説明

転舵装置

【課題】ホイール側に転舵アクチュエータが設けられたステアバイワイヤ方式の転舵装置について、小型化および低コスト化を図る。
【解決手段】転舵装置を、車体側に設けられた軸受部5と、軸受部5に横軸部11が支持されるT字型の転舵中心軸10と、ホイール側に取り付けられたハブキャリアと、アッパーブラケットに固定され転舵中心軸10の縦軸部12に外嵌してその縦軸部12の軸心周りにハブキャリアと一体に回転可能な転舵アクチュエータと、から構成する。車体側と転舵中心軸10との結合をヒンジ結合によりおこなうことで、構造が簡略化され低コスト化が図られる。構造の簡略化により、転舵中心軸と車体との距離が縮まるため、低車高化、ひいては小型化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ方式の転舵装置およびその転舵装置を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両における車輪の転舵装置として、ハンドルを含む操舵入力部と機械的に分離された、いわゆるステアバイワイヤ方式の転舵装置が知られている。
具体的には、この種の転舵装置として、特許文献1のように、ホイール側に取り付けられたハブキャリアと、車体側に設けられたモータおよびこのモータにより駆動されるボールねじ機構からなる転舵アクチュエータと、これらハブキャリアのアームとアクチュエータのボールねじ機構のナットとをリンク結合するタイロッドと、を備えるものが知られている。
【0003】
かかる転舵装置では、操舵入力部における所定操舵角を伴う操作に応じて、車体側に設けられたモータが所定回転数だけ正逆回転すると、ボールねじ機構のナットが往復動することになる。
そして、このナットに結合されたタイロッドがハブキャリアのアームを押し引きすることで、ハブキャリアが傾斜し、ホイールに前記操舵入力部での操作に対応した転舵角が与えられるようになっている。
【0004】
このように特許文献1の転舵装置は、転舵アクチュエータが車体側に設けたものであるが、出願人は、図4に示すような転舵アクチュエータをホイール側に設けた転舵装置2を開発している。
この転舵装置2は、転舵の回転中心となる転舵中心軸10と、ハブキャリア20と、ハブキャリア20(ホイールWも含む)を転舵中心軸10の軸心周りに回転させる転舵アクチュエータ30と、からなる。
【0005】
ここでピン型の転舵中心軸10は、その軸心がほぼ鉛直方向を向くように、上側サスペンションアームS1、ユニバーサルジョイントJを介して車体側に支持されている。
【0006】
またハブキャリア20のアッパーブラケット21は、ホイールWの内側からほぼ水平に延びて、その上面が転舵中心軸10の下端と対向するようにホイール側に取り付けられている。さらに転舵アクチュエータ30は、アッパーブラケット21に固定され、かつ転舵中心軸10に外嵌している。
【0007】
転舵中心軸10の外周には、ウォームホイール13が形成されており、転舵アクチュエータ30は、従動軸31とモータ32とからなり、これらウォームホイール13、従動軸31、モータ32はいずれもケーシング40に収容されている。
従動軸31はケーシング内で軸心がほぼ水平を向くように回転可能に支持されており、その外周に形成されたウォーム31aが、転舵中心軸10のウォームホイール13にかみ合っており、モータ32により回転駆動力を伝達できるようになっている。
【0008】
いま、モータ32により従動軸31が回転させられると、従動軸31とかみ合う転舵中心軸10は回り止めされている場合、従動軸31は転舵中心軸10の周りを旋回することになる。ここでハブキャリア20は、ケーシング40を介して従動軸31と一体に回転するため、ホイールWの転舵がなされることになる。
【0009】
この転舵装置は、特許文献1のように、装置の構成要素が車両の車軸方向に並列する態様ではないため、大きな収納スペースを必要とせず、車両全体の小型化を一定程度実現可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−326459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで上記の転舵装置は、車体側のサスペンションアームと転舵中心軸とを比較的寸法の大きいユニバーサルジョイントを介して結合しているため、車高が高くなってしまい、車両の小型化について改良の余地がある。
【0012】
またユニバーサルジョイントは比較的高価であるため、コスト面についても改良の余地がある。
特にユニバーサルジョイントを用いた場合、転舵中心軸を周り止めする必要があるため手間もかかる。またサスペンション機能としては、基本的にホイールの上下動に対応できればそれで足りるため、ユニバーサルジョイントのような自由度の高い継手は過剰性能ともなっている。
