説明

近接磁界結合による電力および情報の伝送装置

【課題】近接磁界結合により電力の供給及び信号伝送を行う装置で、電力系と信号系のそれぞれの伝送路(磁路)を近接または一体化して小型化を図り、かつ、伝送信号に電力系からのノイズが混入することを防止する。
【解決手段】励磁コイルと給電コイルとにより結合が疎であるトランスを構成し、励磁コイルに直流電源を印加することにより電力を蓄積し、直流電源の切断により給電コイルに誘起する起電力により負荷に電力を供給するフライバック型コンバータを用い、励磁コイルの電流変化がほぼ一定であり給電コイルによる電力供給が休止する無給電期間に、パルス変調信号を乗せた高周波磁界により、給電コイルに近接し共に回転する送信コイルからこの近傍の磁気検出器に通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本体機器と周辺機器との間で、近接磁界結合により本体機器から周辺機器に動作に必要な電力の供給を行い、かつ、近接磁界結合により本体機器と周辺機器の間で情報の伝送(通信)を行う装置に関する技術である。特に、周辺機器が回転を伴う場合にも、非接触で電力の供給と情報の伝送(通信)を行うことが出来る。
【背景技術】
【0002】
近接磁界結合に基づく電力の伝送手段として、2個の円形コイルを対峙させた同軸円形コイルが知られている。主な用途として、回転する対象物に電力を供給する回転トランスとして使われる。この形態は、一般的なトランスと比べ磁気的結合が疎であり、即ち、電力伝送の力率が低いが、小電力の伝送が手軽に実現できる特長を持つ。これに対し、特許文献「回転体への電力供給用変圧器」及び非特許文献「回転する検出器への非接触による給電におけるコアタイプ回転変圧器の利用」に、円形コイル(図1では給電コイル3に対応する。)に対してコア6を介し励磁コイル5を並列連結する形態の回転トランス(以下、コアタイプ回転変圧器という。)が紹介されている。コアタイプ回転変圧器では励磁コイルの数の自乗に比例して給電電力を増加させることができ、併せて給電効率も改善でき、これにより従来は難しかった径の大きい対象物に対して適用が可能となる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−230375 の公開特許
【非特許文献1】小田原幸生(本発明者)著 「回転する検出器への非接触による給電におけるコアタイプ回転変圧器の利用」 電気学会論文誌D (平成13年10月号 P.1068〜1074)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同軸円形コイルやコアタイプ回転変圧器の形式のトランスは非接触により電力の供給を行うが、計測制御における応用では情報(信号)の伝送手段も必要になる。信号を電力として考えれば、もう一組のトランスを用いることもできるが、利便性を良くするために給電用トランスと信号伝送用トランスを接近させる場合、情報伝送において給電によるノイズを受け、正しく情報伝送ができない問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
同軸円形コイルやコアタイプ回転変圧器の駆動にも使われているフライバック型コンバータは、スイッチング素子のトランジスタがオンしている期間にコイルに電力を蓄え、次にトランジスタがオフしている期間にコイルに蓄えた電力を負荷に供給するコンバータである。この給電サイクルのうち、コイルに電力を蓄える期間、即ち負荷への電力供給の休止期間は磁界変化が単調(直線的)であり、かつ、給電サイクルの大部分を占める。そこで、負荷への電力供給の休止期間に、このトランスの近傍の信号伝送コイルと磁気検出手段により、近接磁界結合に基づきパルス変調信号を乗せた高周波磁界により通信を行うことにより給電の影響(ノイズ)を受けない良好な情報伝送ができる。
【発明の効果】
【0006】
