説明

輸液組成物の副作用防止剤

【課題】高カロリー輸液などの投与によって起こる、P450などの薬物代謝酵素や他の酵素の肝臓における活性低下、およびABCトランスポーターの過剰発現などの副作用を、
抑制乃至防止できる副作用防止剤、これを利用して該副作用を防止する方法および副作用を防止された輸液組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】輸液組成物の投与によって起こる副作用を防止するために該輸液組成物に配合される副作用防止剤であって、脂肪乳剤からなることを特徴とする該副作用防止剤、該防止剤を利用して該副作用を防止する方法、および副作用を防止された輸液組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液組成物の投与によって起こる副作用、例えば肝臓における薬物代謝酵素の活性低下を抑制乃至防止するために該輸液組成物に配合される副作用防止剤およびこれを配合して、上記副作用を防止する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物代謝酵素、即ち医薬品有効成分化合物などの化学物質の代謝に関与する酵素の代表例としてチトクロムP450(以下単に「P450」という)が知られている。このP450には、多数の分子種が存在し、これらの各分子種は、その酵素活性に差はあるものの、分子種毎にそれぞれ各種の化合物の代謝に関与することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
P450がその代謝に関与する化合物としては、医薬品有効成分化合物(例えば三環系抗う
つ薬、抗てんかん薬、ベンゾジアゼピン系製剤、β−遮断薬、バルビタール系就眠性催眠剤などの有効成分化合物)など;環境中の低分子発癌性物質であるジメチルニトロソアミ
ンなど;ベンゼンなどの有機溶剤などが挙げられる。
【0004】
P450などの薬物代謝酵素の活性が低下すると、薬の効き過ぎ、プロドラッグの薬理効果の低下などの問題が発生する。特に、薬物代謝酵素活性は、出生時には未発達で、新生児や未熟児の薬物代謝能力は、一般成人に比べて著しく低い。従って、このような新生児などへの薬物の投与などは、重大な問題を生じる危険が多分にある(非特許文献2参照)。
【0005】
P450の活性はさまざまな原因で低下することが知られている。例えば、炎症性疾患、外傷、細菌感染などによって血流中のサイトカインが上昇すると、P450活性は低下する。また、糖質の過剰摂取、脂肪酸の欠乏などによってもP450活性は低下する(非特許文献3参照)。さらに通常の糖、アミノ酸、電解質などを含む高カロリー輸液の投与は、肝臓中のP450含量を低下させ、薬物代謝を阻害することが報告されている(非特許文献4-6参照)。
【0006】
また、高カロリー輸液の投与によれば、肝腫大やトランスアミナーゼの上昇、更に小児ではアルカリフォスファターゼ、D-ビリルビン値の上昇が見られ、脂肪肝や胆汁うっ滞などの肝障害が惹起されることが知られている(非特許文献7-8参照)。
【0007】
その原因としては、肝細胞内における脂肪合成の亢進・脂肪蓄積が挙げられる(非特許
文献9-13参照)。これらは、肝臓における脂肪酸のβ酸化の低下と密接に関連している(非特許文献14-16参照)。この脂肪酸のβ酸化を行う酵素およびこれに関連する酵素としては、SCAD (short-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenate)、MCAD (acyl-coenzyme A dehydrogenase, medium chain)、LCAD (Long-chain acyl-CoA dehydrogenase)、VLCAD (acyl-coenzyme A dehydrogenase, very long chain)、ECH (Enoyl-CoA hydrotase)、HAD (3-hydroxyacyl CoA dehydrogenase, L-3-hydroxyacyl-Coenzyme A dehydrogenase, short-chain, HADHSC)、HADHB (hydroxyacyl-Coenzyme A dehydrogenase)、ACAA2 (Acetyl-CoA acyltransferase 2; 別名:3-oxoacyl CoA thiolase)などの、脂肪酸のβ酸化酵素、および、LC-ACS (Long-chain acyl-CoA synthetase,別名:fatty acid Coenzyme A ligase, long chain 2 (Facl2))、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI (Carnitine palmitoyltransferase I; CPT2)、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII (CPTII)などの、
脂肪酸のβ酸化に関連する酵素が知られている。
【0008】
ABC(ATP Binding Cassette)タンパク質はトランスポーター、チャネルおよび受容体
という多様な機能に分化し、重要な生理機能を果たしている。ヒトにおいては40以上のAB
Cタンパク質が同定されている。ABCタンパク質の多くが、ATPに依存した内因子物質、異
物およびその代謝物のそれぞれの輸送に関与することが明らかとなり、それ故、該タンパク質は、別名ABCトランスポーターともよばれている(非特許文献17参照)。その中には薬剤耐性の原因となるものが存在し、このものが過剰発現した場合、薬剤作用を減弱させることが考えられ、また薬物相互作用の発現の可能性も考えられる(非特許文献18参照)。
薬剤耐性に関与するABCトランスポーターとしては、ABCB1(MDR1/Pgp1)、ABCC1(MRP1)およびABCC5a(MRP5)が知られている。
ABCB1(MDR1/Pgp1)は広範囲な基質特異性を持ち、制癌剤の有効成分化合物として知られている例えばドキソルビシン、タキソール、ビンブラスチン、ビンクリスチンコルヒチン等の多様な分子構造を持つ疎水性化合物を細胞外へ輸送排出する。ABCB1が誘導されると
、その働きにより、これらの制癌剤有効成分化合物の細胞内における蓄積が低下し、癌細胞は耐性を獲得する(非特許文献17参照)。
ABCC1ノックアウトマウスでは、好中球などの炎症細胞からロイコトリエンC4の輸送が欠
損し、炎症反応が有意に低下することが報告されている(非特許文献19)。このことから、ABCC1の過剰発現により炎症反応が悪化することが考えられる。
ABCC5a(MRP5)は、S-(2,4-ジニトロフェニル) -グルタチオン(DNP-SG)、抗HIV薬である9-(2-ホスホニルメトキシエチル)アデニン(PMEA)、抗白血病薬である6-メルカプトプリ
ンおよびチオグアニンなどの核酸類似体を輸送し、またフルオロクロムやcGMPをも基質とすることが報告されている(非特許文献20-22参照)。すなわち、ABCC5aの過剰発現は、これらの薬剤の細胞外への排出を促進し、これら薬剤の効果を減弱させる。
以上のように、抗癌剤や抗HIV薬などの薬物の投与時には、薬剤耐性の原因となる過剰なABCトランスポーターの発現を抑制すべきである。また、炎症反応悪化の観点からも、ABC
トランスポーターの過剰な発現は抑制すべきである。
更に、ABCトランスポーターの一つであるABCB1(MDR1/Pgp1)の発現が、高カロリー輸液
の投与によって高くなることが報告されている(非特許文献23参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yoo, J. S. H., Chung, R. C., Wade, D., & Yang, C. S., "Nature of N-nitrosodimethylamine denethylase and its inhibitors", Cancer Res., 47, 3378-3383, 1987
【非特許文献2】加藤隆一、鎌滝哲也編集、「薬物代謝学(第2版)-医療薬学・毒性学の基礎として-」、株式会社東京化学同人、2000年10月20日発行、pp157-161参照
【非特許文献3】加藤隆一、鎌滝哲也編集、「薬物代謝学(第2版)-医療薬学・毒性学の基礎として-」、株式会社東京化学同人、2000年10月20日発行、pp131-140参照
