説明

農用散布剤

【課題】 乾燥速度が速い農用散布剤
【解決手段】 リグニンスルホン酸カルシウムと、これとは異なる水溶性のカルシウム化合物とを2:8〜5:5で配合した農用散布剤は、果皮や葉面に付着しても目立たず、光を透過させるから葉面に付着しても光合成を阻害しない。果面に施用すれば果面保護剤として機能し、葉面に施用すれば葉面から吸収されるのでカルシウム肥料としての効果も高い。しかも、水溶液を散布後の乾燥速度が速く、葉面や果面が速やかに乾燥するから、空気中を浮遊していたカビ等の菌が付着して増殖するおそれはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば葉面散布で施用される農用散布剤の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
果樹等の栽培に際して、例えばカルシウム肥料として、或いは他の目的(例えば薬害軽減や果面保護等)でカルシウム化合物の水溶液を葉面等に散布することが行われている(例えば特開2001−206803号公報)。
【特許文献1】特開2001−206803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
カルシウム化合物(例えば蟻酸カルシウム)を水溶液として散布した場合、散布時の温度、湿度によって一律ではないものの、乾燥するまでに時間がかかる(例えば1時間以上も湿った状態にある)場合があった。葉面や果面がいつまでも湿ったままであると、空気中を浮遊していたカビ等の菌が付着して増殖するおそれがあり、またリンゴ等では、湿りが原因で果面にサビが発生することがあった。こうしたことから、水溶液として葉面等に散布する農用散布剤において、その乾燥速度を速くすることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の農用散布剤は、水溶性高分子化合物と、水溶性のカルシウム化合物(但し、前記水溶性高分子化合物を除く)とを必須成分とし、前記水溶性高分子化合物:前記水溶性のカルシウム化合物の配合比(質量基準)が1:9〜9:1であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の農用散布剤は、水溶液として散布される。その際の希釈倍率は散布対象(植物種類)、散布目的、散布時期等に応じて適宜とされればよいが、一般的には100倍〜10000倍、好ましくは500倍〜1000倍である。
【0006】
本発明の農用散布剤は、散布後に例えば葉面から吸収されてカルシウム肥料となる。また、果面に散布して乾燥すると析出した結晶が果面を被覆するので果面保護剤として機能する。なお、本発明の農用散布剤の用途はこれらの例に限定されるわけではない。
【0007】
水溶性高分子化合物としては、請求項3記載のリグニンスルホン酸塩(リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム及びこれらの混合塩)、請求項4記載のカルボキシメチルセルロースナトリウム又はカルボキシメチルセルロースカルシウム、請求項5記載の天然多糖類が例示される。これらを単独で用いてもよいし複数種類を混用してもよい。
【0008】
カルシウム化合物(例えば蟻酸カルシウム)の水溶液を散布した場合、その乾燥速度は水とほとんど同じであるが、水溶性高分子化合物を農用散布剤の組成に含み、水溶性高分子化合物:水溶性のカルシウム化合物の配合比を1:9〜9:1にすると、散布された水溶液の乾燥速度が速まる。
【0009】
散布後の乾燥速度が速い(葉面や果面が速やかに乾燥する)ので、空気中を浮遊していたカビ等の菌が付着して増殖する危険性が低下する。またリンゴ等でのサビ発生も防止できる。
【0010】
水溶性高分子化合物と水溶性のカルシウム化合物の配合比は1:9〜9:1の範囲で適宜に選択すればよい。
但し、散布対象(植物種類)、散布目的、散布時期等で配合比を変化させるのも煩わしいから、適度な配合比のものを2、3種類用意しておいて使い分けるとよい。その場合、水溶性高分子化合物と水溶性のカルシウム化合物の配合比を2:8〜5:5の範囲にすれば、ある程度の汎用性が得られる。つまり、請求項2に記載の2:8〜5:5の範囲が好適である。
【0011】
なお、配合比が上述の範囲をわずかに外れたからといって、ただちに本発明による各効果が失われるわけではない。
