軸継手のボルト孔修復方法及び修復装置
【課題】フランジ形の軸継手を回転軸から取外すことなく、偏摩耗したボルト孔の修復を短時間に且つ高い精度で行うことができる手段を得る。
【解決手段】修復対象となるボルト孔13の心出しを行う心出冶具部材16と、ボルト孔13の内周面を切削するアジャスタブルリーマ17と、上記心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17が選択的に交換自在に装着される保持部25、及び軸継手9によって連結される一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17が取付けられた該保持部を、心出冶具部材16の心出部19の軸線又はアジャスタブルリーマ17の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材16の心出部19の軸線方向又はアジャスタブルリーマ17の軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部26を有する保持台18とを備えた修復装置を用いて修復を行う。
【解決手段】修復対象となるボルト孔13の心出しを行う心出冶具部材16と、ボルト孔13の内周面を切削するアジャスタブルリーマ17と、上記心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17が選択的に交換自在に装着される保持部25、及び軸継手9によって連結される一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17が取付けられた該保持部を、心出冶具部材16の心出部19の軸線又はアジャスタブルリーマ17の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材16の心出部19の軸線方向又はアジャスタブルリーマ17の軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部26を有する保持台18とを備えた修復装置を用いて修復を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ形の軸継手の両フランジ部に貫設した、連結用のボルトを貫挿するボルト孔を修復する方法及び修復装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば圧延機においては、図1に示すように、電動機等の回転軸4と、上下ワークロール用スピンドル5,6それぞれに該回転軸4の回転力を伝導するピニオンスタンド7とが中間スピンドル8により連結されていて、電動機等の回転軸4を回転させることにより中間スピンドル8を回転させ、ピニオンスタンド7を通じて上下ワークロール用スピンドル5,6、そして圧延機2の上下ワークロールを回転させるものが存在する。このとき、上記電動機等の回転軸4と中間スピンドル8とは、フランジ形の軸継手9により相互に連結されているのが一般的である。
上記フランジ形の軸継手9は、図2に示すように、一対の回転軸(上記圧延機の場合、一方は中間スピンドル8)の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部11,12を相互に対向させ、上記両フランジ部11,12を貫通させた複数のボルト孔13に連結用のボルト15を貫挿させて各ボルトのボルト杆15aにナット15bを螺合させることにより上記一対の回転軸4,8を連結するのが通常である。
【0003】
しかしながら、上記フランジ形の軸継手9においては、回転軸を長期に亘って回転し続けると、図3に示すように、一方のフランジ部側のボルト孔13の内周面における他方のフランジ部側の部分(図中の符号13aの部分)が次第に偏摩耗するという現象が生じることがある。
このようにボルト孔の内周面に偏摩耗が生じると、回転軸の回転時、その偏摩耗が生じている部分において、該ボルト孔に貫挿した連結用のボルトに過大なせん断応力を発生させる。その結果、連結用のボルトはその過大なせん断応力により折損されてしまうことから、適当な処置を施さなければ、ボルトの折損が頻発することとなる。
【0004】
上述のようにボルト孔の内周面に偏摩耗が生じた場合、ボルト孔内周面を偏摩耗部分が消滅するまで切削して拡径することにより修復し、その拡径したボルト孔に適応するボルトを嵌挿することになる。
ここで、ボルト孔の修復に際しては、切削作業を行うために上記軸継手のボルトを取外すと共に、フランジ部を回転軸から外せる場合はフランジ部を取外し、取外せない場合は回転軸ごと取外して軸継手を分解した後、分解した軸継手を工作機械がある別の場所まで搬送してボルト孔の切削作業を行うのが一般的だった。そうすると、上述の圧延機の場合、操業を一旦止めて軸継手の分解、運搬、修復後取付け等を行う必要があるため、多大な時間と手間を要するのが現状であり、操業の長期の停止を余儀なくされていた。
また、軸継手のボルト孔は、高い真円度及び円筒度を確保した上で、内周面全体を滑らかに仕上げ、ボルト孔の精度を高める必要であることから、軸継手を再度組み立て、両フランジ部の孔位置を適合させた上で偏摩耗したボルト孔を慎重に切削しなければならず、これにより操業の停止期間がより長引く場合も考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、フランジ形の軸継手を回転軸から取外すことなく、偏摩耗したボルト孔の修復を短時間に且つ高い精度で行うことができる修復する方法及び修復装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の軸継手のボルト孔修復方法は、一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手において、ボルト孔の内周面の一部が偏摩耗した軸継手のボルト孔修復方法であって、上記ボルト孔に、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径に形成された円筒状又は円柱状の心出部を有する心出冶具部材を挿し込んで、ボルト孔の内周径の中心軸線と心出部の軸線とを一致させる第1の工程;上記心出冶具部材を、該心出冶具部材が着脱自在に取付けられて上記心出部の軸線方向に直線的に移動させる保持部を備えた保持台により、該心出部の軸線方向とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部の軸線方向に移動自在である状態に保持する共に、その保持台を上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に位置決めして固定する第2の工程;上記心出冶具部材を、保持台の保持部を移動させることによりボルト孔から引き抜くと共に、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付ける第3の工程;上記アジャスタブルリーマを取付けた保持部をボルト孔に向けて移動させて、該アジャスタブルリーマを回転させることにより、ボルト孔の偏摩耗部分が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる第4の工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明においては、上記心出冶具部材は、上記心出部の軸線方向の一端側に、軸線が該心出部の軸線と一致するように設けられて、円筒状又は円柱状に形成された上記保持台の保持部に着脱自在に取付けられる冶具取付部を有していると共に、上記アジャスタブルリーマは、上記冶具取付部の外周径と同じ円柱状に形成された、保持台の保持部に着脱自在に取付けられるシャンク部を有し、上記保持台の保持部は、上記冶具取付部及びシャンク部の外周径と同じ内周径を有する挿入孔を備えていて、上記冶具取付部又はシャンク部を互いに選択的に挿入孔に挿し込むことにより、心出冶具部材又はアジャスタブルリーマを、上記保持部に心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で取付けることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔に、又は修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて、径方向に熱膨張する位置決めピンを挿入すると共に、該位置決めピンを加熱して上記一対のフランジ部の相対的な位置を固定する準備工程を行うことができる。
さらに、本発明においては、上記第4の工程において、アジャスタブルリーマによってボルト孔の偏摩耗が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる際に、ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくすることが好ましい。
【0009】
一方、本発明の軸継手のボルト孔修復装置は、一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手の、内周面の一部が偏摩耗したボルト孔を修復するための軸継手のボルト孔修復装置であって、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径を有する円筒状又は円柱状に形成され、上記偏摩耗したボルト孔に挿入自在である心出部と、該心出部の軸線方向の一端側に設けられた円筒状の冶具取付部とを有し、これら心出部の軸線と冶具取付部の軸線とが一致するように設けられた心出冶具部材と、上記心出冶具部材の冶具取付部の外周径と同じ外周径の円柱状又は円筒状のシャンク部を有していて、刃径が変更自在に構成された、ボルト孔の内周面を切削するアジャスタブルリーマと、上記心出冶具部材の冶具取付部及びアジャスタブルリーマのシャンク部の外周径と同じに形成され、冶具取付部又はシャンク部が挿入されることにより心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが選択的に交換自在に且つ軸線周りに回転自在に取付けられる保持部、及び上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが取付けられた該保持部を、心出冶具部材の心出部の軸線又はアジャスタブルリーマの軸線とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材の心出部の軸線方向又はアジャスタブルリーマの軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部を有する保持台とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、修復するボルト孔の内周径の中心軸線と心出冶具部材の心出部の軸線とを一致させ、その状態を保持台の保持部によって保持させた後、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付けるため、ボルト孔の心出作業を簡単且つ確実に行うことができる上、その心出作業で得られたボルト孔の中心軸線に合わせた適切なアジャスタブルリーマによるボルト孔の切削が行うことができる。したがって、偏摩耗したボルト孔の修復を、高い真円度及び円筒度を確保しながら内周面全体を滑らかに仕上げることができ、ボルト孔を精度よく修復することが可能となる。
また、上記ボルト孔の修復は、フランジ形の軸継手を回転軸から取外すことなく行われるため、従来のように軸継手の分解、運搬、修復後取付け等を行う必要がなく、これにより比較的容易且つ短時間で修復作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】修復対象となるフランジ形の軸継手を有する圧延機の構成例を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に係るフランジ形の軸継手の構成例を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図3】図2の一部破断拡大側面図である。
【図4】本発明の軸継手のボルト孔修復装置を中間スピンドル上に固定した状態を示す正面図である。ただし、心出冶具部材及びアジャスタブルリーマを取付けていない状態を示す。
【図5】本発明の軸継手のボルト孔修復装置における心出冶具部材を取付けた状態を示す一部破断側面図である。
【図6】本発明の軸継手のボルト孔修復装置におけるアジャスタブルリーマを取付けた状態を示す一部破断側面図である。
【図7】図6のアジャスタブルリーマの一部破断拡大側面図である。
【図8】本発明の軸継手のボルト孔修復装置における位置調整手段の調整機構の要部拡大断面図である。
【図9】本発明の軸継手のボルト孔修復方法の準備工程を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図10】同第1の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【図11】同第3の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【図12】同第3及び第4の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図4〜図8は、本発明の軸継手のボルト孔修復方法を実施する修復装置の一実施の形態を示すもので、この実施の形態の修復装置1は、図1に示すように、主に圧延機2における電動機としての電動モータ3の回転軸4と、該回転軸4の回転力を、上下ワークロール用スピンドル5,6それぞれに該回転軸4の回転力を伝動するピニオンスタンド7に伝動する中間スピンドル8とを連結するフランジ形の軸継手9に係る偏摩耗したボルト孔の修復に使用される例を示している。なお、図中、符号13aはボルト孔13の偏摩耗部分を指している。
【0013】
