説明

転写材及び成形品の製造方法及び物品の製造方法

【課題】耐指紋性に優れた成形品を低コストで得ることができ、かつ転写時に成形品曲面部においてクラックを発生させない転写材及び前記転写材を使用した成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】離型性を有する基体シート1上に絵柄層保護用の保護層2が配置され、保護層の基体シートとは反対側の面に接着層4が配置され、保護層は、親水性を有する官能基2bを少なくとも基体シート側とは反対側に含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物でかつ半ば架橋硬化の状態の熱及び活性エネルギー線架橋反応生成物で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐指紋性に優れた成形品又は耐指紋性物品を低コストで得ることができ、かつ成形品又は物品の曲面部において保護層にクラックを発生させない転写材及び前記転写材を用いた耐指紋性に優れた成形品の製造方法及び耐指紋性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形品表面に耐磨耗性及び耐薬品性及び耐指紋性に優れた保護層を形成する方法としては、離型性を有する基体シート上に、シリコーン系添加剤及びフッ素系添加剤及びワックスなど撥水撥油性の高い添加剤を含有した保護層が形成された転写材を成形品表面に接着させた後、基体シートを剥離する転写法がある。また、前記転写材を成形用金型内に挟み込み、キャビテイ内に樹脂を射出充填させ、冷却して樹脂成形品を得るのと同時にその面に転写材を接着させた後、基体シートを剥離する成形同時転写法がある。例えば、特許文献1を参照。
【0003】
こうして得られた成形品の最外層は、シリコーン系添加剤及びフッ素系添加剤及びワックスなどの撥水撥油性の高い添加剤を有しており、油脂などがはじかれ付着しにくい、という効果が得られると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−58895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、保護層として、シリコーン系添加剤及びフッ素系添加剤及びワックスなどの油脂との親和性の低い添加剤を含有した光硬化性樹脂が主成分である混合材料を用い、転写箔を作成した場合、保護層中で空気に接する側の面(印刷層形成面)に、これら添加剤が移行してしまうことがあり、移行した添加剤のために、保護層の印刷層形成面の上に、保護層と接して形成される印刷層が、きれいに印刷されない問題が発生した。また、従来の添加剤を印刷インキに含有させるタイプは、そのような印刷インキで印刷して基体シート上に保護層を形成したとき、保護層のフィルム状の基体シート側とは反対側に添加剤が析出し、図11に示すように、基体シート側すなわち成形品の成形樹脂体83に接着したとき最外層となる部分81には添加剤82が少なくなり、添加剤による油脂との親和性を十分に発揮することができなかった。これら添加剤が、前記のような移動をすることにより、成形品の最外層の表面に添加剤が現れず、最外層での耐指紋性が十分に発揮できないといった問題も発生していた。
【0006】
したがって、本発明の目的は、以上のような問題点に鑑み、耐指紋性に優れた成形品又は耐指紋性物品を低コストで得ることができ、かつ転写時に転写対象物である成形品又は物品の曲面部において保護層にクラックを発生させない、転写材及び前記転写材を使用した成形品の製造方法及び耐指紋性物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、転写材の保護層を形成するに当り、皮脂を含む指紋の成分中の水分と親和性の高い、親水性を有する官能基を含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂で保護層を構成しかつこの樹脂を半ば架橋硬化の状態に保持することで、前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0009】
本発明の第1態様によれば、離型性を有する基体シートと、
前記基体シート上に配置された、転写後に最外層となる保護層と、
前記保護層上に配置された絵柄層とを少なくとも備え、
前記最外層となる前記保護層は、親水性を有する官能基を、熱及び活性エネルギー線で架橋反応する樹脂の骨格中に前記保護層の厚さ方向の全体にわたって均一に含有した組成物よりなり、半ば架橋硬化状態である熱及び活性エネルギー架橋反応物で構成されている転写材を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記保護層の前記親水性を有する官能基は、エーテル基又はカルボキシル基又はヒドロキシル基又はアミド基である、第1の態様に記載の転写材を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、第1又は2の態様に記載の前記転写材を転写対象物の表面に接着させた後、
前記基体シートを、前記転写材の転写層と前記転写対象物とから剥離する工程及び活性エネルギー線を前記保護層に照射する工程を経て、前記保護層が最外層に位置する耐指紋性物品を製造することを特徴とする、転写材を用いた耐指紋性に優れた耐指紋性物品の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、第1又は2の態様に記載の前記転写材を成形用金型内に挟み込み、
前記成形用金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填させ、
成形樹脂体を得るのと同時にその成形樹脂体の表面に前記転写材を接着させた後、