【非特許文献4】Knodel, R.G., Steel, N.M., Cerra, F.B., Gross, J.B., & Solomon, T. E., "Effects of parenteral and enteral hyperalimentation on hepatic drug metabolism in the rat", J. Pharmacol. Exp. Ther., 229, 589-597, 1984
【非特許文献5】Dickerson, R.N. & Charland, S.L., "The effects of sepsis during parenteral nutrition on hepatic microsomal function in rats", Pharmacotherapy, 22, 1084-1090, 2002
【非特許文献6】Lu, C. J. H., Redmond, D., Baggs, R. B., Schercter, A. & Gaseiewicz, T. A., "Growth and hepatic composition in the guinea pig after long-term parenteral hyperalimentation", Am. J. Physiol. R388-R397, 1986
【非特許文献7】Dahms, B.B., Halpin, Jr.T.C., "Serial liver biopsy in parenteral nutrition-associated cholestasis of early infancy", Gastroenterology, 81: 136-144, 1981
【非特許文献8】Benjamin, D.R., "Hepatobiliary dysfunction in infants and children associated with long-term total parenteral nutrition", A clinico-pathologic study, Am. J. Clin. Pathol., 76: 276-283, 1981
【非特許文献9】Wolfe, R.R., O'Donnell, T.F., Stone, M.D., et al., "Investigation of factors determining the optimal glucose infusion rate in total parenteral nutrition", Metabolism, 29: 892-900, 1980
【非特許文献10】Smith, R.S., Burkinshaw, L., Hill, G.L., "Optimal energy and nitrogen intake for gastroenterological patients requireing intravenous nutrition", Gastroenterology, 82: 445-452, 1982
【非特許文献11】Sax, H.C., Talmini, M.A., Brackett, K., et al., "Hepatic steatosis in total parenteral nutrition: failure of fatty infiltration to correlate with abnormal serum hepatic enzymes levels", Surgery, 100: 697-704, 1986
【非特許文献12】Reif, S., Tano, M., Oliverio, R., et al., "Total parenteral nutrition-induced steatosis: Reversal by parenteral lipid infusion", J. Parent. Ent. Nutr., 15: 102-104, 1991
【非特許文献13】Nussbaum, M.S., Fisher, J., "Pathogenesis of hepaticsteatosis during total parenteral nutrition", Surg. Annu., 23: 1-11, 1991
【非特許文献14】肝臓、45巻、2号、山本匡介、66-69頁、2004年
【非特許文献15】Spaniol, M., Kaufmann, P., et al., "Mechanisms of liver steatosis in rats with systemic carnitine deficiency due to treatment with trimethylhudraziniumhydraziniumpropionate", J. Lipd Res., 44: 144-153, 2003
【非特許文献16】Fromentry, B. and Pessayre, D., "Inhibition of mitochondrial beta-oxidation as a mechanism of hepatotoxicity", Pharmacol. Ther., 67: 101-154, 1995
【非特許文献17】石川智久, Allikimets, R., Dean, M., Higgins, C., Ling, V. & Wain, H.M., 薬物動態, 15: 8-19, 2000.
【非特許文献18】家入一郎,高根浩,大坪健司,トランスポーターを介した重要な薬物相互作用のメカニズム,薬局,54(11): 2769-2775,2003
【非特許文献19】Wijnholds, J., Evers, R., vanLeusden, M.R., Mol,C.A., Zaman, G.J., Mayer, U., Beijnen, J.H., van der Valk, M., Krimpenfort, P. and Borst, P., "Increased sensitivity to anticancer drugs and decreased inflammatory response in mice lacking the multidrug resistanse-associated protein" Nature Med., 3: 1275-1279, 1997
【非特許文献20】McAleer, M.A., Breen, M.A., White, N.L. & Matthews, N. "pABC11 (also known as MOAT-C and MRP5), a member of the ABC family of proteins, has anion transporter activity but does not confer multidrug resistance when overexpressed in human embryonic kidney 293 cells". J. Biol. Chem. 274: 23541-23548, 1999
【非特許文献21】Wijnholds, J., Mol, C.A., van Deemter, L., de Haas, M., Scheffer, G.L., Baas, F.,Beijnen, J.H., Scheper, R.J., Hatse, S., de Clercq, E., Balzarini, J. & Borst, P. " Multidrug-resistance protein 5 is a multispecific organic anion transporter able to transport nucleotide analogs" Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 7476-7481,2000
【非特許文献22】Jedlitschky, G., Burchell, B. & Keppler, D. " The multidrug resistance protein 5 functions as an ATP-dependent export pump for cyclic nucleotides" J. Biol. Chem. 275: 30069-30074, 2000
