説明

農業用ハウスに使用する保温シート

【課題】保温シート内に対する空気の供給を遮断した際に、内部の空気に含まれた水分が外気により結露した場合であっても、結露水を有効に排水して藻類の発生を防止する。
【解決手段】農業用ハウスの側面全体を覆うように配置され、少なくとも二枚の合成樹脂シートを、上下方向へ所定の間隔をおいた個所にて水平方向へ融着して複数の空気流路部が形成された保温シートを構成する。合成樹脂シートの各融着個所には、それぞれの空気流路に連通する複数の排水部を水平方向へ所要の間隔をおいて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を流通する空気により農業用ハウス内を外気から断熱して保温状態に保つ農業用ハウスに使用する保温シート、詳しくは空気の流通を遮断した際に、内部に結露した水分を排出可能にした保温シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス温室やビニール温室等の農業用ハウスにあっては、暖房コストを低減するため、ハウスの内側に保温シートを内張りして外気により室温が低下するのを防止している。
【0003】
上記用途に使用する保温シートとしては、例えば特許文献1に示すようにハウス天井面のほぼ全面を覆うように取付けられ、ハウス内に設置された暖房送風装置から送り込まれるハウス内の空気で加熱された暖気により膨らんでハウス内へ放出する透光性エアマットが知られている。
【0004】
上記透光性エアマットにあっては、寒冷期には暖房送風装置を継続的に運転にして透光性エアマット内に加熱された空気を送り込み続けるように取り扱う必要があるが、実際には、暖房費を少しでも低減するため、ハウス内の空気を加熱せずに送り込んだり、暖房送風装置の運転を一時的に停止して透光性エアマット内に対する空気の供給を中断しているのが実情である。このため、ハウス内の空気の供給停止時や暖房送風装置の運転停止時には、透光性エアマット内の空気が外気により冷却されることにより空気中の水分が結露し、内部に滞溜する問題を有している。
【0005】
特に、該透光性エアマットにあっては、送り込まれる空気自体がハウス内の空気で、該空気自体、散布された水により湿度が高くなっているため、空気の供給停止時や暖房送風装置の運転停止時には、空気中の水分が結露して大量の結露水が内部に溜まり易い傾向にある。
【0006】
透光性エアマット内に滞溜した結露水には、空気中のカビ等の各種雑菌が含まれており、昼間の温度と照射される太陽光線により雑菌が増殖すると、増殖した雑菌が透光性エアマットの内面に付着して透光性が悪くなる問題を有している。これにより植物に照射される光量が不足することにより生育不良の原因になっている。また、透光性エアマット内に滞溜し、雑菌が増殖した結露水がハウス内の土壌に滴下すると、雑菌により土壌が汚染されて植物の根腐れや、病気の発生、生育不良等を招く要因になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−65890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、保温シート内に対する空気の供給を遮断した際に、内部の空気に含まれた水分が外気により結露して滞溜し易い点にある。また、保温シート内に滞溜した結露水には、雑菌が含まれているため、増殖した雑菌により保温シートの透光性が悪くなり、植物の生育不良の原因になり易い点にある。更に、雑菌が増殖した結露水が土壌に落下した場合には、植物の病気を発生させる原因になり易い点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、農業用ハウスの側面全体を覆うように配置され、少なくとも二枚の合成樹脂シートを、上下方向へ所定の間隔をおいた個所にて水平方向へ融着して複数の空気流路部が形成された保温シートにおいて、合成樹脂シートの各融着個所には、それぞれの空気流路に連通する複数の排水部を水平方向へ所要の間隔をおいて設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、保温シート内に対する空気の供給を遮断した際に、内部の空気に含まれた水分が外気により結露した場合であっても、結露水を有効に排水して雑菌の増殖を防止することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】農業用ハウスの側面に取付けられる保温シートを示す略体斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】空気流通部間の融着部及び保温シート下端縁の融着部に形成された各排水部を示す説明図である。
【図5】供給される空気により保温シートの空気流通部が膨らんだ状態を示す説明図である。
【図6】保温シートの空気流通部内に溜まった結露水の排水状態を示す説明図である。
【図7】実施例2に係る保温シートを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、合成樹脂シートの各融着個所には、それぞれの空気流路に連通する複数の排水部を水平方向へ所要の間隔をおいて設ける。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図に従って説明する。