前記基体シートを、前記転写材の転写層と前記成形樹脂体とから剥離する工程及び活性エネルギー線を前記保護層に照射する工程を経て、前記保護層が最外層に位置する成形品を製造することを特徴とする、転写材を用いた耐指紋性に優れた成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる転写材は、皮脂成分などを含む指紋の成分中の水分と親和性の高い、親水性を有する官能基を含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物で転写材の保護層が構成され、かつ、この樹脂を半ば架橋硬化の状態に保持することにより、転写対象物である成形品又は物品の表面の曲面に適応して湾曲することができ、保護層にクラックを生じない程度の可撓性を有することができる。
【0014】
また、本発明にかかる転写材を使用する成形品又は耐指紋性物品の製造方法は、転写対象物である成形品又は物品の表面に転写された保護層が活性エネルギー線の照射により完全に架橋硬化されるので、耐指紋性(指紋が付くけど、目立たない性質)に優れた成形品又は耐指紋性物品を得ることができ、かつ、前記したように、転写対象物である成形品又は物品の曲面部においても保護層にクラックを発生させることがない。また、転写材作製時に加熱により保護層を半ば架橋硬化させるため、活性エネルギー線照射に際し、巨大な活性エネルギー線照射装置が不要であり、低コストで済む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る転写材を示す模式断面図である。
【図1B】前記第1実施形態に係る転写材を使用して製造された成形品を示す模式断面図である。
【図2A】前記第1実施形態に係る転写材を使用して製造された前記成形品の表面に指紋が付いた状態を示す平面図である。
【図2B】前記第1実施形態に係る前記成形品の表面に指紋が付いた状態を示す拡大平面図である。
【図2C】図2Bの前記成形品の表面に指紋が付いた状態での縦断面図である。
【図2D】図2Cの前記成形品の表面に指紋が付いた状態での拡大縦断面図である。
【図3A】従来の成形品の表面に指紋が付いた状態を示す平面図である。
【図3B】前記従来の成形品の表面に指紋が付いた状態を示す拡大平面図である。
【図3C】図3Bの前記従来の成形品の表面に指紋が付いた状態での縦断面図である。
【図3D】図3Cの前記従来の成形品の表面に指紋が付いた状態での拡大縦断面図である。
【図4A】前記第1実施形態の1つの変形例に係る転写材を示す模式断面図である。
【図4B】前記第1実施形態の前記変形例に係る前記転写材を使用して製造された成形品を示す模式断面図である。
【図5】本発明の前記第1実施形態の別の変形例に係る転写材を示す模式断面図である。
【図6】本発明の前記第1実施形態に係る前記転写材を用いた耐指紋性に優れた前記成形品の製造工程を示す模式図である。
【図7A】本発明の前記第1実施形態に係る前記転写材を用いた耐指紋性に優れた前記成形品の別の製造工程を示す模式図である。
【図7B】図7Aの前記別の製造工程において、溶融樹脂が射出された状態を示す模式図である。
【図8A】前記第1実施形態にかかる実施例において、ヘイズ差が小さく、ヘイズ変化が小さいと判断される場合を示す説明図である。
【図8B】比較例1〜3において、ヘイズ差が大きく、ヘイズ変化が大きいと判断される場合を示す説明図である。
【図9】前記実施例に関して、ヘイズの値と拭き取り回数との関係を示すグラフである。
【図10】拭き取り後のヘイズの変化量と保護層の構成との関係を示すグラフである。
【図11】成形品に接着したとき最外層となる部分に添加剤が少なくなっている状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明における第1実施形態を詳細に説明する。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0018】
図1Aは本発明の第1実施形態に係る転写材を示す模式断面図、図1Bは第1実施形態に係る転写材を使用して製造された成形品を示す模式断面図である。図2A〜図2Dは前記成形品の表面に付着した指紋を説明するための説明図、図3A〜図3Dは従来の成形品の表面に付着した指紋を説明するための説明図である。図4A及び図4Bは、第1実施形態の変形例に係る転写材及びその転写材を使用して製造された成形品を示す模式断面図である。図5は本発明の第1実施形態とは異なる別の実施形態に係る転写材を示す模式断面図、図6は本発明の前記第1実施形態に係る前記転写材を用いて耐指紋性に優れた成形品7を製造する製造工程を示す模式図、図7は本発明の前記第1実施形態に係る前記転写材を用いて耐指紋性に優れた成形品7を製造する別の製造工程を示す模式図、図7Bは図7Aの前記別の製造工程において、溶融樹脂が射出された状態を示す模式図である。
【0019】
図中、1は離型性を有する基体シート、2は基体シート1上に配置された保護層、3は保護層2上に配置された絵柄層、4は保護層2及び絵柄層3上に配置された接着層、5は保護層2と絵柄層3と接着層4とで構成される転写層、6は基体シート1と転写層5とで構成される転写材、7は転写層5が成形樹脂体7aに転写されて構成される成形品、8はローラ状の耐熱ゴム状弾性体、9は可動型、10はキャビティ12aを有する固定型、11は可動型9に連結された射出ノズルから射出される溶融樹脂、12は可動型9と固定型10とで構成される成形用金型をそれぞれ示す。
【0020】
まず、本発明の前記実施形態の転写材6について説明する(図1A参照)。
【0021】
離型性を有する基体シート1としては、樹脂シート(ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂など)、金属箔(アルミニウム箔若しくは銅箔など)、セルロース系シート(グラシン紙、コート紙、若しくは、セロハンなど)、あるいは、以上の各シートの複合体など、転写材6の基体シートとして通常に用いられるものを使用することができる。
【0022】
