説明

輸液用の発熱袋

【課題】 輸液バッグと注射針の間を接続する輸液チューブの一部を蛇行させて、蛇行部分の輸液導入チューブを側面から加温し、輸液を暖める加温手段において、輸液を体温に近い温度になるまで、手間及び時間を多くかけることなく、効率よく加温するための加温手段を提供する。
【解決手段】 空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物が、通気性の袋に収納されてなる偏平状の発熱袋であって、20℃の大気雰囲気下、発熱袋の周囲に発熱に影響を及ぼすものがない状態における発熱特性として、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間が、1〜4時間となるように調製されてなる発熱袋とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液用の発熱袋に関し、さらに詳しくは、患者等に輸液を点滴する際に、輸液を体温に近い温度になるまで効率よく加温するための発熱袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者に輸液を点滴する際には、患者の痛みを緩和するために、輸液を体温に近い温度になるまで暖める処置が行なわれている。輸液は通常は10℃以下の温度で保存されており、輸液バッグ等に充填された輸液を暖める際には手間と時間がかかるとともに、点滴中は好ましい範囲の温度を維持する必要があった。また、一度加温した輸液は、再度使用できないという不都合があった。そのため、輸液バッグと注射針の間を接続する輸液チューブの一部を蛇行させて、蛇行部分の輸液チューブを側面から加温し、輸液を効率よく暖める特許文献1に記載されたような輸液加熱具が開発されている。
【特許文献1】実開昭53−139798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のような輸液加熱具に用いられる加温手段としては、例えば、液体が固体になるときに放出する熱を利用した蓄熱材、あるいは鉄等の金属と空気中の酸素との反応による発熱を利用した発熱組成物等が考えられる。
しかしながら、蓄熱材を用いる場合は、予め蓄熱材を加温しておく必要があり、手間と時間がかかるとともに、例えば病院外では電気設備がないために使用できない場合があった。また、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物は、使い捨てカイロ等に広く用いられているが、一般的に初期の温度上昇(立ち上がり)が鈍く、また流体を加温するためのものではないので、単位時間当たりの発熱量が足りないという不都合があった。
【0004】
従って、本発明が解決しようとする課題は、主に輸液バッグと注射針の間を接続する輸液チューブの一部を蛇行させて、蛇行部分の輸液導入チューブを側面から加温し、輸液を暖める輸液加熱具の加温手段において、輸液を体温に近い温度になるまで、手間及び時間を多くかけることなく、効率よく加温するための加温手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討した結果、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物が、通気性の袋に収納されてなる偏平状の発熱袋において、通気性の包装材の通気度(水蒸気透過度)を限定する等の手段を用いて、使い捨てカイロとして使用される通常の発熱袋よりも発熱ピーク時間が短時間に集中するように調製することにより、初期の温度上昇(立ち上がり)が早く、単位時間当たりの発熱量が充分に大きくなることを見出し、本発明の輸液用の発熱袋に到達した。
【0006】
すなわち本発明は、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物が、通気性の袋に収納されてなる偏平状の発熱袋であって、20℃の大気雰囲気下、発熱袋の周囲に発熱に影響を及ぼすものがない状態における発熱特性として、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間が、1〜4時間となるように調製されてなることを特徴とする輸液用の発熱袋である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の輸液用の発熱袋は、発熱組成物の発熱効果を短時間に集中させることにより、初期の温度上昇(立ち上がり)が早く、単位時間当たりの発熱量が充分に大きく、輸液を所定の温度に効率よく加温することができる。さらに、発熱袋の包装材に輸液チューブの保持手段、輸液バッグまたは輸液チューブ保持具への接着手段を設けることにより、これらへの密着性を向上させることができ、輸液をより効率よく加温することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の輸液用の発熱袋は、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物を利用した輸液を加温するための発熱袋に適用される。
