説明

転写抑制ペプチド及びその遺伝子

【課題】簡便でかつ広く適用可能な遺伝子の転写抑制手段であるCRES−T法において使用可能な全く新しい転写抑制ドメインとなる保存モチーフ配列を含むペプチド及び当該ペプチドをコードする遺伝子の提供。
【解決手段】下記式(I)で示されるアミノ酸配列からなる、植物の転写抑制機能を有するペプチド及び当該ペプチドをコードする遺伝子。式(I)X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3(式中、X1及びX3は1〜10個の任意のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列を表し、X2はLys又はArgを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写抑制機能を有するペプチド、該ペプチドをコードする遺伝子、該ペプチドと転写因子もしくはそのDNA結合ドメインとが連結した転写抑制機能を有するキメラタンパク質、該キメラタンパク質をコードするキメラ遺伝子、該キメラ遺伝子を有する組換えベクター、及び該組換えベクターを含む形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体遺伝子の発現を抑制する手段として、アンチセンス法又はリボザイム法が知られており、これらは、例えば、発癌遺伝子等疾病の原因となる遺伝子の発現の抑制又は植物の改良等への利用に関して研究が進められている。アンチセンス法では、転写を抑制しようとする標的遺伝子又はこれを転写したmRNA等の特定部位と相補的なアンチセンスDNA又はRNAが用いられるが、調製されたアンチセンスDNA又はRNAは該標的遺伝子以外の遺伝子の発現抑制には使用できず、他の標的遺伝子に対してはその配列に合わせて新たにアンチセンスDNA又はRNAを調製する必要がある。一方、リボザイム法では、標的DNA又はmRNAをリボザイムにより切断するためには、該標的DNA又はmRNAと結合するための相補的な配列を有し、かつ所定位置で切断可能なようにリボザイムを設計する必要がある。また、標的遺伝子を切断するように設計されたリボザイムであっても、例えば、これを、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等のプロモーター及び転写終結配列に連結して導入ベクターを構築し、実際に植物細胞中に導入すると、転写されたリボザイムに余分な配列が付加されてリボザイム活性が失われる場合がある。また、これらの従来技術においては、当然のことながら標的遺伝子の特定、塩基配列の決定が不可欠であり、特に植物の形質改良を目的とする場合にはこれが大きな問題となっていた。なぜなら、植物に関する研究のほとんどはモデル植物を材料として用いており、食料・燃料・建築資材などとして実用的な植物の遺伝子配列についてはほとんど知見が無く、適切なアンチセンスDNA又はRNAやリボザイムを設計することが非常に困難だからである。さらに、実用植物においては品種ごと、場合によっては個体ごとに遺伝子配列に大きな差異が存在することがよく知られており、それぞれの有用品種ごとに適切なアンチセンスDNAやリボザイムを設計することはほぼ不可能である。このほか、化学処理や放射線照射、あるいは外来遺伝子の導入によって内生の遺伝子を破壊する遺伝子ノックアウト法により遺伝子そのものを破壊することで発現を抑える方法もある。しかし、この方法によっては例えば生来の遺伝子セット数が多い複2倍体植物などにおいては全ての遺伝子を破壊することが難しいために適用が困難であった。倍数体植物には、食用・飼料用として重要な作物であるダイズ、コムギなどが含まれる。また、植物においては重要な機能を有する遺伝子は重複している場合が多く、通常の二倍体植物においても、やはり全ての遺伝子を破壊することは困難であった。
【0003】
そこで、本発明者らは上記従来技術とは全く別のアプローチであるCRES−T法(Chimeric repressor silencing technology)を開発してきた。(特許文献1〜8、非特許文献1〜3)。当該CRES−T法は、植物から単離された転写抑制ドメイン(ドミナントリプレッサー)を用い、転写活性化因子のカルボキシル基末端に結合して、当該転写活性化因子に強力な転写抑制活性を付与する技術であり、それぞれをコードする核酸分子のキメラ遺伝子を生体内で発現させることで、該標的遺伝子の転写を強く抑制する。転写抑制ドメインを融合したキメラ遺伝子は該転写活性因子のみではなく、同一遺伝子に対して重複して働く他の転写活性因子の機能も全て抑制することから、CRES−T法を用いて作成された植物は標的遺伝子の発現を完全に抑制した形態を示す。このことからCRES−T法は、実用的な植物の形質改変のみならず、基礎的な遺伝子の機能解明においても非常に有用な方法である。またCRES−T法においては配列と機能が類似した近縁遺伝子についても機能抑制が可能なことから、従来のアンチセンス法又はリボザイム法のように標的遺伝子の塩基配列に合わせてその都度DNA又はRNAの設計を行う必要がなく、簡便でかつ広範囲の適用が可能である。
そして、上記転写抑制ドメインは、(L/F)DLN(L/F)(X)Pなるモチーフ(但し、Xは、任意のアミノ酸残基を表す)からなり、当初シロイヌナズナから単離され、シロイヌナズナでの研究が中心であったが、その後、タバコの他、イネなどの単子葉植物も含め広範囲な植物の転写抑制因子からも上記同一モチーフが多数同定された。これまでに、二次代謝生合成系で働く転写因子をキメラ転写抑制因子に変換させることで、二次代謝生合成を能動的に制御することが可能であることを示し、花器官形成の制御をおこなう転写因子のキメラ転写抑制因子を発現させることにより、雄性不稔、完全不稔をシロイヌナズナのみならずイネにおいても高効率で誘導することに成功した。これらの結果から、CRES−T法が単子葉であるイネにおいても利用できることが示され、広く植物一般に適用できる画期的な技術として注目されている。
しかしながら、植物のみならず生物一般においても、今までに見出された転写抑制ドメインとなる保存モチーフは、当該(L/F)DLN(L/F)(X)Pモチーフのみであり、その後、本発明者らにより公知のSUP遺伝子が転写抑制機能ドメインとして「DLELRL」を有することが発見されたが、同一モチーフを有する転写遺伝子は見いだせず保存モチーフであるとまではいえない。したがって、(L/F)DLN(L/F)(X)Pモチーフと同様に植物一般に対して適用可能であり、なおかつ生来の転写抑制因子に保存されている、転写抑制ドメインの保存モチーフの探索が求められていた。
【特許文献1】特許第3829200号
【特許文献2】特許第3995211号
【特許文献3】特開2001−269177号公報
【特許文献4】特開2001−269178号公報
【特許文献5】特開2001−292776号公報
【特許文献6】特開2001−292777号公報
【特許文献7】特開2001−269176号公報
【特許文献8】特開2001−269179号公報
【非特許文献1】The Plant Cell,2001 13,1959-1968
【非特許文献2】Plant Biotechnology J 2006. 4. 325-332
【非特許文献3】PlantJournal 2003 34:733-739.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、簡便でかつ広く適用可能な遺伝子の転写抑制手段であるCRES−T法において使用可能な全く新しい転写抑制ドメインとなる保存モチーフ配列を提供することによって、CRES−T法の適用範囲と応用性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するため、シロイヌナズナ転写遺伝子のAt2g36080遺伝子に着目し、GAL4 DNA結合ドメインと該遺伝子を融合したエフェクターコンストラクトを用いたシロイヌナズナ葉でのトランジェントアッセイの結果、強い転写抑制機能を確認して、さらにその転写抑制活性領域が8ペプチド「LRLFGVNM」であることを見出した。次いで、シロイヌナズナデーターベースに登録された全遺伝子の中からLRLFGVNMモチーフと類似のアミノ酸配列を持つ29個の転写制御因子遺伝子を発見し、その中のAt3g11580、At2g46870、At1g13260、At1g68840、At4g36990及びAt4g11660について同様のトランジェントアッセイを行った結果、いずれも転写抑制因子として働くことを証明した。これら転写抑制因子のうち6遺伝子は保存配列としてRLFGVを有していたが、At4g36990はKLFGVであったため、At4g36990に対してはさらに変異を導入したエフェクタープラスミドによる解析を行ない、「K/RLFGV」という5個のアミノ酸(最初の1アミノ酸がKまたはR)が保存配列であることを確定した。一方で、RLFGVを含むAt2g36080遺伝子の部分断片15アミノ酸をコードするDNA断片をシロイヌナズナ由来の転写活性化因子CUC2遺伝子及びAG遺伝子それぞれに融合したコンストラクトを作成し、シロイヌナズナ植物体に導入した結果、公知の転写抑制ドメインSRDX(LDLELRLGFA)と同様の、子葉の融合、八重咲きの形質が誘導されたことを確認して、本発明を完成するに至った。
【0006】
具体的には、本発明者らはシロイヌナズナデーターベース中で転写遺伝子として分類されているアクセッション番号At2g36080遺伝子を、酵母由来のGAL4 DNA結合ドメインと結合したキメラ遺伝子を、CaMV 35Sプロモーター制御下で発現するエフェクターコンストラクト(35S: GAL4DBAt2g36080、添付図1A)を作成した。それを、CaMV 35S エンハンサー領域とGAL4結合領域を有するリポーター遺伝子(35S-GAL4-TATA-LUC、添付図1A)と同時にシロイヌナズナ葉に導入し、一過性に発現させた(トランジェントアッセイ)。すると、リポーター遺伝子の活性が、コントロール(pUC18 或いは35S:GAL4DB、添付図1A)と比較して、著しく発現抑制されたことから、At2g36080遺伝子は、転写抑制因子として機能していることが示唆された(添付図1B)。
そこで、At2g36080の転写抑制ドメインを同定するため、At2g36080のコード領域をカルボキシル末端から徐々に削除したエフェクターコンストラクトを作成し(添付図1A)、トランジェントアッセイを行ったところ、178から192番目のアミノ酸領域 (15アミノ酸領域)に強い転写抑制活性を持つ領域があることがわかった(添付図1B)。また、この領域のみを切り出してGAL4 DNA結合ドメインに融合したエフェクターコンストラクト(添付図1A)も強い転写抑制活性を示したことから(添付図1B)、この領域がDNA結合ドメインに対して転写抑制活性を付与する転写抑制ドメイン(リプレッションドメイン)であることが判った。
この15アミノ酸からなるペプチドについてさらに詳細な解析を行なったところ、183から190番目のLRLFGVNMの8アミノ酸のみでもリプレッションドメインとして機能することが明らかになった(添付図1C、1D)。
【0007】
