説明

転写フィルム、触媒層−電解質膜積層体及び膜−電極接合体

【課題】本発明は、ガス拡散層のガス透過性・拡散性が劣化せず、ガス拡散層が破損せず、良好な導電性及び撥水性が得られる導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体及び導電性多孔質層付き膜−電極接合体を製造できる転写フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】燃料電池のガス拡散基材の表面に導電性多孔質層を形成するための転写フィルムであって、
300℃における熱収縮率が0.5%以下である転写基材上に、離型層が形成され、
さらに、該離型層の上に、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含むペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成された導電性多孔質層が形成されている、転写フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造に使用される転写フィルム、触媒層−電解質膜積層体及び膜−電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する膜−電極接合体(MEA)は、ガス拡散層/触媒層/イオン伝導性固体高分子電解質膜/触媒層/ガス拡散層の層構造を有している。
【0003】
ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、ガス透過率が良好なことが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための伝導性も必要である。さらに、触媒層上で発生する生成水が、ガス拡散層の空隙を埋めてしまうとガス透過性や拡散性に悪影響を及ぼすため、高い撥水性も必要とされる。
【0004】
そのため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いてガス拡散層に高い撥水性を付与している。しかし、PTFEは絶縁性であるため、ガス拡散層自体の抵抗値が高くなってしまい、導電性が低下するのが避けられない。そのため、導電性炭素粒子等を含有する導電性多孔質層を形成することで、ガス拡散層の抵抗値を低減することが高い電池性能を実現させるために必要である。
【0005】
ガス拡散層に導電性多孔質層を形成する手段としては、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、ガス拡散層表面に直接塗工する方法が一般に採用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、ガス拡散層表面の細孔が塗工したペースト組成物により閉塞し、ガス透過性及び拡散性を悪化させてしまう危険性がある。また、特許文献2のように、導電性多孔質層が無い状態では、PTFEにより撥水処理を行うことにより抵抗値が高まったガス拡散層をそのまま使用しているため、高い電池性能の発現に支障が生じる。
【0006】
また、触媒層を形成した導電性多孔質層を有するガス拡散層を使用して、ホットプレス等の手法により膜−電極接合体(MEA)を作製する場合、プレス材と接触していたガス拡散層の表面が損傷する場合があり、このような場合には、ガス透過性及び拡散性が低下したり、発生水の排出に対して悪影響を及ぼしたりする。
【0007】
したがって、ガス拡散層の細孔を閉塞せずに、またガス拡散層の損傷の無い、ガス透過性及び拡散性に優れたガス拡散層から形成されるMEAが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−294088号公報
【特許文献2】特開平6−295728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガス拡散層のガス透過性・拡散性が劣化せず、ガス拡散層が破損せず、良好な撥水性が得られる導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体及び導電性多孔質層付き膜−電極接合体を製造できる転写フィルムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた結果、300℃における熱収縮率が特定の範囲にある転写基材上に、離型層と、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含む導電性多孔質層とをこの順に形成することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の転写フィルム、導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体及び導電性多孔質層付き膜−電極接合体に係る。
【0012】
項1.燃料電池のガス拡散基材の表面に導電性多孔質層を形成するための転写フィルムであって、
300℃における熱収縮率が0.5%以下である転写基材上に、離型層が形成され、
さらに、該離型層の上に、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含むペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成された導電性多孔質層が形成されている、転写フィルム。
【0013】
項2.離型層が、酸化珪素からなる層である、項1に記載の転写フィルム。
【0014】
項3.導電性多孔質層の厚みが、1〜100μmである、項1又は2に記載の転写フィルム。
【0015】
項4.ペースト組成物が、さらに非ポリマー系フッ素材料を含有する、項1〜3のいずれかに記載の転写フィルム。
【0016】
項5.非ポリマー系フッ素材料がフッ化ピッチである、項4に記載の転写フィルム。
