説明

近接場プローブの作製方法

【課題】高精度で近接場光を取り出すために、近接場プローブを作製するにあたり、小孔を、短時間の内に、小孔の開口径のばらつきを小さく高精度で設ける。
【解決手段】小孔の空いていない錐体型の近接場プローブ用材料の先端に、先端の側方から集束イオンビームを照射し、開口径5000nmφ以下の小孔をあける。集束イオンビームの入射角は、錐体の垂線に対して、70〜110度の角度が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、例えば、Siや多結晶Si 、GaN、ZnOなどの最先端材料とこれらを用いた電子デバイスの応力(歪み)、結晶性、不純物・欠陥をナノメータスケールの空間分解能や深さ分解能で分析するために、ラマン分光法やフォトルミネッセンス法、カソードルミネッセンス法に用いられる近接場プローブの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の開発および製造工程において、半導体ウェハなどの基板の応力や歪みを測定することが重要視されている。そして、従来からシリコンなどの半導体材料の応力測定に関してはラマン分光技術が知られている。このラマン分光技術を用いた応力測定は、応力が作用した場合ラマンスペクトルがシフトすることを利用し、ラマンスペクトルのピーク位置の変化から測定点における応力を推定するものである(特許文献1,2)。
【0003】
通常のラマン分光法は光学顕微鏡を使用しているためにミクロンレベルの観察しかできず、しかも光の回折限界による制約のために分析上の空間分解能も500nm程度に限定
されている。紫外レーザー光励起ラマン分光法を用いてもレンズ系の収差の問題から、500nm以下の空間分解能で測定することは実質的には困難である。
【0004】
そこで、光の回折限界を打ち破る方法として、近接場光を利用したラマン分光装置の開発が進んでいる。例えば、開口径100nmφを持つ微小小孔を開口径と同程度の距離まで試料に近づけると、その微小小孔近傍にしか存在しない、局在した光、近接場光が発生する。この局在した近接場光で測定試料を励起すれば、光の回折限界を破る、空間分解能が得られる。空間分解能は、励起するレーザー光には依存せず、近接場プローブの小孔の開口径の大きさで決まる。
【0005】
可視領域に限って近接場ラマン分光装置の開発も進んでいるが、もちろん、ナノメータレベルの観察は困難であり、現状では感度・空間分解能の点からは実用レベルには至っていない。現状の近接場ラマン分光装置の問題点は、信号強度が従来の光学顕微鏡を用いた顕微ラマン分光装置よりも6桁以上弱いことに起因している。
【0006】
従来は、化学エッチング法などを用いて、内部が空洞化された探針の構造を有する近接場プローブの先端に小孔をあけていた。しかしこの方法の場合には、エッチング時間や先端をエッチング液に浸す深さのばらつきのために、正確な小孔の開口径の制御が困難であったことと、エッチングに多大な時間が必要であるという問題があった。プローブの開口部、すなわち、小孔の構造は近接場信号を取り出すための心臓部であり、小孔のあけ方の違いで、近接場光の感度が大きく左右され、近接場光が全く検出されない場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−233928号公報
【特許文献2】特開2005−233732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高精度で近接場光を取り出すために、近接場プローブを作製するにあたり、小孔を、短時間の内に、小孔の開口径のばらつきを小さく高精度で設けることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために本発明は以下の手段をとる。
【0010】
内部に空洞を有する錐体型であり、錐体型の頂点である先端に小孔を有する近接場プローブの作製方法であって、先端に対し、先端の側方から集束イオンビームを照射し、開口径5000nmφ以下の小孔をあけることを特徴とする近接場光を取り出すための近接場プローブの作製方法であり、さらに光照射装置、測定される試料が載置される試料台、試料が載置される部位の近傍に配置され、前記作成方法で得られた近接場プローブ、および光照射装置による光の照射により得られた近接場光が通過する光学レンズを有することを特徴とする近接場光顕微鏡である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、従来の化学エッチング法に比べて、好ましい開口径の小孔を±10%の誤差範囲内で探針の先端にあけることができるため、ばらつきの少ない近接場プローブの作製が可能になり、コストを低減させ、作製時間を大幅に短縮することができ、得られた近接場プローブにより高い確率および精度で近接場光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で近接場光の取り出し効果を調べた装置の概念図。
【図2】近接場プローブの形状および集束イオンビームとの関係を示す図。