非接触による給電と情報伝送が簡易なトランスで実現できる。また、電力と情報信号の伝送路を共通とするため、これらが別々の場合と比べ、機構部品のトランスの小型化に有効である。さらに、情報伝送の期間が給電の期間と比べ数倍長くとれ、情報伝送の高速化や高精度化に対応し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
例えば、回転軸に取り付けた検出器により、この回転軸のトルクをリアルタイムで計測する例を示す。電力供給を行うトランスは、図1に示すように、静止部の励磁コイル5とコア6と、回転軸4と共に回転する給電コイル3とにより構成する。また、情報伝送を行うため、給電コイル3の外周に送信コイル1を付加し、近傍の静止部に磁気検出器8を置く。なお、図では励磁コイル5の数を2個としているが、必要に応じて変えることができる。コア6の空隙7は支持部材9や、給電コイル3及び送信コイル1の配線が通過する隙間であり、できるだけ小さいほうが望ましい。また、適当な厚さのスペーサ2を送信コイル1と給電コイル3に挟み、両者の電界結合を抑えることができる。
【0008】
給電回路と信号伝送回路のブロック図を図2に示し、図3に各部の動作波形を示す。
給電回路37の本体機器側回路35(静止部)において、直流電源10と、並列接続の共振コンデンサ14を有する励磁コイル5と、転流ダイオード13を有する半導体スイッチ12とを直列に接続する。回転軸4と共に回転する周辺機器側回路36において、給電コイル3と、整流コンデンサ16と、整流ダイオード17とを直列に接続する。この場合、整流ダイオード17の接続極性は、半導体スイッチ12がオンの時に給電コイル3に発生する起電力による通電を阻止する方向である。なお、整流ダイオード17の端子間容量により生じる電気的振動を減衰させるため、抵抗とダイオードより成るダンパ15を用いる。図2では励磁コイル5、コア6、共振コンデンサ14、半導体スイッチ12、転流ダイオード13の組は2組であり、各組は特性的にも制御的にも同じ条件であるが、組数は必要に応じて変えることができる。
【0009】
給電はタイミング・クロック11により半導体スイッチ12を周期的にオン/オフさせ、半導体スイッチ12がオンの時に励磁コイル5に電力を蓄積し、オフと共に励磁コイル5と共振コンデンサ14との間に電気的振動を発生させる。これに伴って励磁コイル5に発生する交流磁界により給電コイル3に誘起する起電力により整流ダイオード17を通電させ、整流コンデンサ16の充電を行う。そして、整流コンデンサ16の充電電力を周辺機器用電源端子18より出力し、周辺機器側36の電源とする。これらはいわゆるフライバック型コンバータの構成である。
【0010】
給電コイル3における発生起電力により整流コンデンサ16の充電を行う期間を給電期間(図3の41)、行わない期間を無給電期間(図3の42)とする。無給電期間42の初期は、半導体スイッチ12はオフであり、本体機器側回路35における電流は、直流電源10の負極→転流ダイオード13→励磁コイル5→直流電源10の正極の方向であり、この電流は負の値から直線的に増加する。この電流の値がゼロになる前に半導体スイッチ12がオンとなるように設定しておくと、次に、直流電源10の正極→励磁コイル5→半導体スイッチ12→直流電源10の負極に電流が流れ、電流の値は直線的に増加する。(励磁コイル6の電流を図3の46に示す。)この際に、給電コイル3と並列接続のダンパ15に流れる微弱電流を無視すると、概して給電コイル3から電流は流れない。(給電コイル電流を図3の47に示す。)即ち、無給電期間42において励磁コイル5への印加電圧は直流電源10の電圧にほぼ等しく一定であり、従って、励磁コイル5による磁界変化もほぼ一定である。このため、無給電期間42に情報の伝送を行うことにより、電力供給の影響(ノイズ)を受けない通信が可能になる。
【0011】
タイミング・クロック11の動作周期40をT、無給電期間42の長さをTとする。(図3参照)一般的に、直流電源10の出力電圧に対する共振コンデンサ14の振幅電圧の比率は20倍程度であり、(T/T)は0.80〜0.95である。電圧比率を大きくすると、無給電期間の占める割合はさらに大きくなり、情報伝送の制御の点で有利である。
【0012】