【非特許文献23】Tazuke, Y., Kiristioglu, I., Heidelberger, K. P., Eisenbraun, M. D. & Teitelbaum, D. H., "Hepatic P-glycoprotein changes with total parenteral nutrition administration", Journal of Parenteral and Enteral Nutrition, 28, 1-6, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高カロリー輸液投与によって起こる副作用を防止する技術、特に肝臓におけるP450を初めとする薬物代謝酵素、脂肪酸酸化に関与するβ酸化酵素などの各種酵素の活性低下を抑制することができ、また、細胞における薬物耐性に関与するABCトラン
スポーターの過剰発現を抑制することができる新しい副作用防止剤、これを利用した新たな輸液組成物およびそれらの調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成することができる技術手段について種々検討を重ねた結果、通常の糖、アミノ酸、電解質などを含む高カロリー輸液の投与によって起こる上記副作用が、該輸液に脂肪乳剤を配合することによって、効果的に防止乃至抑制できるという知見を得た。また、この脂肪乳剤を含む高カロリー輸液の投与によれば、肝臓における薬物代謝酵素を初めとする各種酵素類の活性が維持でき、また、ABCトランスポーターの過剰
発現も起こらず、かくして副作用としての各種臨床的症状の発症を防止乃至緩和できるという事実を見出した。特に、この脂肪乳剤を含む輸液の投与による薬物代謝酵素の活性維持乃至活性低下防止は、本来、薬物代謝酵素活性の低い新生児、未熟児などに対して格別の効果が期待できるという事実を見出した。
【0012】
本発明は、これらの知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。本発明の要旨は、下記項1-17に記載の通りである。
【0013】
項1. 輸液組成物の投与によって起こる副作用を防止するために該輸液組成物に配合さ
れる副作用防止剤であって、脂肪乳剤からなることを特徴とする副作用防止剤。
【0014】
項2. 副作用が、肝臓における薬物代謝酵素の活性低下である項1に記載の副作用防止剤。
【0015】
項3. 副作用が、肝臓における脂肪酸酸化に関与するβ酸化酵素およびこれに関連する
酵素の活性低下である項1に記載の副作用防止剤。
【0016】
項4. 副作用が、細胞における薬剤耐性に関与するABCトランスポーターの過剰発現である項1に記載の副作用防止剤。
【0017】
項5. 脂肪乳剤が、卵黄レシチンを乳化剤として用いて大豆油を乳化して得られるもの
である項1-4のいずれかに記載の副作用防止剤。
【0018】
項6. 脂肪乳剤が、平均粒子径0.17μm以下である項1-5のいずれかに記載の副作用防止
剤。
【0019】
項7. 輸液組成物が、糖、アミノ酸および電解質を含有するものである項1-6のいずれかに記載の副作用防止剤。
【0020】
項8. 輸液組成物が、更に多価アルコールまたは糖のリン酸エステルおよびその塩から
なる群から選択される少なくとも1種のリン成分を含有する項7に記載の副作用防止剤。
【0021】
項9. 輸液組成物が、更に亜硫酸水素ナトリウム、チオグリセロールおよびジチオスレ
イトールからなる群から選択される少なくとも1種の着色防止剤を含有するものである項7または項8に記載の副作用防止剤。
【0022】
項10. 副作用防止剤を配合された輸液組成物が、そのpHを5.0から8.0に調整される項1-9に記載の副作用防止剤。
【0023】
項11. pHの調整が、クエン酸の配合によりなされる項10に記載の副作用防止剤。
【0024】
項12. 副作用防止剤を配合された輸液組成物が、下記の組成を有するものである項1に
記載の副作用防止剤:
油脂5-50g/L
乳化剤0.5-10g/L
糖50-250g/L
L-イソロイシン0.5-5g/L
L-ロイシン0.5-7g/L
L-バリン0.5-5g/L
L-リジン0.5-7g/L
L-メチオニン0.1-4g/L
L-フェニルアラニン0.3-5g/L
L-トレオニン0.3-5g/L
L-トリプトファン0.1-1g/L
L-アルギニン0.3-7g/L
L-ヒスチジン0.2-3g/L
グリシン0.2-3g/L
L-アラニン0.3-5g/L
L-プロリン0.2-5g/L
L-アスパラギン酸0.03-2g/L
L-セリン0.2-3g/L
L-チロシン0.03-0.5g/L
L-グルタミン酸0.03-2g/L
L-システイン0.03-1g/L
ナトリウム15-60mEq/L
カリウム10-50mEq/L
カルシウム3-15mEq/L
マグネシウム2-10mEq/L
塩素0-80mEq/L
リン1-15mEq/L
亜鉛0-30μmol/L。
【0025】
項13. 副作用防止剤を配合された輸液組成物が、更にビタミン類及び微量元素を含むものである項12に記載の副作用防止剤。
【0026】
項14. 輸液組成物の投与によって起こる副作用を防止する方法であって、該輸液組成物に更に脂肪乳剤を添加配合することを特徴とする方法。
【0027】
項15. 輸液組成物に脂肪乳剤を添加配合することを特徴とする、副作用を防止された輸液組成物の製造方法。
項16. 輸液組成物に対する脂肪乳剤の添加配合量が、5〜50重量%である項14または項15
に記載の方法。
【0028】
以下、本発明副作用防止剤およびこれを配合された高カロリー輸液組成物につき詳述する。
【0029】
(1) 本発明副作用防止剤
本発明副作用防止剤は脂肪乳剤、即ち、乳化剤を用いて油脂を水中に乳化した乳剤からなることを特徴とする。該脂肪乳剤の調製は常法に準じて行うことができる。例えば、水に油脂および乳化剤を加えた後、撹拌して粗乳化液を調製し、次いで粗乳化液を高圧乳化法などの慣用の方法により乳化することにより脂肪乳剤を調製できる。
【0030】
油脂としては食用油であればいずれの油脂も使用できる。該油脂には、例えば植物油(
大豆油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、ヤシ油、シソ油、エゴマ油など)、魚
油(タラ肝油など)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(炭素数8-10の脂肪酸のトリグリセリド)[市販品名:「パナセート」(日本油脂社製)、「ODO」(日清製油社製)、「ココナード」(花王社製)、「ミグリオール」(ミツバ貿易社)など]、化学合成トリグリセリド類[2-リノ
レオイル-1,3-ジオクタノイルグリセロール(8L8)、2-リノレオイル-1,3-ジデカノイルグ
リセロール(10L10)など]などが含まれる。これらはその1種を単独で用いることもでき、また2種以上を併用することもできる。
【0031】
乳化剤としては例えば医薬製剤に使用されることの知られている各種の乳化剤を用いることができる。該乳化剤には、例えば卵黄リン脂質、水素添加卵黄リン脂質、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質などおよび非イオン性界面活性剤[市販品名:「プルロニックF68」(BASF社製)、「HCO-60」(日光ケミカルズ株式会社)など]が含まれる。これらはそ
の1種を単独で用いることもでき、また2種以上を併用することもできる。特に好ましい油脂としては大豆油が、特に好ましい乳化剤としては卵黄リン脂質(卵黄レシチン)が、それぞれ挙げられる。
【0032】
脂肪乳剤の調製に用いられる油脂および乳化剤の使用割合は、水中油型脂肪乳剤が得られる限り特に限定されない。通常、油脂は得られる脂肪乳剤中に0.1〜30W/V%(以下、特別な明示のない限り%はW/V%を示す)程度、好ましくは1〜20%程度となる割合で用いられる
。乳化剤は、得られる脂肪乳剤中に0.01〜10%程度、好ましくは0.05〜5%程度となる範
囲から用いられる。
【0033】
本発明において、脂肪乳剤の平均粒子径は0.17μm以下に調製するのが好ましい。この
粒子径とすることにより、従来の脂肪乳剤(平均粒子径0.2〜0.3μm)に比べ、安定性が高
められ、特に比重の相違に起因する脂肪乳剤の相分離を効果的に抑制できる。平均粒子径が0.17μm以下である脂肪乳剤は、本発明者の研究によれば、脂肪乳剤の調製時にグリセ
リンおよびブドウ糖からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加して乳化することによ
