説明

軸状工具

【課題】工具本体先後端部が交換可能に装着される分割式の軸状工具においても、これらの軸線同士を互いに正確に同軸上に一致させて高精度の加工を行う。
【解決手段】軸線Oを中心とした軸状の工具本体後端部3の先端に、切刃を備えた軸状の工具本体先端部2が同軸上に着脱可能に取り付けられる軸状工具にあって、工具本体後端部3の先端部と工具本体先端部2の後端部との一方には軸線Oに沿って突出する突軸部13を形成するとともに、他方には突軸部13を収容する凹孔部14を軸線Oに沿って形成し、突軸部13を凹孔部14に軸線O回りに回転されることなく軸線O方向に引き込まれることにより収容し、さらに凹孔部14の内周と突軸部13の外周には、これら凹孔部14の開口端側と突軸部13の基端側に向かうに従い漸次拡径する軸線Oを中心としたテーパ面を互いに等しいテーパで密着可能に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状の工具本体の先端部に切刃が設けられたリーマ等の軸状工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような軸状工具として、例えば特許文献1には、軸線回りに回転されるシャンク部の先端に、加工部を備えたリーマヘッドを装着してなるリーマ等の穴加工工具であって、シャンク部は、超硬合金からなるシャンク部本体の先端側に鋼材からなる連結部を備え、リーマヘッドは、超硬合金からなるリーマヘッド本体の後端側に鋼材からなる被連結部を備え、これら連結部と被連結部のいずれか一方に上記軸線に沿って延びる雄ネジ部が形成されるとともに、他方にはこの雄ネジ部と螺合する雌ネジ部が設けられ、これら雄ネジ部と雌ネジ部との螺合によりリーマヘッドがシャンク部に交換可能に装着されたものが提案されている。
【0003】
このような軸状工具では、加工穴の径に応じてリーマヘッドのみを複数揃えればよく、さらに切刃が磨耗したリーマヘッドや損傷したリーマヘッドのみを新たなものに交換してシャンク部の再利用を図ることができるため、生産コスト、管理コストの低減を図ることができる。さらに、雄ネジ部の基端部の外周面を、上記軸線を中心とした断面真円状をなす円筒面に形成するとともに、雌ネジ部の開口付近の内周壁面を、この基端部に軸嵌合可能に形成することにより、シャンク部とリーマヘッドとを同軸となるように芯出しさせることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−241232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように雌雄ネジ部の螺合によってリーマヘッドがシャンクに交換可能に装着された分割式の穴加工工具においては、最終的に雌雄ネジ部が締め付けられてリーマヘッドがシャンクに固定される際に、リーマヘッドの軸線がシャンクの軸線に対して傾いたり偏心したりしてしまうおそれがある。そして、上記リーマのような長尺軸状の工具本体を有する軸状工具では、こうしてリーマヘッドが傾いたり偏心したりすると、加工穴を所定の径で高い真円度や真直度に仕上げるといった高精度の加工を行うのが困難となる。
【0006】
しかるに、この点、特許文献1に記載の軸状工具では、上述のように雌ネジ部開口部の内周面を雄ネジ部基端部の円筒面状の外周面に軸嵌合可能に形成することにより、ヘッドとシャンクを高精度に芯出しして両者の軸線を一致させようとしているが、このように雌ネジ部開口部の内周面を雄ネジ部基端部の円筒面状の外周面に軸嵌合可能とするにしても、両周面の間には基端部を開口部に挿入するためのクリアランスを極僅かながらでも確保しなければならず、このクリアランスの範囲内でヘッドとシャンクの軸線に傾きや偏心が生じることは避けられない。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上記シャンクのような工具本体後端部に上記ヘッドのような工具本体先端部が交換可能に装着される分割式の軸状工具においても、これら工具本体先後端部の軸線同士を互いに正確に同軸上に一致させて高精度の加工を行うことが可能な軸状工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線を中心とした軸状の工具本体後端部の先端に、切刃を備えた軸状の工具本体先端部が同軸上に着脱可能に取り付けられてなる軸状工具であって、上記工具本体後端部の先端部と上記工具本体先端部の後端部との一方には上記軸線に沿って突出する突軸部が形成されるとともに、他方には上記突軸部を収容