説明

軽質炭酸カルシウムの製造方法

【課題】低品位の石灰石原料を用いた場合でも、白色度の良好な高白色軽質炭酸カルシウムを従来に比しより簡易に得ることができる軽質炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】生石灰に消化水を加え湿式消化させて消石灰水性スラリーを得た後、この消石灰水性スラリーと二酸化炭素とを反応させて軽質炭酸カルシウムを製造する方法である。消石灰水性スラリーを得るに先立って、還元剤を、前記生石灰に対し噴霧するか、または、前記消化水に対し添加する。還元剤の添加量は、最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの固形分に対し0.005〜1.0質量%とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽質炭酸カルシウムの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)に関し、詳しくは、着色性不純物を含む石灰石からの高白色軽質炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸カルシウムは、工業的には石灰石を焼成して得た生石灰を原料に用いて、これを水と反応させる湿式消化により消石灰水性スラリーを調製し、得られた消石灰水性スラリーを二酸化炭素と反応させることにより、軽質炭酸カルシウムとして製造されている。この軽質炭酸カルシウムは、近年の製紙業界における、填料にタルクを用いる酸性抄紙から填料に炭酸カルシウムを用いる中性抄紙やアルカリ抄紙への転換の進展に伴い、主に製紙分野での需要が増大しているものである。
【0003】
しかし、上記のようにして製造される軽質炭酸カルシウムの白色度は、石灰石原料に含まれる化学成分の影響を受けやすく、着色成分であるMn,Fe含有量が多い石灰石を原料として用いた場合、生成される軽質炭酸カルシウムの黄色味や赤味が強くなって、白色度が著しく低下するという問題があった。
【0004】
この軽質炭酸カルシウムの製造に係る改良技術としては、例えば、特許文献1に、製造された軽質炭酸カルシウムを還元漂白剤を用いて漂白処理する技術が開示されており、還元漂白剤としては、ハイドロサルファイト(Na等)、ロンガリット(NaHSO・CHO・HO)、ホルムアミジンスルフィン酸(HNC(:NH)SOH)などが挙げられること、その添加条件としては、添加率が軽質炭酸カルシウム重量当りで0.05〜0.5重量%、温度が20〜80℃、漂白時間が10〜60分であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−41892号公報(特許請求の範囲,[0025]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1におけるように、製造後に漂白処理することにより軽質炭酸カルシウムの白色度を改善する方法はあるものの、この場合、製造工程後に新たに漂白工程が付加されることになるため、生産性が低下してしまうという難点があった。したがって、これまで以上に白色度の良好な軽質炭酸カルシウムを、従来に比しより簡易に得るための技術の実現が望まれていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、着色成分の含有量が多い低品位の石灰石原料を用いた場合でも、白色度の良好な高白色軽質炭酸カルシウムを従来に比しより簡易に得ることができる軽質炭酸カルシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、生石灰から消石灰を得るプロセスにおいて、還元剤を添加することで、最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの光学的性質を改善して、白色度に優れた軽質炭酸カルシウムとすることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の軽質炭酸カルシウムの製造方法は、生石灰に消化水を加え湿式消化させて消石灰水性スラリーを得た後、該消石灰水性スラリーと二酸化炭素とを反応させて軽質炭酸カルシウムを製造する方法において、
前記消石灰水性スラリーを得るに先立って、還元剤を、前記生石灰に対し噴霧するか、または、前記消化水に対し添加することを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記還元剤の中でも、還元漂白剤を好適に用いることができる。また、前記還元剤の添加量は、最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの固形分に対し0.005〜1.0質量%とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、着色成分を含む低品位の石灰石原料を用いた場合でも、従来に比しより簡易に、白色度の良好な高白色軽質炭酸カルシウムを得ることができる。本発明の製造方法によれば、既存の軽質炭酸カルシウムの製造プロセスの一過程で還元剤を添加することから、新たに処理工程を設ける必要がなく、処理時間の増大を防止することができるので、生産性を損なうことがない。また、生石灰を反応させる前に還元剤を添加することで、増白効果を高めることができるので、わずかな還元剤添加量で白色度を高めることができる。さらに、本発明によれば、従来は軽質炭酸カルシウムの原料として使用できなかった低品位の石灰石を有効利用できるというメリットも得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適実施形態について、詳細に説明する。