次に、シロイヌナズナデーターベースに登録された全遺伝子の中からLRLFGVNMと類似した配列を持つ遺伝子を探索したところ、29個の転写制御因子をコードする遺伝子が発見された(表1:リスト[RK]LFGV)。それらの中からAt2g36080、At3g11580、At2g46870、At1g13260、At1g68840、At4g36990及びAt4g11660の7遺伝子について同様のトランジェントアッセイを行い、7遺伝子全てが転写抑制因子であることを証明した(添付図2A〜G)。当初から転写抑制ドメインの同定に用いたAt2g36080と、新たに転写抑制因子として同定された6個の遺伝子のアミノ酸配列を詳細に比較したところ、K/RLFGVという5個のアミノ酸(最初の1アミノ酸がKまたはR)が保存配列であることが判った(リスト[RK]LFGV)。これらのうち、6遺伝子は保存配列としてRLFGVを有していたが、At4g36990(添付図2F)については保存配列がKLFGVであった。このことからAt4g36990については、変異を導入したエフェクタープラスミドなどを用いて、更に詳細なドメインの解析を行ない、KLFGVを含む11アミノ酸の領域(GEGLKLFGVWL、233から243番目のアミノ酸)が転写抑制活性を有することを明らかとした(添付図3A、3B)。これらのことから先のデータベース検索において発見したK/RLFGVを持つ転写因子遺伝子(表1)は全て植物体内において転写抑制因子として機能していることが予測される。
【0008】
<表1>リスト[RK]LFGVを持つシロイヌナズナ由来転写因子

【0009】
次に、本来は転写活性化能を有する転写制御因子に対して、上記で同定した転写抑制ペプチド[K/R]LFGVを融合することによって当該転写活性化因子の活性を転写抑制因子に機能転換することが可能かどうか、更には、そのキメラ遺伝子が実際に植物体内においても転写抑制因子として機能し、植物の形質の変化を誘導しうるかどうかを確認するために解析をおこなった。実際の実験においては転写活性化因子のモデル遺伝子として、従来公知の転写抑制ペプチドを用いた実験により、植物の形質変化との関連がすでに実証されているシロイヌナズナ由来のCUC2遺伝子およびAG遺伝子(非特許文献2,3)を用いた。
既に本発明者らにより報告されている転写抑制ドメインSRDX(LDLELRLGFA)については、CUC2遺伝子のC末端側に融合したキメラ遺伝子(35S:CUC2SRDX)、あるいはAG遺伝子のC末端側に融合したキメラ遺伝子(35S:AGSRDX)(非特許文献2)をシロイヌナズナにおいて発現させた場合、35S:CUC2SRDX植物体では子葉の融合が誘導され(添付図4D)、35S:AGSRDX植物体では八重咲きの形質が(添付図4B)誘導されることが知られている。そこで、本発明で発見した新規リプレッションドメインであるRLFGVを含む15アミノ酸(図4では36RDと示す)をCUC2遺伝子及びAG遺伝子それぞれのC末端側に融合したキメラ遺伝子(35S:CUC2−36RD、35S:AG−36RD)を作成し(添付図4A)、これを導入したシロイヌナズナ植物が同様な形質を示すかどうかについて解析を行った。
その結果、35S:CUC2−36RD(添付図4E)、35S:AG−36RD(添付図4C)を導入した植物体においても35S:CUC2−SRDX、及び35S:AG−SRDXと同様に、子葉の融合、あるいは、八重咲きの形質が誘導された。これらのことから、発見した[RK]LFGVペプチドは、SRDXと同様に植物体においても機能することが示された。35S:AG−36RDにおいて観察された八重咲きの形質はAG遺伝子を破壊した植物体(ag mutant)において観察される形態と酷似していることから、融合された36RDによってAG遺伝子の機能転換が誘発され、強い転写抑制因子となった35S:AG−36RDキメラ遺伝子が機能することで、本来AGが転写を活性化する標的遺伝子の発現をことごとく抑制したため誘導された形質と考えられる。この形質から、35S:AG−36RDキメラ遺伝子が内生のAG遺伝子に対して優勢的に機能することは明白である。また、35S:CUC2−36RDにおいて観察された子葉の融合は、CUC2及びCUC1(CUC2と相補的に働く類似遺伝子)遺伝子の二つを破壊した時のみ観察される形質(cuc1 cuc2)であり、このことから35S:CUC2−36RDキメラ遺伝子が内生のCUC2遺伝子のみならずそれと機能を同じくするCUC1遺伝子に対しても優勢に機能し、標的遺伝子の発現を抑制することが証明された。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 下記式(I)で示されるアミノ酸配列からなる、植物の転写抑制機能を有するペプチド。
式(I)
X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3
(式中、X1及びX3は1〜10個の任意のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列を表し、X2はLys又はArgを表す。)
〔2〕 前記ペプチドが、配列番号3〜33のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、前記〔1〕に記載のペプチド。
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のペプチドをコードする核酸分子。
〔4〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のペプチドと、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインとが結合していることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質。
〔5〕 前記〔3〕に記載の核酸分子と、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインをコードする核酸分子とが読み枠をそろえて連結されていることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質をコードする核酸分子。
〔6〕 前記〔5〕に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
〔7〕 前記〔5〕に記載の核酸分子が発現可能に導入されている、形質転換体。
〔8〕 前記〔5〕に記載の核酸分子が発現可能に導入されている、形質転換植物。
〔9〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のペプチドを、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインと結合させることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質の製造方法。
〔10〕 前記〔6〕に記載の核酸分子を含む発現ベクターを用いて形質転換した細胞を培養し、採取することを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質の製造方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明のペプチドは、従来から知られていた転写抑制機能を有するペプチドと同様、極めて短いサイズで、効果的に遺伝子の転写を抑制でき、特定の標的遺伝子の転写制御領域に結合する転写因子、又はそのDNA結合ドメインと連結したキメラタンパク質は、当該転写因子を転写抑制因子に変換する機能を有する。
したがって、本発明の遺伝子は、公知の転写抑制機能ペプチドをコードする遺伝子と同様に、特定の標的遺伝子の転写制御領域に結合する転写因子、又はそのDNA結合ドメインをコードする遺伝子、あるいは、その転写制御因子と転写制御複合体を形成する遺伝子と融合させたキメラ遺伝子とすることで、特定の遺伝子のみを標的にした転写抑制を行うことができ、この転写因子の転写に重複して関与する他の転写因子の機能をも抑制することができるので、標的遺伝子の転写、発現を確実に阻害することができる。
しかも、本発明のペプチドは、従来公知の転写抑制機能を有するペプチド群とは全く異なる保存モチーフを有しているので、従来公知のペプチドに代替して又は組み合わせて用いることにより、各種植物の育種分野での適用の幅がさらに広がる可能性が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においては、下記式(I)で表されるアミノ酸配列からなる転写抑制因子であり、かつ転写因子を転写抑制因子に変換する機能を有するペプチドが提供される。

式(I)
X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3

上記式(I)中、X2はLys又はArgを表す。X1及びX3についてはどのようなアミノ酸であってもよく、X1及びX2のアミノ酸配列を構成するアミノ酸の数はそれぞれが1〜10個の範囲内であればいくつでもよい。使用するペプチドの合成のし易さからみれば短い方がよいが、確実に抑制効果を上げるためには、X1及びX3をあわせた数が3以上であることが好ましい。より好ましくは、X1+X3が6以上、さらに好ましくは10以上であることが好ましい。
本発明における最適なペプチドとしては、8〜15個のアミノ酸からなる配列番号3〜33に示されるアミノ酸配列が例示される。これら配列番号3〜33に示されるアミノ酸配列のX1又はX3の部分において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドも本発明ペプチドとして好ましい。なお、ここで、「1から数個」とは、1から10個、好ましくは1から7個、より好ましくは1から5個、さらに好ましくは1から3個程度を意味する。
本発明の転写抑制ペプチドに含まれる保存モチーフは、「K/RLFGV」であり、上記従来技術に示した(L/F)DLN(L/F)(X)Pなるモチーフとは異なるアミノ酸配列を有しており、本発明者らにより転写抑制機能が発見されたSUP遺伝子がコードするアミノ酸配列中のモチーフ「DLELRL」とも全く異なるモチーフである。
これら転写抑制ペプチドは、短いので簡単に化学的に合成することもできるが、これらペプチドをコードする核酸分子を適当な発現ベクターに繋ぎ、形質転換細胞により製造することも可能である。植物体又は植物細胞、酵母細胞内で転写抑制因子として働かせる場合には、当該転写抑制ペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターに繋いで又は繋がずに細胞内に導入して細胞内で転写抑制機能を発揮させてもよい。
【0013】
本発明においては、上記のいずれかの転写抑制ペプチドと、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインとを結合させた転写抑制機能を有するキメラタンパク質も提供するものである。