する凹孔部が上記軸線に沿って形成されていて、上記突軸部は上記凹孔部に上記軸線回りに回転されることなく該軸線方向に引き込まれることにより収容され、さらに上記凹孔部の内周と上記突軸部の外周には、これら凹孔部の開口端側と突軸部の基端側に向かうに従い漸次拡径する上記軸線を中心としたテーパ面が互いに等しいテーパで密着可能に形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成された軸状工具では、上記突軸部が凹孔部に、軸線回りに回転されることなく軸線方向に引き込まれることにより収容され、これに伴い、凹孔部の内周部と突軸部の外周部に形成されたテーパ面同士が密着して工具本体後端部に工具本体先端部が取り付けられる。従って、円筒面同士で軸嵌合させる場合のように内外周面間にクリアランスを設ける必要はなく、上記軸線を中心とするテーパ角が等しいテーパ面同士がこのように互いに密着することにより、工具本体先後端部は傾きや偏心を生じることなく正確に同軸上に取り付けられる。
【0010】
ここで、これら凹孔部内周と突軸部外周のテーパ面は、軸線に対するテーパが小さすぎると円筒面同士を軸嵌合させる状態に近くなり、これらのテーパ面を確実に密着させるには、突軸部を凹孔部に引き込む際の引き込み量を大きくしなければならなくなる。ところが、その一方で、このテーパが大きすぎると、工具本体先後端部の取付剛性が損なわれて上述のように傾きや偏心を防ぐことができなくなるおそれが生じるため、これら凹孔部の内周と突軸部の外周に形成されるテーパ面は、1/20〜1/5程度の範囲の比較的小さなテーパとされるのが望ましい。
【0011】
なお、特にこうしてテーパ面のテーパを比較的小さくした場合には、突軸部の引き込みによりテーパ面同士が強く密着して取付剛性の向上が図られる反面、工具本体先後端部を分割しようとしたときに、突軸部を凹孔部から抜き出し難くなるという問題が生じる。そこで、このようにテーパを小さくした場合でも突軸部を凹孔部から容易に抜き出すことができるように、上記凹孔部が形成される工具本体後端部の先端部と工具本体先端部の後端部とのうちの他方に、先端面が先端側に向けて縮径するように形成された抜き出しネジを、上記先端面が上記突軸部の突端面外周に当接するように上記凹孔部に向けて外周側からねじ込んでおいて、この抜き出しネジをさらにねじ込むことにより、突軸部を引き込み側とは反対に軸線方向に押し出すようにするのが望ましい。
【0012】
また、さらに、上記テーパ面同士の密着によっても工具本体先端部の傾きや偏心を十分に防ぐことができない場合には、この工具本体先端部の上記切刃の軸線回りの回転径が所定の加工径となるように、工具本体先端部の傾きを調整する調整手段が設けられるのが望ましい。このような調整手段としては、例えば、上記工具本体先端部または工具本体後端部の外周面に周方向に延びる溝部を形成して、この溝部の軸線方向に対向する一対の内壁面を径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにし、該溝部に、上記一対の内壁面に当接する側面を備えた調整部材を、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能に取り付けて、これらの個所で調整部材の位置を径方向内周側に調整することにより、調整部材の側面によって溝部の内壁面を押圧して、工具本体先端部または後端部を、その軸線が上記傾きや偏心を打ち消す方向に傾斜するように撓ませて弾性変形させるように構成したものを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、リーマのような軸状工具において、工具本体後端部の先端に工具本体先端部を着脱可能とした分割式のものとしても、これら工具本体先後端部を正確に同軸上に配置して、高精度の加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す一部破断側面図である。
【図2】図1に示す実施形態の突軸部と凹孔部の拡大側断面図である。
【図3】図1に示す実施形態の調整手段の拡大側断面図である。
【図4】図1におけるZZ拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図4は、本発明を刃先交換式リーマに適用した場合の一実施形態を示すものである。本実施形態において、工具本体1は、それぞれ鋼材等により形成されて軸線Oを中心とした互いに略同径の外形円柱軸状をなす工具本体先端部2(図1において左側部分)と工具本体後端部3(図1において右側部分)とから構成され、このうち工具本体後端部3がホルダ4に焼き嵌め等により固着されていて、このホルダ4が図示されない工作機械の主軸に取り付けられることにより、上記軸線O回りに回転されつつ該軸線O方向先端側(図1における左側)に送り出されて、被削材に予め形成された下穴を所定の内径に仕上げ加工する。
