説明

軽油組成物

【課題】排出ガス特性を改善しつつ、燃費を向上させる軽油組成物の提供。
【解決手段】常圧蒸留装置から留出する90%留出温度が330〜345℃の直留軽油留分と、流動接触分解装置から得られる90%留出温度が320〜350℃の接触分解軽油留分とを容量割合で95:5〜80:20で混合したものを、脱硫処理して得られる脱硫軽油基材を含む軽油組成物であって、(a)セタン価が50〜60、(b)90%留出温度が282〜336℃、(c)15℃密度が0.832〜0.848g/cm、(d)引火点が61℃以上、(e)40℃動粘度が1.9〜4.1mm/s、(f)硫黄分が50質量ppm以下、(g)全芳香族量が30質量%以下、(h)多環芳香族が4.5質量%以下、及び(i)HFRRが420μm以下であることを特徴とする軽油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低硫黄の軽油組成物に関し、さらに詳しくは、燃費に優れ、かつエンジン排ガス特性に優れる軽油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用や発電機用などに用いられるディーゼルエンジンから排出されるNOxや粒子状物質を低減することは社会的要請であり、ディーゼルエンジン用燃料である軽油には、粒子状物質を低減するために、硫黄分の低減、蒸留性状の軽質化、芳香族量の低減などが求められている。これらに対応するために、一般的には、常圧蒸留装置から留出する直留軽油(LGO)留分の蒸留性状を軽質化し、かつその軽油留分を水素化脱硫処理した上で、灯油留分などを配合することにより軽油は処方される。しかしながら、軽質化によって密度が低下し、燃費が悪化する場合があることが知られている。
【0003】
一方、粒子状物質を低減するために、エンジンの後処理装置として、Diesel Particulate Filter(DPF)が装着されるようになってきている。DPFは、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質をフィルタで捕捉する装置であり、粒子状物質の捕捉に伴い、差圧が発生する。この粒子状物質堆積により発生した差圧を解消するために、DPFへ燃料噴射を行い、堆積した粒子状物質を除去してDPFを再生する必要がある。このように、DPFの再生は燃料消費の悪化を招くものであるため、省燃費特性を改善するためには、DPFの差圧の上昇を抑制することが重要になる。
【0004】
燃料消費量の少ないディーゼル軽油組成物として、直留軽油と分解装置から得られる分解軽油とを、軽油脱硫装置に混合通油して得られる脱硫軽油基材を含有するディーゼル軽油組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されている実施例はいずれも、特許文献1に係る特許出願の出願当時の軽油の硫黄分規制値を反映して、硫黄分は0.04〜0.05質量%にまで低減されているものの、燃費の改善は十分ではない。さらに、現在では、エンジンの後処理装置に用いられる触媒は、軽油中の硫黄分の燃焼により生成される硫黄酸化物により被毒され、触媒の機能が低下することが判っており、軽油の硫黄分規制値は10質量ppm以下にまで強化されている。原油を原料油として得られる軽油組成物において、硫黄分を10質量ppm以下にまで低減させるためには、脱硫が困難な化合物(難脱硫物質)も脱硫しなければならず、脱硫触媒として分解機能を有する触媒を用いることになる。このため、例えば特許文献1に記載のディーゼル軽油組成物において、硫黄分を現在の硫黄分規制値まで低減させようとした場合、脱硫反応と共に分解反応も進行してしまい、得られるディーゼル軽油組成物の密度はさらに低下してしまい、燃費はより悪化してしまう場合がある。
【0005】
また、ディーゼル自動車における排出ガスの効果的な低減と良好な低温性能を両立させた、硫黄分が50質量ppm以下の低硫黄軽油組成物も提案されている。例えば、特許文献2には、低温流動性を改善させるために、特定の性状を有する軽油基材に、ノルマルパラフィンが特定量の基材や水素化分解装置から得られる水素化分解軽油を配合した低硫黄軽油組成物が記載されている。しかしながら、引用文献2では、低硫黄軽油組成物において、さらに省燃費特性を改善させることは検討されていない。
【0006】
このように、ディーゼルエンジンにおいて、低排出ガス特性と省燃費特性を両立することは、環境性と経済性の点からともに重要であり、現行の軽油の硫黄分規制値を満足しながら、低排出ガス特性と省燃費特性を両立させる軽油組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−311462号公報
【特許文献2】特開2005−220329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下で、排出ガス特性を改善しつつ、燃費を向上させる軽油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ディーゼルエンジンから排出される排出ガス低減技術と燃費の向上技術について鋭意検討した結果、特定の蒸留性状を有する直留軽油留分と特定の蒸留性状を有する接触分解軽油留分とを特定比率で混合し脱硫処理することにより、蒸留性状は軽質化しているが高い密度を有する軽油組成物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)常圧蒸留装置から留出する90%留出温度が330〜345℃の直留軽油留分と、流動接触分解装置から得られる90%留出温度が320〜350℃の接触分解軽油留分とを容量割合で95:5〜80:20で混合したものを、脱硫処理して得られる脱硫軽油基材を含む軽油組成物であって、
(a)セタン価が50〜60、
