説明

農作物洗浄装置

【課題】洗浄溶媒として水を使用した場合であっても、難水溶性の農薬を含めて農作物に付着した残留農薬を除去することが可能な農作物洗浄装置を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る農作物洗浄装置1は、筐体10と、筐体10の上部に設置された水槽12と、水槽12内の洗浄水を超音波振動させるための複数の超音波振動子からなる超音波振動部15と、内部に農作物を保持して水槽12内に設置される網状の洗浄カゴ30と、洗浄装置1全体を制御する制御部40とを備えている。制御部40は、超音波振動部15を40〜150kHzの周波数で振動させ、洗浄水中にラジカルを発生させて農作物を超音波洗浄するように制御する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物を洗浄する農作物洗浄装置に関し、特に、農作物に付着した残留農薬を除去するのに適した農作物洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食への安心・安全に対する関心が高まっているが、ポジティブリスト制(基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度)が施行されて以来、輸入品、国産品を問わず、農作物の残留農薬が基準値を超過しているケースが多発している。
【0003】
このため、基準値を下回る安全なレベルまで農作物に付着した残留農薬を確実に除去することが望まれているが、ブラッシング洗浄等、農作物を直接擦って洗浄する方法では農作物の表面を痛めてしまうおそれがあり、表面形状が複雑な農作物の場合には、擦り洗い自体が困難である。
【0004】
このような問題に鑑み、下記特許文献1では、容器内の洗浄液中に農作物を浸漬させた状態で洗浄液を超音波振動させ、超音波洗浄により残留農薬を除去する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−321021号公報
【0005】
一方、農薬には何百種類もの農薬が存在し、易水溶性のものから難水溶性のものまで存在する。このような種々の農薬を除去するために、上記特許文献1においては、農作物を浸漬する洗浄液(溶媒)として水に中性洗剤を添加したものを用いている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1のように洗浄溶媒として中性洗剤を添加した水を使用すると、洗浄後の農作物に中性洗剤が付着してしまい好ましくない。また、安全・安心を確保するためには、中性洗剤を洗い流す工程が別途必要となってしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、洗浄溶媒として水を使用した場合であっても、難水溶性の農薬を含めて農作物に付着した残留農薬を除去することが可能な農作物洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る農作物洗浄装置は、農作物を洗浄する農作物洗浄装置において、農作物が浸漬される洗浄水を溜めておく水槽と、前記水槽の周囲に設置され、前記水槽内の前記洗浄水を超音波振動させる超音波振動部と、前記超音波振動部を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記超音波振動部を40〜150kHzの周波数で振動させ、前記洗浄水中にラジカルを発生させて農作物を超音波洗浄するように制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る農作物洗浄方法は、農作物を洗浄して残留農薬を除去する農作物洗浄方法において、農作物を洗浄水内に浸漬する工程と、前記洗浄水を40〜150kHzの周波数で超音波振動させ、前記洗浄水中にラジカルを発生させて農作物を超音波洗浄する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る農作物洗浄装置によれば、洗浄溶媒として水を使用した場合であっても、難水溶性農薬を含めて農作物に付着した残留農薬を十分に安全なレベルまで除去することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る農作物洗浄装置の構成を概略的に示すイメージ図である。同図に示すように、本実施形態に係る農作物洗浄装置1は、筐体10と、筐体10の上部に設置された水槽12と、水槽12内の洗浄水を超音波振動させるための複数の超音波振動子からなる超音波振動部15と、内部に農作物を保持して水槽12内に設置される網状の洗浄カゴ30と、洗浄装置1全体を制御する制御部40とを備えている。
