説明

農園芸作物用殺虫剤

【課題】殺虫性に優れる農園芸作物用殺虫剤を提供する。また、ダニ目害虫の殺虫性に優れる農園芸作物用殺虫剤を提供する。
【解決手段】ペキロマイセス ファリノス OT10株、レカニシリウム レカニ OT14株及びレカニシリウム ロンギスポラム OT21株、並びに各菌株の変異株であって各菌株と等しい殺虫能を有する菌株からなる群から選ばれる少なくとも一種を、農園芸作物用殺虫剤の成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸作物用殺虫剤及び農園芸作物の害虫の殺虫方法に関する。特に、ダニ目害虫や半翅目害虫を防除するための、農園芸作物用殺虫剤及び殺虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農園芸作物の安定的な生産のために、食害、吸汁による加害やウイルス病の伝搬などにより収量の低下を引き起こす害虫の防除は必須である。
これまで、農園芸作物の害虫の防除には主に化学農薬が使用されてきた。しかしながら、化学農薬の連用による抵抗性獲得害虫の発生が問題となっており、化学農薬を使用しない害虫の防除手段が望まれている。中でもダニ目害虫は抵抗性を獲得しやすく、農作物生産現場において化学農薬の効力低下にともなう農園芸作物の被害が発生しやすい。そのため、上記化学農薬代替技術が求められている。
他方、近年、環境に配慮した持続可能型農業の実現について国を挙げた推進がなされ、従来の化学農薬主体の防除手段に加え、自然界から分離された微生物を利用した微生物農薬が脚光を浴びている。すでに、非特許文献1に記載されるように多数の商品が販売されている。
このような微生物農薬のうち、昆虫寄生性の糸状菌であるバーティシリウム レカニ(Verticillium lecanii)(なお、“バーティシリウム レカニ”は旧分類における分類名であり、旧分類において“バーティシリウム レカニ”に属する菌は、現在の分類では、レカニシウム属の何れかの種に分類される(非特許文献2参照)。)を用いた製剤は、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類等の害虫の防除に有効であることが知られている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、従来知られていたバーティシリウム レカニは、害虫に対する殺虫能が十分でなく、速効性に乏しいという問題がある。従って、微生物農薬の施用時期が遅れると、微生物農薬による殺虫速度が害虫の増殖速度に追いつかず、害虫による農園芸作物の被害を十分に抑制することができないという問題があった(非特許文献3)。従って、害虫に対する殺虫能が高い菌、及び殺虫性に、より優れた微生物農薬が強く望まれていた。
また、従来知られていたバーティシリウム レカニは、特にダニ目害虫に対する殺虫能が低く、ダニ目害虫による農園芸作物の被害を実際に抑制するには有効ではなかった。
他方、上述したバーティシリウム レカニの速効性の乏しさを、澱粉で補う技術も開発されている(特許文献3)。しかしながら、この技術も農園芸作物のダニ目害虫による被害を抑制するには、不十分であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】生物農薬+フェロモンガイドブック2006(社団法人日本植物防疫協会編)
【非特許文献2】小池ら(2007)「日本産Verticillium lecanii分離株のLecanicillium属菌への再分類」日本応用動物昆虫学会誌, 51(3) 234-237.
