説明

転炉の炉体鉄皮の冷却方法及び冷却装置

【課題】転炉の炉体鉄皮の変形を抑止して、転炉の長寿命化を図ることができる転炉の炉体鉄皮の冷却方法及び装置を提供する。
【解決手段】転炉の炉体鉄皮に使用される材料の、温度と耐力との関係を求め、実際の転炉の炉体鉄皮の温度と炉体鉄皮に生ずる応力との関係を求め、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が、応力が耐力を超えない温度範囲(350℃以上)になるように、炉体鉄皮を冷却する。転炉の炉体鉄皮に働く応力が耐力を超えることがないので、過度の冷却によって転炉の炉体鉄皮が塑性変形することがない。よって、転炉の炉体鉄皮の塑性変形を抑止して、転炉の長寿命化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所で銑鉄を鋼に精錬するプロセスに用いられる転炉の炉体鉄皮の冷却方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の精錬プロセスでは、転炉と呼ばれる反応容器にて溶銑へ純酸素を吹き付け、溶銑中の炭素を除去し、鋼を製造する。この転炉の炉体鉄皮は年数を重ねると寿命により更新を余儀なくされるが、その寿命は炉体鉄皮の変形が要因になっている。
【0003】
転炉は転炉を傾動させるためのトラニオンリングに支持される。炉体鉄皮は高温に熱せられた状態で長時間使用されるので、クリープにより変形し、膨張する。炉体鉄皮が膨張すると、炉体鉄皮周囲のトラニオンリングを炉体鉄皮が押し、トラニオンリングを破壊させる。トラニオンリングを破壊する前に炉体鉄皮を交換する必要があるから、転炉の寿命は炉体鉄皮の変形により決まる。
【0004】
転炉の炉体鉄皮は高さ約10m、幅約8m、重量約300トンの非常に大きな構造物であり、その更新には大規模な工事と二ヶ月近くの設備停止期間を要するので、転炉の炉体鉄皮の長寿命化、すなわち変形の抑止が転炉を設計する上で重要な課題となっている。
【0005】
転炉の長寿命化を図る方法には、従来から大きく分けて二つの方法が採られていた。一つは、炉体鉄皮の材質を、高温かつ長時間での使用でも変形しにくい材質にすることである。もう一つは、クリープ変形を低減するために、炉体鉄皮を冷却する冷却装置を設置し、炉体鉄皮の温度を低下させる方法である(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−247718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術にはそれぞれ以下の問題点がある。
【0007】
一つ目の炉体鉄皮を高温かつ長時間での使用でも変形しにくい材質とする方法にあっては、特殊な素材になるので材料費がかかる。炉体を入れ替える必要があり、大規模な工事が必要になる。さらに、クリープ変形に強い材質には低温で脆化する性質があることが多いので、トラニオンリングに設置するときに脆化して割れるおそれもある。
【0008】
二つ目の炉体鉄皮の温度を低下させる方法にあっては、過度の冷却は炉体鉄皮の応力を増大させ、逆に塑性変形を助長する。なぜならば、炉体鉄皮の内面には炉体鉄皮を外側に押すように煉瓦が張られる。煉瓦は熱容量を持つので、炉体鉄皮を冷やしたとしても、炉体鉄皮ほど煉瓦は冷えない。煉瓦が熱膨張したまま炉体鉄皮が冷却により収縮するので、炉体鉄皮に応力が発生する。応力が耐力を超えると、炉体鉄皮が塑性変形し、応力が緩和されても変形が残る。これを繰り返すと、変形が進行する。
【0009】
そこで本発明は、転炉の炉体鉄皮の変形を抑止して、転炉の長寿命化を図ることができる転炉の炉体鉄皮の冷却方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、転炉の炉体鉄皮に使用される材料の、温度と耐力との関係を求め、実際の転炉の炉体鉄皮の温度と炉体鉄皮に生ずる応力との関係を求め、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が、前記応力が前記耐力を超えない温度範囲になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の転炉の炉体鉄皮の冷却方法において、転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、炉体鉄皮を350℃以上400℃未満に冷却することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が350℃以上400℃未満になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が350℃以上400℃未満になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、転炉の炉体鉄皮に働く応力が耐力を超えることがないので、過度の冷却によって転炉の炉体鉄皮が塑性変形することがない。