上記修復装置1の修復対象となるフランジ形の軸継手9は、図2及び図3に示すように、上記電動モータ3の回転軸4に取付けられたモータカップリング部材10に設けられ、回転軸4の軸線と直交する外方に延びる合金鋼あるいは炭素鋼製の円環状の第1のフランジ部11と、上記中間スピンドル8の電動モータ側の一端に、該第1のフランジ部11と対向し且つ該中間スピンドル8の軸線と直交する外方に延びるように一体的に設けられた、第1のフランジ部11と同径の合金鋼あるいは炭素鋼製の第2のフランジ部12を有している。さらに、第1及び第2の両フランジ部11,12を貫通する複数のボルト孔13と、各ボルト孔13に両方のフランジ部側からそれぞれ嵌入される略円筒状のブッシュ14と、各ボルト孔13にブッシュ14を介して貫挿され、ボルト杆15aにナット15bを螺合させることにより上記第1及び第2のフランジ部11,12を連結する連結用のボルト15を備えている。
なお、上記モータカップリング部材10は、上記電動モータ3の回転軸4の外周面先端に直接取付けられた内筒部材10aと、該内筒部材10aの外面に取付けられ、外周面に上記第1のフランジ部11が一体的に形成された外筒部材10bとで構成されている。
【0014】
上記ボルト孔13は、図3に示すように、第1のフランジ部11に貫設した第1の貫通孔11aと、第2のフランジ部12における該第1の貫通孔11aと対応する位置に設けられた、第1の貫通孔11aと同径の第2の貫通孔12aとで構成されている。なお、上記ブッシュ14は、実質的にはこれらの第1の貫通孔11a及び第2の貫通孔12aのそれぞれに嵌入されている。
この実施の形態においては、ボルト孔13は12個形成されており、各ボルト孔は、軸継手の回転中心を中心とした同心円上に30°の角度毎に配設されている。
また、上記連結用のボルト15は、ボルト杆15aの中間部分に周方向に切設されたスリット15cが設けられたいわゆるシャーピンボルトであり、ボルト杆15aに過度のせん断応力が作用した場合には、このスリット15cの部分で破断させてこのボルト位置における第1及び第2フランジ部11,12の連結が解除させる。したがって、全てのボルト15が破断した場合は、電動モータ3の回転軸4と中間スピンドル8とが分離されることになる。
なお、この実施の形態においては、上記ボルト15は、上記12個のボルト孔13のうちの90°の間隔にある4個に貫挿されており、この4か所において第1及び第2のフランジ部11,12を相互に連結するようになっている。
【0015】
そして、上記修復装置1は、図4〜図6に示すように、修復すべきボルト孔13の心出しを行うための心出冶具部材16と、その修復すべきボルト孔13を所定の内周径まで切削して拡径するアジャスタブルリーマ17と、上記心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17のいずれか一方が選択的に交換自在に、且つ回転自在に取付けられる保持台18とを備えている。
【0016】
上記心出冶具部材16は、図5に示すように、上記ボルト孔13に挿入自在である円筒状の心出部19と、該心出部19の軸線方向の一端側に設けられ、後述する保持台18の保持部25に取付けられる円筒状の冶具取付部20とを備えている。
上記心出部19は、偏摩耗前のボルト孔13の内周径(即ち偏摩耗しているボルト孔における偏摩耗していない部分の内周径)と同径の外周径と、該ボルト孔よりも長い軸線方向長さとを有していて、該心出部19をボルト孔13内に挿入することにより、この心出部19の軸線とボルト孔13の中心軸線とが一致する(一直線上に位置する)構成となっている。ここで、心出部19の外周径がボルト孔13の内周径と同径とは、心出部19の外周径がボルト孔13の内周径よりも僅かに小さいことを含む概念であり、心出部19をボルト孔13内に挿入することができ、且つ、ボルト孔13内の心出部19の軸線と該ボルト孔13の中心軸線とがほぼ一致すれる範囲内であればよい。なお、この実施の形態の心出部19は、その外周径がボルト孔13の内周径よりも0.05mm程度小さいものを使用している。
また、上記冶具取付部20は、その軸線が上記心出部19の軸線と一致するように形成されていて、実質的に、これらの心出部19及び冶具取付部20の軸線が心出冶具部材16全体の軸線となるように構成されている。なお、この実施の形態においては、上記冶具取付部20の外周径は心出部19の外周径よりも小径となっている。
【0017】
上記アジャスタブルリーマ17は、図6及び図7に示すように、後述する保持台18の保持部25に装着される円柱状のシャンク部21と、該シャンク部21の先端に設けられ、ボルト孔13の内周面を切削する複数の切削用のブレード22aを有する切削部22と、上記シャンク部21の基端側に一体に設けられ、アジャスタブルリーマ17全体をその軸線(回転軸線)周りに手動で回転させる回転用レバー23を取付自在である四角柱状の回転用レバー取付部24とを備えている。そして、切削部22の刃径Dを調整することにより、ボルト孔13の内周面を、高い真円度を維持しながら精度良く且つ滑らかに切削することが可能となっている。
上記シャンク部21は、上記心出冶具部材16の冶具取付部20の外周径と同じ外周径の円柱状に形成されており、上記回転用レバー取付部24を回転させてこのシャンク部21を軸線(即ちアジャスタブルリーマの回転の軸線)周りに回転させることにより、上記切削部22もその軸線周りに同時に回転されるようになっている
【0018】
また、上記切削部22は、図7に示すように、切削部本体22bの外周面に軸線と平行なるように切設された複数の溝22cと、各溝22c内に挿入された上記切削用のブレード22aと、切削部本体22bの外周面に設けられた雄ねじ22dに螺合した状態で該ブレード22aの先端側及び基端側を挟むように配設された、ブレード22aの溝22c内の位置を調整する一対の調整用ナット22e,22eとを有している。上記各溝は22c、シャンク部側に行くに従って次第に深さが浅くなるように溝底が傾斜しており、上記一対の調整用ナット22e,22eによってブレード22aの軸線方向の位置を変化させることにより、該ブレード22aの切削部本体22bからの突出高さを変化させることができる構成となっている。これにより、アジャスタブルリーマ17としての刃径D、即ち、切削対象を切削する径を一定の範囲において自在に変更することができる。
なお、この実施の形態において、このアジャスタブルリーマ17の刃径Dは、最小で修復前のボルト孔13の内周径とほぼ同じ程度、最大で切削によりボルト孔内の偏摩耗部分を完全に消滅させるために必要な径以上に調整可能なものが採用される。
【0019】
上記保持台18は、図4〜図6に示すように、上記心出冶具部材16とアジャスタブルリーマ17とのうちのいずれか一方を選択的に且つ相互に交換自在に取付けられる保持部25と、該保持部25が一定の方向に直線的に移動自在なるように取付けられた基台部26とを有している。
上記保持部25は、上記基台部26に直線的に移動自在に連結された台状の移動台部材27と、該移動台部27上に固定され、上記冶具取付部20又はシャンク部21のいずれか一方が選択的且つ着脱自在に挿入される挿入孔28a,28aが設けられた2つの取付部材28,28とを備えている。
上記移動台部材27は、後述する基台部26の一対の直線状のガイドレール32,32に沿って該ガイドレール32,32上を移動するもので、下面側にガイドレール32,32に移動自在に連結された複数のガイド部材29を備えている。このガイド部材29は、上記ガイドレール32,32が挿入される凹溝29aと、該凹溝29a内の両溝壁に配設されたボールやローラ等の複数の転動子(図示せず)とを備えており、該転動子が回転することにより、移動台部材27がガイドレール32,32に沿って精度良く往復動可能となっている。なお、この実施の形態におけるガイド部材29は、1本のガイドレール32に対して2つずつ、計4つ配設されている。
【0020】
また、上記2つの取付部材28,28は、それぞれの挿入孔28a,28aの中心軸線が一直線上に位置するように直列状に配設され、且つこれらの2つの挿入孔28a,28aの中心軸線の方向が上記移動台部材27の移動方向と常に同じ向きであるように該移動台部材27上に固定されており、該移動台部材27と共に上記基台部26上を移動自在となっている。
上記各挿入孔28aは、上記心出冶具部材16の冶具取付部20及びアジャスタブルリーマ17のシャンク部21の外周径と同径(略同径を含む)の内周径を有していて、冶具取付部20あるいはシャンク部21がこの挿入孔28a内に挿入されることにより、これらの冶具取付部20あるいはシャンク部21を安定的に保持する構成となっている。また、各挿入孔28aの内周面には図示しないベアリングが配設されていて、選択的に挿入された冶具取付部20又はシャンク部21は、このベアリングによって冶具取付部20あるいはシャンク部21の軸線周りに回転自在となっている。
そして、これらの挿入孔28a,28aに対して、冶具取付部20又はシャンク部21を抜き挿しすることにより、心出冶具部材16とアジャスタブルリーマ17とが着脱自在且つ交換自在に各取付部材28,28に取付けられ、保持部25に装着されることとなる。このとき、保持部25、より具体的には取付部材28,28に取付けられていた心出冶具部材16をアジャスタブルリーマ17に交換する場合、逆に保持部25に取付けられていたアジャスタブルリーマ17を心出冶具部材16に交換する場合において、上記挿入孔28aに心出冶具部材16の冶具取付部20又はアジャスタブルリーマ17のシャンク部21のいずれかが挿入されたとしても、冶具取付部20の軸線と挿入孔28aの中心軸線、あるいはシャンク部21の軸線と挿入孔28aの中心軸線は一致した状態となる。
これにより、保持部25に取付けられた冶具取付部20の軸線とシャンク部21の軸線とは常に一致することになるため、該保持部25に取付けられた心出冶具部材16の心出部19の軸線とアジャスタブルリーマ17の回転の中心軸線(アジャスタブルリーマ17の軸線)とは常に一致することとなる。
【0021】
なお、上記保持部25には、基台部26上を移動させる際に使用する棒状の送りレバー30が着脱自在に取付けられている。この実施の形態においては、上記送りレバー30は、図6に示すように、一端側を保持部25の側面中央に取付ける構成となっており、該保持部25を基台部26上を移動させる場合等、必要に応じて保持部25に取付けて、該送りレバー30を押したり引いたりすることにより手動で保持部25を移動させることができ、逆に、不要な場合には取外すことができるようになっている。
また、上記保持部25には、該保持部25が基台部26上を一時的に移動不能とするための図示しないロック機構が設けられていて、保持部25に取付けた心出冶具部材16をアジャスタブルリーマ17に交換する場合、逆に保持部25に取付けたアジャスタブルリーマ17を心出冶具部材16に交換する場合等において、保持部25を動かないようにして交換をスムーズ且つ安全に行うことができるようにしている。
【0022】
一方、上記基台部26は、上述したフランジ形の軸継手9が連結する一対の回転軸、この実施の形態においては電動モータ3の回転軸4(あるいはモータカップリング部材10)又は中間スピンドル8のいずれか一方に固定する固定台部材31と、該固定台部材31上に取付けられ、上面に上述の一対のガイドレール32が設けられたガイドレール台部材33とを備えている。
なお、この実施の形態においては、上記基台部26は、中間スピンドル8の外周面の上部に載置された状態で該中間スピンドル8に固定される例を示している。
【0023】
上記固定台部材31は、上記ガイドレール台部材33が取付けられた長尺の連結台34と、該連結台34の長手方向の両端に設けられ、固定すべき回転軸(この実施の形態の場合は中間スピンドル8)に実際に取付けられる一対のブロック体35,35とを有している。
上記連結台34は、上面が平坦に形成されている共に、該上面の長手の両縁部分には、鉛直上方に向けて突出する板状の立壁36,36がそれぞれ設けられた構成となっており、この連結台34上に上記ガイドレール台部材33が取付けられている。
また、上記一対のブロック体35,35は、下面側には逆V字状の溝35aがそれぞれ切設されていて、この溝35a内に中間スピンドル8が位置するように各ブロック体35,35を該中間スピンドル8上に載置することにより、基台部26全体が中間スピンドル8に安定的に設置されるようになっている。
さらに、この固定台部材31には、図4に示すように、基台部26を中間スピンドル8に安定的に取付けるため、該中間スピンドル8の外周に巻き付けたワイヤー37により固定されるようになっており、上記ブロック体35,35の側面に、ワイヤー37の端部を取付ける円環状の取付用環35bが設けられている。なお、図4中の符号52は、ワイヤーの締め付けに供するレバーブロックである。
【0024】
また、上記ガイドレール台部材33は、直線且つ相互に平行な上記一対のガイドレール32,32と、上記基台部26の連結台34上に連結される全体として平坦で、且つ上記固定台部材31の立壁36,36間の空間内に収まる幅に形成された平板部38と、該平板部38上に台状に立ち上がるように設けられて、上面に上記一対のガイドレール32,32が敷設された敷設台39とを備えている。このガイドレール台部材33は、上記固定台部材31とは別体に形成され、ガイドレール32,32、平板部38、敷設台39ともに該固定台部材31の長手とほぼ同じ長さに形成されたものとなっている。
上記敷設台39は、上方に立ち上った長手方向に延びる一対の側壁の上端に平坦な天板が設けられた略コ字状のもので、天板上面に上記一対のガイドレール32,32が敷設されている。また、上記一対のガイドレール32,32は、それぞれの両側面に上記ガイド部材29の凹溝29a内の転動子が回転自在に係合する図示しない溝が形成されている。
【0025】
