説明

軸受用グリース

【課題】フッ素化合物系冷媒雰囲気下でもグリースの流出が少なく、長期間に渡って軸受の潤滑性を維持できる軸受用グリース、および該グリースにより潤滑される軸受を提供する。
【解決手段】軸受用グリースは、エーテル系基油とウレア増ちょう剤とを含み、フッ素化合物系冷媒雰囲気下で使用される。この軸受用グリースを使用した軸受は、長期間に渡ってグリースの流出がない。また、潤滑油と異なり回収系が不要であるので軸受の周囲をコンパクトにすることが可能となる。それ故、ランキンサイクルを利用したエネルギー回収装置として自動車や各種産業機械への適用が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化合物系冷媒雰囲気下で使用される軸受用グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルや、ランキンサイクルにおいては、フッ素化合物系冷媒雰囲気での潤滑(液冷媒潤滑)が一般に行われている。液冷媒潤滑に適した潤滑油(基油)としてはポリオキシアルキレングリコール、エステル、ポリビニルエーテル、およびアルキルベンゼンなど、冷媒との相溶性のある基油が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
ターボ機械は高速で動作することから、冷却および潤滑性維持を目的に、軸受潤滑には、潤滑油が使用されるのが一般的である。冷凍サイクルやランキンサイクルのように、冷媒の雰囲気環境下での高速軸受を使用する場合には、雰囲気ガスによる粘度低下を見込んだ設計を行い、適正な潤滑油を適用するのが一般的である。
液冷媒潤滑下でグリース潤滑の軸受を使用することができれば、潤滑油の循環システムや、冷媒と潤滑油の分離装置を簡略化でき、小型化・軽量化・効率化に有利である。しかし、グリース潤滑される軸受は、冷媒雰囲気ではグリースが洗い流されてしまうため、グリース潤滑は非常に困難とされてきた。なお、特許文献3には、液冷媒潤滑下において、MoSを含むグリースを使用することが記載されている、ただし、グリースの主成分の組成は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−090285号公報
【特許文献2】特開2008−239815号公報
【特許文献3】特開平5−5491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3には、MoSを含むグリースという開示しかなくグリースの主成分の組成が不明であるため、実際にはグリースの流出という問題が内在するものと思われる。
【0005】
本発明の目的は、フッ素化合物系冷媒雰囲気下でもグリースの流出が少なく、長期間に渡って軸受の潤滑性を維持できる軸受用グリースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意研究した結果、特定の基油と特定の増ちょう剤を含んだ組成のグリースを用いると、冷媒雰囲気においても軸受内からグリースが洗い流されないことを見いだした。本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、以下のような軸受用グリースを提供するものである。
(1)エーテル系基油とウレア増ちょう剤とを含む軸受用グリースであって、フッ素化合物系冷媒雰囲気下で使用されることを特徴とする軸受用グリース。
(2)(1)に記載の軸受用グリースにおいて、前記基油が芳香族エーテル系基油であることを特徴とする軸受用グリース。
(3)(2)に記載の軸受用グリースにおいて、前記芳香族エーテル系基油がアルキルフェニルエーテル系基油およびジフェニルエーテル系基油のうち少なくともいずれかであることを特徴とする軸受用グリース。
(4)(1)から(3)までのいずれか1つに記載の軸受用グリースにおいて、前記ウレア増ちょう剤がメチレンジイソシアネートと炭素数6以上、12以下の脂肪族モノアミンとの反応物であることを特徴とする軸受用グリース。
(5)(1)から(4)までのいずれか1つに記載の軸受用グリースにおいて、該グリースの混和ちょう度が200以上、380以下であることを特徴とする軸受用グリース。
(6)(1)から(5)までのいずれか1つに記載の軸受用グリースにおいて、前記フッ素化合物系冷媒が下記分子式(A)で表されるフッ素化合物または飽和フッ化炭化水素化合物であることを特徴とする軸受用グリース。
CpOqFrRs (A)
[式中、Rは、Cl、Br、IまたはHを示し、pは1〜8、qは0〜2、rは1〜18、sは0〜17の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜8であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
(7)(1)から(6)までのいずれか1つに記載の軸受用グリースにおいて、前記フッ素化合物系冷媒が、COCH、CFCFC(O)CF(CF2、CFCHOCFCHF、CFCHFCHFCFCF、CF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF、およびCFCHCFCHから選ばれる少なくともいずれか1つの化合物であることを特徴とする軸受用グリース。