【0017】
項6.ペースト組成物が、さらに導電性炭素繊維を含有する、項1〜5のいずれかに記載の転写フィルム。
【0018】
項7.導電性多孔質層の上に、さらに、触媒層が形成されている、項1〜6のいずれかに記載の転写フィルム。
【0019】
項8.電解質膜の片面又は両面に、項7に記載の転写フィルムを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層及び導電性多孔質層を転写することにより得られる、導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体。
【0020】
項9.項8に記載の導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体の両面に、ガス拡散基材が、導電性多孔質層とガス拡散基材とが接するように積層されてなる、導電性多孔質層付き膜−電極接合体。
【0021】
項10.項9に記載の導電性多孔質層付き膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。
【0022】
1.転写フィルム
本発明の転写フィルムは、転写基材上に離型層が形成され、さらに、その上に、導電性多孔質層が形成されてなる。
【0023】
<転写基材>
転写基材は、300℃における熱収縮率が0.5%以下、好ましくは0.1〜0.3%のものである。転写基材の熱収縮率が0.5%より大きい場合には、転写基材が変形する為に、焼成時での撥水層の形成時に撥水層自体の構造が大きく変化し、発電性能に悪影響を及ぼす。
【0024】
なお、本発明で使用できる転写基材としては、芳香族四塩基酸と芳香族ジアミンとの縮重合によって得られるポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製のカプトン)、ポリパラバン酸アラミド等が挙げられる。例えば、デュポン社製のカプトンHは、ピロメリット酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを有機溶媒中にて重合したものである。
【0025】
転写基材の厚みは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常5〜100μm程度、好ましくは10〜60μm程度とするのが好ましい。
【0026】
<離型層>
本発明では、転写基材上に離型層が形成されている。離型層が形成されることにより、後述する導電性多孔質層を容易に転写させることができる。
【0027】
離型層としては、例えば、公知のワックスから構成されたもの、フッ素系樹脂からなるもの、酸化珪素からなるもの等が挙げられる。なかでも、300℃程度の焼成にも耐えられる点から、酸化珪素からなる離型層が好ましい。
【0028】
酸化珪素は、一般的にSiO(0≦x≦2)で表されるものである。本発明では、酸化珪素からなる離型層は、実質的に酸化珪素からなることが好ましい。
【0029】
離型層の厚みは限定的ではないが、通常2〜200nm程度、好ましくは5〜100nm程度とすればよい。この範囲とすることにより、離型層を均一に形成できる。
【0030】
<導電性多孔質層>
本発明において、導電性多孔質層は、ガス拡散層の抵抗値を低減し、良好な電池特性を発揮するために設けられる。
【0031】
導電性多孔質層は、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含む導電性多孔質層形成用ペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成される。
【0032】
導電性炭素粒子
導電性炭素粒子は、導電性を有しているものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。導電性炭素粒子等を含有する導電性多孔質層を施すことによりガス拡散層の導電性を向上させることができる。
【0033】
導電性炭素粒子の算術平均粒子径は通常5nm〜200nm程度、好ましくは20〜80nm程度である。この導電性炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0034】
フッ素系樹脂
本発明のフッ素系樹脂は、フッ素を含有し、重量平均分子量が10万〜1000万程度のポリマーであれば特に限定されない。フッ素系樹脂としては、公知又は市販のものを使用できる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。これらのフッ素系樹脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0035】
このようなフッ素系樹脂を含有することにより、ガス拡散層に撥水性を付与できると共に、導電性炭素粒子等を転写基材表面により強固に結着できるため、撥水性を長期に亘り維持させることができる。
【0036】
非ポリマー系フッ素材料
本発明において、導電性多孔質層を形成するためのペースト組成物は、さらに、非ポリマー系フッ素材料を含んでいてもよい。
【0037】
非ポリマー系フッ素材料は、フッ素を含有し、且つ重量平均分子量が1000〜5000程度のものであれば特に限定されない。なお非ポリマー系フッ素材料の重量平均分子量は、GPC測定装置CC−10A:(株)島津製作所製等により測定できる。これらは、公知又は市販のものを使用できる。本発明では特に導電性のものが好ましく、例えば、フッ化ピッチ、フッ化黒鉛等が挙げられ、1種または2種以上で用いることができる。なお、これらの非ポリマー系フッ素材料のなかでも、フッ化ピッチが好ましい。このような非ポリマー系フッ素材料を含有させることにより、ガス拡散層に高い撥水性を付与することが可能となり、ガス拡散層に優れた導電性を付与することができる。また、導電性多孔質層上に触媒層を形成した場合には、触媒層上で生成される水を効率的に外部に排出することができ、水によるガス拡散層内部の細孔の閉塞を防ぐことができる。