以下、本発明の輸液用の発熱袋を、図1〜図8に基づいて詳細に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。尚、図1は、本発明の輸液用の発熱袋の例を示す断面図である。図2は、本発明の輸液用の発熱袋の一例を示す斜視図(一部切欠斜視図)である。図3は、図1以外の本発明の輸液用の発熱袋の一例を示す断面図である。図4は、本発明の輸液用の発熱袋において、包装材の表面に設けられる粘着剤部の配置例を示す構成図である。図5は、本発明の輸液用の発熱袋において、包装材に設けられる輸液チューブの保持手段の一例を示す斜視図である。図6は、本発明の輸液用の発熱袋において、包装材に設けられる輸液バッグまたは輸液チューブ保持具への接着手段の一例を示す斜視図である。図7は、輸液チューブ保持具の一例を示す構成図である。図8は、本発明の輸液用の発熱袋の発熱特性(実線) の一例を示すグラフである。
【0009】
本発明の輸液用の発熱袋は、図1、図2に示すように、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物1が、通気性の包装材2を有する袋に収納されてなる偏平状の発熱袋であり、20℃の大気雰囲気下、発熱袋の周囲に発熱に影響を及ぼすものがない状態における発熱特性として、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間が、1〜4時間、好ましくは1.2〜3.5時間、さらに好ましくは1.5〜3時間となるように調製されてなる発熱袋である。偏平状の発熱袋の構成としては、両面を通気性にするか、あるいは片面を通気性、他の片面を非通気性とすることができる。
【0010】
本発明において、例えば発熱組成物が空気と接触して温度が上昇し、時間t後に最高温度よりも5℃低い温度になり、その後時間t後に最高温度に到達し、さらに時間t後に再び最高温度よりも5℃低い温度になった場合、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間は、(t−t)であり、本発明の輸液用の発熱袋においてはこれが1〜4時間となるように調製される。尚、前記の時間は、室温(20℃)常圧で無風の大気(空気)環境下、発熱袋の周囲に発熱の障害や影響を及ぼすものがない状態、例えば天井から発熱袋を吊るした状態で測定されるものとする。
【0011】
このような発熱特性を発揮しやすくするために、本発明における通気性の包装材としては、一方の片面と他の一方の片面のJISK7129A法による水蒸気透過度の合計が、500〜1200g/m・24hr、好ましくは600〜1000g/m・24hrとなるように選択される。例えば一方の片面に非通気性の包装材を用いた場合は、他の一方の片面の包装材の水蒸気透過度は500〜1200g/m・24hrとなり、両面に同一の包装材を用いた場合は、その包装材の水蒸気透過度は250〜600g/m・24hrとなる。
【0012】
本発明の輸液用の発熱袋おいては、偏平状に形成された輸液チューブ、偏平状の輸液チューブ保持具、または偏平状の輸液バッグを、1個の発熱袋を用いて、両面から効率よく加温するために、図3に示すように、発熱組成物の収納部を二分割することができる。このような発熱袋を使用する場合、発熱袋の中央部に形成された貼り合せ部4を折目として二つ折りにし、輸液チューブ、輸液チューブ保持具、または輸液バッグを挟持することにより、輸液の加温が行なわれる。
【0013】
本発明に使用される偏平状の袋の包装材の原材料としては、通常はプラスチックフィルムを含む貼り合せシートが使用されるが、これらの貼り合せシートとしては、例えば、(1)熱融着性成分層/プラスチックフィルム、(2)(熱融着性成分とプラスチック成分の混合フィルム)/プラスチックフィルム、(3)熱融着性成分層/プラスチックフィルム/熱融着性成分層/不織布、(4)(熱融着性成分とプラスチック成分の混合フィルム)/不織布からなる貼り合せシートを挙げることができる。尚、プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム等を例示することができる。
【0014】
