説明

転写体の製造方法

【課題】転写フィルムと基体の接着不良、転写フィルムの層間剥離のない転写体製造方法、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる際、転写膜の破壊がなく、貼付ローラー、剥離ローラーを離間の際、基体に損傷がない、転写体の製造方法。
【解決手段】剥離フィルム131と転写膜からなる転写フィルム13を、貼付ローラー11を用いて基体に貼付し、剥離ローラー12を用いて剥離フィルム131を剥離する転写体の製造方法において、少なくとも転写フィルム13の貼付開始時点では、貼付ローラー11のみで転写フィルム13を基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラー11を移動させて転写フィルム13を基体に貼付し、剥離ローラー12は貼付ローラー11による貼付開始点で転写フィルム13に接触させ、該剥離ローラー12を移動させて剥離フィルム131を剥離することを特徴とする転写体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写体の製造方法に関する。詳しくは、ガラスなどの表面が平滑で、通気性のない基体に、剥離フィルムと転写膜を有する転写フィルムを貼付し、剥離フィルムを剥離する転写体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の基体に配線回路や電極等の導電性パターンや模様等の装飾パターンを形成するために、転写フィルムが用いられる場合がある。このような転写フィルムを用いる方法は、基体の寸法や形状にかかわらず、上記導電性パターンや装飾パターンなどを基体に追従させることが可能であり、パターニング性や生産性に優れ、低コストで、任意の基体に形成することができるという利点がある。このような転写方式に適応する種々の転写フィルムが提案されている(例えば特許文献1など)。
【0003】
従来、基体上に効率的に転写フィルムを貼付する方法として、図1に示されるような方法が用いられている。すなわち、貼付ローラー11及び剥離ローラー12を取り付けているヘッドを下降させて、貼付ローラー及び剥離ローラーで転写フィルム13を基体14に押し付ける工程(図1(A))、貼付ローラー11を、転写フィルムを供給する供給ローラー(図示せず)側へ移動して転写フィルムを貼付する工程(図1(B))、剥離ローラーを供給ローラー側へ移動して剥離フィルムを基体から剥離する工程(図1(C))、次いでヘッドを上昇させて、貼付ローラー11及び剥離ローラー12を基体14から離間させ(図1(D))、元の位置に戻す工程を有する方法である。
転写に際しては、転写用素材を転写フィルム側に残留させずに期体上に転写させることが重要であり、種々の転写装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−307729号公報
【特許文献2】特開2007−165379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような従来の転写フィルムの貼付方法では、転写フィルムを基体に貼付するに際し、転写フィルムと基体の間や転写フィルムの層間に空気が噛み込む場合がある。この場合に、剥離ローラーの移動に伴って、該空気も移動し、転写フィルムと基体の界面の接着不良を生じさせ、部分的に密着力が得られない部分が生じたり、転写フィルムの層間剥離を引き起こす場合があった。このような、転写フィルムの層間剥離の問題は、特に転写膜に無機粉体と焼成除去可能な有機物を含有する焼成用転写フィルムに顕著に生じる。
また、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる際に、転写膜を構成する機能性パターンが破壊される場合があった。
さらに、転写フィルムの転写が終了し、貼付ローラー及び剥離ローラーを取り付けているヘッドを基体から離間させる際に、基体に必要以上の力がかかり、基体に割れが生じる場合があり、また転写フィルムにたるみを生じさせ、連続的に次の転写を行う際に不都合を生じる場合があった。
そこで、本発明は、転写フィルムと基体の界面の接着不良がなく、また転写フィルムの層間剥離を生じさせない転写体の製造方法、さらには、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる際に、転写膜を構成する機能性パターンが破壊されることがなく、また、貼付ローラー及び剥離ローラーを基体から離間させる際に、基体に損傷を与えることがない、生産性の高い転写体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して、貼付ローラー及び剥離ローラーと、基体及び転写フィルムとの接触方法を変更することで、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