ここで、上記一対のガイドレール32,32は、上記保持部25(厳密には移動台部材27)を、心出冶具部材16の心出部19及びアジャスタブルリーマ17の切削部22の各軸線方向長さよりも長く移動させる程度の長さを有している。これは、後で詳述するように保持部25を基台部26上で移動させる際に、心出冶具部材16の心出部19及びアジャスタブルリーマ17の切削部22が、ボルト孔13に対して完全に抜き挿しされるようにするためである。したがって、上記ガイドレール台部材の敷設台39、平板部38及び固定台部材31は、実質的にこの一対のガイドレール32,32の長さに適合する長さに形成される。
【0026】
ところで、上記固定台部材31と上記ガイドレール台部材33とは、上記保持部25の高さ及び移動方向を調整するための位置調整手段を介して相互に連結されている。これにより、保持部25に取付けた心出冶具部材16、あるいはアジャスタブルリーマ17を、心出冶具部材16の心出部19の軸線あるいはアジャスタブルリーマ17の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で、心出冶具部材16の心出部19の軸線方向又はアジャスタブルリーマ17の軸線方向に容易且つ確実に移動させることができる。
より具体的に、上記位置調整手段は、ガイドレール台部材33の平板部38の4隅にそれぞれ配設された調整機構40からなっており、これらの調整機構40すべてによって、ガイドレール台部材33の高さ、固定台部材31に対する上下方向の角度、及び横方向(この実施の形態の場合は水平方向)の相対的位置を調整することにより、一対のガイドレール32,32の位置、方向を調整可能となっている。これにより、上記保持部25の高さ、横方向の位置及び上下左右の移動方向が調整されることとなる。
【0027】
上記調整機構40は、図8に示すように、固定台部材31に対するガイドレール台部材33の高さ及び上下方向の角度の調整に供する第1の高さ調整用ボルト41と、ガイドレール台部材33の平板部38に穿設されて該第1の高さ調整用ボルト41が螺挿された第1の高さ調整用ボルト孔42と、ガイドレール台部材33の平板部38における該高さ調整用ボルト孔42の近傍に穿設された調整用孔43と、該調整用孔43にボルト杆44aが貫挿され、ガイドレール台部材33の高さ及び角度を固定する第2の高さ調整用ボルト44と、上記固定台部材31の連結台34に穿設されて該第2の高さ調整用ボルト44のボルト杆44aが螺挿された第2の高さ調整用ボルト孔45とを有している。さらに、ガイドレール台部材33の横方向(水平方向)の位置及び方向を調整する横方向調整用ボルト46と、上記固定台部材31の立壁36に穿設されて該横方向調整用ボルト46が螺挿された横方向調整用ボルト孔47とを備えている。なお、図8中の符号48は第2の高さ調整用ボルト44の座金、符号49は横方向調整用ボルト46のボルト杆46aの先端に取付けられ、該ボルト杆46aからの押圧力を平板部38に安定的に伝える押圧部材である。
【0028】
上記第1の高さ調整用ボルト41は、先端部が固定台部材31上に当接されていて、ボルト頭を回転させてボルト杆41aを第1の高さ調整用ボルト孔42内において上下に移動させることにより、ボルト杆41aで平板部38を支持した状態で該平板部38、延いてはガイドレール台部材33を上下方向に移動させる構成となっている。したがって、4つの調整機構40の各第1の高さ調整用ボルト41全部の高さ調整を行うことにより、ガイドレール台部材33の高さ、及び固定台部材31に対する上下方向の角度、即ち上記保持部25の移動高さ、及び上下方向の移動方向を調整することができる。
また、上記第2の高さ調整用ボルト44は、ボルト杆44aが調整用孔43を介して上記第2の高さ調整用ボルト孔45に螺挿されていて、平板部38と連結台34とを圧接させる方向に締め付けることにより、上記第1の高さ調整用ボルト41によって調整した固定台部材31に対するガイドレール台部材33の上下方向の位置を固定、保持することができるようになっている。また、上記調整用孔43は、この上記第2の高さ調整用ボルト44のボルト杆44aの外周径よりも大きく、且つボルト頭の外周径よりも小さな内周径を有していて、この調整用孔43内をボルト杆44aが移動できる範囲内において上記横方向調整用ボルト46による固定台部材31に対するガイドレール台部材33の横方向の相対的位置の調整を行うことが可能となっている。
【0029】
一方、横方向調整用ボルト46は、ボルト杆46aの先端部が平板部38の側面に当接されていて、ボルト頭を回転させてボルト杆46aを横方向調整用ボルト孔47を通して前後動させることにより該ボルト杆46a先端で平板部38を押圧し、該平板部38、延いてはガイドレール台部材33を横方向に移動させる。したがって、4つの調整機構40の各横方向調整用ボルト46全部によって横方向の方向調整を行うことにより、ガイドレール台部材33の横方向の向き及び固定台部材31に対する横方向の位置、即ち上記保持部25の横方向の移動方向及び横方向の位置を調整することができる。
なお、この横方向調整用ボルト46によって行った固定台部材31に対するガイドレール台部材33の横方向の相対的位置の調整は、上記第2の高さ調整用ボルト44を平板部38と連結台34とを圧接させる方向に回転させることにより、その調整位置を固定することができるようになっている。
【0030】
上記構成を有する軸継手のボルト孔修復装置1を使用して、上述した構成のフランジ形の軸継手9に係る偏摩耗したボルト孔13を修復する方法について、図9〜図12を用いて詳細に説明する。
まず、準備工程として、図9に示すように、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔13’に、径方向に熱膨張する位置決めピン50を挿入すると共に、該位置決めピン50を加熱して軸継手9の一対のフランジ部11,12の相対的な位置を固定する作業を事前に行う。
この実施の形態で使用される上記位置決めピン50は、具体的には、上記軸継手9のボルト孔の内周径と同じかやや小さい(約0.05mm程度小さい)外周径を有した円柱状に形成されたもので、中央には位置決めピン全体を加熱する棒状の伝熱ヒータ51を挿入するための加熱用孔50aが軸線方向に貫設されている。
したがって、まず位置決めに供する軸継手9のボルト孔13’に上記位置決めピン50を挿入して、該位置決めピン50の加熱用孔50a内に電熱ヒータ51を挿入した後、該伝熱ヒータ51によって位置決めピン50を加熱して径方向に膨張させ、該位置決めピン50を軸継手9のボルト孔13’内に圧着させる。これにより、第1のフランジ部11に貫設した第1の貫通孔11aと、第2のフランジ部12に貫設した第2の貫通孔12aとの各中心軸線が相互に一致した状態で、上記一対のフランジ部11,12の相対的な位置が固定されることとなる。
なお、この場合において、上記位置決めピン50が挿入されるボルト孔13’としては、偏摩耗しておらず加工精度が高いものが選択される。
【0031】
上記準備工程において一対のフランジ部11,12の相対的な位置が固定された後、第1の工程として、図10に示すように、修復対象となる軸継手9のボルト孔13に心出冶具部材16の心出部19を挿し込み、修復対象となるボルト孔13の心出し、即ち該ボルト孔13の内周径の中心軸線の位置を特定する作業を行う。
その際、上記心出冶具部材16の心出部19は、偏摩耗前のボルト孔の内周径とほぼ同径の外周径を有しているため、修復対象となるボルト孔13内周面における偏摩耗していない部分がガイドとなって、上記心出部19を該心出部19の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で該ボルト孔13内へ挿入させることが可能である。したがって、心出冶具部材16の心出部19を修復対象のボルト孔13に挿し込むだけで、該心出部19の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致することとなる。
【0032】
このとき、心出冶具部材16は、心出部19をボルト孔13に挿入するに際して、該心出部19をボルト孔13に挿し込む前に、冶具取付部20を保持台18の取付部材28,28の挿入孔28a,28aに挿し込んで保持部25に予め取付けておき、その後、心出冶具部材16を取付けた状態の保持台18を中間スピンドル8上に載置した上で心出部19をボルト孔13に挿入する。
この場合においては、保持台18の基台部26における位置調整手段は、ガイドレール台部材33の高さ及び固定台部材31に対する上下左右の角度、並びに横方向の相対的な位置が固定されていない状態、即ち第2の高さ調整用ボルト44が締め付けられていない状態としておく必要があり、その上で、ガイドレール台部材33の高さ及び上下左右の方向、即ち保持部25の高さ及び移動方向を大まかに調整しながら心出部19をボルト孔13に挿入していくことが肝要である。
【0033】
あるいは、心出冶具部材16は、心出部1をボルト孔13に挿入するに際して、単独でボルト孔13に挿し込んだ後、保持台18を中間スピンドル8上に載置させた上で、冶具取付部20を、上記保持台18の保持部25における取付部材28,28の挿入孔28a,28aに挿し込んで、事後的に心出冶具部材16を該保持部25に取付けるようにしてもよい。
この場合においても、上記冶具取付部20を取付部材28の挿入孔28aに挿し込む際は、保持台18の基台部26における位置調整手段を、ガイドレール台部材33の高さ及び固定台部材31に対する上下左右の角度、並びに横方向の相対的な位置が固定されていない状態、即ち第2の高さ調整用ボルト44が締め付けられていない状態としておく必要がある。
【0034】
また、上記出部19をボルト孔13に挿し込む前に心出冶具部材16を保持台18の保持部25に取付けておく場合、あるいは心出部19をボルト孔13に挿し込んだ後に心出冶具部材16を保持台18の保持部25に取付ける場合のいずれの場合であっても、心出冶具部材16は、保持部25が基台部26のフランジ側に位置する端部側の位置において心出部19がボルト孔13に挿し込まれた状態となるように保持部25に取付ける必要がある。これは、保持部25が基台部26のフランジ側に位置する端部側にあるときには心出冶具部材16の心出部19がボルト孔13に挿し込まれ、逆に保持部25が基台部26のフランジ側とは反対の端部側に位置するときには心出部19がボルト孔13から完全に抜かれた状態とするためである。
【0035】
その次に、第2の工程として、上記保持台18の位置調整手段を調整して、心出冶具部材16の心出部19がボルト孔13から引っ掛かりなくスムーズに抜き挿しできる保持部25の上下・左右の各移動方向を特定し、また必要に応じて高さと横方向位置も特定する。即ち、上記位置調整手段である4つの調整機構40の各第1の高さ調整用ボルト41や横方向調整用ボルト46の位置をそれぞれ調整して、上記ガイドレール台部材33の固定台部材31に対する上下の角度、ガイドレール台部材33の高さ、及びガイドレール台部材33の固定台部材33に対する横方向の角度及び相対的な横方向の位置を特定する。
そして、4つの調整機構40の各調整がすべて完了したら、第2の高さ調整用ボルトを締め付けることによりその特定した上下左右の角度や、高さ、横方向位置を固定する。
これにより、保持部25の移動方向や高さ、横方向位置が決定され、結果として、心出冶具部材16及び保持部25が、心出部19の軸線方向及び保持部25の挿入孔28aの中心軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部19の軸線方向に直線的に移動自在である状態に保持されることとなる
【0036】
その一方で、保持台18を上記中間スピンドル8上に位置決めして位置不動に固定する。具体的には、中間スピンドル8の外周に巻き付けられて両端が保持台18の固定台部材31に固定されたワイヤー37を、レバーブロック(図4中の符号52)により締め付けることにより固定台部材31を中間スピンドル8上に固定することにより行う。
【0037】
その後、第3の工程として、図11に示すように、上記保持台18の保持部25を、フランジ側に位置する端部側から反対側に位置する端部側に移動(後進)させることにより心出冶具部材16をボルト孔13から完全に引き抜くと共に、該心出冶具部材16を、冶具取付部20を取付部材28,28の各挿入孔28a,28aから引き抜くことにより保持台18から取外す。そして、図12に示すように、上記心出冶具部材16に代えて、アジャスタブルリーマ17を、シャンク部21を保持部25の取付部材28,28の各挿入孔28a,28aに挿入することにより該保持部25に回転自在なるように取付ける。
このとき、アジャスタブルリーマ17は、シャンク部21の軸線が、その前に保持部25に取付けられていた冶具取付部20の軸線と位置・方向共に一致した状態で保持部25に保持されるため、心出冶具部材16の心出部19の軸線とアジャスタブルリーマ17の回転の中心軸線とが一致した状態となる。
【0038】
そして、第4の工程として、上記アジャスタブルリーマ17を取付けた保持部25を、図12中の矢印で示すように、フランジ側に位置する端部側、即ちボルト孔13に向けて移動(前進)させ、該アジャスタブルリーマ17の切削部22のブレード22aをボルト孔13に押し当てながら回転させ、ボルト孔13の偏摩耗部分が完全に消滅する内周径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる。このとき、修復対象となるボルト孔については、アジャスタブルリーマ17による切削前に、偏摩耗部分の最大径を切削前に予め計測しておき、実際の切削の際には、その偏摩耗部分が完全に消滅させる内周径よりやや大きめの径を目標とする内周径Rとして切削、拡径する。
なお、アジャスタブルリーマ17を回転させるに際しては、シャンク部21基端側の回転レバー取付部24に回転用レバー23を取付け、アジャスタブルリーマ17をボルト孔13の周縁部分に押し当てながら該回転用レバー23を手動でゆっくり回転させる。
【0039】
ここで、アジャスタブルリーマ17によるボルト孔の切削は、ボルト孔13に対するアジャスタブルリーマ17の切削を複数回に分けて行い、切削する度に該アジャスタブルリーマ17の刃径Dを、ボルト孔13の内周径が目標とする内周径Rに至るまで段階的に大きくしていく。