【0016】
ここで、上記工具本体先端部2のさらに先端部には、その外周面を切り欠くようにしてチップポケット5とインサート取付座6が形成されており、このインサート取付座6に、超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサート7が着脱可能に取り付けられて、この切削インサート7の切刃7Aにより上記下穴の仕上げ加工が行われる。また、工具本体1の内部には工具本体後端部3から工具本体先端部2に亙って軸線Oに沿うようにクーラント穴8が穿設されており、このクーラント穴8は工具本体先端部2の先端側でインサート取付座6に向けて傾斜して開口し、切削インサート7の上記切刃7Aに向けてクーラントを供給するようにされている。
【0017】
さらに、工具本体先端部2の外周面には軸線Oに平行に延びる凹溝が周方向に間隔をあけて複数条形成されており、これらの凹溝にはガイドパッド9がろう付け等により接合されて取り付けられている。これらのガイドパッド9は、切削インサート7と同じく超硬合金等の硬質材料により形成されていて、工具本体先端部2に取り付けられた状態でその外周面が工具本体先端部2の外周面から僅かに突出して、上記切削インサート7の切刃7Aの軸線O回りの回転径よりも僅かに小さな径の軸線Oを中心とした1つの円筒面上に位置するようにされており、該切刃7Aによって仕上げられた加工穴の内周に摺接することにより、工具本体1を真っ直ぐ案内するようにされている。
【0018】
一方、工具本体先端部2の後端側の外周面には、上記凹溝やガイドパッド9が設けられていない部分が形成されており、この部分には、工具本体先端部2の後端面2Aよりも僅かに先端側に間隔をあけて、周方向に延びる溝部10が形成されている。この溝部10の軸線O方向に対向する一対の内壁面10Aは図3に示すように径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように形成されるとともに、該溝部10には、これら一対の内壁面10Aに当接する側面11Aを備えた調整部材11が、周方向における複数の個所でその径方向の位置を調整可能に調整ネジ12によって取り付けられていて、本実施形態における調整機構を構成している。
【0019】
ここで、本実施形態における調整機構では、上記溝部10は、工具本体1(工具本体先端部2)の全周に亙って連続するように軸線O回りに周回する環状溝とされている。さらに、上記一対の内壁面10Aは軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように、この平面Pに対して互いに等しい一定の傾斜角で外周側に向かうに従い漸次離間する円錐面状に形成されるとともに、これらの内壁面10Aの間の溝底には軸線Oを中心とした円筒面状をなす底面10Bが形成されており、従って軸線Oに沿った溝部10の断面は、図3に示すように外周側に向けて幅広となる等脚台形状を呈することになる。
【0020】
このような溝部10に取り付けられる上記調整部材11は、工具本体1よりも硬質な鋼材等により形成されて、その取付状態において軸線Oに沿った断面が図3に示すように溝部10と同様の等脚台形状をなし、すなわち上記内壁面10Aに当接する一対の側面11Aが、軸線Oに垂直な平面Pに対して上記内壁面10Aと等しい一定の傾斜角で外周側に向かうに従い互いに漸次離間する円錐面状に形成されるとともに、これらの側面11Aの間の内外周面11B、11Cは軸線Oに平行な円筒面状をなすようにされている。ただし、上記取付状態において内周面11Bの内径は溝部10の底面10Bの径よりも大きく、また外周面11Cの外径は工具本体1の外径と等しいか、僅かに小さくされている。
【0021】
また、この調整部材11は、本実施形態では環状溝とされた上記溝部10に収容可能な円環を周方向に複数個所で分割した円弧状をなすように形成されている。具体的に、各調整部材11は、図4に示すように上記円環を周方向に等間隔に4ヶ所で分割した略1/4円弧状をなしており、この1/4円弧の周方向中央部には上記内外周面11B、11C間を貫通するように段付の取付穴11Dが1つの調整部材11に対して1つずつ穿設される一方、溝部10の底面10Bには、これら分割された調整部材11の数に応じたネジ孔10Cが上記平面P上に中心を有するようにして周方向に等間隔に形成されている。