一方、給電期間41では励磁コイル5の電流は短期間に大きく変化し、給電コイル3においても整流コンデンサ16への充電電流が発生し変化する。一方、給電期間41の終了直後に、整流ダイオード17の印加電圧が順方向から逆方向に急激に変わり、整流ダイオード17の端子間容量と給電コイル3との間で電気的振動が起きる。このため、給電期間41及びこの直後の過渡期は情報の伝送に利用しない。
【0013】
信号伝送回路38は給電回路37と同じく本体機器側回路35(静止部)と周辺機器側回路36(回転部)に分かれる。信号伝送の同期をとるため、それぞれの回路において給電期間41と無給電期間42を検出する。周辺機器側回路36では整流ダイオード17の端子間電圧を給電検出器19で検出することにより直接的に給電期間41と無給電期間42を判別できる。一方、本体機器側回路35では、半導体スイッチ12がオン状態からオフになる時が給電期間41の開始にほぼ一致する。また、無給電期間42の開始は、給電期間41の長さは定常状態で一定であり事前に計測しておくことができるので、給電期間41(T−T)に対し余裕をみて長めにとり、簡易的にタイミング・クロック11による半導体スイッチのオフの期間(図3の43)に対応させる。
【0014】
次に、センサ等によるアナログ信号の伝送を行う動作を説明する。給電検出器19により無給電期間42の開始を検出し、次の三角波発生回路20でパルス幅変調の搬送波の三角波をリセット状態から立ち上げ、無給電期間42の終了までに三角波をリセット状態に戻す。(図3の48参照)次のPWM変調回路22でアナログ信号入力21と前記三角波の電圧を比較し、PWM変調による2値パルス信号に変換する。(アナログ信号は図3の49に対応する。また、この変化はタイミング・クロックの周期Tと比べて緩やかであるものとする。2値パルス信号は図3の50に対応する。)これにより連続波変調回路23で振幅変調を行い、送信コイル1の周辺に高周波磁界を発生させる。ここでコンデンサ24は給電期間41に送信コイル1が通電することを防ぐ。コンデンサ25は共振により高周波磁界を発生させるために使う。
【0015】
本体機器側回路35において、送信コイル1が発生する高周波磁界を磁気検出器8で検出し、帯域フィルタ26により主に給電のノイズである低周波成分を取り除き、連続波復調回路27で検波を行う。検波後の波形は図3の51に示すように信号の立ち上がりと立下りが鈍っており、また、振幅も変動する可能性があるため、一定の閾値でこのオン/オフを判定すると誤差を生じる。そこで、次の微分回路28と、シュミット型比較器による2値変換回路29で検波後の波形の信号の立ち上がりと立ち下りを検出して2値信号に変換し、誤差を少なくする。次に、パルス検出回路30でタイミング・クロック11を参照し、無給電期間42に対応するパルス信号のみを検出し、受信PWM信号54を得る。これをPWM復調回路31でアナログ信号に変換し、端子32より出力する。
【実施例1】
【0016】
前述の「発明を実施するための最良の形態」に対応し、具体的に車軸のトルクを計測するシステムを試作した。機構部品の回転トランスは、給電コイル3の直径を13cm、導線の巻き数を20回とした。コア6に外径28mm、内径15mm、厚さ13mm、空隙6mmのフェライト製コアを用い、これに対し導線の巻き数を37回とし励磁コイル5とした。励磁コイル5の数は1個である。給電コイル3の自己インダクタンスは200μH、励磁コイル5の自己インダクタンスは160μH、これらの相互インダクタンスは60μHである。また、共振コンデンサ14は0.02μFの高耐圧コンデンサを使用し、半導体スイッチ12には転流ダイオード13を内蔵するパワーMOS・FETを使用した。送信コイル1として給電コイル3の上に約1mmのスペーサ2を挟みビニル被覆導線を2回巻いた。送信コイル1のインダクタンスは0.7μHである。磁気検出器8は磁気検出の手段として径20mmのコイルを用い、トランジスタ(FET)により信号の増幅を行った。
【0017】