(8)(7)に記載の軸受用グリースにおいて、前記フッ素化合物系冷媒が、COCH、CFCHOCFCHF、CFCHFCHFCFCF、CF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF、およびCFCHCFCHから選ばれる少なくともいずれか1つの化合物であることを特徴とする軸受用グリース。
(9)(1)から(8)までのいずれか1つに記載の軸受用グリースにおいて、該軸受がランキンサイクルに使用されるものであることを特徴とする軸受用グリース。
(10)(9)に記載の軸受用グリースにおいて、該軸受がターボ式のランキンサイクルに使用されるものであることを特徴とする軸受用グリース。
【発明の効果】
【0007】
本発明の軸受用グリースによれば、グリースがフッ素化合物系冷媒に流出しにくいため、長期間に渡って軸受の潤滑性を維持できる。また、潤滑油と異なり回収系が不要であるので軸受の周囲をコンパクトにすることが可能となる。それ故、ランキンサイクル、あるいは冷凍サイクルなどについて、小型・軽量で効率に優れた液冷媒潤滑システムを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ランキンサイクルを利用した発電装置の概略を示す図。
【図2】実施例における分離評価装置の概略構成図。
【図3】実施例において、(a)は評価試料を分離槽内に保持した状態を示す図、(b)は温度サイクル処理後の評価試料を示す図であって、希釈グリースから基油が分離している状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の軸受用グリース(以下、「本グリース」ともいう。)は、エーテル系基油と増ちょう剤とを含んでいる。ただし、エーテル系基油に使用されるエーテル系化合物には、分子内にフッ素原子を含むもの(パーフルオロポリアルキルエーテル(PFPE)など)は含まない。この化合物を基油として用いるとグリースとした場合にフッ素化合物に対する溶解性が大きいため好ましくない。それ故、基油としてエーテル系化合物以外の化合物の混入は基油全量基準で30質量%以下であることが望まれる。
基油として用いられるエーテル化合物の40℃動粘度は任意であるが、軸受のトルク損失や、潤滑性の点から2mm/s以上、10000mm/s以下が好ましく、より好ましくは10mm/s以上、1000mm/s以下、さらに好ましくは20mm/s以上、400mm/s以下である。
【0010】
基油として用いるエーテル系化合物は、冷媒への溶出が少ない点で芳香族エーテル系化合物、特にアルキルフェニルエーテル系化合物かジフェニルエーテル系化合物が好ましい。
アルキルフェニルエーテル系化合物におけるアルキル基としては、炭素数が2以上14以下であることが粘度特性の点で好ましく、炭素数が6以上14以下であることがより好ましい。このアルキル基は直鎖でもよく分岐を有していてもよい。また、フェニル基は無置換でもよいがアルキル基が一つあるいは複数置換していてもよい。置換アルキル基を有する場合、その炭素数は2以上、14以下であることが粘度特性の点で好ましく、炭素数が6以上14以下であることがより好ましい。置換基が複数ある場合には、その置換基は同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さの点から同一であることが好ましい。
【0011】
アルキルフェニルエーテル系化合物としては、例えば、エチルフェニルエーテル、プロピルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、ヘキシルフェニルエーテル、ヘプチルフェニルエーテル、オクチルフェニルエーテル、ノニルフェニルエーテル、デシルフェニルエーテル、ウンデシルフェニルエーテル、ドデシルフェニルエーテル、トリデシルフェニルエーテル、およびテトラデシルフェニルエーテルの各種異性体、さらに、それらのフェニル基にアルキル基が置換されている化合物などが挙げられる。
【0012】
ジフェニルエーテル系化合物における一方あるいは双方のフェニル基は、無置換でもよいがアルキル基が一つあるいは複数置換していてもよい。置換基が複数ある場合には、その置換基は同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さの点から同一であることが好ましい。また、特に粘度特性の点で、双方のフェニル基にアルキル基が各々2つずつ置換したテトラアルキルジフェニルエーテルが好ましい。軸受の潤滑に適した油膜厚さや、軸受の損失が小さい適度な回転トルクとなる粘度特性の点で、置換アルキル基の炭素数は2以上、14以下であることが好ましく、炭素数が6以上14以下であることがより好ましい。また、アルキル基は直鎖でもよく分岐を有していてもよい。
【0013】
