説明

軸継手

【課題】締付ボルトの締め付けに際し中間板バネに応力が加わらない軸継手を実現する。
【解決手段】継手部材1には、周壁の一部を残して弾性変形部位30となるように軸方向に切り込んだスリット3を設ける。このスリット3によって、すり割り11を境にしてすり割り11からスリット3まで周回する2つの周壁領域16,17として、中間板バネ2が固定される一方の周壁領域17と、中間板バネ2が固定されない他方の周壁領域16とが形成される。他方の周壁領域16は、締付ボルト取付孔12に締付ボルト6を締め付けてすり割り11間隔を狭めると揺動する揺動部位8となる。これにより、中間板バネ2は、締付ボルト6の締め付けによる継手部材1の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材1に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸を締結する一対の継手部材を中間板バネを介在させて連結した軸継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の軸継手は、図9に示すように、両側の継手部材601R,601Lにおいてすり割り611に直交して設けた締付ボルト取付孔612に締付ボルト606を締め付けてすり割り611間隔を狭めて軸孔610を縮径させて軸孔610に軸J1,J2を締結させる。そして、これらの継手部材601R,601L間に介在させる中間板バネ602は、各継手部材601R,601Lのそれぞれの対向端面に所定間隔を存して180度位置の2点で固定ボルト651a,651b,652a,652bをネジ孔614a,614bに締め付けて固定される。従って、この中間板バネ602により、各継手部材601R,601Lに締結する軸J1,J2の2軸間での軸方向の偏角や偏心等を許容してトルク伝達できる。
【特許文献1】特開2002−372068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような軸継手にあっては、締付ボルト606を締め付けると継手部材601R,601Lの周壁の略全域が変形し、これに応じて中間板バネ602を固定する2点間のピッチ(ネジ孔614aとネジ孔614bの間の距離)が変動する。すると、中間板バネ602には継手部材601R,601Lとの固定部分(ネジ孔614a,614bの部分)から応力が加わり、場合によっては中間板バネ602の表面が波打つように撓んで変形することがあった。そのため、トルク伝達時にこの中間板バネ602が共振して軸継手から振動を発生させたり、中間板バネ602の耐久性を低下させる等の不具合を生じさせ、また、中間板バネ602の本来の柔軟性が十分発揮されず軸J1,J2の2軸間でのトルク伝達に支障を来たす等の問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、締付ボルトの締め付けに際して中間板バネに応力が加わらない軸継手を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に係る軸継手は、
軸孔まわりの周壁に軸方向に切り込まれて外周面から軸孔に至るすり割りを設け、このすり割りに直交して設けた締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めて軸孔を縮径させて軸孔に軸を締結させる構成を有して対向配置される一対の継手部材と、
上記一対の継手部材の間に配置され、各継手部材のそれぞれの対向端面に所定間隔を存して固定される中間板バネとを備え、
各継手部材には、周壁の一部を残しこの周壁の一部が弾性変形部位となるように軸方向に切り込まれたスリットを設け、すり割りから周回してこのスリットまでの一方の周壁領域を中間板バネの固定部位とし、すり割りから周回してこのスリットまでの他方の周壁領域を締付ボルトの締め付けによりすり割り間隔を狭めると揺動する揺動部位として構成することを特徴とするものである(請求項1)。
【0006】
これにより、一対の継手部材の各々において、すり割りとスリットで囲まれた中間板バネを固定しない周壁領域は、締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めると揺動する揺動部位となるので、締付ボルトの締め付けで軸孔が縮径されて軸が確実に固定される。
