説明

農園芸作物の生育活性化剤及び除草剤による薬害の軽減方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は水溶性ビタミンK3誘導体を有効成分として含有することを特徴とする農園芸作物の生育活性化剤及びこれを利用する農園芸作物の除草剤による薬害の軽減方法に関するものである。
本発明の農園芸作物の生育活性化剤は、通常、農薬と同様な剤形、例えば粉剤、粒剤、水和剤、液剤等に製剤化して農園芸作物の種子処理、茎葉散布、土壌処理等の方法で施用することにより農園芸作物の生育を良好にし、特に、除草剤による薬害を著しく軽減する特徴を有するものである。
〔従来の技術〕
ビタミンK3は一般名メナジオンと称され、低プロトロンビン症の改善を目的とする医薬品として周知の化合物であり、これに水溶性置換基を導入した水溶性ビタミンK3誘導体も多数知られている。例えばメナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナジオン亜硫酸水素カリウム、メナジオン亜硫酸水素カルシウム、メナジオン亜硫酸水素マグネシウム、メナジオン亜硫酸水素ジメチルピリミジノール、メナジオールジリン酸エステルテトラナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジカリウム、メナジオールジアセテート、メナジオールジニコチン酸エステル塩酸塩、メナジオールビス(トリメチルアンモニウムアセテート)ジクロライド、メナジオールビスグルコシド、4−アミノ−2−メチル−1−ナフトール塩酸塩、4−アミノ−3−メチル−1−ナフトール塩酸塩、及び1,4−ジアミノ−2−メチルナフタレン塩酸塩等が公知である。
すなわち、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナジオン亜硫酸水素カリウム、メナジオン亜硫酸水素カルシウム及びメナジオン亜硫酸水素マグネシウムはMoore,J.Am.Chem.Soc.,63,2049(1941)記載の方法により、メナジオン亜硫酸水素ジメチルピリミジノールはスペイン特許第337091号明細書記載の方法により、メナジオールジリン酸エステルテトラナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジナトリウム及びメナジオールジ硫酸エステルジカリウムはFieser,J.Am.Chem.Soc.,62,228(1940)に記載の方法により、メナジオールアセテートはSah et al.,Ber.,73,762(1940)に記載の方法により、メナジオールジニコチン酸エステル塩酸塩は米国特許第2428253号明細書に記載の方法により、メナジオールビス(トリメチルアンモニウムアセテート)ジクロライドは米国特許第2372655号明細書に記載の方法により、メナジオールビスグルコシドは米国特許第2366890号明細書に記載の方法により、4−アミノ−2−メチル−1−ナフトール塩酸塩はSah et al.,Ber.,74,552(1941)に記載の方法により、4−アミノ−3−メチル−1−ナフトール塩酸塩はBaker ,al.et J.Am.Chem.Soc.,64,2659(1942)に記載の方法により、1,4−ジアミノ−2−メチルナフタレン塩酸塩はH.Veldstra et al.,Rec.Trav.Chim.,62,75(1943)に記載の方法によりそれぞれ製造することができる。
農園芸作物の除草剤による薬害を軽減する作用を有する公知の化合物としては、例えば、トウモロコシの除草剤であるエブタム(EPTC)に対するN,N−ジアリル−2,3−ジクロロアセトアミド[Weed Science 21.(4)292(1973)]や、アラクロールによるソルガム初生葉の出葉の阻害と葉のゆがみの軽減作用を有する1,8−ナフタリックアンハイドライド[Weed Science 22.(1)86(1974)]やN−メチル−N−(3,4−ジクロロフェニルカルバモイル)グリシンに対するポリメチレンジアミン[特許公報昭59−18361号]や、3アリルオキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−1,1−ジオキシドに対する4−メチルスルホニルオキシフェニル−N−メチルチオールカーバメート[特許公報昭58−28843号]等が知られている。
しかしながら、水溶性ビタミンK3誘導体が農園芸作物の生育を良好にし、除草剤による薬害を著しく軽減する作用を有することは全く知られていない。
〔発明が解決しようとする課題〕
近年、種々の除草剤が開発され、農園芸の各種分野で除草作業が著しく省力化されて来たことはまことに好ましいことであるが、一方で好ましからざる副作用である薬害が発生し、栽培目的の農園芸作物に多大の被害をもたらすことが時として起っている。