ジフェニルエーテル系化合物としては、例えば、ジフェニルエーテル、ジエチルジフェニルエーテル、ジプロピルジフェニルエーテル、ジブチルジフェニルエーテル、ジペンチルジフェニルエーテル、ジヘキシルジフェニルエーテル、ジヘプチルジフェニルエーテル、ジオクチルジフェニルエーテル、ジノニルジフェニルエーテル、ジデシルジフェニルエーテル、ジウンデシルジフェニルエーテル、ジドデシルジフェニルエーテル。ジトリデシルジフェニルエーテル、ジテトラデシルジフェニルエーテル、ジトリルエーテル、ジキシリルエーテル、テトラエチルジフェニルエーテル、テトラプロピルジフェニルエーテル、テトラブチルジフェニルエーテル、テトラペンチルジフェニルエーテル、テトラヘキシルジフェニルエーテル、テトラヘプチルジフェニルエーテル、テトラオクチルジフェニルエーテル、テトラノニルジフェニルエーテル、およびテトラデシルジフェニルエーテルの各種異性体などが挙げられる。
これらのエーテル化合物のうち、例えば、下記式で示されるテトラアルキルジフェニルエーテルが好ましく適用できる。ここでアルキル基(R、R、R、R)は、例えばC17、C1021、C1223等である。
【0014】
【化1】

【0015】
基油に配合される増ちょう剤は、軸受の潤滑性に優れ、基油の溶出も抑制できる点でウレア化合物が使用される。ウレア化合物としては、モノウレア化合物、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物などが挙げられるが、軸受の潤滑性の点で、特にジウレア化合物が好ましい。
該ジウレア化合物としては、例えば一般式(1)
NHCONHRNHCONHR (1)
[式中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数4から22までの1価の鎖式炭化水素基、炭素数6から12までの1価の脂環式炭化水素基、または炭素数6から12までの1価の芳香族炭化水素基を示し、Rは炭素数6から15までの2価の芳香族炭化水素基を示す。]
で示される化合物が挙げられる。なお、前記一般式(1)中のR、R、Rは、上述のテトラアルキルジフェニルエーテルの置換基とは無関係である。
【0016】
前記一般式(1)におけるRで示される炭素数6から15までの2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ジフェニルメタン基、トリレン基などが挙げられる。
また、前記一般式(1)におけるR、Rで示される炭素数6から22までの1価の鎖式炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐状の飽和または不飽和のアルキル基が含まれ、例えば、各種へキシル基、各種へプシル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種へキサデシル基、各種へプタデシル基、各種オクタデシル基、各種オクタデセニル基、各種ノナデシル基、各種イコデシル基などの直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基が挙げられる。
【0017】
また、前記一般式(1)におけるR、Rで示される炭素数6から12までの1価の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基または炭素数7から12までのアルキル基置換シクロヘキシル基が含まれ、例えば、シクロヘキシル基の他に、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1−メチループロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、アミルーメチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、製造上の理由で、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基などが好ましい。
【0018】
また、前記一般式(1)におけるR、Rで示される炭素数6から12までの1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、ベンジル基、エチルフェニル基、メチルベンジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、クメニル基、エチルベンジル基、メチルフェネチル基、ブチルフェニル基、プロピルベンジル基、エチルフェネチル基、ペンチルフェニル基、ブチルベンジル基、プロピルフェネチル基、へキシルフェニル基、ペンチルペンジル基、プチルフェネチル基、へプチルフェニル基、へキシルベンジル基、ペンチルフェネチル基、オクチルフェニル基、ブチルベンジル基、ヘキシルフェネチル基、ノニルフェニル基、オクチルベンジル基が挙げられる。
【0019】
本発明においては、前記ジウレア化合物の末端基であるR、Rの各炭化水素基の割合、すなわち、R,Rを形成する原料アミン(または、混合アミン)の組成は、特に制限はないが、鎖式炭化水素基が主成分であることが好ましい.