しかも、この揺動部位には中間板バネは固定されていないので、締付ボルトの締め付けに際して中間板バネの固定位置がほとんど変化しない。これにより、中間板バネは、締付ボルトの締め付けによる継手部材の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材に固定される。
【0007】
(2)上記中間板バネは、各継手部材に対して2点で固定され、この中間板バネの一方の固定位置近傍に上記すり割りが設けられ、この中間板バネの他方の固定位置近傍に上記スリットが設けられていてもよい(請求項2)。
これにより、すり割りとスリットで囲まれた中間板バネを固定しない揺動部位となる周壁領域を広く形成できる。従って、すり割り間隔を狭めたときに揺動する周壁領域が多く確保されて軸孔の縮径が広い範囲で行われ、軸の締結を強固にできる。
【0008】
(3)上記各継手部材における中間板バネの2点の固定位置は、中間板バネの中心線と整合し、且つ軸孔との相対的位置関係として、軸孔中心を通って揺動部位と固定部位とに2分する直線に対して、軸孔直径と軸直径との寸法差相当分、固定部位寄りの平行線上において軸孔を跨いだ180度位置に配置されていてもよい(請求項3)。
これにより、締付ボルトを締め付けて行くと、揺動部位が固定部位側へ移動して軸孔を縮径させ、軸孔に配置した軸が固定部位側に寄せられて固定されるため、軸は、その軸中心が中間板バネ中心と略一致するように軸孔に固定される。従って、軸に対して中間板バネが同心上に配置されるので、トルク伝達時には軸まわりで中間板バネが偏心回転して振動を発生させたりトルク伝達効率を低下させる等の支障もなく円滑に回転し、本来の柔軟性を十分発揮して円滑なトルク伝達を行うことができる。
【0009】
(4)上記スリットの閉塞端がR状に形成されていてもよい(請求項4)。
これにより、上記弾性変形部位の弾性変形による負荷がスリットの閉塞端に集中せず、スリットの閉塞端での亀裂を防ぐことができる。
【0010】
(5)上記各継手部材には、中間板バネの固定ボルトを逃す円形の逃し孔が軸方向に貫通して設けられ、この逃し孔と連通するように上記スリットが形成されていてもよい(請求項5)。
この場合、スリットの閉塞端をR状に形成した場合と同様の亀裂防止の構成を簡易に形成できる。
【0011】
(6)また、本発明に係る軸継手は、
軸孔まわりの周壁に軸方向に切り込まれて外周面から軸孔に至るすり割りを設け、このすり割りに直交して設けた締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めて軸孔を縮径させて軸孔に軸を締結させる構成を有して対向配置される一対の継手部材と、
上記一対の継手部材の間に配置され、各継手部材のそれぞれの対向端面に所定間隔を存して固定される中間板バネとを備え、
各継手部材には、上記すり割りを通る直線で左右に分ける周壁のうち、少なくとも一方の周壁に対して、外周面から軸孔に至って周方向に切り込まれた横スリットが上記すり割りを含み且つこの一方の周壁の大半又は全域にわたって設けられ、
上記中間板バネは、各継手部材に対して2点で固定されてそのうちの一方の固定位置が上記すり割りの対応位置又は上記他方の周壁のすり割り近傍の対応位置に設けられ、
上記中間板バネの2点の固定位置は、中間板バネの中心線と整合し、且つ軸孔との相対的位置関係として、軸孔中心を通って上記一方の周壁と上記他方の周壁とに2分する直線に対して、軸孔直径と軸直径との寸法差相当分、上記他方の周壁寄りの平行線上において軸孔を跨いだ180度位置に配置されていることを特徴とするものである(請求項6)。
これにより、上記一方の周壁の横スリットを設けた部位が締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めると揺動するが、この揺動による周壁の変形が上記横スリットによってくい止められて中間板バネの固定位置にほとんど及ばないようになっている。従って、締付ボルトの締め付けに際して中間板バネの固定位置がほとんど変化することがなく、中間板バネは、締付ボルトの締め付けによる継手部材の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材に固定される。