基体シート1からの転写層5の剥離性が良い場合には、基体シート1上に転写層5を直接設ければよい。基体シート1からの転写層5の剥離性が良くない場合には、基体シート1からの転写層5の剥離性を改善するために、基体シート1上に転写層5を設ける前に、基体シート1上の転写層5を形成する予定の面に、離型層を全面的に形成してもよい。離型層は、転写後又は成形同時転写後に基体シート1を剥離した際に、基体シート1とともに転写層5から離型する。離型層の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、又は、これらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層の形成方法としては、コート法(グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、リップコート法、コンマコート法など)、グラビア印刷法、又は、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0023】
保護層2は、転写後又は成形同時転写後に基体シート1を剥離した際に基体シート1又は離型層から剥離して、転写層5の最外層となり、薬品若しくは摩擦から成形品7又は絵柄層3を保護するための層である。さらに、最外層として、耐指紋性(指紋が付くけど、目立たない性質)を持つのも、この保護層2である。さらに、保護層2は、成形品7の最外層として、耐摩耗性及び耐薬品性にも優れたものが好ましい。
【0024】
保護層2のポリマーは、エーテル基又はカルボキシル基又はヒドロキシル基又はアミド基を、親水性付与を目的として、分子内に含有し(樹脂の骨格中に親水基として含有し)、かつ、エチレン性不飽和基を含有し、熱及び電離放射線(例えば、活性エネルギー線)で架橋反応する樹脂である。言い換えれば、保護層2は、熱及び電離放射線重合性樹脂2aと、熱及び電離放射線重合性樹脂2a内に、エーテル基又はカルボキシル基又はヒドロキシル基又はアミド基で構成されかつ図1Bの保護層2の厚さ方向の全体にわたって、かつ、厚さ方向と直交する表面に沿う方向の全面に、均一に分布するように含有された親水性を有する官能基、すなわち、親水基2bとで構成されている。そして、転写材6の状態では、保護層2は、親水基2bを保護層2の厚さ方向の全体にわたって均一に含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物よりなりかつ半ば架橋硬化の状態(半硬化状態)の熱及び活性エネルギー線架橋反応生成物で構成されている。なお、保護層2のコーティング前に、インキを均一に攪拌することで、均一に官能基を含有させることができ、このような状態で保護層2をコーティングすれば、保護層2の厚さ方向の全体にわたって均一に官能基を含有させることができる。
【0025】
本発明としては、第1実施形態の変形例において、図4Aに示す転写材6C、及び、図4Bに示す、その転写材6Cを使用して製造された成形品7Cのように、保護層が、第1層2dと第2層2cとの2層で構成され、最外層側の第1層2dは、図1Bのように、親水基2bが、保護層2の第1層の厚さ方向の全体にわたって均一に分布するように構成されるとともに、第2層2cは親水基2bを含まない樹脂で構成されるようにしてもよい。この樹脂は、第1層2dと同じ樹脂でもよいし、他の樹脂でもよい。
【0026】
前記熱及び電離放射線重合性樹脂2aの例としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、若しくは、エポキシ系樹脂等の紫外線硬化性樹脂に光重合開始剤を配合したものが挙げられる。よって、保護層2としては、この紫外線硬化性樹脂に光重合開始剤を配合したものを主材として、架橋剤を添加したものを例示することができ、離型層からの剥離性に応じて、適宜、好ましい材料を選択する。保護層2に含ませる架橋剤としては、熱架橋型のイソシアネート、有機酸無水物、若しくは、ポリアミンなどが挙げられる。
【0027】
保護層2を半硬化状態にする方法は、保護層2を形成する紫外線硬化型のモノマー若しくはオリゴマー等に、熱によって、弱い架橋反応を起こす官能基を部分的に導入し、架橋剤の添加と加熱とによって、モノマー若しくはオリゴマー等を部分的に架橋させる方法があるが、これ以外の方法であっても構わない。
【0028】
また、前記保護層2の別の例としては、未硬化又は半硬化状態のハードコート層として、前記フィルム基材の外側に紫外線(UV)若しくは電子線(EB)等で硬化可能な電離放射線硬化型コーティング剤をコーティングして作製する。未硬化又は半硬化状態のままで完全硬化しないでおくことで、転写材を深い形状にプレフォームするときでもハードコート層にクラックが生じさせることがない。前記未硬化又は半硬化状態のハードコート層としては、ウレタンアクリレート系樹脂、若しくは、シアノアクリレート系樹脂などが使用できる。半硬化状態にする方法としては、イソシアネートなどの添加剤を加えて熱を加えることにより、モノマー又はオリゴマーの一部を架橋させる方法などがある。
【0029】
より具体的な例としては、親水性のインキとして東洋インキ製造の「リオデュラスEFC−200」がある。本発明においては、親水基を有する樹脂で保護層2を構成することを基本とするため、撥水撥油剤(株式会社 フロロテクノロジーの商品「フロロサーフ」)、ワニス系溶剤型シリコーン撥水剤(株式会社タナックの商品「TSW810」)、超撥水材料(NTTアドバンステクノロジの商品「HIREC」(登録商標))、超撥水のフッ素コート(伊藤光学工業株式会社の商品「SPLコート」)、超撥水のフッ素コート(有限会社 新昭和コートの商品「エス・エス・コート G−100」)、超撥水性撥油性のコート(日本シーマ株式会社の商品「アレスコート」)、撥水撥油性のフッ素コート(菱江化学株式会社の商品「マーベルコート」)、フッ素系撥水撥油剤(ダイキン工業の商品「ユニダイン」)、撥水撥油性のアモルファスフッ素樹脂(旭硝子株式会社の商品「サイトップ」)、撥水撥油性のフッ素樹脂(コニシの商品「フッソコート2000」)、及び、撥水撥油コート(株式会社ハーベスの商品「DURASURF DS−5400」)などの撥水撥油機能を有する材料は、親水基を含まないため、好ましくない。