【0020】
上記ジウレア化合物は、通常ジイソシアネー卜とモノアミンを反応させることによって得ることができ、ジイソシアネー卜としては、ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(メチレンジイソシアネート)、トリレンジイソシアネート等が挙げられ、有害性が小さい点でジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。モノアミンとしては、前記一般式(1)におけるR、Rで示される鎖式炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などに対応するアミンが挙げられ、例えば、オクチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミンなどの鎖式炭化水素アミンやシクロヘキシルアミンなどの脂環式炭化水素アミン、アニリン,トルイジンなどの芳香族炭化水素アミン、およびそれらを混合した混合アミンが挙げられる。
【0021】
このようなジウレア化合物としては、製造に用いるモノアミンのうち、モノアミンの全量に対して、50質量%以上が炭素数4以上、22以下の脂肪族アミンであることが冷媒への基油の溶出を防ぐ点で好ましく、炭素数6以上、12以下がより好ましい。炭素数がこの範囲内である脂肪族モノアミンのより好ましい割合は、70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。また、前記した脂肪族アミンのうち、炭素数6以上、12以下の成分が60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
増ちょう剤の配合量は、上記基油とともにグリースを形成し維持できる範囲であれば制限はないが、グリースの流動性や低温特性の点から、グリース全量基準で2質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上、16質量%以下であることがより好ましい。
本発明に係るグリースに用いる増ちょう剤は、ちょう度を付与するためのもので配合量が少なすぎると所望のちょう度が得られず、一方配合量が多すぎるとグリースの潤滑性が低下する。
【0023】
また、本グリースにおいては、混和ちょう度が150以上、375以下(JIS K2220.7準拠)であることが好ましく、200以上、340以下であることがより好ましい。混和ちょう度が150以上であると、グリースが硬くないため低温始動性が良好である。一方、混和ちょう度が375以下であると、グリースが軟らかすぎることなく潤滑性が良好である。
【0024】
本グリースは、フッ素化合物系冷媒雰囲気下で使用される。フッ素化合物系冷媒としては、例えば、下記の分子式(A)のようなフッ素化合物または飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
CpOqFrRs (A)
[式中、Rは、Cl、Br、IまたはHを示し、pは1〜8、qは0〜2、rは1〜18、sは0〜17の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜8であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
【0025】
前記分子式(A)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(A)は、炭素原子Cの数pが1〜8のフッ素化合物を表している。炭素数が1〜8のフッ素化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。より好ましい性質とするためには、pは1〜6であることが好ましい。
分子式(A)において、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合、炭素―酸素二重結合などが含まれる。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1以上であるが、1であるものが好ましい。
【0026】
また、分子式(A)において、Oqで表されるq個の酸素原子の結合形態は、エーテル基、水酸基またはカルボニル基に由来する酸素であることが好ましい。この酸素原子の数qは、2であってもよく、2個のエーテル基や水酸基等を有する場合も含まれる。
また、Oqにおけるqが0であり分子中に酸素原子を含まない場合は、pは2〜8であって、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有する。すなわち、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素不飽和結合であることが必要である。
【0027】
また、分子式(A)において、Rは、Cl、Br、IまたはHを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。
上記のとおり、分子式(A)で表されるフッ素化合物としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物およびフッ化ケトン化合物などが好適なものとして挙げられる。また、その他のフッ素化合物系冷媒として、飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
以下、これらの化合物について説明する。
【0028】
[不飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、冷媒として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜8、qが0、rが1〜16、sは0〜15である不飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