本発明に使用される通気性のプラスチックフィルムとしては、前記のプラスチックフィルムに微多孔の通気孔を設けたものを用いることが好ましい。このような微多孔プラスチックフィルムは、孔径が0.01μm以上かつ10μm以下の微細な孔を有するフィルムであり、例えば溶融したプラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン等)に炭酸カルシウムを分散させた後、フィルム状に押し出し、延伸させることによって得られる。微多孔プラスチックフィルムを用いた場合は、通気度(水蒸気透過度)をコントロールしやすく、また発熱袋の使用時には、図8のグラフ(実線)に示すように、発熱組成物が最高温度に到達した後の温度降下が比較的に早いので、発熱ピーク時間が短時間に集中するようにコントロールすることが容易である。
【0015】
本発明においては、針孔の通気孔(通常は孔径が50μm以上)を設けたプラスチックフィルムを用いることもできるが、通気度(水蒸気透過度)のコントロールが微多孔プラスチックフィルムより難しく、また発熱組成物が最高温度に到達した後の温度降下が緩やかなので、発熱ピーク時間を短時間に集中させることが難しいという欠点がある。
さらに、微多孔プラスチックフィルムを用いた場合は、針孔通気孔のプラスチックフィルムを用いた場合と比較して、輸液の加温の際に発熱組成物が偏りにくくなるという長所もある。
【0016】
本発明に使用される通気性のプラスチックフィルムの通気孔の大きさは、孔径が0.01〜30μm程度のものが好ましいが、通気孔の配置位置については特に制限されることがなく、例えば、貼り合せシートの全面、中央部、周辺部、または一部分に、適宜形成することができる。しかし、貼り合せシートの全面に、大きさ及び形状が同一である通気孔を等間隔に形成することが好ましい。尚、配置や大きさ等が偏った通気孔を設ける場合は、包装材の全体として、JISK7129A法による水蒸気透過度が前述の範囲になるように設定されることが好ましい。
【0017】
本発明の輸液用の発熱袋おいて、水蒸気透過度が前述のような範囲の包装材を使用すると、室温(20℃)の雰囲気下で輸液の加温に使用した場合の発熱特性として、輸液を体温近辺の温度(30℃以上)に到達させるまでの時間を3分以内(発熱組成物を空気中の酸素と接触させた後の時間)、輸液を体温近辺の温度に保持する時間を1〜4時間とすることが容易になる。尚、水蒸気透過度を前記の範囲より小さく設定した場合は、初期の温度上昇(立ち上がり)が遅くなるか、体温近辺の温度に到達しなくなるという虞があり、水蒸気透過度を前記の範囲より大きく設定した場合は、初期の温度上昇(立ち上がり)が早くなるが、体温近辺の温度の保持時間が短くなる。
【0018】
本発明の輸液用の発熱袋おいては、偏平状の袋に、輸液チューブの保持手段、輸液バッグへの接着手段、または輸液チューブ保持具への接着手段が設けられることが好ましい。これらは、水蒸気透過度が同一である通気性の包装材を両面に用いた場合は、どちらか一方の包装材に設けられる。また、水蒸気透過度が互いに異なる包装材を各々の面に用いた場合は、水蒸気透過度が小さい方の片面に設けることが好ましい。
【0019】
輸液チューブの保持手段、輸液バッグへの接着手段、または輸液チューブ保持具への接着手段としては、図4に示すように、包装材の表面に設けられた粘着剤部5を例示することができる。粘着剤部5の配置位置や大きさ等については特に制限されることがなく、例えば、包装材の全面、中央部、周辺部、または一部分に、適宜大きさや形状が同一である粘着剤部、または大きさや形状が異なる複数種類の粘着剤部を形成することができるが、包装材の全面に、大きさ及び形状が同一である粘着剤部を等間隔に形成することが好ましい。
【0020】
粘着剤部の片面の包装材全体に対する面積の割合は、通常は2〜40%、好ましくは5〜20%である。粘着剤部の片面全体に対する面積の割合が2%未満の場合は、輸液チューブの保持、輸液バッグへの接着、または輸液チューブ保持具への接着ができなくなる虞がある。また、片面全体に粘着剤部を設けることもできるが、良好な初期の温度上昇(立ち上がり)が得られる点で、粘着剤部の片面全体に対する面積の割合が40%以下であることが好ましい。
【0021】
前記の粘着剤部としては、粘着剤層を直接包装材に設けることもできるが、両面に粘着剤層を備えたテープまたはシートの層(両面テープ)を設けることもできる。このような粘着剤層/テープまたはシートの層/粘着剤層の3層からなる構成とすることにより、粘着剤部の厚みが増加し、輸液バッグ、輸液チューブ保持具等との間隙が生じ通気性を向上させることができる。尚、粘着剤は使用されるまで剥離紙等により被覆される。
【0022】