(b)90%留出温度が282〜336℃、
(c)15℃密度が0.832〜0.848g/cm
(d)引火点が61℃以上、
(e)40℃動粘度が1.9〜4.1mm/s、
(f)硫黄分が50質量ppm以下、
(g)全芳香族量が30質量%以下、
(h)多環芳香族が4.5質量%以下、及び
(i)HFRRが420μm以下
であることを特徴とする軽油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低排出ガス特性と省燃費特性を両立させた、車両用や発電機用などに用いられるディーゼルエンジン用の燃料油組成物として好適な軽油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の軽油組成物は、常圧蒸留装置から留出する90%留出温度が330〜345℃の直留軽油留分と、流動接触分解装置から得られる90%留出温度が320〜350℃の接触分解軽油留分とを容量割合で95:5〜80:20で混合したものを、脱硫処理して得られる脱硫軽油基材を含む軽油組成物であって、下記(a)〜(i)の燃料特性を備えることを特徴とする。
(a)セタン価が50〜60、
(b)90%留出温度が282〜336℃、
(c)15℃密度が0.832〜0.848g/cm
(d)引火点が61℃以上、
(e)40℃動粘度が1.9〜4.1mm/s、
(f)硫黄分が50質量ppm以下、
(g)全芳香族量が30質量%以下、
(h)多環芳香族が4.5質量%以下、及び
(i)HFRRが420μm以下。
【0013】
本発明においては、蒸留性状をそれぞれ最適化した常圧蒸留装置から留出する直留軽油(LGO)留分と流動接触分解装置から得られる接触分解軽油(LCO)留分とを、特定の割合で混合した後、水素化脱硫装置で脱硫処理して得られた脱硫軽油基材を用いる。当該脱硫軽油基材は、90%留出温度が低く、充分に軽質化されているにも関わらず、密度が高い。このため、当該脱硫軽油基材を含むことにより、本発明の軽油組成物は、ディーゼルエンジンからの排出ガス低減と燃費向上を同時に達成することができる。
【0014】
以下、本発明の内容を更に詳しく説明する。
本発明の軽油組成物において、常圧蒸留装置から留出する直留軽油(LGO)留分の90%留出温度は330〜345℃であり、好ましくは332〜343℃である。90%留出温度が330℃以上であることにより、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができる。また、90%留出温度が345℃以下であることにより、エンジンから排出される粒子状物質の成分であるsootの排出量を低減させることができる。なお、本出願書類において、90%留出温度は、ASTM D86の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0015】
本発明の軽油組成物において、流動接触分解装置から得られる接触分解軽油(LCO)留分の90%留出温度は320〜350℃であり、好ましくは322〜348℃である。90%留出温度が320℃以上であることにより、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができる。また、90%留出温度が350℃以下であることにより、エンジンから排出される粒子状物質の成分であるsootや高沸点炭化水素成分から成る可溶性有機成分(Soluble Organic Fraction:SOF分)の排出量を低減させることができる。なお、本出願書類において、90%留出温度は、ASTM D86の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0016】
本発明の軽油組成物において、脱硫処理する直留軽油(LGO)留分と接触分解軽油(LCO)留分の配合割合は、95:5〜80:20、好ましくは92:8〜81:19である。直留軽油(LGO)留分と接触分解軽油(LCO)留分の総量に対する接触分解軽油(LCO)の配合量を5質量%以上とすることにより、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができる。また、20質量%以下とすることにより、エンジンから排出される粒子状物質の成分であるsootやSOF分の排出量を低減させることができる。
【0017】
本発明の軽油組成物に含まれる脱硫軽油基材(以下、本発明の脱硫軽油基材)は、直留軽油(LGO)留分と接触分解軽油(LCO)留分の混合原料油を、触媒の存在下で水素化処理することにより製造することができる。触媒や水素化処理方法自体は、既知の触媒や水素化処理方法を用いることができる。
【0018】
本発明において水素化処理に用いる触媒としては、特に限定されず、種々の水素化処理触媒を使用することができる。触媒の担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ボリア、マグネシア、チタニア、リン酸化物などの無機化合物、又はこれらの1 種以上の混合物等や複合酸化物等が挙げられる。また、上記担体に担持させる金属としては、モリブデンやタングステン等の周期律表第6族金属、コバルト、ニッケル、白金、ロジウム、ルテニウム等の周期律表第8族金属を用いることができ、これらは単独で用いてもよく、2 種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、コバルト−モリブデン系水素化処理触媒、ニッケル−モリブデン系水素化処理触媒、ニッケル−コバルト−モリブデン系水素化処理触媒、ニッケル−タングステン系水素化処理触である。