そして、中間板バネの2点の固定位置は、上記のように配置されるから、締付ボルトを締め付けて行くと、横スリットを設けた一方の周壁が他方の周壁側へ移動して軸孔を縮径させ、軸孔に配置した軸がこの他方の周壁側に寄せられて固定されるため、軸は、その軸中心が中間板バネ中心と略一致するように軸孔に固定される。従って、軸に対して中間板バネが同心上に配置されるので、トルク伝達時には軸まわりで中間板バネが偏心回転して振動を発生させたりトルク伝達効率を低下させる等の支障もなく円滑に回転し、本来の柔軟性を十分発揮して円滑なトルク伝達を行うことができる。
【0012】
(7)上記一対の継手部材の間に中間部材を介在させるようにし、
上記中間板バネは、一方の継手部材の端面に固定される第1の中間板バネと、他方の継手部材の端面に固定される第2の中間板バネとで構成し、
これら第1の中間板バネと第2の中間板バネにおいて各継手部材と固定されていない面側を上記中間部材の両面にそれぞれ固定するようにしてもよい(請求項7)。
この場合も、上記同様に、第1の中間板バネと第2の中間板バネは、締付ボルトの締め付けによる継手部材の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材に固定できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の軸継手によれば、一対の継手部材において中間板バネを固定しない周壁領域を締付ボルトの締め付けで揺動する揺動部位とするので、中間板バネは、締付ボルトの締め付けによる継手部材の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材に固定することができる。従って、継手部材での締付ボルトの締め付けに伴って中間板バネが湾曲変形等することもなく、中間板バネがトルク伝達時に共振して軸継手から振動を発生させたり、中間板バネの耐久性を低下させる等の不具合も確実に防止できる。そして、トルク伝達時には、この中間板バネの本来の柔軟性を発揮して2軸間でのトルク伝達を円滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1及び図2に示すように、実施の形態1による軸継手は、第1の継手部材1Rと、第1の継手部材1Rと対向配置される第2の継手部材1Lと、第1の継手部材1Rと第2の継手部材1Lの間に配置される中間板バネ2とを備える。
【0015】
第1の継手部材1Rと第2の継手部材1Lは、同形状に形成されているので、適宜「継手部材1」と称して説明する。この継手部材1は、アルマイト等の金属で形成されており、中心部に軸J1,J2を装着する軸孔10が設けられ、全体が円筒状をなしている。第1の継手部材1Rと第2の継手部材1Lのそれぞれの軸孔10は、締結する軸J1,J2の軸径に対応した寸法に形成される。軸孔10まわりの周壁には、軸J1,J2の着脱に際し軸孔10が拡縮可能となるように外周面から軸孔10に至って軸方向に切り込まれたすり割り11が設けられている。
【0016】
また、継手部材1の周壁には、すり割り11に直交した締付ボルト取付孔12が設けられている。締付ボルト取付孔12は、すり割り11の相対する周壁端面の一方にボルト貫通孔121が設けられ、他方にネジ溝122が設けられている(図2参照)。そして、ボルト貫通孔121の入口は、ボルト頭部を没入させるザグリ穴となっている。従って、この締付ボルト取付孔12に締付ボルト6を螺着させて締め付けることで、すり割り11の間隔が狭められて軸孔10が縮径し、これにより、軸孔10に挿入した軸J1,J2が固定される。
【0017】
また、継手部材1の対向端面には、軸孔10を跨いだ180度位置に軸方向に突出した凸部13a,13bが設けられている。これら凸部13a,13bには、中間板バネ2を固定させるためのネジ孔14a,14bが設けられている。これらネジ孔14a,14bは、軸孔中心を通る直径線L1上に配置されている。そして、一方の凸部13aは、すり割り11の隣接位置、すなわち、すり割り11を設けた開口部分に沿って設けられている。
【0018】
また、これら2つのネジ孔14a,14bを配置する直径線L1と90度に直交した直径線L2上において(図1参照)、軸孔10を跨いだ180度位置に、対向配置する継手部材1と中間板バネ2とを固定する固定ボルト51a,51b,52a,52bの頭部を逃す逃し孔15a,15bが設けられている。これらの逃し孔15a,15bは、継手部材1と中間板バネ2とを固定する際に固定ボルト51a,51b,52a,52bを挿通させると共にレンチ等の工具を挿通させることもできる。
