説明

農薬分析のための方法およびキット

イムノケミルミネセンスを利用してpptレベルで農薬を迅速検出する方法が開示される。前記方法は、ガラスキャピラリーカラムに充填された固定化抗体を充填する工程、農薬含量を試験すべき試料溶液を前記カラムに通し農薬抗体抱合体を形成する工程、前記農薬抗体抱合体をカラムから除去する工程およびそこへ尿素H22を、次いでルミノールおよびK3Fe(CN)6を加える工程、光が発生するまで前記溶液を完全に混合する工程および前記の発生した光をCCDカメラにより捕捉する工程を含む方法であって、発生した光の強度が前記試料中の農薬含量の量に正比例している方法である。本発明は、本発明の方法を実施するためのキットも開示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷結合素子に基づく農薬分析の迅速テストキットを提供する。本発明は、農薬分析のための電荷結合素子に基づくテストキットの製造方法ならびに水、食品および環境中の農薬濃度を決定するためのその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
水および農業に関連した環境保護には、人間の健康のために切迫した注意が必要である。主な健康上の問題は汚染された水および食物の使用により起こる。農業における有機塩素系および有機リン系農薬の利用は多くの国で実施されてきた。最近数十年に農業での農薬使用が増加した結果として、地下水、食品原料および加工食品は残留農薬により汚染されてきている。
【0003】
汚染監視および保護当局は、汚染物質を分析するための迅速かつ敏感な方法を必要としている。農薬分析に通常使用される分析方法には、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーおよびELISA法がある(Lehotay,S.J.,analysis of pesticide residues in mixed fruit and vegetable extracts by direct sample introduction/Gas chromatography/tandem mass spectrometry,J.AOAC Int.,2002,83,680−697;Sasaki.K.,Suzuki.K., and Sito. Y.,(1987)‘A simplified cleanup and gas chromatographic determination of organophosphorous pesticides in crops’ Journal of the Association of Official analytical Chemists International,70,460−464.Fernandez.M.,Pico,Y.,Girotti,S.,Manes,J.,‘Analysis of organophosphorous pesticides in honey bee by liquid chromatography−atmospheric pressure chemical ionization−mass spectrometry’,J.Agric.Food chem.2001,49,3540−3547)。
【0004】
これらの従来法はppbレベルまで感度があるが、時間と手間がかかり、熟練した専門家および高価な機器を要する。バイオセンサーは、農薬を迅速かつ経済的に検出する代替の機器法である。農薬の迅速な定性検出のためのバイオセンサーの応用に関する文献は少ない。特に、定性迅速技術は、現場応用のための水および食品材料中のメチルパラチオン(MP)残留農薬の検出には利用できない。
【0005】
米国特許第6,569,384号(発明者;Greenbaum;Elias(Oak Ridge,TN);Sanders;Charlene A.(Knoxville,TN)May 27、2003,‘Tissue−based water quality biosensors for detecting chemical warfare agents’)を参照する。彼らが記載しているのは、水をセル中に導入し、水中の天然で自由生活性の土着光合成生物体の光合成活性の分析に適したセルから水を排出する装置;セル中に入れられたこれらの生物体の光合成活性を測定するための蛍光計;および蛍光計からの生データを分析し、μg/ml(ppmレベル)で少なくとも1種の農薬の存在を示すシグナルを発する電子回路パッケージである。この方法の限界は、わずかppbレベルまでの農薬の検出ならびに時間がかかりどの農薬にも特異的でないことである。この方法は、多くの有機リン系およびカルバメート農薬に非特異的に応答するであろう。
【0006】