その他の輸液チューブの保持手段としては、図5に示すように、輸液チューブ6の固定部材7を例示することができる。固定部材7を設ける場合、通常は貼り合せ部4の表面に設けられる。固定部材7は、例えば細長いテープを、輸液チューブが通るための空間ができるように、包装材の表面に貼り合せて製作することができる。さらに、通気性の包装材の周辺部(貼り合せ部)に、輸液チューブを通すための貫通部(直径0.2〜1cm程度の円形、またはこれに相当する大きさの形状)、輸液チューブの位置を固定する切欠部(直径0.2〜1cm程度の半円形、またはこれに相当する大きさの形状)を設けることもできる。また、その他の輸液バッグへの接着手段、または輸液チューブ保持具への接着手段としては、図6に示すように、粘着剤部5を備えたバンド8を例示することができる。これらの固定部材7、バンド8は、包装材の表面に設けられる粘着剤部5と併用することもできる。
【0023】
本発明の輸液用の発熱袋において、空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物としては、被酸化性金属、活性炭、無機電解質、水、及び高分子保水剤等の混合物が使用される。
被酸化性金属粉としては、鉄粉、アルミニウム粉などであるが、通常は鉄粉が用いられ、還元鉄粉、アトマイズド鉄粉、電解鉄粉等が利用される。活性炭は反応助剤の他、保水剤としても使用され、通常は、椰子殻炭、木粉炭、ピート炭等が用いられる。無機電解質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属の塩化物、及びアルカリ金属の硫酸塩等が好ましく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸ナトリウム等が用いられる。これらの通常の構成成分の割合としては、被酸化性金属が20〜80wt%、活性炭が1〜20wt%、無機電解質が1〜20wt%、水が5〜50wt%、保水剤が1〜20wt%である。
【0024】
本発明の輸液用の発熱袋は、例えば通気性の包装材を2枚、あるいは通気性の包装材と非通気性の包装材を、熱融着面が互いに内側となるようにして重ね合せ、周辺を加熱融着して袋状に成形するとともに、前述の発熱組成物を充填して図1、図2に示すような発熱袋とされる。また、本発明の輸液用の発熱袋の大きさは、通常は名刺と同程度の大きさから、日本工業規格A列3番程度である。形状は、通常は矩形状であるが、円形、楕円形、多角形等とすることもできる。
本発明の輸液用の発熱袋は、使用されるまでの期間中、外部の空気と遮断し、かつ水が蒸発して外部へ拡散することを防ぐために、さらに非通気性の偏平状袋に密封される。使用の際には、非通気性の偏平状袋から取出すことにより、発熱袋内の発熱組成物が空気中の酸素と接触して発熱する。
【0025】
本発明の輸液用の発熱袋は、直接輸液チューブを加温する場合は、例えば図5に示すように、発熱袋の包装材の表面に蛇行状に輸液チューブを固定するか、さらに蛇行状の輸液チューブを挟持するように、他の1個の発熱袋が側面から接着される。また、輸液バッグまたは輸液チューブ保持具を加温する場合は、これらの片側面または両側面に接着される。尚、本発明においては、輸液チューブ保持具は、図7に示すように、内部に輸液チューブを蛇行状に保持するもの、内部に輸液を蛇行状に流通する流路を有し2本の輸液チューブを結合する機能を有するもののほか、渦巻き状に輸液チューブを保持するもの、あるいは渦巻き状に輸液を流通するものを含むものである。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。
[実施例1]
【0027】
(発熱袋の製作)
片面の通気性包装材として、微多孔を有する厚さ90μmのポリエチレンフィルムと厚さ20μmのナイロン不織布からなる包装材を用いた。この通気性包装材は、JISK7129A法による水蒸気透過度が600g/m・24hrであった。
また、他の片面の通気性包装材として、前記の通気性包装材のナイロン不織布側に、図4(1)に示すような均一に分散された粘着剤部を設けた包装材を用いた。粘着剤部には、一時的に離型紙が重ね合されている。この包装材は粘着剤部により通気性が減少し、JISK7129A法による水蒸気透過度が300g/m・24hrであった。
【0028】
これらの包装材を100mm×150mmに切断するとともに、さらに低通気性の包装材のナイロン不織布側の周辺部に、図5に示すような形態となるように、テープ状のポリエチレン製の輸液チューブの固定部材を貼り合せて設けた。