その場合、それぞれのペプチド同士を化学的にペプチド結合させることもできるが、一般的には本発明の転写抑制ペプチドをコードする核酸分子と、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインをコードする核酸分子とを、読み枠をそろえて結合したキメラ遺伝子を適切なプロモーターの制御下におき、標的遺伝子を含む細胞内で発現させて標的遺伝子に作用させる。すなわち、当該キメラ遺伝子をプロモーター配列に繋ぎ、発現ベクターを用い、又は用いずに植物体又は植物細胞などを形質転換し、該キメラ遺伝子を形質転換細胞内で発現させ発現産物としてキメラタンパク質を生成させる。このキメラタンパク質においても転写因子由来のDNA結合領域は標的遺伝子の転写制御領域と結合するが、本来転写因子が有する転写活性化機能に優先して、転写抑制ペプチドに由来する転写抑制機能が発揮されるために、該標的遺伝子の転写が抑制されて発現は起こらない。
【0014】
本発明のキメラタンパク質による転写抑制機能は転写制御因子のDNA結合ドメインの種類を問わず作用する。本発明のキメラタンパク質の転写抑制機能には標的遺伝子の転写制御領域との結合が必要であるから、上記のキメラタンパク質をコードする遺伝子は、特定の標的遺伝子の転写制御領域に結合するDNA結合ドメインを有する転写制御遺伝子、または、その転写制御遺伝子のDNA結合ドメインをコードする核酸配列、および特定の標的遺伝子の転写制御領域に結合する転写因子と転写制御複合体を形成する遺伝子と融合させてキメラ遺伝子とし、特定の遺伝子のみを標的にした転写抑制を行うことができる。
【0015】
すなわち、本発明のキメラ遺伝子は、転写因子を転写抑制因子に変換する機能を有するペプチドと転写因子とが連結したキメラタンパク質を発現し、該キメラタンパク質における転写因子由来のDNA結合ドメインが結合する転写制御領域によって制御される遺伝子の転写を特異的に抑制する。したがって、ある特定の遺伝子の転写抑制を行う場合、該遺伝子の転写を支配している転写因子を選び、該転写因子をコードする遺伝子の末端又はDNA結合ドメインに本発明の遺伝子を連結させてキメラ遺伝子を構築し、該遺伝子を適当なベクターに連結して、上記特定の遺伝子の転写を抑制したい生体部位に導入して、上記特定の遺伝子の転写を抑制すればよい。
さらに、本発明の上記キメラ遺伝子発現産物であるキメラタンパク質は、その転写因子のDNA結合ドメインが結合する遺伝子の転写を特異的に抑制し、この転写抑制は優性形質として現れる。
【0016】
本発明の転写抑制ペプチドを転写活性化因子に融合して発現させることで、該転写活性化因子の機能を転写抑制因子に転換し、当該転写因子が活性化するはずの標的遺伝子の転写を特異的に、また、優性的に抑制することを立証するために、本発明者らが上記特許文献1〜8、非特許文献1〜3で用いた手法と同様の手法、すなわちCRES−T法を適用した。
AGAMOUS(AG)転写因子を用いた場合を例にしてさらに詳細に説明する。
AGAMOUSはシロイヌナズナの花器官形成に働く転写活性化因子であり、この遺伝子の機能が欠損したag変異体では雄蕊と雌蕊が花弁化し、さらに花器官の形成が終息しないために次々と花弁が形成され続け、最終的には多数の花弁を有する、いわゆる八重咲きの花になることが知られている。この転写活性化因子AGに対して、本発明の「K/RLFGV」モチーフを含むペプチドをコードする遺伝子を融合し、シロイヌナズナで発現させると、公知の(L/F)DLN(L/F)(X)Pモチーフの場合(非特許文献2)と同様に、八重咲きの花が得られた。このことは転写活性化能を有するAG遺伝子が、本発明の転写抑制ペプチドと融合されたことにより転写抑制因子へと機能転換し、さらに、内在のAG遺伝子に対して優性的に働いたことを示している。
【0017】
CUP-SHAPEDCOTYLEDON1(CUC2)転写因子を用いた場合を例にしてさらに詳細に説明する(非特許文献3)。
CUC2は、同じNACドメインを持つCUC1と共に、芽生えの頂芽の形成を制御する転写因子であり、CUC1とCUC2遺伝子の両方に変異を持つ場合にのみ、その植物体の子葉がカップ状の形態(cup-sahped cotyledon)を示し、かつ頂芽の分裂組織の形成が行われないことが明らかになっている。一方、CUC1又はCUC2の一方だけに変異が入っているものは正常であることから、CUC1とCUC2は、機能的に重複した(redundant)因子であることが知られている(Development, 126, 1563, 1999; Development, 128, 1127, 2000)。これら重複した機能を持つCUC1とCUC2転写因子の遺伝子のうち、一方のCUC2遺伝子に、本発明のペプチドをコードする遺伝子を結合させたキメラ遺伝子を植物体で発現させた場合、発現したキメラタンパク質は、CUC2転写因子ばかりでなく、機能的に重複したCUC1転写因子の転写活性をも抑制し、CUC2転写因子が制御する遺伝子の発現を抑制することができる。この場合、その植物体の子葉はCUC1/CUC2の二重変異体の形質であるカップ状(cup-shaped cotyledon)の形状になり、また、頂芽分裂組織は形成されない。後記実施例6では、本発明の「K/RLFGV」モチーフを含むペプチドをコードする遺伝子とCUC2遺伝子とを融合させたキメラ遺伝子を構築し、キメラ遺伝子でシロイヌナズナ植物を形質転換した結果、CUC1/CUC2の二重欠損株である特徴を示すカップ状(cup-shaped cotyledon)の形質を示すこと、及びCUC2転写因子によって制御されている頂芽分裂細胞の形成を制御するSTM遺伝子の欠損株と同様に、頂芽分裂組織の形成がみられないことが確認された。このことは、転写活性化機能を有するCUC2転写因子が、本発明の上記ペプチドとの融合により、転写抑制因子に機能変換したことを示し、さらにCUC2転写因子ばかりでなく、機能的に重複するCUC1転写因子の活性をも優先的に抑制し、下流の遺伝子の発現を抑制していることを示すものである。この結果は、従来公知の「(L/F)DLN(L/F)(X)P」モチーフを含む転写抑制ペプチドを用いた結果(非特許文献3)と同様である。
【0018】
以上のことから理解されるように、本発明のペプチド及びそれをコードする遺伝子は、任意の転写因子を転写抑制因子に変換できる能力を有し、さらに機能的に重複(リダンダント)する他の転写因子の活性も抑制する能力を有する。
一方、植物の転写因子は、多くの場合、CUCで示されたように、機能的に重複した複数の転写因子を持つ場合が多く、本発明により機能変換した転写抑制因子は、優性形質(ドミナント)で作用することから、本発明によれば、これまで一遺伝子のノックアウトでは明らかにされなかった転写因子の機能解析が可能となり、また、コムギなどの複二倍体ゲノムを持つ植物にも有効に作用できる等の点で、極めて有用な手段である。
【0019】
上記したように、本発明のキメラ遺伝子は、該遺伝子に対応するキメラタンパク質を生成させ、このキメラタンパク質が標的遺伝子の転写制御領域と結合することにより、該標的遺伝子の転写を抑制するものであるから、このキメラタンパク質を別途合成し、これを直接標的遺伝子が存在する生体部位に導入してもよい。
このキメラタンパク質の合成には、通常の遺伝子工学的手法を用いて行えばよく、例えば、上記キメラ遺伝子を適当なベクターに組み込み、これを用いて形質転換させた微生物を培養することにより、上記キメラタンパク質を多量に合成することができる。
本発明の遺伝子の転写因子に対する結合位置は、該転写因子またはそのDNA結合ドメインをコードする領域の下流側末端である。本発明のペプチドをコードする遺伝子を転写因子をコードする遺伝子に挿入しようとする場合、転写因子をコードする遺伝子の切断、本発明の遺伝子の連結、再結合等の面倒な操作を伴うので、単に該転写因子のタンパク質コード領域の下流側末端に、本発明の遺伝子を結合するのが簡便である。この点は本発明の利点の一つでもある。
なお、本発明の遺伝子は、上記式(I)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドをコードするものであれば塩基配列はどのようなものであってもよい。また、本発明の遺伝子は、転写因子をコードする遺伝子と連結するための連結部位を設けてもよく、また本発明の遺伝子のアミノ酸読み枠と転写因子をコードする遺伝子読み枠が一致しない場合には、一致するように遺伝子を設計する。したがってそのための付加的な塩基配列を有していてもよい。例えば、式(I)で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、5’-GGGAGGCAACTCGAAGACATTAAGACTGTTCGGAGTGAACATGGAGTGCTAA-3’(配列番号65)がある。
【0020】
本発明において標的遺伝子の転写を抑制するには、上記キメラタンパク質を、直接生体に導入してもよいが、例えば植物の品種改良等を行う場合、恒常的に特定遺伝子の転写を抑制し、該遺伝子の発現を抑制する必要があり、上記キメラタンパク質をコードする遺伝子を適当なベクターに連結させ、この組換えベクターを用いて植物等を形質転換するのがより効果的である。これにより、キメラタンパク質をコードする遺伝子は植物体内で恒常的に発現し、生成されたキメラタンパク質は、遺伝子の転写を抑制し続ける。また、該遺伝子を導入した形質転換植物に由来する後の世代の植物(形質転換花粉等を用いた交配等で生じた植物も含む)においても、導入されたキメラタンパク質が生成される限り、標的遺伝子の発現は抑制される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は特にこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1においては、(i)酵母のGAL4転写因子のDNA結合ドメインをコードしている領域を結合させた種々のAt2g36080断片を、植物細胞で機能するカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流につないでエフェクタープラスミドを構築するとともに、(ii)カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターのエンハンサー領域とGAL4タンパク質結合DNA配列とカリフラワーモザイクウイルスの35SプロモーターのTATA領域をプロモーター領城に結合したルシフェラーゼ遺伝子からなるリポーター遺伝子を構築した。これらのエフェクタープラスミドとリポーター遺伝子とを同時にシロイヌナズナ葉にパーティクルガンを用いて導入し、リポーター遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子の活性を測定することによって、At2g36080の全アミノ酸配列を有する蛋白質をコードする遺伝子、および、178-192アミノ酸配列を有するAt2g36080部分タンパク質をコードする遺伝子の転写抑制能を調べたものである。
実施例2は、At2g36080の183−192アミノ酸配列を有するAt2g36080部分タンパク質をコードする遺伝子の転写抑制能をリポーター遺伝子であるルシフェラーゼ活性の測定により調べたものである。
実施例3は、R/KLFGVアミノ酸配列を有するAt3g11580, At2g46870, At1g13260, At1g68840, At4g36990, At4g11660遺伝子のタンパク質をコードする遺伝子の転写抑制能をリポーター遺伝子であるルシフェラーゼ活性の測定により調べたものである。
実施例4は、At4g36990の233−243アミノ酸配列を有するAt4g36990部分タンパク質をコードする遺伝子の転写抑制能をリポーター遺伝子であるルシフェラーゼ活性の測定により調べたものである。