Mosiello,L.,Cremisini,C.,Sergre,L.,Chiavarini,S.およびSpano,M.(1998)、Dipstick Immunoassay format for atrazine and Terbuthylazine analysis in water samples. J.Agric.Food Chem.46,3847−3851に記載されているディップスティックイムノアッセイ法を参照する。この方法では、抗体がナイロンメンブレン上に固定化され、反射計が使用される場合検出限界は1.2から10μg/L-1(ppbレベル)であった。この方法の検出限界はppbレベルである。報告されているとおり、この方法に存在する主な問題は低い精度であり、おそらくナイロンメンブレンまたはポリスチロールトランスペアレント上のモノクローナル抗体の均一性および着色TMB電荷移動錯体の不安定性の問題による。
【0007】
WO9314222中のEliezer,Z.,Steven,S.,Stanely E.C.Sciences,Cによる農薬測定のためのテストキットおよび方法を参照する。この公報では、生物学的検知剤として昆虫の脳の使用が開示されている。しかし、この公報は農薬の検出限界および分析に要する時間を記載していない。
【0008】
以上で報告した従来技術の方法は時間がかかる。さらに、公知の方法のほとんどは検体に対して特異的でなく、しっかりした技術知識が使用者に求められる。したがって、農薬分析に使用するための改善された方法およびテストキットが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の重要な目的は、上記の欠点を回避する、農薬検出用の迅速テストキットの提供である。
【0010】
本発明の他の目的は、イムノケミルミネセンス(immuno−chemiluminescence)原理を利用した高感度(pptレベル)での農薬検出のための迅速テストキットの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記の目的または他の目的は、新規な方法でケミルミネセンス(CL)および生化学反応を利用して、高感度(pptレベル)で農薬濃度に比例する光を生じさせることにより、本発明により達成される。ケミルミネセンス(CL)を利用する、農薬、特にメチル/エチルパラチオン(MP/EP)の測定に関する情報は現在ない。CL系テストキットは、検体の非常に低い濃度を検出するのに非常に鋭敏であることが知られている。CL法は、鋭敏な迅速アッセイおよび丈夫で安価な機器の可能性など多くの利点を有し、そのためこのテストキットは農薬測定における魅力的な分析手段となった。これに関し、(J Wang C.Zhang,H.Wang,F.Yang and X.Zhang,2001,Development of a luminol based chemilumnescence flow injection method for the determination of dichlorvos pesticide,54,1185−1193)を参照するが、彼らはジクロルボスをppmレベル(0.2−3.1μg/ml)で検出している。しかし、この方法はメチルパラチオンの検出には役に立たない。上述の従来技術法には抗体−抗原反応の関与が全くないことに留意すべきである。それに対し、本発明の新規性は、電荷結合素子(CCD)に結合した農薬に特異的な、抗体−抗原反応の利用にある。ケミルミネセンスおよびCCDカメラを利用した、高感度(最高pptレベル)の農薬の検出に関する報告は存在しない。本発明中で開発されたCL系テストキットは、最高pptレベルでの迅速かつ鋭敏な農薬検出を可能にする。本発明の他の新規性は、フェリシアン化カリウムなどの電子伝達体を利用して、発せされる非常に低レベルの光シグナルを増幅し、それによりppmからpptレベルの異なる農薬濃度の明確な識別を可能にする点にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、過酸化水素による電子供与体基質のHRP酵素触媒酸化を示し、図2は、本発明による農薬テストキット使用のフローチャートを示す。
【0013】
イムノケミルミネセンス(ICL)に基づく農薬検出の原理:
本発明は、過酸化水素(H22)の存在下で、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)がルミノールの酸化を触媒するという発見に基づいている。ルミノールの酸化の直後、それは励起状態に達し、次いで発光により基底状態に戻る。この方法を利用し、エチルパラチオン(EP)およびメチルパラチオンなどの農薬を、それぞれの抗体を使用し検出することが可能である。
【0014】
HRP酵素は、以下の図式により、過酸化水素による電子供与体基質の酸化を触媒する。
HRP+H22→錯体1+H2
錯体(1)+ルミノール(LH2)→錯体(II)+ルミノールラジカル(LH-
錯体(II)+ルミノールラジカル(LH-)→化合物2+ルミノール(完全に酸化)+光
