度)とスイッチユニット15のオン/オフ切り替えの関係を示している。
【0020】
開閉蓋17は、円板状の蓋本体17aと、蓋本体17aの外周部に突設された連結部17bとを備えており、連結部17bが水平方向へ回動可能に軸支されている。この開閉蓋17の連結部17bにスイッチユニット15が連結されており、切替スイッチ15aと電源遮断スイッチ15bは、開閉蓋17が閉鎖位置(図3(a))から開放方向へ回動されるとオンからオフに切り替わり(図3(b))、開閉蓋17が開放位置から閉鎖方向へ回動されるとオフからオンに切り替わる。
【0021】
以上の本実施形態のロック偏移量検出器によれば、開閉蓋17が閉まっているときは、従来と同様のロック偏移量表示がなされ、開閉蓋17が開いているときは、最もロック偏移量の0点に近い範囲が従来の範囲Bより狭い範囲Aとなり、より0点に近い限定された範囲を特定するロック偏移量表示がなされる。
【0022】
したがって、ロック偏移量を調整する調整者は、開閉蓋17を開けて、ハンドル挿入口18にハンドルを挿入し、このハンドルを操作して転てつ機を定位又は反位に鎖錠する。次に、鎖錠かんやフロントロッドに備えられた螺子機構による調整機構を操作して切欠きHとロックピースIの相対位置を調整する。この時、開閉蓋17が開いているから、最もロック偏移量の0点に近い範囲は、比較的狭い範囲Aとして全点滅F0Sの表示がされる。したがって、最もロック偏移量の0点に近い範囲として比較的広い範囲Bで全点灯F0の表示がされる場合に比較して、より高精度に0点近くに調整することを支援することができる。
【0023】
調整者は、範囲Aにロック偏移量を収めて調整を終了したら、調整機構のロックナットを締結して調整機構を固定し、ハンドル挿入口18からハンドルを離脱し、開閉蓋17を閉める。なお、このとき、調整機構のロックナットを締結する作業によって調整機構による切欠きHの固定位置が微小にずれるため、ロック偏移量が範囲Aからわずかに離脱する場合がある。しかし、この場合でも、開閉蓋17を閉めた時に全点灯F0の表示が得られれば、調整完了とする。この場合でも、調整終了後のロック偏移量が範囲Bの閾値(0.3mm)付近でなく、範囲Aの閾値(0.1mm)付近であるため、従来より0点に近い位置での調整完了が確保される。
【符号の説明】
【0024】
10 制御部
11 センサ
12 LED表示器
13 スイッチ検出回路
14 モータ
15 スイッチユニット
15a 切替スイッチ
15b 電源遮断スイッチ
16 電源回路
17 開閉蓋
17a 蓋本体
17b 連結部
18 ハンドル挿入口
A 比較的狭い範囲
B 比較的広い範囲
H 切欠き
I ロックピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出したロック偏移量を複数の範囲に分けて段階表示する表示器を備えた転てつ機のロック偏移量検出器であって、
最もロック偏移量の0点に近い範囲を、比較的広い範囲と、比較的狭い範囲とに切り替える表示モード切替手段を有する転てつ機のロック偏移量検出器。
【請求項2】
転てつ機を手動で駆動するためのハンドルを挿入するハンドル挿入口の開閉蓋を前記表示モード切替手段の切替操作手段とし、前記表示モード切替手段は、前記開閉蓋の閉時に前記比較的広い範囲に切替え、前記開閉蓋の開時に前記比較的狭い範囲に切替える請求項1に記載の転てつ機のロック偏移量検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215004(P2010−215004A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61017(P2009−61017)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】