そこで、本発明者等は、種々の除草剤に対してそれらの除草効果を弱めること無く薬害を軽減する作用を有する化合物を見出すべく鋭意研究を重ねた結果、水溶性ビタミンK3誘導体にこの作用があることを見出し、さらに引続き研究の結果、水溶性ビタミンK3誘導体には除草剤による薬害の軽減作用のみでなく、単独に施用した場合でも農園芸作物の生育を著しく良好にする作用を有するという予想外の事実を見出し本発明を完成するに至った。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は(イ)水溶性ビタミンK3誘導体を有効成分として含有することを特徴とする農園芸作物の生育活性化剤及び(ロ)除草剤を施用して農園芸作物を栽培する際、該除草剤の施用前、施用後又は施用と同時に農園芸作物に水溶性ビタミンK3誘導体を有効成分として含有する農園芸作物の生育活性化剤を施用することを特徴とする農園芸作物の除草剤による薬害の軽減方法に関するものである。
本発明で用いる水溶性ビタミンK3誘導体は化合物自体いずれも公知であり、その具体例としては例えばメナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナジオン亜硫酸水素カリウム、メナジオン亜硫酸水素カルシウム、メナジオン亜硫酸水素マグネシウム、メナジオン亜硫酸水素ジメチルピリミジノール、メナジオールジリン酸エステルテトラナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジカリウム、メナジオールジアセテート、メナジオールジニコチン酸エステル塩酸塩、メナジオールビス(トリメチルアンモニウムアセテート)ジクロライド、メナジオールビスグルコシド、4−アミノ−2−メチル−1−ナフトール塩酸塩、4−アミノ−3−メチル−1−ナフトール塩酸塩、及び1,4−ジアミノ−2−メチルナフタレン塩酸塩等が挙げられ、これらの化合物は前述の文献に記載されている方法に従って容易に製造することが出来る。
これらの水溶性ビタミンK3誘導体を本発明の農園芸作物の生育活性化剤として実際に用いる場合は、化合物をそのままで使用することも出来るが、通常農薬製剤に用いられる適当な個体担体、液体担体、乳化分散剤等を用いて粉剤、乳剤、水和剤、液剤、油剤、噴霧剤等の任意の剤型にして適用する。
さらに、使用目的に応じて他の無機塩、無機肥料、有機肥料、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等を含有させ、又は併用することもできる。
本発明の生育活性化剤の使用態様としては、適当な希釈剤を用いて粉衣剤を作り、種子を粉衣あるいはコーティングする方法、水等の希釈剤に溶解した薬液に種子を浸漬する方法、除草剤を使用する前または後に、本発明の生育活性化剤を土壌または農園芸作物に施用する方法或いは除草剤と本発明の生育活性化剤との混合物を施用する方法等が挙げられる。
これらの使用態様における本発明の生育活性化剤の使用量は対象作物、施用時期、施用場所、雑草の生育状況などによって変更すべきものであり、一概には論じられない。
ただし、通常粉衣する場合には作物の種子重量に対し、本発明の有効成分化合物として0.0001〜0.1%、好ましくは0.001〜0.05%を使用する。種子を浸漬する場合には有効成分化合物の濃度として0.1〜1000ppm、好ましくは1〜1000ppmの濃度の希釈液に種子を1秒〜72時間浸漬する。除草剤を使用する前後に土壌または作物に施用する場合には10aあたり1〜1000g使用する。除草剤と混合する場合にはモル比を除草剤1に対して本発明化合物を0.01〜10、好ましくは0.1〜2になるように混合するのが適当である。
上述のようにして本発明の生育活性化剤を施用して栽培した農園芸作物は非常に良好な生育を示し、且つ、各種、広汎な除草剤による薬害が著しく軽減される。
薬害が軽減される除草剤の具体例としては、例えばスタム、ブタクロール、プラクロール、ナブロパミド、ナブロアニリド等の酸アミド系除草剤、2,4−D、MCP、MCPP等のフェノキシ系除草剤、NIP、MO、エックスゴーニ等のジフェニルエーテル系除草剤、サターン、モリネート、マメット、スェップ等のカーバメイト系除草剤、カーメックス、リニュロン、チュパサン、ダイムロン等の尿素系除草剤、シマジン、シトメリン等のトリアジン系除草剤、ピラソレート、オキサジアゾン、アシュラム等のその他除草剤が挙げられる。なお、これらの除草剤は単なる例示にすぎず、本発明はこれらの除草剤による薬害の軽減方法のみに限定されるものではない。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1 メナジオン亜硫酸水素ナトリウム1部及びクレー98部を充分に混合して粉剤を得た。
実施例2 4−アミノ−2−メチル−1−ナフトール塩酸塩5部及び水95部から液剤を得た。
実施例3 メチジオールジアセテート10部、クレー88部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部をよく混合して水和剤を得た。
実施例4〜9 本発明化合物と各種担体を良く混合して粉剤を得た。第1表に混合割合をまとめて示す。