【非特許文献3】微生物農薬 (バーティシリウム・レカニ製剤)による施設害虫の防除、西東 力、『今月の農業』九月号、第72〜77頁、株式会社化学工業日報社、2001年9月1日発行
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−335612号公報
【特許文献2】特開2006−169115号公報
【特許文献3】特開2002−332205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、害虫に対する殺虫能が高い微生物を見い出すことにより、殺虫性に優れる農園芸作物用殺虫剤を提供することを課題とする。また、本発明は、ダニ目害虫に対する殺虫能が高い微生物を見い出すことにより、ダニ目害虫の殺虫性に優れる農園芸作物用殺虫剤を提供することを課題とする。また、本発明は、このような農園芸作物殺虫剤を用いて、農園芸作物の害虫を殺虫する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の微生物の能力について研究を行ってきた結果、ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)、レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)及びレカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)に属する特定の菌株が、害虫に対する殺虫能が高いことを知見した。さらに、これらの菌株は、ダニ目害虫に対する殺虫能が極めて高いことを知見した。そして、これらの知見に基いて、本発明が完成された。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
(1)ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)OT10株(FERM AP−21795)、レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)OT14株(FERM AP−21796)及びレカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)OT21株(FERM AP−21797)、並びに各菌株の変異株であって各菌株と等しい殺虫能を有する菌株からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、農園芸作物用殺虫剤(以下、「本発明の殺虫剤」という。)。
(2)ダニ目害虫用である、(1)に記載の農園芸作物用殺虫剤。
(3)ダニ目害虫が、テトラニカス属、パノニカス属、ハダニ類、ヒメハダニ類、フシダニ類、ホコリダニ類又はコナダニ類に属する、(2)に記載の農園芸作物用殺虫剤。
(4)ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)OT10株(FERM AP−21795)。
(5)レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)OT14株(FERM AP−21796)。
(6)レカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)OT21株(FERM AP−21797)。
(7)(1)〜(3)の何れかに記載の農園芸作物用殺虫剤を、農園芸作物に施用することを含む、農園芸作物の害虫の殺虫方法(以下、本発明の「殺虫方法」という。)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の殺虫剤は、殺虫性に優れる。また、本発明の殺虫剤は、特に、ダニ目害虫の殺虫性に優れる。従って、本発明の殺虫剤を農園芸作物に施用することにより、害虫を有効に防除することができ、農園芸作物の害虫による被害を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の殺虫剤は、ペキロマイセス ファリノス OT10株(以下、「OT10株」という。)、レカニシリウム レカニ OT14株(以下、「OT14株」という。)及びレカニシリウム ロンギスポラム OT21株(以下、「OT21株」という。)、並びに各菌株の変異株であって各菌株と等しい殺虫能を有する菌株からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する。
【0010】
OT10株は、2007年5月、日本国内にて昆虫から分離した菌株であり、以下の形態的特徴を有している。