【0012】
水槽12内には、被洗浄物である野菜や果物等の農作物50を内部に格納して洗浄水に浸漬するための網状の金属製洗浄カゴ30が着脱可能に設置される。また、水槽12には、水槽12内に洗浄水を供給するための給水口20、水槽12内の洗浄水を排水するための排水口25、水槽12内の溜められた洗浄水が所定の水位以上にならないようにオーバーフロー排水するためのオーバーフロー排水口28が設置されている。
【0013】
図2は、水槽12の平面図であり、給水口20、排水口25及びオーバーフロー排水口28の設置位置を示している。図1に示すように、給水口20は水槽12の図中左側の下部であって、図2に示すように、手前側の位置に設置されている。また、給水口20には、エジェクター式のマイクロバブル発生ノズル21が接続されており、給水と共に給水口20から水槽12内にマイクロバブルを供給可能である。
【0014】
マイクロバブル発生ノズル21は、給水弁22を介して給水ラインに接続されており、吸気口23を介して取り込んだ空気を噴射される給水に取り込んで、洗浄水内に数十〜数百ミクロンのマイクロバブルを発生させる。なお、本実施形態では、洗浄水として水を用いている。
【0015】
図1に示すように、排水口25は、水槽12の図中右側の底面であって、図2に示すように、奥側に設置されている。また、排水口25は、水位制御弁26を介して排水ラインに接続されており、制御部40の制御によって水位制御弁26を開閉することで、水槽12の洗浄水の水位や排水を制御可能に構成されている。
【0016】
図1に示すように、オーバーフロー排水口28は、水槽12の図中左側の上部であって、図2に示すように、奥側に設置されている。上述したように、給水口20が下部の左側手前部分に設置されているので、給水時には、図2に矢印で示すように、反時計回りの水流が生じる。そして、オーバーフロー排水口28が上部の左側奥側部分に設置されているので、水槽12内に洗浄水が満たされてオーバーフロー排水される際には、反時計回りに廻りながら上昇する水流が水槽12内に発生する。
【0017】
超音波振動部15は、円形の超音波振動子を12個並べて構成されており、制御部40の制御により、各振動子は所定の周波数で超音波振動される。本実施形態に係る農作物洗浄装置1は、所定の周波数を用いた超音波洗浄により農作物50に付着した残留農薬を除去することを特徴としている。
【0018】
ここで、本実施形態に係る超音波振動部15の振動周波数について詳細に説明する。農薬には難水溶性(油に近い性質)の農薬が数多く存在し、洗浄溶媒として水を用いた場合には、これら難水溶性の農薬を簡単に除去できない。これに対して、本発明者は、実験により、所定の周波数で洗浄水を超音波振動させることで洗浄水中にラジカルを発生させれば、難水溶性の農薬を除去できるという知見を得た。
【0019】
これは、水が所定の周波数で超音波振動することでフリーラジカルであるヒドロキシルラジカル(OHラジカル)が発生し、この反応性の高いヒドロキシルラジカルが残留農薬にアタックすることで、難水溶性の残留農薬に親水基が形成されて水に溶けやすくなるためであると考えられる。
【0020】
そこで、本発明者は、どの周波数帯においてラジカルが発生するのかを確認するために、複数の周波数の超音波を水に照射した際のそれぞれの過酸化水素の発生量[ppb]測定する実験1を行った。下記表1は、実験1の実験結果を示している。なお、ラジカルは不安定で短寿命なため直接測定するのは困難である。よって、実験1では、2つのヒドロキシルラジカルが結合してできる過酸化水素の発生量を測定することで、間接的にヒドロキシルラジカルの発生量を測定している。
【0021】
【表1】

【0022】