【0038】
非ポリマー系フッ素材料としてフッ化ピッチを使用する場合、フッ化ピッチのF/C原子は限定的でないが、通常1〜2程度、好ましくは1.1〜1.6程度とすればよい。平均粒子径は、0.5μm〜50μm程度、好ましくは1μm〜30μm程度である。なお、フッ化ピッチのF/C原子は、例えば、IPC発光分析装置ICPE−9000:(株)島津製作所製等により、平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0039】
導電性炭素繊維
本発明において、導電性多孔質層を形成するためのペースト組成物は、さらに、導電性炭素繊維を含んでいてもよい。導電性炭素繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性を一段と向上させることができる。
【0040】
導電性炭素繊維としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、ワイヤーカップ、ワイヤーウォール等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、1種又は2種以上を使用することができる。繊維径は限定的でなく、平均が50〜400nm、好ましくは100〜250nm程度とすればよい。繊維長も限定的でなく、平均が5〜50μm、好ましくは10〜20μm程度とすればよい。アスペクト比は、およそ10〜500程度である。なお、導電性炭素繊維の繊維径、繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0041】
分散剤
本発明において、導電性多孔質層を形成するためのペースト組成物は、さらに、分散剤を含んでいてもよい。
【0042】
分散剤としては、例えば、水系分散剤等が好ましい。
【0043】
水系分散剤は、フッ素系樹脂及び水とともに使用されるものであり、フッ素系樹脂を水中で分散させることができるものである限り限定されず、公知又は市販のものが使用できる。例えば、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等が挙げられる。
【0044】
ペースト組成物
前記ペースト組成物の配合割合は上記成分を含有する限り限定的ではないが、例えば、導電性炭素粒子100重量部に対して、フッ素系樹脂5〜1000重量部(好ましくは50〜500重量部)程度、非ポリマー系フッ素材料0〜1000重量部(好ましくは50〜500重量部)程度、導電性炭素繊維0〜1000重量部(好ましくは20〜500重量部)程度とすればよい。なお、分散剤を使用する場合には、その配合量は、導電性炭素粒子100重量部に対して5〜300重量部(好ましくは7〜200重量部)程度とすればよい。
【0045】
厚み
導電性多孔質層の厚みは限定的ではないが、通常1〜100μm程度、好ましくは10〜50μm程度とすればよい。
【0046】
<触媒層>
本発明の転写フィルムは、導電性多孔質層の上に、さらに、触媒層を形成していてもよい。本発明の転写フィルムに触媒層を形成することで、一度のみの転写工程により、触媒層と導電性多孔質層を転写することができる。
【0047】
触媒層は、公知又は市販の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)を使用することができる。具体的には、触媒層は、(1)触媒粒子を担持させた炭素粒子及び(2)水素イオン伝導性高分子電解質を含有する触媒層形成用ペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成されるものである。
【0048】
触媒粒子としては、例えば、白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。
【0049】
また、水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。
【0050】
触媒層の厚みは限定的ではないが、通常1〜100μm程度、好ましくは2〜50μm程度とすればよい。
【0051】
2.転写フィルムの製造方法
<導電性多孔質層の形成>
本発明の転写フィルムは、転写基材上に導電性多孔質層が形成されているものであり、導電性多孔質層形成用のペースト組成物を、転写基材表面に塗工し、次いで乾燥及び焼成を行う工程を経ることにより得られる。これにより導電性多孔質層に高い撥水性を発現させることができ、生成水による細孔の閉塞を防ぐことができる。
【0052】
なお、転写基材、導電性多孔質層及び導電性多孔質層形成用のペースト組成物は、上記で説明したものとすることができる。
【0053】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の塗工工程は、特に限定されるものではなく、例えばナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0054】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の塗工量は、特に制限されないが、固形分換算で、通常5〜100g/m程度、好ましくは10〜50g/m程度とすればよい。
【0055】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の乾燥温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、50〜150℃程度、好ましくは90〜130℃程度に加熱することにより行えばよい。
【0056】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定されるが、通常10〜30分程度とすればよい。