図1乃至図4に示すように、保温シート1は、ガラス温室や、ビニール温室等の農業用ハウス(図示せず)における側面に対し、適宜の間隔をおいてほぼ全面を覆うように内張り状態で取付けられる。該保温シート1は、例えばポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニール共重合体樹脂、エチレン−αオレフィン共重合体樹脂等の少なくとも1種類を主成分として配合され、保温性、透光性、防塵性、防曇性、強度、耐候性、耐久性等に優れた少なくとも2枚の合成樹脂シート5・7により形成される。なお、図中の符号3は、保温シート1を農業用ハウスの梁等に掛け止めされるフック(図示せず)の他端部を掛け止めするはと目等の掛け止め部である。
【0014】
上記2枚の合成樹脂シート5・7の内、外側に配置される合成樹脂シート5は、非透気性からなると共に内側に配置される合成樹脂シート7は、例えば特開2007−89493号公報に示すように多数の微細孔が形成され、例えば透湿度500(g/m2、24hr)以上の透気性を有している。
【0015】
上記2枚の合成樹脂シート5・7は、以下のように張り合わされて保温シート1に形成される。即ち、2枚の合成樹脂シート5・7は、農業用ハウスの側面全体より若干広い大きさで、上下端縁及び一方の側端縁を加熱融着して気密状にシールされる。また、2枚の合成樹脂シート5・7における他方の側端縁は、一部に供給口部9を有した状態で加熱融着されてシールされる。そして供給口部9には、送風装置(図示せず)が接続され、連通する保温シート1内にハウス内の空気を供給している。なお、保温シート1内に供給される空気としては、加熱された空気であってもよい。
【0016】
更に、上記2枚の合成樹脂シート5・7は、上下方向に所要の間隔をおいた複数個所で、かつ上記他端側に非融着部を設けた状態で水平方向へ加熱融着して複数個の空気流通部13が形成される。上記他端側における上記2枚の合成樹脂シート5・7間の非融着部は、各空気流通部13と連通する供給側共通空間部15に形成される。
【0017】
保温シート1の下端縁に位置する融着部19及び隣接する空気流通部13間における合成樹脂シート5・7の融着部17には、上下側の空気流通部13に連通する排水部17a・19aが水平方向へ所定の間隔をおいて形成される。各排水部17a・19aは、上記2枚の合成樹脂シート5・7の下端縁を加熱融着してシールする際や、中間部を加熱融着して空気流通部13を形成する際に、融着部17・19の一部を上下方向に延びる非融着部を設けることにより形成する。また、各排水部17a・19aは、上下方向に対して互いに一致する状態または不一致の状態で形成してもよい。
【0018】
なお、保温シート1の下部には、保温シート1の下端長手方向へ延びる樋等の排水路21を配置し、流出する結露水を受けて所定個所へ排水するように構成される。
【0019】
上記のように構成された保温シート1は、以下のように使用される。
農業用ハウスの側面に沿って吊下げられた保温シート1に対し、送風装置からの空気を供給口部9及び供給側共通空間部15を介して各空気流通部13内に供給すると、各空気流通部13は、供給された空気の圧力により膨らまされて空気断熱層に形成されると共に内部を流通する空気は、内側の合成樹脂シート7を透気して農業用ハウス内へ放出される。(図5参照)
【0020】
これにより膨らんだ空気流通部13内の空気層により農業用ハウス内を外気から断熱してほぼ一定の温度に保たせる。なお、送風装置は、農業用ハウス内に設けられた温度センサー(図示せず)からの室温検知信号に基づいてON−OFF制御されることにより農業用ハウス内を一定温度となるように保たせる。
【0021】
上記保温シート1は、通常は上記したように各空気流通部13内にハウス内の空気を送り込んで農業用ハウス内の室温を一定に保つようにして使用されるが、各空気流通部13内に対する空気の供給を長時間にわたって停止する場合がある。
【0022】
このよう場合にあっては、各空気流通部13内の空気が外気により冷却されることにより含有された水分が結露することになる。各空気流通部13内で結露した結露水は、各空気流通部13の内面に付着しながら滴下して下部に溜まることになるが、本実施例においては、図6に示すように各空気流路部9内に溜まった結露水を、融着部17の排水部17aを介して下方の空気流通部13内へ順に排水させる。
【0023】
そして最下段に位置する空気流通部13内に溜まった結露水は、保温シート1における下端部を融着部19に形成された排水部19aを通過して保温シート1外へ排水させられた後、上記した排水路21に集められて所定の個所へ排水させられる。
【0024】
本実施例は、寒冷期において保温シート1の各空気流通部13内に対する空気の供給を長い時間にわたって停止した場合であっても、冷気により各空気流通部13内の空気中に含まれた水分が結露して発生する結露水を保温シート1外へ排出することができるため、各空気流通部13内に滞溜する結露水に含まれている雑菌が増殖して保温シート1の透光性が悪くしたり、農業用ハウス内の土壌を汚染したりするのを防止することができる。
【実施例2】
【0025】
実施例2に係る保温シート51は、農業用ハウスの側面にほぼ一致する大きさの2枚の非透気性合成樹脂シート53・55を以下のように加熱融着して構成する。
【0026】