実施例5は実際の植物における転写因子であるAG遺伝子にGNSKLTLRLFGVNMEC (36RD;At2g36080のリプレッションドメイン178-192)をコードする遺伝子断片を結合させ、これをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流につないで形質転換プラスミドを構築し、該プラスミドをシロイヌナズナ植物体に導入し、形質転換植物の花の形態を観察することにより、AG遺伝子の標的遺伝子に対する上記遺伝子断片の転写機能抑制効果を調べたものである。
実施例6は実際の植物における転写因子であるCUC2遺伝子にGNSKLTLRLFGVNMEC (36RD;At2g36080のリプレッションドメイン178-192)をコードする遺伝子断片を結合させ、これをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流につないで形質転換プラスミドを構築し、該プラスミドをシロイヌナズナ植物体に導入することで作成した形質転換植物体の発芽後の子葉の形態を観察することにより、CUC2遺伝子及び該遺伝子と機能的に重複するCUC1遺伝子の標的遺伝子に対する上記遺伝子断片の転写機能抑制効果を調べたものである。
【0023】
(実施例1) At2g36080遺伝子含有エフェクタープラスミドによる転写抑制
(1−1)エフェクタープラスミド用ベクターp35S−GAL4DBDの構築
クローンテック社製(Clontech社,USA)のプラスミドpBI221を制限酵素XhoIとSacIで切断し、T4ポリメラーゼで平滑末端処理した後、アガロースゲル電気泳動でGUS遺伝子を除き、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(以下CaMV 35Sという)とノパリン合成酵素遺伝子の転写終止領域(Nosターミネーター、以下Nos−terという)を含む35S−Nosプラスミド断片DNAを得た。
クローンテック社製のpAS2−1ベクターを制限酵素HindIIIで消化し、酵母GAL4タンパク質のDNA結合領域(1−147アミノ酸残基)をコードする748 bpのDNA断片(以下GAL4DBDという)をアガロースゲル電気泳動によって単離した後、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理をした。このGAL4DBDコード領域を含むDNA断片を、先ほどの35S−NosのDNAの35SプロモーターとNosターミネーター間の平滑末端にした部位に挿入し、35Sプロモニターに対して酵母GAL4タンパク質のDNA結合領域のORFが順方向に並んでいるものを選抜してp35S−GAL4DBDベクターを構築した。
【0024】
(1−2)エフェクタープラスミドの構築 (図1A)
(1−2−1) At2g36080遺伝子の全蛋白質コード領域(1−244aa.)を含むエフェクタープラスミドpGAL4-At2g36080の構築
At2g36080遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt2g36080遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g36080遺伝子の5末アッパープライマーprimer1(At2g36080遺伝子・塩基配列1−29に結合):
gATGTCAATAAACCAATACTCAAGCGATTT(配列番号34)と、
制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer1(At2g36080遺伝子塩基配列710−735に結合):
gtcgacgtcgacTTAGCTCGTCCGGTTCATATCTCCT(配列番号35)
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ実生由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At2g36080遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素SmaIとSalIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。
なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。
【0025】
(1−2−2) At2g36080遺伝子のアミノ酸配列1-169を含むエフェクタープラスミドpGAL4-At2g36080-1stEXの構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g36080遺伝子の5末アッパープライマーprimer1:
gATGTCAATAAACCAATACTCAAGCGATTT(配列番号34)と、
ローワープライマーprimer2(At2g36080遺伝子塩基配列491−506に結合):
AATAAAAAGGGTACCTGCATGAGGATAATA(配列番号36)
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、pGAL4-At2g36080を鋳型としてPCRを行い、At2g36080遺伝子のアミノ酸配列1-169を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のアミノ酸配列1-169を含む領域をコードする配列であることを確認した。
なお上記PCR反応の条件は、前記(1−2−1)と同様である。
【0026】
(1−2−3) アミノ酸配列178-192を欠失したAt2g36080遺伝子のエフェクタープラスミドpGAL4-de178 to 192の構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g36080遺伝子の5末アッパープライマーprimer1:
gATGTCAATAAACCAATACTCAAGCGATTT(配列番号34)と、
制限酵素BglII部位を持つローワープライマーprimer3(At2g36080遺伝子塩基配列511−531に結合):
AGATCTAGATCTTTGGCTCTCCACCGCTTG(配列番号37)
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、pGAL4-At2g36080を鋳型としてPCRを行い、At2g36080遺伝子のアミノ酸配列1-178を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のアミノ酸配列1-178を含む領域をコードする配列であることを確認し、pGAL4-1-178とした。
制限酵素BglII部位を持つアッパープライマーprimer2(At2g36080遺伝子塩基配列577−598に結合):
agatctagatctCAGCTAGATTCGGACTGGTC(配列番号38)と、
制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer1(At2g36080遺伝子塩基配列710−735に結合):
gtcgacgtcgacTTAGCTCGTCCGGTTCATATCTCCT(配列番号35)
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、pGAL4-At2g36080を鋳型としてPCRを行い、At2g36080遺伝子のアミノ酸配列193-244を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素BglIIとSalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素BglIIとSalIで予め消化しておいたpGAL4-1-178プラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のアミノ酸配列からアミノ酸番号178から192領域を欠失する蛋白質をコードする配列であることを確認した。
なお上記PCR反応の条件は、前記(1−2−1)と同様である。
【0027】
(1−2−4) At2g36080遺伝子の部分アミノ酸配列178-192を持つエフェクタープラスミドpGAL4-178/192の構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g36080遺伝子の部分配列1(配列番号39:At2g36080遺伝子塩基配列532−576に相当):
aGGCAACTCGAAGACATTAAGACTGTTCGGAGTGAACATGGAGTGCTAAおよびその相補配列である
部分配列2(配列番号40:At2g36080遺伝子塩基配列532−576の相補配列に相当):
TTAGCACTCCATGTTCACTCCGAACAGTCTTAATGTCTTCGAGTTGCCT
をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらを混合して90℃2分加熱した後、60℃で1時間加熱し、その後室温(25℃)で2時間静置してアニーリングさせ二本鎖DNA断片を得た。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のアミノ酸配列178-192を含む領域をコードする配列であることを確認した。
【0028】
(1−3)レポーター遺伝子の構築(図1A)
(1−3−1) p35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子の構築(図1A)
プラスミドpUC18を制限酵素EcoRIとSstIで消化した。pBI221プラスミド(クローンテック社)を制限酵素EcoRIとSstIで消化し、Nos−ter(nopaline synthase terminator)領域を含む270bpのDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって単離した。得られた断片を制限酵素EcQRIとSstIで消化しておいたプラスミドpUC18のEcoRI−SstI部位に挿入した。カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターTATAボックスを含む相補鎖のDNA1:AGCTTAGATCTGCAAGACCCTTCCTCTATATAAGGAAGTTCATTTCATTTGGAGAGGACACGCTG(配列番号41)、及びDNA2:GATCCAGCGTGTCCTCTCCAAATGAAATGAACTTCCTTATATAGAGGAAGGGTCTTGCAGATCTA(配列番号42)を合成した。
合成したDNAを90℃2分加熱した後、60℃で1時間加熱し、その後室温(25℃)で2時間静置してアニーリングさせ2本鎖を形成させた。Nos−terを持つpUC18プラスミドを制限酵素HindIIIとBamHIで消化した。合成した2本鎖DNAをpUC18のHindIII−BamHI部位に挿入し、TATA−boxとNos−terを含むプラスミドを構築した。
このプラスミドを制限酵素SstIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理を行った。