実験1では、周波数が25kHz、40kHz、45kHz、60kHz、75kHz及び100kHzで、超音波強度0.5W/cm2の超音波を、それぞれ照射時間10分、30分、60分照射した場合の過酸化水素の発生量を測定している。表1に示すように、25kHzでは、過酸化水素は発生していないが、40kHz以上では過酸化水素が発生しており、周波数が40kHzよりも高くなるにつれて、その発生量も多くなっている。よって、難水溶性の残留農薬の除去だけを考慮すれば、少なくとも40kHz以上の超音波を照射することが望ましい。
【0023】
一方、易水溶性の残留農薬を洗い落とすだけであれば、キャビテーションを多く発生させれば良く、キャビテーションを発生させるために適した周波数は、上記ラジカルを発生させるのに適した周波数とは異なると想定される。
【0024】
そこで、本発明者は、易水溶性の残留農薬及び難水溶性の残留農薬の双方の除去に適した周波数を求めるために、易水溶性農薬及び難水溶性農薬の双方が付着した農作物に対して複数の周波数の超音波を照射して洗浄した際のそれぞれの周波数の農薬除去率[%]を求める実験2を行った。下記表2は、実験2の実験結果を示している。
【0025】
【表2】

【0026】
実験2では、実際にモデル試験を行っており、希釈した農薬に浸した農作物の洗浄前と洗浄後の残留農薬を分析し、その濃度変化から除去率を算出した。また、実験2では、周波数が20kHz、25kHz、38kHz、45kHz、60kHz、75kHz、100kHz及び150kHzで、超音波強度0.75W/cm2の超音波を、10分間照射した場合の農薬除去率を求めている。
【0027】
なお、実験2においては、農作物はイチゴとトマトを使用し、易水溶性農薬としてはアセタミプリド(イチゴ)、中水溶性農薬としてはクロロタロニル(トマト)及びアゾキシストロビン(イチゴ)、難水溶性農薬としてはピリダリル(イチゴ)を使用した。
【0028】
表2に示すように、易水溶性農薬は全ての周波数帯域において良好に除去されているが、25kHzや38kHz等の比較的に低い周波数においてより高い除去率を示している。中水溶性農薬も全ての周波数帯域において良好に除去されているが、38kHz、45kHzや60kHz等の中間の周波数においてより高い除去率を示している。また、難水溶性農薬は、ラジカルの発生する38kHzよりも高い周波数帯域においてのみ除去されており、100kHzや150kHz等の比較的に高い周波数においてより高い除去率を示している。
【0029】
実験1及び実験2の結果を鑑みると、難水溶性農薬を除去しつつ易水溶性及び中水溶性の農薬の除去も実現するためには、ラジカルの発生する周波数帯域である40〜150kHzの超音波を用いて超音波洗浄するのが望ましい。
【0030】
以上、本実施形態に係る農作物洗浄装置の構成について詳細に説明したが、続いて、この農作物洗浄装置による洗浄方法の一例である洗浄例1について説明する。
(1)洗浄例1
本洗浄例1では、ラジカルの発生する周波数帯域である40〜150kHzの中から選択された所定の周波数、例えば、40kHzの超音波を照射して農作物の超音波洗浄を行う。
【0031】
具体的には、制御部40の制御により、給水口20からマイクロバブルを含んだ水を、水槽12内に供給すると共に、被洗浄物である農作物50を格納した洗浄カゴ30を水槽12内に設置する。洗浄水の水位がオーバーフロー排水口28の高さまで来るとオーバーフロー分がオーバーフロー排水口28から排水される。
【0032】
そして、超音波振動部15を40kHzで駆動することで40kHzの超音波を洗浄水に照射しながら、例えば、10分間超音波洗浄を行って洗浄を終了する。この間、給水は続けられており、オーバーフローによる排水も続けられる。
【0033】
本洗浄例1によれば、40kHzの超音波を照射して超音波洗浄を行うので、上述したようにラジカルを発生させて難水溶性農薬を水に溶かしつつ、キャビテーションの発生により易水溶性及び中水溶性の農薬も含めて農作物から農薬を除去することができる。
【0034】
また、本洗浄例1では、マイクロバブル発生ノズル21により給水口20から数十〜数百ミクロンのマイクロバブルを含んだ水が供給されるため、超音波によるキャビテーションの発生に加えてより多くの微細気泡が発生するので、農作物に付着したより多くの汚れ(残留農薬等)を除去することができる。農作物の表面にはミクロンオーダーの凹凸があり複雑な形状をしているので、マイクロバブルやナノバブルが必要であり、また超音波のキャビティを利用したミクロンオーダーでの精密な洗浄が必要である。