【0013】
そこで本発明の解決すべき課題は、ホイール側に転舵アクチュエータが設けられたステアバイワイヤ方式の転舵装置について、小型化および低コスト化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明は、ホイール側に転舵アクチュエータが設けられた転舵装置について、転舵中心軸を車体側とヒンジ構造により直接結合したものである。
【0015】
より詳細には、本発明の転舵装置を、車体側に設けられた対向一対の軸受部と、一体の横軸部と縦軸部からなり、その横軸部の両端部が前記軸受部に回転可能に支持されるT字型の転舵中心軸と、ホイール側に取り付けられ、ほぼ水平方向に延びるアッパーブラケットが前記転舵中心軸の縦軸部の下端と対向するハブキャリアと、前記アッパーブラケットに固定され、かつ前記転舵中心軸の縦軸部に外嵌してその縦軸部の軸心周りにハブキャリアと一体に回転可能な転舵アクチュエータと、を備える構成としたものである。
【発明の効果】
【0016】
転舵中心軸を車体側とヒンジ構造により直接結合したため、ユニバーサルジョイントを省略することができ、低コスト化を図ることができる。
また、転舵中心軸と車体側との距離を縮めることができるため、車両の小型化も図られる。
ヒンジ構造でも、ホイールの上下動に対応できるため、サスペンション機能として特に不都合はない。また構造が簡略化されているため、故障にも強い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の転舵装置の一部切り欠き正面図
【図2】実施形態の転舵装置の要部縦断面図
【図3】実施形態の転舵装置の要部横断面図
【図4】出願人開発の転舵装置の一部切り欠き正面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
実施形態の転舵装置1は、ハンドルを含む操舵入力部と機械的に分離された、いわゆるステアバイワイヤ方式の転舵装置である。
【0019】
図1に示すように、実施形態の転舵装置1は、車両の下部に配置されているため車両全体の低重心化を実現することができ、また同図のように、車両のタイヤフェンダーF(フェンダー下のホイールハウス内)にほぼ収容できる大きさであるため、車両全体の小型化を実現することができる。
この実施形態の転舵装置1は、軸受部5と、転舵中心軸10と、ハブキャリア20と、転舵アクチュエータ30と、から構成され、転舵中心軸10の一部と転舵アクチュエータ30とは、ケーシング40に収容されている。
【0020】
図2のように、車両は上下に並列するサスペンションアームS1,S2を備え、その上側サスペンションアームS1の先端部は二又に分岐して軸受部5を構成している。
【0021】
転舵中心軸10は、それぞれ円柱形の横軸部11と縦軸部12とからなってT字型の外観を呈している。その横軸部11の両端部は軸受部5に支持されており、横軸部11は、軸心周りに回転可能となっている。
したがって、横軸部11と一体でほぼ鉛直方向を向いている縦軸部12は、横軸部11の軸心周りに上下方向に揺動可能となっている。
いっぽう、横軸部11が軸受部5に上述のようにヒンジ運動のみが可能であるように拘束されているため、その縦軸部12は軸心周りには回り止めされている。
また転舵中心軸10の縦軸部12の先端側には縮径部12aが形成されており、この縮径部12aの中間箇所の外周にはウォームホイール13が固定されている。
縮径部12aは、ケーシング40に設けられた開口を上下に貫通しており、その縮径部12aのウォームホイール13の上下箇所は、転がり軸受41を介してケーシング40に対して相対回転可能に支持されている。
【0022】
つぎにハブキャリア20はホイールWに取り付けられており、その上部にホイールWの内側面からほぼ水平に張り出すアッパーブラケット21を有している。このようなハブキャリア20としては、汎用されているものを使用可能である。
アッパーブラケット21は、上面が転舵中心軸10の下端と対向しており、かつケーシング40がボルト止め等の適宜手段により固定されている。
またハブキャリア20の下部は、車両の下側サスペンションアームS2の先端に、ボールジョイント22を介して結合されている。
【0023】
さらに転舵アクチュエータ30は、従動軸31と、モータ32とを備える。
従動軸31は、ケーシング40内において、軸心がほぼ水平方向を向くように両端部を転がり軸受42により支持されている。
また従動軸31は、その中間部の外周にウォーム31aが固定されており、このウォーム31aは転舵中心軸10のウォームホイール13とほぼ垂直にかみ合っている。さらに従動軸31の一端部外周には、スパーギア31bが固定されている。