ホタル・ルシフェラーゼ遺伝子(LUC)をもつプラスミドベクターPGV−CS2(東洋インキ社製)を制限酵素XbaIとNcoIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理を行った後、アガロースゲル電気泳動によって、ルシフェラーゼ遺伝子を含む1.65kbのDNA断片を単離精製した。このDNA断片を上記のTATAボックスとNosターミネーターを含むプラスミドに挿入し、pTATA−LUCリポーター遺伝子を構築した。
酵母のGAL4タンパク質のDNA結合配列を5コピー持つプラスミドpG5CAT(Clontech社製)を制限酵素SmaIとXbaIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理を行った後、5コピーのGAL4タンパク質のDNA結合配列含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動で精製した。TATA−LUCベクターを制限酵素BglIIで消化し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理を行った。この部位に平滑末端化した5コピーのGAL4タンパク質のDNA結合配列含むDNA断片を挿入し、得られたプラスミドのうちGAL4タンパク質のDNA結合配列が順方向に向いているものを選抜し、リポーター遺伝子pGAL4−LUCを構築した。
さらに、プラスミドpBI121を鋳型として、5末アッパープライマー:CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号43)と、3末ローワープライマー:
AAGGGTAAGCTTAAGGATAGTGGGATTGTGCGTCATC(配列番号44)
を用いてPCRを行い、CaMV 35Sプロモーターの−800〜−46領域を含むDNA断片を得た。制限酵素HindIIIで消化した後、CaMV 35Sプロモーター−800〜−46領域を含む760bpのDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって単離した。このHindIII断片を、あらかじめ制限酵素HindIIIで消化しておいたリポーター遺伝子pGAL4−LUCに挿入し、CaMV 35SプロモーターDANが順方向に向いているものを選抜し、p35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子を構築した(図1A参照)。
【0029】
(1−4)レファレンス遺伝子の構築
ウミシイタケ由来のルシフェラーゼ遺伝子をもつプロメガ社製カセットベクターpRL−nullを制限酵素NheIとXbaI制限酵素で切断し、T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理を行った後、アガロースゲル電気泳動でウミシイタケ・ルシフェラーゼ遺伝子を含む948bpのDNA断片を精製した。このDNA断片をエフェクタープラスミドの構築の際に用いたGUS遺伝子を除いたpBI221ベクターのGUS遺伝子があった領域に挿入した。得られたプラスミドのうち、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ遺伝子が順方向に向いているものを選抜した(pPTRLの構築)。
【0030】
(1−5)レポーター遺伝子の活性測定法
シロイヌナズナ植物にリポーター遺伝子とエフェクタープラスミドを、パーティクルガン法を用いて導入し、エフェクターの効果をリポーター遺伝子の活性を測定することによって調べた。
【0031】
(1−6)パーティクルガンによる遺伝子導入
上記で作成したp35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子1.6mgとエフェクタープラスミドpGAL4DB−RDのDNAを各1.2mgと、リファレンス遺伝子プラスミド0.4mgを直径1mmの金粒(BioRad社製)510mgにコーティングした。生育期間21日目のシロイヌナズナ葉7枚を、水で湿らせた濾紙をおいた9cmシャーレにならべ、Bio−Rad社製PDS−1000/Heボンバートメント機を用いてDNAを打ち込んだ。22℃で6時間明所で静置した後、レポーター遺伝子の活性を測定した。
【0032】
(1−7)ルシフェラーゼ活性測定
6時間静置したシロイヌナズナ葉を、液体窒素中で粉砕し、Dual−LuciferaseTM Reporter Assay System(Promega社製)に添付されているPassive Lysis Buffer 200μlに懸濁した後、遠心して上清を回収した。この細胞抽出液20μlをDual−LuciferaseTM Reporter Assay System(Promega社製)に添付されている測定バッファー100μlに混合し、ルミノメーター(TD20/20,Turener Design社製)を用いてルシフェラーゼ活性測定を行った。ホタル・ルシフェラーゼ及びウミシイタケ・ルシフェラーゼ活性の測定を測定キットの説明書に従って10秒間の発光を積分モードでカウントした。リファレンス遺伝子の活性値をリポーター遺伝子の活性値で割り、その相対値であるRelative lucifarase activityを測定値として求めた。実験は、エフェクタープラスミドの種類ごと3回個別にトランジェントアッセイ実験を行い、平均値と標準偏差を求めた。エフェクターとしてPUC18を入れた場合のp35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子の活性の相対値を1として、各々のDNA断片をGAL4DBDに融合したエフェクタープラスミドを同時に細胞に導入したときのリポーター遺伝子の活性値の変動によって評価し、エフェクターの効果を調査した。すなわち、p35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子と各ペプチド配列をコードするDNAを組み込んだエフェクタープラスミドを導入したとき、リポーターの活性値が減少すれば、そのペプチドは、レポーター遺伝子の活性を抑制する効果(リプレッサー機能)があることを示している。以下、リポーターの活性値を測定して、p35S−GAL4−LUCリポーターの相対活性値が1以下になる場合に、導入したエフェクターにはリプレッサー機能が存在すると判断した。
【0033】
(1−8)リプレッサードメインの同定
図1Aに、リポーター遺伝子とエフェクタープラスミドの構造を示す。図1Bにリポーター遺伝子の活性の測定結果を示す。
図1Bに示されるように、AT2G36080の全長、あるいは、At2g36080遺伝子のアミノ酸番号178−192を含むエフェクターは、リポーター遺伝子の活性をPUC18エフェクターとして導入した場合(コントロール)に比べ75〜90%以上減少させたことから、これらのペプチドは転写抑制能を持つことが証明された。一方、AT2G36080の1-169番目のアミノ酸からなるペプチド、あるいは、アミノ酸配列178-192を欠失したAt2g36080遺伝子のエフェクタープラスミドはリポーター遺伝子の活性を低下させなかった。このことは、GAL4DNA結合ドメインに結合したAt2g36080遺伝子のアミノ酸番号178−192を含む領域が、転写を抑制するリプレッサーとして機能していることを示している。
【0034】
(実施例2) リプレッションドメインとして機能するペプチドの同定
(2−1)At2g36080遺伝子の部分アミノ酸配列183−192を持つエフェクタープラスミドpGAL4-183/192の構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g36080遺伝子の部分配列3(配列番号45:At2g36080遺伝子・塩基配列547−576に相当): TTAAGACTGTTCGGAGTGAACATGTAAおよびその相補配列である
部分配列4(配列番号46:At2g36080遺伝子塩基配列547−576の相補配列に相当)TTACATGTTCACTCCGAACAGTCTTAA:をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらを混合して90℃2分加熱した後、60℃で1時間加熱し、その後室温(25℃)で2時間静置してアニーリングさせ二本鎖DNA断片を得た。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g36080遺伝子のアミノ酸配列178-192を含む領域をコードする配列であることを確認した。
【0035】
(2−2)遺伝子導入とルシフェラーゼ活性測定
前記実施例(1−3−1)と同様の手法により、p35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子を構築し、同(1−4)の手法に従いレファレンス遺伝子(pPTRL)を構築した。
また、前記実施例(1−5)に記載されるレポーター遺伝子の活性測定法と同様に、シロイヌナズナ植物にリポーター遺伝子とエフェクタープラスミドとを、同(1−6)と同様のパーティクルガン法を用いて導入し、エフェクターの効果をリポーター遺伝子の活性を測定することによって調べた。
6時間静置したシロイヌナズナ葉の細胞抽出液のルシフェラーゼ活性測定を同(1−6)のルシフェラーゼ活性測定と同様に行い、Relative lucifarase activityを測定値として求めた。実験は、エフェクタープラスミドの種類ごと3回個別にトランジェントアッセイ実験を行い、平均値と標準偏差を求めた。エフェクターとしてPUC18を入れた場合のp35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子の活性の相対値を1として、各々のDNA断片をGAL4DBDに融合したエフェクタープラスミドを同時に細胞に導入したときのリポーター遺伝子の活性値の変動によって評価し、エフェクターの効果を調査した。すなわち、p35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子と各ペプチド配列をコードするDNAを組み込んだエフェクタープラスミドpGAL4DB−RDを導入したとき、リポーターの活性値が減少すれば、そのペプチドは、レポーター遺伝子の活性を抑制する効果(リプレッサー機能)があることを示している。以下、リポーターの活性値を測定して、p35S−GAL4−LUCリポーターの相対活性値が1以下になる場合に、導入したエフェクターにはリプレッサー機能が存在すると判断した。
【0036】
(2−3)リプレッサードメインの同定
図1Cに、リポーター遺伝子とエフェクタープラスミドの構造を示す。図1Dにリポーター遺伝子の活性の測定結果を示す。
図1Dに示されるように、At2g36080遺伝子のアミノ酸番号178−192の領域、あるいはAt2g36080遺伝子のアミノ酸番号183−192の領域を含むエフェクターは、リポーター遺伝子の活性を、PUC18をエフェクターとして加えた場合(コントロール)に比べ87〜97%以上減少させたことから、これらのペプチドは転写抑制能を持つことが証明された。
このことは、GAL4DNA結合ドメインに結合したAt2g36080遺伝子断片(183−190aa.)が、転写を抑制するリプレッサーとして機能していることを示している。
【0037】