直流電源10の電圧を10V、タイミング・クロック11の動作周波数を20kHz、半導体スイッチのオン/オフのデューティ比を80%とし、効率60%で1Wの給電を行うと共に、信号伝送を行った。連続波変調回路23はAM方式で、周波数は20MHzである。信号伝送距離は磁気検出器8のコイル先端において送信コイル1の巻き線から15mm程度まで離すことができた。図4に、アナログ信号入力21に対し周波数1kHz、振幅2Vの正弦波信号(図4の58)を入力し、この伝送信号をアナログ信号出力32により観察したアナログ信号出力波形59を示す。PWM復調回路31がサンプル・アンド・ホールド回路に拠っている関係で階段状波形になっているが、十分に実用的な精度と速度で信号(情報)の伝送が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
(1)発明を実施するための最良の形態及び実施例として回転型を示したが、静止型の適用も可能である。これにより、引火性のガスや粉塵の多い環境や水中でも着脱自在な給電及び情報伝送の手段として利用できる。
【0019】
(2)発明を実施するための最良の形態及び実施例では、背景技術で述べたコアタイプ回転変圧器をベースとしているが、特性の類似している同軸円形コイルを用いることもできる。
【0020】
(3)発明を実施するための最良の形態及び実施例では、伝送する信号をパルス幅変調(PWM)信号のとしているが、無給電期間(図3の42)にデジタル信号を1ビットずつ順次送受信するシリアル伝送にも対応できる。
【0021】
(4)発明を実施するための最良の形態及び実施例では、本体機器側(図2の35)から周辺機器側36に電力の供給を行い、これと逆向きに信号伝送を行う例を示しているが、電力供給の方向と同じ向きに信号伝送を行うことも可能である。
【0022】
(5)本発明は、可動部の回路と静止部の回路とを結ぶ配線で、配線の表皮が損傷剥離し、微細な塵を発生する問題を解決することができ、或いは、配線をコンパクトにまとめることができるため、クリーンルーム対応機器の防塵対策や小型化に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】機構部品の回転トランスの構成
【図2】本発明の装置の回路ブロック図
【図3】図2における各部の動作波形
【図4】図2における信号伝送の観察波形
【符号の説明】
【0024】
40 タイミング・クロック(31)に基づく給電及び信号伝送の周期(期間T)
41 給電期間
42 無給電期間(期間T
43 半導体スイッチ(12)がオンの期間
44 半導体スイッチ(12)がオフの期間
45 半導体スイッチ(12)のオンとオフの状態を示した波形
46 励磁コイル(6)電流の波形
47 給電コイル(3)電流の波形
48 三角波発生回路(20)出力波形
49 アナログ信号入力(21)波形
50 PWM変調回路(22)出力波形
51 連続波復調回路(27)出力波形
52 微分回路(22)出力波形
53 2値変換回路(29)出力波形
54 パルス検出回路(30)出力波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電コイルと励磁コイルとにより疎なる磁気結合をなすトランスを用い、前記励磁コイルに直流電源を印加することにより電力を蓄積し、前記直流電源の切断により前記給電コイルに誘起する起電力により負荷に電力を供給するフライバック型コンバータにおいて、前記トランスの近傍に送信コイルと磁気検出器を設け、前記励磁コイルの電流変化がほぼ一定であり前記負荷への電力供給が停止する無給電期間に、前記送信コイルと前記磁気検出器の間でパルス変調に基づく高周波磁界により通信を行う近接磁界結合による電力および情報の伝送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−191276(P2006−191276A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−497(P2005−497)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(591224788)大分県 (31)
【Fターム(参考)】