実施例10 直径5cm高さ5cmの管瓶中に所定量の除草剤及びメナジオン亜硫酸水素ナトリウム(MSB)を含有した0.7%寒天培地を入れ、これに稲(品種:コシヒカリ)の催芽種子を8粒播種し25℃、3000ルックスの人工気象器内で11日間生育させた。結果を第2表に示した。なお、除草剤は粒剤についてはアセトンで抽出(ソックスレー抽出器使用)し濃縮したものを使用した。
第2表の結果より、MSBは単独で地上部及び地下部の生育を促進する作用を有していることはもちろんのこと、除草剤による薬害に起因する生育抑制を軽減する作用を有していることが明らかである。


実施例11 水稲育苗箱に床上としてクレハ粒状培土を詰め、実施例1で調製した本発明粉剤30gを均一に混合した。これに1箱当たり180gの種子(品種:日本晴)を播種し慣行の方法で21日間育苗して得られた稚苗を本田に移植した。移植後3日目にクサカリンを10aあたり8kg散布した。定植後25日後に草丈、生体重及び黄化程度を調査し第3表の結果を得た。なお、本発明剤を混合しないで育苗した苗も同様に処理し無処理区とした。


第3表の結果より、本発明剤で処理した苗を本田に移植することにより、黄化現象も認められず生育が順調であることが明らかである。
〔発明の効果〕
本発明により水溶性ビタミンK3誘導体を有効成分として含有する農園芸作物の生育活性化剤及びこれを利用する農園芸作物の除草剤による薬害の軽減方法が提供された。
農園芸作物の除草剤による薬害は、農園芸作業者にとって、時として、深刻な経済的打撃を受けることがあるが、本発明によりその懸念は大幅に解消された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナジオン亜硫酸水素カリウム、メナジオン亜硫酸水素カルシウム、メナジオン亜硫酸水素マグネシウム、メナジオン亜硫酸水素ジメチルピリミジノール、メナジオールジリン酸エステルテトラナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジナトリウム、メナジオールジ硫酸エステルジカリウム、メナジオールジアセテート、メナジオールジニコチン酸エステル塩酸塩、メナジオールビス(トリメチルアンモニウムアセテート)ジクロライド、メナジオールビスグルコシド、4−アミノ−2−メチル−1−ナフトール塩酸塩、4−アミノ−3−メチル−1−ナフトール塩酸塩、及び1,4−ジアミノ−2−メチルナフタレン塩酸塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分として含有することを特徴とする農園芸作物の除草剤薬害軽減剤。

【特許番号】第2980346号
【登録日】平成11年(1999)9月17日
【発行日】平成11年(1999)11月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−153870
【出願日】平成2年(1990)6月14日
【公開番号】特開平4−46103
【公開日】平成4年(1992)2月17日
【審査請求日】平成9年(1997)4月23日
【出願人】(999999999)トモエ化学工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭62−190101(JP,A)
【文献】特開 昭61−215305(JP,A)
【文献】特開 昭61−212502(JP,A)
【文献】特開 昭60−72802(JP,A)