(実施例3) R/KLFGVアミノ酸配列を有する遺伝子を含有するエフェクタープラスミドによる転写抑制
(3−1)エフェクタープラスミドの構築
(3−1−1) At3g11580遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At3g11580の構築
At3g11580遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt3g11580遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt3g11580遺伝子の5末アッパープライマーprimer(配列番号47:At3g11580遺伝子・塩基配列1−29に相当):
gATGTCAGTCAACCATTACCACAACACTCT
と、制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer(配列番号48:At3g11580遺伝子塩基配列782−804に相当):GTCGACGTCGACtcaACCTCGTCCATCTCCTACCTG
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ実生由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At3g11580遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素SmaIとSalIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt3g11580遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。
【0038】
(3−1−2) At2g46870遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At2g46870の構築
At2g46870遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt2g46870遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt2g46870遺伝子の5末アッパープライマーprimer(配列番号49:At2g46870遺伝子・塩基配列1−29に相当):gATGATGACAGATTTATCTCTCACGAGAGA
と、3末ローワープライマーprimer(配列番号50:At2g46870遺伝子塩基配列910−933に相当):TTATTGATCCAAATCAAAAGACAA
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナさや由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At2g46870遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、インサートの方向性と塩基配列を決定し、すでに報告されているAt2g46870遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は、前記(3−1−1)と同様である。
【0039】
(3−1−3) At1g13260遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At1g13260の構築
At1g13260遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt1g13260遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt1g13260遺伝子の5末アッパープライマーprimer(配列番号51:At1g13260遺伝子・塩基配列1−22に相当):GATGGAATCGAGTAGCGTTGATG
と、3末ローワープライマーprimer(配列番号52:At1g13260遺伝子塩基配列1012−1035に相当):TTACGAGGCGTGAAAGATGCGTTG
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ実生由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At1g13260遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、インサートの方向性と塩基配列を決定し、すでに報告されているAt1g13260遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は、前記(3−1−1)と同様である。
【0040】
(3−1−4) At1g68840遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At1g68840の構築
At1g68840遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt3g11580 At1g68840遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt1g68840遺伝子の5末アッパープライマーprimer(配列番号53:At1g68840遺伝子・塩基配列1−22に相当):GATGGATTCTAGTTGCATAGACG
と、3末ローワープライマーprimer(配列番号54:At1g68840遺伝子塩基配列1035−1059に相当):TTACAAAGCATTGATTATCGCCTGC
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ実生由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At1g68840遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、インサート領域の方向性と塩基配列を決定し、すでに報告されているAt1g68840遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は、前記(3−1−1)と同様である。
【0041】
(3−1−5) At4g36990遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At4g36990の構築
At4g36990遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt4g36990遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt4g36990遺伝子の5末アッパープライマーprimer1(配列番号55:At4g36990遺伝子・塩基配列1−29に相当):gATGACGGCTGTGACGGCGGCGCAAAGATC
と、制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer1(配列番号56:At4g36990遺伝子塩基配列823−855に相当):gtcgacgtcgacTTAGTTGCAGACTTTGCTGCTTTTCCACAACGG
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ根由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At4g36990遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素SmaIとSalIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt4g36990遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は、前記(3−1−1)と同様である。
【0042】
(3−1−6) At4g11660遺伝子の全蛋白質コード領域を含むエフェクタープラスミドpGAL4−At4g11660の構築
At4g11660遺伝子の塩基配列は、すでに報告されているシロイヌナズナAt4g11660遺伝子のタンパク質コード領域の5’側と3’側に、GAL4DBDの読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt4g11660遺伝子の5末アッパープライマーprimer(配列番号57:At4g11660遺伝子・塩基配列1−29に相当):gATGCCGGGGGAACAAACCGGAGAAACTCC
と、制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer(配列番号58:At4g11660遺伝子塩基配列1108−1134に相当):gtcgacgtcgacTCATTTTCCGAGTTCAAGCCACGACCC
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、シロイヌナズナ根由来のcDNAを鋳型としてPCRを行い、At4g11660遺伝子のタンパク質コード領域を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素SmaIとSalIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt4g11660遺伝子のタンパク質コード領域であることを確認した。なお上記PCR反応の条件は前記(3−1−1)と同様である。
【0043】
(3−2)遺伝子導入とルシフェラーゼ活性測定
前記実施例(1−3−1)と同様の手法により、p35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子を構築し、同(1−4)の手法に従いレファレンス遺伝子(pPTRL)を構築した。
また、前記実施例(1−5)に記載されるレポーター遺伝子の活性測定法と同様に、シロイヌナズナ植物にリポーター遺伝子とエフェクタープラスミドとを、同(1−6)と同様のパーティクルガン法を用いて導入し、エフェクターの効果をリポーター遺伝子の活性を測定することによって調べた。
6時間静置したシロイヌナズナ葉の細胞抽出液のルシフェラーゼ活性測定を同(1−6)のルシフェラーゼ活性測定と同様に行い、Relative lucifarase activityを測定値として求めた。実験は、エフェクタープラスミドの種類ごと3回個別にトランジェントアッセイ実験を行い、平均値と標準偏差を求めた。エフェクターとしてp35S−GAL4DBDを入れた場合のp35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子の活性の相対値を1として、各々のDNA断片をGAL4DBDに融合したエフェクタープラスミドを同時に細胞に導入したときのリポーター遺伝子の活性値の変動によって評価し、エフェクターの効果を調査した。すなわち、p35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子と各ペプチド配列をコードするDNAを組み込んだエフェクタープラスミドpGAL4DB−RDを導入したとき、リポーターの活性値が減少すれば、そのペプチドは、レポーター遺伝子の活性を抑制する効果(リプレッサー機能)があることを示している。以下、リポーターの活性値を測定して、p35S−GAL4−LUCリポーターの相対活性値が1以下になる場合に、導入したエフェクターにはリプレッサー機能が存在すると判断した。