【0015】
農薬検出:
MP抗体を、イムノバイオリアクター(immunobioreactor)カラム中のキャリアマトリックス上に過剰に固定化する。農薬分子は固定化された抗体と結合する。このプロセスの間、抗体部位のいくつか(エピトープ)は結合していないままである。これらの未結合部位は、MP−HRP−抱合体の結合に利用可能である。一定量のMP−HRP−抱合体がカラムを通過したので、それにより残った抗体エピトープ部位はこの抱合体により占領される。この抗体カラムを完全に洗浄する。農薬およびMP−HRP−抱合体を有するこれらの固定化マトリックスを取り出し、上記のケミルミネセンス反応を施す。しかし、この反応中で、発生する光は非常に低強度である。光の強度を上げるために、電子伝達体K3FeCN6を加える。より多くの未反応H22を有する高い農薬濃度では、K3FeCN6はこれと反応し、農薬濃度と正比例する光強度の増加をもたらす。
【0016】
図1に示すとおり、過酸化水素(H22)の存在下、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)は、ルミノールの酸化を触媒する。ルミノールの酸化の直後、それは励起状態に達し、次いで発光により基底状態に戻る。この方法を利用し、エチルパラチオン(EP)およびメチルパラチオンなどの農薬を、それぞれの抗体を使用し検出することが可能である。
【0017】
図2は、本発明による方法およびキット(または装置)を表している。イムノケミルミネセンスを利用する、pptレベルでの農薬の迅速検出のための本発明によるキット(または装置)は、固定化抗体を充填するキャピラリーカラム6を含む。農薬含量を試験すべき試料溶液2の源は、前記カラム6に作動的に結合している。緩衝液1の源は、抗体を平衡化し未結合農薬を洗浄するために、前記カラムに作動的に結合している。尿素H22、ルミノールおよびK3Fe(CN)6の源も前記カラム6に作動的に結合している。好ましくは、前記の試薬の源の全ては、蠕動ポンプ5を通じて前記カラム6に結合している。前記試薬を混合すると光が発生するが、前記カラム6に結合しているカラム7で起こる。発生した光はCCDカメラ8により捕捉され、発生した光の強度を記録するが、対照試料との比較を行うコンピュータ9に結合している。
【0018】
本発明による水中の農薬の存在を検出する方法の好ましい実施形態は、以下を含む。
(1)ニワトリ中に発生し卵黄から精製され(IgY−MP)、還元アミノ化によりセファロースマトリックスに固定化された(Hermanson G.T.,A.K.Mallia and Smitjh P.K.,Immobilized affinity ligand techniques.Academic press,1992,69−75)メチルパラチオン(MP)抗体を充填カラムに入れ、フローELISAを実施したが、そこでは異なる濃度のMPおよびMP−HRP−抱合体を以下に記載のとおり使用した。2)150μlの固定化抗体をガラスキャピラリーカラムに充填し、床体積の10倍の冷PBS(pH7.4、50mM)で平衡化した。農薬を含むこの溶液の50μlの試料を、50μl/分の流速でカラムに通した。3)PBSを5分間連続して通し、未結合農薬を洗浄した。4)25μlのMP−HRP−抱合体を50μl/分の流速でカラムに通した。5)未結合の抱合体を、0.1%BSAを含むPBSを用いて15分間洗い流した。6)最後に、抱合体含有マトリックスをカラムから取り出し、以下のとおりケミルミネセンス試験に用いた。
【0019】
上記のとおり得られた50μlの抱合体含有マトリックスに、25μlの尿素H22(Milli Q中10mM)を加え、室温で2分放置した。次いで、25μlの0.1mMルミノールを、25μlの0.5%K3Fe(CN)6(Milli Q水中で調製)に加え、完全に混合した。このプロセスの間、光が発生し、直ちに暗室条件下でCCDカメラにより捕捉する。画像中の光の強度を、農薬のない対照と比べた。農薬含有試料中で発生する光がより多い一方で、対照中ではより少ない光が発生したことを見いだした。農薬濃度が高いとより多くの光が発生した一方で、より少ない農薬を含む試料ではより少ない光が観察されたことも観察した。
【0020】
以下の実施例は説明のためのみに与えるので、本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。
【実施例】
【0021】
この実施例は、図2に図式的に示される本発明を説明する。図2を参照すると、150μlの固定化抗体をガラスキャピラリーカラム6に充填し、床体積の10倍の冷PBS(pH7.4、50mM)で平衡化した。農薬を含む溶液2の50μlの試料を、50μl/分の流速でカラム6に通した。PBS1を5分間連続して通し、未結合農薬を洗浄した。25μlのMP−HRP−抱合体3を50μl/分の流速でカラム6に通した。未結合の抱合体を、0.1%BSAを含むPBS1を用いて15分間洗い流した。上記の試薬の全ては、蠕動ポンプ5を通してカラム6に通すことが好ましい。最後に、抱合体含有マトリックスをカラムから取り出し、以下のとおりケミルミネセンス試験に用いた。
