説明

転写フィルム、画像形成方法及び画像形成物

【課題】耐水性に優れた転写フィルム、画像形成方法及び画像形成物を提供する。
【解決手段】基材1の一方の面に、離型層2、保護層3、受容層5とをこの順で積層してなる転写フィルムであって、前記保護層3と前記受容層5との間に耐水層4が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写フィルム、転写フィルムを用いた画像形成方法及び画像形成物に関し、特に耐水性に優れた転写フィルム、耐水性に優れた転写フィルムを用いた画像形成方法及び耐水性に優れた画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カード基材等の基材上に画像を形成する方法として、中間転写記録媒体の受容層へ、昇華タイプのインクリボン又は熱転写タイプのインクリボンを用いて画像を形成し、次に、画像が形成された受容層とカード基材とを重ね合わせ、中間転写記録媒体を加熱し受容層をカード基材へ転写することでカード基材上に画像を形成する方法(いわゆる熱転写方法)が知られている(例えば、特許文献1)。これらの熱転写方法では、各種の画像が簡便に形成されるので、印刷枚数が比較的少なくてもよい印刷物、例えば、身分証明書等のIDカードの作成等に好適に利用することができる。しかしながら、熱転写方法においては、専用のインクリボンを用いて受容層へ画像形成を行うことから、受容層へ画像形成を行った後には、印字されて抜けた部分があるインクリボンが排出されることとなる。身分証明等のIDカードの作成等において、排出されるインクリボンの抜け部分は秘密にしたい個人情報などが含まれている場合もあり、排出されるインクリボンから個人情報などが容易に知られてしまうという危険性があった。
【0003】
このような状況下、近時、身分証明等のカードの作成等においては熱転写方式に代わりインクジェット方式が用いられている。インクジェット方式は受容層へ画像を形成する際に、インクジェットプリンタから受容層にインクを噴射して画像を形成する方法であり、熱転写方法のように専用のリボンを用いることなく受容層に画像を形成することができることから、熱転写方式のように個人情報が印字された排出物がでることはなく個人情報の漏洩を効果的に防止することが可能となる。
【0004】
インクジェット方式に用いられるインクとしては、油性インクと水性インクがある。油性インクは、トルエン、キシレン、酢酸エチル、MEK等の溶剤に油溶性染料を溶解、もしくは有機顔料及び/又は無機顔料を分散させたインクであり、耐水性に優れた染料や顔料を選択することができる利点があることから、カード基材上に形成された画像に耐水性を付与したい場合には油性インクが好ましく用いられる。しかしながら、油性インクに使われる溶剤は刺激臭が強く、人体に吸引されると健康被害を及ぼすこと、さらには廃液等の処理による環境への影響等の問題から、使用が敬遠される傾向にある。
【0005】
一方で、水性インクは、水や水とアルコール等の親水性溶剤の混合溶媒中に水溶性染料を分散させたインク(水性染料インク)や、有機顔料及び/又は無機顔料を分散させたインク(水性顔料インク)であり、油性インクと比較して刺激臭や、環境への影響がないことから、一般的に広く用いられている。
【0006】
また、水性インクを用いてインクジェット方式により画像を形成する場合に用いられる受容層は水性インクを受容できる性質を有していること、すなわち吸水性を有していることが必要である。したがって、水性インクを用いる場合には、水に対して親和性を有する種々の高分子、例えば、水溶性高分子、水分散性高分子、水不溶性であって吸水性を有する高分子等が含まれる受容層が一般的に用いられている。
【0007】
しかしながら、当該受容層に水性インクを用いて画像を形成した後、カード基材上に受容層を転写し身分証明等のIDカードを形成した場合には、吸水性を有する受容層が外部からの水分を容易に吸水してしまうことから、画像の滲み等の問題が生じてしまい、インクジェット方式により水性インクを用いて受容層に画像を形成することは耐水性の点から考えると適さないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−238791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、耐水性に優れた転写フィルム、画像形成方法及び画像形成物を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、基材の一方の面に、離型層、保護層、受容層とをこの順で積層してなる転写フィルムであって、前記保護層と前記受容層との間に耐水層が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、前記耐水層が塩化ビニリデン系の共重合体であってもよく、前記耐水層の膜厚が0.5μm以上2μm以下であってもよく、前記受容層がインクジェット方式で画像を形成することができる受容層であってもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明は、転写フィルムを用いた画像形成方法であって、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の転写フィルムを準備する転写フィルム準備工程と、前記転写フィルムの受容層へインクジェット方式で画像を形成する