【0022】
さらに、各調整部材11は、取付穴11Dに挿通された上記調整ネジ12が溝部10のネジ孔10Cにねじ込まれることで、両側面11Aを一対の内壁面10Aにそれぞれ当接させて溝部10に取り付けられ、さらにこの調整ネジ12のねじ込み量を調整することで、溝部10内において径方向の位置が調整(微調整)可能とされている。なお、こうして溝部10に取り付けられた複数の調整部材11の間には、その径方向の位置調整が可能な程度の小さな間隙が周方向にあけられている。
【0023】
そして、本実施形態では、工具本体先端部2の後端部に、上記後端面2Aから軸線Oに沿って突出するように突軸部13が該工具本体先端部2と一体に形成されるとともに、工具本体後端部3の先端部には、この突軸部13を収容する凹孔部14が、工具本体後端部3の先端面3Aから軸線Oに沿って凹むように形成されており、この凹孔部14に突軸部13が引き込まれて固定されることにより、工具本体先後端部2、3が連結されて一体化され、工具本体1に構成される。
【0024】
このうち、上記突軸部13は、工具本体先後端部2の後端面2Aから突出して後端側に向かうに従い外径が漸次縮径する軸線Oを中心とした円錐台状のテーパ部13Aと、このテーパ部13Aの後端側にくびれ部13Bを介して形成されたテーパ部13Aよりも小径のやはり軸線Oを中心とした円柱軸状をなす軸部13Cとから構成されている。従って、テーパ部13Aの外周面がなすテーパ面は突軸部13の基端側(本実施形態では軸線O方向先端側)に向かうに従い漸次拡径するようにされる。なお、この軸部13Cの後端面すなわち突軸部13の後端側を向く突端面13Dからは、先端側に向けて、工具本体先端部2における上記クーラント穴8が軸線Oに沿って形成されている。
【0025】
また、軸部13Cには、軸線Oに対する直径方向に延びてクーラント穴8に直交する断面円形の取付孔13Eが形成されていて、この取付孔13Eにはクランプピン15が収容されている。このクランプピン15は、上記取付孔13Eに嵌合可能な外径の円柱状のピン本体15Aを有し、このピン本体15Aの外周面中央には断面「コ」字状の環状溝15Bが形成されるとともに、ピン本体15Aの一方の端面(図1および図2における上側の端面)15Cは該ピン本体15Aがなす円柱の中心線Cを中心とした凸円錐面状に、他方の端面(図1および図2における下側の端面)15Dは同じく中心線Cを中心とした凹円錐面状に形成されている。
【0026】
さらに、上記環状溝15Bにはカラー15Eが取り付けられていて、これによりクランプピン15は取付孔13Eに抜け止めされつつ、ピン本体15Aの外周面の両端部が常に取付孔13Eと嵌合した状態で、中心線C方向に摺動自在に取付孔13Eに収容されている。なお、このクランプピン15は、取付孔13E内において上記他方の端面15D側に押し込まれたときには軸部13Cの外周面から突出することがなく、上記一方の端面15C側に押し出されたときに、図2に示すようにこの一方の端面15Cが軸部13C外周面から突出するように、その中心線C方向の長さおよびカラー15Eによる摺動のストロークが設定されている。さらに、カラー15Eの外周面には凹みがつけられていて、軸部13Cのクーラント穴8が塞がれないようにされている。
【0027】
また、突軸部13の上記突端面13Dの外周部には、クランプピン15の上記他方の端面15D側に、この突端面13Dと軸部13Cの外周面との交差稜線部を斜めに切り欠くように切欠面13Fが形成されている。さらに、工具本体先端部2の上記後端面2Aは軸線Oに垂直な平面状とされ、ただしこの後端面2Aの上記中心線Cに平行な直径方向の両側にはキー部2Bが形成されるとともに、このうち中心線C方向においてクランプピン15の上記一方の端面15C側に位置する一方のキー部2Bには、後端側から位置決めピン2Cが打ち込まれている。
【0028】
一方、工具本体後端部3の先端面3Aも軸線Oに垂直な平面状とされ、ただし凹孔部14の開口部から軸線Oに対する直径方向に向けては、工具本体先端部2の後端面2Aに形成された上記キー部2Bを収容可能なキー溝3Bがそれぞれ形成されている。また、このうち一方のキー溝(図1および図2において上側のキー溝)3Bには、上記一方のキー部2Bに打ち込まれた位置決めピン2Cを収容する収容孔3Cが形成されている。
【0029】