【図3】照射角度の差による近接場プローブの先端の形状および試料との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず近接場プローブについて図2を用いて説明する。目的とする近接場プローブ4は錐体型であり、錐体の頂点である先端に小孔8を有する。近接場プローブ4はカンチレバー7によって支持されている。目的とする小孔8の大きさは近接場効果を得るために開口径5000nmφ以下である。さらに近接場プローブの先端の反対側の底面の面積が10000mm2以下、錐体の高さが100mm以下であることが効率よく近接場光をとりだせることから好ましい。
【0014】
本発明では小孔をあける手段が集束イオンビーム12の照射である。集束イオンビームの加速電圧は、近接場プローブを構成する材料の変質防止の観点から30kV以下が好ましい。ビーム電流も、材料の変質防止、効率よく小孔をあけるという観点から30pA〜500pAが好ましい。照射時間は材料の変質防止、効率よく小孔をあけるという観点から1秒〜3分の範囲が好ましい。
【0015】
集束イオンビームの照射は近接場プローブの錐体の先端に対し側方から行う。理由は以下のとおりである。図2に示される錐体の垂線13と照射する集束イオンビーム12との傾きをθとする。図3は近接場プローブの先端近傍の断面図および試料との関係を示す。図3においてaは錐体の高さ方向に集束イオンビームを照射(すなわちθは0°)した場合であり、bは錐体の先端の側方から集束イオンビームを照射(ここではθは90°)した場合を表した場合である。aでは得られる小孔8が大きな奥行きを有するのに対して、bでは小孔8の奥行きが小さい。小孔8の奥行きが小さい結果、近接場光の取り出し効果が高くなるためと考えられる。集束イオンビームの照射は近接場プローブの錐体の側方から行う行為を照射角度で表現するとθが70〜110度の範囲にあることが好ましい。
【0016】
集束イオンビームを照射して近接場プローブの先端に小孔をあける装置としては、半導体デバイスの加工によく使用される、集束イオンビーム(FIB, Focused Ion Beam)装置が利用できる。Gaをイオン源とした、Gaイオンビームが加工時間が早いという特徴がある。近接場プローブの大きさがミクロンオーダーの大きさで、非常に小さいため、観察方法として、走査型電子顕微鏡(SEM)がFIB装置に装着されていれば、加工位置の制御を短時間で行えるため、加工時間の短縮化が可能である。
【0017】
特に、近接場プローブの先端部に小孔8を空ける場合は、イオンの入射角θで得られる近接場プローブの先端の大きさ、形状が変化し、結果として走査型近接場光学顕微鏡等の測定における近接場光の取り出し効率が大きく変化する。したがってイオンの照射角度を変えて加工することもあることから、集束イオンビーム照射にあたっての試料ホルダーは角度を変えやすいゴニオメータ等の上に配置されていることが好ましい。
【0018】
加工される近接場プローブとしては内部が空洞で、底面が存在しない特徴を有し、その形態としては逆円錐型、逆四角錐型、逆三角錐型などの錐体型である。材質としては特定されないが、Si製、またはその酸化物、その窒化物、もしくはその酸窒化物または金属製が好ましく使用できる。
【0019】
本発明の近接場プローブは、効率よく近接場光を取り出すことができることから、構成材料が金属、Si、又はSiの酸化物、その窒化物、もしくは酸窒化物であることが好ましい。さらに表面に0.1nm〜100nmの厚みの金属薄膜を設けることが好ましい。金属薄膜を設けることで、試料とプローブの間で表面増強ラマン(Surface Enhanced Raman Scattering, SERS)効果が生じるため、ラマン信号強度が飛躍的に増大する。
【0020】
金属薄膜の材質は、Ag、Al、Auよりなる群から選ばれる一つの材料を主たる構成材料とすることが好ましい。Ag、Al、Auは金属材料のなかでも表面増強ラマン効果が大きく、信号強度の増大が著しいからである。それにより最大で2桁程度の信号強度の増大が期待できる。
【0021】
さらに本発明集束イオンビームを照射して開口径5000nmφ以下の小孔をあける工程に先立って、内部が空洞化されていない近接場プローブ用の材料に対し、集束イオンビームを照射して空洞化させ、内部を空洞化させることもできる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
(実施例1)
底面がなく、内部が空洞であるの逆四角錐型の近接場プローブ用の探針の先端部に入射角θ=70〜110度で、しかも、加速電圧:30kV以下、ビーム電流:30pA〜500pAの集束Gaイオンビームを1秒〜3分の時間照射した。いずれの場合も、集束Gaイオンビームの発散角は1〜2度以内であり、先端がスライスされるように除去されることで断面がほぼ円形の小孔をあけることができた。その結果先端部に、望ましい開口径の小孔を短時間の内にあけることができた。
(実施例2)
各種方法で得られた近接場プローブを用いて、近接場ラマン散乱光の検出の程度を調べた。使用した装置は、図1に示すように(1)試料台2に試料3が載置され、試料3の近傍に、カンチレバー7で支持された近接場プローブ4を配置、近接場プローブ4として原子間力顕微鏡(AFM)用の空洞の逆四角錐型のものを使用(小孔の作製方法は後述する)、(2)レーザー発生装置11、(3)3600本の高刻線数のグレーティングを有する焦点距離1mの高感度高分解能シングル分光器9(4)高感度な(チャージカップルドデバイス検出器(Charge Coupled Device、CCD) 検出器10、(5)光学顕微鏡100と対物レンズ1で構成されたものである。