【0035】
また、本洗浄例1では、洗浄中も給水及びオーバーフロー排水を続けており、水槽12の下部に設けられた給水口20から供給される洗浄水が、離れた位置にある水槽12の上部に設けられたオーバーフロー排水口28まで移動して排水される。よって、農産物50から除去された農薬を水槽12内に滞留させることなくオーバーフロー排水口28から排出させることができ、いわゆるすすぎにより洗浄水の汚れを防止して、より効率的に残留農薬の除去を行うことができる。
【0036】
もちろん、本洗浄例1において、洗浄周波数は40〜150kHzの間で適宜変更可能であり、洗浄時間も適宜変更可能である。また、給水口20からの給水が、マイクロバブルを発生しない通常の水の給水である場合や、オーバーフローさせないように洗浄中は給水を停止するようにした場合であっても、十分に残留農薬を除去可能である。
【0037】
次に、2つの異なる周波数を組み合わせて超音波洗浄を行う場合について検討する。2つの異なる周波数を用いれば、ラジカルの発生に適した周波数とキャビテーションの発生に適した周波数との双方を選択することができるので、より確実に残留農薬を除去することができるようになる。
【0038】
表3に、2つの周波数を組み合わせて超音波洗浄を行った場合の中水溶性農薬の除去率を求める実験3の実験結果を示す。実験3では、上記実験2と同様にモデル試験を行い、農作物としてトマト、中水溶性の農薬としてクロロタロニルを用いている。周波数の組み合わせとしては、25kHzと45kHz、25kHzと60kHz、45kHzと60kHz、25kHzと100kHz、45kHzと100kHz、60kHzと100kHz、75kHzと100kHz、45kHzと150kHz及び75kHzと150kHzについて実験を行った。また、それぞれの周波数で5分ずつ、超音波強度0.75W/cm2の超音波を照射した。
【表3】

【0039】
表3によれば、ほぼ全ての組み合わせにおいて、良好に中水溶性農薬が除去されているが、2つの周波数が75kHz以上の組み合わせ(75kHzと100kHz、75kHzと150kHz)では、他の組み合わせと比較して除去率が低くなっている。これは、汚れを除去するためのキャビテーションの発生が少ないためと考察されるので、2つの周波数を組み合わせる場合には、キャビテーションの発生を考慮して、少なくとも1つの周波数は60kHz以下とすることが望ましい。なお、表2に示すように20kHz以上の周波数であれば十分なキャビテーションを発生することが可能である。
【0040】
また、難水溶性の農薬除去を考慮すると、上述したように比較的に高い周波数帯の超音波を用いることが望ましい。よって、もう1つの周波数は、ラジカルの発生を考慮して、40kHz以上の周波数を用いることが望ましく、さらに望ましくは、60kHz以上の周波数を用いると良い。このような点を踏まえて、本実施形態に係る農作物洗浄装置による、2つの周波数を用いる洗浄方法の一例(洗浄例2)について説明する。
【0041】
(2)洗浄例2
本洗浄例2では、キャビテーションの発生を考慮した周波数帯域である20〜60kHzの中から選択された第1周波数の超音波と、ラジカルの発生を考慮した周波数帯域である40〜150kHzの中から選択された第2周波数の超音波との組み合わせにより超音波洗浄を行う。例えば、第1周波数として45kHz、第2周波数として100kHzが選択される。
【0042】
具体的には、制御部40の制御により、給水口20からマイクロバブルを含んだ水を水槽12内に供給すると共に、被洗浄物である農作物50を格納した洗浄カゴ30を水槽12内に設置する。洗浄水の水位がオーバーフロー排水口28の高さまで来るとオーバーフロー分がオーバーフロー排水口28から排水される。
【0043】
そして、超音波振動部15を45kHzの第1周波数で駆動することで45kHzの超音波を照射しながら5分間超音波洗浄を行い、その後、同様に5分間、100kHzの第2周波数による超音波洗浄を行う。なお、上記洗浄例1と同様に、これら洗浄の間も給水及びオーバーフロー排水が行われる。
【0044】