【0019】
中間板バネ2は、中心部に円形の開口部20が設けられ、全体が円環プレート状をなしている。また、中間板バネ2の板面には、90度位置の4箇所に継手部材1に固定するための固定孔21a,21b,22a,22bが設けられている。この中間板バネ2は、ステンレス等の金属やプラスチック等からなる薄板を複数枚重ね合わせて形成され、板面の直交方向に柔軟に撓み且つ所要のトルク伝達が可能な強度を備えるように設計されている。
【0020】
そして、中間板バネ2は、図1を参照して、一方の面側においては90度に交差する一方の直径線L3上に設けた2つの固定孔21a,21bを用いて一方の継手部材1(例えば、第1の継手部材1R)に固定され、他方の面側においては他方の直径線L4上に設けた2つの固定孔22a,22bを用いて他方の継手部材1(例えば、第2の継手部材1L)に固定される。すなわち、中間板バネ2の一方の面側を一方の継手部材1(例えば、第1の継手部材1R)の2つの凸部13a,13bの表面に密着させると共に直径線L3上の2つの固定孔21a,21bを各凸部13a,13bのネジ孔14a,14bに一致させて、反対の面側からスペーサ41a,41bを介在させて固定ボルト51a,51bを固定孔21a,21bに通しネジ孔14a,14bに螺合させる。これにより、中間板バネ2は、一方の継手部材1の凸部13a,13bの段差によりこの継手部材1の端面と空間が形成された状態で、凸部13a,13bの表面に圧着固定される。
【0021】
次いで、中間板バネ2の他方の面側を他方の継手部材1(例えば、第2の継手部材1L)の2つの凸部13a,13bの表面に密着させると共に直径線L4上の2つの固定孔22a,22bを各凸部13a,13bのネジ孔14a,14bに一致させて、一方の継手部材1(例えば、第1の継手部材1R)の2つの逃し孔15a,15bを通して、反対の面側からスペーサ42a,42bを介在させて固定ボルト52a,52bを固定孔22a,22bに通してネジ孔14a,14bに螺合させる。これにより、中間板バネ2は、他方の継手部材1の凸部13a,13bの段差によりこの継手部材1の端面と空間が形成された状態で、凸部13a,13bの表面に圧着固定される。
このようにして、中間板バネ2は、90度の異なる位相で第1の継手部材1Rと第2の継手部材1Lに対して固定される。
【0022】
ところで、上記継手部材1には、周壁の一部を残しこの周壁の一部が弾性変形可能な弾性変形部位30となるように軸方向に切り込んだスリット3が設けられている。このスリット3は、すり割り11からこのスリット3までの周壁を、中間板バネ2を固定する周壁領域17と、中間板バネ2を固定しない周壁領域16とに分けて形成するように設けられている。
すなわち、このスリット3によって、すり割り11を境にしてすり割り11からスリット3まで周回する2つの周壁領域16,17として、中間板バネ2が固定される一方の周壁領域17と、中間板バネ2が固定されない他方の周壁領域16とが形成される。従って、一方の周壁領域17が中間板バネ2を固定する固定部位9として構成され、他方の周壁領域16が締付ボルト取付孔12に締付ボルト6を締め付けてすり割り11間隔を狭めると揺動する揺動部位8として構成される。言い換えると、上記スリット3は、すり割り11を境にして中間板バネ2を固定するための2つの凸部13a,13b(ネジ孔14a,14b)が存しない周壁領域16を形成し、この周壁領域16を揺動部位8として構成する。
【0023】
図1及び図2に示したものでは、180度位置に中間板バネ2を固定するネジ孔14a,14bを設けた2つの凸部13a,13bの一方の凸部13aに隣接してすり割り11が設けられている。従って、スリット3は、このすり割り11を境に隣接する一方の凸部13aを形成しない周壁領域16を周回して180度位置のもう一方の凸部13bの近傍位置に設けられている。これにより、すり割り11とスリット3で囲まれた中間板バネ2を固定しない揺動部位8となる周壁領域16が広く形成される。従って、すり割り11間隔を狭めたときに揺動する周壁領域16が広く確保されて軸孔10の縮径が広い範囲で行われ、軸J1,J2の締結を強固にできる。