よって、転炉の炉体鉄皮の塑性変形を抑止して、転炉の長寿命化を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用いて、炉体鉄皮の温度を350℃以上にすることで、転炉の炉体鉄皮に働く応力が耐力を超えることがない。よって、過度の冷却によって転炉の炉体鉄皮が塑性変形することがない。そして、炉体鉄皮の温度を400℃未満に冷却することで、炉体鉄皮のクリープ変形を低減することができる。
【0016】
請求項3又は4に記載の発明によれば、転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用いて、炉体鉄皮の温度を350℃以上にすることで、転炉の炉体鉄皮に働く応力が耐力を超えることがない。よって、過度の冷却によって転炉の炉体鉄皮が塑性変形することがない。そして、炉体鉄皮の温度を400℃未満に冷却することで、炉体鉄皮のクリープ変形を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面に基づいて本発明の一実施形態における炉体鉄皮の冷却方法を説明する。図1は、一般的な鉄皮材料であるSM400,SM490,SB450の温度と耐力との関係を示すグラフ(日本鉄鋼協会、金属材料高温強度データ集、第3編より抜粋)である。いずれの材料も引張り強度40kg/mm2級の素材である。400℃以下の温度域では、高強度な材料ほど耐力は高いが、溶接性や加工性、靭性などを考慮して、炉体鉄皮には40kg/mm2級の素材が使用されることが多い。
【0018】
図1のグラフにおいて、横軸が温度であり、縦軸が耐力である。0.2%の永久ヒズミを生じるときの応力を耐力と称す。例えば、炉体鉄皮の材料にSM400を使用した場合、炉体鉄皮の温度が400℃のときの耐力は19kg/mm2である。図1から、温度が上昇するにしたがって耐力が小さくなることがわかる。すなわち、温度が上昇するにしたがってクリープ変形が大きくなる。クリープ変形を低減するためには、炉体鉄皮の温度を低下させる必要がある。
【0019】
図2は、実際の転炉の炉体鉄皮の温度と応力との関係を示したグラフである。このグラフには、図1のSM400の温度と耐力との関係も併記されている。図2のグラフの縦軸が応力で、横軸が鉄皮温度である。実線が実際の転炉の炉体鉄皮の温度と鉄皮応力との関係を示し、破線がSM400の温度と耐力との関係を示す。
【0020】
炉体鉄皮の変形は、温度起因のクリープ変形か塑性変形のどちらかである。炉体鉄皮の温度が350℃以上になると、応力が耐力を下回るので、応力によって塑性変形が生ずることはない。それゆえ、炉体鉄皮の温度を350℃以上にすると、炉体鉄皮の変形は温度起因のクリープ変形のみになる。
【0021】
一方、炉体鉄皮の温度が350℃よりも下回った時点で応力が耐力を上回る。応力が耐力を上回ると、塑性変形のメカニズムによって変形が進行する。こうなると、応力が緩和されても変形が残る。これを繰り返すと変形が進行する。このため、炉体鉄皮を冷却するにしても、炉体鉄皮を350℃以上にコントロールするのがよい。
【0022】
炉体鉄皮の内面には炉体鉄皮を外側に押すように煉瓦が張られる。煉瓦を張った時点で炉体鉄皮には、初期応力がかかる。また、転炉稼働中に炉体鉄皮を冷やすと、煉瓦が熱膨張したまま炉体鉄皮が冷却により収縮するので、炉体鉄皮には熱応力が発生する。この炉体鉄皮の熱応力は温度を低下させるとさらに増大する。そして、炉体鉄皮はトラニオンリングや他の支持部に拘束されている。炉体鉄皮が熱変形すると、炉体鉄皮の拘束部分にも拘束応力がかかる。実際の転炉の炉体鉄皮にかかる応力は、初期応力、熱応力、拘束応力を合算して求められる。なお、初期応力は熱応力や拘束応力に比べて小さいので、熱応力及び拘束応力から応力を求めてもよい。拘束応力は部分的にかかる応力なので、熱応力のみから応力を求めてもよい。
【0023】
図3は、SM400の、クリープ破断時間が10000時間のときの応力(耐力)を示すグラフ(日本鉄鋼協会、金属材料高温強度データ集、第3編より抜粋)である。横軸が温度、縦軸が応力(耐力)である。このグラフから、温度が低下するほど破断応力が大きくなることがわかる。すなわち、温度が低下するほど炉体鉄皮がクリープ変形しにくくなり、温度を低下させることが炉体鉄皮のクリープ変形を抑止するのに効果的である。本実施形態では、炉体鉄皮の破断応力が臨界的に大きくなる温度範囲として、400℃未満を選択する。