画像形成工程と、画像が形成された前記転写フィルムの受容層と、被転写体とを重ね合わせて加熱することで、該被転写体に、画像が形成された受容層、耐水層、保護層を転写する転写工程とからなることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明は、画像形成物が、請求項5の画像形成方法によって形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保護層と受容層との間に耐水層を設けることで、水溶性の受容層を用いて受容層に画像転写を行った場合であっても、当該転写フィルムを被転写体に転写することにより形成される画像形成物に高い耐水性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明の転写フィルムの層構成を示す概略断面図である。
【図2】本願発明の画像形成物の形成方法における画像形成工程を示す概略断面図である。
【図3】本願発明の画像形成物の形成方法における転写工程を示す概略断面図である。
【図4】本願発明の画像形成物の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の転写フィルムについて図面を用いて具体的に説明する。なお、図1は、本発明の転写フィルムの層構成を示す概略断面図である。
【0017】
図示するように本発明の転写フィルム10は、基材1の一方の面(図1に示す場合には基材1の下面側)に、離型層2、保護層3、受容層5をこの順で積層することにより形成されている。ここで、本発明は保護層3と、受容層5との間に耐水層4が設けられている点に特徴を有する。
【0018】
したがって、本発明の転写フィルム10によれば、保護層3と受容層5との間に耐水層4を設けることで、いかなる受容層を用いた場合であっても、当該転写フィルムを被転写体に転写することにより形成される画像形成物に高い耐水性を付与することができ、特に、インクジェット方式により受容層に画像を形成する際に水を吸収しやすく耐水性の低い水系の受容層を用いた場合であっても、当該受容層が転写されることにより形成される画像形成物に高い耐水性を付与することができる。
【0019】
以下、転写フィルム10を構成する各層について図1を用いてさらに詳細に説明する。
【0020】
(基材)
基材1は本発明の転写フィルム10における必須の構成であり、転写フィルム10の土台となる。
【0021】
本発明で用いられる基材1の樹脂としては、通常転写フィルムの基材として用いられるものであれば、特に限定されず、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリアクリル酸ブチル樹脂、ナイロン6又はナイロン66等で代表されるポリアミド樹脂、三酢酸セルロース樹脂、セロファン、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、又はポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂のうち、環境の点を考慮するとポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、基材1の厚さについては特に制限はないが、通常1〜150μm程度であるものが好ましく用いられる。
【0022】
(離型層)
離型層2は、本発明の転写フィルム10における必須の構成であり、保護層3と基材1との剥離性を向上させるための層である。
【0023】
上記のように、離型層2は、剥離時に基材1を保護層3から容易に剥離することができる機能を有するものであれば、特に限定されることはなく、従来公知の剥離層2の材料を適宜選択して用いることができる。このような離型層2の材料として、例えば、バインダー樹脂と離型性材料とから形成される離型層が挙げられる。
【0024】
離型層2のバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂であるポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、あるいは熱硬化型樹脂である不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂等が使用できる。また、離型性材料としては、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン系樹脂、メラミン樹脂、フッ素系樹脂、タルクやシリカの微粉末、界面活性剤や金属セッケン等の潤滑等が使用できる。特に、メラミン系樹脂は、後述するハードコートタイプの保護層3と組み合わせることで、離型層2と保護層3との剥離性が安定し、転写時の転写性を向上させることができることから好ましい。
【0025】
離型層2の形成方法としては、上記樹脂を適当な溶剤により、溶解または分散させて離型層用塗工液を調製し、これを基材1上にグラビア印刷法、スクリーン印刷法またはグラビア版を用いたリバースコーティング法等の手段により塗布、乾燥して形成することができる。その乾燥後の厚さは、通常0.1〜10g/mである。
【0026】
(保護層)
保護層3は、本発明の転写フィルム10における必須の構成であり、転写部11が被転写体20に転写されることにより形成される画像形成物30の表面に耐擦傷性、耐摩耗性、耐水性、耐侯性等の表面物性を付与するために設けられる層である。