【0023】
まず、測定には、カンチレバー7によって支持され、化学エッチング法で作製され小孔8が100nmφの逆ピラミッド型の近接場プローブ4を使用した。レーザー発生装置11から放射された波長364nmのレーザー光5を5mWのパワーで小孔を有する近接場プローブを通して試料台2の上の試料3であるSiに照射した。試料3のSiから放出される近接場ラマン散乱光6を、小孔を有する近接場プローブ4を通して、分光器9のスリット上に集め、CCD検出器10を用いて近接場ラマン散乱光6の検出を試みた。
【0024】
化学エッチングを同時に行うことにより小孔を作製した近接場プローブ40本の内10本で、試料3のSiの近接場ラマン散乱光6が検出器10によって観測された。近接場ラマン散乱光6が観測された10本の近接場プローブでは、信号強度が10カウント/秒から200カウント/秒まで分布しており、同ロットで作製された近接場プローブにもかかわらず、近接場ラマン散乱光6の強度差が1桁以上に及ぶことが分った。
【0025】
(実施例3)
底面がなく、空洞を有する逆四角錘型の近接場プローブ(まだ小孔はあいていない)に頂点である先端に、市販のFIB装置を用いて、集束イオンビーム12を以下の条件で、照射し、約100nmfの開口径の小孔8をあけた。
【0026】
加速電圧:30kV
イオン源:Ga
イオンの入射角q:q=90度
ビーム電流:50pA
照射時間:約3秒
実施例2と同様な測定を行った結果、5本の内2本で、Siからの近接場ラマン散乱光6を検出することができた。化学エッチング法よりも集束イオンビーム照射による方法が収率が約2倍向上していることがわかった。
【0027】
また、小孔の開口径のばらつきは5本ともに10%以内に収めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の作製方法による近接場プローブにより、例えば近接場ラマン測定が効率よく、かつ精度よく行うことができ、この測定により半導体分野において、半導体の性能向上、品質向上が可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1:対物レンズ
2:試料台
3:試料
4:近接場プローブ
5:レーザー光
6:近接場ラマン散乱光
7:カンチレバー
8:小孔
9:分光器
10:検出器
11:レーザー発生装置
12:集束イオンビーム
13:垂線
100:光学顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞を有する錐体型であり、錐体型の頂点である先端に小孔を有する近接場プローブの作製方法であって、先端に対し、先端の側方から集束イオンビームを照射し、開口径5000nmφ以下の小孔をあけることを特徴とする近接場光を取り出すための近接場プローブの作製方法。
【請求項2】
集束イオンビームの照射角θが70〜110°であることを特徴とする近接場プローブの作製方法。
(ただしθは近接場プローブの錐体型の垂線と照射する集束イオンビームとの角度を示す。)
【請求項3】
近接場プローブの形状が逆円錐型、逆四角錐型または逆三角錐である請求項1または2記載の近接場プローブの作製方法。
【請求項4】
集束イオンビームがGaイオンのビームであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の近接場プローブの作製方法。
【請求項5】
近接場プローブの先端の反対側の底面面積が10000mm2以下、錐体の高さが100mm以下である、請求項1〜4いずれかに記載の近接場プローブの作製方法。
【請求項6】
近接場プローブの構成材料がSi、又はSiの酸化物、その窒化物、もしくは酸窒化物であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の近接場プローブの作製方法。
【請求項7】
近接場プローブの主たる構成材料が金属であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の近接場プローブの作製方法。
【請求項8】
光照射装置、測定される試料が載置される試料台、試料が載置される部位の近傍に配置され、請求項1〜7いずれかの方法で得られた近接場プローブ、および光照射装置による光の照射により得られた近接場光が通過する光学レンズを有することを特徴とする近接場光顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−217135(P2010−217135A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67402(P2009−67402)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/(近接場利用次世代カソードルミネッセンス及びラマン分光装置開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000151243)株式会社東レリサーチセンター (10)