【0057】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の焼成温度も、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、200〜400℃程度、好ましくは260〜350℃程度とすればよい。
【0058】
導電性多孔質層を転写基材上に形成させる際の焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定されるが、通常10〜150分程度、好ましくは30〜120分程度とすればよい。
【0059】
<離型層の形成>
基材に酸化珪素からなる離型層を形成する方法は特に限定されるものではなく、常法に従って行えばよい。例えば、物理気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)、ゾルゲル法、塗工による方法等が挙げられる。
【0060】
物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0061】
化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、レーザーCVD法等が挙げられる。
【0062】
本発明では、化学気相成長法、特にプラズマCVD法が好ましい。
【0063】
プラズマCVD法を行う場合の方法の条件の一例を以下に述べる。
【0064】
原料としては、酸化珪素の薄膜を製造できるものであれば限定的でないが、本発明では、特に有機珪素化合物等が好ましい。
【0065】
このような有機珪素化合物としては、例えば、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0066】
さらに、必要に応じて、キャリアーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス等;供給ガスとして酸素等を混合してもよい。これら有機珪素化合物、キャリアーガス及び供給ガスを含有する混合ガスを使用する際、これらの混合ガス中での有機珪素化合物の含有量は1〜40%程度、酸素ガスの含有量は10〜70%程度、不活性ガスの含有量は10〜60%程度の範囲とすればよい。
【0067】
装置としては、巻き取り式プラズマCVD装置等を使用することができる。
【0068】
離型層形成時の真空チャンバー内の真空度は限定的ではないが、通常1×10−8〜1×10−1Torr、好ましくは1×10−7〜1×10−1Torr程度とすればよい。また、基材の搬送速度は、10〜500m/分、特に30〜350m/分とすればよい。
【0069】
<触媒層の形成>
上記の方法で、転写基材上に導電性多孔質層を形成した後、触媒層形成用のペースト組成物を、転写基材表面に塗工し、次いで乾燥工程を経ることにより、触媒層を形成することができる。
【0070】
触媒層を導電性多孔質層上に形成させる際の塗工工程は、特に限定されるものではなく、例えばナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0071】
触媒層を導電性多孔質層上に形成させる際の塗工量は、特に制限されないが、固形分換算で、通常2〜20g/m程度、好ましくは5〜17g/m程度とすればよい。
【0072】
触媒層を導電性多孔質層上に形成させる際の乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて、30〜120℃程度、好ましくは50〜100℃程度に処理することにより行えばよい。
【0073】
触媒層を導電性多孔質層上に形成させる際の乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定されるが、通常10〜30分程度とすればよい。
【0074】
3.導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体
本発明の導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜の片面又は両面に、本発明の転写フィルムを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層及び導電性多孔質層を転写することにより得られるものである。
【0075】
<電解質膜>
電解質膜は、公知又は市販のものを使用することができるが、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することによっても製造することができる。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。
【0076】
また、炭化水素系電解質イオン伝導性高分子電解質として、アルドリッチ社のスルホン化(ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ランダム−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン)等も使用できる。
【0077】
液状物質を含浸させたイオン伝導性高分子電解質膜も使用することができる。この液状物質を含浸させたイオン伝導性高分子電解質膜としては、特に制限されるわけではなく、水素イオン伝導性のものであればよく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、多孔質高分子基材フィルムにリン酸を含浸させた膜を挙げることができる。このような液状物質を含浸させたイオン伝導性電解質膜の具体例としては、例えば、BASF社製の「Celtec P」等が挙げられる。
【0078】
水酸基イオンを伝導するものとして、炭化水素系及びフッ素樹脂系のいずれかの高分子電解質膜も用いることができる。本発明に用いるアニオン高分子電解質膜は高濃度のアルカリ水溶液を用いた場合は、耐高濃度アルカリ性のフッ素樹脂系高分子電解質膜を使用することが好ましく、低濃度もしくはアルカリ水溶液を用いない場合は、コスト面からも炭化水素系が好ましい。これらの選択はシステムにより適宜最適化される。