ところで、請求項3記載のリグニンスルホン酸塩(リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム及びこれらの混合塩)は、分散性、粘着性、濡れ性に優れているので、農業分野では肥料や除草剤のための造粒剤、水和剤用の分散剤、展着剤等に使用されている。
【0012】
一般に、展着剤として使用する際のリグニンスルホン酸塩の配合比は、主剤に比べてきわめて微量であり、そうした使用量では乾燥速度を速める効果は期待できない。本発明の農用散布剤は、リグニンスルホン酸塩を展着剤または類似の目的で使用する場合とは大きな違いがある。但し、リグニンスルホン酸塩の濡れ性、展着性は、本発明の農用散布剤を葉面や果面全体に均等に展着させるために利用できる。
【0013】
水溶性高分子化合物の多くは(請求項3のリグニンスルホン酸塩、請求項4のカルボキシメチルセルロースナトリウム又はカルボキシメチルセルロースカルシウム、請求項5の天然多糖類は)、乾燥したときに(結晶)は透明になる。このため、果皮や葉面に付着してもまったく目立たないし、光を透過させるから葉面に付着しても光合成を阻害しない。水溶性のカルシウム化合物も同様に果皮や葉面に付着してもまったく目立たないし、葉面に付着しても光合成を阻害しない。すなわち、本発明の農用散布剤は果面や葉面に残留して見栄えを悪くする(商品価値を低下させる)ことはなく、光合成を阻害することもない。
【0014】
水溶性高分子化合物の中でも、リグニンスルホン酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウムのようなカルシウム化合物は、葉面等に付着して植物に吸収されるのでカルシウム肥料としての効果も高い。従って、本発明の農用散布剤をカルシウム肥料として使用する場合には、リグニンスルホン酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウムを使用するのが好ましい。
【0015】
また、本発明の農用散布剤は、上述の通り果面等を保護する効能もあり、リグニンスルホン酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウムなら、果面保護の効能も期待できる。リグニンスルホン酸カルシウム又はカルボキシメチルセルロースカルシウムの使用はこの点からも好ましい。
【0016】
もう一方の必須成分である水溶性のカルシウム化合物(水溶性高分子化合物以外のカルシウム化合物)は、カルシウム肥料、果面保護など、カルシウム剤としての機能成分である。
【0017】
水溶性のカルシウム化合物の具体例として、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなどの無機酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムなどの有機酸カルシウムが例示される。水溶性のカルシウム化合物は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【0018】
水溶性の有機酸カルシウムの多くは結晶が透明(透光性)であるから、葉面に付着しても光合成を阻害しないので、本発明に適している。また、無機酸カルシウムでもこの条件に適合するものならば、同様に適している。
【0019】
但し、水溶液にしたときのpHが中性〜弱酸性であることが植物にとって好ましいので、この条件を考慮すると有機酸カルシウムが優れている。そうした有機酸カルシウムの中でもカルボン酸カルシウムが好ましく、特に蟻酸カルシウムは水溶液(10%溶液)のpH値がほぼ7で、例えば500〜1000倍程度に希釈して用いるれば事実上中性と言えるのできわめて好適である。
【0020】
本発明の農用散布剤は水溶性高分子化合物と水溶性カルシウム化合物とを必須とするが、上述したとおりこれら必須成分以外の添加を要さないから、必須成分のみで構成されればよい。但し、施用に当たって(施用者の判断で)、他の成分を添加したり、他の薬剤等と混用することを否定するものではない。
【0021】
次に、本発明の実施例により発明の実施の形態をより具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまに実施できることは言うまでもない。
[実施例1]
リグニンスルホン酸カルシウムと蟻酸カルシウムとを2:8(質量基準)で配合し、撹拌によって混合して農用散布剤を得た。
[実施例2]
リグニンスルホン酸カルシウムと蟻酸カルシウムとを5:5(質量基準)で配合し、撹拌によって混合して農用散布剤を得た。