このような先端面3Aに形成された上記凹孔部14は、後端側に向かうに従い内径が漸次縮径する軸線Oを中心とした凹円錐孔状のテーパ部14Aと、このテーパ部14Aの後端側に拡径部14Bを介して連なり、テーパ部14Aよりも小径で一定の内径とされたやはり軸線Oを中心とする直孔部14Cとから構成されている。従って、このテーパ部14Aの内周面がなすテーパ面は、凹孔部14の開口端側(本実施形態では軸線O方向先端側)に向かうに従い漸次拡径するようにされる。そして、直孔部14Cの内径は軸部13Cが嵌合可能な大きさとされるとともに、テーパ部14A内周のテーパ面のテーパは突軸部13のテーパ部13A外周のテーパ面のテーパと等しくされて、これらテーパ部14A、13A内外周のテーパ面が互いに密着可能とされている。
【0030】
また、工具本体後端部3の先端部の外周面からは、凹孔部14の上記直孔部14Cに向けて、上記キー溝3Bが形成された軸線Oに対する直径方向にネジ孔3D、3Eが同軸に形成されており、このうち収容孔3Cが形成されたキー溝3B側(図1および図2において上側)のネジ孔3Dにはクランプ受けネジ16が、またこれとは反対のキー溝3B側(図1および図2において下側)のネジ孔3Eにはクランプネジ17が、それぞれ螺着されている。
【0031】
さらに、このネジ孔3Eよりも軸線O方向後端側には、上述のように突軸部13が凹孔部14に収容されて固定された状態で、この突軸部13の突端面13Dに形成された上記切欠面13Fに臨む位置に開口するように、ネジ孔3Fが上記ネジ孔3Eと平行に形成されており、このネジ孔3Fには、先端面が先端側に向けて縮径する凸円錐面状に形成された抜き出しネジ18が、この先端面を凹孔部14内に突出させてねじ込まれている。また、凹孔部14の孔底には、工具本体後端部3に形成された上記クーラント穴8が開口させられている。
【0032】
ここで、クランプ受けネジ16の凹孔部14側を向く端面は、クランプピン15の一方の端面15Cがなす凸円錐面と等しいテーパ角で、ネジ孔3D、3Eの中心線Xを中心とした凹円錐面状とされるとともに、クランプネジ17の凹孔部14側を向く端面は、クランプピン15の他方の端面15Dがなす凹円錐面と等しいテーパ角のやはり中心線Xを中心とした凸円錐面状とされている。なお、クランプ受けネジ16は凹孔部14内に突出しないようにネジ孔3Dへのねじ込み位置が設定される一方、クランプネジ17はネジ孔3Eへのねじ込みより、凸円錐面状とされた上記端面が凹孔部14の直孔部14C内に出没可能とされている。
【0033】
ただし、これらクランプ受けネジ16およびクランプネジ17が螺着される上記ネジ孔3D、3Eの中心線Xは、上述のようにキー部2Bおよび位置決めピン2Cをキー溝3Bおよび収容孔3Cに収容しつつ突軸部13を凹孔部14に挿入し、軸部13Cを直孔部14Cに嵌合させながら突軸部13のテーパ部13Aを凹孔部14のテーパ部14Aに当接させて互いの内外周面のテーパ面を密着させた状態では、図2に示すようにこの突軸部13の取付孔13Eに収容されたクランプピン15の中心線Cよりも僅かに軸線O方向後端側に偏心するようにされている。
【0034】
従って、クランプネジ17を緩めてその凸円錐状とされた上記端面を直孔部14Cから後退させるとともに、クランプピン15をその上記他方の端面15D側に押し込んだ状態で、このように突軸部13を凹孔部14に挿入し、互いのテーパ部13A、14Aのテーパ面を密着させた状態から、クランプネジ17をねじ込んでいくと、このクランプネジ17の上記凸円錐状の端面がクランプピン15の凹円錐面状とされた他方の端面15Dに当接する。
【0035】
そして、さらにクランプネジ17をねじ込むと、このクランプネジ17に押し出されてクランプピン15の一方の端面15Cが取付孔13Eから突出し、凸円錐面状とされたこの一方の端面15Cがクランプ受けネジ16の凹円錐面状とされた端面に当接させられるが、これらクランプ受けネジ16とクランプネジ17の端面がなす凹凸円錐面の中心線Xは、上述のようにクランプネジ17の両端面15C、15Dがなす凸凹円錐面の中心線Cよりも軸線O方向後端側に偏心させられているので、図2に示すようにクランプネジ17の端面とクランプピン15の他方の端面15Dとは軸線O方向後端側で当接することになり、クランプ受けネジ16の端面とクランプピン15の一方の端面15Cとは軸線O方向先端側で当接することになる。
【0036】