たとえば、偏摩耗前のボルト孔の内周径が100mmで、偏摩耗部分を消滅させるために目標とする内周径Rを101mmとした場合、アジャスタブルリーマ17の切削部22の刃径Dを、まず約100.3mm程度の径を切削できるように調整し、保持部25及びアジャスタブルリーマ17を前進させながらボルト孔13に対する1回目の切削を行う。1回目の切削終了後は、保持部25を後進させてアジャスタブルリーマ17をボルト孔から引き抜き、切削部22の刃径Dを約100.6mm程度の径を切削できるように調整して2回目の切削を行う。2回目の切削終了後も、同様の手順で切削部22の刃径Dを約100.9mm程度の径を切削できるように調整して3回目の切削を行う。最終的には、仕上げ加工を兼ねて、切削部22の刃径Dを約0.1mm程度大きくして切削することによってボルト孔13の内周径を目標とする内周径Rとする。
このように、ボルト孔の切削を複数回に分けて少しずつ行うことにより、修復したボルト孔13の加工精度を非常に高いレベルに維持することができる。
【0040】
なお、アジャスタブルリーマ17によってボルト孔13が目標とする内周径Rにまで切削、拡径されたとき、第5の工程は終了する。終了後、保持台18をアジャスタブルリーマ17と共に中間スピンドル8から取外し、ボルト孔修復装置1全体を撤去する。
その一方で、修復されたボルト孔に対しては、該ボルト孔の新しい内周径に対応した外周径を有し且つ従前の連結用ボルト15のボルト杆15aの径に対応した内周径を備えた新たなブッシュ(つまり、ボルト孔の内周径が拡径した分だけ径方向に厚肉となったもの)を嵌入した上で、従前の連結ボルト15のボルト杆15aを該新たなブッシュに貫挿し、該ボルト杆15aに従前のナット15bを螺合させることとなる。
【0041】
このように、上述したボルト孔修復方法によれば、フランジ形の軸継手9を分解せずに一対の回転軸(電動モータ3の回転軸4と中間スピンドル8)を分離させない状態で、即ち、操業現場でボルト孔13の修復ができるため、従来のようにボルト修復にあたって軸継手の分解、運搬、修復後取付け等の一連の大掛かりな作業を行う必要がない。この結果、短時間で修復作業を行うことが可能となるため、操業の停止時間を大幅に短縮することができる。
また、修復対象となるボルト孔13の心出しを、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同じ外周径の心出部19を有する心出冶具部材16を挿し込むことにより簡単に行うことができる上、該心出冶具部材16を、その軸線が保持台18の保持部25に設けた挿入孔28aの中心軸線と一致させた状態で取付けて、心出冶具部材16の軸線方向に移動できるように保持部25の高さや移動方向を固定すると共に、該心出冶具部材16に代えてアジャスタブルリーマ17をその回転軸線と挿入孔28aの中心軸線とが一致した状態で保持部25に取付けることにより、心出冶具部材16により特定されたボルト孔13の中心軸線を容易にアジャスタブルリーマ17の回転軸線と一致させ、適切なボルト孔13の切削を行うことができる。この結果、偏摩耗したボルト孔13の修復を、高い真円度及び円筒度を確保しながら内周面全体を滑らかに仕上げることができ、ボルト孔13を精度よく修復することが可能となる。
【0042】
上記実施の形態においては、修復対象となるフランジ形の軸継手として、上記電動モータ3の回転軸4に取付けられたモータカップリング部材10に設けられた、回転軸4の軸線と直交する外方に延びる円環状の第1のフランジ部11と、上記中間スピンドル8の電動モータ側の一端に、該第1のフランジ部11と対向し、且つ該中間スピンドル8の軸線と直交する外方に延びるように一体的に設けられた第2のフランジ部12を有する例を対象としているが、修復対象となるフランジ形の軸継手としては、これ以外の構成であってもよく、回転軸に保持台を載置できるものであれば任意の構成のものに対して修復を行うことができる。
【0043】
上記実施の形態では、ボルト孔の修復を行う際に、準備工程として、第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔13’に、位置決めピン50を挿入して熱膨張させるようにしているが、この位置決めピン50は、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて挿し込んでもよい。
また、一対のフランジ部の相対的な位置にずれがなく、第1及び第2のフランジ部の各貫通孔の相互位置が適合し、ボルト孔内に第1及び第2の貫通孔の位置ずれに伴う段差ないような場合には、この位置決めピンを挿入して熱膨張させる工程そのものを省略することができる。
【0044】
上記実施の形態においては、心出冶具部材16の心出部19及び冶具取付部20を中空の円筒状としているが、これらの心出部及び冶具取付部は中実の円柱状であってもよい。
また、アジャスタブルリーマ17の切削部22の構造としては、上述した構成以外でも、例えば実開昭61−31616号公報に記載されているような、既に公知となっているアジャスタブルリーマの構造を採用してもよい。
【0045】
上記実施の形態では、第4の工程において、ボルト孔13に対するアジャスタブルリーマ17の切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマ17の刃径Dを、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくしているが、この場合においては、目標とするボルト孔の内周径近くまでは、比較的大きく削って粗加工する一方、その後は目標とするボルト孔の内周径まで少しずつ丁寧に削って仕上げ加工を行うようにすることが好ましい。
【0046】
また、上記実施の形態においては、修復対象となるフランジ形の軸継手9は、第1及び第2の両フランジ部11,12の各ボルト孔13(実質的には第1の貫通孔11a及び第2の貫通孔12a)に略円筒状のブッシュ14を嵌入し、該ブッシュ14を介して連結用のボルト15のボルト杆15aをボルト孔13に貫挿した構成となっているが、修復対象となるフランジ形の軸継手は、必ずしもブッシュを備えている必要はなく、連結用のボルトのボルト杆をボルト孔に直接的に貫挿する構成のものであってもよい。この場合においては、修復したボルト孔には、その修復によって拡径したボルト孔の内周径に適応した径のボルト杆を有する連結用のボルトを使用する必要がある。
【0047】
さらに、上記実施の形態では、修復したボルト孔に対して、該ボルト孔の新しい内周径に対応した外周径を有し且つ従前の連結用ボルトのボルト杆の径に対応した内周径を備えた新たなブッシュを採用した上で、従前の連結ボルトのボルト杆を該新たなブッシュに貫挿したものとなっているが、ブッシュの肉厚を従前のものと同じにして修復したボルト孔に合わせて外周径及び内周径をそれぞれ拡径させた新たなブッシュを採用し、その新たなブッシュの内周径に適応した径のボルト杆を備えた新たな連結用のボルトを使用するようにしてもよい。
【実施例】
【0048】
本発明の効果を確認するため、上記実施の形態の修復装置を用いて軸継手のボルト孔の修復実験を複数回行った。修復には、上記実施の形態において説明した修復方法を実行した。
修復対象となるフランジ形の軸継手は、第1及び第2フランジ部の材質が合金鋼、ボルト孔の長さが140mm、偏摩耗前の内周径が100mmのもので、最大部分で0.66mm程度偏摩耗(即ち、偏摩耗部分の最大径が100.66mm)しているボルト孔を修復対象とした。
修復に際しては、ボルト孔の偏摩耗部分を完全に消滅させるため、切削目標の内周径を101mmとして該ボルト孔の切削することとした。
また、上記アジャスタブルリーマによって修復対象となるボルト孔を切削するに際しては、該ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行い、目標とする内周径近くまでは、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を約0.3mm程度ずつ段階的に大きして切削する粗加工を行い、最終回の切削時は、切削量の誤差を考慮して0.15〜0.2mm程度刃径を大きくして切削する仕上げ加工を行った。
さらに、アジャスタブルリーマによる切削は、アジャスタブルリーマの切削(回転)速度は2m/m(約0.03m/s)程度、送り速度は7mm/m(約0.0012m/s)以下で常時切削を行うようにした。
【0049】
この結果、修復対象となるボルト孔の偏摩耗部分が完全に消滅させることができた上、該ボルト孔の内周面の粗さを6.3S〜25S、円筒度0.03mm以内の高精度な修復を行うことができた。
特に、ボルト孔の円筒度に関して、上記実施の形態の修復装置を用いず、通常のハンドリーマ加工を行った場合の円筒度は約0.3mm程度であったことから、上記実施の形態の修復装置及び修復方法によれば非常に高い精度の修復が可能であることが実証された。
【符号の説明】
【0050】
1 :修復装置
4 :回転軸
8 :中間スピンドル
9 :フランジ形の軸継手
11:第1のフランジ部
12:第2のフランジ部
13:ボルト孔
15:連結用のボルト
16:心出冶具部材
17:アジャスタブルリーマ
18:保持台
19:心出部
20:冶具取付部
21:シャンク部
22:切削部
25:保持部
26:基台部
28a:挿入孔
50:位置決めピン
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ形の軸継手の両フランジ部に貫設した、連結用のボルトを貫挿するボルト孔を修復する方法及び修復装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば圧延機においては、図1に示すように、電動機等の回転軸4と、上下ワークロール用スピンドル5,6それぞれに該回転軸4の回転力を伝導するピニオンスタンド7とが中間スピンドル8により連結されていて、電動機等の回転軸4を回転させることにより中間スピンドル8を回転させ、ピニオンスタンド7を通じて上下ワークロール用スピンドル5,6、そして圧延機2の上下ワークロールを回転させるものが存在する。このとき、上記電動機等の回転軸4と中間スピンドル8とは、フランジ形の軸継手9により相互に連結されているのが一般的である。
上記フランジ形の軸継手9は、図2に示すように、一対の回転軸(上記圧延機の場合、一方は中間スピンドル8)の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部11,12を相互に対向させ、上記両フランジ部11,12を貫通させた複数のボルト孔13に連結用のボルト15を貫挿させて各ボルトのボルト杆15aにナット15bを螺合させることにより上記一対の回転軸4,8を連結するのが通常である。
【0003】
しかしながら、上記フランジ形の軸継手9においては、回転軸を長期に亘って回転し続けると、図3に示すように、一方のフランジ部側のボルト孔13の内周面における他方のフランジ部側の部分(図中の符号13aの部分)が次第に偏摩耗するという現象が生じることがある。
このようにボルト孔の内周面に偏摩耗が生じると、回転軸の回転時、その偏摩耗が生じている部分において、該ボルト孔に貫挿した連結用のボルトに過大なせん断応力を発生させる。その結果、連結用のボルトはその過大なせん断応力により折損されてしまうことから、適当な処置を施さなければ、ボルトの折損が頻発することとなる。
【0004】
上述のようにボルト孔の内周面に偏摩耗が生じた場合、ボルト孔内周面を偏摩耗部分が消滅するまで切削して拡径することにより修復し、その拡径したボルト孔に適応するボルトを嵌挿することになる。
ここで、ボルト孔の修復に際しては、切削作業を行うために上記軸継手のボルトを取外すと共に、フランジ部を回転軸から外せる場合はフランジ部を取外し、取外せない場合は回転軸ごと取外して軸継手を分解した後、分解した軸継手を工作機械がある別の場所まで搬送してボルト孔の切削作業を行うのが一般的だった。そうすると、上述の圧延機の場合、操業を一旦止めて軸継手の分解、運搬、修復後取付け等を行う必要があるため、多大な時間と手間を要するのが現状であり、操業の長期の停止を余儀なくされていた。