【0027】
保護層3の材料についても特に限定はなく、転写フィルム10の分野において従来公知の保護層3を適宜選択して用いることができる。このような保護層3として、例えば、例えば、OPタイプの保護層3や、ハードコートタイプの保護層3が挙げられる。
【0028】
(OPタイプの保護層)
OPタイプの保護層3は、画像形成物30の最表面で画像を保護する機能と、転写フィルム10の転写部11を剥離、熱転写させる際の剥離層としての機能を有するものである。
【0029】
このようなOPタイプの保護層3の材料としては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、各種低分子量ポリエチレン、木ロウ、ミツロウ、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、セラックワックス、キャンデリラワックス、ペトロラクタム、一部変性ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等のワックス類や、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、硝化綿等の熱可塑性樹脂を用いて形成することができる。
【0030】
また、OPタイプの保護層3は、透明性、耐摩耗性、耐薬品性等に優れたアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を主体に構成することが特に好ましく、またそれに上記のワックスを必要に応じて添加することができる。
【0031】
OPタイプの保護層3の形成は、ホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート等の従来公知の手段を用いて塗布、乾燥することにより行なうことができる。OPタイプの保護層3の厚さは乾燥時で0.1〜5g/m程度が好ましい。
【0032】
(ハードコートタイプの保護層)
ハードコートタイプの保護層3の材料としては、少なくとも電離放射線硬化樹脂を主成分とし、マイクロシリカやポリエチレンワックスを含有させたものが挙げられる。該電離放射線硬化性樹脂としては、(1)分子中にイソシアネート基を3個以上有するイソシアネート類、(2)分子中に水酸基を少なくとも1個と(メタ)アクリロイルオキシ基を少なくとも2個有する多官能(メタ)アクリレート類、又は(3)分子中に水酸基を少なくとも2個有する多価アルコール類の反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する電離放射線硬化性樹脂を用い、ポリエチレンワックスを含ませて、塗布し乾燥して電離放射線で硬化させて、電離放射線硬化樹脂としたものが好ましい。
【0033】
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する電離放射線硬化性樹脂(本明細書では電離放射線硬化性樹脂組成物Mと呼称する)は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する電離放射線硬化性樹脂の硬化物、具体的には、特開2001−329031号公報で開示されている光硬化性樹脂などが挙げられる。
【0034】
ポリエチレンワックスとしては、ポリエチレン系樹脂の粒子やビーズが挙げられるが、好ましくは球状ビーズである。但し、ポリエチレンワックスを添加すると、箔切れ性は低下するので、その添加量は、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部程度、好ましくは0.1〜5質量部とする。転写後にはハードコートタイプの保護層3が最表面となることから、含まれるポリエチレンワックスは、機械的な摩擦、及び摩耗から媒体を保護し、後述する画像などの固有情報を保護することができる。
【0035】
ハードコートタイプの保護層3の形成方法についても特に限定はないが、例えば、上記の電離放射線硬化性樹脂にポリエチレンワックス、必要に応じて光重合開始剤、可塑剤、安定剤、界面活性剤等を加え、溶媒へ分散または溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ダイコートなどの公知のコーティング方法で塗布し乾燥して、電離放射線で反応(硬化)させることにより形成される。また、ハードコートタイプの保護層3の厚さについても特に限定はないが、溶剤や機械的な摩擦及び摩耗、特に引掻きから画像を保護し、傷付きにくい耐久性を付与するためには7μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
【0036】
(耐水層)
耐水層4は、本発明の転写フィルム10における必須の構成であり、保護層3と後述する受容層5との間に設けられる。耐水層4は、被転写体20に転写部11が転写されることにより形成される画像形成物30に耐水性を付与するために設けられる層である。
【0037】