【0079】
本発明で使用できる炭化水素系のアニオン高分子電解質膜としては、旭化成(株)製のアシプレックス(登録商標)A−201、211、221等、トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1、AHA等、フッ素樹脂系のアニオン交換膜としては、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等がある。
【0080】
固体高分子電解質含有溶液中に含まれる固体高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、電解質膜の厚みは通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0081】
また、固体高分子電解質膜は、水の吸収・放出に伴い、寸法形状が変化し、膨張収縮することが知られており、燃料電池を運転する温度及び湿度により、0〜10%程度寸法が変化する。
【0082】
<製造方法>
本発明の転写フィルムを用いて、触媒層及び導電性多孔質層を転写するのは、電解質膜の両面でも片面でもよいが、ガス拡散性の劣化を防いだり、抵抗値を増大させたりしない観点から、片面、特にカソード側のみに転写することが好ましい。
【0083】
なお、電解質膜の片面に、本発明の転写フィルムを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層及び導電性多孔質層を転写する場合は、もう片面には、転写フィルムと触媒層とからなる通常の転写フィルムを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層及び導電性多孔質層を転写する。
【0084】
この際、通常の転写フィルムに使用する転写基材や触媒層は、上述のものと同様のものを使用することができる。
【0085】
転写する際には、転写フィルムの転写基材側から、公知のプレス機等を用いて加圧すればよい。その際の加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜10MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常80〜200℃程度、好ましくは135〜150℃程度とすればよい。
【0086】
4.導電性多孔質層付き膜−電極接合体
本発明の導電性多孔質層付き膜−電極接合体は、本発明の導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体の両面に、ガス拡散基材が、導電性多孔質層とガス拡散基材とが接するように積層されてなる。
【0087】
<ガス拡散基材>
ガス拡散基材は限定的ではなく、アノード、カソードを構成する各種のガス拡散基材を使用することができる。例えば通気性のあるカーボン基材が挙げられ、具体的には、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン不織布等の公知のものを使用すればよい。
【0088】
ガス拡散基材の厚みは限定的ではないが、通常50μm〜1000μm程度、好ましくは100μm〜400μm程度とすればよい。
【0089】
なお、本発明のガス拡散基材は、予め撥水処理が施されたものであることが好ましい。これにより、触媒層上で発生する水の排出を効率的に行い、導電性多孔質基材の閉塞を抑制し、ガス拡散性を向上できる。
【0090】
<製造方法>
本発明の膜−電極接合体は、例えば、ガス拡散基材を、本発明の触媒層−電解質膜積層体の両面に、触媒層とガス拡散基材とが対面するように配置し、ホットプレス等の熱プレス処理をすることにより、製造することができる。なお、この熱プレス処理には、各種のプレス機を用いることができる。
【0091】
熱プレスする際の加圧レベルは、限定的ではないが、通常0.5〜10MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度で加圧すればよい。
【0092】
この際の加熱温度は、限定的ではないが、通常30〜200℃程度、好ましくは50〜170℃程度に加熱すればよい。
【0093】
また、プレス時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、通常10〜240秒程度、好ましくは30〜150秒程度とすればよい。
【0094】
5.固体高分子形燃料電池
本発明の膜−電極接合体に公知又は市販のセパレータを設けることにより、本発明の膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0095】
本発明の転写フィルムによれば、導電性多孔質層によるガス拡散層の細孔の閉塞を軽減できるため、ガス透過性・拡散性を劣化させず、ガス透過性及び拡散性の良好なガス拡散層及び膜−電極接合体を製造することができる。
【0096】
また、ガス拡散基材上に触媒層を形成した触媒層付き電極(GDE)を使用してホットプレスにより膜−電極接合体を作製する場合には、プレス部材と接触するガス拡散層表面が破損する可能性があるが、本発明では、ガス拡散層の破損を防ぐことができ、ガス透過性・拡散性及び撥水性に優れた膜−電極接合体を作製することができる。
【0097】
さらに、導電性多孔質層に、PTFEよりも固有抵抗値及び撥水性が良好な非ポリマー系フッ素材料を含有させる場合には、導電性及び撥水性が向上し、優れた電池特性を発揮するガス拡散層及びMEAを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、実施例3の転写フィルムにおける導電性多孔質層の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例6の転写フィルムにおける導電性多孔質層の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