モルトエクストラクト培地上にて25℃、7日間培養で20mm径生育。菌糸はフェルト〜綿状の結晶状。培地裏面は明茶色を呈する。形態は、分生子柄は形成されず、小梗が気生菌糸体から生じ、大部分が2〜5個の輪生。小梗は湾曲なく先細になり、20〜40μmで針状。分生子は円筒〜楕円形で、5〜6×1.5〜2μm、表面は滑面。
また、OT10株の28SrRNA遺伝子のD2領域のDNA塩基配列を配列番号1に示す。国際塩基配列データベース(GenBank)を用いた相同性比較の結果、OT10株の28S rRNA遺伝子のD2領域の塩基配列はAcremonium bacillisporum およびIsaria farinosaと相同率99.6%の値を示した。
【0011】
OT14株は、2007年5月、日本国内にて昆虫から分離した菌株であり、以下の形態的特徴を有している。
モルトエクストラクト培地上にて25℃、7日間培養で20mm径生育。菌糸はフェルト〜綿状の結晶状。培地裏面は明茶色を呈する。形態は、分生子柄は形成されず、小梗が気生菌糸体から生じ、大部分が2〜5個の輪生。小梗は湾曲なく先細になり、20〜25μmで針状。分生子は円筒〜楕円形で、3〜4×1.5〜2μm、表面は滑面。
また、OT14株の28SrRNA遺伝子のD2領域のDNA塩基配列を配列番号2に示す。国際塩基配列データベース(GenBank)を用いた相同性比較の結果、OT14株の28S rRNA遺伝子のD2領域の塩基配列はLecanicillium attenuatumLecanicillium lecanii、およびVerticillium longisporumと相同率100%を示した。
【0012】
OT21株は、2007年5月、日本国内にて昆虫から分離した菌株であり、以下の形態的特徴を有している。
モルトエクストラクト培地上にて25℃、7日間培養で20mm径生育。菌糸はフェルト〜綿状の結晶状。培地裏面は明茶色を呈する。形態は、分生子柄は形成されず、小梗が気生菌糸体から生じ、大部分が2〜5個の輪生。小梗は湾曲なく先細になり、25〜40μmで針状。分生子は円筒〜楕円形で、4〜5×2μm、表面は滑面。
また、OT21株の28SrRNA遺伝子のD2領域のDNA塩基配列を配列番号3に示す。国際塩基配列データベース(GenBank)を用いた相同性比較の結果、OT21株の28S rRNA遺伝子のD2領域の塩基配列はLecanicillium attenuatumLecanicillium lecanii、およびVerticillium longisporumと相同率100%を示した。
【0013】
各菌株の形態的特徴、及び相同性比較の結果から、OT10株、OT14株及びOT21株は、それぞれ、ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)、レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)、レカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)として同定された。なお、Paecilomyces farinosuは、Isaria farinosaの異称である。
【0014】
これらの菌株は、平成21年4月1日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、寄託されている。OT10株の受領番号は、FERM AP−21795、OT14株の受領番号は、FERM AP−21796、OT21株の受領番号は、FERM AP−21797である。
【0015】
また、本発明の殺虫剤において、OT10株、OT14株、又はOT21株の変異株であって、各菌株と等しい殺虫能を有する菌株を用いることもできる。「殺虫能」とは、害虫に寄生し、害虫を死滅させる能力を指す。殺虫能は、害虫の死虫数、死虫率、感染率、生虫数、生虫率等により評価することができる。例えば、下記実施例に記載されるようなワタアブラムシ等のアブラムシ類に属する害虫、カンザワハダニ、ナミハダニ等のテトラニカス(Tetranychus)属に属する害虫の少なくとも一つを用いて殺虫能を評価することができる。
このような変異株は、OT10株、OT14株、又はOT21株が自然変異した菌株や、化学的変異剤や紫外線等で変異処理することにより得られた菌株から、それぞれ、OT10株、OT14株、又はOT21株と等しい殺虫能を有する菌株を選抜することにより得ることができる。
OT10株、OT14株、又はOT21株の変異株であって、これらの菌株と等しい殺虫能を有する菌株を、以下、単に「変異株」という場合がある。
【0016】