後述するように画像形成物30は、転写フィルム10における受容層5に画像15を形成した後、当該画像15が形成された受容層5を含む転写部11を被転写体20上に転写することにより形成される。受容層5に画像15を形成する方法としては、熱転写方式とインクジェット方式を挙げることができ、いずれの方式により受容層5に画像15を形成するかにより用いられる受容層5は異なる。ここで、個人情報の流出の恐れがなく、また、環境に対する影響の少ない水性インクを用いインクジェット方式により受容層5に画像15を形成する場合には、水性インクを受容することのできる受容層(つまり、水溶性の受容層5)が用いられるが、水溶性の受容層5は水分を吸水しやすいことから画像印画物30の最表面に受容層5を設けた場合には受容層5が水分を吸水し画像15の滲み等が発生してしまう。そこで、受容層5上に設けられ画像形成物30の表面を保護するための保護層3自体に耐水性を付与させる試みも行われているが、完全な耐水性を付与するには至っていない。
【0038】
そこで、本願発明の転写フィルム10は、受容層5と保護層3との間に耐水層4を設けた点に特徴を有する。受容層5と保護層3との間に耐水層4を設けることで、転写部11を被転写体20上に転写することにより形成される画像形成物30に極めて優れた耐水性を付与することができ、画像形成物30への水の侵入を完全に防止することが可能となる。
【0039】
耐水層4を形成する材料としては、少なくとも耐水性を有する材料から形成されている必要があり、特に、本願発明の耐水層3として塩化ビニリデン系の共重合体を好ましく用いることができる。塩化ビニリデン系の共重合体は、受容層5との密着性が高く、耐水性に優れることから、被転写体20上に、塩化ビニリデン系の共重合体からなる耐水層4を含む転写部11が転写されることにより形成される画像形成物30に高い耐水性を付与することが可能となる。
【0040】
耐水層4の形成方法について特に限定はないが、例えば、上記の塩化ビニリデン系の共重合体を、MEK等の溶媒へ分散または溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ダイコートなどの公知のコーティング方法で塗布することにより形成される。
【0041】
耐水層4の厚さについて特に限定はないが、耐水層4の厚さが0.5μmよりも薄いと安定して盛量を塗布することが困難となり、また、耐水層4の厚さが2μmよりも厚くなると、後述する基材1の剥離時に耐水層4にバリが発生する恐れがある。このような点を考慮すると、耐水層4の厚さは、0.5μm以上2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1μm以下がより好ましい。
【0042】
(受容層)
受容層5は、本発明の転写フィルム10における必須の構成であり、インクを受容し形成された画像15を維持する為のものである。
【0043】
本発明の転写フィルム10の受容層5としては、受容層5に画像15を形成する方式により用いられる受容層5の構成は異なり、例えば、熱転写方式により画像15を形成するためのインク受容層5、インクジェット方式により画像15を形成するための受容層5が挙げられる。
【0044】
(熱転写方式のためのインク受容層)
熱転写方式により画像15を形成するためのインク受容層5は、昇華性染料を受容するための受容層5をいう。当該受容層5の材料としては特に限定はなく、熱転写方式により画像15を形成する場合に用いられる従来公知の受容層5の材料を適宜選択して用いることができる。例えば、このような材料として、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
(インクジェット方式のための受容層)
インクジェット方式により画像15を形成するためのインク受容層5は、水性染料インクや水性顔料インク等の水性染料を受容するための受容層5をいう。当該受容層5の材料としては特に限定はないが、当該受容層5は少なくとも水性の染料を受容できることが必要であることから、受容層5は水溶性の材料からなることが好ましく、水性の吸水性樹脂と水溶性樹脂の混合物を主体として形成されていることが好ましい。水性の吸水性樹脂とは、水溶性樹脂を架橋して吸水性、水不溶性としたものであり、水溶性樹脂を部分的に架橋させたものやグラフト化させたものを塗工したものや、塗工後に架橋剤や、加熱、電離放射線により架橋させたものがある。この他には、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体等があり、例えば、吸水性のアルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、NBR樹脂、SBR樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂等が単独もしくは混合物、共重合物、あるいは変性物として用いられる。変性物とは、例えば、水酸基やカルボン酸、スルホン酸、4級アンモニウム塩等を含有するモノマーやオリゴマーを共重合もしくはグラフトさせて親水性を上げたものなどである。
【0046】
水溶性樹脂とは、水もしくは水とアルコールの混合溶媒に可溶なもので従来公知の種々のものが用いられる。例えば、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等の水溶性樹脂および/またはこれらの共重合物、カチオン/アニオン変性物等の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0047】