このような不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6、より好ましくは炭素数3〜5の直鎖状又は分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を挙げることができる。
【0029】
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0030】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物が好ましく、トリフルオロエチレンなどのエチレンのフッ化物および各種プロペンのフッ化物が挙げられるが、プロペンのフッ化物がより好ましい。このプロペンのフッ化物としては、例えばペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)および1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)などを挙げることができるが、特に、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC1225ye)及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC1234yf)が好適である。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
[フッ化エーテル化合物]
本発明において、冷媒として用いられるフッ化エーテル化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜8、qが1〜2、rが1〜18、sは0〜17であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化エーテル化合物として好ましくは、例えば、炭素数が2〜6で、1〜2個のエーテル結合を有し、アルキル基が直鎖状又は分岐状の鎖状脂肪族エーテルのフッ素化物や、炭素数が3〜6で、1〜2個のエーテル結合を有する環状脂肪族エーテルのフッ素化物、フッ素化プロピレンオキシドの重合体、フッ素化エチレンオキシドの重合体、フッ素化プロピレンオキシドとフッ素化エチレンオキシドの共重合体を挙げることができる。
【0032】
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたジメチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルエーテル、1〜10個のフッ素原子が導入されたジエチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたジメトキシメタン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたメチルブチルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたエチルプロピルエーテル類、1〜6個のフッ素原子が導入されたオキセタン、1〜6個のフッ素原子が導入された1,3−ジオキソラン、1〜8個のフッ素原子が導入されたテトラヒドロフラン、パーフルオロプロピレンオキシドの重合体、パーフルオロエチレンオキシドの重合体、パーフルオロプロピレンオキシドとパーフルオロエチレンオキシドの共重合体などを挙げることができる。
【0033】
これらのフッ化エーテル化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテル、ビス(ジフルオロメチル)エーテル、フルオロメチルトリフルオロメチルエーテル、トリフルオロメチルメチルエーテル、CFCHOCFCHF(沸点56℃)(旭硝子社製 アサヒクリン AE3000)、ペルフルオロジメトキシメタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメトキシペンタフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、COCH(沸点61℃)(3M社製 HFE7100)、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ−1,3−ジオキソラン、ペンタフルオロオキセタンの各種異性体、テトラフルオロオキセタンの各種異性体、およびCF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF(沸点55℃)(ソルベイソレクシス社製 ガルデン HT55)などが挙げられる。
このうち、適度な沸点を有するという観点より、COCH、CFCHOCFCHFおよびCF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCFが好ましい。
本発明においては、このフッ化エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[フッ化アルコール化合物]
本発明において、冷媒として用いられる一般式(A)で表されるフッ化アルコール化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが1〜8、qが1〜2、rが1〜17、sは1〜16であるフッ化アルコール化合物が挙げられる。
このようなフッ化アルコール化合物として好ましくは、例えば、炭素数が1〜8、好ましくは1〜6で、1〜2個の水酸基を有する直鎖状又は分岐状の脂肪族アルコールのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたメチルアルコール、1〜5個のフッ素原子が導入されたエチルアルコール、1〜7個のフッ素原子が導入されたプロピルアルコール類、1〜9個のフッ素原子が導入されたブチルアルコール類、1〜11個のフッ素原子が導入されたペンチルアルコール類、1〜4個のフッ素原子が導入されたエチレングリコール、1〜6個のフッ素原子が導入されたプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0035】