OT10株、OT14株、若しくはOT21株、又はこれらの変異株は、同種の菌の培養に用いられる通常の方法で培養することができる。例えば、液体培地中で培養する往復動式液体培養やジャーファメンター培養等の液体培養法や固体培地で培養する固体培養法により、培養することができる。これらの菌株の胞子を収率良く生産するには、固体培養法がより好適に用いられる。培養条件は、通気、攪拌、振とう等の方法により好気的条件下が望ましく、培養温度は20〜30℃が好ましい。培養期間は3〜60日間とするのが好ましく、3〜20日間とするのが特に好ましい。
これらの菌株は、殺虫剤の製品としての保存性の観点から、胞子であることが好ましい。したがって、胞子を形成させるために、必要であれば培養の終期において、培地の組成、培地のpH、培養温度、培養湿度、培養する際の酸素濃度等の培養条件を、その胞子形成条件に適合させるように調整することが好ましい。
【0017】
液体培養法においては、ポテトデキストロース培地やサブロー培地等が用いられる。固体培養法においては、米、麦、トウモロコシ、ダイズ等の穀物類、フスマ、大豆カス等の穀物由来の固体成分や、栄養源を含む粘土鉱物等の固体担体等に必要に応じて糖類や窒素源等を含ませた培地を用いることができる。
【0018】
得られた培養物はそのまま本発明の殺虫剤の成分として用いても良いが、必要に応じて破砕あるいは細断して用いても良い。さらに、この培養物から篩等により胞子を主体に回収して本発明の殺虫剤の成分として用いても良い。また、水や油等の液体により培養物から菌体を分離し、そのままあるいは濃縮したものを本発明の殺虫剤の成分として用いても良い。以下これらをまとめて「培養物」ということがある。
【0019】
本発明の殺虫剤は、OT10株、OT14株、及びOT21株、並びにこれらの変異株からなる群から選ばれる少なくとも一種を、通常コロニー形成単位(cfu)を基準として、好ましくは1×105〜1×1012cfu/g、さらに好ましくは1×106〜1×1011cfu/g含む培養物を含む。
【0020】
本発明の殺虫剤は、前記培養物を好ましくは、0.1〜99.9質量%、さらに好ましくは1.0〜50.0質量%含む。
【0021】
また、本発明の殺虫剤は、OT10株、OT14株、及びOT21株、並びにこれらの変異株からなる群から選ばれる少なくとも一種を、好ましくは1×104〜1×1010cfu/mL、さらに好ましくは1×105〜1×109cfu/mLの濃度で含む。
【0022】
本発明の殺虫剤には、OT10株、OT14株、若しくはOT21株、又はこれらの変異株の他に、本発明の効果を妨げない成分を任意に添加することができる。このような任意成分は、製剤化、品質の安定化等を目的に必要に応じて選択される。
【0023】
本発明の殺虫剤に用いられる任意成分としては、例えば、以下のような成分が挙げられる。
例えば、増量剤として、固体担体ではカオリンクレー、パイロフェライトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、珪藻土、合成含水酸化ケイ素、酸性白土、タルク類、粘土、セラミック、石英、セリサイト、バーミキュライト、パーライト、大谷石、アンスラ石、石灰石、石炭石、ゼオライト等の鉱物質微粉末;食塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、尿素等の無機化合物;籾殻、フスマ、カニ殻、エビ殻、オキアミ微粉末、米粕、小麦粉、トウモロコシ穂軸、落花生殻、骨粉、魚粉、粕粉、木粉、炭、くん炭、バーク炭、籾殻くん炭、草木炭、ピートモス、アタパルジャイト、乾燥畜糞、活性炭、油粕、デンプンおよびその加水分解物等の有機物微粉末;D−ソルビトール、ラクトース、マルチトース、グルコサミン、オリゴ糖類等の可溶性増量剤等を用いることができる。液体担体では、水、植物油、動物油、鉱物油、合成水溶性高分子等を用いることができる。
【0024】
さらに、補助剤としてカゼイン、ゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸、セルロース類、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、キチン類、キトサン類等の天然多糖類等;ポリビニルアルコール類;ポリアクリル酸類;ベントナイト等を増粘、固着、分散等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
【0025】
また、エチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール等を、凍結防止等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
【0026】
また、アニオン型、カチオン型、両性型、非イオン性型等の界面活性剤を分散安定、凝集防止、乳化等を目的として、必要に応じて含有させることができる。
【0027】