インクジェット方式により画像15を形成するための受容層5は、上述したように吸水性の樹脂や水溶性の樹脂から形成されていることから、水溶性のインクを容易に受容し画像15を形成することが可能となるものの、画像15が形成された受容層5を被転写体20に転写した後も、該受容層5は吸水性を有することから、外部からの水を吸水してしまい、画像15の滲みなどの問題が生じてしまう。このような、水性の受容層5を用いた場合であっても、本願発明の転写フィルム10は、保護層3と受容層5との間に耐水層4が設けられていることから、該耐水層4が外部からの水の侵入を効果的に防止することができ、水溶性の受容層5を用いた場合であっても受容層5が水を吸水することはなく、画像形成物30に非常に優れた耐水性を付与することが可能となる。
【0048】
また、熱転写方式のためのインク受容層5やインクジェット方式のための受容層5に、UV硬化性樹脂を添加することとしてもよい。UV硬化性樹脂を受容層5に添加した場合には、転写部11を被転写体20に転写した後にUVを照射することで、受容層5が硬化し受容層5自体の耐水性を高めることができる。また、UVを照射することで受容層5は脆化することから、後述する基材1を剥離する際に受容層5にバリが生ずることもない。
【0049】
また、画像15形成後のインク乾燥速度を向上させるために、インクジェット方式のための受容層5を、多孔質の水性インク受容層としてもよい。多孔質の水性インク受容層は、例えば、微粒子/バインダー樹脂により形成することができる。粒子材料としては、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、スチレン等の有機微粒子、無機微粒子としてはコロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン、ジルコニアゾル等が挙げられる。バインダー樹脂としては前記の水性樹脂(特に、PVA、ポリビニルアセタール、アクリル酸エステル)等が挙げられる。
【0050】
また、転写部11を被転写体20に接着させるために、受容層5に熱を加えることで接着性が発現する接着成分を含有させることとしてもよく、受容層5上に別途接着層を設けることとしても良い(図示しない)。熱を加えることで接着性が発現する接着成分としては、例えば、UV硬化樹脂等が挙げられる。また、別途接着層を設ける場合には、転写フィルムの分野で用いられる従来公知の接着層を適宜選択して用いることができ、その材料について特に限定はない。
【0051】
(画像形成物の形成方法)
本発明の画像形成方法は、転写フィルム10を用いた画像形成方法であって、転写フィルム10を準備する転写フィルム準備工程と、該転写フィルム10の受容層5へインクジェット方式で画像15を形成する画像形成工程と、該画像15が形成された転写フィルム10の受容層5と、被転写体20とを重ね合わせて加熱することで、該被転写体に、画像15が形成された受容層、耐水層、保護層を転写する転写工程とからなる。
【0052】
(転写フィルム準備工程)
転写フィルム準備工程は、図1に示すように基材10の一方の面に、離型層2、保護層3、耐水層4、受容層5をこの順で積層されてなる転写フィルム10を準備する工程であり、上述の材料および製造方法を用いて準備することができる。
【0053】
(画像形成工程)
画像形成工程は、図2に示すように転写フィルム10の受容層5にインクジェット方式により画像15を形成する工程である。インクジェット方式に用いられるインクについても特に限定はなく従来公知のインクを適宜選択して用いることができる。また、形成される画像15についても限定はなく、個人情報等の画像15を形成することができる。なお、個人情報等の画像15を形成した場合であっても、当該工程においては、熱転写方式のようにインクリボンを必要としないインクジェット方式が用いられることから、受容層5に形成された個人情報等の秘密にしたい画像15の内容が漏洩することもない。さらには、転写フィルム10における保護層3と受容層5との間には耐水層4が設けられていることから、インクジェット方式により、水性の受容層5を必要とする水性インクを用いた場合であっても、水の侵入を防止することができる。
【0054】
(転写工程)
転写工程は、図3に示すように、被転写体20と、画像15が形成された転写フィルム10の受容層5とを重ね合わせて加熱することによって、転写部11(画像15が形成された受容層5、耐水層4、保護層3)を被転写体20へ転写する工程である。転写部11を被転写体20に転写する方法としては、加熱により転写することができる従来公知の転写方法を用いて転写することができ、このような転写方法としては、例えば、ラミネート法が挙げられる。
【0055】
なお、被転写体20の材料としては特に限定はなく、画像形成物30の用途に応じて適宜選択し用いることができ、例えば、プラスチックフィルム、上質紙、コート紙、ガラス、木材等が挙げられる。
【0056】
上記転写工程において、転写部11が転写された後に、転写されない部分(離型層2および基材1)は、転写部11から引き剥がされ除去され本発明の画像形成物30が形成される。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明について更に詳しく説明する。
(実施例1)
基材1として厚さ25μmの離型層付き基材1(和信化学工業製 DM−01ベース 25ミクロンPET)を用い、該離型層付き基材1に、グラビアリバースコーター法にて、以下の保護層用組成物からなる保護層3を10μmの厚さとなるように形成した。次いで、保護層3上に、グラビアリバースコーター法にて、以下の耐水層用組成物からなる耐水層4を厚さ1μmとなるように形成し、該耐水層4上に、射出成型法にて、三菱樹脂株式会社製の受容層用組成物からなる受容層5を厚さ20μmとなるように形成して、実施例1の転写フィルム10を準備した。