【0044】
(3−3)リプレッサーの同定
図2Aから図2Gにリポーター遺伝子の活性の測定結果を示す。
図2Aから図2Gに示されるように、「R/KLFGV」のアミノ酸配列を有するAt3g11580, At2g46870, At1g13260, At1g68840, At4g36990, At4g11660遺伝子のタンパク質をコードする遺伝子領域をGAL4DBDに融合したペプチドを含むエフェクターは、リポーター遺伝子の活性をp35S−GAL4DBDをエフェクターとして加えた場合(コントロール)に比べ82〜96%減少させたことから、これらのペプチドは転写抑制能を持つことが証明された。このことは、GAL4DNA結合ドメインに結合したAt3g11580, At2g46870, At1g13260, At1g68840, At4g36990, At4g11660遺伝子が、転写を抑制するリプレッサーとして機能していることを示している。
【0045】
(実施例4) At4g36990のリプレッションドメインの同定
(4−1)エフェクタープラスミドの構築
(4−1−1) At4g36990遺伝子の部分アミノ酸配列(233-243)を含むエフェクタープラスミドpGAL4- At4g36990-233/243の構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt4g36990遺伝子の部分配列1(配列番号59:At4g36990遺伝子・塩基配列697−729に相当、3‘側にSalI制限酵素サイトを有する):gGGTGAAGGATTGAAATTGTTTGGGGTGTGGTTGgtcgacgtcgac
およびその相補配列である部分配列2(配列番号60:At4g36990遺伝子塩基配列697−729の相補配列に相当、5‘側にSalI制限酵素サイトを有する):GTCGACGTCGACCAACCACACCCCAAACAATTTCAATCCTTCACCC
をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらを混合して90℃2分加熱した後、60℃で1時間加熱し、その後室温(25℃)で2時間静置してアニーリングさせ二本鎖DNA断片を得た。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、インサートの方向性と塩基配列を決定し、すでに報告されているAt4g36990遺伝子のアミノ酸配列233-243を含む領域をコードする配列であることを確認した。
【0046】
(4−1−2) アミノ酸配列236-243に変異を導入したAt4g36990遺伝子のエフェクタープラスミドpGAL4-mut236-243の構築
GAL4DBDと読み枠(フレーム)が一致するように設計したAt4g36990遺伝子の5末アッパープライマーprimer1(配列番号55:At4g36990遺伝子・塩基配列1−29に相当):gATGACGGCTGTGACGGCGGCGCAAAGATC
と、ローワープライマーprimer2(配列番号61:At4g36990遺伝子塩基配列680−705に相当):CCCCCCGCGGCTCCAGCTCCTTCACCTACCCCCTCCTCTGC
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、pGAL4−At4g36990を鋳型としてPCRを行い、At4g36990遺伝子のアミノ酸配列1-236を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SmaIで予め消化しておいた35S−GAL4DBDプラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt4g36990遺伝子のアミノ酸配列1-236を含む領域をコードする配列であることを確認し、pGAL4−1-236とした。アッパープライマーprimer2(配列番号62:At4g36990遺伝子・塩基配列732−752に結合):gggccgcgggggcttgggctAAAGGAGAGAGAAAAAAGAGGG
と、制限酵素SalI部位を持つ3末ローワープライマーprimer1(配列番号56:At4g36990遺伝子塩基配列823−855に結合):gtcgacgtcgacTTAGTTGCAGACTTTGCTGCTTTTCCACAACGG
に相当する配列をもつオリゴヌクレオチドをそれぞれ合成し、これらをプライマーとして、pGAL4−At4g36990を鋳型としてPCRを行い、At4g36990遺伝子のアミノ酸配列244-283を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を制限酵素SalIで消化し、アガロース電気泳動によって目的とするDNA断片を単離し、制限酵素SmaIとSalIで予め消化しておいたpGAL4−1-236プラスミドに組み込んだのち、塩基配列を決定し、すでに報告されているAt4g36990遺伝子のアミノ酸配列からアミノ酸番号236から243領域にアミノ酸変異を有する配列であることを確認した。
なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。
【0047】
(4−2)遺伝子導入とルシフェラーゼ活性測定
前記実施例(1−3−1)と同様の手法により、p35S−GAL4−LUCリポーター遺伝子を構築し、同(1−4)の手法に従いレファレンス遺伝子(pPTRL)を構築した。
また、前記実施例(1−5)に記載されるレポーター遺伝子の活性測定法と同様に、シロイヌナズナ植物にリポーター遺伝子とエフェクタープラスミドとを、同(1−6)と同様のパーティクルガン法を用いて導入し、エフェクターの効果をリポーター遺伝子の活性を測定することによって調べた。
6時間静置したシロイヌナズナ葉の細胞抽出液のルシフェラーゼ活性測定を同(1−6)のルシフェラーゼ活性測定と同様に行い、Relative lucifarase activityを測定値として求めた。実験は、エフェクタープラスミドの種類ごと3回個別にトランジェントアッセイ実験を行い、平均値と標準偏差を求めた。エフェクターとしてPUC18を入れた場合のp35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子の活性の相対値を1として、各々のDNA断片をGAL4DBDに融合したエフェクタープラスミドを同時に細胞に導入したときのリポーター遺伝子の活性値の変動によって評価し、エフェクターの効果を調査した。すなわち、p35S−GAL4−LUCレポーター遺伝子と各ペプチド配列をコードするDNAを組み込んだエフェクタープラスミドpGAL4DB−RDを導入したとき、リポーターの活性値が減少すれば、そのペプチドは、レポーター遺伝子の活性を抑制する効果(リプレッサー機能)があることを示している。以下、リポーターの活性値を測定して、p35S−GAL4−LUCリポーターの相対活性値が1以下になる場合に、導入したエフェクターにはリプレッサー機能が存在すると判断した。
【0048】
(4−3)リプレッサーの同定
図3Bにリポーター遺伝子の活性の測定結果を示す。
図3Bに示されるように、AT4g36990の全長、あるいは、AT4g36990遺伝子のアミノ酸番号233-243を含むエフェクターは、リポーター遺伝子の活性をPUC18をエフェクターとして導入した場合(コントロール)に比べ60〜80%減少させたことから、これらのペプチドは転写抑制能を持つことが証明された。一方、AT4g36990の236−243番目のアミノ酸に変異を導入したAT4g36990遺伝子のエフェクタープラスミドはリポーター遺伝子の活性を低下させなかった。このことは、AT4g36990遺伝子の233−243番目のアミノ酸が転写を抑制するリプレッサードメインとして機能していることを示している。
【0049】
(実施例5) At2g36080リプレッションドメイン178−192をコードする遺伝子断片による、植物体におけるAGの転写活性化機能の抑制
(5−1)形質転換用ベクターpBIG2の構築
クローンテック社製(Clontech社,USA)のプラスミドp35S−GFPを制限酵素HindIIIとBamHIで切断し、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S)を含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動で分離し回収した。米国ミシガン州立大学より譲渡された植物形質転換用ベクターpBIG−HYG(Becker,D.1990 Nucleic Acid Research,18:203)を制限酵素HindIIIとSstIで切断し、アガロースゲル電気泳動によってGUS遺伝子を除いたDNA断片を得た。
以下の配列を有するDNAを合成し、70℃で10分加温した後、自然冷却によりアニールさせて2本鎖DNAとした。このDNA断片には、5’末端にBamHI制限酵素部位、翻訳効率を高めるタバコモザイクウイルス由来のomega配列、及び制限酵素部位SmaI、SalIを有する。
5’-GATCCACAATTACCAACAACAACAAACAACAAACAACATTACAATTACAGATCCCGGGGGTACCGTCGACGAGCTC-3’(配列番号63)
5’- CGTCGACGGTACCCCCGGGATCTGTAATTGTAATGTTGTTTGTTGTTTGTTGTTGTTGGTAATTGT-3’(配列番号64)
CaMV 35Sプロモーター領域をふくむDNA断片と合成した2本鎖DNAを、GUS遺伝子を除いたpBIG−HYGのHindIII、SstI部位に挿入し、植物形質転換用ベクターpBIG2を得た。
【0050】
(5−2)形質転換ベクターpAG36RDの構築
At2g36080の部分塩基配列(532−576相当)の5’にGGGを3‘にストップコドンを付与した相補的な二本のDNA配列
5’-GGGAGGCAACTCGAAGACATTAAGACTGTTCGGAGTGAACATGGAGTGCTAA-3’(配列番号65)
5’-TTAGCACTCCATGTTCACTCCGAACAGTCTTAATGTCTTCGAGTTGCCTCCC-3’(配列番号66)
をアニールし、SmaIでカットした上記のpBIG2ベクターに挿入、シークエンスを確認して順方向に導入されたものを選抜し、p36RDとした。
シロイヌナズナの蕾から抽出したRNAを逆転写して作成したcDNAを鋳型として、5末アッパープライマーgATGACCGCGTACCAATCGGAGCTAGGAGG(配列番号67)
3末ローアープライマーCACTAACTGGAGAGCGGTTTGGTCTTGGCG(配列番号68)
を用いてPCR反応により(反応条件は前記各実施例における条件と同一)AGAMOUSの全長配列(塩基配列1−759、アミノ酸1−252)を増幅した。次いで、SmaIでカットしてアガロールゲル電気泳動で回収した上記のp36RDに挿入し、シークエンスを確認してAG遺伝子が順方向に導入されたものの中からさらにAG遺伝子と36RDの読み枠が一致しているものを選抜、pAG36RDとした。