このため、この状態からさらにクランプネジ17をねじ込んでゆくと、クランプピン15は、クランプ受けネジ16側に押し出されつつ、他方の端面15Dとクランプネジ17の端面とが当接する軸線O方向後端側の凹凸円錐面の傾斜と、一方の端面15Cとクランプ受けネジ16の端面とが当接する軸線O方向先端側の凹凸円錐面の傾斜に沿って、軸線O方向後端側にも押し出されることになり、これに伴い、このクランプピン15が嵌合した突軸部13も、軸線O回りの回転は拘束されたまま軸線O方向後端側に引き込まれることになる。すなわち、本実施形態では、これらクランプピン15やクランプ受けネジ16およびクランプネジ17が、突軸部13を凹孔部14に軸線O回りに回転することなく該軸線O方向に引き込む引き込み手段を構成する。
【0037】
従って、こうして突軸部13が凹孔部14に引き込まれることにより、互いの内外周のテーパ面同士が密着させられた突軸部13と凹孔部14のテーパ部13A、14Aは、これらのテーパ面がさらに強く密着するように押圧させられて、互いのテーパ面の中心軸線となる工具本体先端部2の軸線Oと工具本体後端部3の軸線Oとが正確に一致させられることになる。このため、こうして工具本体1を工具本体先端部2と工具本体後端部3とに分割式としても、上述のようにホルダ4を介して工作機械の主軸に取り付けられる工具本体後端部3に対して切刃7Aが設けられた工具本体先端部2が傾きや偏心を生じるのを防ぐことができ、本実施形態のリーマのような長尺となる軸状工具であっても、切刃7Aを確実に所定の回転径で軸線O回りに回転させて高精度の穴加工等の切削加工を施すことが可能となる。
【0038】
また、こうして突軸部13が凹孔部14に引き込まれて互いのテーパ部13A、14Aのテーパ面同士が強く密着させられることにより、これら突軸部13と凹孔部14との取付剛性の向上を図ることができ、従って工具本体先後端部2、3を強固に連結して、これによっても高精度の加工を図ることができる。特に、こうして突軸部13を凹孔部14に引き込んだ状態で、互いに軸線Oに垂直な平坦面とされた工具本体先端部2の後端面2Aと工具本体後端部3の先端面3Aとが密着するようにすれば、上記テーパ面とこれら先後端面2A、3Aとの2面同士で工具本体先端部2の傾き等を防止することができ、さらに加工精度の向上を促すことができる。
【0039】
なお、これら突軸部13と凹孔部14のテーパ部13A、14Aの内外周面がなすテーパ面のテーパが小さすぎると、特許文献1に記載の軸状工具のように円筒面同士を嵌合させる状態に近くなり、これらテーパ面同士を確実に密着させるには、突軸部13を凹孔部14に挿入してこれらのテーパ面を突き合わせてから、突軸部13を引き込むことによりテーパ面同士を強く密着させて軸線Oを一致させるとともに十分な取付剛性を確保するまでの突軸部13の引き込み量を大きくしなければならない。そして、これに伴い、本実施形態では上記引き込み手段におけるクランプネジ17のねじ込み量やクランプピン15の移動量も大きくなるため、例えば小径のリーマなどでは十分なスペースを確保することができなくなるおそれもある。
【0040】
しかしながら、その反面、このテーパが大きすぎると、突軸部13の凹孔部14への取付剛性が損なわれて、工具本体先端部2が工具本体後端部3に対して傾いたり偏心したりし易くなり、上述のような高い加工精度を得ることができなくなるおそれがある。このため、このような本発明による効果を確実に奏功するには、これら突軸部13のテーパ部13A外周と凹孔部14のテーパ部14A内周に形成されるテーパ面は、1/20〜1/5程度の範囲の比較的小さなテーパとされるのが望ましい。
【0041】
ところで、互いに密着させられるテーパ面のテーパをこのように比較的小さくした場合には、突軸部13の引き込みによって凹孔部14とのテーパ面同士が強く密着することにより高い取付剛性を得ることができるが、その一方で、こうしてテーパ面同士が強く密着して突軸部13のテーパ部13Aがきつく締め付けられていると、工具本体先後端部2、3のいずれかに損傷が生じたりしたときにこれらを分割して交換しようとしても、突軸部13を凹孔部14から抜き出し難くなるという問題が生じる。
【0042】
しかるに、これに対して本実施形態では、この凹孔部14が形成された工具本体後端部3の外周面から、該凹孔部14に収容された突軸部13の突端面13Dに形成された上記切欠面13Fに臨んで凹孔部14の直孔部14Cに開口するようにネジ孔3Fが形成されており、このネジ孔3Fに抜き出しネジ18がねじ込まれている。そして、この抜き出しネジ18の先端面は先端側に向けて縮径する凸円錐面状とされているので、この先端面を切欠面13Fに当接させて抜き出しネジ18をさらにねじ込むことにより、突軸部13を引き込み方向とは反対の軸線O方向先端側に押し出して凹孔部14から抜き出し、工具本体先後端部2、3を容易に分割することが可能となる。