また、軸継手のボルト孔は、高い真円度及び円筒度を確保した上で、内周面全体を滑らかに仕上げ、ボルト孔の精度を高める必要であることから、軸継手を再度組み立て、両フランジ部の孔位置を適合させた上で偏摩耗したボルト孔を慎重に切削しなければならず、これにより操業の停止期間がより長引く場合も考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、フランジ形の軸継手を回転軸から取外すことなく、偏摩耗したボルト孔の修復を短時間に且つ高い精度で行うことができる修復する方法及び修復装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の軸継手のボルト孔修復方法は、一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手において、ボルト孔の内周面の一部が偏摩耗した軸継手のボルト孔修復方法であって、上記ボルト孔に、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径に形成された円筒状又は円柱状の心出部を有する心出冶具部材を挿し込んで、ボルト孔の内周径の中心軸線と心出部の軸線とを一致させる第1の工程;上記心出冶具部材を、該心出冶具部材が着脱自在に取付けられて上記心出部の軸線方向に直線的に移動させる保持部を備えた保持台により、該心出部の軸線方向とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部の軸線方向に移動自在である状態に保持する共に、その保持台を上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に位置決めして固定する第2の工程;上記心出冶具部材を、保持台の保持部を移動させることによりボルト孔から引き抜くと共に、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付ける第3の工程;上記アジャスタブルリーマを取付けた保持部をボルト孔に向けて移動させて、該アジャスタブルリーマを回転させることにより、ボルト孔の偏摩耗部分が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる第4の工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明においては、上記心出冶具部材は、上記心出部の軸線方向の一端側に、軸線が該心出部の軸線と一致するように設けられて、円筒状又は円柱状に形成された上記保持台の保持部に着脱自在に取付けられる冶具取付部を有していると共に、上記アジャスタブルリーマは、上記冶具取付部の外周径と同じ円柱状に形成された、保持台の保持部に着脱自在に取付けられるシャンク部を有し、上記保持台の保持部は、上記冶具取付部及びシャンク部の外周径と同じ内周径を有する挿入孔を備えていて、上記冶具取付部又はシャンク部を互いに選択的に挿入孔に挿し込むことにより、心出冶具部材又はアジャスタブルリーマを、上記保持部に心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で取付けることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔に、又は修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて、径方向に熱膨張する位置決めピンを挿入すると共に、該位置決めピンを加熱して上記一対のフランジ部の相対的な位置を固定する準備工程を行うことができる。
さらに、本発明においては、上記第4の工程において、アジャスタブルリーマによってボルト孔の偏摩耗が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる際に、ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくすることが好ましい。
【0009】
一方、本発明の軸継手のボルト孔修復装置は、一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手の、内周面の一部が偏摩耗したボルト孔を修復するための軸継手のボルト孔修復装置であって、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径を有する円筒状又は円柱状に形成され、上記偏摩耗したボルト孔に挿入自在である心出部と、該心出部の軸線方向の一端側に設けられた円筒状の冶具取付部とを有し、これら心出部の軸線と冶具取付部の軸線とが一致するように設けられた心出冶具部材と、上記心出冶具部材の冶具取付部の外周径と同じ外周径の円柱状又は円筒状のシャンク部を有していて、刃径が変更自在に構成された、ボルト孔の内周面を切削するアジャスタブルリーマと、上記心出冶具部材の冶具取付部及びアジャスタブルリーマのシャンク部の外周径と同じに形成され、冶具取付部又はシャンク部が挿入されることにより心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが選択的に交換自在に且つ軸線周りに回転自在に取付けられる保持部、及び上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが取付けられた該保持部を、心出冶具部材の心出部の軸線又はアジャスタブルリーマの軸線とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材の心出部の軸線方向又はアジャスタブルリーマの軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部を有する保持台とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、修復するボルト孔の内周径の中心軸線と心出冶具部材の心出部の軸線とを一致させ、その状態を保持台の保持部によって保持させた後、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付けるため、ボルト孔の心出作業を簡単且つ確実に行うことができる上、その心出作業で得られたボルト孔の中心軸線に合わせた適切なアジャスタブルリーマによるボルト孔の切削が行うことができる。したがって、偏摩耗したボルト孔の修復を、高い真円度及び円筒度を確保しながら内周面全体を滑らかに仕上げることができ、ボルト孔を精度よく修復することが可能となる。
また、上記ボルト孔の修復は、フランジ形の軸継手を回転軸から取外すことなく行われるため、従来のように軸継手の分解、運搬、修復後取付け等を行う必要がなく、これにより比較的容易且つ短時間で修復作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】修復対象となるフランジ形の軸継手を有する圧延機の構成例を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に係るフランジ形の軸継手の構成例を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図3】図2の一部破断拡大側面図である。
【図4】本発明の軸継手のボルト孔修復装置を中間スピンドル上に固定した状態を示す正面図である。ただし、心出冶具部材及びアジャスタブルリーマを取付けていない状態を示す。
【図5】本発明の軸継手のボルト孔修復装置における心出冶具部材を取付けた状態を示す一部破断側面図である。
【図6】本発明の軸継手のボルト孔修復装置におけるアジャスタブルリーマを取付けた状態を示す一部破断側面図である。
【図7】図6のアジャスタブルリーマの一部破断拡大側面図である。
【図8】本発明の軸継手のボルト孔修復装置における位置調整手段の調整機構の要部拡大断面図である。
【図9】本発明の軸継手のボルト孔修復方法の準備工程を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図10】同第1の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【図11】同第3の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【図12】同第3及び第4の工程を模式的に示す一部破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図4〜図8は、本発明の軸継手のボルト孔修復方法を実施する修復装置の一実施の形態を示すもので、この実施の形態の修復装置1は、図1に示すように、主に圧延機2における電動機としての電動モータ3の回転軸4と、該回転軸4の回転力を、上下ワークロール用スピンドル5,6それぞれに該回転軸4の回転力を伝動するピニオンスタンド7に伝動する中間スピンドル8とを連結するフランジ形の軸継手9に係る偏摩耗したボルト孔の修復に使用される例を示している。なお、図中、符号13aはボルト孔13の偏摩耗部分を指している。
【0013】
上記修復装置1の修復対象となるフランジ形の軸継手9は、図2及び図3に示すように、上記電動モータ3の回転軸4に取付けられたモータカップリング部材10に設けられ、回転軸4の軸線と直交する外方に延びる合金鋼あるいは炭素鋼製の円環状の第1のフランジ部11と、上記中間スピンドル8の電動モータ側の一端に、該第1のフランジ部11と対向し且つ該中間スピンドル8の軸線と直交する外方に延びるように一体的に設けられた、第1のフランジ部11と同径の合金鋼あるいは炭素鋼製の第2のフランジ部12を有している。さらに、第1及び第2の両フランジ部11,12を貫通する複数のボルト孔13と、各ボルト孔13に両方のフランジ部側からそれぞれ嵌入される略円筒状のブッシュ14と、各ボルト孔13にブッシュ14を介して貫挿され、ボルト杆15aにナット15bを螺合させることにより上記第1及び第2のフランジ部11,12を連結する連結用のボルト15を備えている。
なお、上記モータカップリング部材10は、上記電動モータ3の回転軸4の外周面先端に直接取付けられた内筒部材10aと、該内筒部材10aの外面に取付けられ、外周面に上記第1のフランジ部11が一体的に形成された外筒部材10bとで構成されている。
【0014】
上記ボルト孔13は、図3に示すように、第1のフランジ部11に貫設した第1の貫通孔11aと、第2のフランジ部12における該第1の貫通孔11aと対応する位置に設けられた、第1の貫通孔11aと同径の第2の貫通孔12aとで構成されている。なお、上記ブッシュ14は、実質的にはこれらの第1の貫通孔11a及び第2の貫通孔12aのそれぞれに嵌入されている。
この実施の形態においては、ボルト孔13は12個形成されており、各ボルト孔は、軸継手の回転中心を中心とした同心円上に30°の角度毎に配設されている。
また、上記連結用のボルト15は、ボルト杆15aの中間部分に周方向に切設されたスリット15cが設けられたいわゆるシャーピンボルトであり、ボルト杆15aに過度のせん断応力が作用した場合には、このスリット15cの部分で破断させてこのボルト位置における第1及び第2フランジ部11,12の連結が解除させる。したがって、全てのボルト15が破断した場合は、電動モータ3の回転軸4と中間スピンドル8とが分離されることになる。
なお、この実施の形態においては、上記ボルト15は、上記12個のボルト孔13のうちの90°の間隔にある4個に貫挿されており、この4か所において第1及び第2のフランジ部11,12を相互に連結するようになっている。
【0015】
そして、上記修復装置1は、図4〜図6に示すように、修復すべきボルト孔13の心出しを行うための心出冶具部材16と、その修復すべきボルト孔13を所定の内周径まで切削して拡径するアジャスタブルリーマ17と、上記心出冶具部材16又はアジャスタブルリーマ17のいずれか一方が選択的に交換自在に、且つ回転自在に取付けられる保持台18とを備えている。
【0016】
上記心出冶具部材16は、図5に示すように、上記ボルト孔13に挿入自在である円筒状の心出部19と、該心出部19の軸線方向の一端側に設けられ、後述する保持台18の保持部25に取付けられる円筒状の冶具取付部20とを備えている。
上記心出部19は、偏摩耗前のボルト孔13の内周径(即ち偏摩耗しているボルト孔における偏摩耗していない部分の内周径)と同径の外周径と、該ボルト孔よりも長い軸線方向長さとを有していて、該心出部19をボルト孔13内に挿入することにより、この心出部19の軸線とボルト孔13の中心軸線とが一致する(一直線上に位置する)構成となっている。ここで、心出部19の外周径がボルト孔13の内周径と同径とは、心出部19の外周径がボルト孔13の内周径よりも僅かに小さいことを含む概念であり、心出部19をボルト孔13内に挿入することができ、且つ、ボルト孔13内の心出部19の軸線と該ボルト孔13の中心軸線とがほぼ一致すれる範囲内であればよい。なお、この実施の形態の心出部19は、その外周径がボルト孔13の内周径よりも0.05mm程度小さいものを使用している。
また、上記冶具取付部20は、その軸線が上記心出部19の軸線と一致するように形成されていて、実質的に、これらの心出部19及び冶具取付部20の軸線が心出冶具部材16全体の軸線となるように構成されている。なお、この実施の形態においては、上記冶具取付部20の外周径は心出部19の外周径よりも小径となっている。
【0017】
上記アジャスタブルリーマ17は、図6及び図7に示すように、後述する保持台18の保持部25に装着される円柱状のシャンク部21と、該シャンク部21の先端に設けられ、ボルト孔13の内周面を切削する複数の切削用のブレード22aを有する切削部22と、上記シャンク部21の基端側に一体に設けられ、アジャスタブルリーマ17全体をその軸線(回転軸線)周りに手動で回転させる回転用レバー23を取付自在である四角柱状の回転用レバー取付部24とを備えている。そして、切削部22の刃径Dを調整することにより、ボルト孔13の内周面を、高い真円度を維持しながら精度良く且つ滑らかに切削することが可能となっている。
上記シャンク部21は、上記心出冶具部材16の冶具取付部20の外周径と同じ外周径の円柱状に形成されており、上記回転用レバー取付部24を回転させてこのシャンク部21を軸線(即ちアジャスタブルリーマの回転の軸線)周りに回転させることにより、上記切削部22もその軸線周りに同時に回転されるようになっている
【0018】
また、上記切削部22は、図7に示すように、切削部本体22bの外周面に軸線と平行なるように切設された複数の溝22cと、各溝22c内に挿入された上記切削用のブレード22aと、切削部本体22bの外周面に設けられた雄ねじ22dに螺合した状態で該ブレード22aの先端側及び基端側を挟むように配設された、ブレード22aの溝22c内の位置を調整する一対の調整用ナット22e,22eとを有している。上記各溝は22c、シャンク部側に行くに従って次第に深さが浅くなるように溝底が傾斜しており、上記一対の調整用ナット22e,22eによってブレード22aの軸線方向の位置を変化させることにより、該ブレード22aの切削部本体22bからの突出高さを変化させることができる構成となっている。これにより、アジャスタブルリーマ17としての刃径D、即ち、切削対象を切削する径を一定の範囲において自在に変更することができる。
なお、この実施の形態において、このアジャスタブルリーマ17の刃径Dは、最小で修復前のボルト孔13の内周径とほぼ同じ程度、最大で切削によりボルト孔内の偏摩耗部分を完全に消滅させるために必要な径以上に調整可能なものが採用される。
【0019】
上記保持台18は、図4〜図6に示すように、上記心出冶具部材16とアジャスタブルリーマ17とのうちのいずれか一方を選択的に且つ相互に交換自在に取付けられる保持部25と、該保持部25が一定の方向に直線的に移動自在なるように取付けられた基台部26とを有している。