【0051】
(5−3)pAG36RDで形質転換した植物体の作成
pAG36RDによるシロイヌナズナ植物の形質転換は、Transfomation of Arabidopsis thaliana byvacuum infiltration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に従った。ただし、感染させるのにバキュウムは用いないで、浸すだけにした。プラスミドpAG36RDを、土壌細菌[(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を250ミリリットルのLB培地で二日間培養した。
次いで、培養液から菌体を、回収し、500ミリリットルの感染用培地(Infiltration medium)に懸濁した。この溶液に、14日間生育したシロイヌナズナを1分間浸し、感染させた後、再び生育させ結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X−100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を30mg/lのハイグロマイシンを含む1/2MS選択培地に蒔種した。
上記ハイグロマイシンプレートで生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育した。
【0052】
(5−4)pAG36RDで形質転換した植物体の形質
pAG36RDで形質転換した植物体の形質を図4のCに示す。pAG36RDで形質転換した植物体の花においては花弁数の増加(いわゆる八重咲き)の形態が確認され、これは図4のBに示されるpAGSRDXで形質転換した植物体の花、および、ag変異体の花と類似していた。このことより、36RD(GNSKTLRLFGVNMEC:配列番号3)ペプチド断片は融合された転写活性化因子に転写抑制能を付与することが示された。
【0053】
(実施例6) At2g36080リプレッションドメイン178−192をコードする遺伝子断片による、植物体におけるCUC2とその重複遺伝子CUC1の転写活性化機能の抑制
(6−1)形質転換ベクターpCUC2-36RDの構築
前記実施例(5−1)及び(5−2)と同様の手法で形質転換用ベクターpBIG2にAT2G36080の部分塩基配列(532−576相当)を順方向に挿入したp36RDを得た。
シロイヌナズナの茎頂部から抽出したRNAを逆転写して作成したcDNAを鋳型として、5末アッパープライマーGGGATGGACATTCCGTATTACCACTAC(配列番号69)及び、CUC2遺伝子の3’末端からストップコドンを除去した3末ローアープライマーGTAGTTCCAAATACAGTCAAGTC(配列番号70)
を用いてPCR反応により(反応条件は前記各実施例における条件と同一)CUC2の全長配列(塩基配列1−1128、アミノ酸1−375)を増幅した。次いで、SmaIでカットしてアガロールゲル電気泳動で回収した上記のp36RDに挿入し、シークエンスを確認してCUC2遺伝子が順方向に導入されたものの中からさらにCUC2遺伝子と36RDの読み枠が一致しているものを選抜、pCUC2−36RDとした。
【0054】
(6−2)pCUC2−36RDで形質転換した植物体の作成
前記実施例(5−3)と同様に、pCUC2−36RDによりシロイヌナズナ植物を形質転換し、ハイグロマイシンプレートで選抜後土壌に植え換えて生育させた。
【0055】
(6−3)pCUC2−36RDで形質転換した植物体の形質
pCUC2−36RDで形質転換した実生の形質を図4のEに示す。通常、シロイヌナズナの実生は独立した子葉を二枚持つ「貝割れ菜」の形態を示すが、pCUC2−36RDで形質転換した植物体の実生においては子葉の一部または全体が融合した形質(いわゆるカップ状の形態)が確認され、茎頂分裂組織が欠損した個体も存在していた。これは図4のDに示されるpCUC2−SRDXで形質転換した植物体の実生、および、cuc1/cuc2の二重欠損株で見られる形状と非常に類似していた。
以上の結果から、36RD(GNSKTLRLFGVNMEC:配列番号3)のアミノ酸配列を持つペプチド及びそれをコードする遺伝子は、任意の転写因子を転写抑制因子に変換できる能力を有しており、該キメラタンパク質は内生の重複遺伝子に対しても優性的に機能することが明らかとなった。
【0056】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の遺伝子がコードするペプチドは、従来公知の転写抑制機能ペプチド群と同様、特定の遺伝子のみを標的にした転写抑制を行うことができるため、公知転写抑制機能ペプチド遺伝子と同様、各種植物の育種分野での適用が期待されると同時に、公知ペプチド群とは全く異なる保存モチーフを有しているので、単独の使用、または、公知ペプチドと組み合わせての使用によって、さらに広範な分野において適用可能でかつ有用な技術手段を提供できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】図1Aは、試験対象の各種DNA断片を含むGAL4DB−RDエフェクタープラスミド及びレポーター遺伝子を示す図である。 At2g36080遺伝子の転写抑制活性を有するドメインの決定に用いたレポーター遺伝子とエフェクタープラスミドを示す図である。なお、5XGAL4:GAL4転写因子DNA結合配列、TATA:CaMV35SプロモーターTATAボックスを含む領域、LUC:ルシフェラーゼ遺伝子、CaMV 35S:カリフラワーモザイクウイルス35Sタンパク質遺伝子プロモーター、Ω:タバコモザイクウイルス由来のomega配列、GAL4DB:酵母GAL4転写因子DNA結合ドメインコード領域、RD:SUPERMANのリプレッションドメイン配列(LDLELRLGFA)、Nos:ノパリン合成酵素遺伝子転写終止領域を表す。
【図1B】図1Bは、pGAL4DBに結合した各種ペプチドがリポーター遺伝子の活性(Relative Activity)に及ぼす影響を示す図である。 pGAL4DBに結合した各種ペプチドがリポーター遺伝子の活性(Relative Activity)に及ぼす影響を示す図である。図中、右側のグラフは、各種DNA断片を有するエフェクタープラスミドを導入したときのリポーター遺伝子の活性を示す(PUC18をエフェクターとして入れたときのリポーター遺伝子の活性を1.00とした)。
【図1C】図1Cは、At2g36080遺伝子の転写抑制活性を有するドメインの決定に用いたレポーター遺伝子とエフェクタープラスミドを示す図である。
【図1D】図1Dは、pGAL4DBに結合した各種ペプチドがリポーター遺伝子の活性(Relative Activity)に及ぼす影響を示す図である。図中、右側のグラフは、各種DNA断片を有するエフェクタープラスミドを導入したときのリポーター遺伝子の活性を示す(PUC18をエフェクターとして入れたときのリポーター遺伝子の活性を1.00とした)。
【図2】図2は、pGAL4DBに結合した各遺伝子がリポーター遺伝子の活性(Relative Activity)に及ぼす影響を示す図である。図中、右側のグラフは、各種DNA断片を有するエフェクタープラスミドを導入したときのリポーター遺伝子の活性を示す(pGAL4DBをエフェクターとして入れたときのリポーター遺伝子の活性を1.00とした)。 図2Aは、At3g11580遺伝子、図2BはAt2g36080遺伝子、図2CはAt2g46870遺伝子、図2DはAt1g13260遺伝子、図2EはAt1g68840遺伝子、図2FはAt4g36990遺伝子、及び図2G At4g11660遺伝子を導入した場合の活性を示す。
【図3A】図3Aは、At4g36990遺伝子の転写抑制活性を有するドメインの決定に用いたレポーター遺伝子とエフェクタープラスミドを示す図である。
【図3B】図3Bは、pGAL4DBに結合した各種ペプチドがリポーター遺伝子の活性(Relative Activity)に及ぼす影響を示す図である。図中、右側のグラフは、各種DNA断片を有するエフェクタープラスミドを導入したときのリポーター遺伝子の活性を示す(PUC18をエフェクターとして入れたときのリポーター遺伝子の活性を1.00とした)。
【図4A】図4Aは、植物体に導入した各種遺伝子-転写抑制ペプチド融合コンストラクトの模式図である。
【図4B】図4Bは、AG−SRDXの花の形態である。
【図4C】図4Cは、AG−36RDの花の形態である。
【図4D】図4Dは、CUC2−SRDXの実生の形態である。
【図4E】図4Eは、CUC2−36RDの実生の形態である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるアミノ酸配列からなる、植物の転写抑制機能を有するペプチド。
式(I)
X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3
(式中、X1及びX3は1〜10個の任意のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列を表し、X2はLys又はArgを表す。)
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号3〜33のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドをコードする核酸分子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチドと、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインとが結合していることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸分子と、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインをコードする核酸分子とが読み枠をそろえて連結されていることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項5に記載の核酸分子が発現可能な状態で導入されている、形質転換体。
【請求項8】
請求項5に記載の核酸分子が発現可能な状態で導入されている、形質転換植物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のペプチドを、転写因子もしくはそのDNA結合ドメインと結合させることを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の核酸分子を含む発現ベクターを用いて形質転換した細胞を培養し、採取することを特徴とする、転写抑制機能を有するキメラタンパク質の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−213426(P2009−213426A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62113(P2008−62113)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】