上記成分以外にリン、フッ素、ホウ素、亜鉛、塩素、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、マグネシウム、セシウム、ジルコニアなどの第三成分を担持したものも用いることができる。更に、クエン酸等のキレート性有機化合物を含ませてもよい。これらのキレート性有機化合物は、コバルト又はニッケルと錯体を形成した状態で水素化処理触媒に含まれるとより好ましい。
【0019】
上記水素化処理条件として、水素圧力を通常の水素化脱硫に用いる水素分圧よりも高く設定することにより、本発明の脱硫軽油基材を製造することができる。水素分圧は2〜10MPa 、好ましくは3〜8MPa 、更に好ましくは5〜8MPaである。水素分圧が上記範囲内にあれば、脱硫性能を向上でき、脱硫軽油基材の芳香族分を所定の範囲にまで低減することができる。
【0020】
また、反応温度は300〜400℃、好ましくは、320〜380℃である。反応温度が上記範囲内であれば、脱硫性能が高く、脱硫軽油基材の芳香族分を所定の範囲にまで低減することができる。
【0021】
また、液空間速度は0.3〜5hr−1、好ましくは0.5〜4hr−1、更に好ましくは、0.5〜3hr−1である。液空間速度が上記範囲内にあれば、触媒と原料油の接触時間が十分で、処理効率が向上し、かつ、脱硫反応が十分に行われ、生成油の残留硫黄分が少なくなる。
【0022】
また、水素/油比は100〜600Nm/kl、好ましくは150〜400Nm/kl、更に好ましくは150〜300Nm/klである。水素/油比が上記範囲内にあれば、十分に脱硫反応が進行し、過剰に水素を消費することもなく、処理コストを削減できる。
【0023】
本発明の軽油組成物は、上記(a)〜(i)の燃料特性を満足する範囲内において、上記脱硫軽油基材以外のその他の軽油留分を含んでいてもよい。その他の軽油留分としては、原油を常圧蒸留装置で分留して得られる常圧残渣油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油を水素化処理して得られる水素化軽油留分、常圧残渣油や減圧蒸留装置で得られる減圧残渣油を水素化処理して得られる水素化軽油留分、軽油よりも重質な留分を原料に用いて水素化分解処理で得られる水素化分解軽油、動植物油を水素化処理して得られる水素化軽油留分などが挙げられる。
【0024】
本発明の軽油組成物は、上記(a)〜(i)の燃料特性を満足する範囲内において、さらに灯油留分を含めることもできる。但し、通常は、灯油留分を含む場合には、90%留出温度又は15℃密度が、上記(b)又は(c)の範囲から外れてしまう場合が多い。このため、本発明の軽油組成物としては、灯油留分を含まないものであることが好ましい。
【0025】
本発明の軽油組成物においては、セタン価は50〜60、好ましくは52〜60である。これよりセタン価が低いと、ディーゼルエンジンの低温時始動性が低下するほか、エンジンからのCOやHCの排出量が多くなる場合がある。なお、本出願書類において、セタン価は、ASTM D613−84の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0026】
本発明の軽油組成物においては、90%留出温度は282〜336℃、好ましくは300〜336℃、より好ましくは320〜336℃である。90%留出温度が282℃以上であることにより、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができる。また、336℃以下であることにより、エンジンから排出される粒子状物質の成分であるsootやSOF分の排出量を低減させることができる。なお、本出願書類において、90%留出温度は、ASTM D86の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0027】
本発明の軽油組成物においては、15℃密度は0.832〜0.848g/cm、好ましくは0.832〜0.840g/cm、より好ましくは0.833〜0.839g/cmである。密度が当該範囲内にあることにより、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができ、かつエンジンから排出される粒子状物質の成分であるsootやSOF分の排出量を低減させることができる。なお、本出願書類において、15℃密度は、ASTM D−4052の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0028】
本発明の軽油組成物においては、引火点は61℃以上、好ましくは62℃以上である。引火点が61℃以上であることにより、軽質分の割合が多くなりすぎず、ディーゼルエンジンの燃費を良好な範囲内に保つことができる。なお、本出願書類において、引火点は、ASTM D−93の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0029】
本発明の軽油組成物においては、40℃動粘度は1.9〜4.1mm/s、好ましくは2.0〜3.8mm/sである。動粘度がこの範囲内であれば、ディーゼルエンジンの噴射ポンプで故障を生じないほか、燃料噴霧に悪影響しディーゼルエンジンから排出される粒子状物質が増加することを防ぐことができ好ましい。なお、本出願書類において、40℃動粘度は、ASTM D−445の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0030】
本発明の軽油組成物においては、硫黄分は50質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは9質量ppm以下である。硫黄分がこれより多いと、エンジンから排出される粒子状物質の成分であるサルフェートの排出量が多くなり、更に排ガス後処理装置の性能に悪影響を及ぼし、その他の排出ガスが増加する場合がある。なお、本出願書類において、硫黄分は、ASTM D−5453の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0031】