上記保持部25は、上記基台部26に直線的に移動自在に連結された台状の移動台部材27と、該移動台部27上に固定され、上記冶具取付部20又はシャンク部21のいずれか一方が選択的且つ着脱自在に挿入される挿入孔28a,28aが設けられた2つの取付部材28,28とを備えている。
上記移動台部材27は、後述する基台部26の一対の直線状のガイドレール32,32に沿って該ガイドレール32,32上を移動するもので、下面側にガイドレール32,32に移動自在に連結された複数のガイド部材29を備えている。このガイド部材29は、上記ガイドレール32,32が挿入される凹溝29aと、該凹溝29a内の両溝壁に配設されたボールやローラ等の複数の転動子(図示せず)とを備えており、該転動子が回転することにより、移動台部材27がガイドレール32,32に沿って精度良く往復動可能となっている。なお、この実施の形態におけるガイド部材29は、1本のガイドレール32に対して2つずつ、計4つ配設されている。
【0020】
また、上記2つの取付部材28,28は、それぞれの挿入孔28a,28aの中心軸線が一直線上に位置するように直列状に配設され、且つこれらの2つの挿入孔28a,28aの中心軸線の方向が上記移動台部材27の移動方向と常に同じ向きであるように該移動台部材27上に固定されており、該移動台部材27と共に上記基台部26上を移動自在となっている。
上記各挿入孔28aは、上記心出冶具部材16の冶具取付部20及びアジャスタブルリーマ17のシャンク部21の外周径と同径(略同径を含む)の内周径を有していて、冶具取付部20あるいはシャンク部21がこの挿入孔28a内に挿入されることにより、これらの冶具取付部20あるいはシャンク部21を安定的に保持する構成となっている。また、各挿入孔28aの内周面には図示しないベアリングが配設されていて、選択的に挿入された冶具取付部20又はシャンク部21は、このベアリングによって冶具取付部20あるいはシャンク部21の軸線周りに回転自在となっている。
そして、これらの挿入孔28a,28aに対して、冶具取付部20又はシャンク部21を抜き挿しすることにより、心出冶具部材16とアジャスタブルリーマ17とが着脱自在且つ交換自在に各取付部材28,28に取付けられ、保持部25に装着されることとなる。このとき、保持部25、より具体的には取付部材28,28に取付けられていた心出冶具部材16をアジャスタブルリーマ17に交換する場合、逆に保持部25に取付けられていたアジャスタブルリーマ17を心出冶具部材16に交換する場合において、上記挿入孔28aに心出冶具部材16の冶具取付部20又はアジャスタブルリーマ17のシャンク部21のいずれかが挿入されたとしても、冶具取付部20の軸線と挿入孔28aの中心軸線、あるいはシャンク部21の軸線と挿入孔28aの中心軸線は一致した状態となる。
これにより、保持部25に取付けられた冶具取付部20の軸線とシャンク部21の軸線とは常に一致することになるため、該保持部25に取付けられた心出冶具部材16の心出部19の軸線とアジャスタブルリーマ17の回転の中心軸線(アジャスタブルリーマ17の軸線)とは常に一致することとなる。
【0021】
なお、上記保持部25には、基台部26上を移動させる際に使用する棒状の送りレバー30が着脱自在に取付けられている。この実施の形態においては、上記送りレバー30は、図6に示すように、一端側を保持部25の側面中央に取付ける構成となっており、該保持部25を基台部26上を移動させる場合等、必要に応じて保持部25に取付けて、該送りレバー30を押したり引いたりすることにより手動で保持部25を移動させることができ、逆に、不要な場合には取外すことができるようになっている。
また、上記保持部25には、該保持部25が基台部26上を一時的に移動不能とするための図示しないロック機構が設けられていて、保持部25に取付けた心出冶具部材16をアジャスタブルリーマ17に交換する場合、逆に保持部25に取付けたアジャスタブルリーマ17を心出冶具部材16に交換する場合等において、保持部25を動かないようにして交換をスムーズ且つ安全に行うことができるようにしている。
【0022】
一方、上記基台部26は、上述したフランジ形の軸継手9が連結する一対の回転軸、この実施の形態においては電動モータ3の回転軸4(あるいはモータカップリング部材10)又は中間スピンドル8のいずれか一方に固定する固定台部材31と、該固定台部材31上に取付けられ、上面に上述の一対のガイドレール32が設けられたガイドレール台部材33とを備えている。
なお、この実施の形態においては、上記基台部26は、中間スピンドル8の外周面の上部に載置された状態で該中間スピンドル8に固定される例を示している。
【0023】
上記固定台部材31は、上記ガイドレール台部材33が取付けられた長尺の連結台34と、該連結台34の長手方向の両端に設けられ、固定すべき回転軸(この実施の形態の場合は中間スピンドル8)に実際に取付けられる一対のブロック体35,35とを有している。
上記連結台34は、上面が平坦に形成されている共に、該上面の長手の両縁部分には、鉛直上方に向けて突出する板状の立壁36,36がそれぞれ設けられた構成となっており、この連結台34上に上記ガイドレール台部材33が取付けられている。
また、上記一対のブロック体35,35は、下面側には逆V字状の溝35aがそれぞれ切設されていて、この溝35a内に中間スピンドル8が位置するように各ブロック体35,35を該中間スピンドル8上に載置することにより、基台部26全体が中間スピンドル8に安定的に設置されるようになっている。
さらに、この固定台部材31には、図4に示すように、基台部26を中間スピンドル8に安定的に取付けるため、該中間スピンドル8の外周に巻き付けたワイヤー37により固定されるようになっており、上記ブロック体35,35の側面に、ワイヤー37の端部を取付ける円環状の取付用環35bが設けられている。なお、図4中の符号52は、ワイヤーの締め付けに供するレバーブロックである。
【0024】
また、上記ガイドレール台部材33は、直線且つ相互に平行な上記一対のガイドレール32,32と、上記基台部26の連結台34上に連結される全体として平坦で、且つ上記固定台部材31の立壁36,36間の空間内に収まる幅に形成された平板部38と、該平板部38上に台状に立ち上がるように設けられて、上面に上記一対のガイドレール32,32が敷設された敷設台39とを備えている。このガイドレール台部材33は、上記固定台部材31とは別体に形成され、ガイドレール32,32、平板部38、敷設台39ともに該固定台部材31の長手とほぼ同じ長さに形成されたものとなっている。
上記敷設台39は、上方に立ち上った長手方向に延びる一対の側壁の上端に平坦な天板が設けられた略コ字状のもので、天板上面に上記一対のガイドレール32,32が敷設されている。また、上記一対のガイドレール32,32は、それぞれの両側面に上記ガイド部材29の凹溝29a内の転動子が回転自在に係合する図示しない溝が形成されている。
【0025】
ここで、上記一対のガイドレール32,32は、上記保持部25(厳密には移動台部材27)を、心出冶具部材16の心出部19及びアジャスタブルリーマ17の切削部22の各軸線方向長さよりも長く移動させる程度の長さを有している。これは、後で詳述するように保持部25を基台部26上で移動させる際に、心出冶具部材16の心出部19及びアジャスタブルリーマ17の切削部22が、ボルト孔13に対して完全に抜き挿しされるようにするためである。したがって、上記ガイドレール台部材の敷設台39、平板部38及び固定台部材31は、実質的にこの一対のガイドレール32,32の長さに適合する長さに形成される。
【0026】
ところで、上記固定台部材31と上記ガイドレール台部材33とは、上記保持部25の高さ及び移動方向を調整するための位置調整手段を介して相互に連結されている。これにより、保持部25に取付けた心出冶具部材16、あるいはアジャスタブルリーマ17を、心出冶具部材16の心出部19の軸線あるいはアジャスタブルリーマ17の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で、心出冶具部材16の心出部19の軸線方向又はアジャスタブルリーマ17の軸線方向に容易且つ確実に移動させることができる。
より具体的に、上記位置調整手段は、ガイドレール台部材33の平板部38の4隅にそれぞれ配設された調整機構40からなっており、これらの調整機構40すべてによって、ガイドレール台部材33の高さ、固定台部材31に対する上下方向の角度、及び横方向(この実施の形態の場合は水平方向)の相対的位置を調整することにより、一対のガイドレール32,32の位置、方向を調整可能となっている。これにより、上記保持部25の高さ、横方向の位置及び上下左右の移動方向が調整されることとなる。
【0027】
上記調整機構40は、図8に示すように、固定台部材31に対するガイドレール台部材33の高さ及び上下方向の角度の調整に供する第1の高さ調整用ボルト41と、ガイドレール台部材33の平板部38に穿設されて該第1の高さ調整用ボルト41が螺挿された第1の高さ調整用ボルト孔42と、ガイドレール台部材33の平板部38における該高さ調整用ボルト孔42の近傍に穿設された調整用孔43と、該調整用孔43にボルト杆44aが貫挿され、ガイドレール台部材33の高さ及び角度を固定する第2の高さ調整用ボルト44と、上記固定台部材31の連結台34に穿設されて該第2の高さ調整用ボルト44のボルト杆44aが螺挿された第2の高さ調整用ボルト孔45とを有している。さらに、ガイドレール台部材33の横方向(水平方向)の位置及び方向を調整する横方向調整用ボルト46と、上記固定台部材31の立壁36に穿設されて該横方向調整用ボルト46が螺挿された横方向調整用ボルト孔47とを備えている。なお、図8中の符号48は第2の高さ調整用ボルト44の座金、符号49は横方向調整用ボルト46のボルト杆46aの先端に取付けられ、該ボルト杆46aからの押圧力を平板部38に安定的に伝える押圧部材である。
【0028】
上記第1の高さ調整用ボルト41は、先端部が固定台部材31上に当接されていて、ボルト頭を回転させてボルト杆41aを第1の高さ調整用ボルト孔42内において上下に移動させることにより、ボルト杆41aで平板部38を支持した状態で該平板部38、延いてはガイドレール台部材33を上下方向に移動させる構成となっている。したがって、4つの調整機構40の各第1の高さ調整用ボルト41全部の高さ調整を行うことにより、ガイドレール台部材33の高さ、及び固定台部材31に対する上下方向の角度、即ち上記保持部25の移動高さ、及び上下方向の移動方向を調整することができる。
また、上記第2の高さ調整用ボルト44は、ボルト杆44aが調整用孔43を介して上記第2の高さ調整用ボルト孔45に螺挿されていて、平板部38と連結台34とを圧接させる方向に締め付けることにより、上記第1の高さ調整用ボルト41によって調整した固定台部材31に対するガイドレール台部材33の上下方向の位置を固定、保持することができるようになっている。また、上記調整用孔43は、この上記第2の高さ調整用ボルト44のボルト杆44aの外周径よりも大きく、且つボルト頭の外周径よりも小さな内周径を有していて、この調整用孔43内をボルト杆44aが移動できる範囲内において上記横方向調整用ボルト46による固定台部材31に対するガイドレール台部材33の横方向の相対的位置の調整を行うことが可能となっている。
【0029】
一方、横方向調整用ボルト46は、ボルト杆46aの先端部が平板部38の側面に当接されていて、ボルト頭を回転させてボルト杆46aを横方向調整用ボルト孔47を通して前後動させることにより該ボルト杆46a先端で平板部38を押圧し、該平板部38、延いてはガイドレール台部材33を横方向に移動させる。したがって、4つの調整機構40の各横方向調整用ボルト46全部によって横方向の方向調整を行うことにより、ガイドレール台部材33の横方向の向き及び固定台部材31に対する横方向の位置、即ち上記保持部25の横方向の移動方向及び横方向の位置を調整することができる。
なお、この横方向調整用ボルト46によって行った固定台部材31に対するガイドレール台部材33の横方向の相対的位置の調整は、上記第2の高さ調整用ボルト44を平板部38と連結台34とを圧接させる方向に回転させることにより、その調整位置を固定することができるようになっている。
【0030】
上記構成を有する軸継手のボルト孔修復装置1を使用して、上述した構成のフランジ形の軸継手9に係る偏摩耗したボルト孔13を修復する方法について、図9〜図12を用いて詳細に説明する。
まず、準備工程として、図9に示すように、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔13’に、径方向に熱膨張する位置決めピン50を挿入すると共に、該位置決めピン50を加熱して軸継手9の一対のフランジ部11,12の相対的な位置を固定する作業を事前に行う。
この実施の形態で使用される上記位置決めピン50は、具体的には、上記軸継手9のボルト孔の内周径と同じかやや小さい(約0.05mm程度小さい)外周径を有した円柱状に形成されたもので、中央には位置決めピン全体を加熱する棒状の伝熱ヒータ51を挿入するための加熱用孔50aが軸線方向に貫設されている。
したがって、まず位置決めに供する軸継手9のボルト孔13’に上記位置決めピン50を挿入して、該位置決めピン50の加熱用孔50a内に電熱ヒータ51を挿入した後、該伝熱ヒータ51によって位置決めピン50を加熱して径方向に膨張させ、該位置決めピン50を軸継手9のボルト孔13’内に圧着させる。これにより、第1のフランジ部11に貫設した第1の貫通孔11aと、第2のフランジ部12に貫設した第2の貫通孔12aとの各中心軸線が相互に一致した状態で、上記一対のフランジ部11,12の相対的な位置が固定されることとなる。
なお、この場合において、上記位置決めピン50が挿入されるボルト孔13’としては、偏摩耗しておらず加工精度が高いものが選択される。