【0024】
温度を低下させれば炉体鉄皮がクリープ変形しにくいといっても、上述したように炉体鉄皮の温度を350℃未満にすると、炉体鉄皮の塑性変形を招く。このため、本実施形態では最適な温度範囲とて、炉体鉄皮の温度を350℃以上400℃未満に設定する。これにより、機械的な塑性変形の危険性を回避し、かつクリープ変形を抑止することができる。よって、転炉の寿命を大幅に改善することができ、同時に設備停止の時間を削減することにより稼働時間を増加させることができる。
【0025】
図4は、本発明の一実施形態における冷却装置を示す。炉体鉄皮の冷却方法として代表的なものに空冷を挙げることができる。炉体鉄皮1の周囲に垂直方向に伸びるエアー配管2が配置され、エアー配管2には炉体鉄皮1の側面に対向する複数のノズル3が配列される。エアー配管2にはファン4が接続される。ファン4からエアー配管2にエアーを送り込むと、ノズル3から炉体鉄皮1に向かってエアーが吹き付けられる。ノズル3からのエアーの吹き付けによって、炉体鉄皮1が空冷される。
【0026】
炉体鉄皮1の温度は熱電対等の温度センサ5により検知される。温度センサ5からの信号は制御装置6に送られる。制御装置6は、温度センサ5からの信号に基づいてファン4を操作して、炉体鉄皮1の温度を350℃以上400℃未満に制御する。この冷却装置により良好な冷却状態を得ることができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限られず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば、鉄鋼を精錬する場合、煉瓦の材質、大きさ、炉体鉄皮の大きさによっては、空冷しなくても、炉体鉄皮の温度を400℃程度にすることができる場合がある。このような場合は、あえて空冷による冷却をしなくてもよい。また、上記温度範囲に炉体鉄皮の温度をコントロールできれば、冷却方法には制限はなく、例えばミストや蒸気を用いた水冷であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】温度と耐力との関係を示すグラフ((A)はSM400、(B)はSM490、(C)はSB450の耐力を示すグラフ)
【図2】実際の転炉の炉体鉄皮の温度と応力との関係を示したグラフ
【図3】SM400のクリープ破断応力(10000時間)を示すグラフ
【図4】本発明の一実施形態における冷却装置の全体図
【符号の説明】
【0029】
1…炉体鉄皮
2…エアー配管
3…ノズル
4…ファン
5…温度センサ
6…制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の炉体鉄皮に使用される材料の、温度と耐力との関係を求め、
実際の転炉の炉体鉄皮の温度と炉体鉄皮に生ずる応力との関係を求め、
転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が、前記応力が前記耐力を超えない温度範囲になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却方法。
【請求項2】
転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、炉体鉄皮を350℃以上400℃未満に冷却することを特徴とする請求項1に記載の転炉の炉体鉄皮の冷却方法。
【請求項3】
転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が350℃以上400℃未満になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却方法。
【請求項4】
転炉の炉体鉄皮の材料として引張り強度40kg/mm2級の素材を用い、転炉稼動中の炉体鉄皮の温度が350℃以上400℃未満になるように、炉体鉄皮を冷却することを特徴とする転炉の炉体鉄皮の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−115406(P2008−115406A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296838(P2006−296838)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】