説明

近赤外線吸収樹脂組成物及び近赤外線遮断フィルター

【課題】近赤外線吸収樹脂組成物及びこれを用いて作製した耐熱性及び耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表されるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と、一般式(2)で表されるシランカップリング剤と、粘着剤と、を含有させた近赤外線吸収樹脂組成物及びこれを用いて作製した近赤外線遮断フィルターである。該近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性及び耐湿性に優れるため、PDP用、自動車ガラス用、建材ガラス用等種々の用途に用いることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジイモニウム塩と、シランカップリング剤と、粘着剤とを含有する近赤外線吸収樹脂組成物と該組成物を用いた近赤外線遮断フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大型化、薄型化の要求が高まる中、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と略記する)が一般に広く普及し始めている。
【0003】
PDPからは近赤外線が放出され、近赤外線リモコンを使用した電子機器が誤動作を起こしてしまうことから、近赤外線吸収色素を用いたフィルターで近赤外線を遮断する必要がある。また、光学レンズ、自動車用ガラス、建材用ガラス等の用途にも近赤外線遮断フィルターが広く利用されている。
【0004】
これらの用途に用いられる、近赤外線遮断フィルターは、可視光領域を透過しつつ、効果的に近赤外光領域を吸収し、更に、耐湿熱性の高い特性が求められる。従来では、ジイモニウム塩を含有する各種近赤外線遮断フィルターが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
PDPはガラスセル中に封止した希ガスに電圧をかけプラズマ状態として作動する。希ガスから発生した紫外線がセル壁面の発光体と接触することで可視光線を発生する。この時、副産物的に発生する近赤外線が電子機器のリモコンから発するビームと波長が同一であることからPDP前面には近赤外線遮断フィルターの設置が必要となる。
【0006】
上記近赤外線遮断フィルターに使用される近赤外線吸収剤としてはシアニン系、スクアリリウム系、ポルフィリン系、金属ジチオール錯体系、フタロシアニン系、ジイモニウム塩系、色素や無機酸化物系等が列挙できる。主にこれらを併用することで目的の吸収スペクトルを特に作り出すことができるが、ジイモニウム塩を用いた場合には可視光の高透過率が可能となることから多用されている。
【0007】
しかしながら近赤外線遮断フィルターは近赤外線フィルムに粘着層を介して透明基材に貼り付けることで製造されるが、耐熱性及び耐湿熱性に劣る場合が多く、色素の変性による分光特性の低下や色調の変化を伴うケースが多々ある。特にディスプレイ用途の場合となるとわずかな色調変化が見た目を損なうために色素の高耐久化は必要とされるところである。
【0008】
以上より、耐熱性及び耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを提供することのできる近赤外線吸収樹脂組成物及びこれを用いて作製した近赤外線遮断フィルターが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−180922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐熱性及び耐湿熱性に優れる近赤外線吸収樹脂組成物及びこれを用いて作製した近赤外線遮断フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(1)で表されるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と、一般式(2)で表されるシランカップリング剤と、粘着剤とを含有させた近赤外線吸収樹脂組成物及びこれを用いて作製した近赤外線遮断フィルターが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0013】
第一の発明は、下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と、下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤と、粘着剤とを含有することを特徴とする近赤外線吸収樹脂組成物である。
【0014】
【化1】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、Xはアニオンを示す。)
【0015】
【化2】

(式(2)中、Aはイソシアネート基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ビニル基、スチリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキレン基、フェニル基を示し、R10は炭素数1〜4のアルキル基、R11は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を示す。mは0又は1、nは2又は3であり、m+n=3を満たす。)
【0016】
第二の発明は、ジイモニウム塩の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする第一の発明に記載の近赤外線吸収樹脂組成物である。
【0017】
第三の発明は、近赤外線吸収樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量が、0.001〜10.0質量%であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の近赤外線吸収樹脂組成物である。
【0018】
第四の発明は、シランカップリング剤が、下記化合物(A)〜(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする第一から第三の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収樹脂組成物である。
【0019】
【化3】

【0020】
第五の発明は、透明基板上に近赤外線吸収樹脂層を形成させた近赤外線遮断フィルターにおいて、
近赤外線吸収樹脂層が、第一から第四の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収樹脂組成物を用いて作製することを特徴とする近赤外線遮断フィルターである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の近赤外線吸収樹脂組成物を用いることで、耐熱性及び耐湿熱性に優れた近赤外線遮断フィルターを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の近赤外線吸収樹脂組成物及び近赤外線遮断フィルターについて説明する。
【0023】
<近赤外線吸収樹脂組成物>
まず、近赤外線吸収樹脂組成物について説明する。本発明の近赤外線吸収樹脂組成物は、近赤外線吸収色素と、シランカップリング剤と、粘着剤とが含有するものである。
【0024】
<近赤外線吸収色素>
本発明の近赤外線吸収樹脂組成物に用いる近赤外線吸収色素は、下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩である。
【0025】
【化4】