り容易に得ることができる。即ち、本発明者はグリセリンおよびブドウ糖に微粒子化を促進する特異的な作用があることを見出している。なお、脂肪乳剤の平均粒子径の測定は、光散乱法などの慣用の測定法に従って行うことができる。
【0034】
本発明に特に好適な脂肪乳剤の製法の一具体例は次の通りである。即ち、水に油脂および乳化剤を加えると共にグリセリンおよびブドウ糖から選ばれる少なくとも1種を加え、
その後、撹拌して粗乳化液を調製し、次いで粗乳化液を高圧乳化法などの慣用の方法により乳化する。上記高圧乳化法を採用する場合、該方法は、例えばマントンゴーリンホモジナイザーなどの乳化機を用いて、粗乳化液を20〜700Kg/cm2 程度の条件下に、2〜50回程
度、好ましくは5〜20回程度、通過させることにより行うことができる。尚、この方法に
おいて、グリセリンおよび/またはブドウ糖は乳化する際に存在すればよく、例えば、油脂と乳化剤とを用いて調製した粗乳化液にグリセリンおよび/またはブドウ糖を添加して乳化を行ってもよい。グリセリンおよび/またはブドウ糖の使用量は、通常、得られる脂肪乳剤が、グリセリンおよび/またはブドウ糖を30〜70%程度、好ましくは40〜60%程度含むものとするのが適当である。
【0035】
本発明副作用防止剤中には、特に必要ではないが、通常、脂肪乳剤中に添加配合できることの知られている各種の添加剤を更に添加配合することもできる。該添加剤としては、例えば、酸化防止剤、抗菌剤、pH調整剤、等張化剤などを挙げることができる。酸化防止剤には、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウムなどが含まれる。抗菌剤には、カプリル酸ナトリウム、安息香酸メチル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、亜硫酸水素ナトリウムなどが含まれる。pH調整剤には、塩酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが含まれる。等張化剤としては、グリセリン;ブドウ糖、果糖、マルトールなどの糖類;キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール類などが含まれる。これらの内、油溶性材料は、乳化液を構成する油性成分中に予め混合して利用することができる。水溶性材料は、注射用水に混合するか、または得られる脂肪乳剤の水相中に添加配合することができる。これらの添加配合量は、当業者に自明であり、従来知られているそれらの添加配合量と同様のものでよい。
【0036】
(2)本発明副作用防止剤を含む輸液組成物
本発明副作用防止剤を配合される輸液組成物は、糖、アミノ酸および電解質を含有する。
【0037】
輸液組成物において、糖としては各種糖類を用いることができる。その内でも還元糖が好適に用いられる。還元糖としては、例えばブドウ糖、果糖、マルトースなどが挙げられる。これらの還元糖は1種を単独で用い得ると共に、2種以上を混合して用いることもできる。更に、これらの還元糖は、ソルビトール、キシリトールなどと併用することもできる。
【0038】
アミノ酸としては、従来から生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に利用されている各種のアミノ酸(必須アミノ酸および非必須アミノ酸)を用いることができる。具体的には、例えばL-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、グリシン、L-アラニン、L-プロリン、L-アスパラギン酸、L-セリン、L-チロシン、L-グルタミン酸、L-システインなどが例示される。これらのアミノ酸は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いる必要はなく、無機酸塩(例えば、L-リジン塩酸塩など)、有機酸塩(例えば、L-リ
ジン酢酸塩、L-リジンリンゴ酸塩など)、生体内で加水分解可能なエステル体(例えば、L-チロシンメチルエステル、L-メチオニンメチルエステル、L-メチオニンエチルエステルなど)、N-置換体(例えば、N-アセチル-L-トリプトファン、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-プロリンなど)、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(例えば、L-チロシル-L-チロシン、L-アラニル-L-チロシン、L-アルギニル-L-チロシン、L-チロシル-L-アルギニンなど)などの形態で用いることもできる。
【0039】
電解質としては、従来から輸液に用いられている各種水溶性塩を用いることができる。該水溶性塩には、例えば、生体の機能、体液の電解質バランスなどを維持する上で必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛
、鉄、銅、マンガン、ヨウ素、リンなど)の水溶性塩が含まれる。具体的には、例えば塩
化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩などが含まれる。これらの水溶性塩は、水和物であってもよい。
【0040】
特に、電解質の一つであるリンの供給源として、多価アルコールまたは糖のリン酸エステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン成分を用いるのが好ま
しい。多価アルコールのリン酸エステルとしては、グリセロリン酸、マンニトール-1-リ
ン酸、ソルビトール-1-リン酸などが挙げられる。糖のリン酸エステルとしてはグルコー
ス-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、マンノース-6-リン酸などが挙げられる。これら
のリン酸エステルの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好適に用いられる。好ましいリン酸エステル塩としては、グリセロリン酸のナトリウム塩またはカリウム塩が挙げられる。
【0041】
電解質成分の好ましい態様としては、下記の化合物が挙げられる。
ナトリウム:
塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウムなど、
カリウム:
塩化カリウム、グリセロリン酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウムなど、
カルシウム:
グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、酢酸カルシウムなど、
マグネシウム:
硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムなど、
リン:
グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸マグネシウム、グリセロリン酸カルシウムなど、
亜鉛:
硫酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛など。
【0042】
本発明副作用防止剤を含む輸液組成物における糖、アミノ酸、電解質および脂肪乳剤の種類、配合割合および濃度は、調製される輸液の用途、これを投与する患者の疾患の程度、症状などに応じて適宜決定することができる。各成分の好ましい配合割合は、下記の範囲から選択される。
油脂5-50g/L
乳化剤0.5-10g/L
糖50-50g/L
L-イソロイシン0.5-5g/L
L-ロイシン0.5-7g/L
L-バリン0.5-5g/L
L-リジン0.5-7g/L
L-メチオニン0.1-4g/L
L-フェニルアラニン0.3-5g/L
L-トレオニン0.3-5g/L
L-トリプトファン0.1-1g/L
L-アルギニン0.3-7g/L
L-ヒスチジン0.2-3g/L
グリシン0.2-3g/L
L-アラニン0.3-5g/L
L-プロリン0.2-5g/L
L-アスパラギン酸0.03-2g/L
L-セリン0.2-3g/L
L-チロシン0.03-0.5g/L
L-グルタミン酸0.03-2g/L
L-システイン0.03-1g/L
ナトリウム15-60mEq/L
カリウム10-50mEq/L
カルシウム3-15mEq/L
マグネシウム2-10mEq/L
塩素0-80mEq/L
リン1-15mEq/L
亜鉛0-30μmol/L。