【0024】
また、締付ボルト6は、この揺動部位8となる周壁領域16側から挿入されるようになっている。すなわち、揺動部位8の周壁領域16側に締付ボルト取付孔12の入口とボルト貫通孔121が設けられ、中間板バネ2を固定した固定部位9となる周壁領域17側に締付ボルト6のネジ溝122が設けられている(図2参照)。これにより、締付ボルト6を締め付けて行くと、締付ボルト6の頭部による押圧力が揺動部位8となる周壁領域16側に作用し、この周壁領域16が揺動され易くなる。
【0025】
また、上記スリット3は、継手部材1の外周面から直径方向に所定深さ切り込んで軸孔10側の周壁の一部を残すように形成されている。これにより、刃物を継手部材1の外周面から入れて簡単にスリット3を形成できる。このスリット3の深さは、軸孔10側に残す周壁の一部が弾性変形可能となる深さに設定される。従って、この軸孔10側に残す周壁の一部が弾性変形部位30となる。
【0026】
また、スリット3の閉塞端31は、円形のザグリ穴加工が施されてR状に形成されている。これにより、上記弾性変形部位30の弾性変形による負荷がスリット3の閉塞端31に集中せず、この閉塞端31での亀裂を防ぐことができる。
【0027】
以上のように、実施の形態1による軸継手によれば、すり割り11とスリット3で囲まれた中間板バネ2を固定しない周壁領域16は、上述のとおり締付ボルト取付孔12に締付ボルト6を締め付けてすり割り11間隔を狭めると揺動する揺動部位8となるので、締付ボルト6の締め付けで揺動部位8が固定部位9側に移動して軸孔10が縮径されて軸J1,J2が確実に固定される。
【0028】
しかも、この揺動部位8には中間板バネ2は固定されていないので、締付ボルト6の締め付けに際して中間板バネ2を固定する180度位置のネジ孔14a,14bによる2点間のピッチがほとんど変わらない。これにより、中間板バネ2は、締付ボルト6の締め付けによる継手部材1の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材1に固定される。従って、継手部材1での締付ボルト6の締め付けに伴って中間板バネ2が湾曲変形し、この中間板バネ2がトルク伝達時に共振して軸継手から振動を発生させたり、中間板バネ2の耐久性を低下させる等の不具合も確実に防止できる。そして、トルク伝達時には、この中間板バネ2の本来の柔軟性を発揮して軸J1,J2の2軸間でのトルク伝達を円滑に行うことができる。
【0029】
(実施の形態2)
図3に示すように、実施の形態2の軸継手は、上記の第1の継手部材1Rと第2の継手部材1Lとの間に中間部材7を介在させるようにし、上記中間板バネ2は、第1の継手部材1Rの端面に固定される第1の中間板バネ2Rと、第2の継手部材1Lの端面に固定される第2の中間板バネ2Lとで構成し、これら第1の中間板バネ2Rと第2の中間板バネ2Lにおいて第1の継手部材1R、第2の継手部材1Lと固定されていない面側を上記中間部材7の両端面にそれぞれ固定するようにしたものである。
なお、中間部材7には、両端面のそれぞれに180度位置に中間板バネ2R,2Lが圧接される凸部13a,13bが設けられている。そして、これらの凸部13a,13bは、中間部材7の一方の端面の2つの凸部13a,13b間を結ぶ直径線が反対の端面のものとは90度に直交する位置となるように配置されている。また、各凸部13a,13bには中間板バネ2R,2Lを固定するためのネジ孔14a,14bが設けられている。これら凸部13a,13bやネジ孔14a,14bは上記継手部材1のものと同様である。継手部材1等のその他の構成は、上記実施の形態1のものと同様である。
【0030】
従って、このものでも、2つの第1の中間板バネ2Rと第2の中間板バネ2Lは、締付ボルト6の締め付けによる継手部材1の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材1に固定されるので、トルク伝達時、これらの第1の中間板バネ2Rと第2の中間板バネ2Lの本来の柔軟性を発揮して軸J1,J2の2軸間でのトルク伝達を円滑に行うことができる。
【0031】
(実施の形態3)