【0026】
上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、Xはアニオンを示す。
【0027】
前期ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくはフッ素原子である。前期有機基は、フェニル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のハロゲン化アルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のシアノアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキルフェニル基、シクロアルキル環を有するアルキル基が挙げられる。
【0028】
置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、iso-ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0029】
置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のフッ化アルキル基は下記一般式(4)で表される。
【0030】
【化5】

【0031】
上記一般式(4)中、Yはハロゲン原子を示し、pは1〜12の整数、qは1〜25の整数を示す。
【0032】
上記ハロゲン原子としては特に限定はないが、近赤外線遮断フィルターの耐湿熱性を向上させる効果に優れる点から、特にフッ素原子、すなわちフッ化アルキル基が好ましい。
【0033】
上記フッ化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、8,8,8−トリフルオロオクチル基、2−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基、2−トリフルオロメチル−ペルフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のシアノアルキル基としては、プロピオニトリル基、ブチロニトリル基、ペンチルニトリル基、1−メチルプロピオニトリル基等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のシアノニトリル基であり、置換されているシアノ基の数は1〜3個が好ましい。
【0035】
上記置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、2−メトキシエトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシヘキシル基、メトキシオクチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシオクチル基、プロポキシメチル基、プロポキシプロピル基、プロポキシヘキシル基、ブトキシエチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基である。
【0036】
上記置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキルフェニル基としては、メチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニル−α−メチルプロピル基、フェニル−β−メチルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基等が挙げられる。炭素数が1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するものが好ましく、また、フェニル基にアルキル基、水酸基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基及びハロゲンからなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0037】
上記シクロアルキル環を有するアルキル基は下記一般式(5)で表わされる。
【0038】
【化6】

【0039】
上記一般式(5)中、Aは炭素数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、rは3〜12の整数を示す。
【0040】
上記一般式(5)中、Aは炭素数1〜4が好ましく、rは5〜8が好ましく、特に5又は6が好ましく挙げられる。具体的には、シクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロヘキシルプロピル基、3−シクロヘキシルプロピル基、4−シクロヘキシルブチル基等が挙げられる。特に好ましくはシクロヘキシルメチル基である。
【0041】
上記一般式(1)中のXはアニオンを示す。
【0042】
の具体例としては、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF)、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)、ヘキサフルオロアンチモンアニオン(SbF)が好ましく挙げられる。
【0043】
上記一般式(1)で表されるジイモニウム塩の平均粒径が、10μm以下であることが好ましく、0.01μm〜5μmがより好ましく、0.01〜3μmが特に好ましく挙げられる。平均粒径が10μm超では、粘着層の凹凸の原因となってしまいヘイズ値が上がってしまう問題点があり、10μm以下にすることでその凹凸がなくなりヘイズ値が抑えることができる。
ジイモニウム塩の平均粒径の調整方法としては、ビーズミルを用いて湿式分散する方法が挙げられる。平均粒径の測定方法としては、レーザー粒度分布測定装置である。
【0044】
<シランカップリング剤>
本発明に用いるシランカップリング剤は、下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤である。下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤を、近赤外線吸収樹脂組成物に含有させることで、透明基材との密着性を向上させる効果や撥水作用により樹脂組成物中への水分の浸入を抑制する効果があり、その結果、耐熱性や耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを得ることができる。
【0045】
【化7】

【0046】
上記一般式(2)中、Aはイソシアネート基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ビニル基、スチリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキレン基、フェニル基を示し、R10は炭素数1〜4のアルキル基、R11は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を示す。mは0又は1、nは2又は3であり、m+n=3を満たす。
【0047】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0048】
一般式(2)で表されるシランカップリング剤のOR11基(アルコキシ基)が、加熱によりOH基(ヒドロキシ基)となる。このヒドロキシ基が、透明基材との密着性向上に寄与することができる。
また、粘着剤と結合する部位があるため、イソシアネート基、エポキシ基が付加したシランカップリング剤が望ましく挙げられる。粘着剤と結合することで、シランカップリング剤のブリードアウトが抑制可能であり、より耐水性に優れる粘着剤組成物を得ることができる。
【0049】
上記一般式(2)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、下記化合物(A)〜(V)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0050】
【化8】