<保護層用組成物>
アクリル樹脂 100部
(商品名 三菱化学製 ユピマーV3031)
ウレタンアクリレート 26部
(商品名 昭和インク工業所製 NGK763(WX40)18)
溶剤 80部
(商品名 インクテック製 MIBK)
光開始剤 2部
(商品名 チバ・ジャパン製 IRGACURE907)
<耐水性用組成物>
塩化ビニリデン系共重合体 100部
(商品名 旭化成ケミカルズ株式会社製 F−310)
【0058】
次に、インクジェットプリンタ(エプソン製)を用い、水性顔料インク(エプソン製)を転写フィルム10の受容層5へ噴射することで、顔写真および個人情報画像を印画した。
【0059】
顔写真および個人情報画像が印画された受容層5と、被転写体20としてPET−Gカードとを重ね合わせて、試作ラミネート装置を用いて被転写体20上へ転写フィルム10の転写を行った。なお、ラミネート温度は、190〜210℃(実測温度)、ローラーギャップ6kg/cmで行った。
【0060】
次に、被転写体20に転写された転写フィルム10の基材1上から試作HIDランプによりUV照射を行い、受容層5の硬化を行った後、離型層2および基材1の除去を行い実施例1の画像形成物を形成した。
【0061】
(実施例2)
耐水層4の厚さを2μmとした以外は実施例1と同様の方法により実施例2の画像形成物を形成した。
【0062】
(実施例3)
保護層3の厚さを5μmとした以外は実施例1と同様の方法により実施例3の画像形成物を形成した。
【0063】
(比較例1)
耐水層4を設けない以外は実施例1と同様の方法により、比較例1の画像形成物を形成した。
【0064】
(耐水性試験)
実施例1〜実施例3、及び比較例1の画像形成物30の耐水性試験を行った。耐水性試験は実施例1〜実施例3、及び比較例1の画像形成物を水中に6時間、24時間浸漬させ、画像形成物30の破損があるか否か、被転写体20からの転写部11の剥がれがあるか否か、及び受容層5に形成された画像の滲みがあるか否かを目視により行った。このとき、画像形成物30が大きく破損しているものを×、画像形成物30が若干破損しているものを○、画像形成物30の破損、被転写体20からの転写部11の剥がれ、及び画像に滲みがないものを◎とした。評価結果を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
(評価結果)
表1からも明らかなように、耐水層4を有しない比較例1の転写フィルムは、6時間浸漬後に印画物が大きく破損してしまっているのに対し、保護層3と受容層5との間に耐水層4が設けられた実施例1〜実施例3の転写フィルム10によれば、画像形成物30に高い耐水性を付与することができた。また、耐水層4の膜厚が2μm以下の実施例1〜実施例3の画像形成物では、転写時にバリの発生が殆ど見られず外観に優れた画像形成物を得ることができた。
【0067】
以上の結果から、保護層3と受容層5との間に耐水層4を設けた本願発明の転写フィルム10によれば、該転写フィルムを用いて形成される画像形成物に高い耐水性を付与することができることから、インクジェット方式で用いられる水溶性の受容層を用いた場合であっても、画像の滲みや、画像形成物の破損を防止できる。
【符号の説明】
【0068】
1…基材
2…離型層
3…保護層
4…耐水層
5…受容層
10…転写フィルム
11…転写部
15…画像
20…被転写体
30…画像形成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、離型層、保護層、受容層とをこの順で積層してなる転写フィルムであって、
前記保護層と前記受容層との間に耐水層が設けられていることを特徴とする転写フィルム。
【請求項2】
前記耐水層が塩化ビニリデン系の共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
前記耐水層の膜厚が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の転写フィルム。
【請求項4】
前記受容層がインクジェット方式で画像を形成することができることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の転写フィルム。
【請求項5】
転写フィルムを用いた画像形成方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の転写フィルムを準備する転写フィルム準備工程と、
前記転写フィルムの受容層へインクジェット方式で画像を形成する画像形成工程と、
画像が形成された前記転写フィルムの受容層と、被転写体とを重ね合わせて加熱することで、該被転写体に、画像が形成された受容層、耐水層、保護層を転写する転写工程と、
からなることを特徴とする画像形成方法。
【請求項6】
請求項5の画像形成方法によって画像形成されたことを特徴とする画像形成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221475(P2010−221475A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70070(P2009−70070)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】