本発明においては、生石灰に消化水を加え湿式消化させて消石灰水性スラリーを得た後、得られた消石灰水性スラリーと二酸化炭素とを反応させて軽質炭酸カルシウムを製造するにあたり、消石灰水性スラリーを得るためのプロセス中に、還元剤を添加する点が重要である。
【0013】
生石灰に消化水を作用させて消石灰水性スラリーを得るに際し、反応前に還元剤を添加することで、低品位の石灰石原料からであっても、白色度の良好な軽質炭酸カルシウムを簡易に得ることが可能となる。ここで、本発明において、還元剤は、原料の生石灰に対し噴霧により添加するか、または、生石灰に作用させる消化水に対し添加すればよく、いずれの場合も、本発明の効果を同等に得ることができる。
【0014】
本発明において使用できる還元剤としては、特に制限はなく、還元作用を起こさせることができるものであれば、いかなるものを用いてもよい。具体的には例えば、水素を始めヨウ化水素、水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化合物、二酸化硫黄、亜硫酸塩などの低級酸化物または低級酸素酸の塩、硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化アンモニウムなどの硫黄化合物、アルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛などの電気的陽性の大きい金属またはそれらのアマルガム、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)、クロム(II)などの低原子価状態にある金属の塩類、アルデヒド類、糖類、ギ酸、シュウ酸などの酸化階程の低い有機化合物などが挙げられる。中でも、特には、還元漂白剤を好適に用いることができ、具体的には例えば、二酸化硫黄、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイト(亜二チオン酸ナトリウム)などが挙げられる。
【0015】
また、本発明における還元剤の添加量としては、最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの固形分に対し、0.005〜1.0質量%、特には0.01〜0.1質量%とすることが好ましい。還元剤の使用量が0.005質量%よりも少ないと、十分な白色度が得られないおそれがあり、1.0質量%を超えても、それ以上の効果は得られない。本発明においては、かかる少量の添加量で白色度の良好な軽質炭酸カルシウムが得られる点で、メリットが大きい。
【0016】
本発明においては、上記消石灰水性スラリーの調製工程において還元剤を添加するものであればよく、それ以外の点については、常法に従い実施することができ、特に制限されるものではない。なお、本発明においては、還元剤を、キレート剤やpH調整剤(アルカリ金属化合物等)などの通常使用される添加剤と適宜混合して使用することも可能であり、この場合も、単独で使用した場合と同様の増白効果を得ることができる。
【0017】
本発明において用いる生石灰の原料としては、通常使用される不純物の少ない高品位の石灰石だけでなく、Mn,Fe等の着色成分の含有量が多い低品位の石灰石をも用いることができる。具体的には例えば、生石灰とした際にCaO以外の着色性不純物を0.02質量%以上、特には0.1〜0.3質量%にて含むような低品位の石灰石についても、原料として用いることが可能である。また、本発明において、かかる石灰石から得られる生石灰の湿式消化に用いる水としては、特に制限はなく、工業用水、井戸水、地下水などを用いることができる。
【0018】
さらに、本発明において、湿式消化により得られる消石灰水性スラリーの炭酸化反応は、通常用いられる方法で行うことができ、好ましくは消石灰濃度50〜200g/リットル、より好ましくは60〜150g/リットルの消石灰水性スラリーに、二酸化炭素濃度5〜40容量%、特には10〜35容量%の二酸化炭素含有ガスを、消石灰1kg当り標準状態で毎分1〜12リットル、特には3〜10リットルになる割合で、反応開始温度30〜70℃、特には35〜60℃で吹き込む方法が用いられる。
【0019】