これらのフッ化アルコール化合物としては、例えばモノフルオロメチルアルコール、ジフルオロメチルアルコール、トリフルオロメチルアルコール、ジフルオロエチルアルコールの各種異性体、トリフルオロエチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロエチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロエチルアルコール、ジフルオロプロピルアルコールの各種異性体、トリフルオロプロピルアルコールの各種異性体、テトラフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ジフルオロブチルアルコールの各種異性体、トリフルオロブチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロブチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロブチルアルコールの各種異性体、オクタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ノナフルオロブチルアルコール、ジフルオロエチレングリコールの各種異性体、トリフルオロエチレングリコール、テトラフルオロエチレングリコール、さらにはジフルオロプロピレングリコールの各種異性体、トリフルオロプロピレングリコールの各種異性体、テトラフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ化プロピレングリコール、およびこのフッ化プロピレングリコールに対応するフッ化トリメチレングリコールなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化アルコール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0036】
[フッ化ケトン化合物]
本発明において、冷媒として用いられるフッ化ケトン化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜8、qが1〜2、rが1〜16、sは0〜15であるフッ化ケトン化合物が挙げられる。
このようなフッ化ケトン化合物として好ましくは、例えば、炭素数が3〜8、好ましくは3〜6で、アルキル基が直鎖状又は分岐状の脂肪族ケトンのフッ素化物を挙げることができる。
【0037】
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたアセトン、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたジエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルケトン、1〜12個のフッ素原子が導入されたエチルプロピルケトン類などが挙げられる。
これらのフッ化ケトン化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルケトン、ペンタフルオロジメチルケトン、ビス(ジフルオロメチル)ケトン、フルオロメチルトリフルオロメチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、ペルフルオロメチルエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチルペンタフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、およびCFCFC(O)CF(CF(沸点49℃)(3M社製 NOVEC649)などが挙げられる。
このうち、適度な沸点を有するという観点より、CFCFC(O)CF(CFが好ましい。
本発明においては、これらのフッ化ケトン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
[飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、冷媒として用いられる飽和フッ化炭化水素化合物としては、炭素数1〜4のアルカンのフッ化物が好ましく、例えば、ジフルオロメタン(HFC−32)、トリフルオロメタン(HFC−23)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、CFCHFCHFCFCF(沸点55℃)(三井・デュポンフロロケミカル社製 バートレルXF)、およびCFCHCFCH(沸点40℃)(ソルベイソレクシス社製 ソルカン 365mfc)などが挙げられる。
このうち、適度な沸点を有するという観点より、CFCHFCHFCFCFおよびCFCHCFCHが好ましい。
本発明においては、これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、上述した各種冷媒(式(A)の化合物および飽和フッ化炭化水素化合物)は、1種を用いてもよくまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
ここで、本グリースが適用される軸受としては、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、自動調心玉軸受、およびスラスト玉軸受などが挙げられるが、小型化・高速化に有利であり、ターボ機器軸受として一般的なアンギュラ玉軸受が好ましい。
【0040】