本発明の殺虫剤は、実際に使用し易い形態に製剤化することができる。つまり、通常の製剤の製造方法に従って、必要に応じて各種任意成分とともに、水和剤、粉剤、粒剤、乳剤、フロアブル剤、塗布剤等に製剤化することができる。
【0028】
例えば、水和剤、粉剤は、上記したような固体担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤や品質を安定させる成分を混合または粉砕混合することにより製造することができる。
【0029】
例えば、粒剤は、上記したような固体担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤や品質を安定させる成分を混合または粉砕混合し、更に造粒することにより製造することができる。
【0030】
例えば、乳剤は、植物油、動物油、鉱物油等の液状担体に、必要に応じて上記したような界面活性剤を乳化、分散等を目的として、また、品質を安定させる成分を混合または粉砕混合することにより製造することができる。
【0031】
例えば、フロアブル剤は、水に上記したような補助剤を増粘等を目的として、上記したような二価アルコール等を凍結防止を目的として、上記したような界面活性剤を分散等を目的として、また、品質を安定させる成分を混合または粉砕混合することにより製造することができる。
【0032】
例えば、塗布剤は、水や油等の液体担体に補助剤を加え、混合し、ゾル状またはゲル状とすることにより製造することができる。
【0033】
本発明の殺虫剤は、農園芸作物の害虫の殺虫のために用いることができ、具体的には、以下のような害虫の殺虫に好適である。
ナミハダニ(Tetranychus urticae)、カンザワハダニ(Tetranychus Kanzawai)等のテトラニカス属(Tetranychus);ミカンハダニ(Panonychus citri)等のパノニカス属(Panonychus);クローバーハダニ(Bryobia praetiosa)等のハダニ類;チャノヒメハダニ(Brevipalpus obovatus)等のヒメハダニ類;トマトサビダニ(Aculops lycopersici)等のフシダニ類;チャノホコリダニ(Polyphagotarsonemus latus)等のホコリダニ類;ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)等のコナダニ類等のダニ目害虫。
ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)、ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)等のアザミウマ目害虫。
ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)等のアブラムシ類等の半翅目害虫。
オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、タバココナジラミ(Bemisia tabaci)、シルバーリーフコナジラミ(Bemisia argentifolli)等のコナジラミ類。
ハイマダラメイガ(Hellula undalis)等のメイガ類等の鱗翅目害虫。
ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、ヨトウガ(Mamestra brasicae)等のヤガ類;チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)等のハマキガ類;モモシンクイガ(Carposina niponensis)等のシンクイガ類;モモハモグリガ(Lyonetia clerkella)等のチビガ類;キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoniella)等のホソガ類;コナガ(Plutella
xylostella)等のスガ類;ドクガ類;イラガ類;アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)等のヒトリガ類;ヒロズコガ類;シンクイムシ類等。
【0034】
また、これらの害虫から保護すべき植物としては、例えば、イネ、麦、大豆のほか、ハウス施設で栽培される、ミカン、リンゴ、なし、柿などの果樹類、ナス、キュウリ、トマト、イチゴ、ピーマン等の果菜類、ホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、レタス、ネギ、ニラ等の葉菜類、ニンジン、ヤマイモ等の根菜類、エンドウ、そらまめ、インゲンなどの豆類、バラ、キク、カーネーション、サクラ、ツバキ等の花木類、ベゴニア等の観葉植物等を挙げることができる。
【0035】