【0051】
これらの中でも、粘着剤と化学結合する置換基を有しているため、化合物(A)〜(F)がより好ましく挙げられる。
【0052】
近赤外線吸収樹脂組成物における近赤外線吸収色素の含有量は、0.05〜10質量%好ましく挙げられ、0.5〜3.0質量%がより好ましく挙げられる。
近赤外線吸収樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、0.00001〜10質量%が好ましく挙げられ、0.00001〜5.0質量%がより好ましく挙げられ、0.00005〜3.0質量%が特に好ましく挙げられる。
上記含有量とすることで、透明基材との密着性に優れる近赤外線遮断フィルターを得ることができる。
【0053】
<粘着剤>
本発明に用いる粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤が挙げられ、それらの中でも透明性やコストからアクリル系粘着剤が好ましく挙げられる。
【0054】
アクリル系粘着剤としては、好ましくは炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリレート又はメタクリレートを主成分とするアクリル系ポリマーを含有したものが挙げられ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
アクリル系粘着剤を用いる場合、アクリル系粘着剤を架橋することで、耐熱性に優れた樹脂層が得られる。架橋方法の具体的な手段としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物等のアクリル系ポリマーに架橋化起点として含ませた架橋剤を用いる方法が挙げられる。
【0056】
<溶媒>
近赤外線吸収樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよい。塗工性を高める観点から、近赤外線樹脂組成物が塗布される際には、溶媒を用いるのが好ましい。
溶媒は特に限定されず、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤:エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等のグリコール系溶剤:前記グリコール系溶剤のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤:前記グリコール系溶剤のジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル等のポリエーテル系溶剤:メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤等:ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。
これらの溶媒は1種で使用されても良く、2種以上の混合溶媒として使用されても良い。好ましくは沸点200℃以下の有機溶媒がよい。溶媒の水分含有量は5質量%以下であることが望ましい。
【0057】
<添加剤>
近赤外線吸収樹脂組成物は、目的に応じて、適切な添加剤を含有しても良い。添加剤の具体例としては、硬化剤、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物分解剤、充填剤、補強材、可塑剤、潤滑剤、防食剤、防錆剤、乳化剤、鋳型脱型剤、蛍光性増白剤、有機防炎剤、無機防炎剤、滴下防止剤、溶融流改質剤、静電防止剤、すべり付与剤、密着性付与剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、光増感剤、表面改良剤等が挙げられる。
【0058】
近赤外線吸収組成物は、任意の適切な有機微粒子又は無機微粒子を含有してもよい。典型的には、これらの有機微粒子又は無機微粒子は、目的に応じた機能(屈折率、導電性等)を付与するために用いられる。
【0059】
近赤外線吸収組成物よりなる層の高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。粘着剤組成物よりなる層の低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機粒子:シリコン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。これらの微粒子は、単独で用いられても良く、2種以上が組み合わされても良い。
【0060】
<透明基材>
本発明の近赤外線遮断フィルターは、透明基材と近赤外線吸収層とを少なくとも含む構造である。透明基材として、シート状、フィルム状又は板状の透明基材が用いられる。透明基材の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、メチルメタクリレート系共重合物等のアクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ガラス等が挙げられる。
特に好ましい透明基材は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムである。
【0061】
<近赤外線遮断フィルター>
本発明の近赤外線遮断フィルターは、透明基板上に近赤外線吸収樹脂層を形成させた近赤外線遮断フィルターにおいて、近赤外線吸収樹樹脂層が、該近赤外線吸収樹脂組成物を用いて作製することを特徴とする近赤外線遮断フィルターである。

本発明の近赤外線遮断フィルターの製造方法は、透明基材上に近赤外線吸収樹脂組成物を塗工して、加熱させて近赤外線吸収樹脂層を有する近赤外線遮断フィルターを製造することができる。