【0022】
上記のとおり得られた50μlの抱合体含有マトリックスに、25μlの尿素H22(Milli Q中10mM)を加え、室温で2分放置した。次いで、25μlの0.1mMルミノールを、25μlの0.5%K3Fe(CN)6に加え、7に示すとおり完全に混合した。このプロセスの間、光が発生し、直ちに暗室条件下でCCDカメラ8により捕捉する。画像中の光の強度を、コンピュータ9により農薬のない対照と比べた。
【0023】
ICL強度を、異なる農薬(MP)濃度、すなわち100ppb、1ppb、500pptおよび10pptで、農薬を全く有さない対照とともにモニターした。10pptまで明らかに観察できるCL強度が確認できる。図2の下部から分かるとおり、低農薬濃度では、試料と対照の間のCLの差異は区別できない。このテストキット装置により、10pptまでの農薬の存在および非存在を検出することが可能であった。
【0024】
本発明の農薬分析の単純な光検出キットにより、一般の人ですら、水、食品および環境中の農薬を試験することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】過酸化水素による電子供与体基質のHRP酵素触媒酸化を示す。
【図2】本発明による農薬テストキット使用のフローチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノケミルミネセンスを利用してpptレベルで農薬を迅速検出する方法であって、ガラスキャピラリーカラムに充填された固定化抗体を充填する工程、農薬含量を試験すべき試料溶液を前記カラムに通し農薬抗体抱合体を形成する工程、前記農薬抗体抱合体をカラムから除去する工程、そこへ尿素H22を、次いでルミノールおよびK3Fe(CN)6を加える工程、光が発生するまで前記溶液を完全に混合する工程、および前記の発生した光をCCDカメラにより捕捉する工程を含む方法であって、発生した光の強度が前記試料中の農薬含量の量に正比例している方法。
【請求項2】
前記抗体が、ニワトリ中に発生し卵黄から精製され(IgY−MP)、セファロースマトリックスに固定化されたメチルパラチオン(MP)抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記尿素H22が10−50μlの範囲で利用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルミノールが10−50μlの範囲で利用される。請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記K3FeCN6が10−150μlの範囲で利用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
尿素H22の添加後に、前記農薬抗体抱合体が室温で約2分間維持される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カラムにリン酸緩衝液が供給されて未結合農薬を洗浄する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
イムノケミルミネセンスを利用してpptレベルで農薬を迅速検出するキットであって、固定化抗体を充填するためのキャピラリーカラム、農薬含量に関して試験すべき試料溶液の源であって前記カラムと作動的に結合している試料溶液の源、前記カラムと作動的に結合している農薬の源、前記カラムと作動的に結合している緩衝液の源、前記カラムと作動的に結合している尿素H22の源、前記カラムと作動的に結合しているルミノールの源、光が発生するまで全ての試薬が完全に混合されるように前記カラムと作動的に結合しているK3Fe(CN)6の源、発生した光の捕捉および発生した光の強度を前記試料中に存在する農薬の濃度の関数として記録するCCDカメラを含むキット。
【請求項9】
コンピュータが前記CCDカメラと結合して試験試料により発生した光を対照試料と比較する、請求項7に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−531862(P2007−531862A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512745(P2005−512745)
【出願日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000446
【国際公開番号】WO2005/064331
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】