本発明の殺虫剤は、上記のような害虫を殺虫する目的で、農園芸作物に施用することができる。例えば、種子、植物体、栽培土壌などに施用され、その方法は、殺虫剤の剤型、施用対象、害虫の発生状況、発生個所などによって適宜選択される。具体的な施用方法としては、例えば種子浸漬処理、種子粉衣処理、種子塗布処理、種子散布(噴霧を含む)処理、土壌散布(噴霧を含む)処理、土壌混和施用、土壌潅注施用、育苗箱潅注施用、株元施用、地上部液散布、地上部固形散布等の方法を挙げることができる。
また、本発明の殺虫剤の施用量も、OT10株、OT14株、若しくはOT21株、又はこれらの変異株の胞子濃度、農園芸作物の育種面積、害虫の発生度合い等を考慮して適宜調節することができる。
【0036】
また、施用に際して、本発明の殺虫剤の効果を損なわない範囲で、他の殺虫剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料、土壌改良資材等を混合施用、あるいは混合せずに交互施用、または同時施用することも可能である。
【実施例】
【0037】
<製剤例1〜3>
(胞子の製造)
培地にフスマを用い、これにOT10株、OT14株及びOT21株の種菌をそれぞれ植菌し、30℃において10日間固体培養した。培養終了後、培養物を乾燥し、その乾燥培養物を篩にかけ、フスマ残さを除去し、OT10胞子含有粉末、OT14胞子含有粉末及びOT21胞子含有粉末(何れも4×109cfu/g)を得た。
(製剤の製造)
上記OT10胞子含有粉末、OT14胞子含有粉末及びOT21胞子含有粉末を使用し、胞子含有粉末10質量%、界面活性剤としてSORPOL5082(東邦化学工業製)を5質量%、増量剤として粘土鉱物(Kクレー:勝光山鉱業所社製)45質量%および硫酸ナトリウム(広島和光社製)40質量%の割合になるように原料を混合し、ミル粉砕機を用いて混合および粉砕し、製剤例1〜3(4×108cfu/g)を得た。
【0038】
<実施例1>
128穴のセルトレーに2粒/穴の割合でカイワレ大根を播種した。播種5〜6日後のカイワレ大根にワタアブラムシの産卵10日以内の個体を2頭ずつ放飼し、30分以上静置した。製剤例1〜3での製造した胞子含有粉末を、Tween 20の0.01%溶液に分散させ、1×107cfu/mL、1×106cfu/mLの胞子濃度に調整した試験液1〜6を作製した(表1参照)。
また、市販のボーベリア バシアーナ(Beauveria bassiana)を含有する微生物殺虫剤(商品名:ボタニガード、アリスタライフサイエンス社)より、ボーベリア バシアーナを単離し、製剤例1と同様の方法で胞子含有粉末を製造して、比較試験液1(胞子濃度:4.8×107cfu/mL)を作製した。
また、市販のバーティシリウム レカニを含有する微生物殺虫剤(商品名:バータレック、アリスタライフサイエンス社)より、バーティシリウム レカニを単離し、製剤例1と同様の方法で胞子含有粉末を製造して、比較試験液2(胞子濃度:1×107cfu/mL)を作製した。
これらの試験液に、それぞれ、ワタアブラムシの定着したカイワレ大根の地上部全体を10秒程度浸漬した。浸漬後、カイワレ大根を風乾し、水を入れた500mL容のプラスチックカップに入れ、蓋をして25℃で育成した。浸漬処理7日後の死虫率から、下記の式1を用いて、補正死虫率(%)を算出した。試験は、各試験液について、3回反復し、補正死虫率の平均を求めた。また、無処理区として、殺虫剤を処理しない場合についても同様に試験した。
式1
補正死虫率(%)=(無処理区の生虫率−処理区の生虫率)/無処理区の生虫率×100
【0039】
【表1】

【0040】
OT10株、OT14株、又はOT21株を含有する試験液1〜6を施用した場合には、7日後の補正死虫率は68%以上と高かった。特に、1×107cfu/mLの濃度の胞子を含有する試験液1、3、5を施用した場合には、当該補正死虫率は89%以上と極めて高かった。一方、ボーベリア バシアーナを含有する比較試験液1を施用した場合には、比較試験液1は試験液4の約50倍の胞子濃度を有するにも関わらず、試験液4を施用した場合と同程度の補正死虫率しか示さなかった。また、バータレックから単離したバーティシリウム レカニを含有する比較試験液2を施用した場合には、これと同じ胞子濃度を有する試験液1に比して、低い補正死虫率を示した。
このように、OT10株、OT14株、又はOT21株は、従来知られていたバーティシリウム レカニに属する菌に比して、施用7日程度におけるアブラムシ類に対する殺虫能力が高いことが判った。すなわち、これらの菌株を含む本発明の殺虫剤は、アブラムシ類の殺虫の速効性に優れることが判った。
ペキロマイセス ファリノス、レカニシリウム属菌のアブラムシ類等の半翅目害虫に対する殺虫能は、一般的に、アザミウマ目害虫やコナジラミ類などに対する殺虫能と比例することから、本発明の殺虫剤は、アザミウマ目害虫やコナジラミ類に属する害虫など広範な害虫の殺虫に有効であると考えられた。