[1]剥離フィルムと転写膜からなる転写フィルムを、貼付ローラーを用いて基体に貼付し、剥離ローラーを用いて剥離フィルムを剥離する転写体の製造方法において、少なくとも転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラーのみで転写フィルムを基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラーを移動させて転写フィルムを基体に貼付し、剥離ローラーは貼付ローラーによる貼付開始点で転写フィルムに接触させ、該剥離ローラーを移動させて剥離フィルムを剥離することを特徴とする転写体の製造方法、
[2]前記剥離フィルムは転写フィルムから剥離された後、巻き取りローラーにて巻き取られる上記[1]に記載の転写体の製造方法、
[3]貼付ローラーの移動による転写フィルムの基体への貼付の後、巻き取りローラーから剥離フィルムを送り、剥離角度を大きくした後、剥離ローラーを移動させて、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる上記[2]に記載の転写体の製造方法、
[4]貼付ローラーの移動により転写フィルムを貼付し、次いで、貼付ローラーの転写フィルムへの圧力を解放した後に、剥離ローラーの移動によって剥離フィルムを剥離する上記[1]〜[3]のいずれかに記載の転写体の製造方法、
[5]前記基体がガラス基材である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の転写体の製造方法、
[6]前記転写フィルムを構成する転写膜が、粘着層と機能性パターンを含み、該機能性パターンが無機粉体と焼成により除去可能な有機物からなり、該粘着層が焼成により除去可能な有機物からなる上記[1]〜[5]のいずれかに記載の転写体の製造方法、
[7]供給ローラー、貼付ローラー、剥離ローラー、該貼付ローラー及び該剥離ローラーを上下させる機構、貼付ローラー及び剥離ローラーを転写フィルムに圧力をかけながら供給ローラー側へ移動させる機構、及び転写フィルムを構成する剥離フィルムを剥離し、巻き取る機構を有する転写機であつて、転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラーのみが転写フィルムを基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラーを移動させて転写フィルムを基体に貼付し、剥離ローラーは貼付ローラーによる貼付開始点で転写フィルムに接触させ、該剥離ローラーを移動させて剥離フィルムを剥離することを特徴とする転写機、及び
[8]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法により製造した転写体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、転写フィルムと基体の界面の接着不良がなく、また転写フィルムの層間剥離は生じない。さらに、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる際に、転写膜を構成する機能性パターンが破壊されることがなく、また、貼付ローラー及び剥離ローラーを基体から離間させる際に、基体に損傷を与えることなく、高い生産性で転写体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】転写フィルムを基体に転写する従来の方法を示す図である。
【図2】本発明の転写体の製造方法を示す図である。
【図3】空気の噛み込み機構を示す図である。
【図4】供給ロールを示す図である。
【図5】転写フィルムにテンションがかかっている場合の剥離角度を示す図である。
【図6】転写フィルムにテンションがかかっていない場合の剥離角度を示す図である。
【図7】従来法におけるヘッド上昇時の転写フィルムの接触状態を示す図である。
【図8】本発明の転写体の製造方法を示す図である。
【図9】転写フィルムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、剥離フィルムと転写膜からなる転写フィルムを、貼付ローラーを用いて基体に貼付し、剥離ローラーを用いて剥離フィルムを剥離する転写体の製造方法に関する。
従来の方法では、図1に示すように、貼付ローラー及び剥離ローラーを取り付けているヘッドを下降させて、貼付ローラー及び剥離ローラーの両者で転写フィルムを基体に押し付ける工程(図1(A))を有するのに対し、本発明では、図2(A)に示すように、貼付ローラー11のみで転写フィルム13を基体14に押し付けることを特徴とする。すなわち、転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラー11のみを、貼付開始点16で転写フィルム13を基体14に圧着させ、剥離ローラー12は基体14に圧着させないようにする。そして、貼付ローラー11を転写フィルム13に押し付けた状態で移動させ、転写フィルム13を基体14に貼付する。