また、窒素ガス雰囲気下で、鉄粉が62wt%、活性炭が8wt%、食塩(無機電解質)が2wt%、水が20wt%、保水剤が8wt%となるように混合して発熱組成物を調製した。前記の通気性包装材2枚を熱融着面が互いに内側となるようにして重ね合せ、周辺を加熱融着して袋状に成形するとともに、発熱組成物45gを充填して図1に示すような発熱袋を製作した。その後、発熱袋を120mm×180mmの非通気性の偏平状袋に密封した。
【0029】
(発熱袋の発熱特性の調査)
前記のような発熱袋を10袋製作し、20℃の室内に1昼夜放置した。次に、これらの10袋の発熱袋について、非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出し、20℃の室内の天井から吊るした状態で発熱特性を測定した。その結果、全ての発熱袋の発熱組成物は、4分以内に30℃に到達した。また、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間については、10袋の平均で2.8時間、最短で2.5時間、最長で3.0時間であった。尚、これらの発熱袋の発熱特性は、図8のグラフ(実線)に示すようなものであった。
【0030】
(輸液の加温調査)
輸液チューブを前記の発熱袋とともに蛇行状に挟持して加温するために、輸液チューブの固定部材を設けなかったほかは、前記と同様にして対面用の発熱袋を製作し、非通気性の偏平状袋に密封した。
20℃の室内に、輸液チューブの固定部材を設けた発熱袋、及び輸液チューブの固定部材を設けなかった対面用の発熱袋を1昼夜放置した。次に、20℃の室内でこれらの発熱袋を非通気性の偏平状袋から取り出すとともに、輸液チューブの固定部材を設けた発熱袋の該固定部材に、蛇行状となるように輸液チューブを通し、さらに対面用の発熱袋を輸液チューブが挟持されるように互いに粘着剤部側を重ね合せて固定した。非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出してから5分後、輸液バッグから前記の輸液チューブに3cc/minの流量で20℃の輸液を流通し、発熱袋に挟持された輸液チューブを通過した輸液の温度を約5分毎に測定した。その結果、2時間にわたり30℃以上の輸液が得られた。
[実施例2]
【0031】
(発熱袋の製作)
片面の通気性包装材として、微多孔を有する厚さ80μmのポリエチレンフィルムと厚さ20μmのナイロン不織布からなる包装材を用いた。この通気性包装材は、JISK7129A法による水蒸気透過度が900g/m・24hrであった。
また、非通気性包装材として、市販のポリエチレンフィルムとナイロンフィルムからなる貼り合せ包装材を用い、ナイロンフィルム側に図4(1)に示すような均一に分散された粘着剤部を設けた。
これらの通気性包装材と非通気性包装材を用い、輸液チューブの固定部材を設けなかったほかは、実施例1と同様にして発熱袋を製作した。その後、発熱袋を120mm×180mmの非通気性の偏平状袋に密封した。
【0032】
(発熱袋の発熱特性の調査)
前記のような発熱袋を10袋製作し、20℃の室内に1昼夜放置した。次に、これらの10袋の発熱袋について、非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出し、20℃の室内の天井から吊るした状態で発熱特性を測定した。その結果、全ての発熱袋の発熱組成物は、4分以内に30℃に到達した。また、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間については、10袋の平均で2.7時間、最短で2.5時間、最長で2.9時間であった。
【0033】
(輸液の加温調査)
20℃の室内に1昼夜放置した2袋の発熱袋を、非通気性の偏平状袋から取り出し、図7に示すような輸液を蛇行状に流通する流路を有する輸液加温具(100mm×150mm)の両側面に1袋ずつ接着した。
非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出してから5分後、輸液バッグから前記の輸液加温具に3cc/minの流量で20℃の輸液を流通し、輸液加温具を通過した輸液の温度を約5分毎に測定した。その結果、2.2時間にわたり30℃以上の輸液が得られた。
【0034】
[比較例1]
(市販の携帯カイロの発熱特性の調査)
市販の貼るタイプの携帯カイロ10袋を20℃の室内に1昼夜放置した。この携帯カイロの発熱組成物は、実施例1及び実施例2と、組成、充填量等がほぼ同じである。次に、これらの携帯カイロについて、非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出し、20℃の室内の天井から吊るした状態で発熱特性を測定した。その結果、全ての発熱袋の発熱組成物は、5分以内に30℃に到達しなかった。また、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間については、10袋の平均で9.5時間、最短で7.8時間、最長で10時間以上であった。尚、これらの発熱袋の発熱特性は、図8のグラフ(点線)に示すようなものであった。