【0043】
本発明副作用防止剤を含む輸液組成物は、精製水(例えば注射用水など)に上記の各成分を溶解・分散させることにより調製できる。好ましい調製方法としては、糖輸液、アミノ酸輸液、電解質輸液および脂肪乳剤を個別に調製し、加熱滅菌などで滅菌した後、各成分が所望する濃度となるように、各輸液の適当量を無菌的に混合する方法を採用することができる。糖輸液、アミノ酸輸液、電解質輸液は常法に準じて調製することができ、また脂肪乳剤は前記の方法にて調製することができる。
【0044】
かくして調製された輸液は、ガラス容器、プラスチック(例えばポリプロピレン、ポリ
エチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルなど)製容器(例えばバッグ、ボトルなど)に充填し、次いで不活性ガス(例えば窒素ガス、ヘリウムガスなど)で置換し
、密封した後、滅菌工程に付すことにより滅菌されて製品とすることができる。滅菌は常法に準じて行うことができる。例えば高圧蒸気滅菌、熱水浸漬滅菌、熱水シャワー滅菌などの加熱滅菌法により行うことができる。プラスチック容器を用いる場合には、実質的に酸素を含まない雰囲気下で滅菌するのが好ましい。
【0045】
また、本発明に従い調製される輸液は、連通部に隔離手段を設けて遮断した2室を有す
る密閉容器の第1室に脂肪乳剤と糖とを含有する液を封入し、第2室にアミノ酸と電解質とを含有する液を封入した後、加熱滅菌した製品形態とすることもできる。この製品では、用時に隔離手段を取り除いて第1室と第2室とを連通させ、各室内液を混合することにより、所望の輸液を調製することができる。
【0046】
より具体的に説明すると、図1は上記製品の概略図である。図において、容器1はプラスチック材料などからなり、輸液を収容する第1室2と第2室3とを有している。第1室2と第2
室3は連通部4により連通することができる。即ち、第1室2と第2室3とは、連通部4に設け
られた弱シールなどの隔離手段によって隔離されている。この製品では、まず、ポート5
を介して脂肪乳剤と糖とを含有する液を第1室2に注入し、ポート6を介してアミノ酸と電
解質とを含有する液を第2室3に注入する。なお、第1室2および第2室3への各液の注入は不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴンガスなど)の気流下に行うのが好ましい。次いで、第1室2および第2室3に各液を注入後、ポート5および6をそれぞれ封止し、容器1を常法に従
い加熱滅菌することにより製品を得ることができる。滅菌された各液はその状態で保存することができる。この製品は、その用時に隔離手段を取り除いて第1室2と第2室3とを連通させ、それぞれに収容されている液を混合することによって、所望の輸液を調製することができる。かくして得られる輸液は、例えばポート7からチューブ(図示せず)を介して無
菌的に取り出し、生体に投与することができる。
【0047】
尚、上記製品において、第1室2に収容される脂肪乳剤と糖とを含有する液の調製は、種々の方法によりこれを行うことができる。例えば、前記した方法によって調製された脂肪乳剤に糖を添加して調製することができる。また、脂肪乳剤の調製時に糖を予め添加しておくことによっても、脂肪乳剤と糖とを含有する液を調製することができる。脂肪乳剤と糖とを含有する液は、第2室3に収容される液(即ち、アミノ酸と電解質とを含有する液)の濃度、第1室2と第2室3に注入する各液の容量比などによりその組成を適宜調整することができる。該脂肪乳剤と糖とを含有する液は、油脂0.1〜30%程度、好ましくは1〜20%程度、より好ましくは2〜10%程度、乳化剤0.01〜10%程度、好ましくは0.05〜5%程度、より好ま
しくは0.1〜1%程度、糖5〜60%程度、好ましくは7〜40%程度、より好ましくは10〜30%程度を含有する組成とされるのが一般的である。
【0048】
また、第2室3に収容されるアミノ酸と電解質とを含有する液は、種々の方法により調製することができる。該液は、例えば注射用水などの精製水に、各種アミノ酸および電解質を溶解することにより調製することができる。アミノ酸と電解質とを含有する液は、第1
室2に収容される液(即ち、脂肪乳剤と糖とを含有する輸液)の濃度、第1室2と第2室3に注
入する各液の容量比などに応じてその組成を適宜調整することができる。一般に該液は、アミノ酸総量1〜15%程度、好ましくは2〜13%程度、より好ましくは3〜12%程度、電解質として、ナトリウム50〜180mEq/L程度、カリウム40〜135mEq/L程度、カルシウム10〜50mEq/L程度、マグネシウム5〜30mEq/L程度、塩素0〜225mEq/L程度、リン3〜40mEq/L程度および亜鉛0〜100μmol/L程度を含有する組成のものとされる。
【0049】
上記のようにして調製される輸液製品における液性は特に限定されるものではないが、生体に対する安全性を考慮すると、pHは5.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.5に調整されるのが適当である。特に、リンの供給源として、多価アルコールまたは糖のリン酸エステルおよびその塩を用いる場合、比較的高いpHにおいても沈殿生成を効果的に抑制できる利点がある。輸液のpH調整に用いられるpH調整剤としては、生理的に許容できるものであれば特に限定されない。通常、該pH調整剤としては各種の酸が使用される。特に有機酸の利用は好ましい。該有機酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸などが挙げられる。これらの内でも特に2価金属イオンに対してキレート力を
有する有機酸は好ましい。最も好ましい有機酸はクエン酸である。pH調整剤は適宜な時期に輸液を構成する各液に添加することができる。例えば図1に示す製品においては、第1室の液もしくは第2室の液またはその両者にそれぞれpH調整剤を添加して、各液をそれぞれ
前記範囲のpHに調整しておくことができる。
【0050】
なお、輸液製品中には、該製品が滅菌時および保存時に着色するおそれを防止するために着色防止剤(例えば亜硫酸水素ナトリウム、チオグリセロール、ジチオスレイトールな
ど)を添加することもできる。該着色防止剤の添加量は、通常1%程度以下とされる。着色
防止剤は、例えば図1に示す製品においては、第1室内液もしくは第2室内液またはその両
方に添加することができる。
【0051】
更に、輸液製品中には、必要に応じてビタミン類(例えばビタミンA、ビタミンB類、ビ
タミンC、ビタミンD類、ビタミンE類、ビタミンK類など)などを適宜添加することもでき
る。これらのビタミン類も例えば図1に示す製品においては、第1室内液もしくは第2室内
液またはその両方に添加することができる。また、第1室に収容される液中には、L-ヒス
チジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなどの緩衝剤を添加することもできる。緩衝剤の添加量は、通常1%程度以下とされる。
【0052】
かくして、本発明によれば、良好な保存性を有し、沈殿生成、相分離、変質、着色などを生ずることなく、保存安定性の良好な、肝臓における薬物代謝酵素の活性低下を抑制された輸液製品を提供することができる。この製品は、そのままでもしくは水で希釈して、また単独でもしくは必要に応じて他の薬剤などと混合して患者に、経静脈投与される。更に経口、経腸などの投与形態での投与にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る薬物代謝酵素の活性低下副作用防止剤を配合された輸液を収容した製品の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げる。
【実施例1】
【0055】
肝臓における薬物代謝酵素P450の活性低下に関する試験
この例は、幼若ラットのTPNモデルを用いて糖(グルコース)負荷によるエネルギー過剰
投与下での薬物代謝酵素(P450)のmRNAレベルでの発現への影響、および脂肪の投与による影響を調べたものであり、以下の通り実施された。
<試験方法>
(1) 供試動物
供試動物としては、大下正晃、山口真理、土居和久、上田信彦、平岡功、嵩原裕夫、田代征記(静脈経腸栄養(第18回日本静脈経腸栄養学会抄録集)、Vol.18増刊号、91頁(2003年))に記載の幼若ラットのTPNモデル(3週齢雄性SD系ラット、体重60-70g)を用いた。
【0056】