一方、剥離ローラーは、図2(B)に示すように、貼付開始点16で転写フィルムに接触させる。すなわち、貼付ローラー11による転写フィルム13の貼付を開始した後、剥離ローラー12を貼付開始点16の上部まで移動させてから下降させて、該貼付開始点16で転写フィルム13と接触させ、その後剥離操作を行う。剥離操作の開始は、貼付ローラー11による転写フィルム13の貼付中であってもよいし、貼付操作が終了した後であってもよい。なお、後に詳述するように、貼付ローラー11の転写フィルム13に対する圧力を開放した後に剥離操作を行う方が好適であり、貼付操作終了後に剥離操作を行うことがより好ましい。
以上のような構成をとることで、転写フィルムと基体の間や転写フィルムの層間に空気が噛み込むことを抑制することができる。
【0010】
[空気噛み込みの機構]
本発明者らは、種々の検討の結果、空気の噛み込みが図3に示すような機構で生じることを発見し、この解決方法として、本発明を完成させたものである。
すなわち、図1に示すような従来の方法では、図3(A)に示すように、貼付ローラー及び剥離ローラーを取り付けているヘッドを下降させたときに、貼付ローラー11と剥離ローラー12の間の空間部で、転写フィルムと基体の間に空気が噛み込む場合がある(図3(A)15の部分)。そして、貼付ローラー11によって転写フィルム13を基体14に貼付し、その後剥離ローラー12を移動させて、剥離フィルム131を剥離する工程で、空気が搾り出されるようにして、剥離ローラー12が移動するために、転写フィルム13の各層の界面において凝集剥離が生じたり、転写フィルム13と基体14の間で剥離を生じることがある。
【0011】
[本発明の作用効果]
上記従来技術に対して、本発明では、図2に示すように、貼付ローラー11のみで転写フィルム13を基体14に押し付けるために、貼付ローラー11と剥離ローラー12の間の空間部が存在しない。しかも、剥離ローラー12が転写フィルム13に最初に接触する部分(貼付開始点16)が、既に貼付ローラー11によって、基体14に貼付されているため、空気を噛み込むことがない。
【0012】
本発明では、図4に示すように、転写フィルムとしてロール状のもの(以下「供給ロール」ということがある。)を用いることが好ましい。供給ロール30を用いる方法は、基体に対して、連続的に転写フィルムを供給することができ、生産性が高い。転写フィルムは、例えば図4に示すように、剥離フィルム131上の少なくとも一部に転写膜132が積層されてなり、このようなフィルムがコア(巻き芯)31に巻き取られる形で供給ロール30は構成される。なお、転写膜132は、基体の大きさに応じて、そのサイズが決定されるものであり、図4に示すように、転写膜間の転写膜がない部分はスペース部135と呼ばれる。
転写フィルムは、例えば、ベルトコンベアーにより搬送される基体に対して、供給ロールから供給され、本発明の方法で転写フィルムを貼付することで、転写体が製造される。
【0013】
[巻き取りローラー]
また、剥離フィルムは、図2に示すように、ガイドローラー17を介して、巻き取りローラー(図示せず)にて巻き取られる態様が好ましい。巻き取りローラーにて、剥離フィルムを巻き取りながら、剥離ローラーを移動させることで、効率的に剥離フィルムの剥離を行うことができ、高い生産性が得られる。
しかしながら、巻き取りローラーを用いる場合には、転写フィルムにテンションがかかり、図5に示すように剥離角度が小さくなる(図5の20の部分)。このように剥離角度が小さいと、剥離強度が強くなる傾向があり、転写フィルムを構成する転写膜に設けられた印刷パターンなどが破壊される場合がある。そこで、本発明では、図6に示すように、巻き取りローラーから剥離フィルムを送り、ガイドローラー17から基体に近い側、すなわち剥離ローラーの手前の部分で剥離フィルムをたるませ、剥離角度を大きくすることが好ましい。特に、剥離角度が180度であることが、印刷パターンへの影響が最も小さく好ましい。
【0014】
また、従来の方法では、貼付ローラー11と剥離ローラー12が同時に移動して、転写体を製造するために、図7に示すように、転写終了時点で、貼付ローラー11と剥離ローラー12が、同時に転写フィルム13に圧力をかけた状態になる。また、貼付ローラー11により転写フィルム13が貼付され、その後、剥離ローラー12の移動により、剥離フィルム131が剥離される場合でも、同様に貼付ローラー11と剥離ローラー12が、同時に転写フィルム13に圧力をかけた状態になる。
したがって、転写フィルム13と基体14が面接触し(図7の18の部分)、貼付ローラー11及び剥離ローラー12を備えるヘッドを上昇させたときに、基体14に強い力がかかり、基体14が割れる場合がある。
本発明では、図8に示すように、貼付ローラー11を移動して、転写フィルム13を基体14に貼付し、次いで、貼付ローラー11を上昇させ、転写フィルム13への圧力を解放する(図8(A))。その後、剥離ローラー12を移動させ、剥離フィルム131を剥離する態様が好ましい。このような態様をとることで、転写終了時点で、剥離ローラー12のみが転写フィルム13に接触しているため、線接触となり(図8の19の部分)、ヘッドの上昇時に転写フィルム13が基体14から容易に剥離する。