【0030】
これら親水基2bを重合性樹脂2a中に含有するため、指先の汗などの水分に対する親和性を保護層2の全体にわたって均一に有することになる。
【0031】
ここで、指紋とは、成形品7の表面に指が接触したとき、指先の汗と皮脂とが成形品7の表面に付着した模様である。汗の成分は、一例として、NaCl(塩化ナトリウム)約0.65%と、尿素0.08%と、乳酸0.03%と、水とで構成されている。また、人の指紋である皮脂の成分は、一例として、オレイン酸41%、ワックスエステル25%、皮脂酸16%、スクワレン12%、ジクリセライド2.2%、コレステロールエステル2.1%、コレステロール1.4%で構成されている。又は、皮脂の成分は、別の例として、トリグリセライド25%、遊離不飽和脂肪酸25%、遊離飽和脂肪酸20%、炭化水素15%、脂肪酸エステル10%、コレステロール5%で構成されている。
【0032】
このような汗と皮脂との付着物(汚染物質)13が成形品7の表面に付着すると、その付着物13のうちの汗である水分と成形品7の表面との間の界面に働く張力により、付着物は最も安定した形態を保持しようとする。このとき、成形品7の表面が、前記したように親水基2bを有する保護層2である場合には、図2C及び図2Cの拡大図である図2Dに示すように、前記張力が、付着物13のうちの汗の水分の液体表面に対する接線と、親水基2bを含む成形品7の表面とがなす角としての接触角θが小さくなるように作用して、図2A及び図2Aの拡大図である図2B及び図2Cに示すように、汗を含む付着物13が、成形品7の表面において膜状に薄く広がる傾向にある。この結果、指先の汗と皮脂との付着物(汚染物質)13が成形品7の表面において視認しにくくなる。
【0033】
すなわち、保護層2が親水基2bを有することにより、保護層2が親水性となる。保護層2が親水性であれば、成形品7の表面において、指紋の皮脂13の縞状の模様が重なって成形品7の表面に薄く平らに広がるように付着し、汗(水)又は皮脂(オレイン酸)などの付着物13の成形品7の表面に対する接触角θが小さい状態となっている。
【0034】
このため、成形品7の表面に付着した皮脂13を布などで拭き取ると、より一層、接触角θが小さくなり、皮脂13が成形品7の表面になじむことになる。
【0035】
これにより、指紋が成形品7の表面に付着しても、指紋の皮脂13が成形品7の表面の保護層2の表面になじむため、指紋の輪郭が目立たない。また、指紋を拭き取っても、皮脂13が保護層2の表面になじむため、拭き取った跡が目立たない。この結果、耐指紋性(指紋が付くけど、目立たない性質)が向上する。
【0036】
これに対して、成形品7の表面が、前記第1実施形態とは異なり、親水基を含まない従来の保護層2Zである場合には、図3C及び図3Cの拡大図である図3Dに示すように、成形品7の表面に付着した付着物13のうちの汗である水分と成形品7の表面との間の界面に働く張力が、付着物のうちの汗の水分の液体表面に対する接線と、親水基を含まない保護層2Zの表面とがなす角としての接触角θが大きくなるように作用して、図3A及び図3Aの拡大図である図3B及び図3Cに示すように、汗を含む付着物13Zが、保護層2Zの表面において厚く粗く存在する傾向にある。この結果、指先の汗と皮脂との付着物(汚染物質)13Zが保護層2Zの表面において目立つことになり、視認しやすくなる。
【0037】
なお、保護層2には、必要に応じて、界面活性剤、分散安定剤、体質顔料、レベリング剤、ブロッキング防止剤、又は、可塑剤を添加するようにしてもよい。
【0038】
界面活性剤は、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質の総称である。界面活性剤は、両親媒性分子と呼ばれることも多い。界面活性剤は、ミセル若しくはベシクル、ラメラ構造を形成することで、極性物質と非極性物質を均一に混合させる働きをするとともに、表面張力を弱める作用を持っている。一般に、界面近傍では界面自由エネルギーが高くなり不安定化するので、界面はできる限り表面積を小さくしようとする(界面張力)。界面活性剤を保護層2の材料に添加することにより、1つの分子内に親水基と親油基を持つ両親媒性の化学構造をもつ物質が界面上に並ぶことになり、この不安定な状態が緩和される、つまり、界面自由エネルギーが小さくなる。このような特性を持つ物質を界面活性剤という。よって、界面活性剤の機能としては、前記した以外に、以下の機能がある。まず、濡れ性向上、すなわち、インクが染みこみやすく(定着しやすく)なったりする。柔軟、平滑作用、すなわち、圧延油若しくは伸線加工油、又は、プラスチックの滑剤に利用されている。帯電防止作用、すなわち、界面活性剤には表面に水を吸収しやすい膜を作ったり、滑りやすくすることで、静電気の発生を抑える効果が得られるものがある。
【0039】
また、分散安定剤は、インキに溶かすことによって粘性(粘り気)を生じる物質であり、適度な粘性をインキに持たせたり、顔料などの各種成分がインキ中で分離するのを防ぐために用いられる。
【0040】
また、体質顔料は、塗膜の補強、及び、増量の目的で用いる屈折率の小さい白類料であって、炭酸カルシウム、若しくは、垂晶石粉などが用いられる。
【0041】
また、レベリング剤は、界面活性効果があり、インキに混合することで、印刷層を平滑化する働きがある。具体例としては、塗膜のゆず肌防止などが挙げられる。
【0042】
また、ブロッキング防止剤の具体例としてはシリカが挙げられる。
【0043】
また、可塑剤としては、柔軟性や耐候性を付与するために使用される。具体例としては、耐衝撃性向上などが挙げられる。
【0044】