<材料>
実施例及び比較例では、以下の材料を使用した。
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンxc72R:キャボット社製)、重量平均分子量1000〜3000
導電性炭素繊維:VGCF(登録商標)(標準品)(昭和電工(株)製)、平均繊維径150nm、平均繊維長10〜20μm、アスペクト比10〜500
フッ素系樹脂(1):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW−410:ダイキン工業(株)製)
フッ素系樹脂(2):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(PTFE31−JR:Dupont社製)
非ポリマー系フッ素材料:フッ化ピッチ(オグソール FP−S:大阪ガス(株)製)、重量平均分子量3000程度、平均粒子径1.2〜30μm程度
分散剤:ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110:花王(株)製)
白金触媒担持炭素粒子:(TEC10E50E:田中貴金属工業(株)製)
イオン伝導性高分子電解質膜溶液:Nafion5wt%溶液(DE−520CS:Dupont社製)
【0101】
実施例1〜8及び比較例1〜3
[実施例1]
<転写フィルムの製造>
まず、離型層付きポリイミドフィルムは、以下のように作製した。
【0102】
離型層の形成は、基材としてポリイミドフィルム(カプトンHタイプ:東レ・デュポン(株)製、熱収縮率:300℃で0.1〜0.3%、膜厚:25μm)を用い、以下の条件で、プラズマCVD法にて、基材の一方面に酸化珪素を含む離型層(厚み:40nm)を形成した。
【0103】
成膜機器:巻き取り式プラズマCVD装置
成膜圧力:2.3×10−2Torr
導入ガス:ヘキサメチルジシロキサン:アルゴン:酸素=0.9:0.9:3.0(単位:slm)
印加電力:AC40kHz、8kW
搬送速度:40m/分
真空チャンバー内の真空度:1.5〜4.5×10−6Torr
蒸着チャンバー内の真空度:1.5〜3.8×10−6Torr
【0104】
得られた離型層積層基材表面の離型層は、SiOx(x=0.8〜1.2)からなり、油性ペンで文字を書くことが出来ない(塗工性に悪影響を与えない)程度の撥水性を有していた。
【0105】
導電性炭素粒子100重量部、PTFE70重量部、フッ化ピッチ130重量部、分散剤25重量部及び水675重量部をメディア分散により分散させることにより、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調製した。
【0106】
次に、前記導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、上記で作製した厚み40nmの酸化珪素からなる離型層が形成された25μmのポリイミドフィルム上に、離型層の上に導電性多孔質層が形成されるようにアプリケーターにより塗工(塗工量:35g/m)し、95℃程度で15分乾燥させた後、300℃程度で2時間焼成させ、ポリイミドフィルムの離型層の上に導電性多孔質層を形成した。なお、導電性多孔質層は35μm程度になるように調節した。
【0107】
次に、白金触媒担持炭素粒子4g、イオン伝導性高分子電解質膜溶液40g、蒸留水12g、n−ブタノール50g及びt−ブタノール50gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード及びカソードの触媒層形成用ペースト組成物を得た。
【0108】
作製した導電性多孔質層上にアプリケーターを使用して触媒層形成用ペースト組成物を塗工(塗工量:固形分換算で12〜15g/m)し、95℃で乾燥し、実施例1の転写フィルムを製造した。
【0109】
[実施例2]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物を塗工する際、塗工量を15g/mとしたこと以外は実施例1と同様に、実施例2の転写フィルムを作製した。
【0110】
[実施例3]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、PTFE200重量部、分散剤25重量部及び水675重量部をメディア分散により分散させたものを使用したこと以外は実施例1と同様に、実施例3の転写フィルムを作製した。
【0111】
[実施例4]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、PTFE200重量部、分散剤25重量部及び水675重量部をメディア分散により分散させたものを使用し、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を塗工する際、塗工量を15g/mとしたこと以外は実施例1と同様に、実施例4の転写フィルムを作製した。
【0112】
[実施例5]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、導電性炭素繊維43重量部、PTFE100重量部、フッ化ピッチ186重量部、分散剤25重量部及び水976重量部をメディア分散により分散させたものを使用したこと以外は実施例1と同様に、実施例5の転写フィルムを作製した。
【0113】
[実施例6]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、導電性炭素繊維43重量部、PTFE286重量部、分散剤25重量部及び水976重量部をメディア分散により分散させたものを使用したこと以外は実施例1と同様に、実施例6の転写フィルムを作製した。