【0015】
[転写フィルム]
本発明で用いられる転写フィルムは、剥離フィルムと転写膜を有していれば特に限定されないが、例えば、図9に示すように、剥離フィルム131上に転写膜132が積層され、該転写膜132は、無機粉体と焼成除去可能な有機物を含有してなる機能性パターン133と、焼成除去可能な有機物よりなる粘着層134とを備える態様が挙げられる。
また、機能性パターン133と粘着層134の間に焼成除去可能な有機物からなる中間層を備えた態様や、機能性パターン133と剥離フィルム131の間に保護層を設けた態様がある。ここで、中間層は、粘着層の形成に使用される粘着剤に含有する溶剤や有機物の機能性パターンへの浸み込みを防止するバリア性の役割を担う。また、保護層は基体に転写した焼成前の機能性パターンを異物の付着や傷から保護する役割を担う。
【0016】
[剥離フィルム]
剥離フィルムは機能性パターンを含む転写膜と剥離性を有するものであれば良く、フィルム基材をそのまま用いても良いが、必要によりフィルム基材上にシリコーン系やアルキド樹脂系などからなる剥離層や再剥離用の微粘着層を形成した構成であっても良い。
剥離フィルムの基材としては、転写時の施工性を考慮してフレキシブルな基材が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリルなどのプラスチックや紙などが使用できる。また基材の厚みは特に限定されるものではないが、転写時の圧力や熱の伝達性とフィルムの屈曲性とのバランスの点から最適な厚みを選定すればよく、25〜250μm、好ましくは35〜125μm、さらに好ましくは50〜75μmが、製造上もしくは施工上好適に用いられる。
【0017】
剥離フィルム上への機能性パターンや各層の形成方法は、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷方式やグラビアコーティングなどの塗布方式を用いることができる。パターンを形成する場合は、上記印刷方法が好適に用いられ、広い面積に一様に層を形成する場合は、塗布方法も好適である。
上記印刷方法や塗布方法により、機能性パターンや各層を形成する場合は、これらに含有される無機粉体や有機物を溶剤中に分散または溶解してなる塗布液(ペースト)を作製し、使用する。溶剤としては、無機粉体や有機物の溶解性や分散性、そして印刷工程に適した沸点を考慮し、水系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系などを、単独または混合して使用することができる。そしてこれらの溶剤は、粘度やチキソ性など印刷適正、そして固形分を適宜調整して用いる。
【0018】
[機能性パターン]
機能性パターンは、主に焼成後の機械的強度を発現するための基材に熱融着可能な無機粉体と、焼成後の所望の機能に応じた各種機能性材料としての無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物とを含有する。
熱融着可能な無機粉体としては、各種機能性材料を焼成後に基体に担持させ、耐久性を向上させるなどの目的のために、ガラスフリットなどの材料が使用可能であり、焼成温度や熱収縮率などのバランスを考慮して、好適な組成のガラスフリットを選定すればよい。
【0019】
機能性材料としては、焼成後の所望の機能に応じた材料を適宜選択して使用する。例えば、配線や電極などには、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Sn、Pb、Zn、Bi、Inの粉体やこれらを含む合金の粉体を使用することが可能である。またコンデンサ部品などの誘電体や高抵抗部品などに使用される材料として、BaTiO、SiC、TiO2、SiO2、やRuOなどの粉体が挙げられる。
【0020】
有機物としては、焼成除去可能な材料であれば特に限定されない。焼成による熱分解によって除去されやすい材料としては、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエステルなどの樹脂が挙げられ、単独、またはこれらを混合して使用することができる。また有機成分として、焼成前の塗膜に可とう性を付与する目的で可塑剤を加えてもよい。可塑剤としては脂肪酸エステルやリン酸エステルなどから適宜選定して用いることができる。
機能性パターンは一つのパターンでも複数のパターンでもよく、複数のパターンを積層しても、個々に併設しても良い。機能性パターンの膜厚は、目的とする機能に合わせて適宜決定される。
【0021】
粘着層は焼成除去可能な有機物で構成されていれば特に限定されないが、常温で粘着性を有するアクリル系、ゴム系などの粘着剤が使用できる。粘着層は剥離フィルムなどの支持体全面を覆うように形成しても良く、機能性パターン上に同様のパターンを形成してもよい。