実施の形態3による軸継手では、各継手部材1において、上記中間板バネ2の2点の固定位置(ネジ孔14a,14b)は、中間板バネ2の中心線と整合する位置であって、軸孔10との相対的位置関係として、軸孔中心Bを通って揺動部位8と固定部位9とに2分する直線に対して、軸孔直径βと軸直径αとの寸法差相当分W、固定部位9寄りの平行線WL上における軸孔10を跨いだ180度位置に配置されるようにしたものである。なお、その他の構成は、上記実施の形態1のものと同様である。
例えば、図4に示した継手部材1では、軸孔10は、継手部材1の中心位置に設けられており、そして、中間板バネ2を固定する2つのネジ孔14a’,14b’は、この軸孔中心Bを通って揺動部位8と固定部位9とに2分する継手部材1の中心線CLに対して、軸孔直径βと軸直径αとの寸法差相当分W、固定部位9寄りにずらした平行線WL上に設けられている。
また、例えば、図5に示した継手部材1では、中間板バネ2を固定する2つのネジ孔14a,14bは、揺動部位8と固定部位9とに2分する継手部材1の中心線CL上に設けられており、そして、軸孔10’は、この中心線CLに対して、軸孔直径βと軸直径αとの寸法差相当分W、揺動部位8寄りにずらした平行線WL上にその軸孔中心Bが位置するように設けられている。
【0032】
従って、このものでは、締付ボルト6を締め付けて行くと、揺動部位8が固定部位9側へ移動して軸孔10(10’)を縮径させるので(図4及び図5中の点線で示す矢印を参照)、軸孔10(10’)に配置した軸Jは、固定部位9側に寄せられて固定される。このとき、上述のとおり、中間板バネ2の2点の固定位置(図4ではネジ孔14a’,14b’、図5ではネジ孔14a,14b)と軸孔10(10’)との相対的位置関係として、軸孔直径βと軸直径αとの寸法差相当分W、ずれて配置されているので、軸Jは、その軸中心が中間板バネ中心Aと略一致するように軸孔10(10’)に固定される。従って、軸Jに対して中間板バネ2が同心上に配置されるので(図4のものでは、継手部材1も軸Jに対して同心上に配置される。)、トルク伝達時には軸Jまわりで中間板バネ2が偏心回転して振動を発生させたりトルク伝達効率を低下させる等の支障もなく円滑に回転し、本来の柔軟性を十分発揮して円滑なトルク伝達を行うことができる。
【0033】
(その他)
(1)図6及び図7に示すように、上記スリット3は、中間板バネ2の固定ボルト51bを逃す円形の逃し孔15bと連通させて形成するようにしてもよい。この場合、スリット3の閉塞端31をR状に形成した場合と同様の亀裂防止の構成を簡易に形成できる。なお、スリット3は、上述の他に、すり割り11から周回して中間板バネ2を固定しない周壁領域16の適宜位置に設けることができる。
【0034】
(2)上記スリット3は、軸孔10側から切り込んで継手部材1の外周面側に周壁の一部を残して弾性変形部位30を構成するようにしてもよい。この場合、すり割り11間隔を狭めたときに揺動部位8となる周壁領域16の揺動の支点が外側となり、かつ周壁領域16がスリット3の形成位置から揺動されるので、軸孔10の縮径が広い範囲で行われ、軸J1,J2の締結を強固にできる。
【0035】
(3)継手部材1において、揺動部位8となる周壁領域16には、上記スリット3の他に、周壁の一部を残して軸方向に切り込まれた第2のスリットを1つ又は複数設けてもよい。この場合、すり割り11間隔を狭めたときに第2のスリット位置でも揺動するので、軸孔10の縮径を確保しつつすり割り11端面での傾きを防止でき、その結果、締付ボルト6に曲げ応力が集中することの防止になる。
【0036】
(4)継手部材1の対向端面には凸部13a,13bを設けず面一の端面とし(但し、ネジ孔14a,14bは設ける)、この凸部13a,13bの代用として環状のスペーサを介在させるようにしてもよい。
(5)継手部材1と中間板バネ2との固定を固定ボルト51a,51b,52a,52bに代えて、リベットやカシメ、溶接等で行うようにしてもよい。
(6)中間板バネ2は、薄板の積層物とするが、1枚もので構成してもよいし、中間板バネ2の形状も四角形等に変更してもよい。
【0037】
(7)図8に示すように、この軸継手は、上記実施の形態1のように軸方向に設けたスリット3に代えて、各継手部材1R’,1L’には、すり割り11を通る直線で左右に分ける周壁18,19のうち、少なくとも一方の周壁18に対して、外周面から軸孔10に至って周方向に切り込まれた横スリット4が上記すり割り11を含み且つこの一方の周壁18の全域(180度範囲)にわたって設けられたものである。なお、上記横スリット4は、一方の周壁18の大半にわたって設けられてもよいし、一部がすり割り11を含んで他方の周壁19にも及んで設けられてもよい。