特に好適な消石灰水性スラリーとしては、湿式消化で生ずる残さを、水性スラリーに対し1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように除去し、かつ、粘度を、B型粘度計による測定値で250cP以下、好ましくは200cP以下になるように調整したものが用いられる。残さが多すぎると炭酸化反応が不均一になり、粒子径や粒子形状が不揃いになるおそれがあり、また、粘度が250cPより高いと、炭酸化反応の際に柱状や針状のアラゴナイトが混入しやすくなり、炭酸カルシウム水性スラリーの粘度が上昇して、ふるい分け時にふるいの目詰まりが生じやすくなる。ここで、上記粘度は、消石灰水性スラリーを25℃に調整して、ブルックフィールド型粘度計、すなわちB型粘度計を用いて、60rpmで測定される値である。
【0020】
なお、本発明で用いられる二酸化炭素としては、純正のものに限らず、それを含有する混合ガス、例えば、石灰石焼成キルン排ガスなどの石灰石焼成排ガス、パルプ製造プラントのライムキルン排ガスなどの石灰焼成排ガスや、発電ボイラー排ガス、ゴミ焼却排ガスなどの形態であってもよい。
【0021】
本発明の製造方法によれば、JIS P8148に準拠するISO白色度で96.5〜99.0%の高白色軽質炭酸カルシウムを得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(従来例)
低品位の石灰石から得られた、着色性不純物を0.16質量%にて含む生石灰を原料として、軽質炭酸カルシウムの製造を行った。まず、この生石灰2kgを60℃の消化水30リットルを用いて消化し、消石灰濃度74g/リットルの消石灰水性スラリーを得た。この消石灰水性スラリーに、二酸化炭素濃度99.9容量%の純ガスを、消石灰1kg当り標準状態で毎分2リットルの割合で、反応開始温度60℃にて吹き込んで、炭酸化反応を行い、紡錘状の軽質炭酸カルシウムを得た。得られた軽質炭酸カルシウムから、325メッシュの篩を用いて残渣を除去したのち、この軽質炭酸カルシウムに対し、還元漂白剤としてのホルムアミジンスルフィン酸を、下記表中に示す添加量にてそれぞれ添加した。
【0023】
(実施例1)
還元漂白剤を、得られた軽質炭酸カルシウムに添加するのではなく、生石灰に噴霧した以外は従来例と同様にして、軽質炭酸カルシウムを得た。
【0024】
(実施例2)
還元漂白剤を、得られた軽質炭酸カルシウムに添加するのではなく、消化水に対し添加した以外は従来例と同様にして、軽質炭酸カルシウムを得た。
【0025】
得られた各軽質炭酸カルシウムにつき、ISO白色度測定装置としての(株)村上色彩技術研究所製CMS−35SPXを用いて、JIS P8148に準拠するISO白色度を測定した。その結果を、下記の表中に併せて示す。
【0026】
【表1】

*1)最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの固形分に対する添加量である。
【0027】
上記表中に示すように、還元漂白剤を、あらかじめ生石灰または消化水に対し添加した各実施例においては、最終的に得られた軽質炭酸カルシウムに対し添加した従来例に比べ、より少量の添加でも増白効果が高く、高い白色度を有する軽質炭酸カルシウムが得られていることがわかる。
【0028】
(実施例3)
還元漂白剤としてのホルムアミジンスルフィン酸に代えて、還元漂白剤としてのハイドロサルファイトを、下記表中に示す添加量にてそれぞれ添加した以外は実施例2と同様にして、軽質炭酸カルシウムを得た。
【0029】
(実施例4)
還元漂白剤としてのホルムアミジンスルフィン酸に代えて、還元剤としてのヒドラジンを、下記表中に示す添加量にてそれぞれ添加した以外は実施例2と同様にして、軽質炭酸カルシウムを得た。
【0030】
(比較例)
還元漂白剤としてのホルムアミジンスルフィン酸に代えて、酸化漂白剤としての過酸化水素を、下記表中に示す添加量にてそれぞれ添加した以外は実施例2と同様にして、軽質炭酸カルシウムを得た。
【0031】
得られた各軽質炭酸カルシウムにつき、ISO白色度測定装置としての(株)村上色彩技術研究所製CMS−35SPXを用いて、JIS P8148に準拠するISO白色度を測定した。その結果を、下記の表中に併せて示す。
【0032】
【表2】

*2)無データを示す。
【0033】
上記表中に示すように、還元漂白剤または還元剤を用いた各実施例においては増白効果が得られているのに対し、酸化漂白剤を用いた比較例では、増白効果が見られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生石灰に消化水を加え湿式消化させて消石灰水性スラリーを得た後、該消石灰水性スラリーと二酸化炭素とを反応させて軽質炭酸カルシウムを製造する方法において、
前記消石灰水性スラリーを得るに先立って、還元剤を、前記生石灰に対し噴霧するか、または、前記消化水に対し添加することを特徴とする軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記還元剤として、還元漂白剤を用いる請求項1記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記還元剤の添加量が、最終的に得られる軽質炭酸カルシウムの固形分に対し0.005〜1.0質量%である請求項1または2記載の軽質炭酸カルシウムの製造方法。