(2) 本発明副作用防止剤を含む供試輸液(TPN液)
本発明副作用防止剤を含む供試輸液(TPN液)としては、大豆油を卵黄レシチンで乳化し
て調製した糖含有脂肪乳剤、並びにアミノ酸及び電解質を含有する輸液を利用した。それらの組成及び調製方法は次の通りである。
【0057】
糖含有脂肪乳剤
水500mLにブドウ糖300mLを溶解し、さらに精製大豆油39.6gおよび卵黄リン脂質(精製卵黄レシチン)5.702gを加え、混合物をホモミキサーにより粗乳化した後、水を加えて全量
を600mLとし、粗乳化液を得た。得られた粗乳化液をマントンゴーリンホモジナイザー(ゴーリン社製、15M-8TA型)により平均粒子径が0.17μm以下になるまで乳化して乳剤を得た
。得られた乳剤300mLに水および添加物としてL-ヒスチジン0.06gを加えて全量を600mLと
した。また、塩酸にて最終液pHを4.9〜6.1に調整した。
【0058】
アミノ酸および電解質を含有する輸液
約80℃に加温した注射用水に、窒素気流下に、以下に示す各アミノ酸及び電解質をそれぞれ所定濃度となるように添加して溶解させ、得られた液300mLに亜硫酸水素ナトリウム15mgを添加後、液pHをクエン酸にて6.2に調整して、アミノ酸・電解質輸液を調製した。
【0059】
アミノ酸・電解質輸液組成(300mL中)
L-ロイシン 4.200g
L-イソロイシン 2.400g
L-バリン 2.400g
L-リジン 2.4g
L-メチオニン 1.200g
L-フェニルアラニン 2.400g
L-トレオニン 1.800g
L-トリプトファン 0.360g
L-アルギニン 3.150g
L-ヒスチジン 1.500g
グリシン 1.590g
L-アラニン 2.550g
L-プロリン 1.800g
L-アスパラギン酸 0.450g
L-セリン 0.900g
L-チロシン 0.150g
L-グルタミン酸 0.450g
L-システイン 0.223g
塩化ナトリウム 0.585g
塩化カリウム 1.050g
グルコン酸カルシウム 1.906g
硫酸マグネシウム 0.616g
グリセロリン酸カリウム50%液 3.206g
無水酢酸ナトリウム 2.051g
硫酸亜鉛 2.876mg
亜硫酸ナトリウム 15mg。
【0060】
供試輸液(TPN液)の調製
上記の糖含有脂肪乳剤とアミノ酸及び電解質を含有する輸液を混合し、更に総合ビタミン剤(商品名:「オーツカMV注」)0.9mLを添加して、本発明副作用防止剤を含む供試輸液(TPN液)を調製した。
【0061】
尚、比較のため、本発明副作用防止剤を配合することなく、その代わりに本発明副作用防止剤の脂肪成分による熱量と同量の熱量が得られるようにブドウ糖を増量した比較輸液(TPN液)を、以下の通り調製した。即ち、水に以下の各成分(全量900mLに対する量)を添加し、さらに総合ビタミン剤(商品名:「オーツカMV注」)0.9mLを添加した。
【0062】
ブドウ糖 194.6g
L-ロイシン 4.2g
L-イソロイシン 2.4g
L-バリン 2.4g
酢酸L-リジン 4.44g
L-トレオニン 1.71g
L-トリプトファン 0.6g
L-メチオニン 1.17g
L-フェニルアラニン 2.1g
L-システイン 0.3g
L-チロシン 0.15g
L-アルギニン 3.15g
L-ヒスチジン 1.5g
L-アラニン 2.4g
L-プロリン 1.5g
L-セリン 0.9g
アミノ酢酸 1.77g
L-アスパラギン酸 0.3g
L-グルタミン酸 0.3g
酢酸カリウム 1.08g
グルコン酸カルシウム 1.87g
硫酸マグネシウム 0.62g
リン酸二水素カリウム 0.55g
硫酸亜鉛 3.0g
塩化ナトリウム 1.99g
塩化カリウム 0.89g
かくして得られた各輸液の組成をまとめると次表の通りである。
【0063】
【表1】

【0064】
(3) 実験方法
3週齢のSD系雄性ラット(体重60〜70g)を5匹、5匹および4匹の3群に分けた。その内の1
群(本発明群、5匹)および2群(比較群、4匹)の各ラットには、エーテル麻酔下に中心静脈
カテーテルを留置し、4日間に亘って以下のTPN投与を行った。TPN液としては、1群では前記(2)で調製した本発明副作用防止剤を含む供試輸液を利用した。2群では比較輸液を利用した。また、3群(対照群、5匹)の各ラットには、餌としてCRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社、脂肪含量約15%)と水を自由摂取させた。尚、TPN投与を行う実験動物は投与開始
日の前日から一夜絶食させておいた。
【0065】
TPN投与群(1群および2群)における投与熱量は、900kcal/Lである。またTPN液の投与速
度は3mL/kg/hrで開始し、その後半日毎に10、20、30mL/kg/hrと増量し、3日目以降は40mL/kg/hrとした。
【0066】
(4) Total RNAの調製
4日間の実験期間の終了後、各群ラットから肝臓を採取した。各ラットの肝臓の同一部
位より約10 mgを採取し、この肝臓片からQIAshredder(キアゲン株式会社)およびRneasy Mini Kit(キアゲン株式会社)を用いて、以下の通りTotalRNAを抽出した。なお、抽出操作
は全て室温で行った。
【0067】
即ち、β-メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.)を含むRLT溶液(RLT溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給):β-メルカプトエタノール=100:1)を1mLずつ試験管に入れ
、その中に採取した肝臓約10mgを入れてホモジナイズした。得られたホモジネートの400
μLを、QIAshredder column(キアゲン株式会社)に添加し、15,000回転/分で2分間遠心した。溶出液350μLを分取し、このものに等量の70%エタノール溶液を添加した。10秒間、3回試験管ミキサーを用いて攪拌後、RNeasy Mini spin column(キアゲン株式会社)に全量を添加し、12,000回転/分で30秒間遠心し、Collection tube内の溶出液を吸引除去した
。RNeasy Mini spin column内に700μLのRW1溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給)を添加し、12,000回転/分で30秒間遠心後、Collection tubeを取りかえた。RNeasy Mini spin column内に500μLのRPE溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給)を添加し、12,000回転
/分で30秒間遠心後、Collection tube内の溶出液を吸引除去した。RNeasy Mini spin column内に500μLのRPE溶液を添加し、15,000回転/分で2分間遠心後、1.5mLのCollection
tubeに交換し、RNeasy Mini spin column内に50μLのRnase free water(RNeasy Mini Kit
(50)として供給)を添加し、10,000回転/分で1分間遠心してtotal RNAを溶出させた。
【0068】
かくして得られたTotal RNAの濃度を、そのOD260測定結果から算出した。引き続く実験には、OD260/OD280から求めた純度が1.6-1.7のTotal RNAを利用した。
【0069】
上記Total RNAは、50μg/mLのYeast tRNA液を用いて希釈して、その濃度を5μg/mLに調製した。なお、50μg/mLのYeast tRNA液は、Yeast tRNA(GIBCO BRL)をDistilled water(
和光純薬工業株式会社)に溶解して調製した。
【0070】
(5) mRNAの測定
前記(4)で調製したTotal RNA試料について、ABI PRISMTM7700 Sequence Detection Systemを利用して、ハウスキーピング遺伝子(β-actin)および薬物代謝酵素(P450)のmRNAを
定量した。定量はリアルタイム定量法(Real-time quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction; RT-PCR)により行った。
【0071】
薬物代謝酵素(P450)のmRNAとしては、以下の分子種を選択した。