いっぽうモータ32は、ケーシング40内の従動軸31よりも下方において、その回転軸が従動軸31とほぼ平行をなすように収容されている。図1のように、モータ32はその下半部がアッパーブラケット21よりも下方に位置している。
またモータ32の回転軸の外周にはスパーギア32aが固定され、これが従動軸31のスパーギア31bとかみ合っている。
【0024】
実施形態の転舵装置1の構成は以上のようであり、いまその転舵アクチュエータ30のモータ32の回転軸を駆動させると、スパーギア32a、31bを介して従動軸31に回転駆動力が伝達される。
ここで従動軸31のウォーム31aと転舵中心軸10の縦軸部12のウォームホイール13とはかみ合っており、かつ転舵中心軸10は上側サスペンションアームS1に拘束されることでその縦軸部12が回り止めされている。そのため、従動軸31は軸心周りに回転しつつ(自転しつつ)、転舵中心軸10の縦軸部12の軸心周りに旋回する(公転する)ことになる。
【0025】
そして、従動軸31を収容支持するケーシング40(およびモータ32)も転舵中心軸10の縦軸部12の軸心周りに一体に回転する。このため、ケーシング40が固定されているハブキャリア20も回転し、ハブキャリア20が取り付けられたホイールWの操舵が行われることになる。
図示省略の操舵入力部における所定操舵角を伴う操作に応じて、転舵アクチュエータ30のモータ32の正逆回転数をあらかじめ定めておくと、ホイールWに前記操舵入力部での操作に対応した転舵角が与えられるようになる。
【0026】
なお車両走行時のホイールWの上下動については、転舵アクチュエータ30が外嵌する転舵中心軸10の縦軸部12が上下に揺動することで吸収できるようになっている。
【0027】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本考案の範囲は特許請求の範囲によって示され、その範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【0028】
たとえば、軸受部5はサスペンションアームS1の先端に設けるものに限定されず、シャーシに直接ボルト止め等して固定してもよい。
また、転舵アクチュエータ30の構造は特に実施形態に限定されず、また転舵アクチュエータ30の構造が実施形態のような場合においても、その従動軸31とモータ32の配列は特に限定されず、従動軸31が下側にモータ32が上側になるように配置してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 実施形態の転舵装置
2 従前開発の転舵装置
5 軸受部
10 転舵中心軸
11 横軸部
12 縦軸部
12a 縮径部
13 ウォームホイール
20 ハブキャリア
21 アッパーブラケット
22 ボールジョイント
30 転舵アクチュエータ
31 従動軸
31a ウォーム
31b スパーギア
32 モータ
32a スパーギア
40 ケーシング
41 転がり軸受
42 転がり軸受
F フェンダー
W ホイール
S1 上側サスペンションアーム
S2 下側サスペンションアーム
J ユニバーサルジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵入力部と機械的に分離されたステアバイワイヤ方式の車両の転舵装置であって、
車体側に設けられた対向一対の軸受部5と、
一体の横軸部11と縦軸部12からなり、その横軸部11の両端部が前記軸受部に回転可能に支持されるT字型の転舵中心軸10と、
ホイール側に取り付けられ、ほぼ水平方向に延びるアッパーブラケット21が前記転舵中心軸10の縦軸部12の下端と対向するハブキャリア20と、
前記アッパーブラケット21に固定され、かつ前記転舵中心軸10の縦軸部12に外嵌してその縦軸部12の軸心周りにハブキャリア20と一体に回転可能な転舵アクチュエータ30と、を備える転舵装置。
【請求項2】
前記転舵中心軸10の縦軸部12は、その外周にウォームホイール13が形成されており、
前記転舵アクチュエータ30は、
その外周に前記ウォームホイール13に噛み合うウォーム31aが形成され、ほぼ水平方向を向く軸心周りに回転可能に支持されている従動軸31と、
前記従動軸31の下側に配置されて従動軸31に対して軸心がほぼ平行をなす回転軸から回転駆動力を伝達するモータ32と、を有する請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転舵装置1と、
前記転舵装置の軸受部5を有する車体と、
前記転舵装置のハブキャリア20が取り付けられたホイールWと、を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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