保護層2の形成方法としては、コート法(グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法など)、グラビア印刷法、又は、スクリーン印刷法などの印刷法がある。一般に、保護層2は、0.5〜30μm、好ましくは1〜6μmの厚さに形成する。保護層2の厚さが0.5μm未満であると、耐摩耗性及び耐薬品性が弱くなる結果、耐指紋性を保持する時間が短くなる。逆に、保護層2の厚さが30μmを超えると、コスト高となり、また箔切れが悪くなり、不必要な部分に保護層2が残ってバリとなる。好ましくは1〜6μmの厚さに形成することの理由として、1μm未満であると、耐摩耗性及び耐薬品性が弱くなる可能性がある結果、耐指紋性を保持する時間が短くなる可能性がある。逆に、保護層2の厚さが6μmを超えると、コスト高となる可能性があり、また箔切れが悪くなり、不必要な部分に保護層2が残ってバリとなる可能性がある。
【0045】
以上のようにして形成された保護層2を完全には架橋硬化していない状態まで加熱することにより、保護層2は、親水基2bと、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂2aとの組成物で構成される熱架橋反応生成物となる。
この熱架橋反応生成物はタックフリーの状態(触っても粘着性が無い状態)にあるため、保護層2上に他の層を印刷で刷り重ねたり、又は、この保護層2を有する転写材6を巻き取ったりすることが容易になる。この加熱しただけの段階(すなわち、熱架橋反応生成物になった状態)では、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれるエチレン性不飽和基は架橋されていないので、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、完全には架橋硬化していない状態(硬化すれば本来得られるべき硬度にまだ達していない状態)、換言すれば、半ば架橋硬化の状態となる。したがって、保護層2は、半ば架橋硬化の状態であるため、成形品7の表面の曲面に適応して湾曲することができ、クラックを生じない程度の可撓性を有する。加熱による架橋反応は、活性エネルギー線照射による架橋反応に比して、制御が容易である。したがって、保護層2を架橋させる程度は、用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の種類、及び、成形品7の表面の曲面の曲率等に応じて適宜定めうる。
【0046】
保護層2は、半ば架橋硬化の状態であるため、成形品7の表面の曲面に適応して湾曲させたのち、活性エネルギー線を保護層2に照射して完全に架橋反応させて、最終の成形品7の最外層を構成する。
【0047】
絵柄層3は、保護層2の上に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、若しくは、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。絵柄層3の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、若しくは、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷り若しくは階調表現を行うには、オフセット印刷法若しくはグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、若しくは、リップコート法などのコート法を採用することもできる。絵柄層3は、表現したい絵柄に応じて、保護層2の上に、全面的に設ける場合若しくは部分的に設ける場合もある。また、絵柄層3は、金属蒸着層から構成される層、あるいは、印刷層と金属蒸着層との組み合わせから構成される層であってもよい。
【0048】
接着層4は、成形品7の成形樹脂体7aの表面に、前記の各層(基体シート1と保護層2と絵柄層3)を接着するものである。接着層4は、保護層2又は絵柄層3上の、成形樹脂体7aの表面に対して接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、接着層4を保護層2又は絵柄層3上に全面的に形成する。また、接着させたい部分が部分的なら、接着層4を保護層2又は絵柄層3上に部分的に形成する。接着層4としては、成形品7の成形樹脂体7aの素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、成形品7の成形樹脂体7aの材質がポリアクリル系樹脂の場合は、ポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、成形品7の成形樹脂体7aの材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、若しくは、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、若しくは、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、成形品7の成形樹脂体7aの材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、若しくは、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層4の形成方法としては、コート法(グラビアコート法、ロールコート法、若しくは、コンマコート法など)、グラビア印刷法、又は、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、保護層2若しくは絵柄層3が成形品7の成形樹脂体7aに対して充分に接着性を有する場合には、接着層4を設けなくてもよい。
【0049】
なお、転写層5の構成は、前記した態様に限定されるものではなく、たとえば、成形品7の成形樹脂体7aの地模様若しくは透明性を生かし、表面保護処理だけを目的とした転写材6を用いる場合には、前記第1実施形態の別の変形例として、基体シート1の上に、保護層2及び接着層4を、上述のように順次形成して、転写層5から絵柄層3を省略することができる(図5参照)。
【0050】