上記中間板バネ2は、各継手部材1R’,1L’に対してネジ孔14a,14bの2点で固定されてそのうちの一方の固定位置のネジ孔14aが上記すり割り11の対応位置に設けられ、そして、この中間板バネ2の2点の固定位置のネジ孔14a,14bは、中間板バネ2の中心線と整合し、且つ軸孔10との相対的位置関係として、軸孔中心Bを通って上記一方の周壁18と上記他方の周壁19とに2分する直線CLに対して、軸孔直径βと軸直径αとの寸法差相当分W、上記他方の周壁19寄りの平行線WL上において軸孔10を跨いだ180度位置に配置されている(図8(c)参照)。なお、上記中間板バネ2の一方の固定位置のネジ孔14aが上記他方の周壁19のすり割り11近傍の対応位置に設けられてもよい。その他の構成は上記実施の形態1と同様である。
【0038】
この図8に示す軸継手によれば、上記一方の周壁18の横スリット4を設けた部位が締付ボルト取付孔12に締付ボルト6を締め付けてすり割り11間隔を狭めると揺動する揺動部位8となるが、この揺動による周壁18の変形が上記横スリット4によって抑止されて中間板バネ2の固定位置(ネジ孔14a,14b)にほとんど及ばないようになっている。従って、締付ボルト6の締め付けに際して中間板バネ2の2点の固定位置(ネジ孔14a,14b)がほとんど変化することがなく、中間板バネ2は、締付ボルト6の締め付けによる継手部材1R’,1L’の変形に伴った応力の影響を受けずに継手部材1R’,1L’に固定される。
そして、中間板バネ2の2点の固定位置のネジ孔14a,14bは、上記のように配置されるから、締付ボルト6を締め付けて行くと、横スリット4を設けた一方の周壁18(8)が他方の周壁19側へ移動して軸孔10を縮径させ、軸孔10に配置した軸J1,J2がこの他方の周壁19側に寄せられて固定されるため、軸J1,J2は、その軸中心が中間板バネ中心Aと略一致するように軸孔10に固定される。従って、軸J1,J2に対して中間板バネ2が同心上に配置されるので、トルク伝達時には軸J1,J2まわりで中間板バネ2が偏心回転して振動を発生させたりトルク伝達効率を低下させる等の支障もなく円滑に回転し、本来の柔軟性を十分発揮して円滑なトルク伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態1による軸継手の構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施の形態1による軸継手の組立て状態を示す図であり、同図(a)は左側面図であり、同図(b)は正面図であり、同図(c)は右側面図である。
【図3】実施の形態2による軸継手の組立状態を示す正面図である。
【図4】実施の形態3による軸継手における継手部材の一例を示す対向端面側の側面図である。
【図5】実施の形態3による軸継手における継手部材の一例を示す対向端面側の側面図である。
【図6】スリットの形成位置の変形例を示す側面図である。
【図7】スリットの形成位置の他の変形例を示す側面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態による軸継手の構成を示す図であり、同図(a)は正面図であり、同図(b)は底面図であり、同図(c)は右側面図である。る。
【図9】従来の軸継手の組立て状態を示す図であり、同図(a)は左側面図であり、同図(b)は正面図であり、同図(c)は右側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 継手部材
1L 第2の継手部材
1R 第1の継手部材
2 中間板バネ
2L 第2の中間板バネ
2R 第1の中間板バネ
3 スリット
4 横スリット
6 締付ボルト
7 中間部材
8 揺動部位
9 固定部位
10,10’ 軸孔
11 すり割り
12 締付ボルト取付孔
13a,13b 凸部
14a,14b,14a’,14b’ ネジ孔
15a,15b 逃し孔
16 周壁領域(中間板バネ無し)
17 周壁領域(中間板バネ有り)
18 一方の周壁
19 他方の周壁
30 弾性変形部位
31 閉塞端
51a,51b,52a,52b 固定ボルト