【0062】
近赤外線吸収樹脂組成物の塗工は、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、リップコート法又はダイコーター法等の公知の塗工方法で塗布される。仕上がりの膜厚が通常5〜100μm、好ましくは10〜40μmとなるように塗付され、80〜140℃、好ましくは100〜130℃で乾燥することによって処理層が固定される。通常、この後エージング処理が行われる。エージング処理の条件は使用する粘着剤の種類によって条件が異なるが、25〜50℃の恒温槽中、1日〜1週間程度保管するのが好ましい。
【0063】
本発明の近赤外線遮断フィルターは、透明基材上に近赤外線吸収樹脂層を設けられている構成を最低の構成要件として、外気側に蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性及び/又は防眩性を有する層や傷付き防止性能を有する層、その他の機能を有する透明基材、ガラス、フィルター等を積層してもよい。
【0064】
一般式(1)で表されるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素は、単独で用いるか、或いは、波長850nm付近の近赤外線吸収性能を補うため、フタロシアニン類、ジチオール系金属錯体、スクアリリウム系金属錯体等の公知色素を添加させて用いることもできる。また、耐光性を向上させるためにベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収色素を添加して用いてもよい。
【0065】
本発明の近赤外線吸収樹脂組成物を用いることで、耐湿熱性と耐熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、実施例により、なんら限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
近赤外線吸収色素として、ヘキサフルオロリン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(シクロヘキシルメチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムを5質量部、メチルイソブチルケトンを95質量部混合しビーズミルを用いて湿式分散して、平均粒径2μm、5.0質量%色素分散液を得た。
アクリル系粘着剤SKダイン1811L(綜研化学社製)10.0gに対し5.0質量%色素分散液0.9g、メチルイソブチルケトン1.8g、硬化剤としてコロネートL55E(日本ポリウレタン製)11mg、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン社製)0.22mgを混ぜ合わせることでインクを得た。セパレータフィルム上にフィルムアプリケーターで180μmとして塗工し、100℃で3分間乾燥させ、粘着面をPETフィルムでシールする。これを40℃で養生し硬化させて、近赤外線吸収層が20μmである近赤外線遮断フィルターを得た。
【0068】
(実施例2)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0069】
(実施例3)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン社製)22mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0070】
(実施例4)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン社製)66mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0071】
(実施例5)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン社製)110mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0072】
(実施例6)
実施例1に記載のアクリル系粘着剤、硬化剤をそれぞれSKダイン2094(綜研化学社製)9.2g、E-AX(綜研化学社製)0.025に変更し、化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(D)で表されるシランカップリング剤(KBM−403:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0073】
(実施例7)
実施例6に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(F)で表されるシランカップリング剤(KBM−303:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0074】
(実施例8)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(H)で表されるシランカップリング剤(KBM−903:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0075】
(実施例9)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(J)で表されるシランカップリング剤(KBM−803:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0076】
(実施例10)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、化合物(L)で表されるシランカップリング剤(KBM−573:信越シリコーン社製)11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0077】
(比較例1)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル)シラン(T2705、東京化成社製、化合物(a))11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0078】
(比較例2)
実施例1に記載の化合物(A)で表されるシランカップリング剤(KBE−9007:信越シリコーン製)0.22mgを、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(IRGANO×1010、チバ・ジャパン社製、化合物(b))11mgに代えた以外は実施例1と同様の方法で近赤外線遮断フィルターを得た。
【0079】
<色素の劣化度合いの評価方法>
(耐湿熱性の評価)
フィルムを縦3cm×横4cmのガラスに貼り合わせ、温度60℃湿度95%の恒湿槽にて500時間保存し、吸光度を測定した。
(耐熱性の評価)
フィルムを縦3cm×横4cmのガラスに貼り合わせ、温度80℃湿度0%の恒温槽にて500時間保存し、吸光度を測定した。
【0080】
測定には分光光度計を使用し、耐久試験前後で波長850nmの吸光度を測定する。色素の劣化度合いは「試験後の吸光度/試験前の吸光度」として算出し、変化量が0.01未満であれば◎、0.01〜0.05であれば○、0.05〜0.10であれば△、0.10超であれば×と評価した。
【0081】
【表1】

【0082】
表1中比較例1、2よりも実施例1〜10の方が、耐湿熱性と耐熱性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の近赤外線吸収樹脂組成物及びそれを用いた近赤外線遮断フィルターは、耐湿熱性及び耐熱性に優れるため、PDP用、自動車ガラス用、建材ガラス用等種々の用途に用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と、下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤と、粘着剤とを含有することを特徴とする近赤外線吸収樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、Xはアニオンを示す。)
【化2】

(式(2)中、Aはイソシアネート基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ビニル基、スチリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を示す。Rは炭素数1〜4のアルキレン基、フェニル基を示し、R10は炭素数1〜4のアルキル基、R11は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を示す。mは0又は1、nは2又は3であり、m+n=3を満たす。)
【請求項2】
ジイモニウム塩の平均粒径が、10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収樹脂組成物。
【請求項3】
近赤外線吸収樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量が、0.00001〜10.0質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外線吸収樹脂組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤が、下記化合物(A)〜(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線吸収樹脂組成物。
【化3】

【請求項5】
透明基板上に近赤外線吸収樹脂層を形成させた近赤外線遮断フィルターにおいて、
近赤外線吸収樹脂層が、請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線吸収樹脂組成物を用いて作製することを特徴とする近赤外線遮断フィルター。

【公開番号】特開2013−19991(P2013−19991A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151816(P2011−151816)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】