また、転写層5が複数の層で構成される場合、隣接する層間に、アンカー層を設けてもよい。アンカー層は、転写層5の隣接する層間の密着性を高めたり、薬品から成形品7の成形樹脂体7a若しくは絵柄層3を保護するための樹脂層であり、たとえば、二液硬化性ウレタン樹脂、メラミン系若しくはエポキシ系などの熱硬化性樹脂、又は、塩化ビニル共重合体樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。アンカー層の形成方法としては、コート法(グラビアコート法、ロールコート法、若しくは、コンマコート法など)、グラビア印刷法、又は、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0051】
以下、前記した層構成の転写材6を用い、本発明の第1実施形態に係る耐指紋性に優れた成形品7の製造方法について、図6を参照しながら説明する。なお、この製造方法は、成形品7に限らず、成形品7B,7Cについても同様に適用できるため、以下の説明では簡略化の観点から、成形品7のみを使用して前記製造方法を説明する。
【0052】
まず、転写材6の接着層4側を下にして、成形品7の本体である成形樹脂体7aの上に転写材6を配置する(図6参照)。次に、ロール状の耐熱ゴム状弾性体8、例えば、シリコンラバーを備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、温度80〜260℃程度、圧力50〜200kg/m程度の条件に設定した耐熱ゴム状弾性体8を介して転写材6の基体シート1側から熱又は/及び圧力を転写材6及び成形樹脂体7aに加える。こうすることにより、転写材6の接着層4を成形樹脂体7aの表面に接着する。
【0053】
次いで、転写材6の接着層4が表面に接着された成形樹脂体7aを冷却した後に、転写材6の基体シート1を、成形樹脂体7aに接着された転写層5から剥がすと、基体シート1と転写層5の保護層2との境界面で剥離が起こる。また、基体シート1上に離型層を設けた場合は、基体シート1を、成形樹脂体7aに接着された転写層5から剥がすと、離型層と転写層5の保護層2との境界面で剥離が起こる。基体シート1が剥がされると、転写材6の転写層5のみが成形樹脂体7aの表面に接着層4で接着された成形品7となる。
【0054】
最後に、活性エネルギー線を前記成形品7の保護層2に照射することにより、成形品7の成形樹脂体7aに転写された保護層2を完全に架橋硬化させて、成形品7が完成する。なお、活性エネルギー線を保護層2に照射する工程を、基体シート1を剥離する工程の前に行なってもよい。
【0055】
活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、又は、γ線などを挙げることができる。照射条件は、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に応じて定められる。
【0056】
成形品7の成形樹脂体7aとしては、材質が限定されることはないが、転写対象物として、特に樹脂成形品7に限定されることなく、木工製品もしくはこれらの複合製品などの物品を挙げることができる。これらは、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、成形品7の成形樹脂体7aは、着色されていても、着色されていなくてもよい。成形樹脂体7aの樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、若しくは、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、成形樹脂体7aの別の樹脂として、汎用エンジニアリング樹脂(ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、若しくは、超高分子量ポリエチレン樹脂など)、又は、スーパーエンジニアリング樹脂(ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、若しくは、ポリアリル系耐熱樹脂など)を使用することもできる。成形樹脂体7aのさらに別の樹脂として、ガラス繊維若しくは無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。
【0057】
次に、前記成形品の別の製造方法として、前記した転写材6を用い、射出成形による成形同時転写法を利用して成形品7の成形樹脂体7aの表面に耐指紋性を付与する方法について説明する(図7A及び図7B参照)。なお、この製造方法も、成形品7に限らず、成形品7B,7Cについても同様に適用できるため、以下の説明では簡略化の観点から、成形品7のみを使用して前記製造方法を説明する。
【0058】
まず、可動型9と固定型10とで構成される成形用金型12のキャビティ12a内に転写層5を内側にして、つまり、基体シート1が固定型10に接するように、転写材6をキャビティ12a内に送り込む(図7A参照)。この際、枚葉の転写材6をキャビティ12a内に1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の転写材6の必要部分をキャビティ12a内に間欠的に送り込んでもよい。長尺の転写材6を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、転写材6の絵柄層3と成形用金型12のキャビティ12aとの見当が一致するようにするとよい。また、転写材6を間欠的に送り込む際に、転写材6の位置をセンサーで検出した後に転写材6を可動型9と固定型10とで固定するようにすれば、常に同じ位置で転写材6を固定することができ、絵柄層3の位置ずれが生じないので便利である。
【0059】
成形用金型12の可動型9と固定型10とを閉じた後、可動型9に設けたゲート9aより溶融樹脂11を成形用金型12のキャビティ12a内に射出充填させ、成形品7の成形樹脂体7aを形成するのと同時にその成形樹脂体7aの表面に転写材6を接着させる(図7B参照)。転写材6が接着された成形樹脂体7aを冷却した後、成形用金型12を開いて、転写材6が接着された成形樹脂体7aを取り出す。
【0060】