【0043】
一方、本実施形態では上述のように、突軸部13と凹孔部14のテーパ部13A、14Aにおけるテーパ面同士を密着させて工具本体先後端部2、3を同軸上に配置するようにしているが、万一このテーパ面同士の密着によっても工具本体先後端部2、3に微小な傾き等が生じるような場合でも、本実施形態によれば工具本体先端部2に設けた上記調整機構によってこれを調整して、切刃7Aが所定の回転径で軸線O回りに回転するように配置することができる。
【0044】
すなわち、本実施形態の調整機構においては、上述のように調整部材11の側面11Aが溝部10の内壁面10Aに当接した状態から、複数の調整部材11のうちいずれかの調整部材11の調整ネジ12をねじ込んで径方向の位置を内周側に調整すると、この調整部材11の側面11Aが内壁面10Aを押圧し、これにより、該調整部材11が取り付けられた部分における溝部10が押し広げられて、工具本体1は、その工具本体先端部2が、溝部10が形成された部分よりも先端側が僅かに撓んで傾斜するように弾性変形する。なお、このとき、この内周側に位置調整される調整部材11とは反対側の調整部材11を取り付けた調整ネジ12は僅かに緩めて、この反対側の調整部材11の位置が外周側に調整されるようにしてもよい。
【0045】
従って、互いに連結された状態で工具本体先端部2が工具本体後端部3に対して傾いていたり、あるいはこれら工具本体先後端部2、3が同軸上にあっても、連結されて構成された工具本体1が上記ホルダ2を介して工作機械の主軸に取り付けられた状態で、この工具本体1の軸線Oが主軸による当該工具本体1の回転の中心線に対して傾いていたりしても、このように調整部材11の径方向の位置を調整して、工具本体先端部2の工具本体後端部3対する傾きや主軸への取付状態における工具本体1の軸線Oの傾きを打ち消す方向に工具本体先端部2を傾斜させることにより、この工具本体先端部2の先端に取り付けられた切削インサート7の切刃7Aの回転径が正確に所定の加工径と一致させることができる。このため、本発明の一実施形態である上記構成の刃先交換式リーマによれば、そのように工具本体1を調整して加工を行うことにより、被削材に形成された下穴を高精度に仕上げ加工することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態では、溝部10が環状溝とされるとともに、調整部材11は上述のように円環を周方向に複数個所で分割した円弧状とされており、このような円弧が、当該調整部材11の径方向の位置調整が可能な程度の小さな間隙をあけて溝部10に収容されている。このため、溝部10を略埋め込むように調整部材11を配設することができるので、こうして溝部10が環状溝とされていても、工具本体1の強度が低下するのを避けることができ、一層高精度の加工を行うことが可能となる。
【0047】
なお、本実施形態では上述のように、調整部材11は溝部10がなす環状溝に収容可能な円環を周方向に等間隔に複数個所(4ヶ所)で分割した1/4円弧状をなし、その周方向中央部に、1つの調整部材11に対して1つずつ穿設された取付穴11Dに挿通された調整ネジ12によって径方向の位置が調整可能とされているが、例えば調整部材11を、円環を半割にした半円状に形成するとともに、この半円の両端から周方向に1/8円弧の位置にそれぞれ取付穴11Dを形成したりして、すなわち1つの調整部材11に周方向に間隔をあけて複数の取付穴11Dを形成して調整ネジ12を挿通することにより、1つの調整部材11で部分的にその径方向の位置を調整して工具本体1の軸線Oを傾斜させるようにしてもよい。
【0048】
一方、本実施形態では、溝部10および調整部材11の軸線Oに沿った断面が等脚台形状をなしていて、溝部10の一対の内壁面10Aとこれに当接する調整部材11の側面11Aが、工具本体1の軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように、すなわち該平面Pに対して互いに等しい一定の傾斜角で径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように形成されているが、調整部材11の径方向の位置を調整して工具本体1を撓ませて軸線Oを傾斜させるには、例えば溝部10の一方の内壁面およびこれに当接する調整部材11の一方の側面は軸線Oに垂直な平面とされていて、これに対して他方の内壁面および側面が径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように傾斜させられていてもよく、すなわち軸線Oに垂直な平面Pに対して溝部10および調整部材11の断面形状が非対称とされていてもよい。