粘着層の膜厚は、1〜20μmが好ましく、さらに好ましくは2〜10μmである。1μm以上であれば十分な粘着力が得られ、良好な転写性が得られる。一方、20μm以下であると、熱分解ガスの発生量が過多にならず、機能性パターンに欠陥が生じたり、焼成不良となることがない。なお、粘着層の膜厚は、粘着力を維持できる範囲で、できるだけ薄膜にすることが好ましい。
【0022】
[基体]
本発明の製造方法では、基体としては種々のものを用いることができ、特に制限はない。具体的には、ガラス基材などを用いることができるが、特に本発明の製造方法は、ガラス基材を基体とする場合に効果的である。ガラス基材は表面が平滑で通気性がないため、上述の問題点が生じやすいためである。
【0023】
[転写機]
本発明の製造方法において用いられる転写機は、以下の構成を有する。
すなわち、本発明の転写機は、供給ローラー、貼付ローラー、剥離ローラー、該貼付ローラー及び該剥離ローラーを上下させる機構、貼付ローラー及び剥離ローラーを転写フィルムに圧力をかけながら供給ローラー側へ移動させる機構、及び転写フィルムを構成する剥離フィルムを剥離し、巻き取る機構を有し、転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラーのみが転写フィルムを基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラーを移動させて転写フィルムを基体に貼付し、剥離ローラーは貼付ローラーによる貼付開始点で転写フィルムに接触させ、該剥離ローラーを移動させて剥離フィルムを剥離することを特徴とするものである。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)転写フィルムの製造
以下の手順で、焼成用転写フィルムを作製した。
まず、剥離フィルムとして、シリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A70」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ3.5cm×30cm、厚み50μm)を用意した。次に、機能性パターンの塗布液として、導電性ペーストを表1に示す組成に基づき3本ロールミルを用いて作成した。また、粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1451」(綜研化学工業(株)製)の溶媒をソルベッソ150で置換した粘着層ペーストを作製した。
次に、前記剥離フィルムの離形層上に、スクリーン印刷機を用いて前記導電性ペーストをサイズ2cm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
次いで、剥離フィルムの剥離層側の全面に、該機能性パターンを覆うようにして、前記粘着層ペーストを厚さ10μmとなるようにメイヤーバーを用いて塗布し、接着層を形成した。そして、粘着層に含有される溶剤を十分に揮発させた。
粘着層と機能性パターンからなる転写膜が形成された剥離フィルムから、機能性パターンを含む部分をフィルムサイズ6cm×35cmに切り出し、実施例1の転写フィルムとした。
【0025】
(2)転写体の製造
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ30cm×30cm)を用意した。このガラス板の表面に、前記(1)で作製した直後の転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて載置し、貼付ローラーのみを用いて、剥離フィルム上から0.5MPaの圧力で貼り合わせた。すなわち、貼付開始点において、貼付ローラーのみで転写フィルムをガラス板に0.5MPaで圧着させ、剥離ローラーはガラス板に圧着させないようにし、貼付ローラーを300mm/秒の速度で移動させて転写フィルムをガラス板に貼付した。
次に、貼付ローラーを転写フィルムから離間させた後、貼付開始点において、剥離ローラーをガラス板に0.5MPaの圧力で押し付けながら、300mm/秒の速度で移動させることで剥離フィルムを剥離し、転写体を製造した。次いで、該転写体を、焼成炉を用いて焼成した。焼成条件は、昇温速度20℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を30分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却した。
冷却された転写体(機能性パターン付きガラス板)を焼成炉から取り出し、目視にて確認したところ、転写フィルムとガラス板の界面の接着不良がなく、また転写フィルムの層間剥離も生じていなかった。また、機能性パターン及びガラス板に損傷はなかった。
【0026】
比較例1