最後に、転写材6の基体シート1を、成形樹脂体7aに接着された転写層5から剥がして、転写層5のみを成形樹脂体7aに接着した後、活性エネルギー線を、転写層5のみが接着された成形樹脂体7aの保護層2に照射することにより、転写層5の保護層2を完全に架橋硬化させて、成形品7が完成する。また、活性エネルギー線を保護層2に照射した後、基体シート1を、成形樹脂体7aに接着された転写層5から剥がしてもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、第1実施形態の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」は重量基準である。
【0062】
実施例1
基体シートとして厚さ38μmのポリエステル樹脂フィルムを用い、基体シート上に、メラミン樹脂系離型剤をグラビア印刷法にて1μmの厚さに塗布し離型層を形成した後、その上に、親水基を含有する東洋インキ製造製のLIODURAS EFC−200に界面活性剤、分散安定剤、体質顔料、及び、レベリング剤を添加した保護層を、グラビア印刷法にて形成し、UV照射を行った。照射条件は、120w/cm、6灯、ランプ高さ10cm、ベルトスピード15m/minとした。保護層の厚さは5μmとした。次に、アンカー層としてウレタンインキ、絵柄層としてアクリル系インキ、接着層としてアクリル樹脂をグラビア印刷法にて順次印刷形成して転写材を得た。
【0063】
この転写材を用い、成形同時転写法を利用して成形樹脂体の表面に転写層を転写した後、基体シートを剥がし、成形品を得た。なお、成形条件は、樹脂温度240℃、金型温度55℃、樹脂圧力約300kg/cmとした。成形品の成形樹脂体は、材質をアクリル樹脂とし、縦95mm、横65mm、厚さ5mmの板状に成形した。
【0064】
比較例1
基体シートとして厚さ38μmのポリエステル樹脂フィルムを用い、基体シート上に、メラミン樹脂系離型剤をグラビアコート法にて1μmの厚さに塗布し離型層を形成した後、その上、親水基を含有しないDIC株式会社製のユニディックに界面活性剤、分散安定剤、体質顔料、及び、レベリング剤を添加した保護層をリップコート法にて順次形成した。保護層の厚さは5μmとし、UV照射を行った。照射条件は、120w/cm、6灯、ランプ高さ10cm、ベルトスピード15m/minとした。保護層の厚さは5μmとした。次に、アンカー層としてウレタンインキ、絵柄層としてアクリル系インキ、接着層としてアクリル樹脂をグラビア印刷法にて順次印刷形成して転写材を得た。ここで、保護層のコーティングのために調整した混合物として混合ワニスを使用した。
【0065】
この転写材を用い、成形同時転写法を利用して成形樹脂体の表面に転写層を転写した後、基体シートを剥がし、成形品を得た。なお、成形条件は、樹脂温度240℃、金型温度55℃、樹脂圧力約300kg/cmとした。成形品の成形樹脂体は、材質をアクリル樹脂とし、縦95mm、横65mm、厚さ5mmの板状に成形した。この比較例1で形成される成形樹脂体の最外層の保護層は、通常使用されるハードコート層に相当する。ここで、通常使用されるハードコート層とは、携帯機器、パーソナルコンピュータ、家電製品、自動車、又は、ヘルスケアなどのプラスチック部品の表面保護層として、通常使用される層を意味し、耐指紋性を有さず、耐摩耗性を有している保護層を意味している。
【0066】
比較例2
比較例1にて保護層のコーティングのために調整した混合物としての混合ワニスにシリコン系樹脂(東芝シリコーン株式会社製「TPR6701」)20部を添加した外は、実施例1と同様に実施した。
【0067】
比較例3
比較例1にて保護層のコーティングのために調整した混合物としての混合ワニスにワックス(ビックケミー・ジャパン株式会社製のCERACOL(登録商標) 603)20部を添加した外は、実施例1と同様に実施した。
【0068】
前記の実施例及び比較例1〜3について、それぞれクラックの有無、耐薬品性、耐磨耗性、及び、耐指紋性の性能評価を行なった(表1参照)。
【0069】
クラックの有無は、成形品の表面(保護層)の曲面の状態を観察し、目視判定により、○:クラックの発生なし、△:クラックがやや発生、×:クラックがかなり発生、のいずれかで評価した。
【0070】
耐薬品性は、ガーゼにメタノールを含浸させ、成形品の表面(保護層)を50往復して擦った後の成形品の表面の状態を観察し、目視判定により、○クラックの発生なし、△クラックがやや発生、×クラックがかなり発生、のいずれかで評価した。
【0071】
耐磨耗性は、1cm角の等級#000(極細)のスチールウールに、100gの荷重、及び、300gの荷重をそれぞれかけ、それぞれ、可動距離2cm、2往復/秒で、200往復後の表面の傷つき程度を観察し、目視判定により、○傷つき程度は良好、△傷つき程度はやや不良、×傷つき程度は不良、のいずれかで評価した。
【0072】
耐指紋性の評価手法としては、指紋付着性の評価と、指紋拭き取り性の評価との二つがある。
【0073】
まず、指紋付着性の評価の方法としては、
(1)実際に指紋を付着させる、
(2)次いで、指紋の目立ち易さを目視確認する、
(3)次いで、相対評価による判定を付与する。
【0074】
次に、指紋拭き取り性の評価の方法としては、
(1)評価テスト前の評価対象物の表面のヘイズを測定する、
(2)次いで、指紋成分を模したオレイン酸を評価対象物に滴下する、
(3)次いで、布で10往復拭き取り後、ヘイズを測定する、
(4)次いで、更に50往復拭き取るが、10往復ごとにヘイズを測定する。
【0075】
指紋拭き取り性の評価は、少ない拭き取り回数での、拭き取る前と拭き取った後とのヘイズ差が少ないほうが、拭き取り性に優れると判断する。例えば、図8Aは、実施例において、ヘイズ差が小さく、ヘイズ変化が小さいと判断される場合を示す。
【0076】
また、実施例に関して、ヘイズの値と拭き取り回数との関係を図9に示す。図9より、拭き取り回数に関係なく、ヘイズの値は小さくかつ一定であることがわかる。すなわち、実施例の「親水性保護層」では、拭き取り回数に関係無くヘイズの値が小さく一定であるため、拭き取り前後でほとんど変化がなく、指紋が付いても目立たないことがわかる。