すなわち、図7に示すように、重ね合わされた2枚の合成樹脂シート53・55は、非透気性で、その上下端縁を加熱融着してシールされる。また、重ね合わされた2枚の非透気性合成樹脂シート53・55における一方の側端縁(空気供給側)は、内部と連通する供給口部57a及びリターン口部57bを設けて加熱融着してシールされると共に他方の側端縁(空気排出側)は、内部と連通する排出口部59を設けて加熱融着してシールされる。
【0027】
そして一方の供給口部57aは、送風装置(図示せず)が接続され、保温シート51の内部にハウス内の空気を供給可能にしている。また、他方のリターン口部57b及び排出口部59には、非透気性の合成樹脂シートにより筒体状のリターン流路63の各端部が接続され、保温シート51内部にて空気を循環可能にさせる。
【0028】
更に、重ね合わされた2枚の非透気性合成樹脂シート53・55は、上下方向へ所定の間隔をおき、両側に除いた個所を水平方向へそれぞれ加熱融着して複数段の空気流通部65が形成される。供給口部57a及びリターン口部57b側の空間部は、供給側共通空間部67を、また排出口部59側の空間部は、排出側共通空間部69を形成している。
【0029】
隣接する空気流通部65の融着部71には、上下方向に延びてそれぞれの空気流通部65と連通する複数の排水部(図示せず)が水平方向へ所定の間隔をおいて形成される。また、重ね合わされた2枚の非透気性合成樹脂シート53・55の下端部をシールする融着部73には、上記排水部と同様の上下方向に延びて最下段の空気流通部65と連通する複数の排水部(図示せず)が水平方向へ所定の間隔をおいて形成される。なお、保温シート51の下部には、樋等の排水路75が配置され、下部から流出する結露水を受けて所定個所へ排水するように構成される。
【0030】
本実施例に係る保温シート51は、空気の供給が停止された際に、空気流通部65内の空気に含まれる水分が外気により冷却されて結露した結露水をそれぞれの排水部により外部へ排水する作用効果において実施例1と同様であるが、保温シート51の各空気流通部65内に空気を供給すると共に各空気流通部65を通過して温度が低下した空気を、リターン流路63を介して供給側へ戻し、再び、ハウス内の空気と共に循環させて温度低下を低減することができる点において相違する。
【0031】
上記説明は、保温シート1・51の下端縁に水平方向へ所定の間隔をおいて複数個の排水部19aに設けると共に排水路21・75を配置し、最下段の空気流通部13・65内に溜まった結露水を排水可能に構成したが、最下段に位置する空気流通部13・65の側部に排水口を形成し、該排水溝を介して内部に溜まった結露水を所定の容器や排水管へ排水可能としてもよい。
上記説明は、2枚の合成樹脂シートを加熱融着する際に、非融着部を設けて排水部を形成する構成としたが、該排水部にあっては、合成樹脂シートの融着個所に非溶融のパイプを配置して融着して設ける構成であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 保温シート
5・7 合成樹脂シート
9 供給口部
13 空気流通部
15 供給側共通空間部
17 融着部
17a 排水部
19 融着部
19a 排水部
21 排水路
51 保温シート
53・55 合成樹脂シート
57a 供給口部
57b リターン口部
59 排出口部
63 リターン流路
65 空気流通部
67 供給側共通空間部
69 排出側共通空間部
71 融着部
73 融着部
75 排水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウスの側面全体を覆うように配置され、少なくとも二枚の合成樹脂シートを、上下方向へ所定の間隔をおいた個所にて水平方向へ融着して複数の空気流路部が形成された保温シートにおいて、
合成樹脂シートの各融着個所には、それぞれの空気流路に連通する複数の排水部を水平方向へ所要の間隔をおいて設けた保温シート。
【請求項2】
請求項1において、各合成樹脂シートは、非透気性合成樹脂シートとした保温シート。
【請求項3】
請求項1において、外側に位置する合成樹脂シートは、非透気性からなると共に内側に位置する合成樹脂シートは、透気性からなる保温シート。
【請求項4】
請求項3において、内側に位置する合成樹脂シートは、多数の微小細孔が形成されて透気性とした保温シート。
【請求項5】
請求項1において、各合成樹脂シートの空気供給側には、それぞれの空気流通部に連通する共通供給空間部を設け、該共通供給空間部内へ空気を供給して各空気流通部内へ空気を流通可能にした保温シート。
【請求項6】
請求項2において、各合成樹脂シートの空気供給側及び排出側には、各空気流通部に連通する共通供給空間部及び共通排出空間部を設けると共に共通供給空間部と共通排出空間部を循環口部により接続し、各空気流通部内を通過する空気を循環可能にした保温シート。
【請求項7】
請求項1において、各排水部は、それぞれの合成樹脂シートを加熱融着して空気流通部を形成する際に、非融着部として隣接する空気流通部を連通可能にした保温シート。
【請求項8】
請求項1において、各合成樹脂シートの下端縁は、非融着部を設けて加熱融着してシールし、最下段の空気流通部内を外部と連通可能にした保温シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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