本グリースを使用した場合、グリースのフッ素化合物系冷媒への流出が少ないので長期間に渡って軸受の潤滑性を維持することができる。また、グリースであるため潤滑油と違って回収系や貯留タンクを不要とできる場合も多く、軸受の周囲をコンパクトにすることができるので、ランキンサイクル(ターボ式等)を用いたエネルギー回収装置への適用も容易である。このようなエネルギー回収装置は、各種産業機械(化学プラント、石油精製プラント、製鉄所、機械製造工場、および熱処理工場など)や自動車に好適に用いられる。
【0041】
以下に、本グリースを使用した軸受の一適用例を示す。
図1は、ランキンサイクルを利用した発電装置100の概略を示す図である。このランキンサイクルでは、エンジンや各種産業機械の廃熱源10からの熱を用いて蒸発器20で冷媒蒸気を発生させ、発電タービン30の回転翼を回転させる。発電タービン30を通った冷媒は、凝縮器40で液化され、ポンプ50により再び蒸発器20に導入され再び系内を循環する。発電タービン30の回転翼にはシャフト60が連接されて回転し、発電機70により発電を行う。シャフト60は軸受80により回転可能に保持されている。本グリースは、この軸受80に使用されている。
【0042】
本グリースには、本発明の目的が達成される範囲内で必要に応じて、酸化防止剤、防錆剤、固体潤滑剤、充填剤、油性剤、金属不活性化剤、耐水剤、極圧剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、着色剤等の添加剤を配合してもよい。
極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛,ジアルキルジチオリン酸モリブデン,無灰系ジチオカーバメートや亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメートなどのチオカルバミン酸類、硫黄化合物(硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化鉱油、チオリン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジピロピオネート類等)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、(トリクレジルホスフェート、トリフェニルフォスファイト等)などが挙げられる。油性剤としては、アルコール類、カルボン酸類、グリセライド類、エステル類などが挙げられる。これらの配合量としては、0.1質量%以上、5質量%以下程度(グリース全量基準)が好ましい。
【0043】
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、硫黄系・ZnDTPなどの過酸化物分解剤等が挙げられ、これらは、通常0.05質量%以上10質量%以下の割合で使用される。
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ステアリン酸亜鉛、コハク酸エステル、コハク酸誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、亜硝酸ナトリウム、石油スルホネート、ソルビタンモノオレエート、脂肪酸石けん、およびアミン化合物等が挙げられる。
固体潤滑剤としては、ポリイミド、PTFE、黒鉛、金属酸化物、窒化硼素、メラミンシアヌレート(MCA)、および二硫化モリブデン等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの記載内容に何ら制限されるものではない。
〔実施例1から3まで、比較例1から3まで〕
実施例および比較例の各グリースを、以下の表1、表2に示す配合で調製し、4種のフッ素化合物系冷媒に接触した状態でグリースからの基油の流出特性を評価した。評価結果も表1、表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
※1 テトラアルキルジフェニルエーテル:アルキル基は炭素数8〜12の混合物,40℃動粘度100mm2/s
※2 ポリアルファオレフィン:40℃動粘度46.7mm2/s、100℃動粘度7.8mm2/s、粘度指数137
※3 ウレアA(脂環式):シクロヘキシルアミンとメチレンジイソシアネートの反応物
※4 ウレアB(脂肪族):ステアリルアミンとメチレンジイソシアネートの反応物
※5 ウレアC(脂肪族):オクチルアミンとメチレンジイソシアネートの反応物
なお、上記各ウレア(ジウレア)は、以下のようにして製造した(グリースの製造も兼ねている)。
まず、基油の半量にアミンを溶解したもの(a)を調製し、次に基油の残りの半量にメチレンジイソシアネートを溶解したもの(b)を調製した。そして、(a)と(b)を混合して反応させた。その後、160℃から170℃程度になるまで加熱撹拌し、温度を保持しながらさらに1時間攪拌した。その後、冷却して酸化防止剤および防錆剤を添加し、さらにミリング処理・脱泡処理を行ってグリースを得た。
※6 冷媒A:COCH(沸点61℃)(3M社製 HFE7100)
※7 冷媒B:CFCFC(O)CF(CF(沸点49℃)(3M社製 NOVEC649)
※8 冷媒C:CFCHOCFCHF(沸点56℃)(旭硝子社製 アサヒクリン AE3000)
※9 冷媒D:CF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF(沸点55℃)(ソルベイソレクシス社製 ガルデン HT55)
※10 冷媒E:CFCHCFCH(沸点40℃)(ソルベイソレクシス社製 ソルカン 365mfc)
【0048】
〔評価方法〕
(1)ちょう度
JIS K 2220.7に準拠して測定した。
(2)グリースの流出特性(冷媒接触試験)
上述の各表に示す基油と増ちょう剤および添加剤を用いて各グリースを調製した後、特願2010−151016号「グリース評価方法」に準拠して、各グリース中の基油の冷媒への流出性を評価した。具体的には以下の通りである。