[散布実験]
実施例1、2の農用散布剤を水に溶解させて水溶液とし、それぞれ500倍と1000倍の希釈液としてリンゴ樹に散布した。乾燥後に葉面及び果面を肉眼で観察したところ、粉末と認められる程の付着物は無く、葉面及び果面の外見は散布前と同様であった。農用散布剤の成分(リグニンスルホン酸カルシウム、蟻酸カルシウム)の結晶が析出しているはずであるが、肉眼レベルではまったく問題にならないことが確認できた。すなわち、果面に残留して果実の見栄え(商品価値)を低下させることはなく、葉面に付着したものが光合成を阻害することもない。
[果面保護]
上記農用散布剤を散布したリンゴ樹から収穫したリンゴ果(100果)の表面の状態を観察較したところ、葉による擦過傷やサビなどの果皮障害は認められず、果面保護効果を確認できた。
[乾燥実験]
実施例1の農用散布剤(下記の表中ではA)を100倍、500倍及び1000倍に調製した水溶液をハンドスプレーで果実全体に吹きかけ、その後放置して乾燥状態を観察して完全に乾燥するまでの時間を測定した。なお、水及び炭酸カルシウム100倍水和液を対照とした。
実験条件:品種 ふじ、気温21℃、室内、無風、展着剤無添加
【0022】
【表1】

表1に示すとおり、実施例1の農用散布剤は水だけの場合と比べて乾燥速度が速い。また、濃度が高くなるにつれて乾燥速度が速まる傾向があり、100倍では炭酸カルシウムと同等になる。
【0023】
このように散布後の乾燥速度が速く、葉面や果面が速やかに乾燥するから、空気中を浮遊していたカビ等の菌が付着して増殖するおそれはないし、サビの発生も防止できる。
なお、対照とした炭酸カルシウムは、果面保護の効能はあるものの水溶性でなくて植物に吸収されないからカルシウム肥料にはならない。また、炭酸カルシウムは白色粉末であるため、これが果面に残留した場合には見栄えを悪化(商品価値を低下)させ、葉面に付着した場合は光合成を阻害する。
[その他]
リグニンスルホン酸カルシウムと蟻酸カルシウムとを2:8、5:5の配合例を実施例としたが、これらの中間の配合比でも実施例と同様の効果を得られる。
【0024】
本発明の農用散布剤は水溶液として散布するのに適しており、それ故に水溶性高分子化合物と同じく水溶性のカルシウム化合物とを必須成分としているが、用途によっては水で溶かずに粉末のままで散布しても構わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物と、水溶性のカルシウム化合物(但し、前記水溶性高分子化合物を除く)とを必須成分とし、
前記水溶性高分子化合物:前記水溶性のカルシウム化合物の配合比(質量基準)が1:9〜9:1である
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項2】
請求項1記載の農用散布剤において、
前記水溶性高分子化合物:前記水溶性のカルシウム化合物の配合比(質量基準)が2:8〜5:5である
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の農用散布剤において、
前記水溶性高分子化合物はリグニンスルホン酸塩である
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項4】
請求項1又は2記載の農用散布剤において、
前記水溶性高分子化合物はカルボキシメチルセルロースナトリウム又はカルボキシメチルセルロースカルシウムである
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項5】
請求項1又は2記載の農用散布剤において、
前記水溶性高分子化合物は天然多糖類である
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の農用散布剤において、
前記水溶性のカルシウム化合物は無機酸カルシウムである
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の農用散布剤において、
前記水溶性のカルシウム化合物は有機酸カルシウムである
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項8】
請求項7記載の農用散布剤において、
前記有機酸カルシウムはカルボン酸カルシウムである
ことを特徴とする農用散布剤。
【請求項9】
請求項8記載の農用散布剤において、
前記カルボン酸カルシウムは蟻酸カルシウムである
ことを特徴とする農用散布剤。