実施例1において、貼付ローラーと剥離ローラーの両方で、転写フィルムをガラス板に0.5MPaで圧着させ、貼付ローラーを移動させて転写フィルムを貼付した後、貼付ローラーを離間させることなく、剥離ローラーを移動させて、剥離フィルムを剥離したこと以外は実施例1と同様にして転写体を製造した。
実施例1と同様に目視にて確認したところ、転写膜が部分的に又は全部が貼付かず、剥離フィルムに残るなどの点で問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の製造方法によれば、転写フィルムと基体の間や転写フィルムの層間に空気が噛み込むことがなく、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる際に、転写膜を構成する機能性パターンが破壊されることがなく、また、貼付ローラー及び剥離ローラーを基体から離間させる際に、基体に損傷を与えることなく、高い生産性で転写体を製造することができる。
また、本発明の製造方法により得られる転写体は、転写フィルムと基体の界面の接着不良がなく、また転写フィルムの層間剥離がない。さらに、機能性パターンが破壊されず、基体に損傷も損傷がない。
本発明の転写機によれば、上記本発明の転写方法を行うことができ、高い生産性で転写体を製造することができる。
【符号の説明】
【0028】
11 貼付ローラー
12 剥離ローラー
13 転写フィルム
131 剥離フィルム
132 転写膜
133 機能性パターン
134 粘着層
135 スペース部
14 基体
15 空気の噛み込み
16 貼付開始点
17 ガイドローラー
18 面接触の状態
19 線接触の状態
20 剥離角度
30 供給ロール
31 コア(巻き芯)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離フィルムと転写膜からなる転写フィルムを、貼付ローラーを用いて基体に貼付し、剥離ローラーを用いて剥離フィルムを剥離する転写体の製造方法において、少なくとも転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラーのみで転写フィルムを基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラーを移動させて転写フィルムを基体に貼付し、剥離ローラーは貼付ローラーによる貼付開始点で転写フィルムに接触させ、該剥離ローラーを移動させて剥離フィルムを剥離することを特徴とする転写体の製造方法。
【請求項2】
前記剥離フィルムは転写フィルムから剥離された後、巻き取りローラーにて巻き取られる請求項1に記載の転写体の製造方法。
【請求項3】
貼付ローラーの移動による転写フィルムの基体への貼付の後、巻き取りローラーから剥離フィルムを送り、剥離角度を大きくした後、剥離ローラーを移動させて、転写フィルムから剥離フィルムを剥離させる請求項2に記載の転写体の製造方法。
【請求項4】
貼付ローラーの移動により転写フィルムを貼付し、次いで、貼付ローラーの転写フィルムへの圧力を解放した後に、剥離ローラーの移動によって剥離フィルムを剥離する請求項1〜3のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項5】
前記基体がガラス基材である請求項1〜4のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項6】
前記転写フィルムを構成する転写膜が、粘着層と機能性パターンを含み、該機能性パターンが無機粉体と焼成により除去可能な有機物からなり、該粘着層が焼成により除去可能な有機物からなる請求項1〜5のいずれかに記載の転写体の製造方法。
【請求項7】
供給ローラー、貼付ローラー、剥離ローラー、該貼付ローラー及び該剥離ローラーを上下させる機構、貼付ローラー及び剥離ローラーを転写フィルムに圧力をかけながら供給ローラー側へ移動させる機構、及び転写フィルムを構成する剥離フィルムを剥離し、巻き取る機構を有する転写機であつて、転写フィルムの貼付開始時点では、貼付ローラーのみが転写フィルムを基体に押し付け、押し付けた状態で貼付ローラーを移動させて転写フィルムを基体に貼付し、剥離ローラーは貼付ローラーによる貼付開始点で転写フィルムに接触させ、該剥離ローラーを移動させて剥離フィルムを剥離することを特徴とする転写機。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造した転写体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−207618(P2011−207618A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79859(P2010−79859)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591186888)株式会社トッパンTDKレーベル (46)
【出願人】(000130916)株式会社サンテック (4)
【Fターム(参考)】