A 中間板バネ中心
B 軸孔中心
CL 継手部材の中心線
J 軸
J1 第1の軸
J2 第2の軸
W 軸孔直径と軸直径との寸法差
WL 中心線CLに対する平行線
α 軸直径
β 軸孔直径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔まわりの周壁に軸方向に切り込まれて外周面から軸孔に至るすり割りを設け、このすり割りに直交して設けた締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めて軸孔を縮径させて軸孔に軸を締結させる構成を有して対向配置される一対の継手部材と、
上記一対の継手部材の間に配置され、各継手部材のそれぞれの対向端面に所定間隔を存して固定される中間板バネとを備え、
各継手部材には、周壁の一部を残しこの周壁の一部が弾性変形部位となるように軸方向に切り込まれたスリットを設け、すり割りから周回してこのスリットまでの一方の周壁領域を中間板バネの固定部位とし、すり割りから周回してこのスリットまでの他方の周壁領域を締付ボルトの締め付けによりすり割り間隔を狭めると揺動する揺動部位として構成することを特徴とする軸継手。
【請求項2】
請求項1に記載の軸継手において、
上記中間板バネは、各継手部材に対して2点で固定され、この中間板バネの一方の固定位置近傍に上記すり割りが設けられ、この中間板バネの他方の固定位置近傍に上記スリットが設けられている軸継手。
【請求項3】
請求項2に記載の軸継手において、
上記各継手部材における中間板バネの2点の固定位置は、中間板バネの中心線と整合し、且つ軸孔との相対的位置関係として、軸孔中心を通って揺動部位と固定部位とに2分する直線に対して、軸孔直径と軸直径との寸法差相当分、固定部位寄りの平行線上において軸孔を跨いだ180度位置に配置されている軸継手。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の軸継手において、
上記スリットの閉塞端がR状に形成されている軸継手。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の軸継手において、
上記各継手部材には、中間板バネの固定ボルトを逃す円形の逃し孔が軸方向に貫通して設けられ、この逃し孔と連通するように上記スリットが形成されている軸継手。
【請求項6】
軸孔まわりの周壁に軸方向に切り込まれて外周面から軸孔に至るすり割りを設け、このすり割りに直交して設けた締付ボルト取付孔に締付ボルトを締め付けてすり割り間隔を狭めて軸孔を縮径させて軸孔に軸を締結させる構成を有して対向配置される一対の継手部材と、
上記一対の継手部材の間に配置され、各継手部材のそれぞれの対向端面に所定間隔を存して固定される中間板バネとを備え、
各継手部材には、上記すり割りを通る直線で左右に分ける周壁のうち、少なくとも一方の周壁に対して、外周面から軸孔に至って周方向に切り込まれた横スリットが上記すり割りを含み且つこの一方の周壁の大半又は全域にわたって設けられ、
上記中間板バネは、各継手部材に対して2点で固定されてそのうちの一方の固定位置が上記すり割りの対応位置又は上記他方の周壁のすり割り近傍の対応位置に設けられ、
上記中間板バネの2点の固定位置は、中間板バネの中心線と整合し、且つ軸孔との相対的位置関係として、軸孔中心を通って上記一方の周壁と上記他方の周壁とに2分する直線に対して、軸孔直径と軸直径との寸法差相当分、上記他方の周壁寄りの平行線上において軸孔を跨いだ180度位置に配置されていることを特徴とする軸継手。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の軸継手において、
上記一対の継手部材の間に中間部材を介在させるようにし、
上記中間板バネは、一方の継手部材の端面に固定される第1の中間板バネと、他方の継手部材の端面に固定される第2の中間板バネとで構成し、
これら第1の中間板バネと第2の中間板バネにおいて各継手部材と固定されていない面側を上記中間部材の両面にそれぞれ固定するようにした軸継手。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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