【0031】
上記準備工程において一対のフランジ部11,12の相対的な位置が固定された後、第1の工程として、図10に示すように、修復対象となる軸継手9のボルト孔13に心出冶具部材16の心出部19を挿し込み、修復対象となるボルト孔13の心出し、即ち該ボルト孔13の内周径の中心軸線の位置を特定する作業を行う。
その際、上記心出冶具部材16の心出部19は、偏摩耗前のボルト孔の内周径とほぼ同径の外周径を有しているため、修復対象となるボルト孔13内周面における偏摩耗していない部分がガイドとなって、上記心出部19を該心出部19の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致した状態で該ボルト孔13内へ挿入させることが可能である。したがって、心出冶具部材16の心出部19を修復対象のボルト孔13に挿し込むだけで、該心出部19の軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致することとなる。
【0032】
このとき、心出冶具部材16は、心出部19をボルト孔13に挿入するに際して、該心出部19をボルト孔13に挿し込む前に、冶具取付部20を保持台18の取付部材28,28の挿入孔28a,28aに挿し込んで保持部25に予め取付けておき、その後、心出冶具部材16を取付けた状態の保持台18を中間スピンドル8上に載置した上で心出部19をボルト孔13に挿入する。
この場合においては、保持台18の基台部26における位置調整手段は、ガイドレール台部材33の高さ及び固定台部材31に対する上下左右の角度、並びに横方向の相対的な位置が固定されていない状態、即ち第2の高さ調整用ボルト44が締め付けられていない状態としておく必要があり、その上で、ガイドレール台部材33の高さ及び上下左右の方向、即ち保持部25の高さ及び移動方向を大まかに調整しながら心出部19をボルト孔13に挿入していくことが肝要である。
【0033】
あるいは、心出冶具部材16は、心出部1をボルト孔13に挿入するに際して、単独でボルト孔13に挿し込んだ後、保持台18を中間スピンドル8上に載置させた上で、冶具取付部20を、上記保持台18の保持部25における取付部材28,28の挿入孔28a,28aに挿し込んで、事後的に心出冶具部材16を該保持部25に取付けるようにしてもよい。
この場合においても、上記冶具取付部20を取付部材28の挿入孔28aに挿し込む際は、保持台18の基台部26における位置調整手段を、ガイドレール台部材33の高さ及び固定台部材31に対する上下左右の角度、並びに横方向の相対的な位置が固定されていない状態、即ち第2の高さ調整用ボルト44が締め付けられていない状態としておく必要がある。
【0034】
また、上記出部19をボルト孔13に挿し込む前に心出冶具部材16を保持台18の保持部25に取付けておく場合、あるいは心出部19をボルト孔13に挿し込んだ後に心出冶具部材16を保持台18の保持部25に取付ける場合のいずれの場合であっても、心出冶具部材16は、保持部25が基台部26のフランジ側に位置する端部側の位置において心出部19がボルト孔13に挿し込まれた状態となるように保持部25に取付ける必要がある。これは、保持部25が基台部26のフランジ側に位置する端部側にあるときには心出冶具部材16の心出部19がボルト孔13に挿し込まれ、逆に保持部25が基台部26のフランジ側とは反対の端部側に位置するときには心出部19がボルト孔13から完全に抜かれた状態とするためである。
【0035】
その次に、第2の工程として、上記保持台18の位置調整手段を調整して、心出冶具部材16の心出部19がボルト孔13から引っ掛かりなくスムーズに抜き挿しできる保持部25の上下・左右の各移動方向を特定し、また必要に応じて高さと横方向位置も特定する。即ち、上記位置調整手段である4つの調整機構40の各第1の高さ調整用ボルト41や横方向調整用ボルト46の位置をそれぞれ調整して、上記ガイドレール台部材33の固定台部材31に対する上下の角度、ガイドレール台部材33の高さ、及びガイドレール台部材33の固定台部材33に対する横方向の角度及び相対的な横方向の位置を特定する。
そして、4つの調整機構40の各調整がすべて完了したら、第2の高さ調整用ボルトを締め付けることによりその特定した上下左右の角度や、高さ、横方向位置を固定する。
これにより、保持部25の移動方向や高さ、横方向位置が決定され、結果として、心出冶具部材16及び保持部25が、心出部19の軸線方向及び保持部25の挿入孔28aの中心軸線とボルト孔13の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部19の軸線方向に直線的に移動自在である状態に保持されることとなる
【0036】
その一方で、保持台18を上記中間スピンドル8上に位置決めして位置不動に固定する。具体的には、中間スピンドル8の外周に巻き付けられて両端が保持台18の固定台部材31に固定されたワイヤー37を、レバーブロック(図4中の符号52)により締め付けることにより固定台部材31を中間スピンドル8上に固定することにより行う。
【0037】
その後、第3の工程として、図11に示すように、上記保持台18の保持部25を、フランジ側に位置する端部側から反対側に位置する端部側に移動(後進)させることにより心出冶具部材16をボルト孔13から完全に引き抜くと共に、該心出冶具部材16を、冶具取付部20を取付部材28,28の各挿入孔28a,28aから引き抜くことにより保持台18から取外す。そして、図12に示すように、上記心出冶具部材16に代えて、アジャスタブルリーマ17を、シャンク部21を保持部25の取付部材28,28の各挿入孔28a,28aに挿入することにより該保持部25に回転自在なるように取付ける。
このとき、アジャスタブルリーマ17は、シャンク部21の軸線が、その前に保持部25に取付けられていた冶具取付部20の軸線と位置・方向共に一致した状態で保持部25に保持されるため、心出冶具部材16の心出部19の軸線とアジャスタブルリーマ17の回転の中心軸線とが一致した状態となる。
【0038】
そして、第4の工程として、上記アジャスタブルリーマ17を取付けた保持部25を、図12中の矢印で示すように、フランジ側に位置する端部側、即ちボルト孔13に向けて移動(前進)させ、該アジャスタブルリーマ17の切削部22のブレード22aをボルト孔13に押し当てながら回転させ、ボルト孔13の偏摩耗部分が完全に消滅する内周径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる。このとき、修復対象となるボルト孔については、アジャスタブルリーマ17による切削前に、偏摩耗部分の最大径を切削前に予め計測しておき、実際の切削の際には、その偏摩耗部分が完全に消滅させる内周径よりやや大きめの径を目標とする内周径Rとして切削、拡径する。
なお、アジャスタブルリーマ17を回転させるに際しては、シャンク部21基端側の回転レバー取付部24に回転用レバー23を取付け、アジャスタブルリーマ17をボルト孔13の周縁部分に押し当てながら該回転用レバー23を手動でゆっくり回転させる。
【0039】
ここで、アジャスタブルリーマ17によるボルト孔の切削は、ボルト孔13に対するアジャスタブルリーマ17の切削を複数回に分けて行い、切削する度に該アジャスタブルリーマ17の刃径Dを、ボルト孔13の内周径が目標とする内周径Rに至るまで段階的に大きくしていく。
たとえば、偏摩耗前のボルト孔の内周径が100mmで、偏摩耗部分を消滅させるために目標とする内周径Rを101mmとした場合、アジャスタブルリーマ17の切削部22の刃径Dを、まず約100.3mm程度の径を切削できるように調整し、保持部25及びアジャスタブルリーマ17を前進させながらボルト孔13に対する1回目の切削を行う。1回目の切削終了後は、保持部25を後進させてアジャスタブルリーマ17をボルト孔から引き抜き、切削部22の刃径Dを約100.6mm程度の径を切削できるように調整して2回目の切削を行う。2回目の切削終了後も、同様の手順で切削部22の刃径Dを約100.9mm程度の径を切削できるように調整して3回目の切削を行う。最終的には、仕上げ加工を兼ねて、切削部22の刃径Dを約0.1mm程度大きくして切削することによってボルト孔13の内周径を目標とする内周径Rとする。
このように、ボルト孔の切削を複数回に分けて少しずつ行うことにより、修復したボルト孔13の加工精度を非常に高いレベルに維持することができる。
【0040】
なお、アジャスタブルリーマ17によってボルト孔13が目標とする内周径Rにまで切削、拡径されたとき、第5の工程は終了する。終了後、保持台18をアジャスタブルリーマ17と共に中間スピンドル8から取外し、ボルト孔修復装置1全体を撤去する。
その一方で、修復されたボルト孔に対しては、該ボルト孔の新しい内周径に対応した外周径を有し且つ従前の連結用ボルト15のボルト杆15aの径に対応した内周径を備えた新たなブッシュ(つまり、ボルト孔の内周径が拡径した分だけ径方向に厚肉となったもの)を嵌入した上で、従前の連結ボルト15のボルト杆15aを該新たなブッシュに貫挿し、該ボルト杆15aに従前のナット15bを螺合させることとなる。
【0041】
このように、上述したボルト孔修復方法によれば、フランジ形の軸継手9を分解せずに一対の回転軸(電動モータ3の回転軸4と中間スピンドル8)を分離させない状態で、即ち、操業現場でボルト孔13の修復ができるため、従来のようにボルト修復にあたって軸継手の分解、運搬、修復後取付け等の一連の大掛かりな作業を行う必要がない。この結果、短時間で修復作業を行うことが可能となるため、操業の停止時間を大幅に短縮することができる。
また、修復対象となるボルト孔13の心出しを、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同じ外周径の心出部19を有する心出冶具部材16を挿し込むことにより簡単に行うことができる上、該心出冶具部材16を、その軸線が保持台18の保持部25に設けた挿入孔28aの中心軸線と一致させた状態で取付けて、心出冶具部材16の軸線方向に移動できるように保持部25の高さや移動方向を固定すると共に、該心出冶具部材16に代えてアジャスタブルリーマ17をその回転軸線と挿入孔28aの中心軸線とが一致した状態で保持部25に取付けることにより、心出冶具部材16により特定されたボルト孔13の中心軸線を容易にアジャスタブルリーマ17の回転軸線と一致させ、適切なボルト孔13の切削を行うことができる。この結果、偏摩耗したボルト孔13の修復を、高い真円度及び円筒度を確保しながら内周面全体を滑らかに仕上げることができ、ボルト孔13を精度よく修復することが可能となる。
【0042】
上記実施の形態においては、修復対象となるフランジ形の軸継手として、上記電動モータ3の回転軸4に取付けられたモータカップリング部材10に設けられた、回転軸4の軸線と直交する外方に延びる円環状の第1のフランジ部11と、上記中間スピンドル8の電動モータ側の一端に、該第1のフランジ部11と対向し、且つ該中間スピンドル8の軸線と直交する外方に延びるように一体的に設けられた第2のフランジ部12を有する例を対象としているが、修復対象となるフランジ形の軸継手としては、これ以外の構成であってもよく、回転軸に保持台を載置できるものであれば任意の構成のものに対して修復を行うことができる。
【0043】
上記実施の形態では、ボルト孔の修復を行う際に、準備工程として、第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔13’に、位置決めピン50を挿入して熱膨張させるようにしているが、この位置決めピン50は、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて挿し込んでもよい。
また、一対のフランジ部の相対的な位置にずれがなく、第1及び第2のフランジ部の各貫通孔の相互位置が適合し、ボルト孔内に第1及び第2の貫通孔の位置ずれに伴う段差ないような場合には、この位置決めピンを挿入して熱膨張させる工程そのものを省略することができる。
【0044】
上記実施の形態においては、心出冶具部材16の心出部19及び冶具取付部20を中空の円筒状としているが、これらの心出部及び冶具取付部は中実の円柱状であってもよい。
また、アジャスタブルリーマ17の切削部22の構造としては、上述した構成以外でも、例えば実開昭61−31616号公報に記載されているような、既に公知となっているアジャスタブルリーマの構造を採用してもよい。
【0045】
上記実施の形態では、第4の工程において、ボルト孔13に対するアジャスタブルリーマ17の切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマ17の刃径Dを、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくしているが、この場合においては、目標とするボルト孔の内周径近くまでは、比較的大きく削って粗加工する一方、その後は目標とするボルト孔の内周径まで少しずつ丁寧に削って仕上げ加工を行うようにすることが好ましい。
【0046】
また、上記実施の形態においては、修復対象となるフランジ形の軸継手9は、第1及び第2の両フランジ部11,12の各ボルト孔13(実質的には第1の貫通孔11a及び第2の貫通孔12a)に略円筒状のブッシュ14を嵌入し、該ブッシュ14を介して連結用のボルト15のボルト杆15aをボルト孔13に貫挿した構成となっているが、修復対象となるフランジ形の軸継手は、必ずしもブッシュを備えている必要はなく、連結用のボルトのボルト杆をボルト孔に直接的に貫挿する構成のものであってもよい。この場合においては、修復したボルト孔には、その修復によって拡径したボルト孔の内周径に適応した径のボルト杆を有する連結用のボルトを使用する必要がある。
【0047】