CYP1A2、CYP2A2、CYP2B2、CYP2C11、CYP2D1、CYP2D2、CYP2E1、CYP3A1、CYP3A2およびCYP4A1
RT-PCRは、300nM Forward Primer、900nM Reverse Primerおよび200nM TaqMan Probeを含むTaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents Kit (Applied Biosystems)を用いて
、50μL/tubeの系で行った。温度条件は、48℃で30分間、その後95℃で10分間保温した後、95℃で15秒間、60℃で1分間のサイクルを40回行い、サイクルごとに蛍光強度を測定し
た。
【0072】
なお、反応溶液はMicro Amp Optical 96-well Plate (Applied Biosystems)を、かばーはOptical Adhesive Covers (Applied Biosystem)を、カバーの上に載せるパットはOptica; Cover Compression Pads (Applied Biosystem)を、それぞれ用いた。
【0073】
各mRNAの定量のために用いたプライマーとプローブとの塩基配列、各分子種のGeneBankアクセッション番号およびそれに従う開始コドンからの位置を下記表2に示す。尚、各プ
ライマーおよびプローブは、常法に従い自動合成機を利用して合成した。
【0074】
【表2】

【0075】
(6) 計算方法および統計処理
β-actinのmRNAを内在性コントロールとして、各P450分子種のmRNAの定量値をΔCt法に従って算出した結果を、平均値±標準偏差により、下記表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
(7) 結果および考察
表3に示される結果より、以下のことが明らかである。即ち、比較群におけるCYP1A2のmRNA発現量は対照群を基準(100%)として1%以下(0.76%)に低下したのに対して、本発明群
では同CYP1A2のmRNA発現量は約40%維持されている。P450の他の分子種においても程度の差はあるが、比較群では対照群と比較して約1.3%から31%にまで低下したのに対して、
本発明群では約32%から84%が維持されている。このことから、本発明群は、脂肪乳剤の利用に基づいて、薬物代謝酵素であるP450の活性低下を有意に抑制できることが明らかである。
【実施例2】
【0078】
肝臓における脂肪酸酸化に関与するβ酸化酵素およびその関連酵素の活性低下に関する試験
この試験は、実施例1と同様にして、本発明副作用防止剤を含む供試輸液を利用して、
幼若ラットのTPNモデルを用いて糖(グルコース)負荷によるエネルギー過剰投与下でのβ
酸化酵素およびその関連酵素のmRNAレベルでの発現への影響、および脂肪の投与による影響を調べたものであり、以下の通り実施された。
【0079】
(1) 実験方法
3週齢のSD系雄性ラット(体重60〜70g)を8匹、6匹および7匹の3群に分けた。その内の1
群(本発明群、7匹)および2群(比較群、6匹)の各ラットには、エーテル麻酔下に中心静脈
カテーテルを留置し、4日間に亘って以下のTPN投与を行った。TPN液としては、1群では実施例1の(2)と同様にして調製した表1に示す組成の本発明副作用防止剤を含む供試輸液を
利用した。2群では同表1に示す比較輸液を利用した。また、3群(対照群、8匹)の各ラットには、餌としてCRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社、脂肪含量約15%)と水を自由摂取させた。尚、TPN投与を行う実験動物は投与開始日の前日から一夜絶食させておいた。
【0080】
TPN投与群(1群および2群)における投与熱量は、900kcal/Lである。またTPN液の投与速
度は3mL/kg/hrで開始し、その後、半日毎に10、20、30mL/kg/hrと増量し、3日目以降は40mL/kg/hrとした。
【0081】
(2) Total RNAの調製
4日間の実験期間の終了後、各群ラットから肝臓を採取した。各ラットの肝臓の同一部
位より約10 mgを採取し、この肝臓片からQIAshredder(キアゲン株式会社)およびRneasy M
ini Kit(キアゲン株式会社)を用いて、以下の通りTotalRNAを抽出した。なお、抽出操作
は全て室温で行った。
【0082】
即ち、β-メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.)を含むRLT溶液(RLT溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給):β-メルカプトエタノール=100:1)を1mLずつ試験管に入れ
、その中に採取した肝臓約10mgを入れてホモジナイズした。得られたホモジネートの400
μLを、QIAshredder column(キアゲン株式会社)に添加し、15,000回転/分で2分間遠心した。溶出液350μLを分取し、このものに等量の70%エタノール溶液を添加した。10秒間、3回試験管ミキサーを用いて攪拌後、RNeasy Mini spin column(キアゲン株式会社)に全量を添加し、12,000回転/分で30秒間遠心し、Collection tube内の溶出液を吸引除去した
。RNeasy Mini spin column内に700μLのRW1溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給)を添加し、12,000回転/分で30秒間遠心後、Collection tubeを取りかえた。RNeasy Mini spin column内に500μLのRPE溶液(RNeasy Mini Kit (50)として供給)を添加し、12,000回転
/分で30秒間遠心後、Collection tube内の溶出液を吸引除去した。RNeasy Mini spin column内に500μLのRPE溶液を添加し、15,000回転/分で2分間遠心後、1.5mLのCollection tubeに交換し、RNeasy Mini spin column内に50μLのRnase free water(RNeasy Mini Kit
(50)として供給)を添加し、10,000回転/分で1分間遠心してtotal RNAを溶出させた。
【0083】
かくして得られたTotal RNAの濃度を、そのOD260測定結果から算出した。引き続く実験には、OD260/OD280から求めた純度が1.6-1.7のTotal RNAを利用した。
【0084】
上記Total RNAは、50μg/mLのYeast tRNA液を用いて希釈して、その濃度を5μg/mLに調製した。なお、50μg/mLのYeast tRNA液は、Yeast tRNA(GIBCO BRL)をDistilled water(
和光純薬工業株式会社)に溶解して調製した。
【0085】
(3) mRNAの測定
前記(4)で調製したTotal RNA試料について、ABI PRISMTM7700 Sequence Detection Systemを利用して、ハウスキーピング遺伝子(β-actin)、および次に示す脂肪酸のβ酸化酵
素およびこれに関連する酵素のmRNAを定量した。定量はリアルタイム定量法(Real-time quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction; RT-PCR)により行った。
<脂肪酸のβ酸化酵素>
SCAD (Short-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase)、
MCAD (Medium-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase)、
LCAD (Long-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase)、
VLCAD (Very long-chain acyl-Coenzyme A dehydrogenase)、
ECH (Enoyl-Coenzyme A hydratase)、
HAD (3-Hydroxyacyl coenzyme A dehydrogenase)またはHADHSC (L-3-Hydroxyacyl-Coenzyme A dehydrogenase, short chain)、