【0114】
[実施例7]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、導電性炭素繊維43重量部、PTFE100重量部、フッ化ピッチ186重量部、分散剤25重量部及び水976重量部をメディア分散により分散させたものを使用し、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を塗工する際、塗工量を15g/mとしたこと以外は実施例1と同様に、実施例7の転写フィルムを作製した。
【0115】
[実施例8]
導電性多孔質層形成用ペースト組成物として、導電性炭素粒子100重量部、導電性炭素繊維43重量部、PTFE286重量部、分散剤25重量部及び水976重量部をメディア分散により分散させたものを使用し、導電性多孔質層形成用ペースト組成物を塗工する際、塗工量を15g/mとしたこと以外は実施例1と同様に、実施例8の転写フィルムを作製した。
【0116】
[比較例1]
転写基材として、離型層が形成されていない25μmのポリイミドフィルム(カプトンHタイプ:東レ・デュポン(株)製、熱収縮率:300℃で0.1〜0.3%)を使用したこと以外は実施例1と同様に、比較例1の転写フィルムを作製した。
【0117】
[比較例2]
まず、離型層付きポリエチレンテレフタレートフィルムは、以下のように作製した。
【0118】
離型層の形成は、基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(E5100:東洋紡績(株)製、熱収縮率:なし(300℃での焼成に耐えられない)、膜厚:50μm)を用い、下記の条件で、プラズマCVD法にて、基材の一方面に珪素酸化物を含む離型層(厚み:40nm)を形成した。
【0119】
成膜機器:巻き取り式プラズマCVD装置
成膜圧力:2.3×10−2Torr
導入ガス:ヘキサメチルジシロキサン:アルゴン:酸素=0.9:0.9:3.0(単位:slm)
印加電力:AC40kHz、8kW
搬送速度:40m/分
真空チャンバー内の真空度:1.5〜4.5×10−6Torr
蒸着チャンバー内の真空度:1.5〜3.8×10−6Torr
【0120】
得られた離型層積層基材表面の離型層は、SiOx(x=0.8〜1.2)からなり、油性ペンで文字を書くことが出来ない(塗工性に悪影響を与えない)程度の撥水性を有していた。
【0121】
転写基材として、厚み40nmの酸化珪素からなる離型層が形成された50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(E5100:東洋紡績(株)製、熱収縮率:なし(300℃での焼成に耐えられない))を使用し、焼成工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様に、比較例2の転写フィルムを作製した。
【0122】
[比較例3]
転写基材として、離型層が形成されていない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(E5100:東洋紡績(株)製、熱収縮率:なし(300℃での焼成に耐えられない))を使用し、焼成工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様に、比較例3の転写フィルムを作製した。
【0123】
実施例1〜8及び比較例1〜3の組成比率等を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
評価結果
(a)膜厚
実施例1〜8及び比較例1〜3の転写フィルムにおける導電性多孔質層の膜厚を、クーラントプルーフマイクロメーター((株)ミツトヨ製)により測定した。結果を表2に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
ポリイミドフィルムを使用し、塗工量15g/mの実施例2、4、7及び8では、膜厚は19〜23μm、塗工量35g/mの実施例1、3、5及び6並びに比較例1では、膜厚は41〜46μm、PETフィルムを使用した塗工量35g/mの比較例2及び3では、膜厚は89〜94μmであった。
【0128】
(b)転写性
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
実施例1〜8及び比較例1〜3で作製した転写フィルムをカソード用に使用し、アノード用には、前記触媒層形成用ペースト組成物を転写基材ポリエチレンテレフタレートフィルム(E5100:東洋紡績(株)製、熱収縮率:なし(300℃での焼成に耐えられない))上に塗工し、95℃で20分程度乾燥させることにより作製したアノード用触媒層転写フィルムを使用した。
【0129】
次に、プロトン伝導性電解質膜(デュポン社製「NRS−212CS」)の両面に、カソード側には実施例1〜8及び比較例1〜3の転写フィルム、アノード側には前記アノード用触媒層転写フィルムを、それぞれ電解質膜と触媒層が対向するように配置し、熱プレスを行った後、転写基材のみを剥がすことにより、実施例1〜8及び比較例1〜3の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0130】
<評価>
触媒層−電解質膜積層体の作製の際に、転写フィルムに触媒層及び導電性多孔質層が残存しているかどうかを目視により確認した。
【0131】
その結果、フィルム上に離型層を施した実施例1〜8及び比較例2では良好な転写状態が得られたが、離型層を施していない比較例1及び3では、触媒層のみの転写は確認できたが導電性多孔質層は端部にわずかに転写する場合があるのみで、充分な電池特性が得られるものではなかった。
【0132】
このことから、導電性多孔質層の転写フィルムを作製する場合は、離型層が必要であることが確認できた。
【0133】
(c)電池性能評価
<ガス拡散基材の撥水処理>