【0041】
<実施例2>
きゅうり(品種:光3号P型、株式会社ときわ研究場製)の本葉にナミハダニを20頭程度定着させた。製剤例1〜3の製剤を水道水を用いて2000倍に希釈し、試験液7〜9を作製した。
また、市販のバーティシリウム レカニ水和剤(商品名:バータレック水和剤、アリスタライフサイエンス社製)を水道水を用いて500倍に希釈し、比較試験液3とした。
ナミハダニが定着したきゅうり葉全体を、各試験液に10秒間浸漬した後、室温で風乾した。風乾後、きゅうり葉をクリスタルバイオレット培地上に静置し、湿度を保持した容器内に培地を入れて蓋をし、25℃で静置した。浸漬処理6日後及び12日後のナミハダニの感染虫(死虫の中で菌の感染が認められたもの)、生虫の頭数を計測した。計測時点の全ナミハダニ頭数に対する感染虫数の割合(感染率)を算出すると共に、下記の式2に示す式を用いて、ナミハダニの生虫の補正密度指数を算出した。水道水に10秒間浸漬した後、室温で風乾したものを、無処理区として同様に試験した。
式2
補正密度指数=(処理区の散布後生虫数×無処理区の散布前生虫数)/(処理区の散布前生虫数×無処理区の散布後生虫数)×100
【0042】
【表2】

【0043】
OT10株、OT14株、又はOT21株を含有する試験液7〜9を施用した場合には、6日後の感染率は、82%以上と高く、ナミハダニの生虫の補正密度指数は7.4以下と低かった。一方、バータレックの菌株を含有する比較試験液3を施用した場合には、6日後の感染率は6.7%と極めて低く、ナミハダニの生虫の補正密度指数も80.0と極めて高かった。
また、試験液7〜9を施用した場合には、12日後の感染率は、6日後の感染率から上昇し、何れも100%となり、補正密度指数も0.0となった。一方、比較試験液3を施用した場合には、12日後の感染率は、6日後の感染率から上昇したものの、35.3%と低く、補正密度指数も39.7と高かった。
なお、何れの試験液を施用した場合にも、薬害は見られなかった。
このように、OT10株、OT14株、又はOT21株は、ダニ目害虫に対する殺虫能が極めて高く、農園芸作物に対しては無害であることが判った。そして、これらの菌株を含む本発明の殺虫剤は、ダニ目害虫の殺虫性に優れることが判った。
【0044】
以上の結果より、OT10株、OT14株、及びOT21株、並びにこれらの変異株からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む殺虫剤は、ダニ目害虫、半翅目害虫を含む多種の農園芸作物の害虫の防除に有効であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)OT10株(FERM AP−21795)、レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)OT14株(FERM AP−21796)及びレカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)OT21株(FERM AP−21797)、並びに各菌株の変異株であって各菌株と等しい殺虫能を有する菌株からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、農園芸作物用殺虫剤。
【請求項2】
ダニ目害虫用である、請求項1に記載の農園芸作物用殺虫剤。
【請求項3】
ダニ目害虫が、テトラニカス属、パノニカス属、ハダニ類、ヒメハダニ類、フシダニ類、ホコリダニ類又はコナダニ類に属する、請求項2に記載の農園芸作物用殺虫剤。
【請求項4】
ペキロマイセス ファリノス(Paecilomyces farinosu)OT10株(FERM AP−21795)。
【請求項5】
レカニシリウム レカニ(Lecanicillium lecanii)OT14株(FERM AP−21796)。
【請求項6】
レカニシリウム ロンギスポラム(Lecanicillium longisporum)OT21株(FERM AP−21797)。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか一項に記載の農園芸作物用殺虫剤を、農園芸作物に施用することを含む、農園芸作物の害虫の殺虫方法。

【公開番号】特開2010−270043(P2010−270043A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122297(P2009−122297)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】