本洗浄例2によれば、第1周波数により、多くのキャビテーションを発生させて易水溶性及び中水溶性の残留農薬を除去すると共に、第2周波数により、多くのラジカルを発生させて難水溶性の残留農薬を除去することができるので、農作物に付着した農薬の種類を問わず、十分な洗浄を行うことが可能となる。
【0045】
また、水槽12内の洗浄水に超音波を照射すると、水中に周波数に応じた定在波が生じ、1/4波長毎に腹と節ができるため、節の部分では汚れが落ちにくくなってしまう。このため、洗浄ムラが生じてしまうが、本洗浄例2のように複数の周波数を用いれば、周波数によって定在波の腹と節の位置も移動するため、洗浄ムラを軽減させることもできる。
【0046】
もちろん、本洗浄例2においても、第1周波数及び第2周波数はそれぞれの望ましい範囲内で適宜変更可能であり、また、2つの周波数ではなく、3つ以上の異なる周波数による超音波洗浄を行うようにしても良い。また、本洗浄例2では、時間差で2つの周波数による超音波洗浄を行ったが、超音波振動部15を異なる周波数で振動する2つの領域に分け、それぞれの領域を異なる周波数で振動させ、同時に2つの周波数による超音波洗浄を行うように構成しても良い。
【0047】
(3)洗浄例3
続いて、洗浄例3について説明する。洗浄例3は、基本的に上記洗浄例1と同様であるが、超音波洗浄時に水槽12内の水位を変化させる点で異なっている。
【0048】
上述したように、超音波を照射すると、水中に周波数に応じた定在波が生じて洗浄ムラが生じてしまうが、本洗浄例3のように、水位を変化させれば、腹と節の位置を変化させることができ、洗浄ムラの発生を抑えることが可能となる。
【0049】
具体的には、制御部40の制御により、洗浄中に水位制御弁26を少し開き、徐々に水槽12内の水位を徐々に下げていく。このとき、1/4波長毎に腹と節ができているため、少なくとも1/4波長以上水位を変化させることが望ましい。例えば、超音波の周波数が40kHzの場合には、波長は3.8cmであるから、水を抜くことで約1cm以上水位を下げれば良い。
【0050】
なお、水槽12内の水位を変動させるために給水口20から給水を行って水位を上げるようにしても良い。また、水位を変動させる代わりに、洗浄カゴ30を上下動させることで、被洗浄物である農作物を上下動させても洗浄ムラの発生を防止することが可能である。
(4)洗浄例4
本洗浄例4は、2つの周波数による超音波洗浄、マイクロバブル、水位変動、オーバーフローによるすすぎ等を組み合わせた洗浄例である。図3は、洗浄例4の洗浄における時間と水位との関係を示す図である。
【0051】
同図に示すように、洗浄例4では、まずT1において、30kHzの超音波により2分間超音波洗浄を行いながら、徐々に水位を下げる。具体的には、制御部40の制御により超音波洗浄部15を30kHzで振動させながら、水位制御弁26を開いて徐々に水槽12内の水位を下げる。下げる水位としては、例えば、満水時のオーバーフロー排水口28の高さから半分程度の高さまで下げれば、上述した腹と節の発生による洗浄ムラを十分に防止できる。
【0052】
続いて、T2では、マイクロバブルを含んだ洗浄水を給水口20から2分間給水する。なお、T2における給水は、T1における排水よりも単位時間当たりの水量が多いため、途中からはオーバーフロー排水口28からオーバーフロー排水が行われる。
【0053】
T3では、75kHzの超音波により2分間超音波洗浄を行いながら、T1と同様に徐々に水位を下げ、T4では、T2と同様に、マイクロバブルを含んだ洗浄水を給水口20から2分間給水し、後半ではオーバーフロー排水が行われる。
【0054】
このような洗浄例4によれば、T1では、主として易水溶性や中水溶性の農薬が農作物の表面から除去(剥離又は溶解)され、T3では、主として難水溶性の農薬の分子構造の末端に親水基が形成されて、難水溶性の農薬が洗浄水中に溶けやすくなることにより、農作物から除去(溶解)される。そして、T2では、マイクロバブルによって剥離しかかった農薬を分離(除去)し、T4では、マイクロバブルによって、水中では溶解度の低い難溶解性農薬が疎水性を有する気泡界面に溶解し除去される。また、T2及びT4において、T1やT3で除去されて洗浄水中に溶けている農薬がオーバーフロー排水によって水槽12の外へと排出されると共に、水槽12内にも水流が生じるので、溶解した農薬が農作物の周囲に滞留して、再度農作物に付着してしまうといったことも防止できる。
【0055】