ガス拡散基材にはカーボンペーパーを用い、水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)2重量部、水38重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液に2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。
【0134】
<燃料電池の製造>
上記で作製した触媒層−触媒層積層体の両面に、上記の撥水処理済のガス拡散基材を積層させ、6MPa、150℃の条件で120秒ホットプレスすることにより、実施例1〜8及び比較例1〜3の膜−電極接合体を作製した。次いで、得られた膜−電極接合体を燃料電池セルに組み込むことにより、実施例1〜8及び比較例1〜3の固体高分子形燃料電池を製造した。
【0135】
<評価>
上記の膜−電極接合体を使用しての電池性能評価を、以下の条件により行った。
【0136】
セル温度:80℃
加湿温度:カソード65℃、アノード65℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
【0137】
負荷電流を1.25〜25Aまで変動させた時のセル電圧値の測定を行い、下記表3には、ガス拡散の影響がより顕著である1000mA/cmの結果を示した。
【0138】
【表3】

【0139】
比較例1及び3は、導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、実施例1と同じものを使用し、転写基材に離型層が形成されていないものである。この場合、撥水層が転写不良であるため電池評価には使用できない結果となった。
【0140】
また、比較例2は、導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、実施例1と同じものを使用しており、転写基材に離型層が形成されているが、転写基材にPETフィルムを使用したものである。この場合、実施例1と比較し、200mV程度もの大きな性能差が生じた。
【0141】
これはPETフィルムを使用したことにより、導電性多孔質層の塗工後に焼成工程を行えないため、導電性多孔質層内での分散剤が分解されずに残っており、また撥水性樹脂の溶解が不十分であるため、導電性多孔質層自体に充分な撥水性を持たせることが出来ずに、撥水層内の細孔を生成水や凝結水で閉塞するフラッディングが起こり易くなったためと考えられる。
【0142】
また、実施例1〜4に比べ実施例5〜8では、総じて高い電池性能が得られた。これは、撥水層中に導電性炭素繊維を添加することにより、例えば図1(実施例3に対応)、図2(実施例6に対応)に示す様に、図1に比べて図2の条件の方が撥水層中のクラックを抑制できていることが確認でき、この撥水層で発生するクラックの制御によりガス透過性・拡散性が向上したためと考えられる。
【0143】
また、各実施例を比較すると、導電性多孔質層が薄層になるに従い電池性能が向上しているが、これは導電性多孔質層が薄くなることにより、導電性多孔質層中の抵抗成分による導電性低下及びガス透過性の向上が影響したと考えられる。
【0144】
以上の結果から、電池性能向上には、塗工ムラの少ない導電性多孔質層を転写基材と触媒層間に形成させることが最も好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のガス拡散基材の表面に導電性多孔質層を形成するための転写フィルムであって、
300℃における熱収縮率が0.5%以下である転写基材上に、離型層が形成され、
さらに、該離型層の上に、導電性炭素粒子及びフッ素系樹脂を含むペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成された導電性多孔質層が形成されている、転写フィルム。
【請求項2】
離型層が、酸化珪素からなる層である、請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
導電性多孔質層の厚みが、1〜100μmである、請求項1又は2に記載の転写フィルム。
【請求項4】
ペースト組成物が、さらに非ポリマー系フッ素材料を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の転写フィルム。
【請求項5】
非ポリマー系フッ素材料がフッ化ピッチである、請求項4に記載の転写フィルム。
【請求項6】
ペースト組成物が、さらに導電性炭素繊維を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の転写フィルム。
【請求項7】
導電性多孔質層の上に、さらに、触媒層が形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の転写フィルム。
【請求項8】
電解質膜の片面又は両面に、請求項7に記載の転写フィルムを、触媒層と電解質膜とが対向するように配置し、電解質膜に触媒層及び導電性多孔質層を転写することにより得られる、導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性多孔質層付き触媒層−電解質膜積層体の両面に、ガス拡散基材が、導電性多孔質層とガス拡散基材とが接するように積層されてなる、導電性多孔質層付き膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性多孔質層付き膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−165470(P2010−165470A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4539(P2009−4539)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】