評価対象となる各グリースに対して、該グリースの成分として用いた基油を別途用意した。該グリースと該基油を質量比1:20となるように採取し、ホモジナイザーによって十分に混合した。次に、予め内部を洗浄した透明容器(図2)内に前記希釈グリース50gと前記評価対象冷媒9gとを入れ、蓋2bによって内部を気密に覆った。この時点では、図3(a)に示すように、評価試料Sは、評価対象冷媒Rからなる層と希釈グリースGからなる層とに分離するものの、希釈グリースGの成分中の基油は分離することなく、希釈グリースGからなる層中に存在していた。なお、蓋2bに設けられた配管6のバルブ8については、これらを共に閉じておく。次いで、撹枠翼3cで分離槽2内を撹枠し、希釈グリースと評価対象冷媒とを均一に混合して、評価試料とした。そして、攪拌しながら室温2時間、110℃2時間のサイクル運転を6回繰り返し、合計24時間の実験を行った。その後、室温状態で24時間静置し、評価試料を安定化させた。すると、図3(b)に示すように、基油Bと評価対象冷媒Rが分離した。
そこで、希釈グリースGから分離した基油Bの層の割合を測定し、基油分離率を求めた。具体的には、図3(b)で示される透明な分離槽2の外側から、分離した基油Bの層の高さH1と希釈グリースGの層の高さH2とをメジャー等によって直接測定した。そして、得られた測定値から、以下の式に基づいて、基油分離率を求めた。
基油分離率={H1/(H1+H2)}×100
実用上は、この基油分離率が25%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。理想的には0%である。
【0049】
〔評価結果〕
表1に示す結果より、各実施例における本発明のグリースは、所定の基油と増ちょう剤を含んで製造されているので、いずれも基油分離率が低い。それ故、本発明の基油をフッ素化合物系冷媒雰囲気下で軸受に使用しても長期間に渡って潤滑性を維持できることが理解できる。これに対して、表2に示す結果より、各比較例におけるグリースは、基油がエーテル系化合物ではないので、いずれも基油分離率が高い。それ故、各比較例のグリースをフッ素化合物系冷媒雰囲気中で軸受に使用することは困難である。
【符号の説明】
【0050】
1…分離評価装置
2…分離槽(分離容器)
3…攪拌機
4…ヒータ
5…制御装置
S…評価試料
R…評価対象冷媒
G…希釈グリース
B…基油
10…廃熱源
20…蒸発器
30…発電タービン
40…凝縮器
50…ポンプ
60…シャフト
70…発電機
80…軸受
100…発電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル系基油とウレア増ちょう剤とを含む軸受用グリースであって、
フッ素化合物系冷媒雰囲気下で使用されることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受用グリースにおいて、
前記基油が芳香族エーテル系基油であることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項3】
請求項2に記載の軸受用グリースにおいて、
前記芳香族エーテル系基油がアルキルフェニルエーテル系基油およびジフェニルエーテル系基油のうち少なくともいずれかであることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の軸受用グリースにおいて、
前記ウレア増ちょう剤がメチレンジイソシアネートと炭素数6以上、12以下の脂肪族モノアミンとの反応物であることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の軸受用グリースにおいて、
該グリースの混和ちょう度が200以上、380以下であることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の軸受用グリースにおいて、
前記フッ素化合物系冷媒が下記分子式(A)で表されるフッ素化合物または飽和フッ化炭化水素化合物である
ことを特徴とする軸受用グリース。
CpOqFrRs (A)
[式中、Rは、Cl、Br、IまたはHを示し、pは1〜8、qは0〜2、rは1〜18、sは0〜17の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜8であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の軸受用グリースにおいて、
前記フッ素化合物系冷媒が、COCH、CFCFC(O)CF(CF2、CFCHOCFCHF、CFCHFCHFCFCF、CF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF、およびCFCHCFCHから選ばれる少なくともいずれか1つの化合物であることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項8】
請求項7に記載の軸受用グリースにおいて、
前記フッ素化合物系冷媒が、COCH、CFCHOCFCHF、CFCHFCHFCFCF、CF−(OC(CF)FCF)m−(OCF)n−OCF、およびCFCHCFCHから選ばれる少なくともいずれか1つの化合物であることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の軸受用グリースにおいて、
該軸受がランキンサイクルに使用されるものであることを特徴とする軸受用グリース。
【請求項10】
請求項9に記載の軸受用グリースにおいて、
該軸受がターボ式のランキンサイクルに使用されるものであることを特徴とする軸受用グリース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136651(P2012−136651A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290715(P2010−290715)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】