【0049】
ただし、そのような場合においては、調整ネジ12をねじ込んで調整部材11を径方向内周側に位置調整することにより工具本体先端部2を弾性変形させて軸線Oを傾斜させた際に、この工具本体先端部2の弾性変形に伴って溝部10の断面形状も微小変形することで、溝部10の一方の内壁面と調整部材11の側面との当接状態と、他方の内壁面と側面との当接状態とが互いに異なって変化してしまい、工具本体先端部2を安定して傾斜させたまま保持し難くなるおそれが生じる。このため、これら一対の内壁面10Aと側面11Aとは、本実施形態のように軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように形成されるのが望ましい。
【0050】
また、本実施形態では、本発明の軸状工具を刃先交換式のリーマに適用した場合について説明したが、リーマ以外の長尺軸状の工具本体を有する工具に適用することも可能であるし、刃先交換式ではないソリッドやろう付けの工具に適用することも可能である。さらに、工具本体も円柱軸状ではなく、例えば緩やかなテーパ角を有する円錐軸状であってもよい。また、本実施形態とは逆に工具本体先端部2の後端部に凹孔部14が、工具本体後端部3の先端部に突軸部13が形成されていてもよく、さらに上記調整機構も、工具本体後端部3に設けられていたり、工具本体先後端部2、3の双方に設けられていたりしてもよい。また、上記抜き出しネジ18の先端面は、先端側に向けて縮径するように形成されていれば、球面状などに形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 工具本体
2 工具本体先端部
3 工具本体後端部
4 ホルダ
7 切削インサート
7A 切刃
10 溝部
11 調整部材
12 調整ネジ
13 突軸部
13A 突軸部13のテーパ部
14 凹孔部
14A 凹孔部14のテーパ部
15 クランプピン
16 クランプ受けネジ
17 クランプネジ
18 抜き出しネジ
O 工具本体1、工具本体先後端部2、3の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした軸状の工具本体後端部の先端に、切刃を備えた軸状の工具本体先端部が同軸上に着脱可能に取り付けられてなる軸状工具であって、上記工具本体後端部の先端部と上記工具本体先端部の後端部との一方には上記軸線に沿って突出する突軸部が形成されるとともに、他方には上記突軸部を収容する凹孔部が上記軸線に沿って形成されていて、上記突軸部は上記凹孔部に上記軸線回りに回転されることなく該軸線方向に引き込まれることにより収容され、さらに上記凹孔部の内周と上記突軸部の外周には、これら凹孔部の開口端側と突軸部の基端側に向かうに従い漸次拡径する上記軸線を中心としたテーパ面が互いに等しいテーパで密着可能に形成されていることを特徴とする軸状工具。
【請求項2】
上記凹孔部の内周と上記突軸部の外周に形成される上記テーパ面が、1/20〜1/5の範囲のテーパとされていることを特徴とする請求項1に記載の軸状工具。
【請求項3】
上記凹孔部が形成される工具本体後端部の先端部と工具本体先端部の後端部とのうちの他方には、先端面が先端側に向けて縮径するように形成された抜き出しネジが、該先端面が上記突軸部の突端面外周に当接するように上記凹孔部に向けて外周側からねじ込まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軸状工具。
【請求項4】
上記工具本体先端部と上記工具本体後端部とのうち少なくとも一方の外周面には周方向に延びる溝部が形成されていて、この溝部の軸線方向に対向する一対の内壁面は径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされており、該溝部には、上記一対の内壁面に当接する側面を備えた調整部材が、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の軸状工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121097(P2012−121097A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273613(P2010−273613)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】