【0035】
(輸液の加温調査)
20℃の室内に1昼夜放置した市販の貼るタイプの携帯カイロ2袋の発熱袋を、非通気性の偏平状袋から取り出し、図7に示すような輸液を蛇行状に流通する流路を有する輸液加温具(100mm×150mm)の両側面に1袋ずつ接着した。
非通気性の偏平状袋から発熱袋を取り出してから5分後、輸液バッグから前記の輸液加温具に3cc/minの流量で20℃の輸液を流通し、輸液加温具を通過した輸液の温度を約5分毎に測定した。その結果、輸液の最高温度は27℃程度であった。
【0036】
以上のように、本発明の実施例の輸液用の発熱袋は、初期の温度上昇(立ち上がり)が早く、単位時間当たりの発熱量が充分に大きく、輸液を所定の温度に効率よく加温できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の輸液用の発熱袋の例を示す断面図
【図2】本発明の輸液用の発熱袋の一例を示す斜視図(一部切欠斜視図)
【図3】図1以外の本発明の輸液用の発熱袋の一例を示す断面図
【図4】本発明の輸液用の発熱袋において、包装材の表面に設けられる粘着剤部の配置例を示す構成図
【図5】本発明の輸液用の発熱袋において、包装材に設けられる輸液チューブの保持手段の一例を示す斜視図
【図6】本発明の輸液用の発熱袋において、包装材に設けられる輸液バッグまたは輸液チューブ保持具への接着手段の一例を示す斜視図
【図7】輸液チューブ保持具の一例を示す構成図
【図8】本発明の輸液用の発熱袋の発熱特性の一例を示すグラフ
【符号の説明】
【0038】
1 発熱組成物
2 通気性包装材
3 非通気性包装材
4 貼り合せ部
5 粘着剤部
6 輸液チューブ
7 固定部材
8 バンド
9 輸液チューブ保持具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の酸素と接触して発熱する発熱組成物が、通気性の袋に収納されてなる偏平状の発熱袋であって、20℃の大気雰囲気下、発熱袋の周囲に発熱に影響を及ぼすものがない状態における発熱特性として、発熱組成物の最高温度とそれより5℃低い温度の間の温度を維持する時間が、1〜4時間となるように調製されてなることを特徴とする輸液用の発熱袋。
【請求項2】
通気性の包装材として、一方の片面と他の一方の片面のJISK7129A法による水蒸気透過度の合計が、500〜1200g/m・24hrである包装材を備えた請求項1に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項3】
通気性の包装材が、孔径が0.01〜10μmの微多孔をプラスチックフィルムに設けた包装材を用いたものである請求項2に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項4】
発熱組成物の収納部が二分割された請求項1に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項5】
包装材に輸液チューブの保持手段が設けられた請求項1に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項6】
包装材に輸液バッグまたは輸液チューブ保持具への接着手段が設けられた請求項1に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項7】
片面の包装材の表面に、複数に分散された粘着剤部を有する請求項1に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項8】
粘着剤部の片面の包装材全体に対する面積の割合が、2〜40%である請求項7に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項9】
粘着剤部が、両面に粘着剤層を備えたテープまたはシートからなる請求項7に記載の輸液用の発熱袋。
【請求項10】
偏平状の発熱袋が、さらに非通気性の偏平状袋に密封されてなる請求項1に記載の輸液用の発熱袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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