本発明の軽油組成物においては、全芳香族量は30質量%以下、好ましくは27質量%以下であり、多環芳香族量は4.5質量%以下、好ましくは3.1質量%以下である。下限に制限はないが、本発明に用いる直留軽油(LGO)留分と接触分解軽油(LCO)留分を用いると、通常、全芳香族量は19質量%以上、多環芳香族量は1.6質量%以上含まれている。全芳香族量や多環芳香族量がこれらの数値以下であることにより、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質やNOx排出量を低減させることができる。なお、本出願書類において、芳香族量は、ASTM D5186の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0032】
本発明の軽油組成物においては、HFRRは420μm以下である。HFRRの摩耗痕径が420μm以下であることにより、ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプに異常摩耗が発生するリスクを低減させることができる。なお、本出願書類において、HFRRは、ASTM D−6079の規定に準拠して測定した値を意味する。
【0033】
また、本発明の軽油組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、セタン価向上剤、界面活性剤、流動性向上剤、防腐剤、防錆剤、泡消剤、清浄剤、酸化防止剤、色相改善剤、潤滑性向上剤など公知の燃料添加剤が挙げられる。これらを一種または数種組み合わせて添加することができる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の内容を実施例および比較例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0035】
なお、実施例及び比較例の各軽油組成物については、表1に示すエンジンを用いてエンジンベンチ試験を行い、JE05モード燃料消費量、排ガス排出量(NOx、CO、THC)を測定した。燃料消費量は、比較例1の軽油組成物の燃料消費量を100%とし、その他の実施例及び比較例の軽油組成物について相対比較した。また、1800rpm、100Nmの一定運転条件下、2時間エンジンを稼働する際に排出されるPM(粒子状物質)がDPFに堆積することによるDPF前後の差圧上昇を計測した。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例1〜4、比較例1〜2]
まず、表2に示すような性状を有する原料基材を、表3に示す配合で混合した。その後、ULGO−1〜6の脱硫処理は、CoMoP担持脱硫触媒を用い、表3に示す条件で脱硫した。一方、灯油基材(UKERO)は、原油を常圧蒸留装置で分留して得られる直留灯油(KERO)を、表3に示す脱硫条件−7で水素化脱硫処理を行うことにより、調製した。
脱硫処理により得られた脱硫軽油基材の性状を表4に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
得られた脱硫軽油基材を、表5に示す燃料処方により配合し、さらにそれぞれ潤滑性向上剤を150質量ppm添加することにより、軽油組成物を製造した。得られた軽油組成物の性状、及び表1に示すエンジンを用いてエンジンベンチ試験を行った結果に得られた性能を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
この結果、実施例1〜4の軽油組成物は、90%留出温度が345℃よりも高い直留軽油留分のみを脱硫処理して得られた脱硫軽油基材と、直留灯油を脱硫処理して得られた脱硫灯油基材とを配合した比較例1の軽油組成物に比べて、低燃費であり、かつPM堆積によるDPFの差圧上昇が抑制されており、さらにCO及びTHCの排出が少ないことがわかった。これに対して、LCO留分の混合量が多い比較例2の軽油組成物では、比較例1の軽油組成物に比べて燃費向上効果は確認されたものの、DPF差圧上昇が顕著であり、かつNOx、CO、THCの悪化が確認された。これらの結果から、90%留出温度が特定の範囲内にあるLGO留分と90%留出温度が特定の範囲内にあるLCO留分とを、特定の混合比で混合した原料混合油を脱硫処理して得られる脱硫軽油基材を含む本発明の軽油組成物を用いることにより、燃費向上と優れた排出ガス性能を両立させることができることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留装置から留出する90%留出温度が330〜345℃の直留軽油留分と、流動接触分解装置から得られる90%留出温度が320〜350℃の接触分解軽油留分とを容量割合で95:5〜80:20で混合したものを、脱硫処理して得られる脱硫軽油基材を含む軽油組成物であって、
(a)セタン価が50〜60、
(b)90%留出温度が282〜336℃、
(c)15℃密度が0.832〜0.848g/cm
(d)引火点が61℃以上、
(e)40℃動粘度が1.9〜4.1mm/s、
(f)硫黄分が50質量ppm以下、
(g)全芳香族量が30質量%以下、
(h)多環芳香族が4.5質量%以下、及び
(i)HFRRが420μm以下
であることを特徴とする軽油組成物。

【公開番号】特開2012−31333(P2012−31333A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173881(P2010−173881)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)