HADHB (Hydroxyacyl-Coenzyme A dehydrogenase)、および
ACAA2 (Acetyl-Coenzyme acyltransferase 2,別名:3-Oxoacyl Coenzyme thiolase)。
<脂肪酸のβ酸化に関連する酵素>
LC-ACS (Long-chain acyl-Coenzyme A synthetase, 別名:Fatty acid Coenzyme A ligase, long chain 2(Facl2))、
CPTI (Carnitine palmitoyltransferase I)、および
CPTII (Carnitine palmitoyltransferase II)。
【0086】
RT-PCRは、300nM Forward Primer、900nM Reverse Primerおよび200nM TaqMan Probeを
含むTaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents Kit (Applied Biosystems)を用いて
、50μL/tubeの系で行った。温度条件は、48℃で30分間、その後95℃で10分間保温した後
、95℃で15秒間、60℃で1分間のサイクルを40回行い、サイクルごとに蛍光強度を測定し
た。
【0087】
なお、反応溶液はMicro Amp Optical 96-well Plate (Applied Biosystems)を、かばーはOptical Adhesive Covers (Applied Biosystem)を、カバーの上に載せるパットはOptica; Cover Compression Pads (Applied Biosystem)を、それぞれ用いた。
【0088】
各mRNAの定量のために用いたプライマーとプローブとの塩基配列、各分子種のGeneBankアクセッション番号およびそれに従う開始コドンからの位置を下記表4に示す。尚、各プ
ライマーおよびプローブは、常法に従い自動合成機を利用して合成した。
【0089】
【表4】

【0090】
(4) 計算方法および統計処理
β-actinのmRNAを内在性コントロールとして、各酵素のmRNAの定量値をΔCt法に従って
算出した結果を、平均値±標準偏差により、下記表5に示す。
【0091】
【表5】

【0092】
(5) 結果および考察
表5に示される結果より、以下のことが明らかである。即ち、比較群におけるLC-ACSのmRNA発現量は対照群を基準(100%)として29%に低下したのに対して、本発明群では約124%維持されている。また他の酵素ではCPTI, CPTII, SCAD, MCAD, VLCAD, ECH, HAD, Hadhb
およびACAA2の発現量が、比較群で対照群と比較してそれぞれ、55、72、42、18、51、52
、42、17、67、232%にまで低下したのに対して、本発明群ではそれぞれ74、134、138、73、103、131、97、126、160、96%に維持されている。このことから、本発明群は、脂肪
乳剤の利用に基づいて、脂肪酸のβ酸化酵素およびこれに関連する酵素の活性低下を有意に抑制できることが明らかである。
【実施例3】
【0093】
ABCトランスポーターの過剰発現に関する試験
この例は、実施例2と同様にして、本発明副作用防止剤を含む供試輸液を利用して、幼
若ラットのTPNモデルを用いて糖(グルコース)負荷によるエネルギー過剰投与下でのTPN投与を行った供試ラットから調製したTotal RNA試料について、ABI PRISMTM7700 Sequence Detection Systemを利用して、次に示すABCトランスポーターのmRNAレベルでの発現への
影響、および脂肪の投与による影響を調べたものであり、以下のリアルタイム定量法(Real-time quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction; RT-PCR)を利
用して実施された。
<ABCトランスポーター>
ABCB1 (MDR1/Pgp1)、
ABCC1 (MRP1)、および
ABCC5a (MRP5)。
【0094】
各mRNAの定量のために用いたプライマーとプローブとの塩基配列、各分子種のGeneBankアクセッション番号およびそれに従う開始コドンからの位置を下記表6に示す。尚、各プ
ライマーおよびプローブは、常法に従い自動合成機を利用して合成した。
【0095】
【表6】

【0096】
β-actinのmRNAを内在性コントロールとして、各酵素のmRNAの定量値をΔCt法に従って算出した結果を、平均値±標準偏差により、下記表7に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
表7に示される結果より、以下のことが明らかである。即ち、比較群におけるABCB1のmRNA発現量は対照群を基準(100%)として1582%に上昇したのに対して、本発明群では約61%の発現量となり、その上昇(過剰発現)は見られなかった。ABCC1およびABCC5aの発現量
も、比較群では対照群と比較してそれぞれ144%および201%に上昇したのに対して、本発
明群では91%および97%に維持されており、上昇は認められなかった。
【0099】
このことから、本発明群は、脂肪乳剤の利用に基づいて、ABCトランスポーターの過剰
発現を有意に抑制できることが明らかである。
【符号の説明】
【0100】
1 容器
2 第1室
3 第2室
4 連通部
5,6,7 ポート
【配列表フリーテキスト】
【0101】
他の情報の内容:
配列番号:1, 2, 4, 5, 7, 8, 10, 11, 13, 14, 16, 17, 19, 20, 22, 23, 25, 26, 28, 29, 31, 32, 34, 35, 37, 38, 40, 41, 43, 44, 46, 47, 49, 50, 52, 53, 55, 56, 58, 59, 61, 62, 64, 65, 67, 68, 70, 71, 73および74はプライマー配列であり、配列番号:3, 6, 9, 12, 15, 18, 21, 24, 27, 30, 33, 36, 39, 42, 45, 48, 51, 54, 57, 60, 63,
66, 69, 72および75はプローブ配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖、アミノ酸および電解質を含有する輸液組成物の投与によって起こる肝臓における薬物代謝酵素の活性低下を抑制するために該輸液組成物に配合される、脂肪乳剤からなることを特徴とする薬物代謝酵素活性低下抑制剤。
【請求項2】
脂肪乳剤が、卵黄レシチンを乳化剤として用いて大豆油を乳化して得られるものである請求項1に記載の薬物代謝酵素活性低下抑制剤。
【請求項3】
脂肪乳剤が、平均粒子径0.17μm以下である請求項1又は2に記載の薬物代謝酵素活性低下抑制剤。
【請求項4】
薬物代謝酵素がチトクロムP450である、請求項1〜3のいずれかに記載の薬物代謝酵素活性低下抑制剤。
【請求項5】
輸液組成物が、更に多価アルコールまたは糖のリン酸エステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン成分を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の薬物代謝酵素活性低下抑制剤。
【請求項6】
輸液組成物が、更に亜硫酸水素ナトリウム、チオグリセロールおよびジチオスレイトールからなる群から選択される少なくとも1種の着色防止剤を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の薬物代謝酵素活性低下抑制剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−270161(P2010−270161A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203288(P2010−203288)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願2004−168608(P2004−168608)の分割
【原出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】