【0077】
また、指紋成分を模したオレイン酸を保護層上に滴下したとき、拭き取り後のヘイズの変化量(相対値)と保護層の構成との関係を図10に示す。図10において、「通常保護層」とは比較例1〜3の従来の保護層を意味し、「親水性保護層」とは前記実施例の保護層を意味する。「通常保護層」では、拭き取り後のヘイズの変化量が16と大きいのに対して、「親水性保護層」では、拭き取り後のヘイズの変化量が1程度である。すなわち、「親水性保護層」では、変化量が小さいため、拭き取り前後でほとんど変化がなく、指紋が付いても目立たないことがわかる。これに対して、「通常保護層」では、変化量が大きいため、拭き取り前後で大きく変化し、指紋が付いている場合と指紋が付いていない場合とで大きな差があり、指紋が目立たつことを示している。
【0078】
一方、図8Bは、比較例1〜3において、ヘイズ差が大きく、ヘイズ変化が大きいと判断される場合を示す。図8A及び図8B中、13及び13Zは実施例と比較例1〜3における拭き取る前の汗と皮脂との付着物(汚染物質)、23及び23Zは実施例と比較例1〜3における拭き取った後の汗と皮脂との付着物(汚染物質)である。
【0079】
これらの2つの評価の結果、表1の「○」とは、指紋の輪郭がほとんど確認できないこと(良好)を意味する。「△」とは、指紋の輪郭が確認できること(やや不良)を意味する。「×」とは、指紋の輪郭がくっきりと確認できること(不良)を意味する。
(表1)

【0080】
表1の評価結果から、次のことが明らかである。
【0081】
すなわち、実施例は耐指紋性が良いのに対して、比較例1、比較例2、比較例3は耐指紋性が悪い。なお、クラックの有無、耐薬品性、及び、耐磨耗性については、実施例、比較例1、比較例2、及び、比較例3においては、良好であった。
【0082】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明にかかる転写材及び成形品又は耐指紋性物品の製造方法は、耐指紋性に優れた成形品又は耐指紋性物品を低コストで得ることができ、かつ転写時に転写対象物である成形品又は物品の曲面部において保護層にクラックを発生させないといった効果を有し、以下の用途等として有用である。すなわち、本発明の用途としては、以下のような用途が例示できる。指紋認証装置の指紋認識部位パネル、レンズパーツ、冷蔵庫、洗濯機、エアーコンディショナー、家具、キャビネット、建具、音響映像機器、若しくは家具製品のフロントパネル、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ、携帯ゲーム機部材、自動車部材、車両部材、家電用品部材、携帯電話部材、パーソナルコンピューター部材、オーディオ製品部材、カーナビゲーション部材、事務用品部材、スポーツ用品部材、雑貨部材、メガネ・サングラス部材、カメラ部材、光学用品部材、計測機器部材等の用途など、人が手で触る可能性のある部材又は物品などの転写対象物全般の用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 基体シート
2 保護層
2a 熱及び電離放射線重合性樹脂
2b 親水基
2c 第2層
2d 第1層
2Z 従来の保護層
3 絵柄層
4 接着層
5 転写層
6,6B,6C 転写材
7,7B,7C 成形品
7a 成形樹脂体
8 耐熱ゴム状弾性体
9 可動型
10 固定型
11 溶融樹脂
12 成形用金型
12a キャビティ
13 付着物
13Z 付着物
θ 接触角
θ 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型性を有する基体シート(1)と、
前記基体シート上に配置された、転写後に最外層となる保護層(2)と、
前記保護層上に配置された絵柄層(3)とを少なくとも備え、
前記最外層となる前記保護層(2)は、親水性を有する官能基(2b)を、熱及び活性エネルギー線で架橋反応する樹脂(2a)の骨格中に前記保護層の厚さ方向の全体にわたって均一に含有した組成物よりなり、半ば架橋硬化状態である熱及び活性エネルギー架橋反応物で構成されている転写材。
【請求項2】
前記保護層の前記親水性を有する官能基(2b)は、エーテル基又はカルボキシル基又はヒドロキシル基又はアミド基である、請求項1に記載の転写材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記転写材(6,6B,6C)を転写対象物(7a)の表面に接着させた後、
前記基体シートを、前記転写材の転写層(5)と前記転写対象物とから剥離する工程及び活性エネルギー線を前記保護層に照射する工程を経て、前記保護層が最外層に位置する耐指紋性物品(7,7B,7C)を製造することを特徴とする、転写材を用いた耐指紋性に優れた耐指紋性物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の前記転写材(6,6B,6C)を成形用金型(12)内に挟み込み、
前記成形用金型のキャビティ(12a)内に溶融樹脂(11)を射出充填させ、
成形樹脂体(7a)を得るのと同時にその成形樹脂体の表面に前記転写材を接着させた後、
前記基体シートを、前記転写材の転写層(5)と前記成形樹脂体とから剥離する工程及び活性エネルギー線を前記保護層に照射する工程を経て、前記保護層が最外層に位置する成形品(7,7B,7C)を製造することを特徴とする、転写材を用いた耐指紋性に優れた成形品の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−206951(P2011−206951A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74853(P2010−74853)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】