また、洗浄例4においては、水位を変えながら超音波洗浄を行っており、定在波の発生による洗浄ムラの発生も防止すると共に、マイクロバブルの発生によっても残留農薬の除去に貢献している。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、超音波振動部15を水槽12の下部に設置したが、水槽12の側部に設置するように構成しても良い。
【0057】
また、水槽12内でのラジカルの発生を確認するような構成を追加しても良い。例えば、芳香環を含む色素(インジゴカルミンやメチレンブルー等)を容器に入れて水槽12内に載置しておけば、ベンゼン環を含む色素はラジカルによって脱色されるので、当該容器内の色の変化を観察することで、水槽12内でのラジカルの発生を確認することができる。
【0058】
また、水槽12内での過酸化水素濃度を測定することでラジカルの発生、例えばラジカルが10ppb以上発生しているかどうか、を確認するようにしても良い。このようにラジカルの発生を確認するようにすれば、難水溶性農薬の除去が確実に行われているかどうかを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本実施形態に係る農作物洗浄装置の構成を概略的に示すイメージ図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る水槽の平面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る洗浄例4の洗浄における時間と水位との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 農作物洗浄装置
10 筐体
12 水槽
15 超音波振動部
20 給水口
21 マイクロバブル発生ノズル
22 給水弁
23 吸気口
25 排水口
26 水位制御弁
28 オーバーフロー排水口
30 洗浄カゴ
40 制御部
50 農作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物を洗浄する農作物洗浄装置において、
農作物が浸漬される洗浄水を溜めておく水槽と、
前記水槽の周囲に設置され、前記水槽内の前記洗浄水を超音波振動させる超音波振動部と、
前記超音波振動部を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記超音波振動部を40〜150kHzの周波数で振動させ、前記洗浄水中にラジカルを発生させて農作物を超音波洗浄するように制御することを特徴とする農作物洗浄装置。
【請求項2】
前記制御手段は、20〜60kHzから選択された第1周波数と、40〜150kHzから選択された第2周波数とを組み合わせて、前記超音波振動部を振動させることを特徴とする請求項1記載の農作物洗浄装置。
【請求項3】
前記水槽の給水ラインに設置された給水弁と、
前記水槽の排水ラインに設置された水位制御弁と、をさらに備え、
前記制御手段は、さらに前記給水弁及び前記水位制御弁を制御する制御手段であって、超音波洗浄中に前記給水弁又は前記水位制御弁を開くことで、前記水槽内の前記洗浄水の水位を変化させながら超音波洗浄を行わせることを特徴とする請求項1又は2記載の農作物洗浄装置。
【請求項4】
前記水槽の前記給水ラインに設置された、前記洗浄水中にマイクロバブルを発生させるためのマイクロバブル発生手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の農作物洗浄装置。
【請求項5】
農作物を洗浄して残留農薬を除去する農作物洗浄方法において、
農作物を洗浄水内に浸漬する工程と、
前記洗浄水を40〜150kHzの周波数で超音波振動させ、前記洗浄水中にラジカルを発生させて農作物を超音波洗浄する工程と、
を備えることを特徴とする農作物洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284883(P2009−284883A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144395(P2008−144395)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】