さらに、上記実施の形態では、修復したボルト孔に対して、該ボルト孔の新しい内周径に対応した外周径を有し且つ従前の連結用ボルトのボルト杆の径に対応した内周径を備えた新たなブッシュを採用した上で、従前の連結ボルトのボルト杆を該新たなブッシュに貫挿したものとなっているが、ブッシュの肉厚を従前のものと同じにして修復したボルト孔に合わせて外周径及び内周径をそれぞれ拡径させた新たなブッシュを採用し、その新たなブッシュの内周径に適応した径のボルト杆を備えた新たな連結用のボルトを使用するようにしてもよい。
【実施例】
【0048】
本発明の効果を確認するため、上記実施の形態の修復装置を用いて軸継手のボルト孔の修復実験を複数回行った。修復には、上記実施の形態において説明した修復方法を実行した。
修復対象となるフランジ形の軸継手は、第1及び第2フランジ部の材質が合金鋼、ボルト孔の長さが140mm、偏摩耗前の内周径が100mmのもので、最大部分で0.66mm程度偏摩耗(即ち、偏摩耗部分の最大径が100.66mm)しているボルト孔を修復対象とした。
修復に際しては、ボルト孔の偏摩耗部分を完全に消滅させるため、切削目標の内周径を101mmとして該ボルト孔の切削することとした。
また、上記アジャスタブルリーマによって修復対象となるボルト孔を切削するに際しては、該ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行い、目標とする内周径近くまでは、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を約0.3mm程度ずつ段階的に大きして切削する粗加工を行い、最終回の切削時は、切削量の誤差を考慮して0.15〜0.2mm程度刃径を大きくして切削する仕上げ加工を行った。
さらに、アジャスタブルリーマによる切削は、アジャスタブルリーマの切削(回転)速度は2m/m(約0.03m/s)程度、送り速度は7mm/m(約0.0012m/s)以下で常時切削を行うようにした。
【0049】
この結果、修復対象となるボルト孔の偏摩耗部分が完全に消滅させることができた上、該ボルト孔の内周面の粗さを6.3S〜25S、円筒度0.03mm以内の高精度な修復を行うことができた。
特に、ボルト孔の円筒度に関して、上記実施の形態の修復装置を用いず、通常のハンドリーマ加工を行った場合の円筒度は約0.3mm程度であったことから、上記実施の形態の修復装置及び修復方法によれば非常に高い精度の修復が可能であることが実証された。
【符号の説明】
【0050】
1 :修復装置
4 :回転軸
8 :中間スピンドル
9 :フランジ形の軸継手
11:第1のフランジ部
12:第2のフランジ部
13:ボルト孔
15:連結用のボルト
16:心出冶具部材
17:アジャスタブルリーマ
18:保持台
19:心出部
20:冶具取付部
21:シャンク部
22:切削部
25:保持部
26:基台部
28a:挿入孔
50:位置決めピン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手において、ボルト孔の内周面の一部が偏摩耗した軸継手のボルト孔修復方法であって、
上記ボルト孔に、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径に形成された円筒状又は円柱状の心出部を有する心出冶具部材を挿し込んで、ボルト孔の内周径の中心軸線と心出部の軸線とを一致させる第1の工程;
上記心出冶具部材を、該心出冶具部材が着脱自在に取付けられて上記心出部の軸線方向に直線的に移動させる保持部を備えた保持台により、該心出部の軸線方向とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部の軸線方向に移動自在である状態に保持する共に、その保持台を上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に位置決めして固定する第2の工程;
上記心出冶具部材を、保持台の保持部を移動させることによりボルト孔から引き抜くと共に、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付ける第3の工程;
上記アジャスタブルリーマを取付けた保持部をボルト孔に向けて移動させて、該アジャスタブルリーマを回転させることにより、ボルト孔の偏摩耗部分が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる第4の工程を有することを特徴とする軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項2】
上記心出冶具部材は、上記心出部の軸線方向の一端側に、軸線が該心出部の軸線と一致するように設けられて、円筒状又は円柱状に形成された上記保持台の保持部に着脱自在に取付けられる冶具取付部を有していると共に、
上記アジャスタブルリーマは、上記冶具取付部の外周径と同じ円柱状に形成された、保持台の保持部に着脱自在に取付けられるシャンク部を有し、
上記保持台の保持部は、上記冶具取付部及びシャンク部の外周径と同じ内周径を有する挿入孔を備えていて、
上記冶具取付部又はシャンク部を互いに選択的に挿入孔に挿し込むことにより、心出冶具部材又はアジャスタブルリーマを、上記保持部に心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で取付けることを特徴とする請求項1に記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項3】
上記第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔に、又は修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて、径方向に熱膨張する位置決めピンを挿入すると共に、該位置決めピンを加熱して上記一対のフランジ部の相対的な位置を固定する準備工程を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項4】
上記第4の工程において、アジャスタブルリーマによってボルト孔の偏摩耗が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる際に、ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項5】
一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手の、内周面の一部が偏摩耗したボルト孔を修復するための軸継手のボルト孔修復装置であって、
偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径を有する円筒状又は円柱状に形成され、上記偏摩耗したボルト孔に挿入自在である心出部と、該心出部の軸線方向の一端側に設けられた円筒状の冶具取付部とを有し、これら心出部の軸線と冶具取付部の軸線とが一致するように設けられた心出冶具部材と、
上記心出冶具部材の冶具取付部の外周径と同じ外周径の円柱状又は円筒状のシャンク部を有していて、刃径が変更自在に構成された、ボルト孔の内周面を切削するアジャスタブルリーマと、
上記心出冶具部材の冶具取付部及びアジャスタブルリーマのシャンク部の外周径と同じに形成され、冶具取付部又はシャンク部が挿入されることにより心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが選択的に交換自在に且つ軸線周りに回転自在に取付けられる保持部、及び上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが取付けられた該保持部を、心出冶具部材の心出部の軸線又はアジャスタブルリーマの軸線とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材の心出部の軸線方向又はアジャスタブルリーマの軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部を有する保持台とを備えていることを特徴とする軸継手のボルト孔修復装置。
【請求項1】
一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手において、ボルト孔の内周面の一部が偏摩耗した軸継手のボルト孔修復方法であって、
上記ボルト孔に、偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径に形成された円筒状又は円柱状の心出部を有する心出冶具部材を挿し込んで、ボルト孔の内周径の中心軸線と心出部の軸線とを一致させる第1の工程;
上記心出冶具部材を、該心出冶具部材が着脱自在に取付けられて上記心出部の軸線方向に直線的に移動させる保持部を備えた保持台により、該心出部の軸線方向とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致し且つ心出部の軸線方向に移動自在である状態に保持する共に、その保持台を上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に位置決めして固定する第2の工程;
上記心出冶具部材を、保持台の保持部を移動させることによりボルト孔から引き抜くと共に、該心出冶具部材に代えて、刃径が調整自在のアジャスタブルリーマを、心出冶具部材の心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で上記保持部に回転自在に取付ける第3の工程;
上記アジャスタブルリーマを取付けた保持部をボルト孔に向けて移動させて、該アジャスタブルリーマを回転させることにより、ボルト孔の偏摩耗部分が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる第4の工程を有することを特徴とする軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項2】
上記心出冶具部材は、上記心出部の軸線方向の一端側に、軸線が該心出部の軸線と一致するように設けられて、円筒状又は円柱状に形成された上記保持台の保持部に着脱自在に取付けられる冶具取付部を有していると共に、
上記アジャスタブルリーマは、上記冶具取付部の外周径と同じ円柱状に形成された、保持台の保持部に着脱自在に取付けられるシャンク部を有し、
上記保持台の保持部は、上記冶具取付部及びシャンク部の外周径と同じ内周径を有する挿入孔を備えていて、
上記冶具取付部又はシャンク部を互いに選択的に挿入孔に挿し込むことにより、心出冶具部材又はアジャスタブルリーマを、上記保持部に心出部の軸線と該アジャスタブルリーマの回転軸線とが一致した状態で取付けることを特徴とする請求項1に記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項3】
上記第1の工程の前に、修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されていないボルト孔に、又は修復対象以外のボルト孔であってボルトが貫挿されているものの該ボルトに代えて、径方向に熱膨張する位置決めピンを挿入すると共に、該位置決めピンを加熱して上記一対のフランジ部の相対的な位置を固定する準備工程を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項4】
上記第4の工程において、アジャスタブルリーマによってボルト孔の偏摩耗が消滅する径まで該ボルト孔の内周を切削して拡径させる際に、ボルト孔に対するアジャスタブルリーマの切削を複数回に分けて行うと共に、切削する度に該アジャスタブルリーマの刃径を、目標とするボルト孔の内周径に至るまで段階的に大きくすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の軸継手のボルト孔修復方法。
【請求項5】
一対の回転軸の一端側にそれぞれ設けられた一対のフランジ部を相互に対向させ、上記両フランジ部を貫通させた複数のボルト孔に連結用のボルトを貫挿させて各ボルトにナットを螺合させることにより上記一対の回転軸を連結する軸継手の、内周面の一部が偏摩耗したボルト孔を修復するための軸継手のボルト孔修復装置であって、
偏摩耗前のボルト孔の内周径と同径の外周径を有する円筒状又は円柱状に形成され、上記偏摩耗したボルト孔に挿入自在である心出部と、該心出部の軸線方向の一端側に設けられた円筒状の冶具取付部とを有し、これら心出部の軸線と冶具取付部の軸線とが一致するように設けられた心出冶具部材と、
上記心出冶具部材の冶具取付部の外周径と同じ外周径の円柱状又は円筒状のシャンク部を有していて、刃径が変更自在に構成された、ボルト孔の内周面を切削するアジャスタブルリーマと、
上記心出冶具部材の冶具取付部及びアジャスタブルリーマのシャンク部の外周径と同じに形成され、冶具取付部又はシャンク部が挿入されることにより心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが選択的に交換自在に且つ軸線周りに回転自在に取付けられる保持部、及び上記一対の回転軸のうちのいずれか一方の外周面に固定され、且つ心出冶具部材又はアジャスタブルリーマが取付けられた該保持部を、心出冶具部材の心出部の軸線又はアジャスタブルリーマの軸線とボルト孔の内周径の中心軸線とが一致した状態で心出冶具部材の心出部の軸線方向又はアジャスタブルリーマの軸線方向に直線的に移動させる構成を有する基台部を有する保持台とを備えていることを特徴とする軸継手のボルト孔修復装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−88227(P2011−88227A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241563(P2009−241563)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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